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ユーロのボールはドイツに渡った

 ギリシャの危機は二度の選挙によって、ギリシャ国民が超緊縮財政削減に反対であること、そして離脱よりもユーロとの「交渉」に比重をかけてきたことを示している。

 一方でスペイン、ポルトガル、アイルランドなどがギリシャから多くを学び、ユーロの体制的な欠陥が大衆的に明らかになってきた。
 産業のドイツこそがユーロ通貨によって最も繁栄してきたことも、広く知られることとなってきた。
 債務諸国は支援条件の超緊縮財政削減について、建前はどうであれ、守ったら底なしの窮乏と恐慌財政崩壊に落ち込むので、事実上守れない。

 制度的には、ユーロの分裂か、主権国家の解体統合かということになるのだが、ここで動静のポイントはギリシャの国民動向からユーロの盟主ドイツの国家意思へと移った。
 ボールはドイツに渡ったのである。
 当面はユーロ共同債をドイツが承認し、国内賃金を上げて圏域内の均衡をとれるかにかかっている。
 
 逆に、ユーロの分裂や解体はその宗主国ドイツにこそ、最悪の破壊をもたらすことは疑いない。 
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ギリシャ国民が示した絶妙のバランス
決断のボールはドイツの手に渡った
  6/21  山田厚史  ダイヤモンド・オンライン

 ギリシャのやり直し総選挙で、与党・新民主主義党(ND)が僅差で急進左派連合を抑えた。「緊縮財政派」が過半数の議席を確保する見通しとなり、「ユーロ離脱」はひとまず遠のいた。

 ほっとしているのは急進左派連合のチプラス党首も例外ではないだろう。「緊縮財政反対」を声高に叫ぶことは野党だからできる。

  ギリシャ国民は再選挙で絶妙のバランスをとった

 危機は一服したが、ギリシャは果たしてユーロに、留まり続けることができるのだろうか。選挙結果は、その選択がギリシャからドイツへ委ねられたことを示している

 急進左派連合が政権をとっていたらどうなっただろう。緊縮財政に反対しても、各国の支援がなければ国家の破綻は回避できない。
 留まるにせよ、離脱するにせよ、EU委員会や他国との交渉が必要になる。折り合いをつける「妥協」も避けられない。
 ギリシャの銀行から預金が流出する現状を考えれば、預金封鎖など国民に隠れた極秘作戦が必要になる局面も生じかねない。急進左派連合にそんな芸当はできないだろう。

 急進左派連合はどう財政危機を回避するか、いかにギリシャ経済を立て直し失業者を減らすのか、という根本問題への方策を総選挙でも示していない。毛沢東主義から環境保護まで幅広い「反政府勢力」の寄り合い所帯で、統一した政策綱領は不明だ。数年前まで野党でも少数勢力だった。蔓延する失業や世襲がはびこる政界へのうっ憤をバネに、躍進した政党だ。

 チプラス党首は37歳、オートバイで議会に乗り付けるイケメン議員で、民衆の中に入り、歯切れのいい発言で政治不信を取り込んだ。だが現実への対応は、歯切れよく進めないのがギリシャの現状だ。緊縮財政を蹴って、ユーロから離脱すれば、ギリシャは大混乱になる。ユーロがヤミで流通する破綻国家になりかねない。

「反対」を高らかに叫ぶアジテーターの持ち味は「野党」だからこそ魅力的なのだ。

 ギリシャ国民は再選挙で絶妙のバランスをとった。「現実的な対応ができる政党」を勝たせ、「EU主導の再建策への怒り」は、急進左派連合を僅差まで躍進させて表現した。「しっかり交渉してくれ、だらしなければ左派に乗り換えるぞ」という意思表示である。

  南欧諸国から雇用を奪ってドイツの繁栄が築かれた

 ギリシャから「ユーロ離脱」を切り出すことはなくなった。離脱があるとすれば「出て行け」と言われるかどうかだが、ユーロには「除名」の規定がない。ルールを守れ、と迫ることはできるが、「従わなければ出て行け」という仕組みになっていない。

 4月に来日したドイツの与党会派副議長のミヒャエル・フックス氏は日本記者クラブで「未熟な経済体制のギリシャを、ユーロに加えるべきではなかった」と語った。

「ギリシャは財政支出の40%をカットしなければならない。国民が生活を40%切り詰めることが必要で、それができなければユーロから自発的に出てゆくのが望ましい」と、ドイツで高まるギリシャ批判の一端を披瀝した。

 そもそも、どうしてこんな事態になったのか。フックス氏は「ギリシャの競争力欠如」を挙げた。産業の国際競争力が弱いから、輸入に見合う輸出ができない。購買力の不足を政府が外国から借金して埋めた。国民は税金を払いたがらない。それが財政破綻の構図で、国民が身の丈以上の消費をした結果であり、だから「国民生活を切り詰めろ」と言うのである。

 ギリシャ国民がことさら贅沢したわけではない。むしろ欧州では質素な暮らしである。観光地や農地はあっても、付加価値を稼ぐ産業に乏しい。ヨーロッパ文明の発祥の地であっても、現在はヨーロッパの田舎である。国際競争力を期待するのは難しい土地柄、というのが現状だ。

 ドイツは欧州の後進国だったが、時代の変転の中で今や経済の中心地となり、競争力ある産業がひしめいている。共通通貨の導入は固定相場制にしたと同じことで、加盟国は容赦ない競争にさらされる。
 為替の変動で国際競争力を調整するという通貨の機能を失わせたのだから、産業力の強いドイツに利益が集中するのは当たり前だ。

 この仕組みは、ギリシャのような田舎に失業を発生させる。スペインもポルトガルもイタリアも、若者の失業が危険水域を超えた。ではドイツはどうか。フックス氏は講演でこう語っている。

「失業率はドラマチックに下がった。特に若年失業者というのはないに等しい。他国の状況に比べるとドイツはいい状況にあると思います」。

 そして若者の失業率を「スペイン42%、イタリア27%」などと挙げた。ギリシャでは、若者の失業率は50%を超えている。

 共通通貨という仕組みが地域間格差を大きくしたのである。ギリシャやスペインから雇用を奪ってドイツの繁栄が築かれた、それがユーロ体制なのだ。

  甘い前例を作らないというドイツなど北部国家の構え

 共通通貨で結ばれたユーロランドが掲げる理想は、「手を携えて繁栄の未来に向かう欧州共同体」ではなかったのか。

 かつて日本列島は藩の集合体だった。藩ごとに財政が営まれ、藩札も流通した。明治維新で廃藩置県となり、税制も通貨も一つになった。県の経済力は違っても、中央政府が財政で調整し、均等ある発展を目指す。それが統一国家のなりわいである。

 主権を残し共通通貨を導入する、という無理を承知で始まったユーロ体制は、発足10年、岐路に立ったのである。欧州統合というロマンに向かって進むか、足手まといの国を切り捨て、やる気のある国家だけで突き進むか。ギリシャはその試金石である。

 通貨同盟から強制的に離脱させることは、国際金融市場に大きな混乱をまき散らす。 ユーロに「除名」の規定がないように、時代の流れは「統合」なのだ。「排除」に費やすエネルギーがあるなら、「包摂」に向けるのが建設的というのが欧州の知恵だ。

 EU経済の5%程度でしかないギリシャを抱え込むことは、それほどの重い負担ではない。だがここで甘い顔をすれば、スペイン、ポルトガル、イタリアといった南欧の救済予備軍に甘い前例を作ってしまう。財政赤字をGDPの一定限度内に閉じこめる財政規律を守らせる一線は譲れない、というのがドイツなど北部国家の構えである。

「欧州の田舎」が強国からの支援を前提になりわいを続けようと考えれば、強国の負担が大きくなり、国民の不満が溜まり、やがてユーロは分裂する、という懸念は北部国家に共通する。そうなったらドイツが核になりベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、デンマーク、スウェーデンなどの北部連合が生まれるだろう。

  ドイツに問われるユーロ体制を背負う覚悟

 私は、今のユーロ圏を束ねるなら、ドイツが応分の負担を決断するしかない、と考えている。なぜならユーロ体制はドイツの繁栄の支えであり、この体制をつぶして損をするのはドイツだから。

 ベルリンの壁が崩れ、ドイツは再統合を実現した。ヤミ市場で1対5ぐらいだった西独のマルクと東独のマルクを、1対1の価値で西のマルクに統合し、東独に巨額の復興資金を投入して悲願の統一を実現した。そのあと起きたのが、大変な経済苦境だった。
 ドイツ全体の効率は落ち、東独で失業が広がった。「予想を超えた大混乱」といわれたが、当事者にとって「予想通りの大混乱」だった。一時の苦しさより歴史的偉業を選んだのである。

 メルケル首相は東ドイツで育ち、その苦しみと喜びを知っている。ドイツが欧州で確固たる地位を目指すなら身を削って、ユーロ体制を背負う覚悟が問われる。ギリシャを牽制するため、厳しく財政規律を求め、国内に渦巻くギリシャ批判を放置してきたが、局面は変わった。

 緊縮反対一辺倒だったギリシャが、再選挙で現実路線を考え始めたように、ドイツも「放漫行政のギリシャ」をあげつらうだけでなく、大局的な観点から国民が現実策に納得する方向を、そろそろ打ち出すことが必要だろう。

 ギリシャにムチだけの政策を求めては、敢えて緊縮財政受け入れようという新政権を短命に終わらせる。

 ボールはドイツの手に渡った
 国民に速やかに納得を求めることは難しいが、ドイツはこの10年の蓄えをユーロランドのコストとして払うしかないだろう。
 ドイツは北部連合を束ね、どこかの時点で政策転換に踏み切ると、私は見ている。
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