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もうすぐ北風が強くなる

北の衛星発射と中国の尖閣領空侵犯:田中

  北朝鮮の衛星発射と中国の尖閣領空侵犯 12/14 田中宇

 12月12日に北朝鮮が長距離ミサイル技術を使った人工衛星(北の政府によると気象衛星)の打ち上げに初めて成功し、翌13日には中国当局の飛行機が初めて尖閣諸島沖の領空を侵犯した。日本に脅威となる周辺諸国との対立的な出来事が立て続けに起きた。この2つの出来事は、どう関係しているのだろうか。 (North Korea Rocket Launch Is Propaganda Coup)

 2つの出来事のうち理解しやすいのは、北朝鮮の衛星発射の方だ。北朝鮮は今年4月、衛星打ち上げに失敗した。今回、昨年12月19日に死去した金正日の命日に際して打ち上げに再挑戦し、今度は地球を回る衛星軌道に乗った。前回の失敗を挽回するかたちで成功し、韓国も成し遂げていない衛星打ち上げを、まがりなりにも成功させたことで(衛星は制御不能といわれているものの軌道に乗った)金正恩政権の権威が発揚された。 (北朝鮮の人工衛星発射をめぐる考察) (North Korea rocket launch: 5 reasons it can be considered successful)

 冷戦終結直後の、北朝鮮経済が完全崩壊した時代の独裁者だった金正日は、自分の権力を守るため、軍に権力を渡す「先軍政治」の体制をとった。だが息子の金正恩は、折衝役の張成沢らと協力し、軍から権力を奪って労働党や内閣に権力を移すことで、実質的な経済の自由化と成長を実現する方向に進んでいる。北朝鮮政府は、表向きの発表として、経済を自由化していることを決して認めたがらず、社会主義経済を堅持していると発表し続けている。 (北朝鮮で考えた(2))

 だが北朝鮮は実質的に、農業の制度を、中国が80年代にやったような家族ごとの請負制度に似たものに転換する「6・28方針」や、軍の権力者だった李英鎬・参謀総長の7月の解任など、硬直的な先軍政治を脱し、中国風の経済改革の方に動き出している。北朝鮮の軍内には、この転換に不満を持つ向きも強いだろう。だが今回の衛星打ち上げの成功で金正恩の権威が強まり、先軍政治から経済優先への転換が安定的に進む可能性が高まった。 (◆経済自由化路線に戻る北朝鮮)

 対外的に見ると、今回の北の打ち上げは、12月16日の韓国大統領選挙にタイミングを合わせている。韓国大統領選挙は、中道右派の朴槿恵と、左派の文在寅との戦いで、終盤戦で文の追い上げが強くなっている。対北朝鮮政策は、両候補とも、今の李明博政権の強硬姿勢から転換し、北と対話を進めると表明している。北は、韓国が次の政権になって北の対話姿勢を強調し始める前に、ミサイルに使えるロケットを打ち上げることで、韓国を牽制する挙に出た。 (Stand firm against North Korea)

▼中国に頼るしかない米国

 核弾頭を搭載できるロケット打ち上げをおおむね成功させたことで、北朝鮮は今後、再び核実験を行う可能性がある。これまで北は、ロケット発射と核実験を交互に行っている。北は、弾頭としてロケットに乗せられるまで小型化できているかどうか不明なものの、核爆弾を持っている。北が米国まで届くロケットと弾頭を持つことで、今回初めて米国が北の核の脅威にさらされたことになるが、米オバマ政権の反応は低調だ。

 米国は、国連安保理で北を経済制裁する決議を出すつもりだというが、制裁強化に積極的な米国や日本は、すでに北との経済関係を断絶しており、日米欧が北を追加制裁してもほとんど効果がない。北の経済は中国との貿易に依存しているが、中国は北を制裁する気がない。 (Analysis: North Korea's weakness is its greatest strength)

 中国は、自国流のやり方で北との関係を維持したいと考えており、国連安保理などで米欧からの圧力で動かされたくない。中国は、北の打ち上げを「ミサイル」でなく「人工衛星発射」と認識している。中国は、以前の国連安保理決議が北のミサイル関連技術の開発を禁じているので、しかたなく北を批判する流れに乗っているが、中国の本意は「あらゆる国に人工衛星を発射する権利があるので、北には打ち上げの権利がある」というものだ。 (North Korea defies warnings in rocket launch success)

 中国は北を制裁するつもりがない。だが米国は、今回の北の発射への最大の反応として、中国に北を抑止することを求め、北を非難する国連安保理の決議文に厳しい言い回しを盛り込もうと主張し、中国から拒否されている。米政府は、実際に核兵器を開発している証拠がないイランに対して、今にも空爆を挙行しそうなことを言ってきたが、実際に核実験までやった北朝鮮に対しては腰の抜けた対応しかしない。米国は、北を制裁する気がないことが明白な中国に、北を制裁しろと上から目線で頼むばかりだ。 (US hesitant in condemning North Korean launch)

 ブッシュ政権時代の米国は、北を先制攻撃するといって強硬な姿勢を表明していた。だが結局、脅威を感じた北が核実験を実施しても、米国は、何ら軍事行動を起こさず、逆に外交面の解決方法である6カ国協議を中国に任せきりにして、北が中国の傘下に入っていくことを容認した。北が中国の属国になり(体面を重んじる北の人々は「属国でなく自立した『主体の国』だ」と強情に突っ張っているが)中朝関係が日米韓の思惑に関係なく安定してきた今になって、米国が国連安保理などで中国に、北を制裁しろと語気荒く言っても、事態は動かない。 (北朝鮮の中国属国化で転換する東アジア安保)

 今回の北の発射で、米国の「アジア重視」(中国包囲網。アジアでの覇権維持)の策が、たとえ米政府が本気で頑張っても、口だけ以上のものになれないことが示されている。そもそも、米国は本気で中国と対立する気などない。北がロケットを発射した日、米ワシントンDCの国防総省では、米中の将軍どうしによる定例的な軍事対話の会合が開かれていた。中国が米国の言うことを聞かなくても、米国が中国との対話をやめることはない。 (North Koreans celebrate rocket launch as UN Security Council and China condemn move after emergency meeting)

 北朝鮮の核ミサイル開発を、米国主導で抑止することは不可能になっている。北への手綱を握る中国は、北のロケット開発を容認しても、北の核兵器開発には、より厳しい態度をとるだろう。北の軍事抑止力の強化を黙認すると、中国の言うことも聞かなくなる。中国主導で北の核兵器開発を止めるための国際的な機構として、以前から存在するものの頓挫している6カ国協議がある。今後はちょうど、韓国で北と対話しようとする新政権ができるので、中国は韓国と協調し、6カ国協議を再開しようとするだろう。 (転換前夜の東アジア)

 6カ国協議については昨年春の米中協議で(1)米朝が和解交渉を開始する(2)南北が和解交渉を開始する(3)6カ国協議を再開する、という流れが定められたが、韓国の李明博政権が北と対話できないままで、米朝交渉も和解が試みられたがそれ以上進まないままになっている。だが来年から韓国が新政権になって南北対話が始まると、米国も2期目のオバマが北との対話を再び試み、6カ国協議が再開され、北の核廃棄(ふりだけかもしれないが)と引き替えに、朝鮮半島の緊張緩和が進む可能性が強まる。そうでなくて、来年も何も進まない状況が続くかもしれないが、いずれ起きる展開は上記のようなものだろう。 (米中協調で朝鮮半島和平の試み再び)

 6カ国協議が進むと、日本にも国際圧力がかかり、日本政府が拉致問題の「解決」を認めざるを得ない事態になるだろう。北朝鮮が再調査して出した何らかの結論を日本が受け入れ、問題が解決したと日朝間で合意し、日朝和解の道筋に入ることになる。安倍晋三氏は、拉致問題で北朝鮮を絶対許さない態度を採りたい(それによって北を脅威とする対米従属の国是を守りたい)だろうが、国際圧力を受け、希望と逆の動きになるかもしれない。日本は国際圧力を拒否することもできるが、その場合は孤立が待っている。孤立して貧乏になってもかまわず姿勢を貫くと若手の国民(日本が落ちぶれる前に墓場に逃げ切る高齢者でなく、若者たち)の大多数が決意しているなら、それでもよい。 (北朝鮮6カ国合意と拉致問題)

▼中国の尖閣領空侵犯の意味

 北のロケット発射に対する米国の反応が弱く、日本は、安全保障の唯一の後ろ盾である米国に頼れない感じが強まっている。その状況を見越したかのように、北の発射の翌日の12月13日、中国当局のプロペラ機が初めて尖閣諸島の領空内に侵入した。この件は、北の発射との関連でとらえることもできるが、そうでなくて、12月16日の日本の総選挙を見越した動きと考えることもできる。

 選挙によって自民党の安倍政権ができるだろうが、安倍は尖閣諸島に、港湾など公的な建造物を作り、政府要員を常駐させると公約している。中国はこれまで、日本が尖閣諸島に公的建造物を造らず、政府要員を常駐させないことを暗黙の条件に、日本の尖閣諸島の実効支配を黙認してきた。安倍新政権の日本が尖閣諸島に政府の建造物と要員を配置することは、尖閣問題で中国に対して一線を越えて見せ、中国との敵対を強めて、それをテコに日米同盟(対米従属)を強化する意図があると考えられる。 (尖閣で中国と対立するのは愚策)

 このような日本の流れに対し、中国は、初めて当局の飛行機で尖閣を領空侵犯することで、日本側に「安倍新政権が尖閣で一線を超えるなら、中国も一線を越えて尖閣を軍事的に奪取する姿勢をとる」との信号を送った。安倍は新政権を樹立後、尖閣をめぐる公約を果たそうとするだろうから、中国側も当局の飛行機を頻繁に領空侵犯させるだろう。領空侵犯は常態化する。いずれは戦闘機までやってくるかもしれない。 (China flies aircraft over disputed islands)

 中国は、尖閣で日本と一戦交え、尖閣を日本から「奪還」することで、日清戦争以来の日本の対中優位を逆転し、中国がアジアの覇権国である国際新秩序の象徴としたいのだろう。以前に書いたように、中国は1970年代に米国が対中敵視から宥和に転じたことを利用して、ベトナムから西沙諸島(パラセル)を軍事的に奪い、中国の言うことを聞かないベトナムに対して軍事的優位を見せつける挙に出ている。 (中国は日本と戦争する気かも)

 北のロケット発射に対する米国の反応が弱く、米国がアジアでの中国の台頭に対して口だけしか動かせない今の状況の中、中国が、尖閣を日本から奪うという象徴的な挙に出ようとしていても不思議でない。安倍は、米連銀の自滅的なドル過剰発行に合わせて、円の過剰発行を加速しようと日銀に圧力をかけており、経済的にも米国と無理心中する姿勢だ。安倍は、テレビ広告で「日本を取り戻す」と語気強く言っているが、実際は逆で、「日本を失う」指導者になる可能性の方が大きい。

 尖閣諸島での日中戦争を防ぐには、日中が交渉し、日本側が尖閣に政府の建物や要員を配置するのをやめる代わりに、中国側が以前のように日本の尖閣の実効支配を黙認する状態に戻せばよい。中国の国際台頭と、米国の覇権衰退は、長期的にみると確定的だ。日本は、米国の覇権に依存して中国と対立する今の戦略を続けられなくなる。米国の後ろ盾がない状態で、日本が中国と長期対立すべきだと考える人は無鉄砲だ。私は無鉄砲さを否定するものでないが、かなりの覚悟と、国際的な深い分析力が必要だ。今の日本人にその覚悟と能力があるとは思えない。

 日本が中国と対立し続けるなら、米国抜きの対中包囲網の構築を考えねばならないが、オーストラリアの戦略の専門家は「最近、日本がわが国(豪州)と安保協定を結びたがっているが、日本の意図は、日本が中国と戦争するときに豪州を自国の側に立たせたいということであり、豪州を危険にさらす協定だ。日本との安保協定に乗らない方がよい」と主張している。 (Right now, we don't need an alliance with Japan)

日本が中国と対立し続けると、北朝鮮並みの孤立した国になる。そのころには逆に北朝鮮(統一朝鮮?)が、東アジア共同体の重要なメンバーになっているかもしれない。
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