米財政危機で進む多極化:田中
2013-10-11

ティルス
本当は米国の財政危機というよりも、カテゴリーが違うので、苦しくなって人民大衆にの前に現れる寡頭勢力。と言ったところでしょうか。
田中宇氏がモチーフにしている多極主義と一極(冷戦)覇権主義。
あるいは山本尚俊氏が言う銀行屋と戦争屋。
カテゴリーがやや異なるので、細かい一致はしませんが、私が経済世界について考える際のベースと大まかには類似しています。
このブログでは一貫して、資本主義世界は自然現象のように理論上の均衡という「神の見えざる手」では動いてはいない、と主張してきています。
それどころか、この資本主義の経済体制を作り上げてきたのは、通貨、金利と信用創造という「特殊な発明・考案」であって、現在に至るも主体的な意図によって、経済事象が動いていると見ています。
これは、世界の経済事象には意図的な力が働いているということ、主体的な意志が支配しているということです。
ただ、この「意志」は必ずしも人格的な全体独裁のものではなく、集合的でときおり利害によって矛盾、分散した動きを見せる存在です。
これらをこのブログでは血族の国際金融寡頭勢力と仮称しています。
その現業部門を国際金融資本と呼んでいます。
国際金融資本はおおまかに本流と支流に分かれ、支流はいわゆる軍産複合体と協調しています。
もちろん、経験的で大まかな決めつけです。権威筋がそんな報道をするわけはありませんので。
ちなみに、ユダヤの陰謀とかユダ金とか半端な「陰謀論」は社会経済を把握するには幼稚すぎるので捨象します。
資本主義にとってユダヤ人の存在は巨大なのですが、現実にはスファルディムがアシュケナディムを手兵として使っているわけです。
また軍産複合体はアングロサクソンとシオニスト(アシュケナディム)で構成されていること、ついでに言えば、国際金融資本の源流は13世紀のヴェネツィアに始まりますが彼ら黒い貴族がユダヤ教徒であったとするのは多くの無理があります。
ともあれ。
世界の資本主義経済に主体的に影響を与え「得る」のは、彼ら国際金融寡頭勢力とその凶暴な片割れである軍産複合体しかありません。
この大小二つの潮流がどこで合流し、分流し、大きな流れ、小さな流れ、を作り出しているかが、重大な影響を与えていると考えるのです。
13世紀以来、国際金融資本は分散都市国家、小国、地方自治の強い連邦などを好んで流通拠点とします。現在では資本流通と金融市場に拡大していますが、何れにしても多極的な世界での流通を基軸としてきたのは事実です。
田中氏のいう「多極主義」の概念もそうした見方の一つと考えています。
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米財政危機で進む多極化 10/9 田中宇
10月1日は、米国で会計年度の始まる日だったが、議会での2大政党の対立から政府の新年度予算が通らず、政府機能の17%前後が停止する政府閉鎖がこの日から続いている。
対照的に中国では、10月1日が共産党政権の建国記念日(国慶節)で、国威発揚の行事が盛大に行われた。
米国が衰退し、中国が台頭するこの図式は、日本のマスコミなどが毛嫌いするものだが、その傾向は、米政府の政府閉鎖とともに加速している。 (`Shutdown': China's Xi upstages Obama's Asia pivot) (America cannot live so carelessly forever)
10月7日にインドネシアのバリ島でAPECサミットが開かれたが、政府閉鎖で共和党との交渉に追われるオバマ大統領は欠席せざるを得なかった。
代わりにサミットを仕切ったのは中国の習近平主席だ。サミット開幕日がちょうどロシアのプーチン大統領の61歳の誕生日だったので、習近平が音頭をとってお祝いの歌が歌われ、インドネシアのユドヨノ大統領がギターで伴奏する、BRICS+非同盟諸国的なサプライズの即興イベントもあった。 (Shootout at the APEC free-trade corral) (China grabs limelight from wounded US at Asia-Pac summit)
習近平は、外国元首として史上初めてインドネシア議会で演説させてもらう歓迎も受けた。
習近平の後、日本の安倍首相もジャカルタを訪問し、日本と一緒に中国包囲網を形成しようと持ちかけた。
だが、2番目に多い貿易相手国である中国との貿易額が急増しているインドネシアの政府は、最大の貿易相手国である日本の申し出に直接応えなかった。
むしろ、習近平を議会で演説させることで中国との親密さを示した。 (China: We don't do shutdowns)
中国は、東南アジア諸国との間で南沙群島の領海紛争を抱えるが、東南アジアに中国との経済関係で儲ける利権を与える代わりに、領海紛争を中国に有利に解決しようとしている。
中国は、日本、東南アジア、インドとつながる海の中国包囲網に対抗して、東南アジアを経済的に取り込もうとする「海のシルクロード」の構想を、APECに合わせて発表した。 (China plans Maritime Silk Road with ASEAN nations: Report)
オバマは、政府閉鎖の影響でマレーシア訪問もとりやめた。
マレーシアはTPP参加予定の国で、米国式の(米企業が儲かる)経済システムを導入することを条件に、米国との経済関係の強化を許されている。
オバマが訪問しなかった間隙を縫うかのように、習近平がマレーシアを訪問し、米国のような交換条件なしに、経済交流の利権を与える話を持ちかけた。 (Obama Cancels Trip to Philippines and Malaysia)
米国は、日本との間で10月3日に予定どおり2+2協議を行い、日米同盟の強化をうたった。
日本は米軍の海兵隊が沖縄からグアムやハワイなどに出ていくための移転費用の4割にあたる300億ドルを米国にあげることを決めた。
中国を監視する体制強化などが喧伝されたが、実のところ日米同盟は「米軍撤退」の方向で着々と強化されている。
対米従属を維持したい日本政府は、米国の要求どおり(しばしば要求以上)に、在日米軍に金を出す。
だから米政府は、政府閉鎖が始まった後なのに、予定通り日米2+2をやって300億ドルもらったのだろう。 (Japanese Government Agrees to Spend $3 Billion to Boot U.S. Marines out of Okinawa)
米政府は10月に入り、エジプトに対する経済支援の打ち切りを検討していることを正式に認めた。
エジプトでの7月のクーデター以来、非民主国への経済支援を法律で禁じられている米政府は、エジブトへの支援打ち切りを検討しているが、これまで非公式だった。
政府閉鎖や財政赤字上限(米国債デフォルト)問題などで資金難の米政府は、エジプトへの支援打ち切りのほか、イスラエルへの支援まで減らすことを検討し始めている。
米国は政府閉鎖を機に、中東での影響力減退も引き起こしている。 (Reports: US Aid to Egypt May Be Halted) (中東不安定化を狙って誘発されたエジプト転覆)
7月のクーデター前から、米国の代わりにサウジアラビアがエジプトを経済支援しており、だからこそサウジが嫌うムスリム同胞団の政権を倒すクーデターが起こされた。
圧倒的な覇権国である米国に比べ、サウジは地域大国の中の一つでしかなく、中東にはサウジに対抗しようとする勢力が多い。
エジプトは、米国傘下からサウジ傘下に切り替わったことにより不安定化が進み、カイロ郊外などで、ムスリム同胞団などイスラム主義勢力と当局治安部隊の間で市街戦が発生し、シリアに近い内戦状態になりつつある。 (Is Egypt Set To Become Syria 2.0?) (サウジとイスラエルの米国離れで起きたエジプト政変)
これから内戦化しそうなエジプトと対照的に、シリアはロシア案でアサド政権が強化され、内戦終結の方向に動いている。
北部の町アレッポを支配するシリア反政府勢力(FSA)が、代表を首都ダマスカスに派遣し、アサド政権側と交渉を開始した。
(※ 北風:「自由シリア軍とアサド政府が対話を開始」。)
同時に、反政府勢力傘下のアレッポで、2年前の内戦開始以来閉まっていた役所や学校が再開され、イスラム過激派の少年兵が武装解除して学校に通うようになった。
エジプトは、ムバラクも同胞団も対米従属的だったが、内戦を終わらせようとしているシリアは、露中イランと親しい多極型の国として再生しようとしている。
米国覇権の崩壊は世界の不安定化だが、多極化は世界の安定化である。 (Syrian solution to civil conflict? The Free Syrian Army is holding talks with Assad's senior staff)
中国は、中東政治でロシアに比べてずっと目立たないが、中国がテコ入れして中国式の「解決」をやりそうな国がある。ペルシャ湾岸の小国の一つバーレーンだ。
同国は、国民の7割を占めるシーア派の大衆が、スンニ派の王室(君主)に支配・抑圧されており、「アラブの春」の影響で2年ほど前からシーア派による政権転覆運動とそれへの弾圧が続いている。
バーレーンは、米海軍の第5艦隊の母港で、米国にとって重要な同盟国だが、同時に反政府運動への弾圧は米国が批判するところでもあった。
シーア派大衆の背後にはペルシャ湾の向かいにあるイランがおり、米国がイランを許すと、バーレーンで政権転覆が実現し、第5艦隊も追い出されかねない。 (バーレーンの混乱、サウジアラビアの危機)
そんなバーレーン王室の窮地を救うかもしれないのが中国だ。
習近平が9月中旬に訪問して「バーレーンの国家統合と安定化を支援する」と表明し、その直後に返礼としてバーレーン君主が北京を訪問した。相互に国家統合を支持する文脈から、バーレーン政府が「一つの中国。台湾は中国の一部」を強く支持したのはご愛嬌だ。
中国政府は、どのようにバーレーンの国家統合と安定を支援するか、まったく明らかにしていない。
しかし想像するに中国は、新疆ウイグルの分離独立派に対してやっているような捜査や弾圧、予防拘禁のやり方をバーレーン当局に手ほどきするとともに、この間、中国が米国の制裁を無視して支援してきたイランに「バーレーンで政権転覆を求めず、君主と和解せよ。そうしたらもっと石油ガスを買ってあげるよ」とやんわり圧力をかけるのでないか。 (China pledges support for Bahrain's efforts to safeguard stability)
中国が、米国覇権への対抗を最重視するなら、バーレーンの政権が転覆されるのを看過した方が、第5艦隊が追い出され、中東から米国が出ていくので好都合だ。仲裁役がロシアなら、そうするかもしれない。
しかし、バーレーンの政権転覆は必ず、東部の油田地帯にシーア派人口を抱えるサウジの不安定化を招き、イランとサウジの対立も激化し、中国(や日本)にとって重要な油田地帯であるペルシャ湾岸の全体が危険になる。
それならむしろ、バーレーンの弾圧を補強しつつ、サウジに恩を売り、返す刀でサウジとイランの和解まで隠然と仲裁し、両方から安く石油を買った方が得策だ。
中国の策が成功すると、ペルシャ湾岸地域は、米国の覇権下から、中露中心の上海協力機構の周縁部として位置づけられるようになる。 (立ち上がる上海協力機構)
(※ 北風「バーレーンからサウジへの道」。)
実のところ中国は、第5艦隊の撤退を望んでいない。
この海域の米海軍が減ると、欧州と中国を結ぶ航路であるインド洋(ソマリア沖など)の海賊退治が手薄になり、中国が高い金をかけてインド洋に海軍を派遣せざるを得なくなる。中国は、覇権行為をやるにしても安上がりにしたい(たぶん米国の軍事戦略を不可解と思っている)。
米国は以前、中国に圧力をかけ、中国海軍をインド洋の海賊退治に引っ張り込んだが、中国はいやいやながら「おしるし」的に数隻を派遣しただけだった。 (中国を使ってインドを引っぱり上げる)
習近平の訪問を受けた後、バーレーン当局は、反政府派への弾圧を強めた。
9月の1カ月間に214人の反政府運動家が逮捕された。バーレーンは中国式の弾圧を邁進し始めたように見える。
これを見て米政府はバーレーンへの批判を強め、オバマ大統領は9月末に「バーレンは派閥抗争に陥っている」と表明した。
「派閥抗争」は、イラン傘下の反政府勢力と、バーレーン王政を対等視する表現だ。オバマは、イランに味方しているようにすら見える。王政は怒って即座に「派閥抗争でなく、テロとの戦いだ」と反論した。
習近平も訪問時にバーレーンの反政府派を、新疆のウイグル人の分離独立派と同様のテロリストとみなす発言をしている。王政は、米国を見限って中国に頼る傾向を強めている。
ここでも「中東民主化」の主張が、米国の覇権衰退と多極化につながっている。 (Bahrain steps up crackdown on dissent)
インターネットの世界では最近、米国の信号傍受機関NSAによる国際的なネットの盗み見に反発し、ブラジルが主導して、米国を経由しないインターネットの世界的バックボーンの埋設が進んでいる。
ロシアのウラジオストクから中国の山東省、インドのチェナイ、南アフリカのケープタウン、ブラジルのフォルタレザを経由して、ウラジオまで戻る世界一周の海底ケーブルで、間もなく完成する。
NSA事件が、ネットの米国覇権を崩す動きを誘発している。 (The BRICS "Independent Internet" Cable. In Defiance of the "US-Centric Internet")
米国の政府閉鎖が続くと、10月17日以降に米国の国庫が空になり、米国債の利払いができなくなってデフォルトの可能性が強まる。
米国債のデフォルトは、たとえ数日間でも、08年のリーマンショックを超える金融崩壊を世界的に引き起こすとの予測が出回っている。 (12 Very Ominous Warnings About What A U.S. Debt Default Would Mean For The Global Economy)
米国では、銀行の取り付け騒ぎや暴動が懸念され、治安当局である本土防衛省が、非常事態宣言の構想など、金融崩壊への準備を開始したとも言われている。
すでに10月後半に満期となる短期米国債は、広範な買い控えを引き起こし、利回りが急騰している。
利回り上昇が10年ものなど長期債に波及すると、非常に危ない。
株価の下落も始まっている。 (Martial Law and the Economy: Is Homeland Security Preparing for the Next Wall Street Collapse?) (Investors hasten exit from US Treasury bills amid default fears)
政府閉鎖や、財政赤字上限の引き上げ拒否が、必ずデフォルトにつながるとは限らない。
しかし、デフォルトしそうだということで債券の買い控えが広がり、債券市場の凍結が再発すると、それ自体がリーマン危機の再来となる。 (Moody's optimistic US will not default)
米国では10月24日から11月15日までに、総額4410億ドルの短期国債が満期になる。
通常なら全額を借り換えられるが、米国債の先行きに不安が持たれると売れ残り、売れ残りの分は米政府が現金で償還せねばならない。
しかし、今の米政府にはほとんど手持ち資金がない。償還不能はデフォルトだ。
たとえ米議会がオバマの言うことを聞いて国債の発行上限を引き上げたとしても、その米国債の国際信用が低下すると利払いが増え、米政府は支払不能になる。 (The Danger In Playing "Debt Ceiling Chicken": $440 Billion In Debt Maturing Before November 15)
米国債のデフォルトは、米国中心の現代世界システムの崩壊を意味する。
BRICSはドルに代わって自国通貨で貿易決済するシステムを作っているが、ドルと米国債の信用失墜が実際に起きたとき、それで代替しきれるかどうかわからない。
しかし、インターネットの脱米化や国際政治の多極化と同様、長期的に見て、ドルと米国債の崩壊が、多極型体制への移行につながることは、ほぼ間違いない。
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