アベノミクスの展開と帰結:吉田繁治(1)
2013-02-15
金融緩和と言う名の過剰流動性供給によって、デフレ脱却すなわち経済の成長循環の回復は、それだけでは不可能に近い。
国債を日銀に回して公共事業に当てるというが、土木の労務単価が上がるくらいの効果しかないだろう。
今どき利益が上がったから即、労働賃金に還元する企業家などいるわけも無いだろう。
「家計、企業、政府の共倒れ破綻」の可能性が最も高い。
要は「賃上げが無ければ、経済成長は無い」
アベノミクスとやらのこの鉄砲玉政策はいわゆるリフレ派マネタリストを下敷きにしたものだが、吉田繁治氏が子のリフレ派と構造改革派を双方とも批判し、勤労家計の可処分所得、すなわち賃金所得の下降こそがデフレの原因であり、正しい解決であることを説明している。
いささか長文ですが、言葉の説明なども労を惜しまない、丁寧でわかりやすい解説です。
4ページに分けて掲載します。
ーーーーーーーーーーーーーーー
『デフレの経済学』を解釈すると(2) 2/11 吉田繁治 (文中(※)はもうすぐ北風の注釈です。)
おはようございます。厳冬が続きますが、いかがお過ごしでしょう。
本稿は、有料版の増刊として、昨日送ったものです。ご無沙汰していたお詫びとして、送ります。若干の書き加えをしています。
アベノミクスについての、展開と、今後の帰結です。24ページと長文で
す。
経済の原理的なことを、論理的・包括的に書いています。
*
日銀の、次の総裁として有力視されている岩田規久男氏の『デフレの経済学(2001)』の、骨子を解釈しながら、論述します。
この書の結論を言えば、日銀が「果敢に」、国債を買い増しして、円を増刷することによって、マネー・サプライ(M2やM3)を、年率で4%以上増やすことができれば、デフレは収束するというものです。
M2は、その国の全部の現金と預金、M3はM+CD(譲渡性預金)です。
マネタリズムを作ったフリードマンが言った「デフレもインフレも、貨幣現象」であるというのがこれです。
常に、経済事情が異なるあらゆる国で、これが正解かどうか、実は分からない。
一種の学術的なドグマでしょう。
正解の時期と国はある。正解でない国と時期も
ある。
【マネタリズムの、基本式:簡単です】
数式では、「M(マネー・サプライの量)×Mの流通速度(V)=一般物価水準(P)×実質GDP=名目GDP」、です。
(注)名目は、物価の下落率であるGDPデフレーターを、実質に加えたものです。
マネーの流通速度、言い換えれば、現金と預金が、商品の買い物と、物的な設備投資に使われる速度(マネーの回転率=名目GDP÷マネー・サプライの量)は、若干の低下傾向はあっても、ほぼ一定とする(フリードマン)。
(注)預金で、他の金融商品やデリバティブを買っても、マネーの流通速度は上がりません。収入や預金で、実物経済の商品を買い、設備への投資をすることがマネーの流通速度です。
流通速度を、短期では一定とすると、マネー・サプライ量の増加(例えば年率6%:日本では約70兆円)は、実質GDPを潜在GDPに近づけて増やすか、それ以上なら、物価を上昇させる。
潜在GDPは、失業が自然失業率(日本では2%か)のときの、生産力です。日本では、現在のGDP+2%くらいと、低い。
【4%以上の増加が必要】
●岩田氏の見解では、日本経済は、過去、年率のマネー・サプライの増加が4%(現在の金額では40~50兆円)以下の時期は、物価が下がるデフレになっていた。
物価を上げるには、年率で4%以上(70兆円以上)が必要としています。
2012年12月での、日本のM3の残高は1135兆円です。
企業・世帯・自治体の、現金と預金の総額だと理解していい。
年率の実際の増加は、1~3%の範囲でした。2000年代の傾向は、ほぼ2%増でしかない。4%増以上でないと、日本の物価は下がる傾向になるとするのが岩田氏です。
http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1212.pdf
日銀は、一般には、銀行や保険会社としか、取引しません。銀行・保険がもつ国債・社債・債券・CP等を、債券市場で買い、「日銀当座預金」に現金を振り込むことが、ベース・マネーの増発です。
ベース・マネーは、「現金(82兆円)+銀行が日銀に預けた当座預金43兆円」です。
13年1月に125兆円になっているベース・マネーの増加だけでは、世帯や企業が使えるマネー・サプライ(主は預金)は増えません。
(注)FRBは、住宅価格の下落を止めるため、住宅ローンのデリバティブ証券(MBS)も買っています。
【マネー供給の段階】
日銀によるベース・マネーの増減 (注)現金+日銀当座預金
これを、中央銀行による金融調節と言う
↓
銀行の、利用可能な資金量の増減
↓
貸付金の増減
↓
企業・世帯の預金(マネーサプライ)の増減
↓
商品購買と投資の増減(GDPの変化)
銀行が、世帯には住宅ローン残が増加するように貸し、企業には設備投資の資金を増加貸しして、そのマネーが、銀行システムの中の預金となって回るようにならないと、使えるマネー・サプライは増加しません。
【ゼロ金利下では、物価を上昇させねば、借入は増えない】
金利は、現在、短期がほぼゼロで、長期も0.7~0.8%と低い。銀行の、長短の平均貸し出し金利は、1.3%と低い。
これ以上は、低くはできない。貸し金の1%くらいは、貸し倒れ引き当てを見込まねばならないからです。
現在のゼロ金利の中で、住宅ローンの借入が増えるには、ローンの金利(固定)は2%以下には下がらないので、年率2%程度以上で、住宅価格が、長期に上がるという期待が必要です。
2%は上がると予想されるように変わると、「ローンの名目金利2%-住宅価格の期待上昇2%」で、実質金利は、ゼロになります。
金利の負担が0やマイナスになれば、世帯は、住宅購入を増やすだろうということです。
同様に、物価(企業の商品売上の価格)も、2%上がると期待されるように変わると、売上増の見込みが立ち、押さえてきた借入での設備投資を、増やすだろう。
そうなると、経済は、設備投資の乗数原理で成長するという説でもあります。
●岩田氏は、以上から、「日銀は、世帯と企業が使えるマネー・サプライが4%以上(6%程度)増えるように、国債・債券を買い、円を増加印刷すべきである。」と結論づけています。(『デフレの経済学』)
これは、米国のクルーグマンと、安倍内閣の顧問になった浜田宏一氏の主張でもあります。他のリフレ派も同様です。
●重要なことを言えば、マネー・サプライの4%を超える増加も、半年以内の短期では、インフレ期待に転じる効果がない。最短でも、向こう2年間、「日銀は、物価を2%上げる目的で、マネーの印刷を増やす」と、国民に確信されるものでなければならない。
【テーマ】本稿は、以上をめぐって、論を展開します。専門的な概念やデータには、(注)で短い注釈やコメントを書いています。
日本経済の構造変化があるので、実は、以上のマネー・サプライ増加論と円安は、経済に対し、有効ではなくなっています。
経済と企業にとってとても重要なことであり、経済・金融の理論的なことでもあるので、数値実証で、丁寧に論を進めます。24ページ
です。
anyway、当方の予測シナリオ通りにならないことを希望しますが、数値的・論理的に考えると、可能性が高く思えます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<284-2号:訂正版:『デフレの経済学』を解釈すると(2)> 2013年2月11日
【目次】
1.日銀が言う「物価の安定」は、ゼロ%だった。
2.名目金利は低いが期待実質金利は高い
3.日本の物価が下がっていたのは、マネー・サプライの要因から
か?
4.構造派と、マネタリストはどちらが正しいか?
5.円安効果は、実は小さくなっていて、輸入増になる。
(↑この項の文を訂正)
6.過去の通説に依存した誤り
7.結果は、悪い金利上昇になる
【後記】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■1.日銀が言う「物価の安定」は、ゼロ%だった。
日銀は、使命を「物価の安定」としています。
安定とは何か。ここには「日銀文学」があります。
日銀が、明治14年の設立以来130年の歴史で、はじめてインフレ目標1%を言ったのは、1年前の、2012年2月14日でした。
(注)普通、中央銀行がインフレ目標を言うのは、例えば4%上がっている物価を2%に下げるという抑制的なマネー供給です。この点で、日本の、物価を上げるインフレ・ターゲットは異例です。
このため、年間の国債購入枠を、20兆円から10兆円増やして30兆円とし、貸付金も35兆円に増やすとしました。この脱デフレ宣言で、日経平均株価は8500円付近から、1万円超えに上がっています(12年3月)。
その後、2012年4月からは、「日銀の量的緩和は、言うほどのものではない」と、次第に市場に認識されて、6月には、株価は8500円に戻っています。「円安(円売り)→株の購入→株価上昇」は、今
回のパターンと同じです。
(注)昨年も、ヘッジ・ファンドが先行して買い、上げて売り逃げています。上げている最中は、1万2000円や1万3000円もあると言う人が多かった。
遅れて高値で買い、損をしたのが個人投資家でした。
日銀は、物価の安定が何%を言うのか、明らかにしません。
しかし、昨年の2.14にはじめてインフレ目標を1%と言ったことから、「物価の安定は±0%」としていたことが分かります。
10年前の、2003年1月の日銀のバランス・シートは、124兆円でした。このうち、長短の国債保有は、81兆円でした。
2013年1月のバランス・シートは、159兆円です。国債の保有は118兆円です。「159兆円-124兆円=35兆円」。
日銀は、10年間、1年平均では、3.5兆円しかマネー供給の増加を行っていません。
(注)マネー供給増加=国債の増加買い+貸付金増加
3.5兆円は、わが国のマネー・サプライ額(約1100兆円)に対して、0.34%付近でしかない。
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2013/ac130131.htm/
口では何とでも言えます。しかし日銀の実際の行動では、「物価の上昇は0%(またはそれ以下)を安定」としていたことが、以上の金額で、分かります。
国債を一時は増加買いしても、その後は(※売りでマネーを吸い上げて)減らすという行動でした。
この行動パターンは「80年代後期の資産バブル経済」への反省から来ています。
マネー・サプライを増やしても、日本経済の構造からは、資産(株と地価)が高騰する。
資産の非合理な水準への高騰の結果は、1990年からのような暴落であり、名目GDPの継続的な成長には効果がないという考えです。
事実、80年代後期から末の、バブルでも、
・一般物価(消費者物価)の上昇は、2%程度でしかなかった。
・地価は3倍に上がり、株価も3倍以上でした。
インフレ目標で、果敢な量的緩和をすれば、いずれ資産バブルが再来するだけである。
従って、日銀の、2012年までのマネー印刷(ベース・マネー)の増加は、1年に3.5兆円でしかなかったのです。
米国のマネー・サプライ(M2)は、年率8~10%増の範囲で高い。
一方、消費者物価の上昇は、2~3%程度です。
http://www.federalreserve.gov/releases/h6/Current/
EUでは、M2の増加は、年率3~4.5%であり、消費者物価の上昇は2~2.5%です。
http://sdw.ecb.europa.eu/reports.do?node=100000141
日本のM3の増加は、年率2%程度でした。わが国で預金が使われる構造では、消費者物価が上がる臨界点は、マネー・サプライでは、4%増加です。
(注)これは、過去のデータで、実証されています。過去のデータです。
10年以上前の過去の経済が、世界で1.5京円にもなったデリバティブ(新しいマネー)で変化した現在の経済に、当てはまるかどうか、ここが、常に、経済学説における焦点になることです。
デリバティブの急増は、2000年代だけのことです。90年代はなかった。
医学で例えれば、変容を繰り返す新しいウイルスで変化した病に、過去のデータは無効です。
日銀は、2000年代も、マネーは十分に供給している。しかし、銀行が国債を売って日銀に預けている当座預金が増えるだけだった。
それが、企業と世帯への貸付金の増加になっていないと、一貫して説明しています。
中央銀行は、マネー・サプライ(M3)を増やすことはできないとも言う。
ーーーーーーーーーー
(2)へ続きます。
国債を日銀に回して公共事業に当てるというが、土木の労務単価が上がるくらいの効果しかないだろう。
今どき利益が上がったから即、労働賃金に還元する企業家などいるわけも無いだろう。
「家計、企業、政府の共倒れ破綻」の可能性が最も高い。
要は「賃上げが無ければ、経済成長は無い」
アベノミクスとやらのこの鉄砲玉政策はいわゆるリフレ派マネタリストを下敷きにしたものだが、吉田繁治氏が子のリフレ派と構造改革派を双方とも批判し、勤労家計の可処分所得、すなわち賃金所得の下降こそがデフレの原因であり、正しい解決であることを説明している。
いささか長文ですが、言葉の説明なども労を惜しまない、丁寧でわかりやすい解説です。
4ページに分けて掲載します。
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『デフレの経済学』を解釈すると(2) 2/11 吉田繁治 (文中(※)はもうすぐ北風の注釈です。)
おはようございます。厳冬が続きますが、いかがお過ごしでしょう。
本稿は、有料版の増刊として、昨日送ったものです。ご無沙汰していたお詫びとして、送ります。若干の書き加えをしています。
アベノミクスについての、展開と、今後の帰結です。24ページと長文で
す。
経済の原理的なことを、論理的・包括的に書いています。
*
日銀の、次の総裁として有力視されている岩田規久男氏の『デフレの経済学(2001)』の、骨子を解釈しながら、論述します。
この書の結論を言えば、日銀が「果敢に」、国債を買い増しして、円を増刷することによって、マネー・サプライ(M2やM3)を、年率で4%以上増やすことができれば、デフレは収束するというものです。
M2は、その国の全部の現金と預金、M3はM+CD(譲渡性預金)です。
マネタリズムを作ったフリードマンが言った「デフレもインフレも、貨幣現象」であるというのがこれです。
常に、経済事情が異なるあらゆる国で、これが正解かどうか、実は分からない。
一種の学術的なドグマでしょう。
正解の時期と国はある。正解でない国と時期も
ある。
【マネタリズムの、基本式:簡単です】
数式では、「M(マネー・サプライの量)×Mの流通速度(V)=一般物価水準(P)×実質GDP=名目GDP」、です。
(注)名目は、物価の下落率であるGDPデフレーターを、実質に加えたものです。
マネーの流通速度、言い換えれば、現金と預金が、商品の買い物と、物的な設備投資に使われる速度(マネーの回転率=名目GDP÷マネー・サプライの量)は、若干の低下傾向はあっても、ほぼ一定とする(フリードマン)。
(注)預金で、他の金融商品やデリバティブを買っても、マネーの流通速度は上がりません。収入や預金で、実物経済の商品を買い、設備への投資をすることがマネーの流通速度です。
流通速度を、短期では一定とすると、マネー・サプライ量の増加(例えば年率6%:日本では約70兆円)は、実質GDPを潜在GDPに近づけて増やすか、それ以上なら、物価を上昇させる。
潜在GDPは、失業が自然失業率(日本では2%か)のときの、生産力です。日本では、現在のGDP+2%くらいと、低い。
【4%以上の増加が必要】
●岩田氏の見解では、日本経済は、過去、年率のマネー・サプライの増加が4%(現在の金額では40~50兆円)以下の時期は、物価が下がるデフレになっていた。
物価を上げるには、年率で4%以上(70兆円以上)が必要としています。
2012年12月での、日本のM3の残高は1135兆円です。
企業・世帯・自治体の、現金と預金の総額だと理解していい。
年率の実際の増加は、1~3%の範囲でした。2000年代の傾向は、ほぼ2%増でしかない。4%増以上でないと、日本の物価は下がる傾向になるとするのが岩田氏です。
http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1212.pdf
日銀は、一般には、銀行や保険会社としか、取引しません。銀行・保険がもつ国債・社債・債券・CP等を、債券市場で買い、「日銀当座預金」に現金を振り込むことが、ベース・マネーの増発です。
ベース・マネーは、「現金(82兆円)+銀行が日銀に預けた当座預金43兆円」です。
13年1月に125兆円になっているベース・マネーの増加だけでは、世帯や企業が使えるマネー・サプライ(主は預金)は増えません。
(注)FRBは、住宅価格の下落を止めるため、住宅ローンのデリバティブ証券(MBS)も買っています。
【マネー供給の段階】
日銀によるベース・マネーの増減 (注)現金+日銀当座預金
これを、中央銀行による金融調節と言う
↓
銀行の、利用可能な資金量の増減
↓
貸付金の増減
↓
企業・世帯の預金(マネーサプライ)の増減
↓
商品購買と投資の増減(GDPの変化)
銀行が、世帯には住宅ローン残が増加するように貸し、企業には設備投資の資金を増加貸しして、そのマネーが、銀行システムの中の預金となって回るようにならないと、使えるマネー・サプライは増加しません。
【ゼロ金利下では、物価を上昇させねば、借入は増えない】
金利は、現在、短期がほぼゼロで、長期も0.7~0.8%と低い。銀行の、長短の平均貸し出し金利は、1.3%と低い。
これ以上は、低くはできない。貸し金の1%くらいは、貸し倒れ引き当てを見込まねばならないからです。
現在のゼロ金利の中で、住宅ローンの借入が増えるには、ローンの金利(固定)は2%以下には下がらないので、年率2%程度以上で、住宅価格が、長期に上がるという期待が必要です。
2%は上がると予想されるように変わると、「ローンの名目金利2%-住宅価格の期待上昇2%」で、実質金利は、ゼロになります。
金利の負担が0やマイナスになれば、世帯は、住宅購入を増やすだろうということです。
同様に、物価(企業の商品売上の価格)も、2%上がると期待されるように変わると、売上増の見込みが立ち、押さえてきた借入での設備投資を、増やすだろう。
そうなると、経済は、設備投資の乗数原理で成長するという説でもあります。
●岩田氏は、以上から、「日銀は、世帯と企業が使えるマネー・サプライが4%以上(6%程度)増えるように、国債・債券を買い、円を増加印刷すべきである。」と結論づけています。(『デフレの経済学』)
これは、米国のクルーグマンと、安倍内閣の顧問になった浜田宏一氏の主張でもあります。他のリフレ派も同様です。
●重要なことを言えば、マネー・サプライの4%を超える増加も、半年以内の短期では、インフレ期待に転じる効果がない。最短でも、向こう2年間、「日銀は、物価を2%上げる目的で、マネーの印刷を増やす」と、国民に確信されるものでなければならない。
【テーマ】本稿は、以上をめぐって、論を展開します。専門的な概念やデータには、(注)で短い注釈やコメントを書いています。
日本経済の構造変化があるので、実は、以上のマネー・サプライ増加論と円安は、経済に対し、有効ではなくなっています。
経済と企業にとってとても重要なことであり、経済・金融の理論的なことでもあるので、数値実証で、丁寧に論を進めます。24ページ
です。
anyway、当方の予測シナリオ通りにならないことを希望しますが、数値的・論理的に考えると、可能性が高く思えます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<284-2号:訂正版:『デフレの経済学』を解釈すると(2)> 2013年2月11日
【目次】
1.日銀が言う「物価の安定」は、ゼロ%だった。
2.名目金利は低いが期待実質金利は高い
3.日本の物価が下がっていたのは、マネー・サプライの要因から
か?
4.構造派と、マネタリストはどちらが正しいか?
5.円安効果は、実は小さくなっていて、輸入増になる。
(↑この項の文を訂正)
6.過去の通説に依存した誤り
7.結果は、悪い金利上昇になる
【後記】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■1.日銀が言う「物価の安定」は、ゼロ%だった。
日銀は、使命を「物価の安定」としています。
安定とは何か。ここには「日銀文学」があります。
日銀が、明治14年の設立以来130年の歴史で、はじめてインフレ目標1%を言ったのは、1年前の、2012年2月14日でした。
(注)普通、中央銀行がインフレ目標を言うのは、例えば4%上がっている物価を2%に下げるという抑制的なマネー供給です。この点で、日本の、物価を上げるインフレ・ターゲットは異例です。
このため、年間の国債購入枠を、20兆円から10兆円増やして30兆円とし、貸付金も35兆円に増やすとしました。この脱デフレ宣言で、日経平均株価は8500円付近から、1万円超えに上がっています(12年3月)。
その後、2012年4月からは、「日銀の量的緩和は、言うほどのものではない」と、次第に市場に認識されて、6月には、株価は8500円に戻っています。「円安(円売り)→株の購入→株価上昇」は、今
回のパターンと同じです。
(注)昨年も、ヘッジ・ファンドが先行して買い、上げて売り逃げています。上げている最中は、1万2000円や1万3000円もあると言う人が多かった。
遅れて高値で買い、損をしたのが個人投資家でした。
日銀は、物価の安定が何%を言うのか、明らかにしません。
しかし、昨年の2.14にはじめてインフレ目標を1%と言ったことから、「物価の安定は±0%」としていたことが分かります。
10年前の、2003年1月の日銀のバランス・シートは、124兆円でした。このうち、長短の国債保有は、81兆円でした。
2013年1月のバランス・シートは、159兆円です。国債の保有は118兆円です。「159兆円-124兆円=35兆円」。
日銀は、10年間、1年平均では、3.5兆円しかマネー供給の増加を行っていません。
(注)マネー供給増加=国債の増加買い+貸付金増加
3.5兆円は、わが国のマネー・サプライ額(約1100兆円)に対して、0.34%付近でしかない。
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2013/ac130131.htm/
口では何とでも言えます。しかし日銀の実際の行動では、「物価の上昇は0%(またはそれ以下)を安定」としていたことが、以上の金額で、分かります。
国債を一時は増加買いしても、その後は(※売りでマネーを吸い上げて)減らすという行動でした。
この行動パターンは「80年代後期の資産バブル経済」への反省から来ています。
マネー・サプライを増やしても、日本経済の構造からは、資産(株と地価)が高騰する。
資産の非合理な水準への高騰の結果は、1990年からのような暴落であり、名目GDPの継続的な成長には効果がないという考えです。
事実、80年代後期から末の、バブルでも、
・一般物価(消費者物価)の上昇は、2%程度でしかなかった。
・地価は3倍に上がり、株価も3倍以上でした。
インフレ目標で、果敢な量的緩和をすれば、いずれ資産バブルが再来するだけである。
従って、日銀の、2012年までのマネー印刷(ベース・マネー)の増加は、1年に3.5兆円でしかなかったのです。
米国のマネー・サプライ(M2)は、年率8~10%増の範囲で高い。
一方、消費者物価の上昇は、2~3%程度です。
http://www.federalreserve.gov/releases/h6/Current/
EUでは、M2の増加は、年率3~4.5%であり、消費者物価の上昇は2~2.5%です。
http://sdw.ecb.europa.eu/reports.do?node=100000141
日本のM3の増加は、年率2%程度でした。わが国で預金が使われる構造では、消費者物価が上がる臨界点は、マネー・サプライでは、4%増加です。
(注)これは、過去のデータで、実証されています。過去のデータです。
10年以上前の過去の経済が、世界で1.5京円にもなったデリバティブ(新しいマネー)で変化した現在の経済に、当てはまるかどうか、ここが、常に、経済学説における焦点になることです。
デリバティブの急増は、2000年代だけのことです。90年代はなかった。
医学で例えれば、変容を繰り返す新しいウイルスで変化した病に、過去のデータは無効です。
日銀は、2000年代も、マネーは十分に供給している。しかし、銀行が国債を売って日銀に預けている当座預金が増えるだけだった。
それが、企業と世帯への貸付金の増加になっていないと、一貫して説明しています。
中央銀行は、マネー・サプライ(M3)を増やすことはできないとも言う。
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(2)へ続きます。
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