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ユーロの悲劇:三橋

 ユーロ旗

 国民経済が成り立つためには、その国の通貨があるということが不可欠な要素である。
 実に共通通貨ユーロが、そのことを逆に示してくれた。
 共通通貨によって富はドイツに集中し、ギリシャ、スペインは犠牲となる。
 ユーロ圏内が宗主国と植民地になってしまった。
 離脱して自国通貨に戻す以外に、展望は拓けないだろう
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  ユーロの悲劇 4/12  三橋貴明 Klugから

 IMFは「対外負債」の返済不能という、真の意味で財政危機に陥った国に対し、主に以下の「構造調整計画」を実施する。

構造調整計画は、インフレかつ貿易赤字であるにも関わらず、無作為に財政赤字を膨らませた挙句に破綻した国に対し、容赦なく対外負債(外貨建て負債)を返済させるためにIMFが抜く伝家の宝刀なのである。

◆財政赤字の是正:均衡財政もしくは財政赤字対GDP比率の大幅縮小を目指す
◆財政支出削減:特に「金食い虫」である社会保障支出の削減を実施する
◆税制改革:消費税などを増税すると同時に、法人税削減で企業の投資拡大による供給能力向上を目指す
◆金利の自由化:金利の上限を撤廃し、高金利に誘導する。
◆競争力ある為替レート:固定為替相場制の国は変動相場制に移行させる。
◆貿易の自由化:外国製品と国内製品の競争を激化させることで、供給能力向上を目指す
◆直接投資の受け入れ促進:外資導入により供給能力向上を目指す
◆国営企業の民営化:国営企業のビジネスに競争原理を持ち込み、供給能力向上を目指す
◆規制緩和:規制緩和により競争を激化させ、供給能力向上を目指す
◆所有権法の確立:個人や企業の所有権を確立・強化し、政府の介入を抑制する

 上記の各種の政策は、IMFの発展途上国の債務危機に対する処方箋を抽出したもので、ワシントン・コンセンサスと呼ばれている。なぜ「ワシントン」なのかと言えば、上記の抽出を行った国際経済学者のジョン・ウィリアムソンが、ワシントンDCに位置するIIE(国際経済研究所)に属していたためである。

 上記の構造調整改革、あるいはワシントン・コンセンサスは、発展途上国などの「対外負債返済不能」という問題を解決する上では、確かに効果的だ。理由は、発展途上国が「なぜ対外負債の返済不能に陥るのか」を考えれば、すぐに理解できる。

 そもそも、政府が外貨建ての国債などを発行し、最終的に財政危機に陥るような国は、基本的には国内の供給能力が需要に対して不足している。
 現在の日本とは真逆に、過大になった需要(名目GDP)と不足している供給能力(潜在GDP)との間に、インフレギャップが存在している状態なのである。
 そして、インフレギャップは「物価上昇」と「貿易赤字」により調整される。

 物価が上昇すると、潜在GDPの「見た目」が増える。さらに、外国からの輸入が増えることで、国内の足りない供給能力が補填される。
 とはいえ、外国からの輸入が増えれば、当然その国は貿易赤字が拡大する。輸入が増えた分、輸出を増やせばいいではないかと思うかも知れないが、そもそも輸出を増やせるほど国内の供給能力に余剰がある状況ならば、インフレギャップは発生しない。

 さて、貿易赤字の拡大は、これを放置しておくと経常収支の赤字に繋がる。
 さらに、経常収支の赤字は国内の「貯蓄不足」を意味する。国内が貯蓄不足に陥った国は、政府が税収以外で資金調達しようとした際に、「外国の貯蓄」に頼らざるを得なくなる。
 すなわち、国際金融市場で外貨建て、あるいは共通通貨建ての国債を発行せざるを得なくなるわけだ。

 また、貿易赤字の拡大やインフレ率上昇は、為替レートの下落をもたらす。特に、インフレ率上昇は実質金利を低下させるため、為替レート下落への影響は大きい。
 政府が外貨建て国債を増やしている状況で、為替レートが下落していくと、その国の対外負債の実質的な価値が重くなっていく。経常収支赤字国で自国通貨の為替レートが下落し続けると、政府の外貨建て国債の返済負担は高まり、いずれは「財政破綻(政府のデフォルト)」に至るわけだ。

 というわけで、IMFは「財政破綻」に陥った国に対し、
 「財政破綻国は、外国の金を当てにして財政赤字を膨らませていたのが問題なのだ。財政破綻国は、基本的に均衡財政を目標にせよ。また、そのために年金や医療費など、政府が負担している社会保障を大々的にカットせよ。公務員も減らせ」
 「財政破綻に陥る国は、国内の供給能力が乏しく、インフレや貿易赤字を延々と続けている。潜在GDPを伸ばすために、法人税や富裕層減税を行い、投資を増やさせろ。政府は当然の話として減収になるが、その分を消費税増税や社会保障支出削減で補え」
 「そもそも財政破綻に陥るような国は、国内の規制が多すぎ、経済が非効率になっているのだ。金利や為替の規制を撤廃し、外国との貿易を活発化させ、直接投資も受け入れ、国内の産業の競争力を強化せよ」
 「国営企業や各種の規制は、企業の投資意欲を削ぎ、潜在GDP拡大を妨げる。国営企業は民営化し、規制も全面的に撤廃し、企業が好きにビジネスを展開できるようにせよ。また、企業の所有権もきちんと守れ。さもなければ、企業が投資を増やすことはない」
 といった主旨の政策を「強要」し、対外負債返済の原資を破綻国に調達させるわけである。

 この時点で気づかれた方も多いだろうが、上記は現在のギリシャやスペイン、ポルトガルやアイルランドといった、いわゆるPIGS諸国において現実に実施されている政策と酷似している。

 さすがに、PIGS諸国はユーロ加盟国であるため、「競争力ある為替レート」という政策は取りようがないが、「財政赤字の是正」「財政支出削減」「税制改革(増税)」「直接投資の自由化」「国営企業の民営化」「規制緩和」などは、そのままである(ユーロ加盟国では「所有権法の確立」や「貿易の自由化」はすでに達成されている。)

 問題は、過去にワシントン・コンセンサスに基づく構造調整計画を実施された国は、周囲の国(特に、アメリカ)は別に不況でも恐慌でも何でもなかったが、現在はそうではないという点である。
 例えば、97年のアジア通貨危機で対外負債のデフォルト(債務不履行)寸前にまで追い込まれた韓国は、それまでの「日本的」であった経済構造を、IMF管理下でほとんど丸ごと変えられてしまった。
 具体的には、金利が自由化され、上限金利が無くなった。複数の財閥企業が過当競争に陥っていたことが問題視され、企業の統廃合が推進された。すなわち、国内市場における寡占化が人為的に推し進められたのである。
 さらに、外国からの投資の自由化も実施され、国内の銀行やサムスン電子、現代自動車など、大手輸出企業の株式を外国資本が購入していった。

 IMFによる「構造改革」で、韓国経済は確かにグローバル市場において競争力が高まったが、それが「国民経済」にとって有益だったかどうかは疑問だ。
 何しろ、韓国の大手輸出企業がグローバル市場で巨額の利益を稼いでも、韓国国民の実質賃金は下がる一方なのである。
 さらに、李明博政権は法人税の優遇措置を講じ、「国民の損」の下で大手輸出企業が利益をより拡大できる構造を作った。結果、大手輸出企業の純利益は最大化され、オーナーや「外国人」への配当金支払い額が増えていった。

 別に、利益を上げた企業の株主が配当金をもらうことが、悪いことだとは全く思わない。
 だが、それが「政府の支援」により実現している場合は、全く別の話である。何しろ、政府の支援の裏には必ず「国民の損失」が隠されているのだ。
 韓国が代表例だが、新自由主義的な政策により経済構造を変えさせられた国では、国民が置き去りにされやすい。
 結果、現在は各国で反新自由主義的な国民運動が沸き起こっている。
 韓国の場合は「反・米韓FTA」であり、アメリカでは「ウォール街を占拠せよ」になる。

 さらに、バブル崩壊後にワシントン・コンセンサス的な政策を強要されたギリシャやスペインでは、国民の所得水準がゾッとするようなペースで下がっており、デモやゼネストによる騒乱が続いている。
 現在の世界経済は、最大の経済規模を持つアメリカを持つアメリカまでもがデフレに片足を突っ込んでいる。アジア通貨危機の時期とは、外部環境がまるで異なる。
 しかも、ユーロ加盟国は対ユーロ諸国に対して固定相場だ。為替レート下落による輸出増も見込めず、PIGS諸国は出口のない状況に追い込まれている。

 2012年3月末、スペインでは反緊縮財政のゼネストが実施され、デモ隊と警官隊が衝突した。スペイン内務省によると、全土で176人が逮捕され、警官・市民合わせて104人が負傷したとのことである。

【図149-1 12年2月時点 ユーロ主要国及び日米英失業率(単位;%)】
20120410a.png
出典:ユーロスタット

 何しろ、図149-1の通り、スペインの失業率は不動産バブル崩壊により23%を超えている。そんなスペインにおいて、政権が政府支出の大幅なカット(270億ユーロ)という2012年予算案を閣議決定したのである。
 スペインのGDPは約1兆ユーロであるため、対GDP比で3%弱といったところである。日本で言えば、14兆円規模に相当する。

 失業率23%の国が、日本の感覚で14兆円の政府支出を削るわけだ。
 そもそも、スペインの失業率が23%を超えているのは、バブル崩壊が原因である。しかも、2011年Q4のスペインの住宅価格は対前年比で11.2%と、むしろ下落ペースを速めている。

 この状況でスペイン経済がデフレに突っ込まず、名目GDPと税収を増やすことに成功したとしたら、まさに「マタドールの奇跡」と呼びうる。(呼び名は何でも構わないのだが)
 特に、現在のスペインは若年層失業率が50%を上回っており、その上で緊縮財政を政府が強行しようとしているわけであるから、国内がゼネストで騒乱状態になったとしても、無理もない話である。

 また、スペイン以上に状況が悪化しているギリシャでは、4月4日に年金受給者の男性がアテネの国会議事堂前でピストル自殺をした。

 男性のポケットからは「(政府が)生きる望みを打消し、正義も何もない。ごみ箱から食べ物を探すことになる前に威厳ある最期を遂げるしか方法は見つからない」という、凄絶な遺書が発見された。

『2012年4月5日 ロイター紙「ギリシャ年金受給者が議会前で自殺、「ごみ箱あさりたくない」」
 財政危機による緊縮策が続くギリシャで4日、年金受給者の男性(77)が首都アテネの中心部にある議会近くで自殺を図った。男性は借金に困っていたとされ、ごみ箱をあさりたくないなどと記した遺書が残されていた。
 目撃者によると、男性は朝のラッシュ時に議会前のシンタグマ広場を訪れ、頭に銃を当てて
 「私には借金がある。この状況にもう耐えられない」と叫びながら引き金を引いたという。
 また、別の目撃者はテレビの取材に、男性が子どもたちに借金を残したくないと話していたと述べた。
 警察によると、男性のポケットから見つかった遺書には、「(政府が)生きる望みを打ち消し、正義も何もない。ごみ箱から食べ物を探すことになる前に威厳ある最期を遂げるしか方法は見つからない」などと、政治家や財政危機を非難する記述があったという。
 現場となった広場には、事件から数時間後に臨時の教会が設けられ、ろうそくや花がたむけられたほか、財政危機を非難する市民らのメモが木に掲げられた。』

 国民経済の失敗には、フロー面に絞ると二つしかない。すなわち、

(1) 極端な供給能力不足によるハイパーインフレーション
(2) 国民が所得を得ることを不可能にする恐慌

 の二つである。
 上記二つがなぜ国民経済の失敗かといえば、双方ともに最終的には国民が「飢える」ためである。

 ギリシャの場合、バブル崩壊(しかも外国マネーに依存したバブル崩壊)により、国民の所得が容赦なく減少していっている。
 しかも、バブル崩壊後に緊縮財政という最悪の組み合せを強行しており、労働者が失業者になり、公務員は解雇され、年金も削減され、国民の所得減少を「促進する」政策を推進していっているわけである。
 すなわち、ギリシャは上記の(2)のただ中にあるのだ。

 国民経済の基本は、「国民が働くこと」である。
 国民が働き、付加価値を生み出し、支出が行われ、所得が創出されない限り、国民経済は成長しない。
 すなわち、政府は常に国民の雇用機会が最大化されるよう、政策を打っていかなければならないのだ(同時に、インフレ率上昇にも目配りする必要がある)。

 現在のギリシャやスペインなどのPIGS諸国は、完全に所得拡大の道を見失っており、国民全員の所得が減っていくという最悪の状況にある。
 上記の記事のような痛ましい出来事は、今後も起こりうるだろう。日本の98年以降(デフレ深刻化)を見れば分かるが、国民経済の失敗は、容易に人命を失わせる。(日本の場合は自殺者の増加)

 PIGS諸国の場合は、ユーロ加盟により対外負債(共通通貨建て)が極端に膨らみ、各国共に財政危機、国民経済の収縮に陥っている。
 これらの国々がユーロに加盟している限り、ギリシャのような悲劇が続くことになるだろう。
 まさに「ユーロの悲劇」である。
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