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もうすぐ北風が強くなる

スタグフレーションに突入しつつある日本:野口

月の神ナンナ
 不換紙幣は物神化されない。需要を超える増刷は危険な過剰在庫となる。写真は月の神ナンナ。
 
   スタグフレーションに突入しつつある日本  野口悠紀雄 週間ダイヤモンド8月9日号

 政府は、経済財政諮問会議で、2014年度の実質GDP成長率を0.2ポイント引き下げ、1.2%に修正した。
 日本銀行も、7月の金融政策決定会合で、14年度の実質経済成長率の見通しを0.1ポイント引き下げ、1.0%とした。

 これらに先立ち、7月の月例経済報告は、基調判断を引き上げた。個人消費の落ち込みが和らいだからだという。
 しかし、以下に述べるような経済の実態を考えると、判断引き上げは信じられないことだ。

 消費の落ち込みが和らいだのは、幾つかの統計で確かめられる。しかし、消費の大部分は、消費税の税率引き上げによってはあまり影響されない。
 駆け込みといっても、それほど大量には買い置きできない。だから、消費一般が早期に持ち直すのは当然のことだ。

消費税の影響があるのは、消費一般ではなく、住宅と耐久消費財である。
 住宅着工統計によれば、5月の新設住宅(持ち家)着工戸数の前年同月比は、22.9%の減となった。
 これは極めて大きな落ち込みだ。

 他の耐久消費財にも、短期的には収束しない影響が見られる。
 日本自動車工業会の国内需要見通し(14年3月)によれば、14年度の四輪車総需要は、対前年度比15.6%減となる。

 さらに、あまり注目されていないが重要なのは、公共投資の伸びがマイナスになることだ。
 政府の経済見通しによれば、14年度の実質公的固定資本形成は、対前年度比マイナス2.3%となる。

 13年度の実質経済成長率は2.3%であり、11年度や12年度に比べるとかなり高かったのだが、それは、民間住宅投資(実質伸び率9.5%、寄与率0.3%)と公的固定資本形成(実質伸び率15.1%、寄与率0.7%)の伸び率が高かったからである。

 ところが、先に見たように、14年度においては、どちらの伸び率もマイナスに転じる。このことの影響は非常に大きい。

 さらに問題は、設備投資だ。
 機械受注統計調査報告によると、「船舶・電力を除く民需」の対前月比は、5月には19.5%減となった(4月は9.1%減)。前年同月比は14.3%減だ。
 これは、リーマンショック時よりも大幅な減少だ。
 この値は民間設備投資の先行指標と考えられているので、今後の設備投資が大きく落ち込むことを示唆している。
 これは、駆け込み需要の反動と考えられる。

 設備投資についてまで駆け込み需要の反動が発生したのは、驚きである。これは、明らかに「想定外」だ。
 なぜなら、設備投資資材購入額に含まれる消費税は、消費税の計算上税額控除できるので、消費税率の引き上げは設備投資に影響しないと考えられていたからである。
 しかし、本連載でもすでに指摘したように、簡易課税の影響を考えると、影響があり得る。

 設備投資は1~3月期に非常に高い伸びを示した(実質季節調整値が対前期比伸び率で、実に34.2%になった)。
 これは、駆け込み需要であった可能性が高い。そしていま機械受注が大きく減少している。

 設備投資の動向は見極め難いが、13年度に設備投資が増加したのは、不動産業や建設業である。これは、住宅の駆け込み需要に支えられたものだ。
 住宅投資が大きく落ち込むことを考えれば、設備投資の低迷も今後長引く可能性が強い。

   輸出が前年比マイナスに 円安効果が剥落しつつある

 輸出について、注目すべき現象が生じている。
 それは、輸出額の対前年伸び率が15カ月ぶりにマイナスになったことだ(貿易統計の確報値で、5月はマイナス2.7%)。

 これまでの日本の輸出動向を大まかにいえば、数量指数が不変ないし減だが、円安の影響で価格指数が前年比10%を超える伸びを示し、結果として輸出額が10%を超える伸びになった。
 5月の輸出数量は、対前年比3.4%減だった。この点で大きな変化があったわけではない。 
 5月に輸出額が対前年比マイナスになったのは、円安の効果がなくなったからだ。
 価格指数の対前年比の伸びはほとんどゼロだった(為替レートは対前年比2.9%の円安)。


 これまで円安が進行したにもかかわらず輸出数量が増加しなかったのは、日本の輸出企業が、現地通貨建て輸出価格をほとんど引き下げなかったからである
 このため、日本の輸出の価格競争力が高まることはなかったのだ(13年度の実質輸出の伸びは4.7%と比較的高かった。
 しかし、これは、11年度、12年度の落ち込みから回復したことの影響が大きい。事実、13年度の実質輸出額は、円高期であった10年度から1.8%増加したにすぎない)。

(※ あまり語られないことに、「内外価格差」ということがある。日本企業は輸出国外価格を競争で低く設定するが、国内価格は高く設定している。これはもちろん、国内価格の談合を意味するためにエコノミストは語らない。
つまり、この「制度」のために輸出国外価格をさらに下げられないのである。)

 しかし、現地通貨建て価格をほぼ不変に保っているので、円建ての輸出額はほぼ為替レートに比例して増加する。
 これが輸出企業の利益を増加させたのである。

 ところが、先に述べたように、円安による輸出額増大効果は、もはや働かなくなった。
 これは利益増大効果も剥落することを意味する。株価もそれに従った動きになるだろう。

 また、これまで消費者物価指数を引き上げてきた主要な原因は円安である。
 現在程度の為替レートが続けば、消費者物価を押し上げる効果も剥落する。
 従って、消費者物価の対前年増加率は、消費税の影響を除けば、今後は低下していく可能性が高い。
 少なくとも、これまでのような急激な上昇はなくなるだろう。

  円安で急速に貧しくなった日本

 円安が日本に与えた影響を最も端的に示しているのは、1人当たりGDPの国際比較だ。IMFのデータによると、14年において、日本の値はアイルランドの79.8%、アメリカの69.4%しかない。

 こうなった大きな理由は、円安が進んだことだ。
 事実、11年には、日本はアイルランドの93.4%、アメリカの92.7%あった。
 世界の中で、日本は急速に貧しくなったのである。

 「これは、為替レートの変化による計算上の変化にすぎない」という人がいるかもしれない。
 しかし、そうではない。円安になれば海外から買うものの価格が上がり、これまでのようには買えなくなる。また、海外に旅行すれば、これまでのような高いホテルには泊まれなくなる。
 (※ ほとんどの産業で原材料は輸入なので、高くなれば消費者が貧しくなり、高くできなければ産業(輸出大手以外の)が貧しくなり、賃金、雇用が悪化する。)
 先の数字は、現実の生活水準の変化を表している。

 5月の家計調査によれば、世帯当たり実質消費は前年同月比で8.0%の減少となった。
 勤労者世帯の実収入の前年同月比は、名目0.4%の減少、実質4.6%の減少だ。
 これには消費税増税の効果も含まれているが、円安で物価が上昇したことの影響が大きい。

 電気料金の上昇は、原子力発電から火力への移行の影響もあるが、大半は円安によるものだ。
 これは、消費者物価指数(全国)の「電気代」の推移を見ると分かる。
 すなわち、大震災前の11年1月を基準とすると、円安が始まる前の12年8月までの間に10.4%上昇した。これは、火力発電シフトにより燃料輸入が増加したことの効果だ。
 しかし、14年5月までの期間では、29.8%上昇している。
 12年8月以降、燃料輸入量が格別増加したわけではないので、この時点以降の電気料金の上昇は、円安による輸入額増加が電気料金に転嫁されたことの結果だ。

 (※ 安倍政権が主張する)「デフレ脱却」ということの実態は、こうしたことなのである。
 つまり、経済活動が活発化するのでなく、所得や消費が減少しているのだ。
 日本はスタグフレーションに突入しつつある。
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