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ドイツのためのユーロ

 共通通貨ユーロは最初から国際金融資本とドイツの「戦略的な設計」だったのかも知れない。
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ドイツのユーロ  8/9  三橋貴明  Klugから

 ユーロの情勢を見ていると、同共通通貨のシステムが「ドイツのため」に造られたのではないかと疑いたくなる。
 ドイツ人は、第一次世界大戦時のルーデンドルフ体制(総力戦体制)に代表されるように、設計主義的な国家システムの構築を好むように思える。何しろ、ユーロとはまさしく各種のルールに基づき、国家や通貨の仕組みが各国共通で設計されてしまっているのだ。
 ルールを定めることで、各国の政府が裁量的な財政政策、金融政策を採れないようにする、ブキャナンやフリードマンの思想が読み取れる。

 ミルトン・フリードマンについては説明が不要であろうが、1986年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・マギル・ブキャナンについて知る日本人は少ないだろう。ブキャナンは、政府の裁量的な財政政策を問題視した。政府の裁量的な財政政策とは、
「民主主義に基づき、政治家が有権者の要望に応えるために実施する財政政策」
 を意味している。代表的な「裁量的な財政政策」が、田中角栄に代表される利権誘導型の公共事業だ。
 ブキャナンは上記の裁量的な財政政策は、民主主義国家では避けえない(ゆえに問題)と説いた。
 結果的に、ブキャナンが提案したのが「均衡財政の憲法化」である。

 財政政策を政治家に任せておくと、有権者や「民主主義」の力により、歪んだ公共事業などが行われ、財政赤字が拡大してしまう。
 あるいは、まさに現在のギリシャがそうなのだが、社会保障支出の縮小に政治家が「民主主義の力」を恐れて乗り出せず、経常収支赤字にも関わらず外国への国債発行を増やし、「双子の赤字(財政赤字と経常収支赤字)」で財政破綻(政府のデフォルト)の可能性が高まってしまう。

 ならば、民主主義の手が及ばない「憲法」に均衡財政を書き込むべきだ。と、ブキャナンは主張したのである。
 憲法に「財政赤字の拡大は禁止」などと書かれると、政府は民主主義の圧力を無視してでも従わなければならない。「憲法」により軍備拡大が禁じられている日本に住む者であれば、誰でも理解できると思う。

 さて、実はドイツはすでにブキャナンが主張した「財政均衡の憲法化」を実現している。冗談抜きで、ドイツは憲法に「債務ブレーキ制度」と呼ばれる財政均衡の「ルール」を書き入れているのだ。
 債務ブレーキ制度とは、2009年の憲法改正で実現したのだが、要するに赤字国債等による政府の借入をゼロにする制度である。ドイツ政府の借入は「憲法で」禁じられているため、財政はあくまで歳入の範囲で行われることになる。
 まさにドイツは、民主主義を超える「憲法」で、財政赤字を禁止したわけだ。ブキャナンはまだ存命であるため、ドイツの「財政均衡の憲法下」を見て、さぞや喜んだのではないだろうか。

 無論、ドイツは均衡財政を憲法化するに際し、
「1ユーロたりとも、財政赤字は認めない」
 とやったわけではない。ドイツの憲法には「均衡財政判定のルール」も定められている。具体的には、対GDP比で0.35%である。GDPの0.35%の範囲内であれば、ドイツ政府は歳出が歳入を上回っても構わない。

 また、ドイツの憲法では、
「平常の状態を逸脱する景気動向がある場合には、好況および不況における財政への影響を対称的に顧慮しなければならない」
 と、景気悪化時(具体的にはデフレギャップ存在時)には一定の「ルール」に基づき、財政赤字を拡大することを認めている。さらに、ドイツ憲法は「国の統制がきかず、かつ、国の財政状況を著しく害する自然災害または非常の緊急事態の場合」は、連邦議会の過半数の決議により、上記の「ルール」を踏み越えた財政赤字拡大も可能になっている。
 もっとも、連邦議会における議決の際には、返済計画を同時に可決しなければならないのだが。「ルール、ルール、ルール」という感じである。

 さすがに「財政赤字は一切NO!」とやっているわけではないが、それにしてもドイツの均衡財政に対する態度は実に設計主義的だ。
 そういう意味で、様々なルールが存在する共通通貨ユーロのシステムは、ドイツ人の国民性に合っているのかもしれない。

 しかも、ドイツ人はこの種の設計主義を「欧州全体」が受け入れるべきと考えているようで、2012年3月2日には欧州連合加盟国の首脳に対し、財政均衡の憲法化(厳密には財政均衡実現を憲法もしくは同等の法律により明文化すること)を含む新財政協定への署名を要求した。
 ドイツ側は、
「新財政協定を順守する国だけがESMの支援を受けることが可能だ(メルケル首相)」
 と、露骨なまでに「支援」と引き換えに各国が財政規律を堅持することを求めたのである。
 同協定に対しては、イギリスとチェコを除くEU加盟国の首脳全員がサインし、ユーロ加盟国17か国のうち、12か国が批准(国会で議決)した時点で発効し、法的拘束力が発生する(ユーロに加盟していないEU諸国は、ユーロ導入時に新財政協定発効が求められる)。

 新財政協定合意の取りまとめをしたファンロパイEU大統領(この人はベルギー人)は、調印式において、
「債務および赤字に関する今回の自己規律強化は、それ自体重要であり、ソブリン債務危機の再来防止に役立つことになる」
 と語っている。

 何というか、そもそも各国が「ルール」を守ることで成り立った、設計主義色が濃いユーロが、現実という怪物に襲われ、システムが壊れそうになっている状況で、
「この問題を解決するためには、より強固なルールが必要である」
 とやっているわけだ。
 なぜ「ユーロというルール化」が間違っていたという発想にならないのか、不思議である。
 何しろ、ユーロという共通通貨は、「供給が自動的に需要を生み出す」というセイの法則が成り立たないと、継続不可能なシステムなのである。
 よりわかりやすく書くと、バブル崩壊に対し、対処する機能が組み込まれていないのだ。

 ユーロのルールとは、主だったところだけで以下になる。
「各国は金融政策(政策金利、通貨発行など)についてECB(欧州中央銀行)に委譲する」
「各国は財政赤字を対GDP比で3%以内に収めなければならない(マーストリヒト条約による)」
「各国間の為替レートは常に一定(共通通貨なので当たり前だが)」
「各国間の移動は、財・サービスはもちろんのこと、資本(お金)、労働者に至るまで自由。各国間の関税はゼロとする」

 金融政策、財政政策、そして為替レートという「国家の裁量で変更される分野」をガチガチのルールで固めた上で、財・サービス、資本、労働者、すなわち「モノ・カネ・ヒト」の移動については「自由化」する。
 結果的に、民間企業が経済合理性を追求してユーロ圏内を自由に動き回り、パレート最適(誰かの効用を減らさなければ、誰かの効用を増やせない状態)を実現できる。
 他国であればやかましく口を挟んでくる「政府」は、ルールによって縛られ、マクロ的に民間の経済活動に影響を与えにくい。

 まことに、現代の主流派経済学者たちが好みそうな「設計されたシステム」だ。
 問題は、危機が深刻化するにつれ、ユーロのシステムが「ドイツ」のために設計されたのではないかという、疑いが浮上してきたことだ。

『2012年8月1日 ブルームバーグ「ECBは自らの責務越えてはならない-バイトマン独連銀総裁」
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M82IVG6S973E01.html
 ドイツ連邦銀行(中央銀行)のバイトマン総裁は、欧州中央銀行(ECB)は自らに託された責務を踏み越えてはならないとの考えを示した。また、独連銀はECBの政策決定において、ユーロ圏の他の中銀に比べ大きな影響力を持つと言明した。
 独連銀のウェブサイトに1日掲載されたインタビューで、バイトマン総裁はECBの独立性について、「自らの責務を尊重し、その範囲を踏み越えないことを前提としている」と語っている。「独連銀はユーロシステム(ECBを構成する域内各国中銀)の中で最大かつ最重要の中銀であり、同システム内で他の多くの中銀より強い発言権を持つ」とも述べた。同インタビューは6月29日に行われたという。
 総裁はまた、「われわれは独連銀が持つあらゆるリソースを全てのレベルで駆使し、自らが信じる姿勢を貫く。通貨同盟が安定同盟であり続けることを確実にしていく」と表明した。』

 筆者は上記のバイトマン独連邦銀行(ブンデスバンク)総裁の発言を読み、思わず目を疑ってしまったわけだ。
 ユーロ圏内では、加盟国がそれぞれ一票を持ち、平等に扱われるという建前だ。政府のみならず、中央銀行にしてもユーロ加盟国間の上下関係はない「はず」なのである。

 ところが、ブンデスバンクのバイトマン総裁は、堂々と、
「独連銀はユーロシステム(ECBを構成する域内各国中銀)の中で最大かつ最重要の中銀であり、同システム内で他の多くの中銀より強い発言権を持つ」
 と述べている。
 これでは共通通貨ユーロのコンセプトが根底から揺らいでしまう。

 実は、バイトマン総裁の言葉は表向きはともかく、実質的には正しい。何しろ、欧州中央銀行(ECB)はブンデスバンクを母体に創られた。ECBの本店は、ドイツのフランクフルトに置かれている。
 さらに、ユーロ発足以降、ECBが「ドイツのために」動くケースが目立っている。例えば、そもそもの今回の危機の発端となった、各国の不動産バブルだ。

【図166-1 アイルランド(左軸)、スペイン(右軸)の住宅価格指数の推移】
20120805.png

出典:tsb/ESRI House Price Index(アイルランド)、スペイン国家統計局

図166-1の通り、アイルランドはスペインに先駆け、2007年に住宅価格指数がピークをつけた。アイルランドにおよそ一年遅れ、スペインの住宅価格もピークアウトする。
 結果的に、両国の不動産プロジェクトは次々と不良債権化し、銀行問題が勃発する。
 また、同じ時期にギリシャ政府の粉飾決算問題が明らかになり、ユーロ全域のソブリン危機が始まった。

 ユーロ圏の不動産バブルであるが、まさにECBがドイツのために動いた結果、発生したのである。
 2001年にITバブルが崩壊し、製造業大国であるドイツは一気に不況に陥った。
 現在から見れば信じられないだろうが、ドイツの失業率は2005年には10%を超え、ユーロ加盟国で雇用環境が最も悪かったのである。
 何しろ、慢性的に失業率が高いスペインをも上回っていたわけだから、半端ではない。

 ドイツの困窮を救うため、欧州中央銀行は2001年5月以降、元々は4.75%だったユーロ圏の政策金利を断続的に引き下げていった。
 欧州中央銀行が利下げをすると、ユーロ全域で低金利政策がとられることになる。
 ユーロ圏の政策金利は、2003年6月には2%にまで引き下げられた。
 おかげで不況に苦しんでいたドイツは助かったのだが、当時、他のユーロ加盟国は、別に景気が悪化していたわけではなかったのである。

 不況でも何でもないにも関わらず、政策金利が引き下げられた結果、ドイツ以外の諸国で不動産バブルが拡大していった。
 現在のスペインやアイルランドを苦しめているバブル崩壊の発端となったのは、ドイツを救うためのECBによる利下げだったのだ。

 ユーロ圏がバブル景気に沸く中、ドイツは為替レートが変わらない環境下において「ユーロ加盟国への輸出」を増やすことで復活を遂げた。
 また、ユーロ・バブルが崩壊した以降は、ドイツは今度は「ユーロ安」を利用し、ユーロ圏外への輸出拡大で成長している。
 結局のところ、ユーロは高騰しようが低迷しようが、ドイツを利する仕組みになっているのだ。 理由は、ドイツの生産性が他のユーロ加盟国に比べ段違いに高いためである。

 産業革命後のイギリスは、インドなどに「自由貿易」を強制し、圧倒的な生産性の綿製品の輸出を拡大していった。結果、インドの綿産業は壊滅状態に陥ってしまった。
 インド側は「自由貿易」というお題目で関税自主権などを喪失しており、極端に生産性が高いイギリス製品に太刀打ちすることができなかったのである。

 現在のドイツは、ユーロ圏内で製造業について圧倒的な生産性を誇る。
 しかも、市場となる他のユーロ加盟国との間には為替レートの変動がなく、もちろん関税もない。

 産業革命後のイギリスと、現在のユーロ圏におけるドイツ。
 両者が似ていると感じるのは、何も筆者だけではあるまい。
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