白井聡「首相は自衛隊の犠牲を望んでいるのか」
2015-05-11

安倍訪米によって、日本は凋落するアメリカの完全なかいらい国家となることを宣言した。
それでも安倍を支持するらしき奴隷国民。
再び、敗戦の地獄を見なければ目覚めないのか。
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白井聡氏「首相は自衛隊の犠牲望んでいるのか」 5/11 日刊ゲンダイ
安倍首相の訪米は日本の完全な敗北
日本の大メディアは安倍首相の訪米について、「日米新時代」と手放しだったが、冷徹な目で「米国の傀儡政権かと思わせる内容だった」と切り捨てたのが京都精華大専任講師の白井聡氏(37)。
近著「偽りの戦後日本」(オランダ人ジャーナリスト、ウォルフレンとの対談=KADOKAWA)も話題だ。
ドイツの哲学者ヘーゲルの「重要なことは2度経験しないと理解できない」という言葉を引用して、日本に警鐘を鳴らしている。
日本は再び、敗戦という地獄を見なければ目覚めないのか。
――安倍首相の訪米について称賛、礼賛報道が目立ちましたが、どう受け止めましたか?
日米関係を希望の同盟と呼ぶ安倍首相の姿には呆れ果てました。
文明の牽引役としての役割から滑り落ちた米国にどこまでもどんな犠牲を払ってもついていく。
そういう表明だったからです。今度の訪米で米国内での安倍首相の評価が変わったとも思いません。
カモがネギを背負ってノコノコやってきたから拍手してはやし立てただけです。
――演説で「痛切な反省」という文言は使いましたが、根本的に信用されていないということですか?
安倍首相の歴史認識については、みんなが包囲網を築き、羽交い締めにしているような印象を受けます。
70年談話の有識者懇のメンバーであり、安倍首相の事実上のブレーンである北岡伸一国際大学学長が「(70年談話で)安倍首相に侵略があったと言わせたい」という趣旨の発言をしました。
今春来日したドイツのメルケル首相も過去の歴史に向き合うことの重要性を語った。
本丸が米国ですよ。首相訪米前から、歴史について何を言うのか注目が集まった。
まさか、余計なことは言わないよね、現実的な判断をするよね、という警告が米国内からも発せられていました。
――首相談話なのに周囲がハラハラし、内政干渉のようなことまでされてしまう。やはり、安倍さんは国際社会においては問題児であると?
そう思います。安倍さんは歴史認識の危うさという点で、二度と上がらないくらい評価を下げている。
オバマ大統領も内心、軽蔑している。ただし、それでは米国にとって安倍さんが歴代最悪の日本の首相かと言うと、違います。
ある意味、米国にとってこれほど素晴らしい首相はいないわけです。歴代首相は米国の言いなりで金を出しましたが、安倍首相は自衛隊を地球の裏側まで差し出してくれる。
安倍さんは当初、トレードオフのもくろみがあったのではないでしょうか。
つまり、これだけ貢ぐから、歴史については自分たちの都合のいいように解釈させてくれと。
ところが、米国はまかりならんと言ってきた。血は流せ、歴史認識も言う通りにしろと。70年談話でもめったなことは言えないでしょうね。
――そうなると、今度の訪米はどのように位置づけるのがいいのでしょうか?
客観的には日本の完全なる敗北に終わった。それがはっきり見えてたと思います。
自国にとって都合がいい歴史を語りたくても、米国の許容範囲内でしか語れないこともはっきりした。日本が歴史を修正しうる範囲は米国が決めるのだということ。
そもそもアジア諸国に対する歴史認識での高姿勢は、米国に対して物が言えないことの代償行為です。
「俺たちは本当は負けてなんかいない」と言いたいなら、ワシントンのど真ん中で、米国に向けてやればいい。「東京裁判なんぞくそくらえ」と言えばいい。できやしないということが露呈したわけです。
――だからこそ、完全なる敗北だと?
もともと完全に負けていたのです。
自民党なんてCIAがカネを入れてつくられた党ですから、親分に頭が上がるわけがない。だから、せめて歴史をネタにオナニーするくらい許してください、と安倍さんらは米国に哀願してきた。
でも、それさえ許してもらえないってことです。
そして、実質的部分では、新ガイドラインによって前代未聞の貢ぎ物をしたわけです。
戦後レジームからの脱却と一応言っているのだから、少なくともみこしを担いでいる人々には、自立への野望、戦略があるのかと思いましたが、何もなかった。
米国頼みの場当たり的対応だけで、それは、中国主導のインフラ投資銀行への対応でもハッキリしたと思います。
再度悲劇を経験しなければダメかもしれない
――いずれにしても、これで新ガイドラインが合意され、自衛隊は極東の範囲を超えて、米軍の支援をすることになります。
安倍さんは戦後の日本社会に根付いていた重要なコンセンサスを壊そうとしている。
それは「戦争に強いことを誇りにはしない」というコンセンサスです。
安倍さんは積極的平和主義を安全保障戦略の基本に据えて、演説でもここを強調しました。
「積極的」とつける以上、これまでは消極的だったと言いたいのでしょう。
消極的平和主義とはできるだけ戦争をしない、あるいは戦争から距離をおくことによって、自国を守るという考え方です。
積極的とは敵を名指しし、武力を用いて攻撃し、自国への危険を排除する。いうまでもなく、これは米国の手法で、日本は今後、アメリカの使い走りをやるのだからアメリカのやり方に変更する。
そのためには戦争に強い国にしなければいけないのです。
――それも国民的議論も経ずに勝手に決めてしまった。安倍さんの真意は何だとお考えですか?
戦争をやってみたいんだと思います。自衛隊から犠牲者が出るのを待ち望んでいるとしか思えない。
――そうすれば国威が発揚する?
というより、彼の自尊心が満たされるんでしょう。
普通の軍隊を持っている国であるということを世界に周知させ、国際社会で胸を張る。「ボクちゃんは最高司令官なんだぞー」と言ってみたいのでしょう。
――しかし、世界を見回して、積極的平和主義による抑止力がうまくいっているとは思えませんね。
まったく同感です。
米国の対中東戦略が泥沼に落ち込んだことは火を見るよりも明らか。
日本がそこに足を突っ込まなければいけない必然性はありません。
安倍さんはそれによって、国際的な責任を果たすと言いますが、これは2次的な動機で詭弁です。
本音は対米従属の強化であり、彼の自尊心のために自衛隊を出したいのです。
――白井さんは本の中で、知識層の9割が安倍政権のことをとんでもないと考えていると書かれていた。しかし、支持率は高いし、選挙をやれば勝ってしまう。これは何ですかね?
戦後を通じてこれほど知識層から嫌悪された首相はいないのでは。
戦後レジームからの脱却と言いながら、対米従属をエスカレートさせるのは支離滅裂だし、「私が最高権力者」発言でもわかるように近代政治の常識を超えるようなことを平気で言う。
国会でイラクに大量破壊兵器がなかったことが問題になったときも「ないことを証明できなかったフセインが悪い」と言ったのが安倍さんです。
何かが存在しないことは証明できない、ということすらわからないらしい。
知識人が評価しないのは当然だし、安倍さんというみこしを担いでいる政治家も、仕えている官僚も内心、バカにしていると思います。
でも、安倍さんよりも自分は賢いと思っている人たちが安倍さんに命令されているわけで、いうなれば、バカの奴隷にされている。
この構造そのものがバカなんですね。
――安倍自民党を勝たせてしまう日本人はどうなのでしょうか。
こんなに奴隷的な国民は世界中どこにもいないのでは。
最近、つくづく、日本人にうんざりしています。隣人が気持ち悪い。
端的なのが原発です。これだけの破局的事態を招いたのに原発を推進してきた勢力が何の反省もせずに、また動かそうとしている。
それに対して、怒る人もいるけど、多くの人はしょうがないとあきらめてしまう。奴隷なんですよ。
そして、奴隷の楽しみは、奴隷でない人、つまり怒っている人をバカにすることなんです。
バカだなあ、怒ったってしょうがないのにとせせら笑う。
そういう国民性をネット空間が増幅させて、最悪の状況になっている。
大学教員だってそうですよ。
公の場では本当に重要なことについては何も話さないようにするのが賢い振る舞いだと考える人が多い。
かつて軍国支配層によって国民全体が奴隷化されましたが、それが基本的に今も続いているのです。
――白井さんが書かれた「永続敗戦論」ですね。つまり、あの敗戦を認めず、終戦という言葉に置き換え、戦争体制が否定されないまま、今日に至っている。そこがドイツと決定的に違う?
ドイツと日本の最大の違いは、ドイツは2つの世界大戦で2度負けたが、日本は1度しか負けていないことです。
日本は戦後、民主国家の道を歩んだとか言っているが、ワイマール憲法も民主主義的な憲法でした。
その中でナチスが台頭したわけで、日本は長い戦間期を生きているような気がします。
ドイツの哲学者ヘーゲルは「重要なことは2度経験しないと本当には理解できない」と言っています。
不謹慎に聞こえるかもしれませんが、再度悲劇が起きなければダメなのかもしれません。
▽しらい・さとし 1977年生まれ。早大政経卒、一橋大大学院で博士、文化学園大助教を経て京都精華大専任講師。「永続敗戦論-戦後日本の核心」で石橋湛山賞。
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国際金融資本と明治維新、戦争責任と天皇制に関するページ。
「屈辱の日」、三日後「血のメーデー」
終戦からの米国依存と昭和天皇
日本の秘密:鬼塚
A級戦犯の代わりに罪を問われなかった最高責任者
永続敗戦論からの展望:白井聡
永続敗戦論、白井氏インタビュー
琉球処分から中国侵略戦へ、そして今
原爆は誰が投下したのか?
戦争責任も戦後責任も曖昧にした「昭和天皇実録」なる代物」
米国との開戦を無謀とし、アジア侵略を無視する「通説」
安倍が目論む戦前回帰、国際金融資本と天皇制
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歴史の捨て駒にされる日本
2015-05-11

歴史の転換期。ペルセポリス。
多極化への捨て駒にされる日本 5/10 田中宇
安倍首相が連休中に訪米した。
日本の首相として初めて米議会の両院合同会議で演説し、自衛隊が米軍のお供(家来)として世界中に出ていけるようにする日米安保の新ガイドライン(日米防衛協力の指針)が合意された。
安倍訪米時に締結されるかと思われたTPPの日米合意は実現しなかったが、外交安保面では、安倍政権や自民党、外務省など日本の官僚機構が以前から切望していた日米同盟の強化が大きく進んだ。
安倍自身と自民党、外務省は、訪米の成功に大喜びしている。
外務省など日本政府は冷戦後、米国が日本との関係を重視しなくなること、米国が日本を飛び越えて巨大市場となった中国と結束してしまうこと(クリントン政権はそれを試みた)を、一貫して懸念してきた。
日本が米国に見捨てられないようにするには、米国が外交軍事戦略の面で中国敵視を強め、日本が外交軍事的に米国と一体化する(外交軍事面で米国のいうことを何でも聞く)のが良いと日本外務省などは考えてきた。
日本政府にとって、今回の安倍訪米で実現した日米同盟の強化は早ければ早いほど良かった。
(日本の官僚機構は、誰が首相になっても官僚のいうことを聞かざるを得ないという独裁的な権力を維持するため、対米従属を必要としている)
(※ 北風の補足:対米従属による日米合同委員会が事実上国会や憲法を超越している。官僚はそこに権力の根拠を持っているので、例えば鳩山氏には従わなかった。)
冷戦後一貫して日米同盟の強化を望んできた日本側と対照的に、米国側は、日本の対米従属を容認しつつも賞賛せず「もっとカネ(防衛費、思いやり予算)を出せ」「後方支援だけでなく地上軍派兵しないとダメだ」「その前に農産物などの市場を開放しろ」「韓国と喧嘩しないで軍事協調を強めろ。靖国参拝するな」「海兵隊はグアムに撤退するが、それでも辺野古に基地を作れ」などなど、いつも不満げだった。
米国側は、対米従属強化を切望する日本側を延々とじらしてきた。
オバマは昨年4月の訪日時、安倍を好きでないことがにじみ出ていた。
日本は米国を熱愛し、米国はそれを受け入れていたが日本を愛していなかった。
今回の安倍の訪米が実現したのは、米国が不満げな姿勢を引っ込め、対米従属の日本を賞賛する姿勢に転じたからだ。
これまで「A級戦犯合祀の靖国神社に参拝するようなやつはお断りだ」と不機嫌だった米議会は今回、安倍に両院合同会議での演説という大きな栄誉を与えた。
米議会は、翻心の理由を何も説明していない。
安倍は、かねてから追いつきたいと思っていた小泉純一郎(訪米時に議会演説を断られた)どころか、祖父の岸信介(日米安保条約を改訂したご褒美に1960年に米議会上院で演説させてもらった)を超えてしまった。
昨春の女性セブンの調査で日本女性に嫌われる男の第1位に輝いた、あの貧相な安倍晋三が、だ。
貧相な男が、お店で「さすがシャチョー」とか「お兄さんイケメンね」などと賞賛されてうかつに喜んでいると、大体あとから法外な代金を請求される。
安倍さんはすでに嬉々としてお店に入り、オバマや米議会のもてなしを受けてしまった。
その対価は何なのか、これから何が起きそうか考える必要がある。
今回の画期的な安倍訪米がなぜ実現したか、その理由は、日本側でなく米国側に起因するはずだ。
日本政府が最近やったことのうちの何かが、米国側の態度を変えさせたのではない。
最近の日本側による最大の対米貢献は日本銀行のQE(円と日本国債を犠牲にしてドルと米国債を延命さす量的緩和策)だが、QEは今回の安倍訪米の議題でない
(日銀QEは表向き米国と無関係な日本経済自身のための策だから)。
日本がTPPで農産物などの市場を開放する見返りに安倍が賞賛されるのかと私は前に考えたが、TPPは締結まで至らず、それでも米国側から安倍を非難する声が発せられていない。TPPは脇役のようだ。
(※ TPPについては既に合意ができており、交渉している「ふり」をしているとの観測もある。)
米国の外交戦略を立案する奥の院であるニューヨークのCFR(外交問題評議会)は、安倍訪米と同時期に、安倍招待の意味を解説するかのような報告書を出した。
キーワードは「中国包囲網の強化」だ。
「対中戦略の見直し」(Revising U.S. Grand Strategy Toward China)と題するこの報告書は、中国の台頭によって米国がアジアから追い出されかねないので、中国の台頭を経済的、外交的、軍事的に抑止せねばならないと説いている。
経済面の中国包囲網としてTPPを創設し、外交軍事面の中国包囲網として日米安保体制の強化を筆頭に、米国と韓国、オーストラリア、インド、ASEAN、台湾との軍事協調を進めるべきと主張している。
経済や外交で中国の台頭を抑止できないなら軍事(戦争)でやるしかないという趣旨だ。
論文は、米国自身を覇権国とみなさず、逆に覇権(他国への隠然とした介入)を悪いこととみなし、他国の覇権拡大を阻止するのが米国の役目だと主張し、この理論をもとに、中国がアジアの覇権国になるのを阻止せねばならないと書いている。
実のところ今の世界で、民主化支援などの口実を作って他国に介入する覇権行動を最も多発しているのは、米国自身だ。
中国が台頭をめざすのは、中国と周辺国(日本や東南アジア、インドなど)との領土紛争で、米国が周辺国側に肩入れする覇権的行動をとっていることへの対抗だ。
この点で、この論文は偽善でウソつきなのだが、国際政治は古今東西、偽善ばかりなのだから、偽善性を非難するだけでは意味がない。 (CFR Says China Must Be Defeated And TPP Is Essential To That)
米国が日本との安保関係を強化したい理由が「中国包囲網」だというのは目新しい話でない。
しかも、中国包囲網は限界のある戦略だという点も、以前からよく指摘されている。
米国(米欧日)は、世界最大の消費市場になった中国、世界経済の牽引役となった中国と、本気で戦争することなどできない。
米国が「中国包囲網を強化する」「対中戦争も辞さず」と喧伝するのは、日本や東南アジアやインドに兵器を売りつけて儲ける策にすぎない、というのも良く言われることだ。
日本は、米国が安倍を招待・賞賛しなくても、米国に冷たくされても、米国の兵器を喜んで買い続ける。
兵器売り込みは、安倍招待の意図として弱い。
私が以前から注目してきたのは、包囲網を強化するほど中国の台頭が誘発される点、米国が中国を潰すと言って実は台頭させている隠れ多極主義的な傾向だ。
オバマ政権が2011年から始めた中国包囲網策(アジア重視策)は、09年に米国防総省が出した軍事戦略案「エアシーバトル」に依拠している。
この策は、中国とイランを仮想敵として、敵国が米国に軍事的な脅威を与える場合だけでなく、敵国が米国の侵攻を阻止する軍事力(接近拒否・領域拒否、A2/AD)を持つこと自体を妨害し、米軍がいつでも中国とイランを侵攻・破壊できる状態にしておくことを目標にしている。
中国やイランの軍事力は米国よりかなり弱いから、米軍の侵攻を受けると破壊される。
核戦争を除外して考えると、米軍の侵攻を抑止しうる国は世界でも少ない(ロシアぐらいだ)。
米国が黙っていれば、中国やイランは、米国より弱い状態でかまわないと思い続けるが、いったん米国がエアシーバトルの策を宣言し「いつでも中国やイランを侵攻・破壊できるようにする」と言ってしまうと、逆に中国やイランは、迎撃ミサイルや戦闘機、軍艦などの兵器を強化し、米軍が自国の影響圏内に入ってこれないようにするA2/ADの策を強めてしまう。
昨春以来のウクライナ危機で、この流れにロシアが加わった。
ロシアは米国との関係改善を模索していたが、自国の影響圏であるウクライナで米国が画策した政権転覆で反露政権が作られ、ロシアは米国との関係改善をあきらめた。
ロシアと経済関係が強かった欧州が米国に引っ張られて対露制裁を開始し、欧州との経済関係をあきらめざるを得なくなったロシアは中国に接近した。
米国はロシア敵視を強め、ウクライナ危機が長引くほど、ロシアは中国との戦略関係を強化し、石油ガスの主な売り先が中国になり、中国からロシアへの投資が増えただけでなく、ロシアは中国に積極的に軍事支援するようになった。
ロシアは、ウクライナ危機で親米策を捨てざるを得なくなったことで、逆に米国に気兼ねせず独自の非米的な国際戦略ができるようになった。
4月に米欧がイランに対する核問題での姿勢をゆるめると、そのすきにロシアは棚上げしていた迎撃ミサイルS300のイランへの売却を実施することを決め、その結果、イランの防衛力(A2/AD)が強まり、米イスラエルはイランを空爆しにくくなった。
米国は、ウクライナ危機を起こしてロシアとの敵対関係を強めた結果、イランに対するエアシーバトル策を自ら破綻させてしまった。
同様のことが、中国についても言える。
ロシアはS300よりさらに最新鋭の迎撃ミサイルS400を中国に売ることを最近決めた。
S400は、米国のパトリオットより迎撃力が強いと言われる。
安倍訪米直前の4月中旬、中国がロシアから4-6機のS400を買うことを昨年末に調印していたことが、ロシア側の発表で明らかになった。17年に配備完了予定だという。
ロシアは冷戦後、何度か新型の兵器を中国に売ったが、そのたびに中国がロシアの兵器をコピーして自国で生産し、ロシアから買わなくなるので、ロシアは中国に新型兵器を売りたがらなくなっていた。
ウクライナ危機後の中露接近は、そんな状況を大転換した。
ロシアは、戦闘機などの新型兵器を積極的に中国に売り、中国との戦略関係を強めている。
これにより、米軍に対する中国の防衛力(A2/AD)が急速に強化され、イランだけでなく中国に対しても、この数年間で、米国のエアシーバトル策が無効になりつつある。 (Russia Could Make China King of the South China Sea)
米国は、エアシーバトル策とウクライナ危機の両方を同時に進めたことで、中国、ロシア、イランというユーラシア大陸の内側にある3カ国が結束して、軍事的に、米国(米欧日)に対抗できる状態を誘発してしまった。
今年4月にイラン核問題の濡れ衣が暫定的に解かれ初め、中露イランの結束は今後さらに強まるだろう。
NATO(米軍)はすでに、これまでのロシア敵視戦略を拡大し、中露イランを一体のものとして見る新戦略を検討している。
中露イランは、NATOや米国から、一体のものと見られて敵視されるほど、結束を強め、相互の弱点を補完し、全体として強くなっていく。
米国が中国を敵視せず、南沙群島や尖閣諸島の国際紛争で中国の敵方(日本やフィリピンなど)に加勢して中国を刺激することを控えていたなら、中国はこれほど急いで軍事台頭や外交力の拡大を希求しなかっただろう。
中国は、内政や国内経済に問題点が多いので、中国自身は、もともと時間をかけた国際台頭を望んでいた。
米国の対中戦略は、中国の台頭を煽っている。
同じことは、軍事と外交だけでなく、経済の分野でも言える。
米国は2011年にいったんIMF世界銀行における中国(などBRICS諸国全体)の発言権(出資比率)を、中国(BRICS)の経済規模拡大に見合う形で拡大することを了承したが、その後中国を敵視する米議会がこの決定の批准を拒否したため、中国(BRICS)は、仕方なくIMF世銀体制に対抗しうる独自の国際金融機関を作った。
その一つがAIIBだ。
また、米国がTPPを中国包囲網だと強調するほど、中国は対抗してASEAN+5の自由貿易圏(RCEP)の創設を急ぐ。
RCEPは年内の創設をめざしている。
米国がアジア諸国を中国敵視の方に引っ張ろうとするほど、中国が脅威を感じ、対抗的に好条件を出してアジア諸国を米国でなく自国の側に引っぱり込もうとする。
米国が敵対を煽らなければ、中国中心のアジア経済圏の出現は20年がかりでゆっくり進んだだろう。
米国が敵対を煽るので、中国が急いで台頭する必要に迫られている。
米国勢は2012年に訪米中の石原慎太郎元都知事をけしかけ、日本政府を尖閣諸島の土地の国有化へと踏み切らせて以来、日本を中国敵視の道具に使う傾向を強めている。
米国では財界が中国との投資や貿易で儲けており、米国の議会や政府が直接に中国敵視策をやるのは限度がある。
だから米国は日本を経由する間接的な中国敵視を加速して、それにより中国に脅威を感じさせ、中国の台頭を急かしている。
この流れの中に今回の安倍訪米を置くと、米国が、日本を使った中国敵視の強化で、中国を台頭へと急かせる策を加速しようとしていると考えられる。
米国が安倍を訪米に招待した理由が、中国敵視を強化して中国を台頭へと急かす戦略であるとしたら、米国はなぜ今のタイミングで、中国を台頭へと急かせたいのか。
私が考えたことは、リーマン危機の再来として米国中心の債券金融システムの大きな危機が予測されていることとの関係だ。
今年に入って米国で、金融危機の再来を懸念する声が関係者の間で強まっている。
大口投資家の何人かが最近、金融危機の発生を警告したり、1980年代以来の債券市場の長い上昇期が終わりそうだと指摘したりしている。
数日前には、米連銀(FRB)のイエレン総裁自身が、米国の株価が非常に高い(高すぎる)ことと、米国の債券市場で金利高騰(価格暴落)の懸念があることを指摘した。
ちょっとした発言が株や債券のバブルを破裂させかねない中央銀行のトップ自らがこんな発言をするのは異例だ。
米国の債券金融システムの崩壊、米国債の金利高騰は、世界の基軸通貨としてのドルの地位を喪失させ、米国の覇権崩壊につながる。
中国など新興市場諸国も、きたるべきドルや米国債の崩壊の悪影響を受けるが、中国やBRICSは、リーマン危機直後からドル崩壊を予測し、中央銀行がドルや米国債による外貨準備を減らす代わりに金地金を買い貯めたり、IMF世銀体制の代用になるBRICSの緊急用基金を創設するなど、数年かけてドル崩壊後への準備を行ってきた。
巨大な金融危機の再来によってドルや米国覇権が崩壊するなら、その後の世界は中国主導のBRICSやイランなどによる多極型の覇権体制に転換していく。
この場合、BRICSやイランが、米国に頼らない世界体制を早く準備するほど、多極型への転換が円滑に進み、転換が人類に与える悪影響が少なくなる。
オバマ政権や前ブッシュ政権、米議会の好戦派は、911以来、過激な単独覇権戦略をやりすぎることで、戦略を失敗させて米国覇権を自滅させ、中露イランを結束させて多極化を進めようとする隠れ多極主義をやっている。
彼らは意図的に、世界の覇権体制を多極型に転換しようとしている。
転換するなら、世界に与える悪影響が少ない方が良いはずだ。
きたるべき米国の金融大崩壊で覇権体制が多極化する前に、日本をけしかけて中国敵視策を強め、ウクライナ危機を扇動してロシアを反米の方に押しやって中露を結束させ、米国に頼らない新しい世界秩序、つまり多極型の覇権体制を一足先に作る動きを中露に急がせる、それが米国中枢の隠れ多極主義者たちの意図でないかと考えられる。 (※ というより、欧米を牛耳る、国際金融寡頭勢力の意思と考えられる。)
米国は、ドル崩壊でいったん無茶苦茶になる。
米国ではリーマン後、中産階級が貧困層に転落し、ファーグソンやボルチモアなど全米各地で暴動がしだいに増えている。
米国は、しばらく混乱がひどくなるが、何年かかけて多極化がある程度進んだら、多極型の新世界秩序になじむ形に国是を転換し、その後は再び安定や経済成長を獲得するだろう。
米国はいったん自滅した後に蘇生する。
米国の中枢は、世界の覇権体制をリセットし、長期的に見た場合の世界の経済成長を確保しようとしているのだろう。
多極化は、資本家による、長期的、世界的な経済戦略と考えられる。
資本と帝国の相克の歴史が、その背景にある。
すでに述べたように、今回の安倍訪米に合わせて、米国の世界戦略を練る最高権威のシンクタンクであるニューヨークのCFR(外交問題評議会)が、中国敵視策の報告書を出した。
CFRは、ロックフェラー家を筆頭とする資本家が運営しており、以前から隠れ多極主義的な動きを繰り返してきた。
1972年のニクソン訪中によって中国を米国の敵から味方へと劇的に転換させたキッシンジャーは、ニクソンの大統領補佐官になる前、CFRの研究者として、対中和解策を練っていた。
米国は、中国包囲網として、北方からの包囲網である朝鮮戦争に続いて、南方からの包囲網としてベトナム戦争をやって失敗した挙げ句、キッシンジャー補佐官がニクソン大統領の対中和解策を打ち出し、米国を親中国に大転換させた。
ニクソン政権は、米単独覇権(米ソ2極の冷戦体制)を解体し「米欧露中日」の5極体制に転換する多極化を構想していた。
CFRは冷戦期、一方で軍産複合体による対中、対ソ敵視策を賞賛しつつも、いずれ転覆してやろうと考え、ベトナム戦争を泥沼化させた後、キッシンジャーとニクソンを政権に送り込み、電撃的な対中和解を実現し、冷戦構造に風穴を開けた。
CFRは共和党で、ロックフェラー家から大統領を出そうとしたがケネディ暗殺への同情で民主党が優勢になったため、キッシンジャーはCFRで4年待った。
CFRを作ったロックフェラー家は、第二次大戦時、多極型の常任理事国体制を持った国連の創設に金を出したうえ、山奥に追い詰められたゲリラでしかなかった国民党の中国を常任理事国にしてやった。
ロックフェラーは昔から親中国だ。
超好戦的な政策立案集団「ネオコン」の多くもCFRのメンバーだ。
ネオコンはブッシュ政権の中枢に入り、ニセの証拠でイラクの大量破壊兵器(WMD)保有をでっち上げて米軍にイラクを侵攻させ、あとからWMDのウソがばれて米国の国際信用が失墜する仕掛けを作りつつ、占領計画を何も作らず、占領を大失敗させて米国の軍事力を浪費させ、イランが漁夫の利でイラクを傘下に入れて台頭する構図を用意した。
これはまさに隠れ多極主義の戦略だ。
ベトナム戦争は、米国が、中国包囲網を強化すると言って稚拙で過激な策をやって失敗した挙げ句、ニクソン訪中で中国の台頭を容認する態度へと大転換した隠れ多極主義的な戦争だった。
イラク戦争も、米国の軍事力を浪費してイランの台頭を誘発する隠れ多極主義だった。
今回、安倍政権の日本を使って中国敵視を強める策も、隠れ多極主義的な展開になるだろう。 (日本をだしに中国の台頭を誘発する)
今回の安倍訪米で、米国側が戦後初めて明確に示したメッセージの一つは「米国にとって、対米従属一本槍の日本は、模範的な同盟国だ」ということだ。
これは、隠れ多極主義の文脈で考えると、アジア太平洋地域の他の親米諸国が迷惑に感じるメッセージになっている。
東南アジア諸国、豪州、韓国、インドなど、日本以外のアジア諸国は、まだしばらく覇権国であり続ける米国と、その後の多極型体制下でアジアの地域覇権国になりそうな中国の、両方とうまくつき合おうとしている。
日本以外のアジア諸国はここ数年、米国から中国包囲網を強化しようと誘われて「良いですね」と評価しつつ、その一方で中国との経済関係で儲けることも重視し、米国と中国のどちらを選ぶのかと米国から迫られても、どっちつかずな態度をとってきた (America and China are rivals with a common cause)
そんな中で、米国が、対米従属・中国敵視の安倍を賞賛することは、米国があらためてアジア諸国に対して「米国と中国のどちらを選ぶのか」「日本のように対米従属一本槍になれ」と迫る意味がある。
以前なら、このように迫られると、アジア諸国は中国よりも米国を選んでいた。
しかし3月末、日本以外のアジア諸国のすべてが米国の反対を無視して雪崩を打ってAIIBに加盟したことで、アジア諸国が米国より中国を選ぶようになったことが明らかになった。
その後になって、米国が安倍を米国に招待して賞賛し、アジア諸国に「日本のように反中国の対米従属になれ」と示唆してみせたところで、アジア諸国は、以前に増して迷惑に思うだけだ。
この事態は、米国がウクライナ危機を起こして米露敵対を扇動し、ドイツやフランスに「米国と一緒にロシアを敵視しろ」と迫ったのと似ている。
独仏は、仕方なく米国主導のロシア制裁につき合ったものの、欧露の経済関係を破壊しただけでなく欧露戦争まで起こしたがる米国に、独仏は愛想を尽かす傾向だ。
ロシアと独仏は、米国を除外する形で、ミンスクでウクライナの停戦合意を締結し「ミンスク」が米国抜きの欧露協調の新たな形の基礎になりつつある。
米国のロシア敵視策は、ウクライナをだしにして行われている。
同様に、米国の中国敵視策は、日本をだしにして行われている。
ウクライナも日本も、米国の隠れ多極主義の捨て駒として使われている。
(※ ウクライナも日本も国土が放射能汚染されてしまった国である。まさしく捨て駒だろう。)
米国が金融崩壊するなら、その前に日銀がQEでドルを支えてきた日本の国債金利が高騰し、財政破綻する。
安倍訪米で日米同盟が強化されたと喜んでいる場合ではない。
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小出氏インタビュー4/25集団疎開裁判の会
2015-05-11

【ふくしま集団疎開裁判の会・特別企画】社団法人日本外国特派員協会にて収録 4/25 「kiikochan.blog」から
https://youtu.be/3N0AleLL6DU?t=34s
被ばくの影響
質問者1:
まず、フクシマの原発事故なんですが、子供たち、特に健康面だけではなくて精神面にも、
たくさんの人に影響を及ぼしたと思うんですけれども、
中でも子供たちへの影響が多いと聞いていますが、どのような問題が考えられますか?
小出:
まずは、”子供”という生き物ですけれども、「放射線の感受性がとても高い」のです。
ごくごく平均的な、ま、たくさんの人々を、年寄りから子供まで集めてきて、
それぞれの放射線の危険度を平均化していって、
”平均的な危険度”というものをもし計算することができるとすると、
赤ん坊などは、その平均的な危険度の4倍も5倍も被曝の危険度が大きいという、そういう生き物なのです。
ですから、今福島原子力発電所の事故の後、
汚染地帯に子供も含めて捨てられてしまっているわけですけれども、
これから、被曝による影響というものが、様々な形で現れてくると思いますが、
その多くは子供達に現れてくるだろうと思います。
そして、そういう環境で人々が生活しているわけですから、
例えば、子供を持っている母親などは、
「自分の子供を被曝させないように」と、多分細心の注意を払っているだろうと思います。
そうなるとどうするか、というと、
「泥んこ遊びはしてはいけない」
「雑草に触れてはいけない」
「花が咲いていてもそれをとってはいけない」
というように、多分子供達を育てざるを得なくなっていると思います。
そうなれば、子供達からみれば、
単に被曝によって健康被害を受けるということだけではなくて、
子供らしく成長していくという、そのこと自身を奪われてしまうという、
今、「精神的な」とおっしゃったと思いますけれども、
そういうことも抱えながら、子供達が生きざるを得ないという状態になっていると思います。
質問者1:
「被曝」についてですが、福島の子供の甲状腺癌による病状が拡大しつつあるということを聞いたんですが、その現状について少し教えていただけますか?
小出:
人間が、放射線というものを発見したのは1895年です。
ドイツのレントゲンという物理学者が、実験中に不思議な光というものが出ていることに気がついて、
正体不明の光だということで「X線」という名前をつけた。
それが初めてだった、のです。
その頃は「放射線」というものが何だかもわからなかったわけで、
たくさんの学者や研究者が「その不思議な光、X線って一体なんなんだ?」ということで調べ始めるわけですし、
その他にも様々な放射線というものがあることにも気がつく訳です。
しかし、「放射線がどれだけ危険か」ということを彼らは知らなかった。
そのためにたくさん二歩と他人が死んでしまったり、
あるいは健康の被害を受けるという歴史をずーっと続けてきたのです。
そういうことを世界中の学者も研究者もだんだん気がついてきて、
放射線というものに被曝してしまうと、「様々な被害を受けるのだろう」ということがわかってきた。
そして、一番決定的な証拠というのは、
広島・長崎の原爆被爆者、の被害によって私たちの目の前に知らされたものなのです。
たくさん被曝をしてしまえば、もちろん死んでしまう訳ですし、
髪の毛も抜けてしまう、
火傷をする、吐き気をもよおす。
下痢をしてしまうというような、
被ばく直後からたくさんの被害が出るということが、すぐにわかりました。
では、そういうすぐに現れる被害だけで済むのか?ということで、
また研究が始まりました。
米国という国がABCCという研究所を広島と長崎に作りまして、
その研究所に、被爆者を、10万人近い被ばく者を集める訳です。
そして被ばくをしていなかった人たちも集めまして、
健康調査を1950年から始めました。
そして長い間、被ばく者と被ばくをしていない人たちの間にどんな健康被害の差が出るだろうか?
ということの調査を続けたのです。
その調査というのは、被ばく者、あるいは非被ばく者というのをABCCの研究所に呼び寄せて調査をするのですが、決して治療はしません。
治療をしてしまえば、データにならないのですね。
治療をしないでほったらかしにしておけばどうなるか?ということを彼らは知りたいのですから、
健康の診断はするのだけれども、治療は一切しないという調査をずーっと続けたのです。
で、その結果何がわかってきたか?というと、
被ばくというものは直後に影響が現れなくても、いずれ白血病が出てくる、ということが始めにわかりました。
その次には白血病だけではなくて、その他のガンも増えている、ということがわかりました。
さらに長く調査を続けていけばいくだけ、爆心地から離れて、被ばく量が少なかった人たちの中にも癌や白血病が増えてきているということがわかってきたのです。
最近になっては、癌や白血病だけではない、循環器系の病気であるとか、様々な病気が、やはり被ばく者の中に多いということがわかってきているのです。
でも、まだまだ分からないことというのはたくさんあるのです。
これからまだまだ被ばく者という人の調査を続ける訳で、でも、何れにしても何十年か経てば、被爆者の方々も亡くなってしまって、結局調査もあるところで行き詰まってしまうということになるのですが、
私自身は、どんな病気も生じるだろうと思っています。
私はもともと物理的なものを専門にしてきた人間ですけれども、
放射線が持っているエネルギーというのは、生き物が自分の体を維持するための化学結合。
ケミカルな結合を支えているエネルギーに比べれば、10万倍も100万倍も高いという、そういうエネルギーを持っていますので、
放射線に被ばくをするということは、生命体にとってありとあらゆる被害を受けるだろうと思っています。
現在福島県では、子供達の間に甲状腺癌というのが出ているわけで、
出て当然だろうと、私は思います。
ただ、因果関係というものを確定するまでには、まだまだ長い間の調査をしなければいけないと思います。
それに対しては国の方は「今出ている甲状腺癌は被ばくとの因果関係はない」というようなことを言っているわけですけれども、あまりにもサイエンスからかけ離れた主張強調文だと思います。
何よりも必要なのは、きちっとした調査をするということだと、私は思います。
質問者1:
原発事故後から今日まで被害を受けた方々の、特に子供達に対する調査もですけれど、
医療サポートだとか、その重要性とか必要性、あと問題点について少し教えてください。
小出:
まず、何よりも必要なことは、
本当であれば、子供達を汚染地帯から避難させる、移住させるということなのです。
「被ばくをしてしまえば、もちろん体に傷がつく」というのは今聞いていただいた通りなのであって、
本当であれば子供たち、せめて子供達は逃がさなければいけないということをやるべきだと、私は思います。
残念ながらこのデタラメな国はそれをやらないで、子供も含めて汚染地帯に捨ててしまっているわけです。
そうなれば、仕方がない。
やはり調査をして、子供たちにどんな被害が出るのか?そしてどうやればそれをサポートできるのか?
ということを考えるしかないと思います。
1年間に20ミリシーベルトまでは帰還させる
質問者1:
事故直後から現在まで、放射能汚染はどれくらいひどいと思いますか?
私達も少し、わかりにくくて、そこがちょっとわからないんですけど。
小出:
日本というのは法治国家と言われてきたのですね。
国民が法律をもし破るようなことをすれば、国家が処罰すると言ってきた。
悪い奴がいれば刑務所に入れちゃうから、街には悪い奴はいない。
安全で安心な国なんだと、日本の国が私達にそういうふうに言い続けてきたわけです。
それならば法律を決めた国家が、自分の決めた法律を守るのは最低限の義務だ、と私は思います。
そして、日本の国家が作った法律、被ばくに関する法律はたくさんあったのです。
例えば、普通の皆さんは1年間に1mSv以上の被ばくをしてはいけないし、させてもいけないという法律がありました。
それから、私自身は先ほどもちょっと聞いていただきましたが、
京都大学原子炉実験所という特殊な職場で、原子炉や放射能を相手に仕事を続けてきた人間なのです。
放射線業務従事者という、法律的なレッテルを貼られた人間です。
その私が放射性物質、放射能を取り扱って仕事をする、実験をしようと思えば、こういう、例えば普通の場所ではできないのです。
私がそういう仕事をしようと思うときは、放射線管理区域という中に入って、その場所でしか仕事ができない、という場所なのです。
そういう場所には普通の皆さんはまず、入ることすらができない場所です。
私のような放射線業務従事者であっても、その場所に入ったら最後水すら飲んではいけない。
食べ物も食べてはいけない。
トイレもありませんから排泄もできない、という、そういう場所が放射線の管理区域なのです。
私は仕事柄仕方がないので、そういう場所で仕事をしてきました。
そして、放射線管理区域の中で仕事を終えて、外にもちろん出てくるわけですけれども、簡単には出られないのです。
放射線管理区域の入り口にあるドアはいつも閉まっています。
そのドアを開けるためには、まず私自身の体が汚れていないかどうかということを測定しない限り、ドアは開かないのです。
なぜなら、私の体が汚れていて、管理区域の外にでてしまえば、普通のみなさんが生活をしているわけで、普通の皆さんをまた被ばくさせてしまう。
そんなことはいけないことなので、体が汚れていないかをきちっと測定しない限りはドアは開かないということになっているのです。
では、その時の基準というのはどのくらいの汚れなのか?というと、
1平方メートルあたり4万ベクレル、というのが基準です。
ですから、私の実験着が1平方メートルあたり4万ベクレルを超えた放射能で汚れていれば、ドアが開かないのです。
ですから私はそこで実験着を脱いで、放射線管理区域の中で、放射能で汚れたゴミとして、私の実験着を捨てる以外ないと、そういう場所なのです。
持ち込んだ実験道具が汚れていれば、もちろんそれも捨てるしかないという。
それが放射線管理区域の基準だったし、日本の法律がそう定めていたのです。
しかし、福島第一発電所の事故以降、広大な地域が放射能で淀れてしまって、
放射線管理区域の基準以上に汚れている地域は、おそらく面積にして1万4000平方Kmあります。
福島を中心とした東北地方、あるいは関東地方の一部というような地域が、それだけ汚れてしまっているのです。
ところが日本の国は、もうどうしようもない。
1平方メートルあたり60万ベクレルというような、猛烈な汚染地帯はさすがに人々は住めないので、強制避難させるということにしたのですけれども、
それ以外のところは、現在は原子力緊急事態だ、ということで、もう人々をそこに捨てる。
「逃げたい奴は勝手に逃げろ」ということをやってしまったわけです。
今は「一度逃げた人々も帰還しろ」と言っているわけですけれども、
その帰還の基準というのは、「1年間に20ミリシーベルトという被ばくまでは帰還しろ」と、日本の国が言っています。
その数字は一体なんなのか?というと、
私のような放射線業務従事者に対して、初めて許された被ばく量が1年間に20ミリシーベルトです。
それは、私のような特殊な人間が、仕事をすることによって給料をもらう。
それと引き換えに、「ここまでは我慢しろ」と言って決められた基準あのであって、
普通の人々にそんな基準を押しつけるというのは、到底許してはいけないことですし、
特に、被ばくに感受性の高い子供達にそんな基準を許すということは、私はありえないほどの暴挙だと思います。
子供達をとにかく逃す
質問者1:
そんな中、福島の方々の避難の必要性とか重要性とか、少しお話しされましたけれども、
そういう中で生活している子供達の避難する権利だとか、生きる権利、人権についてはどう思われますか?
小出:
私、実は「人権」という言葉が嫌いなのですけれども、
でも、子供達を被ばくから守るということは、大人たちの最低限の義務だと私は思っています。
なぜかといえば、原子力の旗を振ってきた人、
電力会社であるとか、国であるとか、そういう人たちには猛烈に重たい責任があるわけで、
私は「彼らは犯罪者だ」、と呼んでいますし、「彼らを処罰したい」と思っています。
重大な責任のある人は、まず刑務所に入れなければいけないと思っています。
そして私にしても長い間原子力の場で生きてきました。
原子力の旗は決して降りませんでしたけれども、原子力の場で生きてきた人間として、普通の皆さんに比べれば重たい責任があるだろうと思います。
でも、普通の皆さんは何のでき人もなかったのか?といえば、私はそうではないと思います。
原子力の暴走をここまで許してしまった。
世界一の地震国に58基もの原子力発電所を建てさせるまで、漫然とそれを許してきたということに対して、すべての日本人には責任があるだろうと、私には責任があるだろうと思っています。
しかし、子供に関する限りは、一切の責任もない。
原子力の暴走を許した責任もないし、
福島原子力発電所の事故を引き起こしたことに関しても、子供には責任はないわけです。
おまけに先ほどから聞いてきていただいたように、子供というのは放射線に大変敏感なわけです。
何としても子供達を被ばくから守るということを今、日本の大人たちはやらなければいけないと思っています。
ただ、残念ながらさっきも聞いていただきましたが、
この日本という国は、本当であれば、法律を守るのであれば、人々をそこに立ち入らせてはいけない。
私のような人間が入っても、水すら飲んではいけないという、そういう場所に子供も含めて捨ててしまっているのです。
そうなれば、なんとか子供達の被ばくを少なくさせなければいけないと、私は思いますので、
今日この会を開いてくださっている皆さん、疎開裁判をしてくださっている皆さんたちが求めているように、子供達をとにかく逃すと、どんな形であっても逃すというようなことを、大人の責任としてやるべきだと思います。
ひとりひとりが自分の現場で差別に抵抗して戦う
質問者1:
それと少し関係しているんですが、事故後4年経って、このような状況の中で、私たち、学生も含めて大人だったりとかは、どのようにこの原発事故後の状況に対して向き合っていけばいいですか?
小出:とても難しいご質問だと思います。
質問者1:私たち学生にもできることがあったら、ということで。
小出:
そうですか。
もちろんあるだろうと思います。
福島第一原子力発電所の事故、そのことに責任のある人たちというのは、私は、日本の国家の中枢を支えてきた人たちだと思いますし、電力会社、原子力産業の人たちだと思います。
そういう人たちを、先ほども言いましたが、「処罰したい」と、私は心底思っていますが、
残念ながら彼らは、誰一人として責任を取っていないし、処罰もされていないのです。
「大変不思議なことだな」と、思いはしますけれども、
でも「この日本という国は、どうもそういう国なんだな」と、思うようになりました。
というのは、昔というか、何十年か前といったほうがいいのかもしれませんが、
日本というこの国は戦争をしていたのですね。
日本には現人神(あらひとがみ)である天皇陛下がいて、
「神の国だから決して戦争には負けない」と言って戦争を始めて、
そして大本営というものを作って、マスコミも含めてみんなが戦争に突き進んでいった。
結局戦争に負けたわけですけれども、ほとんど誰も責任を取らない。
で、戦後の歴史が始まっているわけです。
一般の人たちは「大本営発表に騙されたんだ」と。
「悪かったのは軍部で、自分たちは騙されただけだ」ということで、
それまでは「鬼畜米兵」だと言っていたものが、いっぺんに「民主主義だ」と言い出して、コロリと変わってしまって、本当に何を自分たちがやったのか?という反省をしなかったと私は思います。
戦争中でも、確かに誰も戦争を止められなかったけれども、戦争に反対した人たちはいたのです。
そういう人たちは軍部につかまって、特高警察に捕まって殺されていったわけですし、
そうでない人というのは、ごく普通の日本人が「非国民」というレッテルを押して、一族郎党抹殺していったという、そういう歴史を辿ってきたわけです。
そういうごく普通の日本人達が、戦争が終わってしまったら「ただ騙されただけだ」と、「自分たちは悪くはなかった」と言って逃れてしまったんだと思います。
そして福島第一原子力発電所。
今、こんな悲劇を起こした責任のある人たちは、誰も責任を取らない。
そして一般の人たちも「なんか騙されたんだな」というぐらいに気がついている人たちはいるかもしれませんが、
それでも、本気で原子力を止めようとしている人たちが多いとは、私には見えないのです。
残念ながら日本で原子力発電を許してきた、というか、58基の原子力発電所の全てに認可を与えたのは、自由民主党という政権です。
そして今でも選挙をすれば自由民主党が、ま、選挙制度の問題もあるけれども、それでも政権の政党になってしまうということになっていて、一般の国民にもまだまだ福島第一原子力発電所に対しての責任の取り方がわかっていないと私は思います。
そして、「じゃあ何ができるのか」ということですけれども、人々というのは多様な存在ですね。
私自身は、ある時に原子力に夢を持ってしまって、この場に足を踏み込んだ人間ですので、
そういう場に足を踏み込んだ人間として、私にできること、私にしかできないこと、というのがあると思いますので、それを今までもやってきたつもりですし、これからもやりたいと思っています。
ただし、原子力の問題というのは、単に原子力の安全性、機械としての工学的な安全性という問題ではないのです。
先ほどから聞いていただいたように、責任がある人間が、責任を取らずに逃げ延びてしまうというような、そのような不当な行為をやはり許してはいけないということだと思いますし、
そういうことは、私は一言で言うと「差別」と呼んでいるんですけれども、
そういう問題というのは、原子力の場だけではなくて、どこにでも存在しています。
誰かさんが学生であれば、学生であるという、その存在している場にも不当な差別というのはたくさんあると思いますので、ひとりひとりの方が自分の現場で差別に抵抗して戦うということをやってくださるのであれば、私が今戦っている原子力の問題と必ず繋がってくるだろうと思います。
ひとりひとりの人間がそうしながら、きちっと自分の責任を果たすのだという社会ができれば、原子力なんて簡単に止まるはずだと私は思いますし、子供達の被曝を防ぐことだって、簡単にできるだろうと思います。
定年退職
質問者1:
その中で小出先生が今までされてきた活動と、あとこれからどんな活動をする予定があるのか教えてください。
小出:
私は京都大学原子炉実験所というところにいて、原子力のことを研究するというのは私の仕事だったわけですから、私はひたすらその研究を今日までしてきました。
ただし私は原子力を進めるための研究はしなかったつもりです。
原子力なんていうものをやってしまうと、どんな被害が出てくるのか?
どんな危険を人間が抱えなければいけないか?
ということに関して、私が原子力の現場でできる研究というのをこれまでやってきたのです。
それは、原子力発電所が今枠的にどんな危険を抱えていて、もし事故になればこんなことになるだろうということを調べることも、私の研究のテーマでしたし、
そのためには原子炉実験所という特殊な職場にある様々な測定器を駆使して、その仕事に当たるということをやってきました。
ただし、先ほど聞いていただいたように、私は3月末で京都大学を退職しましたので、それまで使えた膨大な研究機器というものをもう使うことができない、という立場になっています。
それに私は定年退職となったわけです。
ま、定年退職というのは、単に雇用関係が切れるというだけのことであって、社会的な制度ですから、
私という個性を持った生き物にとっては、たいして大きな意味はもちろんないのです、定年退職ということに関しては。
ただいま聞いていただいたように、それまで使っていた膨大な機器が使えなくなったということは、一つありますし、
もう一つは、生き物として私も必ず年老いていく。
そしていつか死ぬというのは避けられないことなのであって、定年ということを機に、私も生き物としての自覚を新ためて持たなければいけないと思っていますので、
これまでも私は、自分しかやらない、自分にしかできないという仕事だけに自分の力を傾けてきたつもりなのですが、
これを機に、自分にしかできないという仕事を、より厳選しながら、生き物としていずれ死ぬということを自覚しながら、少しずつ退いていこうと思っています。
甲状腺癌と被ばくとの因果関係
質問者2:
今までおっしゃったことについて、質問を3点あります。
まずは、わからなかったことなんですが、
さっき先生が、「被ばくでどんな病気が出てもおかしくない」っておっしゃったとおもいますが、
それだと結構長い時間にわたって病気が出て、そこにどうやって甲状腺に関係しているかわかるんですか?その病気が。
小出:甲状腺癌が被ばくとの因果関係があるかないか、ということがどうやったらわかるか?ということですか?
質問者2:そうです。
小出:
まずは原爆被爆者で白血病や癌が増えている。
あるいは循環器系の病気が増えているということがわかってきた、ということは、
疫学という学問の調査結果なのです。
それはどうやって調べるかというと、
被ばくをした人と、被ばくをしなかった人たちというのを、同じような年齢集団で作って、
それを長い間調べていくことで、こちらの集団とこちらの集団で健康被害に差があるかないかということを調べて、ようやくにしてわかるという、そういう学問の世界なのですが、
福島の甲状腺癌に関しても、被ばくした子供たちを被ばくの度合いによって、分類をしていく。
そして一方に被ばくをしなかった子供たちというのをまた調査集団として作って、
それを長い間調査していって、「被ばくをしている子供達の方に甲状腺癌が多い」ということを見つけるというやり方が疫学というやり方です。
それは私はやらなければいけないと思っていますが、大変時間のかかる調査ですし、私たちが交絡因子(こうらくいんし)と呼んでいる、非常に人間という生き物はいろんな危険にさらされているわけで、放射線の被ばくだけではないわけですね。
そういう他の危険をどうやって切り落としていって、被ばくの影響だけ見つけ出すのかというのがなかなか難しい分野でして、これから長い年月たくさんの子供たちを調査しない限りは、因果関係の立証は難しいだろうと、私は思います。
そして国の方は、それをやりたくない。のです。
国の方は自分たちの責任ということを認めたくないわけですから、なるべくならごまかしてしまおうと思っているわけで、調査自身をやりたくないと思っているだろうと思います。
なんとか調査をきちっとやらせるような方向でいきたいと思っています。
それから、他にも多分手段はあるだろうと思っているのですが、
ま、今は私にはよくわかりません。
癌というものも、ある種の遺伝子が関係しているということがわかっていて、放射線によって遺伝子が傷ついて、それによって癌が発症するということも、少しずつはわかってきているわけですし、
これからは、甲状腺癌というものが、被ばくによって生じる甲状腺癌と、そうではない甲状腺癌というものを遺伝子の分析によって区別することができるというようなことが、これからの学問の進歩でできるようになるかもしれません。
そうなれば、今福島の子供達、たくさんの子供たちが甲状腺癌になっているわけですけれども、
その因果関係をもっと明確に言えるようになるだろうと期待しています。
因果関係を確定するためにも調査は必要
質問者2:
二つ目の質問は、先生が今おっしゃったことに関連していると思いますが、
こういうリサーチとか研究以外に、国にはどういう政策が必要だと思いますか?
福祉でも医療サポートでも、どういう、被ばく関連の政策が必要だと思いますか?
小出:政策ですか?
一番いいのは先ほどから何度も聞いていただいているように、被ばくさせないことです。
まずは。
逃がさなければいけないのです。
被ばくをさせてしまった後は、きちっと調査をするということ。
それは因果関係を確定するためにも調査というのは必要ですし、私の場合にはさきほどABCCの例をひいて、
「ABCCは疫学的な因果関係を証明しようとして治療は一切しなかった」
ということを聞いていただいたわけですけれども、
私はそんなことは到底許せないと思いますので、「調査をしながら確実に治療もする」ということをやらなければいけないと思います。
それによって疫学的な研究の信頼性というのが失われるかもしれませんけれども、そんなことを言っている場合ではないと思いますので、きっちりと調査をしながら治療もして、なおかつ疫学的なデータを得られるようにするべきだと思いますし、そのための組織、そのための資金というものをきちんと国家の方で手当てをするべきだと思います。
謝罪
質問者:
最後なんですけど、質問より、先生から原発事故で被ばくを受けた子供たちとか被ばく者とかにも、みんなに向けてメッセージを送って欲しいんですが。
小出:
すみません。
そういうふうにみなさんにメッセージを送れるような立場に私はないと自分で思っています。
先ほども聞いていただきましたように、私は原子力の旗は決して振りませんでしたけれども、
それでも原子力の場にずーっといた人間として、今回の事故についても重たい責任を持っている一人だと思いますので、私から被害を一方的に押し付けられている子供達、あるいは今汚染地帯で苦しんでいる大人の人々に対して、そういう立場の私から何かメッセージを届けるという立場には私はないと思います。
もし届けるメッセージがあるとすれば、「大変申し訳ないことになってしまった」ということで謝罪をしたいと思います。
日本ではサイエンスに携わっている人は権力に弱い
質問者1:
世界的な観点からということで、海外の科学的な、サイエンスの研究としてのアプローチと、日本のアプローチ。
放射能に対してですが、それが違うのか?という質問が一つと、
二つ目は、日本で今起きていることが、日本はちゃんと世界に伝えられているのかどうか?
小出:
はい。
1番目のことですけれども、
サイエンスという手法は世界共通です。
日本であろうと外国であろうと一緒であって、とにかく真実を知りたい。
今までわからなかったことに対して真実を知りたいというのがサイエンスの目的ですし、
そのための手法は一律であるべきだと思います。
ただ残念ながら、この日本という国では、サイエンスに携わっている人間が、権力に弱いです。
ですから、国家が原子力を進めようとしているときに、その国家が進める原子力に抵抗しようというサイエンティスト、学者がほとんどいないという、そういう状態になってしまっているという。
それが多分外国との違いだろうと思います。
二つ目の日本での出来事が外国に対してきちんと発信されているか?といわれれば、もちろんされています。
私がこの場に来た、外国特派員協会に来た理由もその一つだろうと思います。
先ほども聞いていただきましたけれども、かつての戦争の時、日本では大本営発表という発表しか無かった無かったのです。
日本は絶対に戦争に勝てると言ってきたわけですし、教育の現場でも教室に天皇陛下の御真影を飾って、校庭には奉安殿というのがあって、ま…、戦争にみんなを駆り立てた。
誰も本当のことを言えなかったという、そういう時代がずっとあったわけですし、
福島原子力発電所の事故以降もすーっとそうです。
きちっとした事故の状況、情報を日本の国家は報道しませんでした。
学者に対しても箝口令を敷きました。
個人的に考えていること。
集めたデータを発表してはいけないということで、
私のいる京都大学原子炉実験所でもそういう指示がきましたし、
全国の大学にもみんな行ったと思いますし、
大学どころか、他の研究機関にはもう、初めから発表する機会すらがないという、そういう状態できたと思います。
私はたまたま京都大学という、日本の中では、多分1番2番を争うほど自由な校風の大学にいましたし、
そのうちの原子炉実験所という、遠隔地と呼ばれている、統制のきかない職場にいた、ということもあって、
私自身は国からの指示を、ま、受けずに。
受けてもはねのけることができるという立場で発言を続けてきましたが、
その私にしても貴重な発言の場であった”たねまきジャーナル”というラジオ報道の番組を番組ごと潰されてしまうというようなことにもなりました。
そういう意味では、日本というこの国は、きちっとした情報は国内に対しても、また国外に対しても、発信されていなかったし、これからもされないと私は思います。
国際的なサイエンスの連帯
質問者3:
これからの、例えば日本の政府とかジャーナリズムであるとか、そういうのがきちんと機能していないと。
外国に正しいことを伝えていない。
それから日本の市民運動が、外国の、例えば国際社会とか、一般の市民の方になかなか知られていないとか、
そういうことが多分あって出てくると思うんですけれども、
あと、海外の科学者の方との連携。
それを市民が中心になって日本の科学者の方と外国の科学者を連携させて、
とにかく国際社会の連携を市民を中心にやっていくのが重要かなと僕は思うのですが、
そのアイディアというか可能性というか、そういうのはどう思われますか?
たとえば、小出先生が外国の科学者の方と連携を。
この放射能の被曝のことを科学的に共同で何かをやっていくという、
それを市民が一緒に協力して、日本の市民と外国の市民が一緒に協力してそれをオーガナイズ(organize:計画する)していくというやり方がすごく好きなんです。
やりたいな、っていうふうに思うんですが、それについては?
小出:
多分やり方は色々だろうと思います。
たとえばいまおっしゃった活動というのは、たとえば日本では市民科学者国際会議という国際会議をずっと続けてきていて、私自身もその国際会議で話をしてきましたし、
他の市民グループの人たちも、たとえば世界の被ばく者問題を、核被ばく者問題を取り扱おうという人たちが、ずっと活動を続けているし、
その人たちも今年の10月11月に大きな、国際的な科学者の集まりを市民レベルで実現させようとしています。
この間私はそのプレ企画で話に行きましたし、貴重なやり方だろうと思います。
でも日本というこの国では、なかなかそういう活動って育ってこなかったし、
私自身も、実はそうですけれども、外国語というのが実はものすごい苦手で、
そういうつながりというものを自分で作っていこうという余力が今のところは無かった。
私に関しては無かったのです。
でも今、若い人たちが、外国語が堪能な若い人たちがたくさん育ってきてくださっているのですから、
そういう人たちが中心になって、いわゆるサイエンスの国際的な連帯のサポートをするという活動は、大切なことだろうと思います。
日本のマスメディア
質問者4:
40年ぐらい活動をされてきたわけですけど、日本のマスコミ、マスメディア。
あるいはジャーナリズムというものの、核に対する取り組みっていうものには変化があったんでしょうか?
それともすっと変わらずに来ているんでしょうか?
小出:全然変わりません。
質問者4:全然変わらない。
小出:はい。
質問者4:
で、今のマスコミの現状というのは、そういう意味ではどういうふうにご覧になっていますか?
小出:
マスコミ総体としては全くダメですね、日本のマスコミは。
でもマスコミの中にも、もちろんどの、
NHKにしても、中にはやっぱりきちんとものを考える人たちがもちろんいるわけですし、
多分読売新聞だって、産経新聞だって、その中にはきちっとものを考えてくれる人はいるだろうと思います。
ただ全体としてはどんどんどんどん悪い方向に、今マスコミ全体が落ちていっていると思いますし、
それはまぁ、安倍さんを筆頭とする自民党が情報をどんどん統制していくということをやっているわけですから、
「これからますます悪くなっていくんだろうな」と私は思っています。
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