QE(量的緩和)の限界で再びドル崩壊の予測:田中
2015-03-12

QEの限界で再出するドル崩壊予測 3/11 田中宇
2006-08年に起きた、米国中心の国際債券金融システムのバブル崩壊(リーマン危機)以来、世界の金融システムは長い延命期が続いている。
米政府は当初、バブルを生みやすい金融システムの改革(透明度の向上)を掲げ、米議会はドット・フランク条項を10年に立法したが、同法は、運営の詳細を決定する際、金融界によって骨抜きにされた。
金融システムは、当局からの資金注入(QE)で何とか延命している状態で、本気で改革したら再崩壊や世界経済のさらなる悪化をもたらす。改革できる状況でない。 (Global Bankers' Coup: Bail-In and the Shadowy Financial Stability Board)
債券を中心とする国際金融システムは、改革どころか、延命策を維持するのも難しくなっている。
延命策の主体はQE(量的緩和策)で、中央銀行が通貨を大増刷して債券を買い支え、債券需要の減退を形だけ防いで金利上昇を食い止める策だ。
買い手がいない債券を中央銀行が通貨発行して買うQEは、市場原理から見て不健全だ。
短期間なら「中央銀行が買い支えているのだから安心だ」と考える投資家がつられて債券を買うが、中央銀行がQEをやめたら債券の暴落が必至なので、投資家はしだいに債券を買わなくなり、QEの効果が落ちる。
需要のない債券を抱え込む中央銀行に対する信用も落ちる。
QEは長く続けられない。
米国の中央銀行である米連銀(FRB)は08年からQEを断続的に行ったが、不良債券をこれ以上抱えられなくなり、昨年10月にいったんやめた。
同時期に米国から頼まれてQEを急拡大したのが日本銀行で、日銀のQEは、日本の株や債券を押し上げるだけでなく、為替市場を通じてドルに転換された資金が米国の債券や株の相場をつり上げた。
しかし今年1月末から、日銀がQEをやっても日米の債券(国債)の価格が下がる(金利が上がる)現象がみられ、日銀のQEは早くも効果が薄れてきたのでないかと懸念されている。
昨年から、日銀のQEは米連銀のQEより効果が薄いと指摘されていた。
すべての債券の原点と考えられている10年もの米国債の金利が3%を上回る状態が続くと危険だとされている。
国債金利の高騰が続くと政府は財政破綻する。
社債の金利上昇は、発行企業の信用喪失を示す。
10年もの米国債の金利は、昨年初めに3%超まで上がったが、その後米日のQE続行で1・6%台まで下がった。
しかし2月から反騰して2・2%台まで上がっている。
マスコミは米国債の金利上昇を、米国の景気回復を示すものと「解説」しているが、景気が米国より悪い日本や英国でも、米国と同様の国債金利の動きになっている。
金利上昇の原因は、景気よりもQEの効力低下だろう。 (10年もの米国債利回り)
そもそも米国の景気回復は粉飾的だ。
失業率が6%台から5・5%に下がってきたことが景気回復の根拠として示されているが、失業率の低下は統計上「失業者」の枠から外れる長期失業者が増えた結果でしかない。
実際の米国の雇用市場は、原油安で採掘をやめる石油ガス田が増えたエネルギー業界で大量解雇が進み、小売店の閉店も相次いで、むしろ雇用減の傾向にある。
米国で週30時間以上働ける仕事があるのは全成人の44%しかいない。 (Hallelujah! - Unemployment Plunges Due to 354,000 Americans Leaving the Workforce)(米雇用統計の粉飾) (揺らぐ経済指標の信頼性)
米国では、納税している企業の総数が毎年6万社ずつ減り、40年ぶりの少なさの160万社になった。
企業総数は1986年から100万社減った。
毎年の企業数の減少(赤字転落・廃業)数は、リーマン危機を境に、4万社から6万社に加速した。
米経済は回復しておらず、長期の凋落傾向にある。
リーマン危機前は、金融界の儲けが他の経済分野に波及していたが、危機後はそれもなくなった。
金融界すら、リテール(庶民対応)を縮小してQEに依存して儲ける傾向なので、人員削減を続けている。 (Number of Corporations in U.S. Hit Lowest Level Seen in 40 Years)
金融界は米国の今年の経済成長率を3%と予測してきたが、最近、米連銀内から、現在の成長率は年率1・2%しかないとする分析が発表された。 (GDP Shocker: Atlanta Fed Calculates Q1 Growth Of Only 1.2%)
2月からの金利上昇を危険な兆候ととらえ、金融危機の再燃や、ドルの基軸性の喪失、米国覇権の崩壊、中国の台頭(人民元の国際化)など多極化を予測する指摘が最近増えた。
予測は、有名な権威筋ほど示唆的な曖昧な言い方で、在野・無名の人ほど過激で露骨な言い方をするのが通常だ。
有名筋どころでは、英国の投資家ロスチャイルド卿が、通貨の不安定、世界的な低成長に加えて、地政学的な危険さ(米露関係など)が第二次大戦以来の高さになっており、QEで株価が天井に達して資産価値の維持が難しくなっていると指摘している。 (Geopolitics most dangerous since WWII, Lord Rothschild warns investors)
ドルの発行者である米連銀は、日欧の中央銀行を巻き込んでQEを続け、ドルと米国債の価値を維持しようとしている。
「ドル高は米経済の強さを表している。ドルや米経済が崩壊するはずがない」という、よくある見方は、ドル高がQEという持続困難な策によって不健全に維持されていることを忘れている。
QEをやらなければ、すでにドルや米国債は世界経済を巻き込んで崩壊していた可能性が高い。
QEは、長くて数年程度の延命策でしかなく、QEが効かなくなった後の金融崩壊はQE前よりひどいものになる。
リーマン危機直後の初めてのG20サミットで語られた「ブレトンウッズ体制の終わり」が、また議題になるだろう。
(「ブレトンウッズ2」の新世界秩序)
権威筋なのに、過激で露骨な言い方を最近繰り返しているのは、米国のグリーンスパン元連銀議長だ。
彼は昨年末、ドルを「幽霊通貨」と呼んでQEを批判し、金地金相場の上昇を予測した。
最近では、米国の景気が粉飾されていることを示唆して「株価は明らかに高すぎる」と述べ、金利が上がり出すとバブル崩壊の可能性が高くなると言って、債券金融バブルの大きな崩壊と超インフレが近いと予測している。
すでに述べたように、米英日の国債金利は1カ月前から上昇傾向にある。グリーンスパンの言うとおりなら、いつバブル崩壊が起きても不思議でない。 (Alan Greenspan Warns of Explosive Inflation: "Tinderbox Looking For a Spark")
今週からEUの中央銀行(ECB)がQEを開始(拡大)した。
とたんにドルと米欧の株価が高くなり、金相場が急落するという、QEの典型的な反応が出た。
日銀のQEの効果が下がるのにあわせてECBがQEに参戦したことにより、QEは全体的に再び効果のある政策として蘇生した感じだ。
QEが効いている以上、ドルや債券システムの崩壊は先延ばしされている。
グリーンスパンやロスチャイルド卿(両者は昔から親しい)の予測は「外れ」だと考えることもできる。
しかし、日銀のQEの効果が薄れた1月末以降、国債金利が上昇して危機感が強まり、その後EUがQEを始めたら相場の危機感が低下するというこの間の動きは、金融システムの安定がQEに依存しており、QEがなければバブル崩壊が起きることを示している。
米国の圧力を受けていやいやながら開始されたEUのQEは、日銀のQEより効果が薄いだろうから、今年中にまた金融システムが不安定になりそうだ。
米日欧という世界の3大経済圏のすべてがQEをやってしまっており、これ以上新たなQEの広がりはない。
次回のシステム不安定化は、前回より大きいものになる。バブル崩壊が近づいているというグリーンスパンの見方は正しい。
ドルと米国債を頂点とする既存の国際金融システムが崩壊した場合、その後も機能しうる国際決済システムの一つは「金地金」「金本位制」だ。
ドルから金地金へのきたるべき転換を見越してか、欧州やBRICS(中露印伯南ア)の諸国の中央銀行は最近、金地金を買いあさっている。
ドル基軸制が崩壊した後でも機能しうる、もう一つの通貨システムは、中国やロシアが拡充している、ドルに頼らず相互の通貨を使うBRICSの新たな決済システムだ。
BRICSは、IMFや世界銀行というドル基軸制(ブレトンウッズ体制)のための国際機関に代わりうるライバル組織として、BRICS開発銀行などをすでに設立している。 (習近平の覇権戦略) (覇権体制になるBRICS)
ここ数年、米国が中露を敵視するほど、中露はBRICSを率いてドル依存を低下し、ドルが崩壊しても使い続けられる国際決済機構を構築してきた。
従来、銀行間の資金決済に不可欠な世界的なシステムとして、欧州に本部があるSWIFT(どの口座にいくら送金するか銀行間で情報を送受信するシステム)があり、米国はSWIFTをロシアに使わせない制裁を科そうとしている。
これに対抗してロシアは中国に接近し、中露の国内の銀行間決済システムをつなげて国際化する計画を進めている。
中国は、人民元の国際化政策と連動し、早ければ今年9月から、元の銀行間決済システムの国際化を行う。
これらの動きは、中露やBRICSがドル決済やSWIFTに依存する度合いを減らし、きたるべきドル崩壊への対策になっている。
従来のドル基軸制を守る組織であるIMFや世銀にとって、中露などBRICSが独自の体制を作ってドル離れを画策していることは敵視すべき脅威なはずだ。
しかし実のところ、IMFはむしろBRICSのドル離れを「良いこと」と評価している。
米国CNBCの報道によると、IMFのシノハラ副専務理事(日本の財務省出身の篠原尚之)は「ドルに依存しすぎると世界の経済システムが不安定になるので、アジアの新興諸国がドル以外による決済を増やすことは、むしろ奨励すべきだ」と述べ、中国やBRICSのドル離れを歓迎している。 (Is the dollar losing its clout among EMs?)
IMFは、ドル崩壊が垣間見えたリーマン危機の後、ドルの代わりにIMFの資金決済単位であるSDR(主要な通貨を加重平均した価値の単位)を使うことや、基軸通貨体制の多極化など、国際決済の非ドル化を模索していた。
米連銀がQEによってドルの延命を模索した最近の数年間、IMFはSDRや通貨多極化の話をしなくなっているが、今後QEの限界が露呈するほど、再びSDRや通貨多極化、金本位制復活などの話が復活し、ドル崩壊後の世界体制の模索が再開されそうだ。
(ドル崩壊とBRIC) (きたるべきドル崩壊とG20) (しだいに多極化する世界)
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「21世紀の資本」による経済理解:吉田繁治(1)(2)
2015-03-12

ピケティ「21世紀の資本」を下敷きにして、吉田繁治氏が経済構造論を展開しているので紹介します。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
経済論シリーズ:ピケティの『21世紀の資本』が示すこと(1)
本稿は、昨年来、大部の経済書では珍しく話題になっている『21世紀の資本』(トマ・ピケティ)を、一緒に読みながら解説するものです。
その目的は、経済に対する理解です。
■1.「r(資本の収益率)>g(GDP成長率)」という事実
ご存知の方も多いように、『21世紀の資本』の主張は単純です。
<資本の収益率とGDPの成長率を長期的に比較すると、r(資本の収益率)>g(経済成長率)だった。>
ピケティは、推計を含みつつ、2100年間の資本の収益率つまり自己資本の利益率と、国の経済成長率つまりGDPの増加率を調べています。
資本の収益率は、上場会社では[税引き前の利益÷株価時価総額=ROE(時価資本利益率)]で計ることができます。
非上場の会社では、[税引き前の利益÷負債を引いたあとの純資産=ROE]です。
純資産(または株価時価総額)が1000億円で、税前利益が40億円なら、4%が資本の収益率です。
【100年】
古代から現代までを調べると、このROEは安定して4%付近を示しています。
4%の資本利益率を101年続ければ、利益額は、1.04の100乗ですから50倍になります。
他方、GDPの成長率は、
・18世紀までは、0~1%未満と低かった。
・しかし英国の産業革命が広がった19世から、1年でほぼ2%から3%くらいの成長です。
GDPの平均成長を2.5%とすれば、101年で1.025の100乗ですから12倍です。
GDPの成長は、ほぼ、個人所得の増加率と同じになります。
国の経済成長が2.5%だと、個人の所得の増加率も2.5%付近です。
(注)収益(会社の粗利益)のうち賃金に回る割合を、労働分配率と言いますが。日本ではほぼ40%平均であり、3%以下の幅の変動で安定しています。
税引き前のROE(資本の利益率)は、ほぼ常に、経済成長率であるGDP(または賃金)の増加率より大きかった。
資本の増加率4%、個人所得の増加率2.5%が100年続くと、資本の利益は50倍になります。
しかし個人の所得(賃金)は12倍に増えるに過ぎない。このため少数の株式の所有者と労働者の間の、資産及
び所得額は、広がり続けています。
■2.1990年代からの格差の拡大
[フランス]
ピケティの本国フランスでは、所得上位10%(国民の10人に1名)の人の所得は、全所得の33%付近になっています(2004年)。
[米国]
米国では上位10%の人たちの所得は、1970年代の32%から、1980年代以降大きく上がって42%になっています(2002年)。
2015年では、米国人の10人のうち1名の所得が、残り9人と同じになり50%でしょう(当方の推計)。
[日本]
日本でも、1992年には、上位10%の人の所得は32%でしたが、2011年では、米国の2002年並みの41%に上がっています。
ピケティは、2100年間もの(推計を含む)経済データをもとに、以上を実証したのです。
■3.資本の利益
マルクスは資本主義の富を分析した『資本論』(1867年:明治維新の1年前)で、貨幣資本はその展開過程で、労働の対価を超えた剰余価値を生むことを示しています。
貨幣(G)→商品(W)→(貨幣(G)+剰余価値)。
剰余価値が資本の利益です。
以下のように会計プロセスで言うと、この剰余価値の産出過程がクリアになります。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(1)工場の設備(商品1単位当たりの貨幣資本1000円)
↓
(2)原材料の仕入れ(商品1単位当たり800円)
↓
(3)労働による加工での商品作り
[商品原価=商品1単位当たりの(原材料800円+賃金600円+設備
の減耗コスト250円=1650円)]
↓
(4)商品を2000円で販売
↓
(5)剰余価値の発生(販売2000円-商品原価1650円=350円)
↓
(6)利潤の発生(商品1単位当たりの剰余価値350円)
資本の最終利益
=利潤350円-設備(資本)の減耗コスト250円=100円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
商品1単位当たりの、資本の最終利益である100円は、労働者(社員)には帰属しません。
工場とオフィスの設備を作るための貨幣資本を出した株主のものです。
1000円の貨幣資本(商品1単位当たり資本)が出した利潤が100円です。
ROE(利益÷自己資本)では10%です。
ピケティは、マルクスが分析した剰余価値の増加率が、常に、賃金の増加率より大きかったことを、歴史的に示したのです。
このため、持てる者と持たざる者の所得と、資産(貯蓄された所得)の格差は、年々、大きくなってきました。『21世紀の資本』が、21世紀にベストセラーになった理由は、世界各国で、2000年代の格差の拡大があるからでしょう。
■補注:資本の利益を受ける側に属するには・・・
われわれが、賃金の増加率より高い資本の利益の恩恵を受ける側に属するには、たとえば年間で100万円の株式を(毎月約8万円)買い続けることです。
10年間で投資元本が1000万円、30年間では3000万円になります。
1株当たりの利益は、株主に属する利益です。
年間8%のROE(税引き後)があれば、その税引き後利益の累積は、30年間で約3600万円です。
利益分でも株を買い続けていれば、30年後の株は6600万円です。
投資の元本は3000万円です。
資本の利益で、元本が2.3倍になっています。
もちろん株は、大きく下がる時期もありますが、30年間、毎月同じ金額をずっと買い続けていると、数年から12年サイクルくらいの上昇には遭遇します。
これが、賃金労働者が株で資産を作る、ほぼ唯一の方法です。
(注)日本の上場企業(TOPIX:東証一部1862社)の税引き後ROE(1株当たり純益÷株価)は8%、米国は21%です(2014年)。
TOPIXは東証1部の企業の、加重平均株価です。
『21世紀の資本』の第一部は所得と資本についてです。
第二部が資本/所得比率の動学、第三部 格差の構造、第4部 21世紀の資本規制です。
次稿では、一部から、順に、端的に解説して行きます。
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経済論シリーズ:ピケティの『21世紀の資本』が示すこと(2)
【目次】
1.経済成長
2.GDPの3面等価
3.ピケティの『21世紀の資本』
4.産業革命の後、世界のGDPは成長した
5.日本政府の、長期GDPに関する試算の、いい加減な内容
【後記】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■1.経済成長
第2章でピケティは経済成長について書いています。ユニークな点は、太古の紀元0年(キリストの生誕の年)から現代の2012年までの、2000年間を対象にしている点です。
まず経済成長です。これは、何を言うのか。
マクロ経済学でいうと「GDPの成長」です。新聞にはほぼ毎日、GDP(Gross Domestic Production:国内総生産)という言葉が出ます。
これが何であるか、明快に説明できる人は意外に少ない。
解説を加えます。
トマ・ピケティの本だけではありませんが、「経済成長」が何かを理解するには、以下を知っておくことが必要です。
『マクロ経済学』の教科書に最初に書いてあることです。
しかし、GDPの三面等価までと言えば、理解に挫折している人が80%でしょうか。
マクロ経済論の入り口が以下です
▼GDPとは何か
GDPは、需要面(同じことですが支出面)では、[民間需要+政府需要+輸出-輸入]です。
需要面というのは、商品とサービスの生産面のGDP、及び所得面のGDPと一致するからです(GDPの三面等価:後述)。
サービスは、店頭で売られるモノのような形が、ない商品です。例えば医療、運輸、通信(携帯電話やインターネット)などは、経済学ではサービスに分類します。
先進国では、有形の商品より無形のサービスのほうが大きくなっています。サービスと言っても値段を
引くことではないので、念のために・・・
経済は家計、企業、政府という3つの主体の、商品とサービスの生産と売買の行動を、金額で見たものです。
名目金額は、所得や企業の売上と同じように、消費者物価の上昇分を入れたものです(2.4%:消費税増税込み:2014年12月)。
物価の上昇率(デフレーターという)を引けば、実質の金額になります。
実質金額の増減は、単価で割ると商品数量の増減を表します。
わが国の最も新しい名目の数値を( )の中に入れています。内閣府からとってきた2014年10月~12月の年率換算の実績です。
:±は、前年比の増減です。
在庫増減は小さいので省略しています。
【1.民間需要】
世帯と法人からなる民間の需要は、
(1)5300万の家計の最終消費支出(295兆円:-2兆円)、
(2)住宅投資(14兆円:-2兆円)、
(3)民間企業の設備投資(69兆円:+1兆円)です。
この民間需要合計は、2014年12月で378兆円です。消費税を上げる前の前年に比べ、4兆円(1%)減っています。
【2.政府部門】
政府部門の需要は、
(4)政府の最終消費支出(101兆円:+3兆円)、
(5)公共投資(25兆円:+1兆円)です。
民間の需要の、前年比減少(4兆円)が、政府需要の増加(4兆円)で補われていることがわかります。
政府(中央+地方)の最終消費支出(101兆円)とは、公務員の人件費、社会保障、防衛費、教育費、そして公共の構築物の減価償却費など、国民に対する公共サービスに要した費用です。
公共投資(25兆円:公的資本経形成とも言う)は、政府が行う公共の道路、河川、上下水、港湾、空港、学校、病院、住宅などへの支出です。
商品は一年で使ってしまいますが、道路や学校の建物は何十年も使います。これが「資本」という概念のものです。
政府最終消費と公共投資の合計は126兆円であり、前年比で4兆円増えています。
【3.輸出と輸入】
最後が輸出と輸入です。
(6)輸出(91兆円:+13兆円)、
(7)輸入(104兆円:+7兆円)です。輸入は海外の生産なので、GDP(国内の総生産)では、マイナスの要素です。
わが国は1980年代から30年間、大きな貿易黒字を続けてきましたが、2011年の東日本大震災(3.11)の後の5年間は、貿易が赤字になっています。
2012年11月からの円安(1ドル80円→120円)でも貿易は赤字です。
(注)特に08年のリーマン危機以後、海外生産が増えたためです。
以上のように、
(1)(2)(3)の民間需要(378兆円)に、
(4)(5)の政府需要(126兆円)を加え、
(6)輸出(91兆円)を足して、
(7)輸入(104兆円)を引いたものが、名目GDPです。
378+126+91-101=494兆円です。
(注)在庫の減少が1.5兆円(四捨五入して2兆円)あったので、492兆円です。四捨五入のための誤差です。
2014年12月時点の年率換算の名目GDPは、490兆円でした。
内閣府は、3か月ごとに、GDPを集計して、公表しています。
企業の4半期決算の、損益計算書のようなものです。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2014/qe144/pdf/jikei_1.pdf
■2.GDPの3面等価
需要面のGDP(名目490兆円)は、
・世帯(個人)と法人(企業)の、所得面のGDP、
・及び、商品とサービスの生産のGDPと一致します。
単純に言うと、国全体のマクロ経済では、「GDPの需要額=企業所得+個人所得=商品とサービスの生産額」です。
生産された商品額は、国民と政府の需要に一致し、その需要が企業の所得と個人の所得に一致するということです。
ですから、GDPが増えるということは、「企業所得+個人所得」が増えることでもあります。
少し煩雑になるかもしれませんが、われわれにとって大切な、国民所得の内容を見て行きます。
GDPは所得と一致するのです。(2014年3月期の実績)
【所得面のGDP】
(1)個人所得(雇用者報酬という)=248兆円
働く人は6000万人くらいですから1人平均で413万円。
個人所得には、企業が負担している社会保険料が含まれます。
個人所得が一番多かったのは1997年の278兆円でした。最近18年間でgは10%減っています。
これが、GDPが増えなくなった主因です。
(2)2014年3月期の企業所得は91兆円です。
2008年のリーマン危機の時は78兆円でしたが、その後少しずつ回復し、80兆円(09年度)、89兆円(10年度)、83兆円(11年度)、85兆円(12年度)、91兆円(13年度)になっています。
(3)財産所得=23兆円
財産所得とは、金融資産の金利や配当と不動産の賃借料です。
2014年3月期で、世帯分(26兆円)、政府分(-3兆円)の合計が23兆円です。
世帯の財産所得は1995年には41兆円ありましたが、1998年の金融危機以後、預金金利がほぼゼロになっているため、ほぼ半減しています。
世帯は、雇用者報酬と財産所得の両方が減ってきたのです。
雇用者報酬(248兆円)+企業所得(91兆円)+財産所得(23兆円)の合計362兆円が、2014年12月時点での、年率換算の「国民所得」です。
GDPの490兆円と国民所得の362兆円には128兆円の違いがあるではないかという方がおられると思います。
ここで、GDPには含まれているが、国民所得に入っていないものを、国民所得に足します。
GDP(490兆円)=国民所得(362兆円)+減価償却費相当107兆円+消費税などの間接税39兆円-政府からの補助金等の調整項目18兆円=490兆円
減価償却費は、GDP計算では固定資本の減耗と言います。
貨幣資本が化体した生産設備、機械、建物、住宅は使うことによって減耗します。
これが、減価(価値が減る)という概念です。
その減価分を補うものが、減価償却費です。
減価償却費は需要面のGDPには含まれていて、所得面のGDPには含まれていないので、107兆円を足します。
また、GDPには消費税や物品税(ともに間接税)が含まれていますが、国民所得には間接税が含まれていないので、これも足します。
他方、政府からの補助金は、国民所得には所得として含まれますが、需要面のGDPには含まれていないので、引きます。
以上の結果、需要面でのGDP(490兆円)は、所得面でのGDPと一致します。
同様に、商品の付加価値生産額(事業の粗利益額)とも一致します。
以上が、GDPの三面等価ということです。
GDPが増えること、つまり成長することは、
・商品とサービスの付加価値生産額(=粗利益額=売上-中間財の投入額)、
・企業+世帯の所得額、
・そして世帯、企業、政府の需要額が、同時に増えることです。
これが、ピケティに限らず、経済成長と好況や不況を理解する前提です。
景気は気と言いますが、数値的な根拠に基づく気でなければならない。
実際のGDPが潜在成長力より伸びるときが、好況です。
潜在成長力とは、雇用と設備の生産能力が100%発揮された状態です。
経済と所得の、伸びる能力が潜在成長力です。
日本の潜在成長力について内閣府は、
(1)1981年~1990年は、実質GDPで年率4.4%もあったが、
(2)1991年~2000年は、1.6%に下がり、
(3)2001年~2010年は、0.8%に下がっていると計算しています。
(注)潜在成長力以上にGDP(=需要)が増えたとき、物価の上昇が起こります。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/0214/shiryou_02.pdf
GDPが伸びる力は、
・資本の投入(生産と販売設備の増加)、
・技術進歩(全要素生産性の上昇:TFP)、
・労働力の増加、という3つの要素から来ます。
この3つとも、日本の2000年代は、低下しています。
他国を言えば、日本の01年から07年(世界金融機前まで)の潜在成長力が0.9%でしかないのに対して、米国が+2.3%、英国が+2.9%、ドイツが+1.7%、フィンランドが+3.1%あると計算されています。
(注)に日本とドイツだけは、高齢化のため、01年から07年の労働力の投入(増加)が、ともに-0.2%と減っています。(2014年2月:内閣府:上記サイト)
■3.ピケティの『21世紀の資本』
歴史的な視野を2000年と超長期にとっているピケティは、18世紀からの、英国産業革命以降の世界のGDP成長を、以下のように示しています。(P78)
▼200年間の世界経済の成長率
1人当たり
世界産出成長(%) 世界人口増加 産出の増加
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
0~1700年 0.1% 0.1% 0.0%
1700~1820 1.6% 0.8% 0.8%
1820~1913 1.5% 0.6% 0.9%
1913~2012 3.0% 1.4% 1.6%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(注)世界産出は世界の実質GDP、1人当たり産出(production)は、[実質GDP÷人口]である。
家畜力や水力に代わる蒸気機関の利用から始まった産業革命の前、世界の人口の平均的な増加は、年率で0.1%(1000人あたり1人)であり、1人当たりの商品産出量の増加はゼロだったということです。
日本で言うと縄文の太古から江戸時代(1603年~1868年)の初期です。古代からイタリア・ルネサンス期(16世紀)のころまでは、世界中を見ても、経済の成長率は人口の増加分だけでした。
(注)世界に波及した英国の第一次産業革命は、江戸時代後期の1760年から、幕末の吉田松陰や大久保利通が生まれた1830年ころまでです。
人力と家畜力だった生産と運送に、蒸気機関を使うようになり、急に生産力が高まったのです。
日本では、江戸時代は鎖国をしていたため、欧米に100年遅れて明治以降が産業革命の近代化の時代でした。
GDPの成長とは、〔人口1人当たりに平均した商品産出量の増加×人口の増加〕です。
▼産業革命前の1700年まで
年率0.1%の成長で1700年なら、1.001の1700乗です。手元にあるカシオの関数電卓で計算してみると、5.5倍です。
つまりローマ帝国の時代(紀元前27年~395年)から西暦1700年ころまでに、世界のGDPは、5.5倍に増えた。それは、世界の人口が5.5倍に増えたためだったのです。
商品を買うことができる豊かさを示す1人当たりGDPの増加は、平均年率でゼロだったので、1人が買うことができる商品量は、ローマの古代から中世と、16世紀のルネサンスを経て1700年までは同じだったということです。
日本で言うと、奈良時代と江戸時代の初期では、1人が買うことができる食料などの商品量では、同じだったことを意味します。
それも当然でしょうね。奈良時代の人の食べる商品量と江戸時代の人が食べる量は、カロリー面では、ほぼ同じだったでしょう。
通貨量の増加によるインフレで価格は上がって、名目の金額は増えた。
しかし、そのインフレ率を除く商品量では、同じでした。
1700年までは、商品と言えば、どのほとんどは食料でした。
▼21世紀の日本は、労働人口が大きく減って行く
日本の21世紀は、
・生産年齢人口の減少(年率-0.8%:-60~80万人/年)を主因に、
・インフレを引いた実質GDPの平均成長が、高くても1%台でしかな
い時代になります。
これでも、西暦0年~1700年までの1人当たりゼロ成長よりはるかに高い。
日本国の実質GDPが1%伸びて、労働人口が0.8%減ると、1人当たりでは1.8%の、実質所得の成長です。
これが50年続くと(2065年)、1人当たりの実質所得は4倍になるからです。実質の所得金額で言うと1600万円/1人です。
計算してみると、この達成は、生産年齢人口が減って行くため難しい感じです。
人口が減る中で、国の経済が成長するには、1人当たりの所得の伸びが、人口の減少分、大きくならねばならないのです。
(注)GDP=1人当たりGDP×労働人口、です。
■4.産業革命の後、世界のGDPは成長した
▼1700~1820年:初期産業革命
第一次産業革命の1700年から1820年まで(日本では江戸時代末期の時期)は、人口の増加率が、年率平均で0.4%に上がり、1人当たりの産出量の増加は0.1%/年に上がり、実質経済成長は0.5%/年でした。
世界経済は、0年から1700年間の停滞を、脱したのです。
0.5%の実質成長で120年間なら、[1.005の120乗=1.8倍]です。
日本では江戸時代中期から末期です。実質GDPが120年間で1.8倍になる成長をするのが世界平均でした。
▼1820~1913年:第二次産業革命
次の1820年から1913年までは、日本で言うと幕末から第一次世界大戦(1914~1918年)前の、大正時代の初期です。
世界は、第二次産業革命と言える、高い経済成長をしています。
明治維新以降は、まず世界の人口増加率は0.6%/年と高くなりました。
1人当たりの産出量の増加は0.9%/年になっています。
このため実質GDPの成長は、年率で1.5%という高いものなった。
1.5%の経済成長で93年間経つと[1.015の93乗=4倍]です。
GDPは4倍に増え、1人当たりの所得と商品の購買量は2.3倍に増えます。
(注)需要面のGDP=所得面のGDP=生産面のGDPです。
日本人の女性の長寿がほぼ93歳です。
夏目漱石と同じ時期の、江戸時代末期に生まれ、大正時代(1912~1926)に亡くなった夫人は、生涯で、1人当たりの商品購買量が2.3倍になる時代を生きています。
夏目漱石は、明治維新の1年前の1867年に生まれましたが、1916年に胃潰瘍で亡くなっています。明治の平均寿命だった49歳が享年(きょうねん)です。
『吾輩は猫である』を最初として未完の名作『明暗』までを書いたのは、40歳から49歳まで10年です。彼我を比較すれば、恥じ入るしかない。
漱石が生きた49年間で、明治時代のGDPはほぼ2倍になっていたでしょう。
朝日新聞は、没後100年を記念して、『こころ』に続き『三四郎』を連載しています。
漱石は東大をやめたあと朝日新聞社の社員として、『虞美人草』をはじめに新聞小説を書き続けたたからです。
余計なことですが、当方の愛好する小説は、玉名(熊本)の幽玄な温泉宿での、画家と女将の数日を書いた『草枕』です。
▼1913年~2012年:第一次世界大戦から現代まで
第一次世界大戦は、人類史上はじめて、二つに分かれた国家連合の総力戦でした。
ピケティが1913年で分けたのは、フランスとドイツが、お互いを破壊した資本(生産設備)が大きかったからです。
(注)日本にとっては、第二次世界大戦でしょう。
1913年から2012年は、世界の人口増加率は1.4%/年と高く、1人当たり産出量も1.6%/年と高いものでした。年率3%のGDPの成長です。
1.03の100乗は19.2倍ですから、世界のGDPはこの100年で20倍になり。
1人当たりの商品量は、5倍に増えています。
実質で3%の実質経済成長は、ピケティの言葉を借りれば「とんでもなく高い成長率」です。
関数電卓で計算すると
・1%の実質成長は100年で2.7倍ですが、
・2%になると、一挙に7.2倍になり、
・3%なら、19.2倍です。
・4%成長は、51倍、
・5%成長は、132倍です。
(注)金利5%で複利運用をすると、元金100万円は100年で132倍の1億3200万円に増えます。
資本の成長と見れば、資本の成長は、指数関数の増加です。
ピケティは、第二章の「経済成長」で、退屈になるくらい繰り返して、GDPの指数関数での成長の大きさを述べています。
■5.日本政府の、長期GDPに関する試算の、いい加減な内容
ピケティのGDPの長期データに因(ちな)んで、2015年2月に、わが国の財務省が出している『中長期の経済財政に関する試算』を検討してみましょう。
『中長期の経済財政に関する試算』は、今後、日本の政府財政が破産しないためには、どれくらいのGDPの成長が必要かを、計算したものと言っていいでしょう。
(注)財政の破産や、破産しないことも、数値で定量的に言わねばならないものです。破産とは、支払うべきものが支払えないことです。
財政赤字の悪化と国債残の増加から、国債の償還との利払いができるという信用が低下して、リスク要因での金利が高騰すると、新たな国債の発行が更に金利を上げるため、国債発行ができなくなります。
国債を含む債券の長期金利は、「期待物価上昇率+実質GDP期待成長率+リスクプレミム」に収束して行きます。
赤字財政でありながら国債の発行ができないと、支払うべきもの(公務員の人件費、年金、医療保険料、国防費、教育費など公共事業の経費)が支払えない。
これが、政府の財政破産です。
▼経済再生のケース
内閣府は、「経済再生のケース」としては、実質GDPで2%、物価上昇を含む名目GDPで3%~4%という高い成長率を出しています。
(2015年2月)
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h27chuuchouki2.pdf
上記を、単純化した表にします。
【日本経済再生ケース】
2014年度 2015~2023年 2023年
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名目GDP 491兆円 3.5%増/年 668兆円
実質GDP 526兆円 2.0%増/年 628兆円
物価上昇率 100 2%上昇 120
1人当たりGNI 416万円 年率3.4%増 560万円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
財政赤字 33兆円 23~32兆円 34兆円
国債残高 960兆円 +259兆円 1219兆円
名目長期金利 0.4% 1.2%~4.5% 4.6%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(注)GNIは、国民総所得です。GNP(国民総生産)に近い。国内総生産(GDP)+海外からの純所得=GNI(国民総所得)です。
GNIでは、1人当たりGDPが、海外からの純所得の分、大きくなります。
まず政府が想定している、物価上昇(想定が+2%)を引いた後の実質GDPの2%成長が含む問題です。
政府の人口問題研究所が予測している生産年齢人口(15歳~64歳)は、今後9年間、年率で毎年約1%は減って行きます。
15歳~64歳のすべてが働く人ではありませんが、生産年齢人口の増加・減少は、働く人の増減に比例します。
働く人が年率ほぼ1%(60万人)減少すると見ていいのです。
総人口の減少より働く人の減少が大きい。9年間で生産年齢人口は588万人も減ります。経済的には、総人口1000万人の都市が、一個、日本からなくなる勘定です(!)。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
2014年 7780万人
↓
2023年 7192万人(588万人減少)
~~~~~~~~~~~~~~~~~
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/gh2401.asp
年率1%の生産年齢人口の減少に対し、政府は、実質GDPで年平均2%の成長を想定しています。1人当たりのGDPでは、毎年3%の増加という高い成長が想定されています。
(注)ピケティが集計した1913年から2012年の、高い経済成長の時期であっても1人当たりの実質産出量(=1人当たり実質GDP)の増加は、年1.6%でした。
わが国の1人当たり実質GDPの増加率の実績は、
・1980年代 年率3.5%
・1990年代 年率0.6%
・2000年代 年率0.2%です。
一体、どういった根拠で、働く人の1人当たり実質GDPが、今後10年にわたって、平均年率3%で増加し続けと言えるのか?
当方には、まるで、理解できません。
物価上昇も年率で2%とされています。
どんな根拠でこうなるのか?
名目GDPの増加率は年率で3.5%、向こう9年で1.36倍になって2013年には668兆円になるとされています。実質で2%成長、9年間で1.2倍です。
1980年代の高度成長の時期が、1人当たりの実質GDPの増加が年3.5%でした。年間で3%の実質GDPの増加は、この高かった成長率の時に近い。
その後の90年代のGDP成長は年率0.6%、00年代は0.2%にすぎませんでした。
2015年以降の10年、なぜ経済成長を高く想定できるのか。
内閣府が言う「経済再生ケース」とは、何が、どう再生することなのか。明らかではありません。
通貨(マネタリーベース)を増やす異次元緩和によって、急に、1人当たり実質経済の成長率が3%上がるのか?
政府(内閣府)は、無理な将来GDPの想定をしています。
目的は、「政府の財政は破産しない」と示すためですしょう。
(※ 逆に)政府財政が破産しないためには、名目GDPで3.5%の成長、実質では年率2%の成長が必要だと試算したのが、『中長期の経済財政に関する試算』に思えるのです。
この試算をベースに金融・経済対策が行われ、財政対策も行われます。
内閣府の試算は、単に「経済再生の願望を示した」と言って切り捨てて、ゆるがせにすることはできない問題です。
ピケティの世界経済の成長率から、日本政府の『中長期の経済財政に関する試算』の根拠のいい加減さに思い至りました。
次稿は、第三章 資本の変化からです。
【後記】
政府の『中長期の経済財政に関する試算』が示すGDPの成長率は、実質(年率2%)も、名目(年率3.5%)も、願望に過ぎません。
企業が実態とかけ離れた売上や利益を、経営計画とするようなものです。これが単に、願望だけであれば罪はない。
しかし実現しない願望の数値をベースに、政府の金融、経済、財政計画が作られるとき、禍根(かこん)を残すものになります。
一体何を根拠に、こんなにいい加減な数字を作ったのか?
小泉内閣の時期から財政危機が懸念されていたため、『中長期の経済財政に関する試算』は、2002年、03年、05年、06年、07年、08年、09年、10年、11年、12年と毎年作られています。
毎年の試算で、「願望の経済成長率」が、果されたことがない。
税金で俸給を得ている内閣府の担当が、責任をもって作った数値とはとても思えません。
金融市場に向かって、今後10年の売上は、毎年大きく成長する、利益も増えると言い続けている、信用されない上場企業と同じです。
時間がある方は、過去のものを見てください↓。
政府は、毎回、実現しない願望の数字を出しています。
http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/shisan.html
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