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もうすぐ北風が強くなる

小沢氏インタビュー2/12サンデー毎日

 小沢1211

  小沢一郎氏インタビュー 2/12発売 サンデー毎日2/24日号 TwitLonger 新宿デイジー (@Shinjukudaisy)から
 (まえがき省略)

【大下英治】まずは昨年12月の衆院選を振り返っての心境を。

【小沢一郎】「第三極」といわれるグループがいくつかできて、しかも突然の解散で時間がなかったから、できるだけ広く支持を集めるには、受け皿を大きくした方がいいだろうと思ってね。
僕ら「国民の生活が第一」が日本未来の党に合流する以前から、みんなの党にも日本維新の会「このままだと必ず(総選挙で)負ける」と、まとまるように言い続けてきたんだけれども、結果はご存知の通り。
僕の思った通り、自民党を利する結果になりました。

【大下英治】野田佳彦首相(当時)による早期解散には、維新の会へのけん制とどうじに、小沢一郎に準備をさせない意図があったのでしょうか。

【小沢一郎】多少あったかもしれないが、まさに自殺行為。
一瞬にして200人近くの同志を失ったにもかかわらず、野田首相周辺から「これで党が筋肉体質になる」「スリムになって逆に良かった」というような意見が聞かれる。
異常としか言えません

【大下英治】民主党政権が壊れた根本は何でしょう。

【小沢一郎】国民から政権を預かった、という責任感と使命感がなかったことです。
それに、僕の例が典型ですが、同志が力を合わせて助け合うという良い意味での仲間意識が皆無でした。
政権という“高価なオモチャ”をもらって、喜んで遊んでいたという感じですね。

【大下英治】菅直人元首相らは「小沢一郎を排除すれば支持率が上がる」という発想でした。自民党はその点、まとまりがあります。

【小沢一郎】良くも悪くも自民党の方が“大人”の常識を持っている。
民主党は“子ども”。
加えて、セクト主義的な左翼運動の体質があるのでしょうか。
“内なる敵”を倒す、「あいつを倒せば自分は安泰だ」という感覚でした。
その点は官僚と同じ。だから民主党は官僚と“共闘”できたんでしょう。
せっかくスゴロクの「振り出し」から「上がり」に行ったのに、また「振り出し」に戻っちゃった。

【大下英治】しかし、「振り出し」に戻ったのは、国民が「二大政党はダメだ」と感じたからではないですか。

【小沢一郎】半分あきらめたんでしょう。それが総選挙の低投票率に表れた。
ただ、自民党の得票は増えていない。(第三極が)バラバラになったから(自民、公明の議席が)3分の2になっただけです。

【大下英治】維新の橋下徹大阪市長は石原慎太郎と組んで主張が変わりましたね。

【小沢一郎】参院選が終わればはっきりするでしょうが、石原さんは完全に自民党ですよ。「総選挙で自民党が(過半数を)取れなければオレの出番」と思っていたかどうかは知りませんがね。

  《「政権奪還は難しくない」》

【大下英治】今回、“一兵卒”から再び(生活の党の)代表になったのはなぜですか。

【小沢一郎】非常に迷いました。
かつて自由党をつくった時と同じ状況になったわけです。
僕を支持してくれる人たちは熱心な人が多いから、僕が代表になることでその票は多分戻ってくるが、過半数にはならない。
主義・主張がはっきりするのはいいけれども、政権奪還という大目標からすると、我々だけでは難しい。
ただ僕は、政権奪還自体は難しくないと思っています。
事実、自民党などの票は増えなかったのに3分の2の議席を得たわけだから、再び(民意が)振れればドンデン返しになる。
そのために受け皿をしっかりと広げ、連携することが大事だと思います。
民主党は政権を一度取りましたから、自民党に対抗するのは民主党、という意識が国民に染み込んでいるんじゃないでしょうか。

【大下英治】海江田万里代表は小沢さんが代表選に立てたことがある。連携はある?

【小沢一郎】でも、「排除の論理」の人たちの影響力もまだあるだろうし、(連携は)こちらから言う立場でもない。
ただ、「なんとしても政権を」という積極的な意欲がないと、労働組合だけの“第二の社会党”になっちゃう。
民主党の諸君の「志」次第ですね。

【大下英治】維新はどうですか?

【小沢一郎】旧体制に対峙(たいじ)し、看板通り維新を断行するなら大賛成です。
でも自民党と連携話をしているようでは国民の期待も萎(しぼ)んじゃう。

【大下英治】第三極は大変だ。

【小沢一郎】このまま行くと、野党は参院選で負けますね。
でも、国民は自民党でいいとは思っていません。この前の選挙では、自民党に投票したくない人は棄権しました。
参院選で負けたって次の衆院選は絶対勝てる。
自民党は安定政権とは思えません。結構もろい。
(安倍政権は)「右(路線)」と言われるが、右でも左でもいいんですけれども、政治家としての理念に基づき、そこから出る政策、主張、論理的・合理的な結論を掲げてやるなら、結果として賛成できなくても理解はできます。
だけど、その場その場、なんとなくの右、なんとなくの左では、とても危なっかしい。
安倍晋三さんはとても人柄がいいし、僕は好きです。
だけど天下の政治、日本の舵取りですから、人が良いというだけでは、ちょっと船長として心許ないですね。

【大下英治】そのアベノミクスの「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」という“三本の矢”をどう見ますか。

【小沢一郎】前の自民党に戻っただけでしょう。
不景気だから公共事業をやれ、というだけで目新しい話じゃない。
GDPを大きくすれば、みんなに配分が行き渡り、国民の所得も上がる、生活水準も上がるという考え方が背景にあります。かつての小泉純一郎元首相も竹中平蔵氏もそうでした。
右肩上がりの経済の時は通用しましたが、小泉氏以降は全然違います。
実際、国民所得はずっと減っています。
経営者層の所得と企業の内部保留だけが膨らみ、国民の所得に還元されていない。
今また右肩上がりの時の考え方を持ち出したわけですが、国民全体のレベルアップ効果はありません。

【大下英治】「脱原発」ですが、前回衆院選で目玉の争点だったはずなのに、維新は曖昧、自民党も強く言わなくなりました。

【小沢一郎】維新も他の第三極も、口を揃えて言わなかったから、争点にならなかったと思います。
加えて、野田政権が原発事故は「収束した」と宣言した。それで、なんとなく事故が終わったような雰囲気になってしまった。

【大下英治】自民党は逆に再稼働に前向きです。3分の2の議席を得たということは、国民の支持を得たという意味になるのでしょうか。

【小沢一郎】「支持」ということなんでしょうね。

【大下英治】もし選挙までに時間があれば、脱原発の訴えは浸透したと思います?

【小沢一郎】いや、違うでしょうね。メディアも政党も黙殺しちゃったんだから、酷い話です。
最後は国民が決めることですが、こんなことをしていたら天に唾する結果になるような気がして、とても心配です。

  《夏の参院選で計20人擁立へ》

【大下英治】夏の参院選について伺います。生活の改選は6人で非改選は2人。

【小沢一郎】改選議員のうち3人が選挙区で、3人が比例区です。近く比例区の追加公認を発表しますが、比例区では10人を擁立する予定で目標は1000万票です。

【大下英治】小沢さんの地元の岩手では、民主党の平野達男前復興相に対して候補者を立てると聞いています。

【小沢一郎】しょうがないですね。民主党は、僕たちの現職がいる新潟(森ゆうこ氏)や広島(佐藤公治氏)に新人候補をぶつけてきました。
今この状況下で対抗馬を立ててくるのはケンカを売ってきたということだから、対抗せざるを得ません。
しかし、1人区については基本的に野党の共倒れを防ぐため、特別の事情があるところ以外は立てないようにしようと思っています。
一方、3人区以上では、ぜひ公認候補を擁立したい。
首都圏の1都3県(東京、神奈川、千葉、埼玉)などの選挙区と比例区を合わせて計20人は立てたい。

【大下英治】三宅雪子さんとか、前回衆院選で敗れた人たちの中にも「参院選に出たい」という人がいますね。

【小沢一郎】三宅君は張り切っています。参院では10人以上が院内交渉団体なので、2ケタの議席を確保しなければいけません。
20人の候補者擁立を目指し、2ケタ当選を目標にしたい。
2013年度予算案が衆院を通過すれば、参院選一色でしょう。2~3月で基本政策を煮詰めていきますが、
原点は、やはり政権交代した時のマニフェストですね。

【大下英治】安倍自民党は成長戦略を掲げています。対する生活、小沢一郎は日本をどう成長させていくのか。

【小沢一郎】外需頼み経済成長は非常に危ういことが分かってきました。
諸外国の雲行きがおかしくなれば、日本もおかしくなるわけですからね。
日本のように、精神的にまだ幼稚だが経済的に成熟した国は、内需中心で成長できます
1%か2%か、低いながらも成長していくことはできます。早くその仕組みを確立しなければならない。
その前提として、中央集権体制を変えて地方に権限とカネを渡し、地方の活性化を図らなければいけません。
それによって、内需中心の社会の礎を築いていこうというのが僕の考え方です。
ところが、国会議員自身が中央集権、官僚主導の体制を変えられるはずがないと思っている。
国民には地方分権、地域主権と言っているのに、実は内心、「あり得ない」と思っているんです。

【大下英治】でも都道府県によっては、能力の有無で格差が出てくるのではないですか。

【小沢一郎】隣の県は住みやすいとか、わが県の知事はダメだとかで差が出てくるからいいんです。
地域間競争が生まれることでそれぞれが活性化されます。
まず公共事業はすべて地方に渡すとか、地方分権を少しずつやればよかった。
例えば、財務省は地方への補助金のうち「社会保障関係費15兆円は動かせない」と言うけれども、そんなことはないですよ。
実際にやっているのは地方なんだからね。
そして、地方の裁量に任せれば行政経費は3~4割削減できます。
また、例えば企業年金の資産運用で1900億円を消失させたAIJ投資顧問には厚労省の役人が天下りしていたのに日本人は平気な顔をしている。
自立意識がうすいんですね。
「オレたちのカネだ。どうしてくれるんだ」と怒るのが普通なのに企業も黙ってしまっている
みんな談合体質なんです。
それを断ち切って打ち壊さなきゃ、日本はうまくいきませんよ。

  《「彼ら」の企みは90点くらい取れた》

【大下英治】その談合体質にメスを入れるという立場からいえば、“邪魔者”にされたという認識はあります?

【小沢一郎】僕は旧体制の人たちにとって完全な標的ですよね。
証拠も何もないのに、いきなり強制捜査されました。
普通の法治国家、民主主義国家ではあり得ないことです。
政権交代するとみられていた野党の代表を、衆院選前になんの証拠もないのに強制捜査するなんて、後進国の独裁国家です。
民主主義を否定する人たちの所業ですよ。

メディアも平気でそれに乗り、僕を犯罪者扱いしました。
しかも、証拠が挙げられないとなったら証拠の偽造までした
その結果、3年半、僕は政治活動を制限され、結局は無罪になったけれども、同じ党の人間にまで攻撃されました。
一方で、有印公文書まで偽造した検察官は刑事責任を問われない
どうなっているんだ、日本は!

ただ、僕の息の根は止められなかったけれど「彼ら」の企みは成功した。
3年半、僕の行動の自由を奪って、政権交代と民主党を破壊したんだから、100点じゃないが90点くらい取れたと思っているよ、「彼ら」は……。
僕だから歯を食いしばって頑張ることができたけれど、普通、政治家は1回か2回、報道でやられたら立ち直れない。

【大下英治】憲法問題について安倍首相は「憲法改正」を訴え、維新の石原慎太郎代表は「憲法破棄」。憲法改正、国防軍、集団的自衛権についてはどう考えていますか。

【小沢一郎】首相については最初に言った通りです。
政治家としての基本理念とそれに基づいた論理的、合理的帰結としての主張ならいいが、その場その場の思いつきや感情で天下人がしゃべってはいけない。
憲法について言えば、日本国内で言われる護憲、改憲の議論は意味がないと思います。
国民がよりよい生活をするための最高のルールだから、時代の変化とともに変える必要があるなら変えればいい。
それだけの話です。

憲法9条の解釈は、日本が国際紛争を解決するのに武力を行使しちゃダメだということでしょう。
自衛権は「集団的」と「個別的」に理屈の上では分けるけれども、どっちも自衛のために武力を行使することです。
自衛権の発動は、直接わが国に急迫不正の侵害があった場合、もしくは放置すれば侵害される恐れのある場合に限って許される。

それが日本国憲法の精神です。
日米安保条約があるからでしょう。日本を攻撃する側が日本の防衛に当たろうとした米軍基地や艦船を叩けば日本に対する攻撃となる。当たり前のことです。
しかし、直接日本に対する攻撃ではない他国や他の地域の紛争について、日本人や日本に利害関係があるからといって自衛権を発動するのは憲法に違反します。
それが憲法の精神ですよ。
憲法の前文に「国際社会と協力して日本は名誉ある地位を占めたい」とある。

だから国際社会の平和のために我が国は国連活動として参加すればいい。
武力行使含む活動であっても国連の活動なら憲法の理念に反することはない。
でも日本単独での行動は憲法上許されないし、僕自身の考えとしても許されるべきではないと思います。

今、日本人の生命が危ない時は自衛隊を派遣しようなんていい加減な話が出てきています。
今や日本人は世界中どこにでもいます。
その日本人に何かあったら自衛隊を派遣するというのは、海外派兵そのものです。
その理屈だと世界中どこにでも派遣できる。
古今東西、戦争はそうやって起きてきた。
それは止めようというのが日本国憲法の精神であり、国連が出来た経緯でもあると思います。

【大下英治】国防軍については?

【小沢一郎】憲法には、個別の名称を書くものじゃない。
「自衛権は行使してよい」「自衛権は否定するものではない」というように、条文を加えるのは問題ないと思います。
また、「国際紛争はすべて国連により解決する。そして日本は国連の平和活動に積極的に参加する」と書けばいい。
僕はそれを第9条に追加するのは構わないと考えています。

【大下英治】安倍首相は憲法96条を改正し、憲法改正の発議要件を現在の3分の2から2分の1へと緩和することを目指しています。

【小沢一郎】96条の規定は緩めてもいいと思います。
(ただし、)憲法を変えやすくするのはいいけれども、中身が問題です。
よほど日本人が見識を持っていないと、政権が変わるごとに憲法を変えることになりかねない。


  《「次の衆院選までは全力だ」》

【大下英治】TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉参加の是非が割れていますが、どう見ていますか。

【小沢一郎】日米構造協議の延長です。
「ここはいいが、ここはダメだ」と、サシ(1対1)で米国とやれるの?
いま参加したら米国の言う通りになりますよ。
関税障壁を取り払うこと自体はいいが、米国の本当の目的は農業じゃない。
医療、郵便貯金、金融など、もっと金額の大きい分野を狙っているんです。
日本が本当に米国とサシでやれるなら、何も怖いことはない

【大下英治】でも、今の安倍政権では無理?

【小沢一郎】無理だと思います。
民主党より多少いいかもしれないが、似たようなものですから。

【大下英治】小沢一郎がトップ(首相)だったらやれるか。

【小沢一郎】嫌われても恨まれても、やるべきことはやらなきゃならない。
僕は何回も(対米交渉を)やってきた。やり口は知っています。
話し合いはなんぼでも可能です。論理の通ることは認めざるを得ないからですよ。
何度も言いますが、日本人は論理で主張することがまったくヘタなんです。

【大下英治】ダメなら参加しない方がいい、ということ?

【小沢一郎】しない方がいい。自由貿易協定で十分です。

【大下英治】最後に小沢さんの政権奪還論を聞きたい。

【小沢一郎】今回、総選挙で「未来」に結集して選挙後に元の政党に戻ることは、(複数政党が一つの名称で選挙を戦う)「オリーブの木」構想で言えば何もおかしくないけれども、日本では、くっついたり離れたりと批判される。
だから、もっとしっかりした集合体をつくらなければならないでしょうね。
そのためにも、民主党が中心となって他党を糾合しないといけない。
そうでないと政権は夢のまた夢。しかし、それができれば政権奪還は現実になる。

小選挙区制では簡単なんです。
(柱となる政治家は)誰だっていい。僕は、やりたいと言ったことはありません。
「どうぞ」と譲って(隠れていると)怒られている(笑)。
「この人の下で」となれば、すぐに自民党政権を倒せますよ。
公明党は強い方につきます。

10年前の民主党と自由党の合併当時、政権を取ると考えた人がいますか?
自民党は民主党みたいにおバカさんじゃないから、政権が危うくなっても解散はしない。
次の衆院選は2~3年後か、もう少し先かもしれない。
でも、まずは“幕藩体制”を倒さないと“文明開化”の世は来ない。
頭領は坂本龍馬でも西郷隆盛でもいいが、「オレがオレが」と主張する人たちでは大事は成就しません

みんな自分を殺し、捨てることです。
それで、国民に一番受け入れられる人、みんなの意見をまとめられる人がトップになればいい。
僕は次の衆院選まで全力でやります。
ただ、その間に政権を奪還するという志を持った人物が現れなかったら日本の未来はないと思います。
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アベノミクスの展開と帰結:吉田繁治(1)

 金融緩和と言う名の過剰流動性供給によって、デフレ脱却すなわち経済の成長循環の回復は、それだけでは不可能に近い。
 国債を日銀に回して公共事業に当てるというが、土木の労務単価が上がるくらいの効果しかないだろう。
 今どき利益が上がったから即、労働賃金に還元する企業家などいるわけも無いだろう。
 「家計、企業、政府の共倒れ破綻」の可能性が最も高い。
 要は「賃上げが無ければ、経済成長は無い
 
 アベノミクスとやらのこの鉄砲玉政策はいわゆるリフレ派マネタリストを下敷きにしたものだが、吉田繁治氏が子のリフレ派と構造改革派を双方とも批判し、勤労家計の可処分所得、すなわち賃金所得の下降こそがデフレの原因であり、正しい解決であることを説明している。

 いささか長文ですが、言葉の説明なども労を惜しまない、丁寧でわかりやすい解説です。
 4ページに分けて掲載します。
 ーーーーーーーーーーーーーーー
 『デフレの経済学』を解釈すると(2)  2/11 吉田繁治 (文中(※)はもうすぐ北風の注釈です。)

おはようございます。厳冬が続きますが、いかがお過ごしでしょう。
本稿は、有料版の増刊として、昨日送ったものです。ご無沙汰していたお詫びとして、送ります。若干の書き加えをしています。
アベノミクスについての、展開と、今後の帰結です。24ページと長文で
す。
経済の原理的なことを、論理的・包括的に書いています。

日銀の、次の総裁として有力視されている岩田規久男氏の『デフレの経済学(2001)』の、骨子を解釈しながら、論述します。

この書の結論を言えば、日銀が「果敢に」、国債を買い増しして、円を増刷することによって、マネー・サプライ(M2やM3)を、年率で4%以上増やすことができれば、デフレは収束するというものです。
M2は、その国の全部の現金と預金、M3はM+CD(譲渡性預金)です。

マネタリズムを作ったフリードマンが言った「デフレもインフレも、貨幣現象」であるというのがこれです。
常に、経済事情が異なるあらゆる国で、これが正解かどうか、実は分からない。
一種の学術的なドグマでしょう。
正解の時期と国はある。正解でない国と時期も
ある。

 【マネタリズムの、基本式:簡単です】

数式では、「M(マネー・サプライの量)×Mの流通速度(V)=一般物価水準(P)×実質GDP=名目GDP」、です。
(注)名目は、物価の下落率であるGDPデフレーターを、実質に加えたものです。

マネーの流通速度、言い換えれば、現金と預金が、商品の買い物と、物的な設備投資に使われる速度(マネーの回転率=名目GDP÷マネー・サプライの量)は、若干の低下傾向はあっても、ほぼ一定とする(フリードマン)。
(注)預金で、他の金融商品やデリバティブを買っても、マネーの流通速度は上がりません。収入や預金で、実物経済の商品を買い、設備への投資をすることがマネーの流通速度です。

流通速度を、短期では一定とすると、マネー・サプライ量の増加(例えば年率6%:日本では約70兆円)は、実質GDPを潜在GDPに近づけて増やすか、それ以上なら、物価を上昇させる。
潜在GDPは、失業が自然失業率(日本では2%か)のときの、生産力です。日本では、現在のGDP+2%くらいと、低い。

 【4%以上の増加が必要】

●岩田氏の見解では、日本経済は、過去、年率のマネー・サプライの増加が4%(現在の金額では40~50兆円)以下の時期は、物価が下がるデフレになっていた。
物価を上げるには、年率で4%以上(70兆円以上)が必要としています。

2012年12月での、日本のM3の残高は1135兆円です。
企業・世帯・自治体の、現金と預金の総額だと理解していい。

年率の実際の増加は、1~3%の範囲でした。2000年代の傾向は、ほぼ2%増でしかない。4%増以上でないと、日本の物価は下がる傾向になるとするのが岩田氏です。
http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1212.pdf

日銀は、一般には、銀行や保険会社としか、取引しません。銀行・保険がもつ国債・社債・債券・CP等を、債券市場で買い、「日銀当座預金」に現金を振り込むことが、ベース・マネーの増発です。
ベース・マネーは、「現金(82兆円)+銀行が日銀に預けた当座預金43兆円」です。

13年1月に125兆円になっているベース・マネーの増加だけでは、世帯や企業が使えるマネー・サプライ(主は預金)は増えません。
(注)FRBは、住宅価格の下落を止めるため、住宅ローンのデリバティブ証券(MBS)も買っています。

 【マネー供給の段階】

日銀によるベース・マネーの増減 (注)現金+日銀当座預金
これを、中央銀行による金融調節と言う

銀行の、利用可能な資金量の増減

貸付金の増減

企業・世帯の預金(マネーサプライ)の増減

商品購買と投資の増減(GDPの変化)

銀行が、世帯には住宅ローン残が増加するように貸し、企業には設備投資の資金を増加貸しして、そのマネーが、銀行システムの中の預金となって回るようにならないと、使えるマネー・サプライは増加しません。

 【ゼロ金利下では、物価を上昇させねば、借入は増えない】

金利は、現在、短期がほぼゼロで、長期も0.7~0.8%と低い。銀行の、長短の平均貸し出し金利は、1.3%と低い。
これ以上は、低くはできない。貸し金の1%くらいは、貸し倒れ引き当てを見込まねばならないからです。

現在のゼロ金利の中で、住宅ローンの借入が増えるには、ローンの金利(固定)は2%以下には下がらないので、年率2%程度以上で、住宅価格が、長期に上がるという期待が必要です。

2%は上がると予想されるように変わると、「ローンの名目金利2%-住宅価格の期待上昇2%」で、実質金利は、ゼロになります。
金利の負担が0やマイナスになれば、世帯は、住宅購入を増やすだろうということです。

同様に、物価(企業の商品売上の価格)も、2%上がると期待されるように変わると、売上増の見込みが立ち、押さえてきた借入での設備投資を、増やすだろう
そうなると、経済は、設備投資の乗数原理で成長するという説でもあります。

●岩田氏は、以上から、「日銀は、世帯と企業が使えるマネー・サプライが4%以上(6%程度)増えるように、国債・債券を買い、円を増加印刷すべきである。」と結論づけています。(『デフレの経済学』)

これは、米国のクルーグマンと、安倍内閣の顧問になった浜田宏一氏の主張でもあります。他のリフレ派も同様です。

●重要なことを言えば、マネー・サプライの4%を超える増加も、半年以内の短期では、インフレ期待に転じる効果がない。最短でも、向こう2年間、「日銀は、物価を2%上げる目的で、マネーの印刷を増やす」と、国民に確信されるものでなければならない。

【テーマ】本稿は、以上をめぐって、論を展開します。専門的な概念やデータには、(注)で短い注釈やコメントを書いています。

日本経済の構造変化があるので、実は、以上のマネー・サプライ増加論と円安は、経済に対し、有効ではなくなっています

経済と企業にとってとても重要なことであり、経済・金融の理論的なことでもあるので、数値実証で、丁寧に論を進めます。24ページ
です。

anyway、当方の予測シナリオ通りにならないことを希望しますが、数値的・論理的に考えると、可能性が高く思えます。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<284-2号:訂正版:『デフレの経済学』を解釈すると(2)> 2013年2月11日
【目次】

 1.日銀が言う「物価の安定」は、ゼロ%だった。
 2.名目金利は低いが期待実質金利は高い
 3.日本の物価が下がっていたのは、マネー・サプライの要因から
か?
 4.構造派と、マネタリストはどちらが正しいか?
 5.円安効果は、実は小さくなっていて、輸入増になる。

(↑この項の文を訂正)
 6.過去の通説に依存した誤り
 7.結果は、悪い金利上昇になる


【後記】
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  ■1.日銀が言う「物価の安定」は、ゼロ%だった。

日銀は、使命を「物価の安定」としています。
安定とは何か。ここには「日銀文学」があります。

日銀が、明治14年の設立以来130年の歴史で、はじめてインフレ目標1%を言ったのは、1年前の、2012年2月14日でした。
(注)普通、中央銀行がインフレ目標を言うのは、例えば4%上がっている物価を2%に下げるという抑制的なマネー供給です。この点で、日本の、物価を上げるインフレ・ターゲットは異例です。

このため、年間の国債購入枠を、20兆円から10兆円増やして30兆円とし、貸付金も35兆円に増やすとしました。この脱デフレ宣言で、日経平均株価は8500円付近から、1万円超えに上がっています(12年3月)。

その後、2012年4月からは、「日銀の量的緩和は、言うほどのものではない」と、次第に市場に認識されて、6月には、株価は8500円に戻っています。「円安(円売り)→株の購入→株価上昇」は、今
回のパターンと同じです。

(注)昨年も、ヘッジ・ファンドが先行して買い、上げて売り逃げています。上げている最中は、1万2000円や1万3000円もあると言う人が多かった。
遅れて高値で買い、損をしたのが個人投資家でした。

日銀は、物価の安定が何%を言うのか、明らかにしません。
しかし、昨年の2.14にはじめてインフレ目標を1%と言ったことから、「物価の安定は±0%」としていたことが分かります。

10年前の、2003年1月の日銀のバランス・シートは、124兆円でした。このうち、長短の国債保有は、81兆円でした。

2013年1月のバランス・シートは、159兆円です。国債の保有は118兆円です。「159兆円-124兆円=35兆円」。

日銀は、10年間、1年平均では、3.5兆円しかマネー供給の増加を行っていません
(注)マネー供給増加=国債の増加買い+貸付金増加

3.5兆円は、わが国のマネー・サプライ額(約1100兆円)に対して、0.34%付近でしかない。
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2013/ac130131.htm/

口では何とでも言えます。しかし日銀の実際の行動では、「物価の上昇は0%(またはそれ以下)を安定」としていたことが、以上の金額で、分かります。
国債を一時は増加買いしても、その後は(※売りでマネーを吸い上げて)減らすという行動でした。

この行動パターンは「80年代後期の資産バブル経済」への反省から来ています。

マネー・サプライを増やしても、日本経済の構造からは、資産(株と地価)が高騰する。
資産の非合理な水準への高騰の結果は、1990年からのような暴落であり、名目GDPの継続的な成長には効果がないという考えです。

事実、80年代後期から末の、バブルでも、
一般物価(消費者物価)の上昇は、2%程度でしかなかった。
地価は3倍に上がり、株価も3倍以上でした。

インフレ目標で、果敢な量的緩和をすれば、いずれ資産バブルが再来するだけである。
従って、日銀の、2012年までのマネー印刷(ベース・マネー)の増加は、1年に3.5兆円でしかなかったのです。

米国のマネー・サプライ(M2)は、年率8~10%増の範囲で高い。
一方、消費者物価の上昇は、2~3%程度です。
http://www.federalreserve.gov/releases/h6/Current/

EUでは、M2の増加は、年率3~4.5%であり、消費者物価の上昇は2~2.5%です。
http://sdw.ecb.europa.eu/reports.do?node=100000141

日本のM3の増加は、年率2%程度でした。わが国で預金が使われる構造では、消費者物価が上がる臨界点は、マネー・サプライでは、4%増加です。

(注)これは、過去のデータで、実証されています。過去のデータです。
10年以上前の過去の経済が、世界で1.5京円にもなったデリバティブ(新しいマネー)で変化した現在の経済に、当てはまるかどうか、ここが、常に、経済学説における焦点になることです。
デリバティブの急増は、2000年代だけのことです。90年代はなかった。
医学で例えれば、変容を繰り返す新しいウイルスで変化した病に、過去のデータは無効です。

日銀は、2000年代も、マネーは十分に供給している。しかし、銀行が国債を売って日銀に預けている当座預金が増えるだけだった。
それが、企業と世帯への貸付金の増加になっていないと、一貫して説明しています。

中央銀行は、マネー・サプライ(M3)を増やすことはできないとも言う。
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 (2)へ続きます。
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アベノミクスの展開と帰結:吉田繁治(2)

 (1)からの続きです。
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  2.名目金利は低いが、期待実質金利は高い

ここで、岩田氏を含むリフレ派は、以下のように主張します。

(1)日本の物価は、期待インフレ率が1~2%のマイナスである。
(2)名目金利は0%付近でも、マイナスの期待インフレ率を加えた期待実質金利は、2%から3%と高い。

このため、借入が増えない。借入が増えないから、マネー・サプライは増えず、物価のマイナスが続く。

日銀が果敢な量的緩和を行うと宣言し、実際に行って、物価の期待上昇をまず1%、次は2%付近にまで高めると、期待実質金利は物価上昇分、下がる。これで借入は増える。

この借入は住宅投資と設備投資の増加を生むから、実質GDPと、物価上昇を加えた名目GDPは増加に向かうという。

このためには、日本の、2000年代の物価の下落は、
・円高での安価な輸入品や、人口高齢化による消費の減少という構造的な要因からのものではなく、
・マネー・サプライの増加の低さが原因だったと、証明せねばならない。

マネタリストが言うように、物価下落が貨幣要因なら、マネー・サプライ(M3)の4%以上の増加、メドは+6%(金額で1年に+70兆円)によって、期待物価の上昇は2%に近づいて行くからです。

日本の1998年からの消費者物価の下落は、輸入品の安さからのもの(代表してユニクロ現象と言う)ではなく、
・マネー・サプライの増加が4%以下だったからであり、
・このため、需要が減ったからだという証明を経済学的に行ったのが『デフレの経済学』です。

安倍首相は、このマネタリストの論を採用し、「日銀は、物価上昇目標を2%として、マネー・サプライを果敢に増やす金融政策をとるべきである。」としました。

(注)マネタリストの主張が、現在の日本にとって、正しいかどうか、経済理論的には、明らかではありません。
1929年から33年の大恐慌のときは正しかった。しかし経済は、新しく変わります。
同じ政策が、現代の日本経済にとっても正しいかどうか。問題はここです。

 【期待で生じた円安と株高】

政権の交代ともに、「経済・金融政策が、マネー・サプライ量の増加に変わる」という期待から、
(1)円はドルに対し、79円付近から93円にまで、17%下落し、
(2)円の下落が、減ってきた日本の輸出を増やすという期待になり、
(3)輸出企業の採算の上昇と、
(4)物価の期待上昇率も上がるという予想から、企業の売上・利益の、増加が期待されるため、株価は35%上がったのです。

これを実現させたのは、ヘッジ・ファンドによる、
(1)円売りの増加と同時の、
(2)株の買い超の増加の継続です。

期待で円が売られ、同じ期待で株が買われています。まだ、マネー供給の増加はないのです。
日銀が、無期限で国債を増加買いするとしたのは、2013年ではなく2014年からです。

 【円高の基底の原因は、貿易黒字だった】

経済指標のファンダメンタルズ(基礎データ)で言えば、日本の貿易黒字は、2年前の2011年から、赤字に転落しています。

2011年は7.7兆円、2012年は10兆円の赤字です。
1980年代から30年間の、円高の基底の原因は、わが国の、恒常的な貿易黒字でした。
$1=80円台の円高になっても、貿易は、黒字を続けていました。

ところが貿易は、2011年から、はっきりと赤字に変わっています。

しかし、ユーロ危機とドル安予想から、円とスイスフランに、世界の短期マネーが流れ、$1=75円を超える勢いの円高になっていたのです。

$1=80円以下は、明らかに過剰評価でした。

これが、「安倍政権はインフレ策を取る」ということから、円売りを呼びました。
投機マネーが、円売り・ユーロ買い・ドル買いに戻ったからです。

(注)今後、日本が、貿易黒字の、2010年までの体質に戻ることは、ほとんどない。貿易赤字の恒常化は、長期的に見て円安の大きな要素です。

 (※ 実体経済である貿易収支の赤字が続くとその国の通貨は相対価値が下がる。下がることで価格が有利となり、黒字へ転換の素地となる。投機は通常そうした実体経済の予測に先手を打つことで利益を上げる。)

マクロ経済で言えば、「貯蓄-投資=経常収支の黒字」です。
貯蓄額の増加が、高齢化で構造的に減っていますから、経常収支の黒字も減少します。

経常収支は「貿易・サービス収支+海外からの配当・受取金利」です。
海外から受け取る配当・金利は、1年に15兆円くらいです。

 【日経平均の株価】

日経平均で、予想PERが10~12倍、株価で8500円付近は、国際的な株価水準のPER15倍から見て、過小評価と言われていました。

PER15倍とは、向こう15年分の、企業の純益予想の合計が株価になっているという意味です。
(注)株価は、予想純益を、金利とリスク率で割って、現在価値にしたものです。

マネーを刷ると宣言した安倍政権を機会とみて、ヘッジ・ファンドは、円を売って、株を買っています。

ヘッジ・ファンドは、
・2012年10月の、8500円付近(予想PER12倍)で、PBR(純資産÷時価総額)が1を割っていた日経平均を過小評価と見て、
・同時に、$1=80円未満の円を、10円は過大評価と見ていました。

これを、安倍政権の実現予想とともに、市場に先駆けて見直したの
です。

(注)日経平均の予想PER (株価時価総額÷予想純益)は、2011年10月は、12.2倍と低かった。
国際的に妥当な水準は、ほぼ15倍です。
2012年2月には、すでに、20倍くらいに上がっています。

予想PERの20倍は、今後新たな、企業純益を増やす材料が出ないと、危険な高値の水準です。株価は、安くなるときも高くなるときも、行き過ぎます。
http://www.opticast.co.jp/cgi-bin/tm/chart.cgi?code=0168

2012年2月の、日銀のインフレ・ターゲット1%は、その後の日銀の行動、つまり抑制的な金融政策の継続のため、信用されなかった。

●今回は、政権が交替し、本当に、マネー供給を増やすことを日銀が実行するのではないかという予想からです。

これが、短期で、株価が20%上昇を超え、35%も上がっている理由です。

 【期待で動くのがマネー】

金融的なマネー動きは、実体経済の成長とマネー量の増加に、約半年から1年先駆けた動きをします。

まだ、日銀の、マネー・サプライ量4%以上の増加に向かう量的緩和も、インフレもない。

・円は、量的緩和とインフレの期待で下げ、
・株も、この期待で上がっています。

当方が金融に関心をもち続けるのは、実体経済に、数歩は先駆けた動きをするからです。

  ■3.日本の物価が下がっていたのは、マネー・サプライの要因からか?

経済の指標には、(1)並行現象と、(2)原因現象があります。
並行現象は、それとともに起こるもので、原因現象は、AがBの原因になるものです。これの見極めは、実は、難しい。

経済では、AとBが、
・原因と結果の関係ではなく、
・並行現象であることも多いからです。

 【リフレ派】

岩田氏とリフレ派は、マネタリズム学派の説を根拠に、マネー・サプライの増減が、物価の原因現象であると言います。

そして、日本ではマネー・サプライの増加が4%未満のとき、物価が下がっていたという。これは事実です。

簡単には、預金が4%増えたときは物価上昇がゼロで、4%未満(現在は2%増加)のときは、デフレになっていた。しかしこれは、原因現象なのか、並行現象なのか?

経済学では、まだ決着はついていません。

デフレの研究をしたのは、1929年から33年の米国大恐慌の『大収縮1929-33』(フリードマン)です。
1920年代の、バブル的な好況のあと、29年の株価暴落を起点にした銀行の不良債権の増加と、貸出の減少を主因に、米国のマネー・サプライが35%減った。
同時に、GDPは37%縮小し、卸売り物価は40%も下がっています。

 【構造派】

構造派(野口悠紀夫氏等)は、日本の物価が下落した原因は、海外物価よりはるかに日本の物価が高かったこととします。

ユニクロやニトリのようなところが、中国からの開発輸入を行ったから下がったという判断です。それと、家電のような技術革新です。

マネー・サプライの増加率の低さ(2%)と、物価の下落(1%から2%)は、並行して生じた現象であり、マネー量は物価の原因現象ではなかったとします。

 【民間の銀行システムでのマネー量の増加】

中央銀行がマネーを増発しなくても、「銀行借入→投資」が活発な時期は、借入が他の預金になって行く銀行システムの中で、マネー・サプライは増えます。

バブル期は、土地担保の評価増が原因で、借入が増え、不動産投資が増え、マネー・サプライは、10%以上増えていました。

1992年からは、金融引締めと地価下のため、マネー・サプライの増加は0~2%に下がりました。
1998年以降は、日銀がベース・マネーを15%から20%増やしても、マネー・サプライの増加は、年1%~3%台でした。

同じ条件での実験ができない経済を扱う経済学が、科学でない理由は、原因と結果の関係を、明らかにできていないからです。
そのため、学派がある。(注)サミュエルソンの教科書、『経済学』は、多くの学派の本質をとらえつつ網羅しています。

医学に例えれば、同じ症状で、原因の診断と治療法が異なっているようなものです。
(注)多くの感染症は、原因が明らかになっています。臓器毎に種類があるガンには、原因への定説がまだないようです。

 ▼「相対物価」と「一般物価」

輸入財の安い物価(相対物価)が、日本の物価(一般物価)を下げた主因という構造派に対し、マネタリストは、以下のように反論します。根拠となる学説はフリードマンです。

「相対価格の変化と一般価格(物価)の区別をすることが重要である。
石油や食料が上がれば、それらに対する支出額は増えるが、企業や世帯は他の商品に対する支出を減らすため、需要が減ってその物価が下がるだろう。平均的な価格である物価が、相対価格の変化によって影響を受ける理由はない。」『デフレの経済学(P123):
フリードマンの要旨1975』

ここから、岩田氏は以下のように、
・相対物価が下がれば、
・一般物価が上がる論を展開します。

「輸入財の価格(相対物価)が下がれば、企業や消費者は、輸入財への支出が減った分を、輸入財とは競合しない他のものの支出に向けるから、それらの価格は輸入財価格の低下を相殺するように上が
るだろう。その結果、(一般)物価は下がらない。」(同書:P124:岩田氏)

同書と、岩田氏の考えで、肝心なところは、ここです。
どうでしょう? 岩田氏は正しいでしょうか?

具体的に言えば・・・
ユニクロやニトリの商品(相対価格で低い)を買うようになって、衣料や家具への支出は減った。そのため、他の商品を余計に買うようになり、他の物価は、需要が増えて上がるはずだ。

・・・ところが、日本では、他の物価も上がってはいない(ほぼ±0%です)・・・だから・・・(ここからが肝心です)、日本の一般物価の下落は、輸入物価と、生産および流通の技術革新(構造改革)が原因ではない。

一般物価が下がった原因は、1100兆円のマネー・サプライが2%台(20~25兆円)しか増えなかったからである。

物価の原因は、マネー・サプライの量である。このため、日銀がマネーを刷って、銀行がそれを貸しつけ、企業と世帯がその増加マネーを使う需要と投資が増えれば、物価の下落は止まる。その後も、更に量的緩和を継続すれば、一般物価は、1%、2%と上がるように変わる。

(注)経済学では、世帯が消費財を買うのも、企業が機械を買い、
設備投資を行うのも、同じ「需要」の範疇(はんちゅう)です。

このための、日銀によるベース・マネーの必要増加額は、1年に70兆円(マネーサプライの6%)くらいです。半年ではなく、2年(中長期)は続けねば、マネーの要因からの物価は、2%は上がりません。

日銀の円の印刷による、140兆のベース・マネーの増加が必要でし
ょう。これが、物価を2%上げる、「果敢な量的緩和」の意味です。
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 (3)へ続きます。
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