破壊行為:消費増税は実質賃金の下落=窮乏化政策
2014-10-23
実質賃金下落の元凶は消費増税 10/22 田村秀男
安倍晋三首相は来年10月に予定している消費税率再引き上げにかなり慎重な考え方のようだが、今年4月の増税による惨状をみると、増税を見送るのが当然だ。
にもかかわらず、自民、公明両党内では増税派が多数を占めるし、野党の民主党に至っては、自公を抱きこんでデフレ下の増税を仕組んだくせに「アベノミクスが失敗したから、増税できない」と責任転嫁に努める。
これら政治家に共通するのは、国全体の経済を担っている現役世代がいかに消費税増税で痛めつけられているかについての認識の欠如である。
彼らは、当面の予算で社会保障増加分の収入を増税によって確保してばらまくことしか考えない。
リーマン後の日米相違
いきなりだが、グラフを見てほしい。
物価の変動分を加味した日米の実質賃金の指数を、リーマン・ショックが起きた2008年9月を100として追っている。
実質賃金とは、消費者物価指数の増減を加味した、勤労者が実際に消費に使える所得のことである。
「リーマン」を起点にしたのは、金融バブル崩壊後の実質賃金は長期下落傾向にあるという見方が有力なためで、事実、1930年代の大恐慌期の米国はそうだった。実際にはどうか。

日米の実質賃金推移<2008年9月~2014年9月>=※2008年9月=100、※データ:CEIC
米国の場合、リーマン後実質賃金は急落したが、2010年初めに底を打ち、その後はよたよたしながらも、着実に上昇し続けている。
力強さはないが、12年初めにはリーマン当時の水準を上回った。連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和政策は物価下落の慢性化を防ぎ、緩慢ではあるが、雇用情勢の回復に寄与し、物価上昇率を上回る賃上げ率を実現した。
「大恐慌」の再来を阻んだと言ってよい。
対照的に、日本は10年前半に少し回復したが、リーマン当時の水準を下回ったまま、緩やかな下落基調が続いた後、13年後半から下落速度が増し、14年4月の消費税増税後、下落が加速した。
リーマン後、日銀は量的緩和政策を取らず、円高・デフレ容認を続けたために、実質賃金水準は停滞し続けた。
12年12月に発足した第2次安倍晋三内閣がアベノミクスを打ち出し、日銀は2%のインフレ目標を導入して、4月からの異次元金融緩和政策によって円安に誘導して、物価上昇率を1%台に押し上げた。
ところが、名目賃金が上がらないために、実質賃金は下がる。それに消費税率引き上げによって、物価上昇率は一挙に3%台半ばに押し上げられたために、実質賃金が急落して現在に至る。米国と比較すれば、日本の金融、財政両面の政策の誤りが実質賃金下落をもたらしたと断じるしかない。
蔓延する「バカの壁」
今回のグラフには示していないが、期間を1990年代初めの日本の資産バブル崩壊後までさかのぼってみると、実質賃金は94年初めに反転し始め、回復基調が続いていたが、97年4月の消費税増税で急落した後、低落傾向が定着した。下げ止まって少し反転しても、長続きせずに再び下落し、97年の消費税前のピーク時に比べると、現在の実質賃金水準は十数%も低い。
前回も今回も、消費税増税が実質賃金を押し下げる最大のきっかけであると同時に、下落基調を定着させる元凶であることは明らかだ。
それにしても、日本はなぜ、こうも自らを破壊する政策を繰り返すのか。
97年増税以来の慢性デフレや、実質賃金低落基調の原因についての徹底的な検証が行われない。
間違った政策の責任を誰もとらないばかりか、当事者は知らぬふりをして、また同じ増税を推奨する。
要するに、目先の財源確保のためには増税しかないという「バカの壁」が財務官僚、政治家、さらに御用経済学者、メディアに蔓延しているから、増税以外の方法に目を向けようとしない。
ーーーーーーーーーーー
※ 付録:実質賃金と円相場の推移。

1997年4月の消費税率引き上げ(3%から5%へ)以降、実質賃金が下落トレンドにあり、今年4月の税率8%へのアップ以降、下落速度に加速がかかった。
消費税増税でこうなることは、97年度増税や昨年の実質賃金の下落気味のトレンドからみても明らかに予想されたはず。
また、円安は物価だけを上げさせ、賃上げには結びつかない。
株高が家計消費を押し上げる効果は乏しいうえに、外国人投資家は上がれば、機を見て売り逃げるので、上昇基調は突如打ち切られ、瞬く間に下落局面に転じる。
安倍晋三首相は来年10月に予定している消費税率再引き上げにかなり慎重な考え方のようだが、今年4月の増税による惨状をみると、増税を見送るのが当然だ。
にもかかわらず、自民、公明両党内では増税派が多数を占めるし、野党の民主党に至っては、自公を抱きこんでデフレ下の増税を仕組んだくせに「アベノミクスが失敗したから、増税できない」と責任転嫁に努める。
これら政治家に共通するのは、国全体の経済を担っている現役世代がいかに消費税増税で痛めつけられているかについての認識の欠如である。
彼らは、当面の予算で社会保障増加分の収入を増税によって確保してばらまくことしか考えない。
リーマン後の日米相違
いきなりだが、グラフを見てほしい。
物価の変動分を加味した日米の実質賃金の指数を、リーマン・ショックが起きた2008年9月を100として追っている。
実質賃金とは、消費者物価指数の増減を加味した、勤労者が実際に消費に使える所得のことである。
「リーマン」を起点にしたのは、金融バブル崩壊後の実質賃金は長期下落傾向にあるという見方が有力なためで、事実、1930年代の大恐慌期の米国はそうだった。実際にはどうか。

日米の実質賃金推移<2008年9月~2014年9月>=※2008年9月=100、※データ:CEIC
米国の場合、リーマン後実質賃金は急落したが、2010年初めに底を打ち、その後はよたよたしながらも、着実に上昇し続けている。
力強さはないが、12年初めにはリーマン当時の水準を上回った。連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和政策は物価下落の慢性化を防ぎ、緩慢ではあるが、雇用情勢の回復に寄与し、物価上昇率を上回る賃上げ率を実現した。
「大恐慌」の再来を阻んだと言ってよい。
対照的に、日本は10年前半に少し回復したが、リーマン当時の水準を下回ったまま、緩やかな下落基調が続いた後、13年後半から下落速度が増し、14年4月の消費税増税後、下落が加速した。
リーマン後、日銀は量的緩和政策を取らず、円高・デフレ容認を続けたために、実質賃金水準は停滞し続けた。
12年12月に発足した第2次安倍晋三内閣がアベノミクスを打ち出し、日銀は2%のインフレ目標を導入して、4月からの異次元金融緩和政策によって円安に誘導して、物価上昇率を1%台に押し上げた。
ところが、名目賃金が上がらないために、実質賃金は下がる。それに消費税率引き上げによって、物価上昇率は一挙に3%台半ばに押し上げられたために、実質賃金が急落して現在に至る。米国と比較すれば、日本の金融、財政両面の政策の誤りが実質賃金下落をもたらしたと断じるしかない。
蔓延する「バカの壁」
今回のグラフには示していないが、期間を1990年代初めの日本の資産バブル崩壊後までさかのぼってみると、実質賃金は94年初めに反転し始め、回復基調が続いていたが、97年4月の消費税増税で急落した後、低落傾向が定着した。下げ止まって少し反転しても、長続きせずに再び下落し、97年の消費税前のピーク時に比べると、現在の実質賃金水準は十数%も低い。
前回も今回も、消費税増税が実質賃金を押し下げる最大のきっかけであると同時に、下落基調を定着させる元凶であることは明らかだ。
それにしても、日本はなぜ、こうも自らを破壊する政策を繰り返すのか。
97年増税以来の慢性デフレや、実質賃金低落基調の原因についての徹底的な検証が行われない。
間違った政策の責任を誰もとらないばかりか、当事者は知らぬふりをして、また同じ増税を推奨する。
要するに、目先の財源確保のためには増税しかないという「バカの壁」が財務官僚、政治家、さらに御用経済学者、メディアに蔓延しているから、増税以外の方法に目を向けようとしない。
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※ 付録:実質賃金と円相場の推移。

1997年4月の消費税率引き上げ(3%から5%へ)以降、実質賃金が下落トレンドにあり、今年4月の税率8%へのアップ以降、下落速度に加速がかかった。
消費税増税でこうなることは、97年度増税や昨年の実質賃金の下落気味のトレンドからみても明らかに予想されたはず。
また、円安は物価だけを上げさせ、賃上げには結びつかない。
株高が家計消費を押し上げる効果は乏しいうえに、外国人投資家は上がれば、機を見て売り逃げるので、上昇基調は突如打ち切られ、瞬く間に下落局面に転じる。
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