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もうすぐ北風が強くなる

The (Political) Science of Salt(全訳)

 「食塩の政治学」の根拠になっている、Science誌の論文「The (Political) Science of Salt」を「異端医師の独り言」リー湘南クリニック院長が全訳されているので紹介します。
 放射能安全神話やら温暖化詐欺やら、どんな世界でも利害から「政治的に」まかり通る嘘は多すぎてかなわないほどですが、医療の世界でも山のように嘘がまかり通っている。

 その一つが高血圧と減塩の嘘。
 長文ですが、論争経過がなかなか面白く読めます。
 興味のある方は、ご覧ください。
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  The (Political) Science of Salt 食塩の(政治的な)科学 全訳 「異端医師の独り言」から

減塩の効用に関する30年に及ぶ論争は、良質の科学は公衆衛生政策の圧力の前に頓挫することを示す。
GARY TAUBES Science 281:898-907, 1998

“Science…warns me to be careful how I adopt a view which jumps with my preconceptions, and to require stronger evidence for such belief than for one to which I was previously hostile. My business is to teach my aspirations to conform themselves to fact, not to try and make facts harmonize with my aspirations.”
 「科学は…私に、先入観に合う考え方に適応する際は慎重たれ、そして予想に反する考え方に適応するときよりも説得力のある証拠を要求せよと警告する。私の仕事は、情熱を真実に従わせることを教えることで、情熱に調和する事実を作るのことではない。」  -Thomas Huxley, 1860


 行政官からトレーナー、世話好きの親戚、そしてレジに居合わせた人まで、あらゆる人々が食事の助言をする時代、「食塩を控えれば血圧が下がり、健康で長生きする」というメッセージは 30年間にわたり絶対真理であった。
 このメッセージは、国立心肺研究所(NHLBI)と国立高血圧教育プログラム(NHBPEP:36の医療機関と 6つの連邦機関から成る)により提唱された。
 食塩を控えれば、何百万人の高血圧患者ばかりでなく、すべての人の心臓病と脳卒中のリスクが低下する。推奨される食塩量は、一日 6g、現在の平均摂取量より 4g少ない。
 NHBPEP所長の Ed Roccellaは「この中程度の減塩で動脈圧が下がり、卒中を予防する。実行したいことは、人命を救うことだ。」と言う。

 では何が問題か?
 一つは、食塩は脂肪と並び味を決定する要素で、消費される食塩の 80%はすでに食品に含まれている。そのため減塩は必ずしも容易でない。
 さらに、思いもかけぬ問題がある。それは食塩は健康を損ねるとされているが、それを証明する十分な科学的証拠が存在しないことである、
 減塩にいくらかでも効用があるとしても、効用に関する論争は医学論争の中で最も長期にわたる、最も辛辣で、そして超現実主義的なものである。

 食塩を有害と説く学者たちは、先の Roccellaや NHLBI所長 Claude Lenfantらで、食塩が高血圧の原因であるのは反論の余地のない自明の理であると主張する。科学的確証を得るために更なる研究を待てば、その間にも多くの人が死んでいくので、引き続き減塩政策を進める義務があるという。
 一方、減塩は無意味と説く学者は、アメリカ心臓病学会、アメリカ高血圧学会、そしてヨーロッパ国際高血圧学会・元会長を含む疫学に関心のある内科医たちで、減塩プログラムが有用であることを示す、信じるに足るデータは今だかつて一度も示されず、そればかりか、減塩により予期せぬ副作用が生じかねないと言う。
 例えば、次は昨年5月号のアメリカ医学会誌(JAMA)に掲載された総説意見である。コペンハーゲン大学の研究者達は、減塩に関する 114の無作為化試験を分析し、「減塩により高血圧症患者が得られるメリットは、降圧剤に比べはるかに小さく、正常血圧者では極端な減塩を実行しても検知し得るメリットは無い」と結論した。
 JAMA編集者でカリフォルニア大学の生理学者 Drummond Rennieは「NHLBIは、科学的事実を無視した減塩教育を提唱している」と断言する。

 減塩論争の核心は、公衆衛生政策の必要性と良質な科学こそ必要とする哲学的衝突であり、行動を起こす必要性と信頼たる知識の積み重ねこそが必要とする慣行的懐疑主義の衝突である。
 これこそが、現在多くの公衆衛生論争に油を注ぐ:NIH疾病予防室・室長の Bill Harlanは「我々は Yesか No、曖昧でない簡潔な答えを求める大衆の圧力にさらされている」「それも 5年後にではなく、今すぐ答えを求められている。それゆえ、我々は、科学的見地からは正当化されない、必ずしも望んでいない立場に追いやられる。」と解説する

 減塩論争のいくつかの基本的な見地には、際立った特徴がある。最も顕著なのは、減塩論者たちは、論争など存在しないと公然と主張し、それは単に食塩業者のロビー活動で、雇われ科学者の仕業と主張する。
 例えば、20年にわたる減塩論者、ノーススウェスタン医科大学・循環器科 Jeremiah Stamlerは「食塩の有害性に対する反論は、科学的再現性がない」と主張する。
 「反論は食品製造業界の組織的抵抗によるもので、丁度タバコ論争の際、タバコ業界のように事実を隠蔽する。私の豊富な経験に照らし、反対者のどこにも真実を伝える科学的動機を見出せない」と言う。

 Stamlerの見解は極端かもしれないが、この国の研究予算を配分する NHBPEPと NHLBIも同じ見解に立つ。
 NIHの臨床応用部・部長で10年以上減塩を提唱者しているJeff Cutlerは、小誌にこの総説が掲載されると、論争の存在を世に知らしめ、食塩ロビーストを利すると述べた。
 「減塩論争が続いていることがメディアに流れると、彼らが勝つ」と Culterは言う。Roccellaも論争を公にすると公衆衛生政策の妨げになると言う。

 しかしながら、世界中 80名近くの研究者、臨床家、そして行政官のインタビューを終え、科学的データの解釈に関して論争が存在するとして、本総説で決着したと確実に言える。
 Sanford Millerは食塩論争を「公共政策の前で、科学はなぜ脆弱になるかを示した最も顕著な例である」と評す。Millerは現在、テキサス大学・ヘルスサイエンスセンター部長だが、20年前 FDA食品安全センター部長として減塩政策の立案に参画した。データは芳しくなかったが、皆減塩の効用を信じた。
 今や、データも科学も遥かに改善され、もはや減塩の効果を支持する根拠はない。

 減塩論争の 2つ目の特徴は、数十年にわたる研究の末、減塩の効用は減少するのみである。
 このことは、減塩の効用は非常に小さいか存在しないことを示唆し、研究者は他の要因のため減塩の効用を検出できないと考えている。(他の要因とは、遺伝的ばらつき;社会経済状態;肥満;運動の多寡;アルコール、果物と野菜、あるいは酪農製品の摂取;あるいは多くの他の要因。)

 論争そのそのものがまだ影響力をもつ、なぜなら個々の患者に対しては無意味なほどの効果でも、公衆衛生上は意味をなすことがある。
 これが公衆衛生の基本的教義である:小さな効果でも人口全体には重要な結果をもたらすことがある。オックスフォード大学の疫学者、Richard Petoは、減塩により人類の平均血圧を 1mmHg低下させれば、年間何十万人もの死を予防できる:「その数は乳癌を根絶した場合よりも多い。」。
 しかし、それには減塩により血圧が 1mmHg低下することが前提である。英国・国立衛生センター・前所長、John Swalesは「1ないし 2mmHgの降圧は可能と確信しなければならない」と言う。「また、減塩による有害な副作用はないと信ずるべきだ。」

 疫学的研究では、わずかな効用あり、効用なし、そしてわずかに有害を区別できないので、明確な結論を得られないまま数十年が過ぎた。
 その間、非常に多くの相矛盾する論文が報告されたため、都合の良い論文をそろえるのは容易で、Stamlerは「データの全体性(totality of data)」と呼んだ、それはある信念を絶対的に支持しているようにみえるが、それには、その信念を支持しないデータの全体性を無視しなければならない。

 何年もの間、減塩論者たちは「データの全体性」を振りかざしては、その英知にそぐわない発見を拒絶した。
 例えば、1984年オレゴン・ヘルスサイエンス大学の David McCarronらは、国立健康と栄養データベースを分析し、食塩は無害であることを示唆する論文をScience誌に公表したところ、Sanford Miller、NHLBI所長の Claude Lenfant、国立健康統計センター長の Manning Feinleibに論文を非難された。
 彼らの批判の一部は「食塩は高血圧の原因であることを示す示す豊富な疫学的そして実験的データが存在するのに、結論をそれに適合させようと試みなかった」というものだった。
 しかしながら、その頃 Lenfant率いる NHLBIは、食塩が本当に高血圧の原因かを検証するため、インターソルトという、かつてない大規模プロジェクトに研究予算を配分するところだった。
 Stamlerでさえ、当時の食塩と高血圧に関する論文は「一貫性がなく矛盾したもの」で、予算獲得が動機だったと表現した。

 一方的なデータの解釈も減塩論争の特徴であった。例えば、ニュージーランドのオンタゴ医科大学 Olaf Simpsonは、早くも1979年に「食塩と高血圧の因果を示唆するものなら、どんなに小さな証拠でも因果を補強するものとして歓迎し、そうでない場合、それが意味することは別と説明した」と表現した。
 グラスゴー大学の Graham Wattは、それを「ビン・クリスビー的理由付け、言い換えると正のデータを強調し、負のデータは葬る手法」と呼んだ。
 この手法を操れば、矛盾するデータから都合の良いデータを集めることができるが、真実を追究する役には立たない

 この二極化した状況下では、ある特定の研究結果が信頼に足るのか判断不能になり状況は悪化した。その代わり、期待する結果が示されれば、それを信用するようになる。
 例えば 1991年、英国医学会誌(BMJ)に Malcom Lawらによる 14ページにわたる 3部から成る「メタ解析」が掲載された:彼らは、食塩と高血圧の関係は以前に考えられていたより「相対的に大きい」と結論した。同年、Swalesはそのメタ解析を分析し、「重大な欠陥」をヨーロッパ高血圧学会で発表した。
 前・国際そしてヨーロッパ高血圧学会・会長・Uppsala大学の Lennart Hanssonは「発表の後、BMJに掲載された Lawらの論文に価値があると考える聴衆は一人もいなかった」と述べる。Swalesの発表は、その後J. of Hypertensionに掲載された。

 しかしながら、丁度 2年後 NHBPEPは、高血圧予防の礎となる指標を発表し、政府が初めて公式に減塩を推奨した。先の酷評された Lawらのメタ解析が「減塩の効果を示すゆるぎない証拠」として繰り返し引用された。
 この春も研究者から、Lawらの論文に対する意見を散見する:「まるでニューヨーク流の悪いジョーク」「これまで印刷されたメタ解析の中で最悪の例」から「満足行くようになされ、よく分析され解釈された」まで。

  論争の具現化(Crystallizing a debate)

 食塩の有害性については生理学的にもっともらしい説明からはじまる。食塩を多く摂ると血液中の Na濃度を一定に保つため、より多くの水分が保持される。
 ハーバード大学医学部・腎内科・Frank Epsteinは「食塩を多く摂ると腎臓が余分な塩分を排泄するまで、それに見合う水分が保持される。体液が非常に増加するとたいていのヒトで、僅かな血圧の上昇が観察されるが反応は人様々である」と言う。

 生体は恒常性を保つためロシア小説に匹敵するほど複雑な機構を備える。登場人物は、約 50の栄養素、種々の成長因子とホルモンである。例えば、Naは血液量を維持するのに重要である;Kは血管の緊張と弛緩;Caは血管平滑筋の緊張に関与する。摂取カロリーが増えると交感神経が緊張し血管が収縮し、血圧が高くなる。摂取カロリーが減ると血圧は低下する。
 ことを複雑にするのは、年齢、性、人種で異なるこれら変数の相互作用である。多くの研究者は食塩感受性で、なぜ食塩を多く摂ると特定の人で血圧が高くなり、他の人では高くならないかを説明できると信じているが、Harlanはそれにすら論争があるという。
 食塩感受性を診断するには、被験者に食塩を与え続け観察するしかないが、この方法では、食塩感受性が一生のものか一過性のものか判断できない。このような複雑な背景にもかかわらず、多くの研究者は今だ、食塩摂取量の多い集団は少ない集団より高血圧者が多く、減塩により高血圧が改善されるのは生理学的に理にかなっていると信じている。

 1970年代、政府が高血圧を 140/90mmHg以上と定義し減塩を推奨し始めたとき、生理学的にもっともらしい説明は、種々雑多な決定的とはいえない研究や臨床知識でまかなわれた。
 例えば 1940年代、デューク大学の内科医・Wllace Kempnerは、高血圧症患者を低塩、米と桃ダイエットで治療し、血圧が低下することを示した。その後、何年もの間 Kempnerの食事療法は重症高血圧症に対して唯一内科療法だったので、当時の医師たちは減塩の効用を脳裏に刻み込んだ。
 ブッルクヘブン国立研究所の内科医、1975年に没するまで史上最強の減塩論者と呼ばれた Lewis Dahlは、1972年の萌芽的論文で、高血圧症に対して減塩の有効性は証明されたと断じ、減塩食で血圧が下がらないのは、患者が何と言おうが減塩を守らなかった証左に他ならない記した。
 しかしながら、降圧効果が減塩に帰するか依然論争がある。Kempnerの食事療法は、極端に低カロリー・低脂肪でカリウムに富む、現在では、これらの要素そのものが血圧を低下させることが知られている。

 Dahlは食塩感受性ラットを継代し、食塩-高血圧の関係を更に強固にした。その研究は、ヒト高血圧症における食塩の役割を示す揺るぎない証拠として現在でも引用される。
 しかし、1979年に Simpsonが指摘したように、Dahlのモデルはヒトに換算して一日に食塩 500g以上も与え続けないと高血圧を発症しない、Simpsonは「関連うんぬんの範疇外である」と注釈を加えた。最近、1995年の高食塩食を与えたチンパンジーの研究が引用される。しかしながら、Harlanは現存のどの動物モデルもヒト高血圧症と関連がないと言及する。

 初期の論争では、食塩の有害性を示す殆どの証拠は「生態調査」として知られる疫学調査によりもたらされた。
 それは先住民族、例えばブラジルのヤモマモ族の食塩摂取量と血圧を調査し、工業圏のそれと比べる。先住民の食塩摂取量は 1g以下で、高血圧や心臓病は殆どない。
 一方、工業圏、例えば北部日本の住民は一日に 20~30g、世界で最も多量の食塩を摂り、脳卒中の発症率は世界一である。このような発見は移住調査で補強された、すなわち、工業国に移住した先住民族を追跡すると、食塩摂取量が多くなり高血圧症が増えた。

 これらの発見から直感的ダーウィ型進化論が提唱された:人類は食塩が少ない環境下で進化してきたので食塩を保持できる固体が生き延び、この形質は食塩が豊富な現在まで受け継がれた。
 この論法に立つと、最適な食塩摂取量は数g、原始社会のそれで、工業圏の住民は食塩を過剰に摂取するため心臓病と卒中が多いことになる。

 このデータと仮説の積み重ねの落穴は、データ全体の半分しか含めていないことである。他の半分、特に集団内調査(intrapopulation studies)と呼ばれる調査は食塩-高血圧説を支持しない。
 集団内調査では、ある集団、例えばシカゴに住む男性の食塩摂取量と血圧を比較した、そして食塩摂取量と血圧は全く相関がなかった。1980年、国立統計センターが 20,000人を対象とした集団内調査でも関連を認めなかった。

 しかしながら、いずれの調査法をもっても決定的な答えを得られなかった。生態調査は、科学的な研究法とは言えず、現在はあまり用いられない。
 この調査法の致命的欠点は、結果に影響を与える変数の数が集団により異なるのに、結果を一つの変数で説明することである。例えば、食塩摂取量の少ない集団は、摂取カロリーも少なく;果物、野菜、そして乳製品の摂取量が多く;より痩せていて、活動的で;アルコール摂取量は少なく;そして工業化されていない。
 これら一つ、あるいは幾つかの組み合わせが血圧を低下させる。先住民族は感染症や外傷で若くして死ぬ傾向があるが、工業圏の住民は心臓病にかかるほど長生きすると Epsteinは言及する。

 生態調査でも集団内調査でも、日々大きく変動する血圧の平均値、そして生涯の食塩摂取量を正確に評価するのは非常に難かしい。初期の殆どの生態調査では、食塩摂取量を実測せず推定していた。
 例えば、現在でも食塩と高血圧関連を示す萌芽的研究と評されるミシガン大学 Lillian Gleibermannの 1973年の論文で、彼女が結論を導くため基本とした 27の生態調査のうち、11だけが食塩摂取量を実測しようと試みた。摂取した食塩は速やかに尿中に排泄されるので、24時間蓄尿が最も優れていると考えられる。
 しかし、それは 1ヶ月、年間、あるいは生涯の食塩摂取量を表すものではない。オランダ国立公衆衛生環境局の Daan Kromhoutは「個人の食塩摂取特性を知るには、少なくとも 5~10回の蓄尿が必要である」と言う。「疫学調査の現場では、非常に難しい」。

 食塩と高血圧仮説を信じる研究者達は、集団内調査で食塩と高血圧の関連が検出されないのは、きわめて単純に測定法の誤差に起因すると考える。さらに、測定誤差を統計学的に補うべく、大規模研究は膨大な予算を必要とするため、実現不可能だと言う。

 1980年代初頭、ロンドン熱帯医学衛生大学 Geoffrey Roseは、公衆衛生に重要な減塩の効用がなぜ集団内調査で検出されないのか、他の理由を示唆した。Roseは、もし工業圏の住人が生態調査で示されたように、すでに食塩を過剰に摂取しているなら、食塩と高血圧の因果関係がどんなに強くても、疫学的にはそれを証明できないとした。
 想像してみよう、もしすべての住民が毎日一箱のタバコを吸うなら;集団内調査は「肺癌は遺伝的疾患と結論されるだろう…なぜなら、すべての人がすでに原因物質に暴露しているので、疾患の分布は個々の感受性により決定されるからである。それゆえ問題を解く鍵は、集団間の違い、あるいは集団内の長期にわたる変化に求められると論じた。
 同じ論法で、食塩摂取量を少し減らしても個人レベルでほとんど変化が生じないのは、喫煙を 20本から 19本に減らしても変わらないのと同様である、しかし集団全体の死亡率には大きな影響を与えると主張した。

 Roseの主張は直感的な意味があったが、減塩により血圧が下がるという未証明の推測の上に立てられ、その推測はそれを否定する発見に異常に抵抗し始めた。
 例えば、1979年 Stamlerらはシカゴの学童を対象に集団内調査を行った。72人を対象に血圧測定と食塩摂取量を推定するには信頼たる 7日間連続蓄尿を行った。彼らは食塩摂取量と血圧に「クリアカットな」関係を認めたと報告した、しかし再現性を確かめるべく二回の追試では再現されなかった

 Stamlerらは「この現象の解釈に多くの説明を提示しえる」と記した、それらの一つは明らかに:「食塩と血圧に存在しない…」。そして、彼らは関係を見出せなかった理由を 5つ挙げた-例えば、鋭敏でない測定法あるいは遺伝的多様性が食塩の役割を曖昧にした、あるいは「子供では真の関係がまだ明白でない」。
 3回のうち最初の研究では相関を認めたので「完全にネガティブではない」そして「弱く、そして一貫性のない関係を示唆する」と結論した。

 この論法は Simpsonの言う「食塩-高血圧仮説は弾力的で不滅である。都合の悪いデータは、いつもうまく言いぬけられる」証拠である。

 「もう一つ指摘すべきは、曖昧な仮説はそれが誤っていると証明できない…、また証明過程が科学的でないなら、少しの技量で、どんな研究結果も期待される結果に仕立てられる」  -Richrd Feynman, 1964

 1980年代前半、減塩の効用が注目を集めたので、その効用に科学的疑問があることは伏せられた。NHBPEPが 1972年に食塩は必要ない悪と宣言して以来、国立科学アカデミーと軍医総監は言うに及ばず、支持医療機関はこの結論を支持した。
 1987年には、消費団体”公益と科学センター”は食塩を「死を招く白い粉」と表現し、食塩含有量の多い食品には含有量を表示するようロビー活動を行った。1981年には、FDAは全国的減塩推進のため、一連の「食塩の手引き」を発表した。

 これらのキャンペーンが順調に展開されてから、根本的な論争に終止符を打つべく大規模な研究が準備された。最初の研究は、スコットランド・ナインウェル病院、Hugh Tunstall-Pedoeらによる、1984年に始まったスコットランド心臓病研究(Scottish Heart Health Study)である。スコットランド人 7,300人を対象に、問診表、理学検査、そして 24時間蓄尿を施行した。
 この研究は、これまでの 24時間蓄尿を用いた集団内調査で最大規模で、症例数が一桁多かった。1988年、BMJに結果が報告された:果物と野菜に含まれる K が血圧に好影響を与えたようで、Naは影響を及ぼさなかった。

 スコットランド・グループの研究結果は、論争の舞台から姿を消した。減塩論者たちは、この研究は大規模だが集団内調査に内在する測定誤差の問題を凌駕するほど症例数が多くないので、ネガティブな結果は驚くにあたらないと論じた。NHBPEPの世界規模での減塩を提唱した 1993年の歴史的報告書は、減塩を支持する 327編の論文を引用した。  スコットランドの研究は含まれなかった。(Tunstall-Pedoeらは、その後 10年間追跡調査を行い、1998年に結果を報告した:食塩摂取量と心臓病あるいは死亡との間に何の相関も見られなかった。)

 2つ目の大規模研究は、Roseと Stamler率いるインターソルト(Intersalt)である。無情にも無視されたスコットランド心臓病研究と異なり、インターソルトは食塩論争の中で最も影響力のある、そして論議をかもす報告となった。
 世界中で最も食塩を多く摂る集団から極端に摂取量の少ない集団まで、52集団について血圧と食塩摂取量(24時間蓄尿による)を比較した。各集団から 200人(男女半々、20から 60歳まで各世代 50人)が無作為に選ばれた。要するに、52の小さな集団内調査だが、組み合わせると巨大な生態調査となる。

 150人近い研究者による数年にわたる研究結果は、1988年、スコットランド心臓病研究と同じ号のBMJに掲載された。食塩摂取量と血圧との間には、直線的な相関があるとした基本的な仮説は証明されなかった。
 52集団のうち4集団は血圧が低く、一日食塩摂取量が 3.5g以下、ヤモマモ族のような原始社会集団である。これら 4集団と工業圏に住む血圧が高い 48集団とは、あらゆる点で異なる。48集団についてみると、食塩摂取量と血圧に相関はみられなかった。
 例えば、食塩摂取量が最も多かった中国の天津で、一日摂取量 14g、血圧中央値119/70(mmHg)、最も摂取量の少なかったシカゴのアフリカ系アメリカ人で、一日摂取量 6g、血圧中央値119/76であった。この種の比較では、体脂肪そしてアルコール摂取量と血圧との間に相関がみられた。

 インターソルトの研究者達は、食塩と血圧の間に2つの正の関係を導いた。一つは、52集団を 10,000余名のからなる一つの集団とみなしたところ、弱い相関が見られた。それは、食塩一日摂取量を 10gから 4gに減らすと、血圧が 2.2/0.1mmHg低下することを意味した。
 もう少し明らかな相関は、食塩摂取量と加齢に伴う血圧の上昇に見られた:食塩摂取量の少ない集団の方が、多い集団より加齢に伴う血圧の上昇が小さかった。もしこれに因果関係があるなら、食塩摂取量を 6g減らすと、25才と55才の平均血圧差が 9/4.5mmHg縮まると推計した。

 このように矛盾した解釈を自在に作り出す能力において、インターソルトはロールシャッハ・テストのようであった。John Swalesは、次号のBJM編集者欄に減塩の効用がもし実在しても、とても小さく他の栄養素のために検出できないだろうと記した。
 、Science誌のインタヴューに答えた殆どの研究者、インターソルトのメンバー、Dann Kromhoutや Lennart Hansonを含め、インターソルトはネガティブ・スタディーとみる。Hassonは「大量の食塩を摂っても血圧は上昇しない」と言う。

 しかし、Stamlerと他のインターソルトの指導者たちは猛烈に反論する。Stamlerは食塩-高血圧因果を示す「豊富で貴重な的確な証拠である」と表現した。そして、これらを根拠に万人に「一日食塩摂取量6g」を推奨した。この観点からすると、ポジティブなデータは、食塩摂取量と加齢に伴う血圧の上昇である。
 インターソルトのメンバーでベルギー・カソリック大学の Hugo Kestelootは、その発見を「最も興味深い発見で確証的である」と表現した。無論、NHLBIと NHBPEPはこの結果を支持した。
 1993年、NHBPEPは高血圧一次予防報告の中でインターソルトを引用し、Dahlが 1972年に報告した食塩摂取と血圧の「非常に強い関係」が確認されたと記した。NHLBIの Cutlerは、今もこの結果を「圧倒的にポジティブ」と表現する。

 しかしながら、批判者たちは、Stamlerらが言うところの食塩摂取量と加齢伴う血圧上昇の関係は、証明すべき仮説とその研究方法を記したインターソルトの研究計画書に、含まれていないことに気付いた。
 そのため「データ・ドレッジング」という破廉恥な事後分析が行われた疑いがもたれた。その様な状況下、研究者達は必要とする科学的手法で仮説を検証するのではなく、すでに蓄積されたデータに合う仮説を探すようになる。このことは、新しい仮説正しくないことを意味するわけではないが、正しく検証されなかったことを意味する

 NIHの Bill Harlanは、インターソルトは食塩と加齢に伴う血圧上昇を検証しようとデザインされたのではないので、後になって報告された関係は推測の域を出ない:「もしそれを特別な仮説として証明したいなら、異なる研究法をとらなくてはならない」、例えば、より幅広い年齢層と各年齢層のより多くのサンプルを含めるとか、と説明する。
 UCバークレー校の Freedmanはさらに手厳しく、食塩と加齢に伴う血圧上昇という結論は「第一次分析でよい結果を得られなかったので、何かを掘り出した」ようなものだと言う。

 インターソルトのメンバーは、研究計画に食塩摂取量と加齢伴う血圧上昇は含まれていないことは認めたが、計画の一部だったと主張する。ロンドン王立医科大学、インターソルトの Paul Elliotは「うっかり、省略したため」と言う。ノースウェスタン大学、共同研究者の Alan Dyerは「研究計画に書き漏らした物の一つに過ぎない」と言う。Stamlerは議事録と初期の出版物に記されていた、そして「後ろ向きデータ浚渫」という批判は「事実誤認」で訂正すべきだ主張する。
 食塩について最後の言葉を実現するのとは程遠く、インターソルトは曖昧なデータと矛盾するデータの解釈に没頭して行った。そして、それは第一ラウンドに過ぎなかった。

  インターソルト再度試みる

 1993年、NHBPEPが世界規模の減塩政策を支持する根拠としてインターソルトを引用してから、食塩生産者協会(ワシントンD.C.)はインターソルトの生データを入手しようと一連の努力を始めた。協会の重役Richard Hannemanは、報告された食塩と加齢に伴う血圧上昇の関係を確認したかったと言う。
 協会が年俸3,000ドルで契約した数人の研究者たち(MaCarron、アラバマ大学のSuzanne Oparil、トロント大学のAlexander Logan、そしてUCデービス校のJudy Stern)は、データの矛盾に困惑した。
 彼らは、もし、食塩摂取量がより多いと、集団が歳をとるにつれ血圧がより高くなると推論し、食塩摂取量の多い集団の中心点は、血圧中央値がより高くなくてはならないが、そうではなかった。
 若い集団では食塩摂取量が多く、血圧が低いと仮定したときのみ、インターソルトの報告と近似した。これは、反直感的だが、インターソルトは20から29才の血圧を公表していないので、別個に検証される仮説となる。

 Hannemanはインターソルトの生データを入手できなかったが、十分な二次的データを手に入れ、BMJのインターソルト特集の論点、1996年5月号に発表した。Hannemanは、インターソルトが中心化する食塩摂取量の多い最も若いコホートでは、拡張期血圧が低いことが確認されたと結論した。
 付随する、減塩論者により書かれた編集者コメントは、痛烈に分析を批判した。例えば、Malcolm Lawは「Hannemanのアイデアを奇怪な仮説」と切り捨て、そして「食品業界に不利になることが明らかになるとき、市場を守るための時間稼ぎ」の例であると片付けた。
 しかし、これら論評者の誰一人も、インターソルトの明らかな矛盾には言及しなかった。論文を読んだほかの研究者、例えばインターソルト共同研究者、ベルリン・フンベルト大学のFriedrich LuftやFreedmanは、Hannemanの分析の欠陥に気付いたが、インターソルトの結果も不可解であるとした。

 しかしながら、同月号に掲載されたもう一つ論文により論争に火がつけられた:インターソルト自身によるデータの再分析。インターソルト改訂というタイトルでStamlerらはオリジナル論文の問題は:真の食塩と血圧の関係を過小評価しているのに違いないと記した。

 この再分析は、疫学上最も論争のある分野の一つ、回帰希釈バイアスに足を踏み入れた。その概念は、食塩と血圧のような二つの変数の関係が真なら、変数を測定するさいの誤差は因果関係を「希釈」するように作用する。この場合、24時間蓄尿も血圧測定も長期間の平均値からずれているらしいので、食塩が血圧に及ぼす影響を過小評価しているという考えである。
 Elliotは「もし食塩と血圧の因果関係が真なら、ゼロ方向にバイアスが働くので、実際の因果関係は観察されたものより大きいという事実を認めなければならない」と言う。そこで、データを上方修正するため統計学的手法が用いられた。
 無論、落とし穴は、因果関係が存在しなくても、因果関係を大きくすることである。

 Stamlerらは、1988年のオリジナルの推計値を回帰希釈バイアスにより修正した。1988年には曖昧だった減塩の効用が、1996年には「強く、ポジティブ」に、明らかな効用が謳われた。
 一日6gm減塩することにより血圧が4.3/1.8mmHg下がり、当初の推定より3倍効果があると結論した。「今や、状況は明白になった。すべてインターソルトの分析は、食塩は高血圧の重要な決定因子であることを確認する。」とLawは記した。

 しかし、状況は明白でない。BMJ編集委員は当初、2人の疫学者(ブリストル大学のGeorge Davyと王立フリー医科大学の SmithAndrew Phillips)によるインターソルト再分析に対する論評を併せて掲載する予定だった。
 しかしながら、論評が非常に辛辣だったため、それを著者らに提示した。編集者Richard Smithによると、Stamlerらは論評に非常に強く反対したため、BMJは論評を6週間遅らせ、別号に掲載することにした。

 Davy Smithによると、その論評はインターソルト再分析の「初歩的な数学的誤り」から、データの裏付けのない仮定を基にした推計学的修正という基本的な誤りまで、累々と欠陥を明らかにした。例えば、回帰希釈バイアス修正のため、Stamlerらは食塩摂取量と血圧の変化は数週以上にわたり、お互いに独立していると仮定した。
 しかし、もし食塩と血圧が伴に変動するなら、修正は「不適切に因果関係を大きくする」ことに気づいた。食塩摂取量と血圧は短期間内では相関しているという結論に言及し「検証されるべき、食塩摂取量と血圧が相関しているという極端な仮説が、すでに相関の存在を予見する」と指摘した。

 同じ号に掲載された反論で、Stamlerらは「証拠の全体性、この問題を判定する基礎と考えられる、は因果関係は存在するという結論を支持するので」データの修正は正当であると主張した。彼らは、食塩の過剰摂取は高血圧の原因であると結論した国内外の「独立した専門家グループ」を列挙したが、これらグループの結論は、すべて1988年のインターソルトの報告に基づいていることには触れなかった。
 インターソルトはまた、元の論文では、なぜ減塩の効用が「恐らく過小評価されたのか」7つの理由を挙げたが、なぜ過大評価されたかを検討するつもりはないようであった。ハーバード公衆衛生大学のJain Robinは、インターソルトの反論を「読むのがためらわれる」「不可解で、奇怪で、特殊な弁解」と語った。

 翌8月号のBMJには、そのコメントと反論に対する多くの投書が掲載された。Davy SmithとPhillipsは、英国医学研究会議のNick Dayをはじめ6人の研究者たちから支持された。Dayは「元の結果に大きな修正を加えれば、すぐに疑いを招く」「人々は懐疑的になり始めた」と言う。
 Dayは、インターソルト再分析の問題を一つの「GIGO(garbage in, garbage out):信頼できないデータからの結果は信頼できないという原則)」と表現し、Stamlerらはデータが内在する曖昧性を統計学的に修正できると考えたが、その意味合いは食塩論争と程遠いと確信した。
 彼は「それはうまく行かない」と言う。「研究結果には常に不確実性が伴い、研究結果と粗な観察結果と大きく異なるなら、すべてを疑わなくてはならない。もし、基礎に不確実性があるなら、それこそ“garbage in”で、いくら磨いても輝く金にはならない。」

 Stamlerをはじめインターソルト再分析の共同著者らは、この評価を拒絶したが、全員ではなかった。例えば、ロンドン医科大学のMichael Marmotは、振り返ってみると再分析は褒められるものではなかったと述べた。「外部から再分析を見れば、修正した理由はたった一つ、因果関係を大きくするためとみなされる。彼らは、論文を読んだだけで、そのような観点をもつほど熱心ではなかった。

  試練と苦難

 食塩論争の壮大な計画の中で、インターソルトのような研究は再分析されようがされまいが、不適切とみなされるべきだった。
 最終的に双方の研究者たちは、インターソルトはよくてもせいぜい食塩と高血圧の非常に弱い相関を示唆した観察的研究であったこと、そして因果関係を証明するには、ゴールドスタンダード、無作為化対照試験が必要なことに同意した。必要なことは、被験者を2群に分け、片方には減塩食を、もう一方には通常食を与え、経過を観察することだ。(下線by LEE)

 しかし、この試験の結果もほかの研究と同じくらい曖昧だった。無作為化対照試験を正確に行うのは非常に困難であることが判明した。例えば、減塩食にすると必然的にカリウム、繊維、そしてカロリーなど他の栄養素も変化する。また、プラセボ効果と医療介在効果を注意深く除外しなくてはならない。
 Graham Wattは、1980年代、初めて減塩食の 3つの無作為化二重盲検プラシボ対照試験を行った経験から「被験者を10週間観察すると、何もしなくても何らかの変化がおこる」と言う。

 このような状況下、新しいルートを切り開く手段として、メタ解析が登場した。その概念は、無作為化対照試験で曖昧な結果しか得られない場合、推計学的パワーを大きくするため、類似した臨床試験の結果をプールし、真の効果を推定するというものである。
 しかし、メタ解析そのものの信憑性についても議論がある。食塩論争の理想的解決法と目されたメタ解析が、そのもの自体の疑問ある本質を露呈することになった。ハーバード公衆衛生大学のCharles Hennekensは「すべてがとても恣意的で、無作為に恣意的と信じたいが、研究者が望む方向に恣意的ある」と表現する。

 1991年、CutlerとElliotらは初めて、無作為化対照試験のメタ解析を行った。それまで21の無作為化対照試験が報告されていたが、うち6つだけがプラセボ対照で、6つは正常血圧者を対象とした。プラセボ対照試験のうちWattだけが二重盲検下に試験を行い、減塩は全く血圧に影響を与えなかった。
 しかしながら、これら試験をプールすると一日3~6gの減塩により高血圧者で5/3mmHg、正常血圧者で2/1mmHg血圧が下がるという推計が導かれた。Cutlerらは「この関係は因果的である」なぜなら「多くの疫学調査、臨床研究、そして動物実験の結果と一致する」からであると結論した。無論、これこそが議論されるべき点である。

 Malcom Lawらの3部からなる非常に奇妙な論文が1991年4月にBMJに掲載されたため、Cutlerらのメタ解析はその陰に隠れてしまった。彼らの結論は前代未聞だった:彼らは、減塩の効果はCutlerとElliotの発見の2倍近いと推論した。Lawらは、「中程度の」世界規模での減塩、毎日の塩分摂取量を3g減らすだけで、降圧薬より効果があり、6gの減塩で英国だけで年間75,000人の死亡を予防すると予想した。

 彼らは、この結論を3段階で導いた。まず、食塩が血圧に及ぼす平均的な明らかな効果を推定するために、生態調査を分析した。次に、この推定値と回帰希釈バイアスで適正に上方修正した集団内調査のデータを「定量的に調和」した。
 生態調査と集団内調査の結果は矛盾しないことを示せたので、この20年間信じられてきたように、定量的に調和した推定値が関連する臨床試験の結果と一致するのか解析した。Lawは、これらは完璧なことが判明した、だから、すべての研究は減塩の少なからぬ効用について一致することを示すと言う。

 このLawが言う「定量的再調査」の支持者はいるが、少数である。小誌の求めに応じ、この論文を読んだ、疫学者や統計学者たちは、この研究は欠陥が多すぎ、何の意味もなさないと主張する。
 研究の取捨選択が行われている:生態調査の分析では、Lawらは1960年から1984年までの23論文を選び、そして中国の1937年の論文を選んだ。次に、生態内調査の母体であるインターソルトを除外した、なぜならインターソルトの良く調整され標準化された血圧値は、調整されていない、標準化されていない研究に比べ15mmHg低くかったためである。批判者たちはこの決定を、赤ん坊を放り投げ、風呂桶に水を貯める(大事なものを捨て、くだらないものをため込む)と形容した。
 Lawは小誌に、インターソルト元々の結果は「不適切で、低すぎる」ので除外したが「インターソルト再分析」はこの限りでないので含めたと語った。(*もはや語るに落ちる:北風)

 Swalesは、Lawらは 78の臨床試験を合成したが、たった10だけが無作為化試験だったことに気づいた。一つは、近代臨床研究時代以前に書かれたものだった。Swalesは、Lawらが主張する減塩による降圧効果は「お粗末な対照の影響」にあると述べた。BMJの編集者で共同著者の Richard Smithでさえ、「最良のものではなかった」と語った。
 しかしながら Lawは、この研究は正当に評価され、インターソルト再分析の発見を支持すると述べる。数々の批判にもかかわらず、Lawのメタ解析は食塩論争の中で最も頻繁に引用される論文の一つになり、Lawが不適切とみなしたインターソルトとともに、1993年 NHBPEP一次予防報告の基幹論文となった。
 
  二極化(Poles apart)

 ここ 5年、食塩論争には2つの際立った特徴がある:一つは、データはますます一貫して、減塩による効用が存在するとしてもわずかであることを示唆する、もう一つは、データの解釈に関してこの分野は依然二極化している。このことは、もう2つの食塩‐血圧メタ解析で如実に示された。
 1993年、NHBPEP一次予防報告が発表されると、キャンベルスープ株式会社は、トロント大学の Loganに協力を求めた。Loganは 1980年代初頭、減塩を研究し、「効果がない」ことを発見した。キャンベル社の資金で正常血圧者を対象とした 28の、高血圧者を対象とした28の無作為化対照試験をメタ解析した。CutlerもLoganの新しい解析法を知り、自分の論文を更新し対抗した。

 Cutlerは、32の新しい論文をメタ解析し、研究結果は実質的に同一、あるいは「異なるというより、非常に似ている」と言う。Cutlerは約6gの減塩で、高血圧者で5.8/2.5mgHg、正常血圧者で2.0/1.4mmHg降圧効果があると主張した。Loganは、高血圧者で3.7/0.9mmHg、正常血圧者で1.0/0.1mmHg降圧作用を報告した。
 Robinsは、誤差を考慮すると「これらは同じデータである。残りは、煙と鏡(smoke and mirrors)である」と言う。

 ところが、Loganと Cutlerは正反対にデータを解釈した。Loganらは、推定値が負の出版バイアス(そのような研究では、効果なしは出版されない)とプラセボ効果により恐らく上方に偏向していると考えた。減塩は有害であると示唆するいくつかの証拠があると述べ、「高齢で高血圧者に減塩は考慮されて、正常血圧者に世界的減塩を推奨する根拠はない。」と結論した。
 Cutlerらは、推定値はプラシボ効果や負の出版バイアスで上方に偏向していないと主張した。減塩の有害性を示唆する証拠はないと述べ、正常血圧者と高血圧者に減塩が推奨されると結論した。

 Loganの論文は常識を覆すことと、Cutlerの論文(American J. of Clinical Nutrition)より一年早く、1996年に一流誌(JAMA)に掲載されたので、マスコミの注目を集めた。しかし、大衆誌、減塩食そして無塩食の著者、聖ジョージ病院・医学部のGraham MacGregorは、Loganのメタ解析はキャンベル社の資金によるものだから信用できないとコメントした。Loganのメタ解析が掲載されたJAMAの論評で、Claude Lenfantは「圧倒的証拠は一貫して、中程度の減塩は…公衆衛生に寄与する」という定説の前でこの研究は無視されるべきと示唆した。

 Lenfantの酷評にもかかわらず、最近の研究結果は、Loganの解釈に示唆されるように、減塩の効用が存在するとしても無視できるほど小さいことで一致している。
 この見解は、1997年 5月号のJAMAに掲載されたコペンハーゲン大学メタ解析、および同年3月号のJAMAに掲載された、NHLBI援助による高血圧予防・第Ⅲ相試験(TOHPⅢ)の結論である。
 TOPⅢは、ハーバード医科大学のHennekensの協力を得て、2,400人の「高正常」血圧者を対象とした3年にわたる研究で、4gの減塩で6ヶ月目に血圧が 2.9/1.6mmHg低下した。しかしながら、36カ月目には降圧効果は殆ど消失し、Hennekensは、降圧効果は医療介在効果に帰するとした。

 最終的に減塩論争の行方を決める可能性がある一編の論文は、食塩に関するものではなかった。DASH(高血圧阻止の食事療法)と呼ばれる研究結果が 1997年、New Eng J Medicineに掲載された。論文は、食事内容は血圧に大きな影響を与えるが、食塩は関与しないことを示唆した。
 研究では、被験者に果物と野菜に富む低脂肪乳製品を与えた。3週間のうちに、中程度高血圧者で 5.5/3.0mmHg、高血圧者で 11.4/5.5mmHgも血圧が下がり、その効果は降圧剤をしのいだ。期間中、食塩量は一定に保たれていたので、食塩は血圧に関与しないことを意味する。

 Dayは、DASHの結果が正しいなら、古い生態調査で食塩に求めた高血圧の真の原因は、果物と野菜に求められると言う。食塩摂取量の多い集団は、単に年間を通じて果物と野菜を手に入れにくいため、塩漬けされた保存食を消費する傾向がある。
 現在、DASH研究者達は、減塩とDASH食の効果を区別するため追跡調査を始めた。400人を対象に、対照群、そして一日食塩 3g、6g、そして9g群に無作為に振り分け、2年間観察する予定である。

  戦いを見分ける(Picking your battles)

 1976年、食塩論争が目新しかった時、タフツ大学・学長の Jean Mayerは、食塩を「最も危険な食品添加物」と呼んだ。今日では、実行不可能なほど極端な減塩をして、はたして 1~2mmHgでも血圧が下がるのか、もし下がるとして、それを実行できる人がいるのかという方に争点が移ってきた。
 正常血圧者にとり 1~2mmHg程度の降圧は全く意味がない;高血圧者にとり、降圧剤は一日数セントのコストではるかに効果がある。しかし、個人への効果と公衆衛生への効果は、今もって別物である。
 例えば、StamlerやCutlerにとり、集団が減塩すれば心臓病と卒中が減るというのは疑問の余地がない。そして彼らは、減塩は禁煙や運動不足解消に比べはるかに実行しやすい、なぜなら企業を説得し、加工食品の塩分を減らせば済むと論じる。

 はたして、それが価値に値するかが問題点である。政府機関が大衆に減塩を提唱する以上、食塩が各個人の健康に有害である根拠を示すべきだが、少なくとも正常血圧者には何のメリットもない。これは、NHLBIと NHBPEPから発せられる扇動的メッセージの一意専心さを説明するが、政府機関を不誠実にみせる。
 さらに、公衆衛生の専門家たちは、大衆は多くの健康に関する勧告を押し売りされたと堅く信じている。トロント大学のDavid Naylorは、「国のモラルの比重をどの程度この問題に置くのか?」と言う。「闘いを選ばないといけない。この闘いは、争うに値するのか?」。
 Naylor、Hennekensらは、減塩の効用を無理に強調すると、体重減少、いわゆる健康食、そして他の明らかに効果がある手段の啓蒙を犠牲にしかけないと言う。

 減塩は痛みを伴わない降圧法であるという主張は、この種の社会工学にマイナス面がないという仮定する。NIHのHarlanが特に言及するように、社会への介在は意図しない成り行きをとることがある。
 例えば、低脂肪の推奨である。「脂肪摂取量は減少しているが、体重が増加しているのは驚きである。以前に考えられていたほど、ことは簡単ではない」と言う。

 この5年、減塩は死亡率を高めることを示唆した 2つの研究、一つは 1985年 5月号のthe Lancet誌に掲載された。2つともアルバート・アインシュタイン医科大学の高血圧専門医でアメリカ高血圧学会会長でもあるMichael Aldermanによる研究である。疫学者そして Alderman自身も、この結果にあまり神経質にならないように警告する。Swalesは「関連性を検討する研究が必要である。」と言う。「インターソルトに浴びせた如何なる侮辱もこの研究に浴びせえる」。
 しかし。Aldermanはまた、食塩摂取量と死亡率を比べた研究は,ほんの一握りだが、絶対に相関がないとしたものはないことに、特に言及する。「大衆は、減塩は実際に害を及ぼさないという声明を信頼したばかり」とSwalesは言う。「それは、事実かもしれないし、そうではないかもしれない。個人に有害な効果は、有用な効果ほど小さいのかもしれず、臨床試験でやはり検知できないかもしれない。」

 Aldermanは、2つ目の研究が掲載されたのち、高血圧学会とアメリカ心臓病学会を召集し、NHLBIの Lenfantに次のような手紙を送った。
 「利用しえる全てのデータに照らし、現行の減塩勧告を再調査するため、医学と公衆衛生の専門家からなる独立した委員会の召集が急務である」。4月に Lenfantは小誌に、再調査を進めることに同意すると語った。
 もし、そのような委員会を招集するなら、Hennekensには、心に留める価値のある言葉がある:「この分野の問題は、研究者はつくべき側を選んでいた、」「すべきは、科学を操り問題を解決することで、科学の威を借り意見を述べることではない。
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