稲嶺名護市長:沖縄差別と辺野古移設の本質
2014-02-27

辺野古海岸
「沖縄は差別的な扱いを受けている」 稲嶺進・名護市長が語る「辺野古移設の本質」 2/23 BLOGOS編集部
米軍・普天間飛行場の「辺野古移設阻止」を掲げ、1月の市長選に勝利した沖縄県名護市の稲嶺進市長が2月13日、東京・有楽町の外国特派員協会で記者会見をおこなった。
稲嶺市長はスピーチで「新しい基地は作らせないという私の主張に、市民は選挙で賛同した」と述べ、「日本の民主主義のあり方が問われている」と強調。
記者との質疑応答では、「政府がこれまで説明してきた移設の根拠は、もう破綻している」と語り、名護市辺野古沿岸部への基地移設を進めようとする安倍政権を強く批判した。【取材・構成:亀松太郎/吉川慧】
「お金で心を買う」という動きに沖縄県民は反発した
「普天間飛行場が名護市辺野古に移設されるという計画が、いま日米両政府によって強力に進められようとしています。
しかし私は、2010年の1期目にあたる選挙において、『辺野古の海にも陸にも新しい基地を作らせない』ということを公約に掲げて、多くの市民の支持を得ることができました。
1期目に私が就任して以来、沖縄県内の基地問題に対して『県内移設は反対。ダメだ』という県民世論が、とても高くなりました。
沖縄県議会をはじめ、県内41の市町村議会で『県内移設反対』の決議がなされるなど、『オール沖縄』という形が作られてきたと認識していました。
しかし、昨年の11月から12月にかけて市長選の動きが活発になるにつれて、日本政府や自民党本部からの強い圧力・介入がありました。
私は辺野古移設反対、相手候補は辺野古移設推進というはっきりした争点が示されるなか、国の『強硬に辺野古移設を進めたい』という思いが、政府を挙げての選挙戦介入となりました。
具体的な動きとしては、沖縄選出の自民党の国会議員5名と自民党の県連、そして最後には、沖縄県知事が辺野古沿岸の埋め立てを承認しました。
そのとき、沖縄振興策というアメをちらつかせる動きがありましたが、『お金で心を買う』という政府の動きに対して、沖縄県民は心から反発の意を示しました。
その結果、市長選で、名護市民は、『辺野古の海にも陸にも新しい基地は作らせない』と主張し、『一時的な振興策には頼らない』とする私、稲嶺進を当選させました」
なぜ、辺野古移設に反対するのか?
「日本の国土全体の0.6%の面積しかない沖縄に、米軍専用施設の約74%が居座り続けているという事実があります。
このように基地に囲まれた沖縄が戦後ずっと日米安保の最前線を担うという形で、米軍基地からの被害や米軍機の墜落など多くの負担を強いられてきました。
この過重負担の状況について、県民は『沖縄は差別的な扱いを受けている』と認識しています。
実は海兵隊も、最初から沖縄にあったわけではありません。
1950年代に沖縄が米軍の占領下にあったときに、茨城県や埼玉県から移されてきたものです。
このような状況を、これからも続けてほしくありません。
日本政府は『沖縄の負担軽減』ということで、辺野古移設を主張していますが、普天間飛行場が辺野古に移設され、嘉手納以南が返還されても、現在の73.8%が73.1%に減るだけで、大きな負担軽減にはつながりません。
また、普天間飛行場がそのまま辺野古にくるわけではありません。
普天間飛行場にない機能が新しく作られます。
まず、滑走路がⅤ字で2つ。それから、弾薬搭載のエリア。
そして、強襲揚力艦も接岸できる護岸。
日本政府は否定していますが、軍港機能をもつ施設がここに作られるのです」
貴重な自然や子どもの学習環境が破壊されてしまう
「さらに、大きな問題として、辺野古の目の前に広がる大浦湾があります。
ここは生物多様性の海と言われており、ハマサンゴやアオサンゴの大群落があります。
そして、ジュゴンやウミガメが頻繁に泳いでいて、付近にはジュゴンのエサとなる藻場もたくさんあります。
この海域は、沖縄県が保存すべき自然のAクラスに指定されています。
それが、普天間飛行場が辺野古に移されることによって、貴重な自然の破壊を招きます。
また、普天間飛行場で行われている年間約2万回の離発着の訓練という危険な状況が辺野古でも繰り返される。
そうすると、名護市民の生活も脅かされてしまう。
付近には小学校や中学校、国立高専があるので、子どもたちの学習環境も破壊されてしまう。
そういうことから、私は、『新しい基地は作らせない』と申し上げているのです。
名護市民もそのことに過半数の賛同をしました。
はっきりとした市民の意思の表れとして、市長選の結果が出たと理解しています。
それでもなお、日本政府は辺野古移設をあきらめようとしていません。
米政府に対しても、日本の外務大臣は『決意を持って進める』ということを言っています。
選挙というのは、民主主義国家において最大の表現方法です。
それは民意のあらわれですので、民主主義国家において最も重視されなければいけないことだと思っています。
それでもなお、辺野古に移設を強行しようとするのは、選挙の結果としてあらわれた民意を否定することで、民主主義国家にあってはならないことです。
さきほど申し上げた基地から派生する事件・事故も含めて、基地の問題は、人権にも直結する問題です。
したがって、この選挙の結果をうけてもなお、政府が辺野古移設に固執し、強行しようとするならば、日本の民主主義のあり方、熟度を問われることになるのだと思います」
稲嶺市長のスピーチと強く関連する質疑応答
フリーランス・田中龍作氏:日米協議にも出席し、沖縄赴任経験もある霞が関の官僚が、私にこんなことを言っていました。『辺野古に海上基地を作りたいのは、米軍ではなく、日本国内の政治関係者だ』と。
この発言について、どう思いますか?
稲嶺市長:明快な答えだと思います。
日米地位協定で、日本に基地を置き、自由に使用することについて約束をしていますが、どこにも『沖縄でなければない』とは書かれていません。
日本のどこかであれば良いという話なのです。
しかし普天間飛行場の移設については、ほかに受けるところがないから沖縄なのだと。政治的に見て沖縄が適切だ、という話もありました。
私もまったく、その発言の通りだと思います。
ビデオニュース・ドットコム・神保哲生氏:日本の政府が、ここまで沖縄や名護の人々の意思を無視して、どうしても辺野古に基地を作ろうと突き動かすもの、本質というか背後にあるものは何だと感じていますか?」
稲嶺市長:これまで日本政府は常に、日米同盟と日米安保の重要性ということを盾にして、沖縄に基地が必要だと説明してきました。
それは抑止力と地理的な優位性ということで説明されてきましたが、抑止力と地理的な優位性については、前の野田政権の時の森本防衛大臣が『軍事的には沖縄である必要はない。政治的に沖縄のほうが最適だ』ということを、マスコミに答えているんですね。
そうなると、日本政府がこれまで説明してきた根拠は、もう破綻してしまっていると思います。
それでも、抑止力と地理的な優位性を前面に出すというのは、さきほども申し上げたように、日本国内でどこも受け入れるところがないということが、大きな理由の一つになっています。
もう一つ、大きな理由があります。
それは、沖縄は日本国土のうち0.6%の面積しかなく、人口にして1%にすぎないということです。
人口1%が政治的に有効性を出せるというのは、ほとんどない。
力関係からいうと、皆無と言ってよいくらいだと思います。
(政府の本音は)日本全国に(基地反対の動きが)広がっていくことが一番あってはいけない。
それが怖いということではないのかなと思います。
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ウクライナの政変はネオナチが支配した
2014-02-27


スヴォボダ この他に狙撃隊がいた。
エジプトで使われた雇われ武装ゴロツキではなかった。
街頭で警官隊を武装制圧したのは、長期にわたって訓練されたネオナチの武装部隊である。
彼らが主導権をとった。
ウクライナの政変で支配権を握ったのは穏健野党ではなく、強力に武装したネオナチである。
軍警に彼らがどれだけ浸透しているかは分からないが、軍警は撤収し、街頭では彼らが野党を制圧し、政変の結果である権力をもぎ取った。
ーーーーーーーーーーーーー
ウクライナの危機 2/27 「マスコミに載らない海外記事」から抜粋
(前半略)
ビクトリア・ヌーランド国務次官補が、昨年12月の演説と、在キエフ・アメリカ大使との漏洩した電話会話録音で明言している通り、
民主的に選出された政権を打倒したウクライナ・クーデターをやってのける為、アメリカ政府は、50億ドルというアメリカ国民の税金を投じたのだ。
それがクーデターであったことは、オバマが、もちろん転覆した政権に罪をなすりつけ、状況について語った、あからさまな嘘や、アメリカとヨーロッパの売女マスコミがウクライナの進展を事実を全く曲げて伝えていることで強調されている。
出来事の事実を曲げて伝える唯一の理由は、クーデターを支持し、アメリカ政府の役割を隠蔽する為だ。
クーデターが、アメリカ政府によるロシア弱体化の戦略的な動きであることは疑いようがない。
アメリカ政府は、2004年、アメリカ政府が財政支援した“オレンジ革命”で、ウクライナを占領しようとしたが失敗した。
1990年代に独立が認められるまでウクライナは200年間ロシアの一部だった。
ウクライナ東部と南部諸州は、第二次世界大戦中、アドルフ・ヒトラーの為、反ソビエト連邦戦で戦った西ウクライナ・ナチス分子の影響力を弱める為、ソ連指導部よって、1950年代にウクライナに加えられたロシア地域だ。
ウクライナをEUとNATOに奪われることは、黒海のロシア海軍基地の喪失と、多くの軍需産業の喪失を意味する。
もしロシアがそのような戦略的敗北を認めれば、ロシアが、アメリカ政府の覇権に服従することを意味しよう。
ロシア政府がどのような対策をとるにせよ、東部と南部ウクライナのロシア系住民は、ウクライナ人超国家主義者やネオ・ナチによる弾圧を決して受け入れまい。
既にロシア系国民に対する敵意は、ウクライナ人による、第二次世界大戦中、ヒトラー師団をウクライナから追い出したロシア軍兵士の記念碑破壊や、その戦術で、ナポレオンの大陸軍を打ち破り、ナポレオンの没落をもたらしたロシア将軍クトゥーゾフの記念碑の破壊で見ることができる。
さしあたっての疑問は、アメリカ政府は誤算し、クーデターへの支配力を、アメリカ政府が雇ったキエフの穏健派から支配権を奪ったように見える、ネオ・ナチ分子に奪われてしまったのか、
それともアメリカ政府のネオコンが、ネオ・ナチと長年協力してきたのかだ。
マックス・ブルーメンソールは後者だと言っている。
http://www.informationclearinghouse.info/article37752.htm
穏健派が支配力を失ったのは確実だ。
記念碑を守ることができず、ネオ・ナチ的法律を作って、ネオ・ナチを先取りすることを強いられている。
捕らわれ状態のウクライナ議会はロシア語の公式使用を禁じる法案を導入した。
もちろんロシア人諸州には到底受け入れられない。
前回のコラムで書いた通り、ウクライナの民主主義破壊には、ウクライナ議会自身に責任がある。
議会の違憲で非民主的な行動が、民主的に選出された政府を穏健派が扱っと全く同じやり方で、
自らの違法性を隠蔽する為、犯罪と非難し、逮捕状を出して穏健派を扱うという前例を現在持っている、
ネオ・ナチの為のお膳立てをしたのだ。
現在、違法に退陣させられたヤヌコビッチ大統領は逃亡中だ。
明日には、国民によってでなく、穏健派によって座につかされた現大統領のオレクサンドル・トゥルチノフが逃亡することになるのだろうか?
もし民主的選挙で、ヤヌコビッチ大統領が正統性を得られないのであれば、残部国会による選出が、どうしてトゥルチノフに正統性を与えられようか?
もしネオ・ナチから、レーニンがケレンスキーにした質問をされたら、トゥルチノフは何と答えるだろう。“誰が君を選んだのだ?”
もしアメリカ政府がクーデターの支配権を失い、EUとNATOと連携している穏健派が支配権を取り戻せなければ、戦争は不可避なように思われる。
ロシア人諸州が、ロシアの保護を求め、保護を得るだろうことは確実だ。
ロシアが更に一歩進んで、西ウクライナのネオ・ナチを打倒するかどうかは不明だ。
地域に軍を配備したように思われるアメリカ政府が、ネオ・ナチを打ち破る為、穏健派に軍事力を提供するかどうかも、ロシアの対応と同様、まだ良く分からない。
前回のコラムでは、今の状況を、誤算が、いかにして第一次世界大戦を招いたかになぞらえ、“またもや夢遊歩行状態”と表現した。
全世界が、アメリカ政府によるウクライナへの無謀で無責任な介入恐れを抱くべきなのだ。
ロシアに対する直接の戦略的脅威を生み出すことで、アメリカ政府内の気の触れた覇権を握る連中が大国間対立を画策し、世界崩壊というリスクを生み出したのだ。
Paul Craig Robertsは、元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリプス・ハワード・ニュー ズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えていた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでい る。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the Westが購入可能。
記事原文のurl:www.paulcraigroberts.org/2014/02/25/crisis-ukraine-paul-craig-roberts/
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「マスコミに載らない海外記事」氏のコメント。
ウクライナは遠い。しかし長年宗主国による支援を得た暴徒による政府打倒、結果としておきる国民生活の困窮、人ごとではないだろう。
この属国では長年の宗主国による養成支援を得た傀儡権力者による政府乗っ取りで、抗議行動に対する残虐な暴力はないが、結果として、国民生活の永久的困窮が制度化されつつある。
ウクライナの現実を伝えない大本営広報部は、近い自国の事実も、もちろん伝えない。
真実と遠い情報に仕立て、お笑いと歌と裸と反対派排除洗脳に全力を注いでくださる。
神州の泉「国家戦略特区法」と「特定秘密保護法」は治外法権でリンクする 2014年2月26日
集団的自衛権というオマジナイで、宗主国の理不尽な侵略戦争に、砲弾の餌食として、もまなく軍隊を提出することになる。改憲も不要だ。くらげのような、こんにゃくのような融通無限の不思議な組織。
東大教授、国連大使と喧伝される「学者」、幇間とどう違うだろう。少なくとも幇間は、ご主人にゴマをすっても、人は殺さないだろう。
「集団的自衛権」、「集団的一方的侵略・虐殺権」の言い換えに過ぎない。そして、属国には、選択権はない。指示してくださるのは宗主国。死んだり、重傷を負ったり、相手を殺したり、重傷を負わせたりするのが属国兵士。


牙をむいたスヴォボダ
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永続敗戦論、白井氏インタビュー(1):朝日
2014-02-26

2/24に著者白井聡氏による著書「永続敗戦論の解題に相当する「永続敗戦論からの展望」を掲載したところです。
かつて、経済学の野口悠紀雄氏がこの国の経済と政治を制御する社会体制が大戦の敗北によっては殆ど変わらず、その前の1940年米英開戦に向けた国家総動員体制によって変革したものがそのまま現在継続していることを論証展開しました。
「1940年体制」
このことは多くの声が各方面から指摘していたのですが、野口氏が初めて総括的に論証したものでした。
白井氏の「永続敗戦論」は我々の中から生み出される、いまだアジアとの敗戦を認めない風潮が、その源泉が戦争責任の不問による敗戦の誤魔化しにあること。
その潮流が絶えることなく戦前からのアジア蔑視、敗戦を認めない意識、戦争犯罪否定などを生み出していることを論証したものです。
根っこはA級戦犯で手打ちした戦争責任の不問にあるわけだが、そのことによって、いまだ続くこの戦時総動員体制思想が国民大衆の人権軽視、マスコミ統制、原発事故などの事実を認めない態度、対話にならない官僚制度など。そこから世界からは奇想天外と受け止められる外交態度が続々と生みだされる。
敗戦と終戦としての誤魔化しは多くの声が指摘していたのだが、はっきりと戦争責任の隠蔽、敗戦の誤魔化しを根拠にする社会思想であると、総括的に論証展開した成果は大きい。
生き延び復活した亡霊たちの、彼らの社会認識の外堀を埋める成果である。
戦争責任が談合で手打ちされたがゆえに、いつまでも靖国が生き残ったこと「A級戦犯の代わりに罪を問われなかった最高責任者」。
白井氏についてのインタビュー記事が3つほど見つかりましたので紹介します。
長くなるので2つに分けることにします。
ーーーーーーーーーーーーー
「敗けた」ということ 「永続敗戦」を提起している、白井聡さん 2013/7/3 朝日
「新しい国へ」「グレートリセット」と語気を強める政治家が拍手を浴びる、戦後68年目の夏。
私たちは「何か」を、なかったことにしたがっているようだ――
いったい、何を? そして、なぜ? 戦後日本が大切に紡いできた「平和と繁栄」の物語の読み直しに挑んでいる、社会思想史家の白井聡さんに聞いた。
――歴史認識をめぐって、みんなが言いたいことを言うようになっています。「タガが外れた」感がありますが、これまで何が、日本社会のタガとなっていたのでしょう。
「それは、戦後日本を象徴する物語たる『平和と繁栄』です。
『中国や韓国にいつまで謝り続けなきゃならないのか』という不満に対して、『これは遺産相続なんだ』という説明がされてきました。
遺産には資産と負債がある。
戦争に直接責任がない世代も戦後の平和と繁栄を享受しているんだから、負の遺産も引き受けなさいと」
「しかしいま、繁栄は刻一刻と失われ、早晩、遺産は借金だけになるだろう。
だったら相続放棄だ、という声が高まっています」
「そもそも多くの日本人の主観において、日本は戦争に『敗(ま)けた』のではない。戦争は『終わった』のです。
1945年8月15日は『終戦の日』であって、天皇の終戦詔書にも降伏や敗戦という言葉は見当たりません。
このすり替えから日本の戦後は始まっています。
戦後とは、戦前の権力構造をかなりの程度温存したまま、自らを容認し支えてくれるアメリカに対しては臣従し、侵略した近隣諸国との友好関係はカネで買うことによって、平和と繁栄を享受してきた時代です。
敗戦を『なかったこと』にしていることが、今もなお日本政治や社会のありようを規定している。私はこれを、『永続敗戦』と呼んでいます」
――永続敗戦……。言葉は新しいですが、要は日本は戦争責任を果たしていないという、いつものあの議論ですね。
「そう、古い話です。しかし、この話がずっと新しいままであり続けたことこそが、戦後の本質です。
敗戦国であることは端的な事実であり、日本人の主観的次元では動かせません。
動かすには、もう一度戦争して勝つしかない。
しかし自称愛国者の政治家は、そのような筋の通った蛮勇を持ってはいません」
「だからアメリカに臣従する一方で、A級戦犯をまつった靖国神社に参拝したり、侵略戦争の定義がどうこうと理屈をこねたりすることによって自らの信念を慰め、敗戦を観念的に否定してきました。
必敗の戦争に突っ込んだことについての、国民に対する責任はウヤムヤにされたままです。
戦争責任問題は第一義的には対外問題ではありません。
対内的な戦争責任があいまい化されたからこそ、対外的な処理もおかしなことになったのです」
「昨今の領土問題では、『我が国の主権に対する侵害』という観念が日本社会に異常な興奮を呼び起こしています。
中国や韓国に対する挑発的なポーズは、対米従属状態にあることによって生じている『主権の欲求不満』状態を埋め合わせるための代償行為です。
それがひいては在特会(在日特権を許さない市民の会)に代表される、排外主義として表れています。
『朝鮮人を殺せ』と叫ぶ極端な人たちには違いないけれども、戦後日本社会の本音をある方向に煮詰めた結果としてあります。
彼らの姿に私たちは衝撃を受けます。
しかしそれは、いわば私が自分が排泄(はいせつ)した物の臭いに驚き、『俺は何を食ったんだ?』と首をひねっているのと同じです」
■ ■
――左派リベラルは、なぜタガになり得なかったのでしょうか。
「左派の最大のスローガンは『平和憲法を守れ』でした。
復古主義的な権力者たちに憲法をいじらせてはならないという時代の要請に応えたものではあったのですが、結果的には『平和がいいよね』というものすごく単純な心情にのみ訴えかけて大衆動員をはかろうという、政治的には稚拙なキャンペーンになってしまいました」
「繁栄が昔日のものとなる中で急激に平和も脅かされつつあるという事実は、戦後社会に根付いたと言われてきた平和の理念が、実は戦後日本の経済的勝利に裏付けられていたに過ぎなかったことを露呈させています。
左派はこのことに薄々気づいていながら、真正面から向き合おうとはしてこなかったと思います」
――右も左もだめなら、タガは外れっぱなしですか。
「海の向こうからタガがはめられていることが、安倍政権下で顕在化してきました。
鳩山政権時代、日米同盟の危機がしきりと叫ばれましたが、それは想定内の事態でした。
米軍基地をめぐりアメリカにたてついたのですから。
ところが安倍政権は対米従属の性格が強いにもかかわらず、オバマ政権から極めて冷淡な対応を受けています。
非常に新しい事態です。これはなんと言っても歴史認識問題が大きい。
当然です。アメリカにしてみれば、俺たちが主導した対日戦後処理にケチをつけるのか、お前らは敗戦国だろうと。『価値を共有する対等な同盟関係』は、日本側の勝手な思い込みに過ぎなかった。
対米従属が危うくなっているということは、端的に『戦後の終わり』を意味します」
■ ■
――そんな中、被害者意識を核にした物言いが目立ちます。
「被害者意識が前面に出てくるようになったきっかけは、拉致被害問題でしょうね。
ずっと加害者呼ばわりされてきた日本社会は、文句なしの被害者になれる瞬間を待っていたと思います。
ただこの被害者意識は、日本の近代化は何だったのかという問題にまでさかのぼる根深いものです」
「江戸時代はみんな平和にやっていたのに、無理やり開国させられ、富国強兵して大戦争をやったけど最後はコテンパンにたたきのめされ、侵略戦争をやったロクでもないやつらだと言われ続ける。
なんでこんな目に遭わなきゃいけないのか、近代化なんかしたくてしたわけじゃないと、欧米列強というか近代世界そのものに対する被害者意識がどこかにあるのではないでしょうか。
橋下徹大阪市長の先の発言にも、そういう思いを見て取れます」
――しかし、被害者意識を足場に思考しても、何か新しいものが生まれるとは思えません。
「その通りです。結局いま問われているのは、私たちが『独立して在る』とはどういうことなのかということです。
いま国民国家の解体が全世界的に進行し、大学では日本語での授業が減るだろうし、社内公用語を英語にする企業も増えている。
この国のエリートたちはこれを悲しむ様子もなく推奨し、みんなもどこかウキウキと英語を勉強しています。
このウキウキと日本人の英語下手は一見背反する現象ですが、実はつながっているのではないでしょうか」
――どういうことでしょう。
「英語が下手なのは、言うべき事柄がないからですよ。
独立して在るとは『言うべき言葉』を持つことにほかならない。
しかし敗戦をなかったことにし、アメリカの言うなりに動いていればいいというレジームで生きている限り、自分の言葉など必要ありません。
グローバル化の時代だと言われれば、国家にとって言語とは何かについて深く考察するでもなく、英語だ、グローバル人材だと飛びつく。
敗戦の事実すらなかったことにしているこの国には、思考の基盤がありません」
「ただし、仮に言うべきことを見つけても、それを発するには資格が必要です。
ドイツだって『俺たちだけが悪いのか』とそりゃあ内心言いたいでしょう。
でもそれをぐっとこらえてきたからこそ、彼らは発言できるし、聞いてもらえるのです」
■ ■
「言うべきことがないことと、『仕方ない』で何事もやり過ごす日本人の精神風土は関係しているのでしょう。
焦土から奇跡の復興を遂げて経済大国になったという国民的物語においては、戦争が天災のようなものとして捉えられています。
福島第一原発事故についても、いっときは社会が脱原発の方向へと動いたように見えましたが、2年が経ち、またぞろ『仕方ない』という気分が広がっている。
自民党政権はなし崩し的に原子力推進に戻ろうとしているのに、参院選での主要争点にはなりそうにありません」
――「仕方ない」の集積が、いまの日本社会を形作っていると。
「その代表が原爆投下でしょう。日本の自称愛国者たちは、広島と長崎に原爆を落とされたことを『恥ずかしい』と感じている節はない。
被爆の経験は、そのような最悪の事態を招来するような『恥ずかしい』政府しか我々が持ち得なかったことを端的に示しているはずなのに、です。
原発事故も、政官財学が一体となって築き上げた安全神話が崩壊したのですから、まさに恥辱の経験です。
『仕方ない』で万事をやり過ごそうとする、私たちの知的・倫理的怠惰が、こういう恥ずかしい状況を生んでいる。
恥の中に生き続けることを拒否すべきです。
それが、自分の言葉をもつということでもあります」
(聞き手・高橋純子)
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