広瀬隆・吉原毅「安倍駐日アメリカ大使」の罪
2016-02-11


吉原 毅
(Tsuyoshi Yoshiwara)
1955年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、城南信用金庫に入職。1996年、41歳で常務理事となり、2010年、理事長に就任。ともに助け合う協同組織である信用金庫の原点回帰を打ち出し、理事長の年収を支店長の平均以下である1200万円、全役員の定年60歳、現場による経営計画の策定など、異色の改革を行っている。2011年4月1日には「原発に頼らない安心できる社会へ」を発表。職員による被災地支援も続けている。著書に『原発ゼロで日本経済は再生する』(KADOKAWA)『信用金庫の力――人をつなぐ、守る』(岩波書店)、『城南信用金庫の「脱原発」宣言』(クレヨンハウス)がある。
再稼働、安保、TPP……
安倍“駐日アメリカ大使”の本当の罪
――吉原毅×広瀬隆対談【パート4】 2015/11/14 ダイヤモンド・オンライン
『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が増刷を重ね、第6刷となった。
本連載シリーズ記事も累計275万ページビュー(サイトの閲覧数)を突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者と、城南信用金庫の前理事長で「反原発」をかかげ、小泉純一郎元首相からも信頼の厚い吉原毅(よしわら・つよし)氏が初対談!
吉原氏の著書『原発ゼロで日本経済は再生する』のオビには、ベストセラー『デフレの正体』や『里山資本主義』の著者・藻谷浩介氏が、「経済人ならわかる、原発は採算割れだと。だがそう語れる真の経営者は吉原さんだけだ」とある。
吉原氏は慶應義塾大学出身のエリート金融マンだと思っていたら、それだけではなかった!
従来の金融マン像とは似ても似つかない、歯に衣着せぬ物言いで政府や東京電力へ迫る。
フクシマ原発事故後、城南信用金庫は東京電力と縁を切り、信金内の電力をガス会社主体の「エネット」というPPSへ切り換え、1000万円以上の節減に成功。大きな話題を呼んだ。
これこそ、ほんとうの“ラストバンカー”ではないか。
そんな折、8月11日の川内原発1号機に端を発し、10月15日の川内原発2号機が再稼働。そして、愛媛県の中村時広知事も伊方原発の再稼働にGOサインを出した。
再稼働後、豪雨による鬼怒川決壊、東京で震度5弱、阿蘇山噴火、南米チリ沖マグニチュード8.3地震、アフガニスタン北部のマグニチュード7.5地震など、今なお自然災害が続出している。
本誌でもこれまで、34回に分けて安倍晋三政権や各県知事、および各電力会社社長の固有名詞をあげて徹底追及してきた。
地元の7割が伊方原発再稼働反対の民意を受け、「愛媛新聞」も再稼働反対の社説を展開。だが、大手マスコミはこの事実を報道せず、着々と再稼働が進められていく。
銀行と信用金庫の違い、原発、TPPなどの安倍晋三首相の政策について、気鋭の論客同士の対談4回目をお届けする。
(構成:橋本淳司)
銀行は「営利法人」、信用金庫は「非営利法人」
広瀬 僕は吉原さんに出会う前は、信用金庫という存在を深く考えたことがありませんでした。
つまり、協同組合組織で、互いに助け合うための金融機関だとは。
吉原 信用金庫は、地域を守って、地域の人を幸せにすることを目的とした社会貢献企業です。
信用金庫は、銀行と同じ金融機関の一業態、銀行の小型版だと考える人が少なくありませんが、そうではありません。
銀行が利益追求を目的とした株式会社であるのに対し、信用金庫は、株式会社に対抗し、お金の弊害を是正するために生まれた、会員出資による協同組合組織の「非営利法人」なのです。
もともと1900年に欧州から日本に伝えられた、社会改革を目的とした協同組合運動の金融部門であり、生活協同組合や農業協同組合の仲間なのです。
広瀬 原発には巨額の金が絡んでいるから、原発廃絶運動は銀行にはできませんが、独立した信用金庫にはできますね。吉原さんは哲学者ですよ。
吉原 そもそもは、小原鐵五郎(おばら・てつごろう、1899~1989)が城南信金の第3代理事長で全国信用金庫協会長を長年務め、「金融界のご意見番」と言われた人ですが、信用金庫業界が存亡の危機に立たされたとき、彼が大蔵省の役人にこんな発言をしています。
広瀬 「裾野を引いた稜線があってこそそびえる」という表現はすばらしいですね。
吉原 はい。私自身が当時80歳を超えた小原さんのそばで働いていた頃、利益の出るアイデアを出すと「冗談じゃない」と一括され、消費者向けローン企画をボツにされました。そのとき、こう言われたのです。
「私たちはいつから銀行に成り下がったのですか。
銀行は利益を目的とした企業だが、私たちは町役場の一角で生まれた、世のため、人のために尽くす社会貢献企業なのです。もともとはイギリスのマンチェスターに起源を持つ、公共的な使命を持った金融機関なのです。そのことを絶対に忘れてはいけませんよ」
お金は人の心を狂わせ、暴走させ、良識的な判断を失わせる麻薬です。お金の魔力にとりつかれると、社会や仲間のこと、先祖や子孫のことなど気にかけず、「自分さえよければ」「今さえよければ」という発想に陥りがちです。それが、フクシマ原発事故で多くの人を苦しめる発端になった原因です。
原発が「不良債権」であると知りながら、目先の利益を求めて間違ったことをやり続け、将来に大きなツケを残す判断をしている人たちは、まさにお金の魔力にとりつかれていると言っていいでしょう。しかも誤った経済学のもとで。
広瀬 「カジノ資本主義」と同じ構造ですが、私は原発だけでなく、ドシロウトの安倍晋三の経済政策がとてもコワイです。
全世界に徘徊するヘッジファンドや、タックスヘイブンに隠されてきた巨大なマネーの動きを知らずに、デタラメの出費を続けていますからね。あの男に任せておくと、もうじき、またしても日本はごっそり金を盗まれますよ。
吉原 まさにそうなんです。戦後日本がものづくり大国になってアメリカを圧倒すると、1980年代以降、アメリカは金融、情報、軍事力による「カジノ資本主義戦略」へ転換しました。
それが金融自由化です。
日本人が溜め込んだお金を使って、世界中にデリバティブ商品による賭場を開き、世界中でバブルを起こして大儲けしました。
しかし、2008年には自分たちまで「毒まんじゅう」を食べて腹下しを起こした。それが「リーマン・ショック」です。
“駐日アメリカ大使”が
首相をやっている!
広瀬 そして真犯人は、売り逃げして隠れてしまいました。莫大な金を持ってね。再びその金が動き出すとコワイですよ。
私は11月に郵政三社が上場されるのが心配です。上場すれば、ウォール街のハゲタカファンドが入ってくるでしょう。そして、投資先を彼らが支配して、ウォール街がその大金をつかむ。郵便貯金と簡易保険の金は、莫大な額ですからね。そのうえ、今度は年金をジャンクボンドに投資しようっていうんだから、国民の金が盗まれっぱなしです。
吉原 それは十分考えられます。それで政府に多少お金が入るにしても、買った株主が郵政をどう変えてしまうのか怖いところです。
金融は暴走を何度も何度も繰り返してきた歴史があります。特に、資本主義経済は産業革命以降に暴走し、「自分さえよければ」という発想を世の中に広める麻薬みたいなものです。
それをやめて自分で生産し、自分で経営し、自分で消費する。お金による分業ではなく、全体像を見る。これが全体を取り戻し、人間性を回復するという協同組合運動の本質です。
信用金庫はそういうことをやっている金融機関なので、協同組合運動の一環として、原発に反対するのは当たり前のことです。
現在の経済は、本物の経済ではありません。地に足をつけて、社会の健全な発展、人々の幸せにつながる健全な付加価値が増えていくことが、本当の意味での経済成長です。
中小企業も、その哲学で動いています。現代社会はマーケットが発達しすぎて、それとともに自己中心主義が発達して、どんどん人格が崩壊していっています。そういう意味では、みんな奴隷化しているともいえます。
広瀬 日本は完全にアメリカの奴隷になっています。
1970年代の日米繊維交渉では、首相の佐藤栄作がきちんとアメリカとケンカしました。歴史を調べてみると、日本のバカな政治家たちも、アメリカとちゃんとケンカしていました。
でも、今は、安倍晋三みたいな「駐日アメリカ大使」が総理大臣をやっている。これでは国民は救われません。
原発も集団的自衛権もTPPも全部、アメリカの富豪の言いなりですから。 19世紀に跋扈したフランスのサン・シモン主義は、「資本家が文明をリードしてゆくことによって、社会全体の富が増え、貧者もまた救われてゆく」という理論でした。
サン・シモン伯爵が唱えたこの説が横行した結果、19世紀以来、全世界で労働者に対する資本家の搾取が著しく横行するようになりました。
今まさに安倍晋三が唱えてきた経済活性化政策は、それです。
「大企業中心の経済成長が、日本全体の経済を発展させる」という、実に古くさい、19世紀の回顧主義にすぎないもので、よくもこんな古い経済思想を取り出してきたものだと驚きますが、日本の経済学者は誰も批判していない。
サン・シモン主義が、ますます貧富の差を拡大することは、数々の歴史が実証してきた通りで、現在の日本で労働者の格差が急激に広がっているのは、そのためです。
喜ぶのは、経団連(日本経済団体連合会)に所属して、社内留保を増やせる上部の大手企業幹部だけですよ。
自由化、規制緩和の先は、デフレ、戦争へという末路
吉原 そうですね。それに経団連といっても彼らは大企業を代表していません。それと安倍政権は、選挙のときは「経済第一」「TPPは反対」と言っておきながら、権力を握ると急に安全保障の話を持ち出し、TPPはアメリカの言い分を丸呑みにしてしまいました。TPPというのは日本では自由化、規制緩和だと考えられています。
でも、TPPの真相は、日本は自由化や規制緩和をさせられ、アメリカにとっては保護主義です。他国から利権を収奪するための保護主義政策なのです。
広瀬 そうです。あのルールを1つずつ見れば、アメリカに都合のいいルールだけを取り込んで、黒幕の多国籍企業が利益を得る、それがTPPです。
吉原 そもそも自由化、規制緩和をやっても顚末は見えています。竹中平蔵さんが講演で力を込めて「0.1%でも高い経済成長が大事だ。だから規制緩和が大事だ」と言っていました。
私も経済成長を決して否定しているわけではありませんが、「だから規制緩和が大事」という竹中さんの論には飛躍があると思います。
歴史を見ると、今から100年ほど前にイギリス帝国による第1次グローバリゼーションがありました。経済がグローバル化して世界中でものが動いた結果、イギリスをはじめとする先進国まで生産過剰になって、世界的な恐慌や大デフレにつながり、第一次大戦、第二次大戦という戦争を引き起こしました。
今の第2次グローバリゼーションも同じです。
1970年代までは経済成長してきましたが、規制緩和を行ったために世界経済は1990年代から失速しました。韓国は経済破綻しましたし、中南米諸国の経済成長は止まりました。そして湾岸戦争が起きました。
自由化、規制緩和が、実は世界中にデフレと大不況をもたらして、戦争によって終わるという帰結です。歴史は繰り返しているのです。
広瀬 湾岸戦争は、米ソの冷戦が終って、軍需産業の崩壊も原因でした。
私は吉原さんが登場してはじめて信用金庫が何かを知って城南に口座を開いたのですが、「原発反対」を高らかに宣言した後、城南信用金庫の預金者が増えていますか?
吉原 はい、増えました。心ある人たちがファンになっていただいています。
お金がある人も、ない人もファンになっていただいています。それは、どちらもありがたいと思います。
私は多くの人に応援していただいていることを業界でも話しています。
それによって、ほかの地方の信用金庫にも、協同組合の理念をもっと大事にしてもらいたいと思っています。
なぜ、『東京が壊滅する日』を
緊急出版したのか――広瀬隆からのメッセージ
このたび、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』を緊急出版した。
現在、福島県内の子どもの甲状腺ガン発生率は平常時の70倍超。
2011年3~6月の放射性セシウムの月間降下物総量は「新宿が盛岡の6倍」、甲状腺癌を起こす放射性ヨウ素の月間降下物総量は「新宿が盛岡の100倍超」(文部科学省2011年11月25日公表値)という驚くべき数値になっている。
東京を含む東日本地域住民の内部被曝は極めて深刻だ。
映画俳優ジョン・ウェインの死を招いたアメリカのネバダ核実験(1951~57年で計97回)や、チェルノブイリ事故でも「事故後5年」から癌患者が急増。フクシマ原発事故から4年余りが経過した今、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』で描いたおそるべき史実とデータに向き合っておかねばならない。
1951~57年に計97回行われたアメリカのネバダ大気中核実験では、核実験場から220キロ離れたセント・ジョージで大規模な癌発生事件が続出した。220キロといえば、福島第一原発~東京駅、福島第一原発~釜石と同じ距離だ。
核実験と原発事故は違うのでは? と思われがちだが、中身は同じ200種以上の放射性物質。福島第一原発の場合、3号機から猛毒物プルトニウムを含む放射性ガスが放出されている。これがセシウムよりはるかに危険度が高い。
3.11で地上に降った放射能総量は、ネバダ核実験場で大気中に放出されたそれより「2割」多いからだ。
不気味な火山活動&地震発生の今、「残された時間」が本当にない。
子どもたちを見殺しにしたまま、大人たちはこの事態を静観していいはずがない。
最大の汚染となった阿武隈川の河口は宮城県にあり、大量の汚染物が流れこんできた河川の終点の1つが、東京オリンピックで「トライアスロン」を予定する東京湾。世界人口の2割を占める中国も、東京を含む10都県の全食品を輸入停止し、数々の身体異常と白血病を含む癌の大量発生が日本人の体内で進んでいる今、オリンピックは本当に開けるのか?
同時に、日本の原発から出るプルトニウムで核兵器がつくられている現実をイラン、イラク、トルコ、イスラエル、パキスタン、印中台韓、北朝鮮の最新事情にはじめて触れた。
51の【系図・図表と写真のリスト】をはじめとする壮大な史実とデータをぜひご覧いただきたい。
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