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もうすぐ北風が強くなる

ふくしま集団疎開裁判:井戸、柳原氏スピーチ

 8/24官邸前集会スピーチ  8/26 「ふくしま集団疎開裁判」から

  志賀原発差し止め判決の井戸謙一元裁判長

 みなさん,こんばんは
 弁護士の井戸といいます。滋賀県から来ました。
 毎週,ネットでみなさんを応援していましたが,いてもたってもおられず,やってきました。

 3.11はショックでした。しかし,私は,この国が,市民を守ろうとしないことにもっとショックを受けました。
 子供たちにヨウ素剤を飲ませず,スピーディの情報を隠して住民に高濃度の被曝をさせ,挙句の果てが子供たちに年20ミリシーベルトまで被ばくさせるという政策です。
 年20ミリシーベルトは,18歳未満立入り禁止とされる放射線管理区域よりもはるかに高濃度です。
 チェルノブイリでは年5ミリシーベルトを超える地域は,強制避難の対象とされたのです。

 3.11のあと,私は,この国の政府が国民の大多数の意思を平然と無視することにショックを受けました。
 60年安保のとき,当時の岸首相は,国会に押し寄せているのは一部の国民で,サイレントマジョリティは政府を支持していると言いました。
 しかし,今や,脱原発がサイレントマジョリティも含め国民の多数の意思であることは明らかです。それをどうして平然と無視できるのか。
 どうして,原子力規制委員の過半数を原子力村の住人とするような人事案を出せるのか。
 彼らは一体何のために,誰のために政治をしているのか。

 私たちは,フクシマのような事態を2度と起こさせてはなりません。そして,それと同時に,福島の人々,とりわけ福島の子供たちを支援しなければなりません。
 健康な子供が2割しかいないというベラルーシやウクライナの今日の状況は,このままいけば福島の明日になってしまいます。
 なぜ,政府は,チェルノブイリの教訓に学ばないのでしょうか。
 すでに健康被害の兆候はあちこちに表れています。放射能を浴びるのは少なければ少ないほどいい。
 遅すぎるということはないのです。今からでも,福島の子供たちを安全な地域に逃がすべきです。

 郡山の子供たちが,郡山市に対し,疎開させてほしいという裁判をしています。ふくしま集団疎開裁判といいます。
 私もその弁護団に入っています。1審では却下されました。
 今,仙台高裁で審理中です。
 マスコミはほとんど報道しません。是非,皆さんのご支援をお願いします。

  ふくしま集団疎開裁判弁護団の柳原敏夫氏

 今週の22日、私たちがこの間取り組んできた「ふくしまの子どもたちの集団避難の即時実現」、この申入書を野田首相に手渡すことができました。これは首都圏反原発連合とここに集まった大勢の皆さんひとりひとりの力のおかげです。ありがとうございました。

 しかし、今日現在まで、野田首相は、集団避難の即時実現を検討するように閣僚に指示していません。
 野田首相は誰ひとり住んでいない竹島問題ならすぐ動くのに、大勢の子どもたちが住み、彼らの命がいま危険にさらされている福島問題でちっとも動こうとしない。それはなぜか。

 その訳は、日本政府がチェルノブイリ事故から学び尽くしていて、子どもたちの集団疎開はタブーとすると決めているのです。
 なぜなら、チェルノブイリ事故でソ連政府が最もタブーにした1つが子どもたちの被ばくデータだからです(七沢潔「原発事故を問う--チェルノブイリからもんじゅへ」137頁)。
 いま私が手にしているのはチュルノブイリ事故で多重先天障害を負った子どもたちの写真ですが、このような子どもたちの被ばくに関するデータが明らかになると、原発事故で子どもたちがどれほど深刻な、どれほど悲惨な被害を受けるか、これが人々の前に明らかになります。
 なおかつ、深刻な被ばくから子どもたちを救うために集団避難を実施するとどれくらい大規模なプロジェクトになるか、これが人々の前に明らかになります。
 その結果、誰もが、二度と、決して、原発事故はあってはならないと、深く確信するようになるからです。そして、二度とこのような悲惨な事故を起こさないために二度と原発は稼動してはならない、廃炉にするしかないと、深く確信するようになるからです。
 多くの人々がこの不動の確信をすることを、ソ連政府も日本政府も最も怖れているのです。
 だから、子どもたちの被ばくデータを隠すのです。

 そうであれば、皆さん、今こそ、「ふくしまの子どもたちの集団避難」を多くの人々に訴え、日本政府がいま最も恐れている、たとえどんな迫害を受けても決して脱原発の決意を曲げない、不屈の絶対平和主義者ならぬ、不屈の絶対脱原発の信念を持った人(=絶対脱原発主義者)に多くの人々になってもらおうではありませんか。

 ソ連政府は、事故から5年後に子どもたちの深刻な健康被害が明らかになってから、ようやくまともな住民避難基準(参考:これと同一のウクライナ法)を採用しました。
 しかし、それでは遅すぎました、98万人もの貴い命が失われたからです。そして数ヵ月後にソ連も崩壊しました。子どもの命を粗末するような国に未来はないからです。
 この事実こそ日本政府はチェルノブイリ事故の最大の教訓として学ぶべきです。つまり、5年後ではなく、今すぐふくしまの子どもたちの集団避難を実行すべきです。
 さもなければチェルノブイリより人口密度が15倍の福島県で(たとえ福島第一原発の東半分が海だとしても)どんな悲惨な被害が生じるか、それは1年を経ずして35%もの福島の子どもたちの甲状腺に異変が見つかったひとことからも明らかです(その分析をした松崎道幸医師の意見書参照)。
 もちろん日本政府も崩壊です。
 こんな粗大ゴミ、誰も支持しないからです。
 しかし、こうした異常な事態は今だったら、まだ間に合うのです。防げるのです。
 最後にもう一度、言います。
 日本政府は粗大ゴミになり果てたくなかったら、今すぐ、ふくしまの子どもたちの集団避難の即時実現に向けて行動せよ。
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 柳原敏夫氏の関連ページ

権力にとってのチェリノブイリの教訓
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隠されている4号機の危機:仏オプセルヴァトゥール誌

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 雑誌表紙「FUKUSHIMA まだ私達に隠されていること」

 何よりも翻訳者の労苦に感謝し、敬意を表します。
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  仏 ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール誌「福島の最悪事故が起こるのはこれから?」 8/26 Entelchenのブログから

フランスのル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール誌は、ドイツのシュピーゲル誌と同様非常に評価の高い政治社会誌ですが(ル・モンド紙などと共に日本の大学仏文科研究室がよく購読しているくらいです)、その雑誌が四号機の冷却用プールについて長い本格的な記事を掲載したことはかなり深刻で、私自身非常にギョッとしています。これもまた購読用記事でした。以下のリンクから冒頭部分を読み、記事を購入することができます。

Le nouvel Observateur ”Fukushima : et si le pire était à venir ?”
*****記事和訳*****

   福島:最悪事故が起こるのはこれからなのか?

この事実を口にする者は皆無、あるいはわずかだ。日本の原子力発電所の中心部には実は、新たな地震が起こった場合破壊的な力を持つ爆弾が眠っているのだ。本誌の日本特派員が報告する。

ヴァンサン・ジョヴェール記

それは小さなプールに過ぎない。それでいながら地球規模の破壊力を秘めている。
水を満たした深さ11メートルのコンクリート製のその四角い容器には、使用済みの燃料棒がみっしりと詰め込まれているのだ。高い放射性を持つ燃料棒264トンである。
「冷却用」と呼ばれるこのプールは、かれこれ一年半、福島第一原発のぐらぐらになった四号機建て屋の地上から高さ30メートルの位置に横たわっている。
防護する頑丈な屋根も壁もない。ただの白いビニールの防水シートに覆われているだけ。

この現状が孕む危険は計り知れない。
台風(八月末からその季節が到来するのだが)や新たな地震の影響でプールの水が空っぽになったり、あるいはプールが崩壊したりなどしたら、引き起こされる惨事はおそらく人類史上例を見ない規模のものになるだろう。
264トンの核燃料が直接空気にさらされた場合、チェルノブイリ事故の少なくとも10倍に及ぶ放射能を大気中に放出する可能性がある。それは現代日本の終焉を意味していると言う人々さえいる。
少なくとも北半球全体が長期間に渡って深刻な汚染を受ける大惨事である。

センセーショナリズムに過ぎない? あるいは反原発運動家達が大惨事を妄想しているだけ?
残念ながらそうではないのだ。データを分析したまじめな研究者のほとんどが、世の終わりの如きシナリオに取り憑かれている。
北澤宏一教授は、昨年9月まで日本の名高い科学技術振興機構(JST)の理事長を勤めていた。グリーンピースの一室とは話が違う。その敬意に値する人物が2011年3月11日に起こった原発事故について今年大々的な委託調査を指揮した後、次のように語った:
「私は何百と言う証言を聞いた後、福島原発の最悪事態が訪れるのはこれからかもしれないのだと確信しました。それは四号機のプールのせいです。新たな事故はいつ何時起こってもおかしくない。しかもそれは私の祖国そのものを脅かすものになるかもしれないのです。」
そして「今後数週間強力な台風が福島原発を直撃しないことを祈っています。」と付け足した。

ビル・クリントン政権下エネルギー省の上級官吏を勤めたロバート・アルバレスは最初に警鐘を鳴らした一人だった。
「地震または別の出来事によってこのプールが被害を受けることになったら、放射性火災大惨事が発生し、チェルノブイリ事故の10倍の量のセシウム137が放出されるだろう」
と彼は認める。ここで福島原発事故で放出されたセシウムはチェルノブイリの6分の1に過ぎなかったことを確認しておこう。
言い換えれば、フランスの物理学者ジャン・ルイ・バデゥヴァンが「まるで精神力のみによって支えられている」かのように見えると言うこの冷却用プールが倒壊することになったら、2011年3月の60倍の規模の事故を引き起こすことになるのだ。
前回の事故は原発周囲20キロ圏16万人の住民の恒常的避難を必要とした。その60倍の規模の事故の意味は想像を絶する。

京都大学原子炉実験所に勤める小出裕章氏は、特に日本人にとってはもっと恐ろしい意味を持つ比較を行っている。
「もしも四号機建て屋にある冷却用プールが倒壊するようなことになったらとてつもない量の放射能が放出されることになります。慎重に推測しても広島原爆5000発分になるでしょう。」
我々の知る限り、誰も小出氏の意見に異議を唱えた者はない。

フランスの専門家達も同じような悪夢のシナリオを、既に一年以上も前から危惧している。
公共機関である放射線防護原子力安全研究所(IRSN)の研究者オリヴィエ・イスナールは、2011年7月7日、東京のフランス大使館に宛てて冷却用プールの「損失」の意味について次のように書き送っていた:
「現場の周囲1キロ圏内には人間が立ち入れないくらいの高い放射線量を持つ破片が拡散するだろう」「我々が想像したシナリオによれば(そのような事故)は(原発)の周囲60キロ圏の緊急避難を必要とすることになるだろう」。
福島原発事故直後の日々、そのような素振りはおくびにも出さなかったものの、日本政府は実はもっと悲観的だった。
当時の首相菅直人が最近明らかにしたところによると、2011年3月15日4号機建て屋が爆発した後、東京の住民3千万人を避難させる計画が秘密裏に検討された。何週間もの間首相は真剣にその可能性について考え続けたと言う。
 
今日、新しく交代した政権と原発を経営する私企業である東電(東京電力)は、冷却用プールは制御下にあり、倒壊のリスクは去ったと保証する。
このような保証は、昨年までは世論を鎮めるのに十分だった。しかし今ではそうはいかない。日本人は長年に渡る盲信の後、原子力という支配機構に対する信頼を失った
2012年に実施された二つの調査委員会は、原発関係者達のウソ、怠慢、恥知らずぶりの根深さを暴露した
そのあまりの深刻さに、多くの人々は、東電と日本の責任者達がいったい彼らが主張している通り最悪のシナリオを回避するための対策を取っているのか、そもそもそれだけの能力があるのかを疑うようになっている。

日本の原子力責任者達の態度の真摯さに対するこのような疑いは、最近の調査によって明るみになったとんでもない実情をもとにしている。
ひときわ衝撃的だった例を挙げよう。7月に国会で公表された報告によると日本政府はその必要性を認めていながら、東電に十分な耐震措置の建設を強制することを器用に避けてきたのだった。そのような耐震設備は2011年3月の事故を小規模に抑えていたかもしれないのだ。

教訓になる話である。2006年新潟(本州西海岸の街)で大きな地震が起き、スマトラで激しい津波が起こった後原発監査局はより厳しい規制の設定を手掛けはじめた。
特に海岸沿いに立地する(福島第一原発も含める)原発に十メートルを越す津波を防止する防波堤を建設することが計画された。しかし秘密裏に打診を受けた東電はむずかった。
新たな規制に準じる設備には800億円が掛かる、高すぎるとこの私企業は悲鳴をあげる。何よりもそのことによって東電は多くの訴訟に負ける危険があったのだ。

責任者に宛てられた極秘メモの中で東電は、1970年代から原発周辺住民に「人命を危険にさらしている」と言う理由によって告訴されていることを説明している。
しかしこれまで原発の安全設備が不十分であることを証明出来た者がひとりもいなかったことから東電に有罪判決の下されたことは一度もなかった。
しかしもしも新たな耐震及び対津波基準が設けられるようなことになれば原告側が正しかったことを認めることになると東電は書く。新たな追跡が行われ東電にとって何百億と言う損失を招きかねない。

監査委員は恐ろしいほどあっさりとこの言い分を前に引き下がってしまった。
専門家達ははじめ津波対策を速やかに完成させるべきだとしていた。遅くとも二年後の2009年まで。つまり2011年3月の事故前の期限だ。」と国会調査を組織した宇田左近氏は語る。
「しかし行政は期限を2016年にまで延期してしまった。その上これまでの訴訟や今後の訴訟に論証を与えないため、新たな耐震基準の実践を任意のものに変更してしまったのだ!

何故私企業である東電に対して日本国家はかくも唖然とするほど寛大なのか?
そして何故マスコミや専門家達は口を噤んでしまったのか?
「理由は簡単です。日本では原子力の非軍事利用に関して政府、監査局、電力会社、主要な地方行政、 多くの主要メディア、そして幾つかの有名大学の間に完全な癒着関係が存在するのです。」
と説明するのは元科学アカデミー会長で医学教授の黒沢きよし氏である。「我々はこれを原子力ムラと呼んでいます。」

癒着とは? (フランスの)EDF社とアレヴァ社を兼ねた存在である東電は原子力監査局の幹部全員に「天下り先」を提供している。そのために彼らは東電に対して口うるさく言わない。
また東電は与党の会計をたっぷり潤しているので、党も見返りとして東電に何も強要しない。
日本中のほとんどの「中立」とされる原子力研究所は東電から資金を大盤振る舞いされているため、日本の原子力の絶対的安全性を証明する研究しか生まれない。
原発受け入れを承認する市町村には補助金がたっぷり賄われるので、場合によっては起こりうる不都合に対しても何の不平も唱えられない。
一方マスコミの多くは最大の広告費出資者である東電の世話になっている。そのようなわけで四十年間原子力発電の危険を訴える記事を見ることは非常に稀だった。
2009年永遠の野党だった民主党が政権を取ったものの、東電支配は変わることはなかった。何故なら東電の労働組合は、左派中道のこの政党の政治資金最大のスポンサーなのだ。
2011年3月11日の事故まで日本一影響力のあるこの企業のスキャンダルに満ちたふるまいを告発する勇気のある官僚、大臣、科学者あるいはジャーナリストがほとんどいなかったのにはこのような理由があるのだ。

しかしここ数ヶ月間、この「血の掟」は存在しなくなった。少なくとも今までよりも弱くなった。「原発ムラ」の最もどす黒い面が白日の下にさらされるようになったのだ。
日本国民は国家と東電が癒着しているせいで深刻な事故の管理が出来なくなっていること、彼らが危機の間ずっとウソをつき続けていたことに気付きました」と語るのは日本最大の日刊誌朝日新聞の元編集長船橋洋一である。
事実、東電には何一つ備えがなかった。放射能防護用マスク、放射能測定器、すべてが不足していた上に、危機管理マニュアルは行方不明になっていた。
どのみち完全な電源喪失のケースなど予期されていなかった。しかし実際にはそのような事態が発生したのだ。事故の場合に幹部が避難することになっていた防空壕はエアフィルターが備え付けられていなかったために使い物にならなかった。
それだけではない。 東電は被害を受けた三つの原子炉の現状について嘘をつき続け、ようやく三ヶ月経った後にメルトダウンを認めた
一方政府の方は放射能雲の進路を明かさなかったため、安全な場所に逃げる代わりに汚染の激しい場所に逃げてしまった人々もいた。

「原子力ムラ」が今日もなお同じ間違いを犯し続け、これほど深刻な嘘をつき続けていると言うことがありえるだろうか?
「確かに2011年3月11日以来、多くの原子力関係責任者がポストを失いました。しかし今のところ誰一人法的に罰せられていないうえ、ほとんどが別の大企業に再就職しています。つまり彼らの後継者達は、何も恐れることはないことを知っているのです。誰も罰せられることのないこの原子力システムは、今でも信頼することは出来ません。特に懸案の冷却用プールが制御下にあると彼らが主張している点についてはなおさらです。
と語るのはJSTの元理事長北澤宏一教授である。

2011年6月、東電は四号機プールの床を何百トンもの鉄筋コンクリートで補強した。これで十分な強度なのだろうか?
4月26日、アメリカの上院議員でエネルギー委員会の有力メンバーでもあるロン・ワイデンは深刻な文書を公けにした。オレゴン州から選出された民主党議員であるワイデンは、福島原発視察から帰国後、ヒラリー・クリントンに正式に次のように書き送ったのだ。
この膨大な放射性物質と使用済み放射性燃料の貯蔵量が今後地震が発生した際に表している危険はすべての者に関係する憂慮すべきテーマである。冷却用プールの破壊によって放出される放射能は数日のうちにアメリカ西海岸に到達する可能性がある。」

日本の最も大きな同盟国であるアメリカから問題視された東電は、二日後最終的と称するプレスリリースを発表した:
「我々は四号機建て屋が地震によって倒壊することのないことを断言する。」しかしプールが耐えうる地震の強度に関する具体的な言及はなかった。批判はさらに膨れ上がる。
地震学者達は、福島原発はほぼ毎日のように地震に見舞われていることを指摘する。特に彼らが強調するのは、3.11の大地震によって原発の真下に位置する活断層が再び活性化されたことである。
今後三年間の間に再び巨大地震が発生する可能性が高いと彼らは言う。

不安の声を静めるために東電はPR活動を組織した。五月中旬環境大臣が三人の選ばれたジャーナリストを伴って冷却用プール付近を半時間ほど訪れ、何も心配することはないと保証した。
しかし日本やアングロ・サクソンのマスコミは批判の手を緩めない。5月25日、東電は二度目のプレスリリースを発表せざるを得なくなった。同社は、耐震強度を測るためのレーザーテストを(ようやく)実施したことを発表した。
その結果「冷却用プールは3.11地震と同規模の地震にも耐えうる」と言うことだ。無駄骨である。
その晩大手放送局であるTV朝日が放送した長大なドキュメンタリー番組は、大災害の危機が実在すること、またこれまで東電がその事実を覆すに足る信頼出来る事実を何一つ示してきていないことを指摘した。
それに対して東電は「プールのコンクリートの壁は厚さが1.8メートルありますから万全です」と答えた。

このような東電の論議はもっとも慎重な専門家さえも説得できずにいる。
IRSNの原子力安全課所長であるチエリ・シャルルは、立場上事故の危険について軽々しい発言は行わない。その彼が6月16日雑誌『Enviro2B』のインタビューに対して、冷却用プールが耐えうるのは「小さな揺れ」だけであると答えたのだ。
福島で新たな災害が起こるかどうかは格納容器の中身のレベルではなく、プールのレベルに掛かっていると彼は言う。
危険はどのような場合に起こり得るのか?「非常に強度な地震による揺れが起こった場合」。東電の主張を明確に否定した。

最悪の事態を避けるためにはなるべく早く264トンの非常に高い放射性を持つ燃料をプールの底から運び出し、即座に安全な場所に移さなければならない
その方法はあるのか? 東電は奇跡の解決策が見つかったと言う: それは高さ70メートルの巨大なクレーンを建設し、何百トンもするコンテナを使って1535本の放射性燃料を移し替えるという措置である。マスコミを安心させるために、7月18日に燃料棒引き出しテストが実施された。引き出されたのは2本の・・・ 非放射性燃料棒だった。
しかし現実の大きさでの作業実施プランははっきりしないままだ。最新のニュースによれば建設はまだ始まっていないと言う。そして建設が終了するのは早くとも・・・2013年12月。
なぜこれほど時間がかかるのか? それは高濃度の放射能汚染をした場所でのこれほどの実験には前例がないからだ。
東電はこれを順調に実施できるのだろうか?誰にも答えはわからない。

またプールから取り出すことに成功したとしてもこれほど危険な放射性廃棄物の扱いについても何もわかっていない。
東電が所持する技術はたった一つ。それは再処理である。しかもそれもまだ完全にはマスターできていない。
日本の北部に位置する六ヶ所村に、アレヴァ社の協力の下20年来、ラ・アーグ再処理工場のコピーが建設されている。しかし何千億円もの建設費用が掛かっているにも関わらず未だに機能していない。
この施設が稼動するのを待つ間に、日本中の冷却用プールが使用済み燃料でいっぱいになってしまっているのだ。つまり四号機プールの264トンを引き受ける余裕はどこにもない

アレヴァ社社長リュック・オルセルは4月にラ・アーグがこれを引き受けることを提案した。しかしそれは社会党と緑の党連合が大統領選挙で勝利する前のことだった。同連合政権下ではおそらくこの問題に関する日仏の合意はあり得なさそうだ。
残る解決策は地下への埋蔵である。これまで日本の責任者達はこの方法を拒否し続けてきたが、事故から一年半が経過した8月14日、日本政府はこの措置に対する検討を開始したこと、
そして廃棄物を埋蔵する候補地を探し始めたことを発表した。しかしバーチャルなクレーンにしろ、埋蔵仮説にしろ、ファイルが停滞状態にあることには変わりない。
そして日本の責任者達は福島に毒を撒き散らす燃料棒をどうしていいのか未だにわかっていない

世界の原子力大国はどうしているのだろう? 米国、ロシア、そしてフランスは介入しないのか?
5月初め、国連の事務局長潘基文に対して70のNGOが、この計り知れない危険に関して世界中の人々に警告を発するよう書簡を送った。
彼らは国連が日本政府に国際的な技術支援を受け入れるよう強制することを求める。日本のは今までのところ五月雨式にしか支援を受け入れていない。
書簡の文面は元外交官松村昭雄[訳注:村田光平の間違いか? 松村氏は元国連職員] の手により、大勢の日本の有名人の署名が連なっている。
8月13日にはそこに国家的英雄が一人加わった福島原発元所長吉田昌郎である。彼は今日癌と闘っている。
2011年3月彼は上司のバカげた指示を無視して原子炉に海水を注入させた。設備が損傷を受けることを恐れていた東電にとっては大迷惑なことだった。吉田所長はこの英断によってもしかしたら「核の冬」から祖国を救ったのかもしれない。
彼は誰よりもよく東電の無能ぶりと、また四号機冷却用プールの現す危険を知っている。
精根尽きたこの勇気ある人物もまた、今日世界に救援を求めて声をあげている
彼の声は果たして聞き入れられるだろうか?
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シェール石油がもたらす米国の変化

 米国でシェール(頁岩)石油、シェールガスの採掘が急激に拡大している。
 一般ガス価格が3年前の5分の一に下落したほどである。
 6月に中部電力と大阪ガスが米国と契約した価格は他の電力会社の6分の一となった。

 中国など新興国の石油需要増大により、原油価格は長期には少なくとも高止まりが予想される以上、シェールガス、シェール石油の採掘は長期にわたって増え続けると考えられる。
 米国でエネルギー革命が始まったようだ。

 世界のエネルギーは石油に頼り続けてきたが、最大の石油消費国が石油輸入量を減らすことは、経済と政治に大きな影響をもたらしそうだ。

 根津氏はオバマ政権が地球温暖化対策に熱心などといっているが、もちろんそんなことは動機ではない。米国にとって石油を輸入に頼ることが経済的にも軍事的にもアキレス腱だからである。
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  シェール石油がもたらす米中再逆転   8/23 根津利三郎  富士通総研から
 
  (1)

 米中の力関係について言えば、これから中国の力が高まり、米国は次第に衰退していく、というのが一般的な見方であろう。
 中国の経済成長が今のペースで続けば2020年代にはその経済規模は米国を上回るであろうし、購買力平価で調整すれば、すでに中国が米国を上回っているという計算もある。
 しかし、エネルギー面からこの二大国の将来を考えると、事情は全く逆だ。米国はこれから急速に輸入依存度を減らしていくことが可能なのに対して、中国は経済成長に必要なエネルギーを確保するのに四苦八苦するようになる。
 そして、このようなエネルギー事情の変化は、国際経済、さらには地政学的にも重大な意味をもつ。2回シリーズでエネルギー面から見た米中の経済力バランスを論じてみたい。

1. シェールガス、シェール石油の恩恵

 このところ米国でシェールガスの生産が急増し、米国経済に様々な恩恵をもたらしていることが伝えられている。
 現に、北米市場でのガスの価格は急落して3年前の5分の1になり、その結果、家庭用の燃料費は下がり、石油化学企業も原料をナフサからガスに切り替えることで競争力を回復している。
 それだけではない。ガスの掘削やパイプラインの建設のため、鉄鋼産業も活況を取り戻している。ガスは石炭に比べてカロリーあたりの二酸化炭素排出量は半分強で、ガスを利用することで、温暖化対策も進む。
 我が国も原発事故を契機に安い北米産のガスを手に入れようと様々な動きが出ている。米国の国際収支も改善すること間違いない。

 しかし、米国のエネルギー事情を考えるうえで、本当に重要なのはガスではない。石油(原油)の需要と供給がともに大きく変化し始めたのだ。
 なぜ石油が重要なのか? 米国のエネルギー供給のうち、石油が占める割合は37%と、ガスの25%より高い。
 さらに重要なのは、石油の場合、その半分以上を輸入に頼っていることだ。そして、そのかなりの部分は中東産油国や、必ずしも親米的ではないベネズエラなどの中南米、アフリカ諸国、ロシアなど、不安定な国々からの輸入である。
 これが長らく米国の安全保障上のアキレス腱となってきた。
 これに対して、ガスの輸入比率は1割程度であり、ほとんどが隣国のカナダからパイプラインで運ばれるもので、供給面の問題はほとんどないと言ってよい。

2. 米国経済のアキレス腱―増大する原油輸入

 米国は面積的に巨大な国であり、自動車や航空機などの交通機関を動かすためのエネルギー需要は大きい。
 交通分野は発電や産業部門と異なり、ガスや石炭、再生可能エネルギー、原子力など、石油以外のエネルギー源を利用することができない。
 唯一の例外はとうもろこしから出来るバイオエタノールで、大半を占める自動車用のガソリン、バスやトラックなどが使うデイーゼル油、航空機用のジェット燃料はいずれも原油を精製分離することで製造される。
 だから、いくらガスが出てきてもそれだけでは、交通分野の需要を満たすために輸入している原油の量を減らすことはできないのだ。現在、交通部門で消費されるエネルギー源の94%は石油製品である。

 第二次大戦後、米国が世界中の紛争に関わってきたのは、自由と民主主義の守護神としての使命感もあるが、石油の輸入を確保するのもその大きな目的であった。
 1973年に第一次石油危機、正確に言うと、石油輸出国連盟(OPEC)による先進国向けの原油の輸出停止と価格の一斉値上げ、が起こると、米国は日本などほかの先進国に呼びかけてIEA(国際エネルギー機関)を設立し、消費国の団結を強化するとともに、国内的にはエネルギー自立計画(Project Independence)をまとめ、1985年までに石油輸入をゼロにすることを目標に動き始めた。
 しかし、自動車中心のアメリカ的生活様式は変わることはなく、米国内での油田開発も思うように進まないこともあって、米国の石油輸入は2006年まで増加し続けた。
 1980年の米国の原油輸入は 日量500万バレル(5Mbpd)だったものが、2006年には10Mbpdに倍増している。
 米国の原油の輸入が増え続けたのは、1980年代に入って、原油価格が国際的に安定どころか下落気味に推移し、バレルあたり20ドル近くにまで下落したからである。(【図1】)安ければ誰も節約しようというインセンテイブは働かない。

【図1】原油価格の推移
(WTI:West Texas Intermediate(原油先物価格))
nezu201208-1.jpg

3. 中国の登場がすべてを変えた

 だが、2000年代半ばから急に事情は変わり始めた。【図1】にあるように、原油価格が国際的に急に上がり始めたのだ。2000年には1バレル30ドルだったものが、2010年には100ドルに上昇している。戦争が起こったわけでもないのに、なぜこんなに急騰したのか? 
 理由は中国である。中国は2001年にWTOに加入して以来、急速に経済成長率を高め、それとともに原油の需要が急増した。
 中国では1960年代から国内での油田開発を進めてきた。その結果、大慶、勝利油田などの大規模油田の開発が進み、90年代の半ばまではわずかながらも輸出までしていた。日本も一時期、中国から原油を輸入していたことがある。

 だが、90年代から経済が成長するにつれて国内生産では足りず、輸入国に転じ、2000年代に入って輸入は急増した。
 米国を中心に世界経済は2008年のリーマンショックまで拡大を続けたため、世界的に原油の需要が高まり、原油の価格が急騰することになった。
 2011年時点での中国の原油輸入は日量465万バレルで、日本を抜いて米国に次ぐ世界第2位の原油輸入国になっている。

 中国に加えてインドやそれ以外のアジア新興国でも原油の輸入が増えている。特にインドは人口規模も大きく、製造業の拡大や自動車の普及が進むと見込まれる中で、国内での原油生産はほとんど期待できないため、輸入は急増するであろう。
 インドに次ぐ人口規模のインドネシアは原油やガスの一大生産国であるが、国内での石油需要が増えたため、今や純輸入国になっている。
 このように中国、インド、アジア新興国がいずれも巨大な原油輸入国になりつつある。これが、原油価格が長期的に値上がりし続けると考える最大の理由である。

4. 原油価格の上昇が非在来型の石油とガスの生産を促進

 原油価格が上昇すれば、新たに油田開発を試みる誘因が高まる。
 ここで重要なのは、horizontal drilling(水平掘削)と、hydraulic fracturing(水圧破砕)という技術である。地層に沿って横に掘り進み、シェール(頁岩)から原油あるいはガスを分離して取り出す技術だ。
 いずれも以前から知られてきた技術であるが、コストが高く、利用されてこなかった。しかしながら、価格が1バレルあたり60~70ドルを超える水準になれば、この技術を使ってシェールから原油やガスを取り出すことも採算が取れるようになる。
 米国の場合、カナダと国境を接しているノースダコタ州でシェール石油の生産が急拡大し、3年前まで日量20万バレルだった生産量が、現在65万に達し、1~2年のうちに100万バレルになろう。
 それ以外の地域でも石油やガスを含んだシェール層が次々に発見されている。

 実はシェール石油だけではない。メキシコ湾での深海での石油採掘や、従来は回収不能と考えられてきた既存の油田からも技術の向上で回収可能になり、原油の増産はこれから相当進むとみられるようになった。
 米国エネルギー省の情報局の見通しによれば、2006年の8Mbpdから堅く見積もっても2020年には12Mbpd、技術革新が進めば14Mbpdに増えるとみられる。

5. 自動車の燃費向上が鍵

 原油、石油製品の価格上昇は需要面でも大きな効果をもたらす。最大の効果は自動車用のガソリン需要の拡大に急ブレーキがかかることだ。
 一般消費者が自動車の燃費を気にするようになり、ハイブリッド車など省エネ車が急速に普及し始めた。ガソリンは米国のエネルギー消費の中でも最大項目である。自動車の燃費が向上すれば、需要抑制効果は大きい。
 米国ではガソリン価格は消費動向全体に影響するほど重要な支出項目であり、1ガロン当たりの価格が4ドルを超えると政治問題になる、と言われる。
 事実2012年春に米国でガソリン価格が急騰したとき、オバマ大統領は本来供給がストップした場合にのみ使われるはずの戦略備蓄を取り崩して、ガソリン価格の安定化に努めたほどである。

 だが、自動車の燃費向上は単に市場任せだけで進んだわけではない。米国政府は1970年代の2度の石油危機の後、環境対策および輸入石油への依存を下げる努力の一環として、自動車の燃費向上を法律を通じて進めてきた。CAFE(Corporate Average Fuel Economy)と呼ばれる、自動車の燃費規制だ。
 1978年から始まったこの規制は、当初1ガロン当たりの会社平均の走行距離18マイルと定められたが、その後、徐々に引き上げられ、1990年には27.5マイルに上げられた。その後、原油価格が下落気味に推移したため、そのままの水準にとどまっていたが、2007年、原油価格の更なる上昇と地球温暖化への懸念の高まりを受けて、燃費規制はさらに強化され、2020年までに35マイルをクリアすることが求められるようになった。
 それ以降についても議論が進行中で、2025年頃には54.5マイルを超える水準が必要になる可能性が大である。バスやトラックについても同様の燃費向上が法律的な義務となる。

 燃費規制は米国では常に政治的には難しい課題であった。共和党の支持基盤である石油産業はガソリン需要の減少につながる燃費規制は反対であり、民主党にとって有力な支援母体である自動車労働組合は、燃費規制は輸入自動車に有利に働き、結果として彼らの雇用を脅かすことになる、として反対する。80年代半ばから約20年間ほとんど規制が強化されなかったのはそのためでもある。
 しかしながら、2008年に誕生した民主党のオバマ政権は地球温暖化対策には熱心であり、これから長期にわたり、米国の自動車の燃費効率は上昇していくことは間違いない。これは米国の原油輸入の増大を大いに圧縮することになろう。

 燃費規制と平行して米国はとうもろこしから出来るエタノール燃料にも積極的に取り組んできた。政府の補助金や税の減免の効果もあり、E10と呼ばれるエタノールを10%含んだガソリンが広く販売されている。
 現在、交通部門で消費される燃料のうち4%はエタノールだが、今後とも拡大が見込まれ、2024年までにさらに1Mbpdのエタノール燃料が増える見通しだ。

6. 需要と供給の両面から米国の原油輸入量は減少する

 米国は日本や欧州先進国に比べて、エネルギー価格が低く、省エネや再生可能エネルギーの利用には真面目に取り組んでこなかった。今後、原油価格の更なる上昇が見込まれるにつれ、エネルギー効率の向上の余地は大きい。
 そのため米国エネルギー省は2035年までの需給見通しにおいて、2~3%の経済成長を続けるとしても、GDP原単位をほぼ半減させることが可能と見ている。
 その結果として、原油の消費量も現在と同程度で推移するのみならず、2020年以降も自動車燃費規制がさらに強化されることになれば、原油消費量はむしろ減少すると予測している。

 こうして米国の原油輸入は需要と供給の両面から減っていくことが確実な情勢だ。すでに2006年と比べて2011年では、13Mbpd(日量百万バレル)から8Mbpdまで減少している。
 これにはリーマンショック後の景気後退という一時的要因によるところも含まれるが、元の水準に戻ることは考えられない。
 中国やインドの原油輸入が傾向的に増加することは確実であり、原油価格が10年前の30~40ドルというような水準に戻ることはないからだ。

 数年前まで米国の原油および石油製品の輸入は増大し続けると考えられていたから、このような顕著な減少は驚きである。
 米国エネルギー省の長期展望によれば、減少はさらに続き、燃費規制が一層強化され、また地中からの原油回収技術が向上すれば、2035年頃には2Mbpdくらいまでに減少させることができる、と予測している。
 以上は原油と石油製品に限った話だが、シェールガスの増産に伴うガスや石炭の輸出なども合わせれば、2035年頃には米国はエネルギー全体として純輸入ゼロ、すなわちエネルギー自立が見えてくる。
 米国の北側の隣国カナダでもシェール石油の増産が急ピッチで進んでおり、カナダはそれをパイプラインで精製基地のある米国テキサス州まで運ぶプロジェクトを提案している。
 オバマ政権は環境問題への懸念から、まだ許可を出していないが、北米全体で見れば、エネルギー自立はいっそう早まることになる。
 このことがもたらす米国経済、世界経済、さらには地政学的な意味は極めて大きいが、それについては次回議論する。

  (2)

1. 中国の原油輸入の見通し

中国の原油輸入はこのところ急速に増大している。すでに日本を抜いて世界第2位の輸入国になっているが、近い将来米国を抜いて世界最大の輸入国になることは確実だ。(【図1】)
 今後どれだけ原油輸入が拡大するかは、中国経済の成長のスピード、産業構造の変化など、多くの不確定要因があり、予測は難しいが、IEA(国際エネルギー機関)は2035年での中国の原油輸入量は13Mbpd程度と見込んでいるようだ。他方、国際石油会社のBPはガスや石炭も含めたエネルギー全体で2030年時点で19Mbpdと見ている。
 いずれの場合も中国の原油輸入量は米国の最大値であった2006年の輸入量に等しいか、それ以上になると見ている。国際石油市場に対して中国が最大の影響力を有することになるのは間違いない。

 だが、筆者はこのような数字はかなり控えめであると見ている。いずれの見通しもGDPの成長率を長期的には7%程度、それに対してエネルギー需要は3%程度の伸びと想定している。
 エネルギーの利用効率が相当向上することを勘案してのことだ。
 実際には中国の原油輸入量は2001年から2011年までの10年間で1.1bpdから4.6Mbpdに4倍拡大した。もちろんこの勢いが2030年代まで続くとは考えにくい。だが、逆に原油輸入が急に止まり、全く増えなくなると考えるのも非現実的だ。
 中国の自動車販売台数は今や米国を抜いて世界一になった。それでも自動車の保有台数の人口比は1:20、つまり人口20人に1台程度であり、先進国の10分の1の水準である。中国のモータリゼーションは始まったばかりだ。
 13億の人口を抱えた中国が欧米や日本のような先進国と同じようなモータリゼーションを追い求めることはできないことは中国自体も認識しているはずだ。公共交通機関を充実するとか、また2008年からは自動車燃費規制も始めているが、それらの効果が出てくるのは10年先だ。
 他方、自動車各社は引き続き中国の自動車市場が拡大すると見て、それに備えて生産・販売体制を強化しようとしている。中国の消費者も自動車への関心は高く、それも先進国の省エネ車よりも効率の悪い大型車ほどよく売れるようで、ガソリン需要の伸びが落ちるような気配はない。
 とすれば、次の10年で原油輸入量は4倍とはいかなくても、それに近い伸びが続く可能性は高い。最低でも2倍くらいは増えると見てもよいであろう。その場合、10Mbpd程度の輸入量となり、現在の米国よりも大きくなる。

【図1】日本、米国、中国の原油輸入の動向
nezu201208-2.jpg

2. 日本の経験は中国に当てはまるか

 日本は1960年代、現在の中国と同じように、年率10%程度の経済成長を続け、それに伴って原油輸入も急増した。
 だが、1970年代の2度にわたる石油ショックを経て、成長率は半分以下に下落するとともに、原油輸入量は1973年をピークに絶対量で下落し始めた。
 1973年から1993年までの20年間で日本の実質GDPは2倍になったが、日本の原油輸入は1割減少した。
 中国でも経済成長とエネルギー消費の decouple(切り離し)ができれば、世界中の原油を漁り回るようなことはしなくても済む。

 だが、今の中国は1970年頃の日本と同じ程度の発展段階なのか? 様々な見方が可能だが、中国全体の所得水準は1人当たりGDPでは5000ドル、米国と比べて10分の1だ。1970年時点での日本の所得水準は米国の2分の1弱であった。
 現在、中国の乗用車の普及率は人口20人当たり1台で、日本など先進国に比べて10分の1だ。確かに北京や上海では欧米並みの豊かな消費生活を楽しむ人口が少なくない。
 しかし、13億の人口全体としてみれば、今の中国は日本の1960年代の初めに近い。
 とすれば、中国はあと10年くらい高度成長を続けない限り、国民全体として豊かさを実感できる水準には到達しないのではないか。
 特に筆者が問題視しているのは、人口の4割を占める農業人口だ。彼らは平均して0.2ヘクタールという極めて零細な土地で農業を営んでおり、戸籍法により自由に都市に移住して高所得の職業に就くことは禁じられている。彼らの所得水準は1000ドルに達するかどうかといったところではないか。
 今年に入って中国の成長率は8%を下回り、エネルギー生産量は前年同月比では2~3%程度の増加にとどまっている。だが、この低成長が今後の平均的な成長パターンとは誰も考えていないであろう。
 もし、中国が先進国並みの所得水準を求めながら、かつ原油需要を大きく増やさないことができるとすると、それは欧米や日本とは全く異なる経済社会構造を構築することが必要になる。
 だが、そのような構想は描けていないようだ。中国経済の成長にとって自動車が中核的な役割を果たすことは間違いなさそうである。

3. 中東では米国から中国への影響力交代が起こる

 中国はこれだけの原油をどこから調達するのか? 中国は目下、アフリカや中南米、カナダなど、あらゆる地域の権益を広げつつある。
 だが、輸出余力がある中東からの輸入が最も重要な供給源になることは間違いない。米国がエネルギー自立を進める中で、中国が中東からの原油輸入を拡大すれば、中東地域で地政学的なヘゲモニーの交代が起こる可能性が大きい。
 世界最大の原油生産国サウジ・アラビアの事情は、これを物語っている。同国にとって最大の原油輸出先は長らく米国であった。だが、サウジから米国への輸出量は2005年の89百万KLから、2011年には69百万KLに下がり、米国国内での原油生産が増加するにつれて、今後とも徐々に下落していくものと見られる。
 他方、中国向け輸出量は同じ期間25から59百万KLに増加している。いずれ、米国を追い抜いて、サウジにとっての最大の顧客になることは間違いない。
 その間、日本はサウジにとって米国に次ぐ顧客として60~70百万KL程度の輸入を安定的に続けてきたが、それは米国がサウジ政府や王族との友好関係を維持し、その安定化のため様々の努力をしてきたからである。
 日本はさしたるコストを払うことなく、中東原油に依存することができた。

 だが、サウジ・アラビアの原油輸出は重点が米国から中国に急速に移りつつある。
 温家宝首相は2012年1月に同国を訪れ、原子力を含むエネルギー、あるいはかつて日本が断った鉄道建設などの分野で協力関係の一層の強化で合意した。
 中東と中国の結びつきは今後深まっていくであろう。

 このことはアジア諸国や日本にとっても複雑な意味を持ってくる。かつて日本でマラッカ海峡などのシーレーン防衛論が高まったことがあったが、中国が中東から東アジアにわたる原油の輸送経路を軍事的に守る、という動きに出るのは十分にあり得ることだ。
 それはインド洋や南シナ海における中国海軍のプレゼンスが高まることを意味しており、その海域に位置する諸国との一層の緊張関係をもたらすことになろう。
 だが、日本にとっての問題もある。日本の原油輸入は増えてはいないが、その中東依存は依然として8割に達しており、そのほとんどはホルムズ海峡経由となっており、過去30年間、供給先の多角化はほとんど進んでいない。
 今まで中東の安定は米国が一手に担ってきたが、米国が手を引くことになれば、依然として中東原油に頼らざるを得ない日本としてどうするのか、大きな課題となろう。
 仮に中国の原油需要がいっそう高まる場合、中東諸国は増産に応じるだろうか? 有限な石油資源であり、生産量は増やさない可能性がある。
 その場合、中東原油を日本と中国が奪い合う事態にならないとは言えない。

4. 大国中国のジレンマ

 中東は人種や宗教などで複雑に分離、対立しており、中国がこれらの地域とどのように付き合っていくのかは興味のあるところだ。
 中国は米国と異なり、人権や民主主義、女性の地位向上など、中東諸国にとって機微な問題には口出ししないので、うまくやれるかもしれない。
 しかし、経済も政治も密接に絡んだ中東で、経済的権益だけ拡大することは容易ではないと思う。現在、火急の問題となっているシリア問題で、中国はロシアとともにアサド政権を支持しており、アサド政権の退陣を求める国連決議には反対してきた。
 だが、サウジ・アラビアはシリアの反体制派を支援している。宗教的に同じスンニー派だからだ。すでに中国とサウジはシリア問題で利害が対立している。
 中国はイランやパキスタンをも支援しているが、当然宗派の異なるほかの中東諸国にとっては面白くない話になろう。

 中国は長年リビアのカダフィ政権の下で石油事業を営んできたが、昨年春、カダフィ政権が崩壊し、詳細は不明なるも、その権益はかなり失われたようだ。
 アフリカのスーダンでも多くの中国人労働者が石油をはじめ各種の資源開発プロジェクトで働いているが、経済的権益や労働者保護の問題が発生すれば、不本意ながら、介入せざるを得ない状況に追い込まれるかもしれない。
 ポール・ケネデイ著の「大国の興亡」にあるように、英国や米国はグローバルパワーになることにより、不可避的に世界中にコミットメントを広め、その結果、国力を浪費し衰退の道を辿った。大国となった中国が中東やアフリカで複雑な地域問題に巻き込まれることなく、石油資源だけをうまく手に入れることができるのか、現時点では確たることは何もない。

5. 米国は慢性的な経常収支赤字国から脱却し、ドルは強くなる

 米国が2030年代のエネルギー自立に向けて原油輸入を減らしていくことになれば、米国の国際収支は大幅に改善される。ガスや石炭では輸出も拡大することになろう。
 現在、米国のエネルギー輸入金額はGDPの1.9%(2009年)に匹敵する。他方、経常収支の赤字は2.7%だから、エネルギーの輸入がゼロになれば、経常収支の赤字は1%以下に下落する。
 中東からの原油依存がなくなれば、アフガニスタンやイラクなどの紛争地域から撤退できるし、周辺の危険地域への関与も減らしていける。
 それは軍事費の節約を可能にし、財政赤字ひいては国際収支の改善をさらに可能にする。今まで米国は拡大する原油輸入の代金を支払うことはできず、ドルを世界中に垂れ流すことで、何とか辻褄を合わせてきた。
 これは米ドルが基軸通貨だからできたことであるが、逆に長期にわたりドル安が続いてきた理由である。

 だが、米国の国際収支が改善すれば、当然ドルは強くなり、円高も修正されることになろう。
 米国には当面「財政の崖」と言われる、財政赤字の問題が残っており、年末に向けて更なるドル安の可能性はあるが、それを超えれば、中長期的にドルが強くなっていくと予想する市場関係者は少なくない。

 他方、中国人民元はどうか? 中国政府は長年にわたり人民元の為替レートを管理し、その上昇幅をコントロールしてきた。2008年1月と比べると、本年夏まで米ドルに対して13%上昇しているが、米国政府は人民元はもっと上昇すべきであり、中国政府が為替レートを操作しているのは受け入れられない、として非難し、これが米中間の最大の経済問題となってきた。
 ところが、今年に入って人民元は対ドルで上昇しなくなった。中国の外貨準備が増加していないところを見ると、中国政府が為替市場に介入して上昇を止めているのではなさそうだ。
 今の為替レートが中国商品の競争力に相応のレベルになってきているのではないかと思われる。
 IMFは最近、人民元が「moderately undervalued」(わずかに過小評価されている)という見方を公式にしている。これは米国政府が主張する 「substantially undervalued」(大幅に過小評価されている)とは大いに異なっているが、筆者はIMFに近い見方をしている。
 中国の賃金は毎年10%を超える高いスピードで上昇してきた。また、為替レートもかなり上昇してきた。
 他方、米国では過去10年間、一般労働者の賃金はほとんど上がっていいない。その結果、中国商品の競争力は大幅に失われているのだ。
 中国の経常収支の黒字も2008年以降、減少気味だ。人民元がドルに対して下落したとしても不思議ではない。
 中国の第12次五か年計画では、所得水準をこの5年の間に倍増させることを目標にしているから、中国における賃金上昇が続くことは確実だ。
 とすれば、人民元の下落は驚く話ではない。

6. 中国の経常収支は赤字に転化する可能性あり

 ここに原油輸入の拡大という更なる負担が中国経済に重くのしかかることになる。
 中国の原油・石油製品輸入額と経常収支の黒字額は2011年時点で、ともにほぼ2000億ドルだ。仮に原油・石油製品が過去10年間のテンポで拡大し続けると想定しよう。どういうことが起こるか? 現在4.6Mbpdの輸入量は9.2Mbpdに増大し、その支払い代金は原油価格が上昇しないと仮定しても2000億ドル増える。
 それ以外の経常収支黒字幅が現在のままとすれば、10年後には中国の経常収支は赤字に転じることになる。この予測には原油価格の上昇は織り込んでいない。
 今後、インドやアジア新興国での需要が高まるので、原油価格はさらに上昇すると見るべきであろう。
 とすれば、中国の経常収支の赤字転落はそれ以前にも起こるかもしれない。

 中国の原油輸入はそのような勢いでは増えない、と主張することは可能だ。だが、IEAの見通しでは、2035年時点での中国の原油輸入量は13Mbpdに達すると予測している。2020年時点で9.2Mbpdという数字はIEAが描いているトレンドともほぼ合致している。
 中国はまだ若い経済であり、モータリゼーションは始まったばかりだ。産業構造の転換はそれほど容易ではなく、経済成長とエネルギー消費のdecouple(切り離し)は簡単には実現できそうにない。

7. 米中再逆転の現実味

 すでに広く知られているように、中国は2015年頃を境に人口の高齢化が急速に進む。これは1970年代から始まった一人っ子政策の帰結だが、その結果、成長率は下落し、エネルギー需要も現在考えられているほど拡大しない可能性は十分にあり得る。
 その場合、中国は所得水準が先進国レベルに達する前に高齢化社会を迎えることになる。中国では年金制度も未整備であり、成長なしに社会福祉の財源を見い出すことは極めて困難だ。
 先進国並みの生活水準を求めて高度成長を続けるとすれば、原油をどこから調達するのか、その支払い代金をどう工面するのか、という問題に直面する。

 モータリゼーションを伴わない成長を求めるとすれば、それは人類の歴史上前例のない試みになる。
 低成長路線をとれば、所得水準が高くない国民に社会保障の負担を求めなくてはならない。
 どちらの道を選んでも、中国経済の将来設計は決して容易ではない。衰退する米国と勢いを増す中国というコントラストはエネルギー情勢の変化とともに早くも変貌しつつある。
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