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もうすぐ北風が強くなる

絶望のスペイン

スペイン2

 債務危機とEU支援条件の財政緊縮政策によって、窮乏化が進むスペイン。
 さらなる失業と貧困以外の展望なき緊縮政策に、国民の怒りは大きい。
 先にスペインの失業と窮乏。国民の怒りの状況を「嵐のスペイン」にて紹介しました。

 ユーロ通貨体制の矛盾のしわ寄せをくらった南欧諸国。
 らせん状に回転して落下してゆく「絶望的」悪循環。
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  絶望のスペイン 9/6  三橋貴明 Klugから

スペインの7月の失業率が25.1%に達したことが、ユーロスタットから発表された。ついに、大恐慌期のアメリカの最悪値(24.9%)を上回ってしまったのである。
しかも恐ろしいことに、ここ数か月、スペインの失業率は低下したことが一度も無い。指標が公表されるたびに、過去最悪値を更新していっている。

雇用環境が極度に悪化しているにも関わらず、スペインのラホイ政権は9月1日、付加価値税(日本の消費税に該当)を引き上げた。すでにして低迷しているスペインの家計の消費は、今回の増税で「凍り付く」ことになるだろう。
何しろ、スペイン政府は8月に医薬品に関する患者の負担比率を引き上げた。医療費に関する家計の負担分引き上げというわけで、これも一種の増税だ。
というよりも、「消費税増税」と「医療費の自己負担比率引き上げ」を同時に実施し、日本を現在にまで至るデフレに突き落とした橋本政権そのままである。

スペインの家計が消費を減らせば、反対側で必ず企業の売上が減る。(家計の消費=企業の売上、である)企業の売上が減るとは、すなわち当該製品・サービスに関連した各社、従業員の所得が減少するという話だ。
国民の所得が減少すると、当然ながら「所得を原資」とする政府の税収は必ず減る。政府の税収とは、すなわち財政の悪化だ。

何しろ、スペインは現時点においても未だにバブル崩壊過程にあるのだ。バブルが崩壊し、民間(家計や企業)が借金返済と貯蓄に邁進している状況で増税をしたところで、財政が健全化するはずがない。
各種の緊縮財政により、スペイン経済は所得(GDP)の急激な縮小、失業率のさらなる上昇、そして財政の悪化という三連打に打ちのめされることになるだろう。

現在のスペインの状況(日本もだが)が不毛だと思うのは、バブル崩壊後の国が増税しても、政府は増収にならないためだ。
スペイン(日本も)が増税すると、国民所得の縮小により財政はさらに悪化することになることは確実で、「一体何のための増税だったんだ・・・」という結末を必ず迎えることになる。

スペインにせよ、日本にせよ、財政を再建するためには「成長」を達成するしかない。経済成長により税収を増やす以外に、財政健全化は果たせないのだ。
とはいえ、スペインの場合は各種の「制約」により、経済成長への道までもが閉ざされてしまっている。
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『2012年8月28日 ブルームバーグ紙「スペインのリセッション深まる、緊縮が重し-銀行預金も急減」
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M9GE816JTSE801.html

スペイン経済のリセッション(景気後退)が4-6月(第2四半期)に深まった。輸出が伸びたものの、財政赤字削減に向けた緊縮策が重しとなる中で個人消費の低迷が響いた。
スペイン統計局(INE)が28日発表した4-6月期の国内総生産(GDP)改定値は、前期比0.4%減となった。7月30日公表の速報値に一致した。1-3月(第1四半期)GDPは前期比0.3%減だった。
ラホイ首相は先月、2013年にプラス成長に回帰する目標を撤回した。同首相は14年までにGDPの15%に相当する緊縮措置を講じる予算案を公表している。
INGバンクのエコノミスト、マルティン・ファンフリート氏(アムステルダム在勤)は「事態が改善する前にまず悪化するのではないかと考えている」として、「さらなる緊縮措置が予定されている上に失業率は既に天文学的数字になっている。明らかに、リセッションがさらに長期化する方向にある」と述べた。同氏はスペインが早ければ9月にも追加の金融支援を要請するとみている。
欧州中央銀行(ECB)がこの日発表した別のデータによると、民間部門がスペインの銀行に預けている預金額は7月に過去最大の減少となった。データによると、預金は742億ユーロ(約7兆3200億円、4.7%に相当)減少し1兆5100億ユーロとなった。これは少なくとも、ECBのデータ集計が始まった1997年以来で最大の落ち込み。(後略)』
 ・・・・・・・・・・・・・・・
『スペイン:カタルーニャ州が50億ユーロの支援要請へ
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M9GUQL6JTSFP01.html

スペインのカタルーニャ州は中央政府による地方救済基金を利用する2番目の州となった。国内で債務負担の最も大きい同州は金融市場から締め出され、ユーロ圏におけるギリシャやアイルランド、ポルトガルと同じ道をたどった。
 同州政府は50億ユーロ(約4920億円)の金融支援を要請する計画だ。これは中央政府が17の自治州の支援のために7月に創設した基金の資金180億ユーロの3分の1に近い。バレンシア州は7月20日に、金額を特定せずに支援を要請した。
 スペインの中央政府が全面的な救済を回避できるかどうかは地方政府の財政赤字に歯止めを掛けられるかどうかにかかっている。
 2011年のスペインの財政赤字が国内総生産(GDP)の8.9%にとどまり、前年からほとんど縮小しなかった主因は地方政府の赤字にある。
 スペインの公的支出の3分の1以上をコントロールする地方政府は投資家からの資金調達が難しくなり、ユーロ圏債務危機のスペイン国内版の様相を呈している。(後略)』
 ・・・・・・・・・・・・・・
失業率が25%を突破する中、スペインは中央政府が雇用環境や財政を悪化させる緊縮財政を強行しようとしているわけだが、それ以前に地方政府の方から順番に倒れていっている。
今のスペインの各州は、「小国家」と呼ばれるほどに独立性が強まっている。すなわち、スペイン版道州制である。

日本の道州制も同じことになるだろうが、
「各地方自治体に税源を移譲し、各自治体は中央政府のくびきを逃れ、独立採算的に政策を実施する」
というタイプの地方の権限強化は、バブル崩壊後のデフレ期には全く成り立たなくなってしまう。
何しろ、バブル崩壊で民間が借金返済モードに入り、地域のGDPは縮小していき、地方の税収も激減してしまうのである。

税収が減ったとはいえ、簡単に公的サービスをカットすることはできないため、各地方自治体では財政赤字(地方債)が膨らむ。
というよりも、地方自治体が積極的に「歳出カットだ!」などとやった日には、その地域のGDP縮小に拍車がかかり、却って税収が減る結末を招く。

各地方自治体は「通貨発行権」を保有しないため、基本的にバブル崩壊後の税収減に対抗する術はない。
夕張市の例を見るまでもなく、中央政府が救わない限り、地方自治体は普通にデフォルト(債務不履行)することになる。

スペインでは、カタルーニャ州が中央政府に対し救済支援を求め、事実上、破綻した。バレンシア州に続き、二州目である。

問題なのは、スペインの場合は、支援を求められた中央政府側にも「通貨発行権」はなく、地方を助ける余力が限られているという点だ。
すなわち、スペイン中央政府はカタルーニャ州やバレンシア州と比べ、金融危機、財政危機に対する対応力が大きいわけでは決してないのだ。
スペインは独自通貨国ではなく、かつ経常収支赤字国(しかもアメリカに次いで世界第二位の規模)であるため、状況によっては中央政府といえども普通に財政破綻(デフォルト)してしまう。

スペインを救うには欧州中央銀行(ECB)がスペイン国債を買い取り、インフレ率上昇と引き換えに金利を抑制するしかない。
が、ご存じ「ドイツ」という巨大な壁が立ちふさがっており、スペインはギリシャなどと同様に状況を悪化させる緊縮財政を強いられている。

一応、ECBは、
「ブンデスバンク(ドイツ連邦銀行)の賛同を得られなくても、国債買入を実施する」
という立場を取っている。とはいえ、どこか島国の中央銀行総裁と同じように、
「対象を短期債のみに絞り、ECBによる政府への資金提供に相当するとの懸念を払拭する枠組みを策定する。新たな買い入れ計画の下では、対象国が改革の手を緩めないことを条件とする」
と眠たいメッセージを発しており(ECBのアスムセン専務理事)、長期国債買取という正しい金融政策を拒否している。

こうなると、スペインが苦境を脱するにはユーロから離脱し、為替レートの切り下げにより、経常収支の黒字化を目指すしかない。
スペインなどの南欧諸国は、北部のユーロ諸国(ドイツ、オランダ、フィンランド)に比べて生産性が低すぎる。「変動しない為替レート」のままでは、南欧諸国は延々と北部からの輸出攻勢を受け続けなければならず、貿易赤字は拡大する。
貿易赤字が拡大すると、経常収支の赤字もますます膨らみ、対外純負債が積み上がっていく。

為替レートの引き下げが実現すれば、南欧諸国と北部諸国との生産性の差は埋まる。
それが不可能と言うのであれば、スペインなどはひたすら緊縮財政を繰り返し、国民を「貧乏」にしなければならない。
ところで、現在、スペインの民間銀行の預金(銀行にとっては借入金)は減少を続けているが、これは同国の国家のバランスシート上で、

(1) 民間部門が借金返済を続けている
(2) 民間部門が預金(ユーロ)をドイツ(等)の銀行に移してしまっている

の二つが発生しているとしか考えられない。
上記(1)(2)は、いずれもスペインの消費、投資(要はGDP)の縮小であり、税収減や財政悪化へと繋がっている。

特に、(2)の方は「両替なしでユーロを他国の銀行に移せる」という、ユーロ加盟国に特有な現象である。
スペイン国民としては、万が一、自国がユーロ離脱をした場合、為替レート暴落で「貧乏」になってしまうことが明らかであるため、今のうちに預金を「ユーロ」として安全な国に移しておきたいわけだ。
結果、ドイツの長期金利が1.3%台に低迷している。筆者は、ドイツの長期金利が近々にも1%を切ると予想している。

繰り返すが、スペインが現在の苦境を脱するには、ユーロ離脱しかない。
ところが、スペインがユーロから離脱すると「スペインへの債権」を持つドイツやフランスの銀行が倒れてしまう。
そのため、独仏などのユーロの中心の国々は、断固として破綻国のユーロ離脱を阻止しようとするわけである。

結果、スペイン国民は異常に高い失業率に苦しみ、貧乏になることを強制されている。
何というか、独仏などのユーロの大国は、グロッキーなボクサーを無理やりリングに送り込むセコンドのような真似をしているわけである。

【図170-1 スペインのインフレ率と失業率の推移(単位:%)】
20120903.png
出典:IMF※2012年は7月時点

本来、現在のスペインのように失業率が急騰し、物価上昇率が低く、地方政府が次々に破綻している環境にあるならば、政府が「通貨を発行し、借りて、使う」という正しいデフレ対策を「独自に」実施するべきなのだ。
ところが、現在のスペイン政府には独自のデフレ対策は許されていない。

共通通貨ユーロとは、つくづく不毛なシステムだ。
そもそも、共通通貨ユーロとは主流派経済学(新古典派経済学など)の学者たちが「机上」で「設計」することで作り上げたシステムなのである。

「最近、圧倒的な力を持っていた新古典派経済学がどれほどの害悪を与えたかは、簡単には記せないほどである」
と、ケインズ研究家のロバート・スキデルスキーが語っているが、まさに「害悪」だ。
何しろ、現在のようにバブル崩壊後の世界で新古典派経済学の「教理」に従うと、国民は所得減と失業率上昇に苦しめられ、さらなる税収減により財政が悪化するという悪循環に入る。
そこから抜け出る術は、ほとんどないに等しいのだ。

国民を豊かにできないどころか、貧しくしてしまう「経済学」や「共通通貨」に、果たして存在価値があるのか、という話である。
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