金融緩和の蟻地獄にはまった日銀、第三の敗戦か
2014-11-06

金融緩和の蟻地獄にはまった日銀 円安・株高「宴の後」に迫る危機 11/6 山田厚史 ダイヤモンド・オンライン
世は妖怪ブーム。ハロウィーンの日、黒田日銀の「追加緩和」という妖怪が飛び出した。
市場はビックリ。円相場は1ドル=113円を抜け(※ 11/5現在114.81円)、東証ダウは一時1万7000円を突破。NY,ロンドン、東京とマネーの熱狂が地球を回った。
妖怪は倒れそうなアベノミクスを抱き起そうというのだ。
今よりきつい劇薬を飲ませ「国債をすさまじく買うぞ」「株や不動産も買い上げるぞ」と宣言した。
こんなことをいつまでやるつもりなのか。株高も円安も、日本経済の回復にはつながらないことはこの一年の実績が語っている。
政権に中央銀行がひざまずく
妖怪は「もっとやればそのうち効くさ」とうそぶくが、劇薬は覚せい剤のような副作用がある。
大量投与は日本経済の健康とモラルを破壊する。
真っ先に問われるのが日銀のモラルではないか。「通貨価値を護る」という使命に目をつむり自国通貨の下落を煽り立てる。
「マネタイゼーション」と呼ばれる事実上の国債の日銀引き受けがより強まる。
「これだけはしてはいけない」と言われてきた非常識政策の総動員。
忍び寄る最悪の事態を意識しつつ、政権の延命に中央銀行がひざまずく姿を、この際しっかり見ておこう。
黒田日銀総裁が明らかにした追加緩和は、マネタリーベースと呼ばれる銀行への資金供給を、これまでの年間60~70兆円から80兆円に拡大する。
50兆円を目標にしていた長期国債の買い入れを30兆円増やし80兆円にする。
株価指数に連動する上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J‐RIET)の買い上げを3倍に増やす。
金額が大きすぎてピンとこない人も多いだろう。
公正な価格形成が行われるべき市場に日銀がお札を刷って猛然と介入する。
年間80兆円のカネを民間に吐き出し国債の値段を上げ(長期金利を下げる)、東証株価を上げ、不動産価格も上げようというのである。
長期金利や株価は、日銀の仕事ではなかった。
景気回復・デフレ脱却のためなら手段は選ばない。効き目がないならもっとやる、というのが今回の追加緩和だ。
無理矢理でも、見せかけでも、株価が上がり長期金利が下がれば国内の投資は活発になる、という筋書きを突き進む。
これは蟻地獄ではないのか。
日銀が買うことで債券や株の市場価格が維持される。
日銀マネーに依存した上げ底の価格が形成され、買いが止まれば国債も株も値下がりする。
日銀は、ひたすら足を動かし、這い上がろうとするアリのように市場にカネをつぎ込む。
足が止まれば餌食になる。
バブルで空いた穴をバブルで埋める
蟻地獄はアメリカで現実になった。
米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、リーマンショックでペシャンコになった景気を立て直すため、2008年から国債やMBS(住宅債券)などを市場から買い上げて資金を放出した。
「金融の量的緩和」である。波状的に3度行い、つぎ込んだ資金は4兆8000ドル、日本のGDPをしのぐすさまじい額になった。
おかげでNYダウは史上最高を更新し景気が好転したかのように見えるが、その陰で「不健康・不道徳」が問題になっている。
国際通貨基金(IMF)はこのほど発表した国際金融報告書で、米国には当局の監視が及ばない投資ファンドやシャドーバンキングが多数あることを指摘し「金融市場を揺るがしかねない脅威になっている」と警告した。
FRBが吐き出した4兆ドルは、ウォール街の株式や債券だけでなく中南米、アフリカ、東欧など新興国の株式市場まで潤した。
2012年9月から始まった第3波の量的緩和(QE3)は、2013年12月まで月間850億ドルの資金を放出した。
「バブルで空いた穴をバブルで埋める」という政策といわれる。リーマンショックで深手を負ったのは銀行や証券会社。
経営破たんや金融機能のマヒが心配され、潤沢な資金を流し込むことで危機を回避した。
だが、カネは正しい使い方をされるとは限らない。
自動車の好調な売り上げを支えているのはサブプライム自動車ローンといわれる。緩和マネーが返済の危ぶまれる所得層に流れ、次の事故が心配されている。
怪しげな投資ファンドや「影の銀行」が跋扈し、またしても金融危機の引き金になりかねない事態を招いているのだ。
危ないことは永遠に続かない。
模索されたのが「出口」だった。金融がおかしくなる前にマネーの蛇口を締める。
FRBは緩和マネーを2014年1月から月100億ドルずつ減らし、10月末に量的緩和を終了した。新たなカネヅルができたからである。
黒田日銀の金融緩和である。欧州中央銀行(ECB)の量的緩和も始まる。米国が蟻地獄から抜けるのは「お後の用意ができた」からである。
米国足抜けの後を埋める
マネーに国境はない。
日本と欧州が緩和マネーをどんどん吐き出せば、米国や新興国の株式市場は暴落を避けることができる。
黒田日銀のハロウィーン緩和は、FRBの抜けた穴を心配する各国の株式市場を勇気づけた。
「ジャクソンホールの密約」という噂が市場で取りざたされている。
8月下旬、米国ワイオミング州の保養地ジャクソンホールで金融セミナーが開かれた。
各国の中央銀行総裁が集まる会議の裏で「米国が量的緩和を終えた後、不足する資金を日・欧が埋める、という密約が交わされた」いうのである。
当局者は否定するが「密約があろうと無かろうと、そうなるだろう」というのが市場の受け止め方だ。
ハロウィーン緩和は密約を裏付け、次はECBの出番とウォール街は好感している。
バトンを渡された日銀は蟻地獄に足を踏み込んだ。
資金を止めれば日本だけでなく世界の株価まで動揺する。
危ない役割を引き受けた黒田総裁の正気を疑う。
米国には「日本の肩代わり」という出口があったが、日本にはない。
「国際協調」と謳われる政策の連携は、強い国が弱い国に「損」を押し付けるときのうたい文句でもある。
1985年にドル安への協調を謳ったプラザ合意は、1ドル=230円台だった円ドル相場を1年で150円台にまで追い込んだ。
円高でありながら米国へ資金が流れるように、日本は金利引き下げを強いられ、超低金利の中でバブル経済に突入、その崩壊が長期停滞へとつながった。
自動車、半導体、鉄鋼の自主規制も貿易摩擦解消のための国際協調だった。
安倍首相が、「アメリカがやっている金融の量的緩和を日本もやろう」と言い出した時、歓迎したのは米国である。
前任の白川総裁が慎重だった「異次元の緩和」に黒田総裁が踏み切り、ウォール街はその決断を讃えた。
米国で評判のいい“クロダ”は、米国の金融界に都合のいい人物だった。
量的緩和をいつまでも続けていれば、FRBに米国債や住宅債券が滞留してしまう。
値下がりする危険のある金融商品を抱えるのは不健全だ。
緩和マネーで怪しげな投資ファンドや影の銀行を儲けさせるのは不道徳でもある。
市場を混乱させずに足抜けしたい。その時ニューマネーを注いでくれる忠実なパートナーとして黒田総裁は歓迎された。
日本にとってバブル崩壊は「第二の敗戦」だった。
金融の蟻地獄は「第三の敗戦」にならないといえるだろうか。
市場が囃す「ダブルバズーカ」
メディアを賑わす追加緩和への発言は概ね「肯定的」でヨイショも目立った。その中で目を引いたのはBNPパリバ証券チーフエコノミスト河野龍太郎氏のコメントである。
「国の借金を中央銀行が引き受ける『マネタイゼーション』の色彩が強まった」(日経新聞)。
核心を突いている。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が11月から運用資産に占める株式の比率を高める。これまでGPIFの運用は国内債券(主に国債)が60%で国内株12%、外国株12%だった。
それを国内債券を35%に減らし、国内株・外国株の比率をそれぞれ25%に引き上げた。
GPIFの資産規模は132兆円。新たに株式に流れ組む資金は内外併せて34兆円程度になる。債券を売って株に乗り換える。
国債が放出されれば、長期金利は上昇する。「市場で売られる30兆円の国債を日銀が肩代わりするのが今回のスキーム」と河野氏は見る。
30兆円ものニューマネーが流れ込む株式市場は大歓迎だ。
GPIFだけではない。日銀もETFの保有を3倍増させる。東証の指標銘柄に買いが入る。
市場は「ダブルバズーカ」と囃したてた。
日銀の支援を受けて米国は量的緩和を終了し、ゼロ金利の解除が視野に入った。金利は上がっていく。
日米の金利差は開く、との思惑からドルが買われた。
蟻地獄から這い出る米国を助け、自らが蟻地獄に落ちた日本の円が売られるのは当然だろう。
再増税実施を迫るメッセージ
今でも黒田総裁や安倍首相は「円安は日本経済にプラス」と考えているのだろうか。
安倍首相がどこまで知らされているかは分からないが、日銀総裁は背筋が寒くなっていることだろう。
円札の価値を裏付ける日銀の資産に国債や株式がどんどん増える。
国債金利は史上空前の低金利である0.4%台。
つまり国債価格は極めて異常な超高値になっている。金利が反転すれば暴落の恐れさえある。
いまの株式市場は政権の都合で「腕力相場」の様相を呈している。
GPIFや日銀など総動員体制で株価を上げているが、不自然な価格形成は長続きしない。
急落すれば日銀の膨大な損が出て、お札の価値が危うくなる。
こんな事態を招かないために「日銀の政治的独立」が大事とされてきた。
自民党が政権に復帰し、安倍首相の周辺から「日銀の政治的独立はいらない」という声が上がり、首相のお眼鏡にかなった黒田総裁が就任し、日銀は政権のサポーターになった。
これから何が起こるのか。中央銀行が政権のシモベになり、政府が発行する国債をせっせと買い取る「マネタイゼーション」が進むだろう。中央銀行にとって地獄への道である。
黒田総裁は「歴史に残る悪総裁」にはなりたくない。
地獄への道を断ち切るには「国債発行の抑制・財政再建が必要」と、ことあるごとに述べている。財務官僚でもあった黒田総裁は「予定通り消費税10%」を主張している。
危ない橋を渡って政府に協力するのは、消費税の再増税を予定通り行う環境つくりが必要と考えているからだ。
「日銀が不健全なことをとことんやるから、財政を健全にしてくれ」というメッセージでもある。
安倍首相は年内に消費増税の可否を決定するという。
政府が選んだ有識者が官邸に呼ばれ意見を聞かれている。巷では景気回復を実感できない人がほとんどだ。
株高の恩恵は大企業や富裕層だけ。
円安はグローバル企業を喜ばすが、庶民は物価高に悲鳴を上げる。実質所得は17ヵ月連続して下がったまま。
化けの皮が剥がれたアベノミクスを取り繕い、見せかけの経済をよくして消費増税にこぎつけたいというのが黒田総裁の本音だろう。
「消費増税は世界への公約」「増税は社会保障財源などに組み込まれ今更止めるわけにはいかない」という声が財務省を中心に吹き出ている。
「予定通り進まなければ債券市場などに不安定な動きが出かねない」。黒田総裁は慎重に言葉を選びながら、国債暴落の恐れを警告する。
日本政府が財政健全化を放棄したと見なされれば円安に拍車がかかる。最悪のシナリオは、国債と日本円が抱き合って暴落する「日本売り」だ。
下降する景気をさらに悪化させる増税か、破局の危険を覚悟して回避するか。どちらも選びたくない選択が待ち受けている。
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矢部宏治インタビュー:日本を支配する“憲法より上の法”
2014-11-06

日本を支配する“憲法より上の法”の正体とは? 11/4 週プレNEWS
日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか? 本書のタイトルはまさに、誰もが一度は抱いたことがある「素朴な疑問」だろう。
それを出発点に著者の矢部宏治氏がたどった日本戦後史の「旅」は、想像をはるかに超える広がりを見せながら「憲法」の上にある「もうひとつの法体系」の存在と、それによって支配された「日本社会のB面=本当の姿」をクッキリ浮かび上がらせる。
太平洋戦争で焼け野原と化した国土を世界有数の経済大国へと復興し、間もなく戦後70年を迎えようとしている日本が、今も対米従属のくびきから逃れられない本当の理由……。
そして、この国がいまだに「独立国」ですらないという衝撃の事実を、日米間の条約や公文書などの「事実」を足がかりに明らかにする本書は、多くの「普通の日本人」にとって、文字どおり「目からウロコ」の体験をもたらしてくれる一冊だ。矢部氏に聞いた。
■戦後の日本を本当に支配していたものとは?
―まず驚いたのは矢部さんがほんの数年前まで、沖縄の基地問題とも政治とも無縁な、いわゆる「普通の人」だったということです。
そんな「普通の人」が日本の戦後史をめぐる「旅」に出たきっかけはなんだったのですか?
矢部宏治(以下、矢部) 直接のきっかけは、やはり民主党による政権交代とその崩壊ですね。
それまでは日本は経済的には豊かだけど、「なんか変な国だなぁ」とは思っていて、鳩山政権ができたときにやっぱり期待したんですよね。
この政権交代で何かが変わるんじゃないかと。
ところが圧倒的な民意を得て誕生した鳩山政権があっという間に崩壊して、沖縄の基地問題も潰(つぶ)されて、菅政権になったら完全に自民党時代と同じようなことをやっている。
これは一体どういうことなんだと怒りに任せて、沖縄に取材に行ったのが始まりです。
鳩山政権を潰したのは本当は誰だったのか、その答えをどうしても知りたくなった。
―ちなみに、矢部さんは沖縄の基地問題について以前から関心があったのですか?
矢部 いいえ、沖縄といえばそれまで2回、旅行で行っただけで、基地のことや辺野古のことも何も知りませんでした。
ところが実際沖縄に行って、自分の知らなかったさまざまな現実を目にして、その根っこを探っていくと、いろいろワケのわからない仕組みに出会う。
そこで沖縄本島にある28の米軍基地をすべて許可なしで撮影した『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること』という本を作りました。
沖縄では住民が米軍基地を日常的に撮影している現実があるのですが、当局の判断次第ではそれが違法行為だとして逮捕される可能性もある。
そうしてカメラマンとふたりで危険に身をさらしながら基地の取材を続けていくうちに、いろんなことが見えてきた。
基地のフェンスってまさに「境界」なんですね。日本とアメリカの境界、戦争と平和の境界、民主主義のある世界とない世界の境界。
そういう「境界」をずっとたどっていくと、日本の戦後や日本国憲法の成り立ち、日米関係の裏側が少しずつ見えてくる。
さらにたどっていくと、最後は国連憲章にまでたどり着いたというのが今回のこの本で、結局、第2次世界大戦後の世界は、軍事力よりもむしろ条約や協定といった「法的な枠組み」によって支配されていることがわかってきた。
■日本国憲法より上の「法の支配」とは
矢部 具体的な例を挙げましょう、例えば米軍の飛行機は日本の上空をどんな高さで飛んでもいいことになっています。
なので沖縄に行くと米軍機が住宅地の上を信じられないような低空でブンブンと飛んでいる。
もちろん、日本には航空機の運航について定めた「航空法」が存在します。
ところが、日米地位協定の実施に伴う「航空特例法」というのがあり、そこには「米軍機と国連軍機およびその航空機に乗り組んでその運航に従事する者については、航空法第六章の規定は政令で定めるものを除き、適用しない」と明記してあるのです。
つまり、「最低高度」や「制限速度」「飛行禁止区域」などを定めた航空法第六章の43もの条文が米軍機には適用されない! 「米軍機は高度も安全も何も守らずに日本全国の空を飛んでいいことが法律で決まっている」という驚愕(きょうがく)の事実です。
要するに日本の空は今でも100%、米軍の占領下にあるのです。
ただし、沖縄の米軍機は日本の住宅地の上を超低空で飛ぶことはあっても、米軍住宅の上を低空で飛ぶことはありません。
なぜならそれは危険であるとして、アメリカの法律で禁じられているからです。
―日本の航空法は無視してもいいけれど、アメリカの航空法はきちんと守っていると。
矢部 空だけではありません。
実は地上も潜在的には100%占領されています。
例えば、2004年に起きた沖縄国際大への米軍ヘリ墜落事件。
訓練中の米軍ヘリが沖縄国際大学に墜落し爆発炎上した際、米軍は一方的に事故現場を封鎖してしまいましたが、実はこれも「合法」なのです。
なぜなら日米間には1953年に合意した「日本国の当局は(略)所在地のいかんを問わず、合衆国の財産について捜索、差し押さえ、または検証を行なう権利を行使しない」という取り決めがあり、それが現在でも有効だからです。
つまり、アメリカ政府の財産がある場所はどこでも一瞬にして治外法権エリアになり得る。
墜落したヘリの残骸や破片が「アメリカの財産」だと見なされれば、それがある場所で米軍はなんでもできるし、日本の警察や消防は何もできないのです。
―日本の憲法や法律が及ばない場所が突如、現れる?
矢部 そこが最大の問題です。
いくら条約は守らなければならないと言っても、国民の人権がそのように侵害されていいはずがない。
条約は一般の法律よりも強いが、憲法よりは弱い。これが本来の「法治国家」の姿です。
ところが1959年に在日米軍の存在が憲法違反かどうかをめぐって争われた砂川裁判で、最高裁(田中耕太郎・最高裁長官)が「日米安保条約のような高度な政治的問題については、最高裁は憲法判断しない」という、とんでもない判決を出してしまいます。
しかも、この裁判の全プロセスが、実はアメリカ政府の指示と誘導に基づいて進められたことが近年、アメリカの公文書によって明らかになっています。
結局、この「砂川判決」によって、日米安保条約とそれに関する日米間の取り決めが「憲法」にすら優先するという構図が法的に確定してしまった。
敗戦後、日本政府がアメリカ政府に従わされたように、この判決以降、「憲法を含む日本の国内法」が「アメリカとの軍事条約」の下に固定化されてしまった。
つまり、日本の上空どころか、憲法を含んだ日本の「法体系」そのものがいまだに米軍の支配下にあると言っても過言ではないのです。
■戦後日本を陰で操る日米合同委員会
矢部 ちなみに、安保条約の条文は全部で10ヵ条しかありませんが、その下には在日米軍の法的な特権について定めた日米地位協定がある。さらにその日米地位協定に基づき、在日米軍をどのように運用するかに関して、日本の官僚と米軍が60年以上にわたって、毎月会議(現在は月2回)を行なっています。
これが「日米合同委員会」という名の組織で、いわば日本の「闇の心臓部(ハート・オブ・ダークネス)」。
ここで彼らが第2次世界大戦後も維持された米軍の特殊権益について、さまざまな取り決めを結んできたのです。
しかも、この日米合同委員会での合意事項は原則的に非公開で、その一部は議事録にも残らない、いわゆる「密約」です。
また、この日米合同委員会のメンバーを経験した法務官僚の多くが、その後、法務省事務次官を経て検事総長に就任しています。
つまり、この日米合同委員会が事実上、検事総長のポストを握っていて、その検事総長は米軍の意向に反抗する人間を攻撃し潰していくという構造がある。
―民主党政権時に小沢一郎氏が検察のターゲットになったり、鳩山由紀夫氏の政治資金問題が浮上したりしたのも、もしかしたら彼らや民主党政権が都合の悪い存在だったのかもしれませんね……。
検事総長という重要ポストをこの組織のメンバーが押さえ続けることで、先ほどの話にあった「軍事力ではなく法で支配する」構造が維持されているというわけですね。
矢部 ただし、この仕組みは「アメリカがつくり上げた」というより、「米軍」と「日本の官僚組織」のコラボによって生まれたと言ったほうが正しいと思います。
アメリカといっても決して一枚岩じゃなく、国務省と国防省・米軍の間には常に大きな対立が存在します。
実は国務省(日本でいう外務省)の良識派は、こうした米軍の違法な「占領の継続」にはずっと反対してるんです。
当然です。誰が見てもおかしなことをやっているんですから。
しかし60年も続いているから、複雑すぎて手が出せなくなっている。
まともなアメリカの外交官なら、みんな思っていますよ。「日本人はなぜ、これほど一方的な従属関係を受け入れ続けているのだろう?」と。
考えてみてください。世界でも有数といわれる美しい海岸(辺野古)に、自分たちの税金で外国軍の基地を造ろうとしている。
本当にメチャクチャな話ですよ。
でも利権を持つ軍部から「イイんだよ。あいつらがそれでイイって言ってるんだから」と言われたら、国務省側は黙るしかない。
―基地問題だけでなく、原発の問題も基本的に同じ構図だと考えればいいのでしょうか?
矢部 こちらも基本的には軍事マターだと考えればいいと思います。
日米間に「日米原子力協定」というものがあって、原子力政策については「アメリカ側の了承がないと、日本の意向だけでは絶対にやめられない」ようになっているんです。
しかも、この協定、第十六条三項には、「この協定が停止、終了した後も(ほとんどの条文は)引き続き効力を有する」ということが書いてある。
これなんか、もう「不思議の国の協定」というしかない……。
―協定の停止または終了後もその内容が引き続き効力を有するって、スゴイですね。
矢部 で、最悪なのは、震災から1年3ヵ月後に改正された原子力基本法で「原子力利用の安全の確保については、我が国の安全保障に資することを目的として」と、するりと「安全保障」という項目をすべり込ませてきたことです。
なぜ「安全保障」が出てくるかといえば、さっきの「砂川裁判」と同じで「安全保障」が入るだけで、もう最高裁は憲法判断できなくなる。
■日本がアメリカから独立するためになすべきことは?
―しかも、「安全保障」に関わるとして原発関連の情報が特定秘密保護法の対象になれば、もう誰も原発問題には手が出せなくなると。
矢部 そういうことです!
―日本が本当の意味で「独立」する道はないのでしょうか?
矢部 第2次世界大戦の敗戦国である日本とドイツは、国連憲章のいわゆる「敵国条項」で国際法上、最下層の地位にあるわけです。
しかし、戦後、ドイツは周辺諸国との融和を図り信頼を得ることで、事実上、敵国的な地位を脱したと見なされるようになりました。
それがあったから、ドイツは冷戦終結後、90年に第2次世界大戦の戦勝4ヵ国(英米仏ロ)との間で講和条約(「2プラス4条約」)を結んで、東西ドイツの再統一を実現することができたのです。
そしてその条約に基づき、94年までに国内にいた駐留軍としての英米仏ロの軍隊を撤退させることができた。現在ドイツ内にいる米軍はNATO軍として駐留しているもので、その行動については全面的にドイツの国内法が適用されています。
なので、僕はドイツが戦後、真の意味で独立したのは1994年だと思っています。
つまり、ドイツも独立するまでに49年もかかった。
日本もまだ事実上の占領状態にあるとしたら、今からでも同じことをやればいい。
また長い間、アメリカの“軍事占領下”にあったフィリピンも、上院で憲法改正を議論して、1991年に米軍基地の完全撤退を実現しています。
日本はドイツとフィリピンというふたつのモデルがあるわけですから、そこから学んで、やるべきことを淡々とやっていけばいい。
現状では「憲法改正による外国軍撤退」という、やや過激に見えるが実はオーソドックスなフィリピンモデルをカードに持ちながら「周辺諸国との和解を実現した上での、新条約締結による外国軍撤退」というドイツモデルを目指せばいいと思います。
後者については、(※ 米国)国務省の良識派は絶対に喜ぶはずです。
ところが現在の安倍政権は周辺諸国との緊張感をいたずらに高め、書店の店頭には「嫌韓・嫌中本」が氾濫(はんらん)している。
まるで真逆の出来事が急激に起こり始めているのです。
それこそが「日本の主権回復」を阻む最悪の道だということをどうしても言いたくて、この本を書きました。
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