通貨戦争(58)ヨーロッパの「新たな火種」
2012-07-24
ユーロによる債務国「支援」は緊縮財政が生む窮乏の悪循環のみならず、ユーロを含む欧州通貨の下落進行と各国債の空買い、空売りが循環する都度、新たな国債の両極化を進んでいる。
債務国は金利倒れ、債権国は逆に短期債でマイナス金利倒れの危険。
過剰流動性は実体経済に回らないため、不況とインフレのスタグフレーションが悪化を続けている。
一方で債券市場は溢れかえり、新たなバブル崩壊の危険に晒されている。
欧州の経済動向を眺めていると、日本の様子がよく解ります。
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欧州市場における「新たな火種」 7/23 「闇株新聞」から
先週末(7月20日)の欧州市場では、ユーロの下落・株式下落・スペイン国債利回りの上昇となりました。典型的な危機再来相場のようですが、そんなに単純でもなさそうです。
まず通貨ユーロは、先週末の引値で1ユーロ=1.2150ドル、対円では95.30円となりました。対ドルでは最初にギリシャ問題が発覚した2010年5月に1ユーロ=1.2ドルを割り込んでいるのですが、対円では2000年10月に89円を瞬間に割り込んだ時以来の安値です。因みにその時点では1ユーロ=0.8252ドルでした。
本誌は昨年9月以降ずっと「ユーロ安」と主張しています。一本調子で「ユーロ安」になっているわけではないので自慢は出来ないのですが、その理由は「域内で通貨を固定してその中に財務問題国を抱えた場合の処方箋は通貨安(つまりユーロ安)しかないことをユーロ圏首脳が理解している」と「ECBがユーロ安のために大量資金供給などの正しい方策を思い切って行い市場にも明確なメッセージを伝えている」と考えているからです。
つまり「ユーロ安」は、ユーロ圏首脳やECBが明確に「ユーロ安」にしようと思っているからであり、別に心配することはないのです。
逆に日本では政府や日銀が「円安にしようと思っていない」か「思っていても正しい方法をとらない(分からない)」から「円高」なのです。
次にスペイン10年国債の利回りが週末に7.3%となり史上最高水準です。10兆円の銀行支援が正式に決まったところの利回り上昇なので「かなり問題」です。またイタリア10年国債利回りも6.2%へと上昇しています。
これは単純に銀行の不良債債権問題とか国家の債務問題ではなく、全く違ったレベルでの問題が顕在化してきているような気がします。
ドイツ10年国債の利回りが1.17%と、ほぼ史上最低利回りとなっています。本年3月頃の利回りは2%くらいでした。日本10年国債の利回りは本年3月の1%あたりから直近の0.74%へ低下しているのですが、それに比べても「異常な利回りの低下」です。
これは巨大な債券アービトラージが、巨大な損失を抱えていることを意味します。債券アービトラージとは「割安な債券(例えばイタリアやスペイン国債)を買い、割高な債券(例えばドイツ国債)を売る」ものです。
いくらイタリアやスペイン国債が問題含みと言っても「同じユーロ建て、ユーロ体制堅持のために支援体制が出来るはず」と思って利回りが拡大していく過程で(あるいは支援の合意が出来そうなときに)巨額に積み上がっているはずなのです。
当たっているとすれば「新たな火種」となります。
直接関係ないかもしれませんが、ユーロ圏ではドイツ・オランダ・フィンランド・オーストリアの2年以下の国債利回りがマイナスになっています。これもこれらの国債が債券アービトラージの「売り」の対象になっており、「品借り調達」のコストを考えるとマイナス利回りになっているような気がするのです(注)。
(注)例えば、本来の2年国債の利回りが0.2%としても、「品借り調達コスト」が0.3%であれば、国債をマイナス0.1%で購入しても「品貸し」に出せばコストが合うのです。誰も指摘しないのですが、国債利回りがマイナスになるのはこういう場合しかないのです。
何れにしてもユーロ圏、およびその周辺の非ユーロ諸国(英国・スイス・スウェーデン・デンマークなど)の債券市場は「新たな火種」を抱えているような気がします。
話題が全く変わるのですが、先週末(7月20日)に笠間治雄・検事総長が「勇退」し、小津博司・東京高検検事長が「予定通り」に昇格しました。まあ笠間氏の就任時からの既定路線で、粛々と「赤レンガ派」に大政奉還が行われたわけです。
本誌で以前、小津検事長の検察官定年(63歳)が本年の7月12日と書いてあったので「どうしたんだろう」とのコメントも頂いていたのですが、7月21日だったようで「無事セーフ」でした。検事総長の定年は65歳なので、まるまる2年間の任期となります。
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(引用者の注釈)
債券アービトラージ:類似した債券で過小評価された方を買い建て、過大評価された方を売り建てて、これらの価格が合理的な水準に戻ったところで、それぞれの決済を同時に行って差額の利益を獲得する投資戦略のこと。
品借り調達コスト:債券、株式などの信用取引において信用売りをする場合、証券会社が証券金融会社から信用取引に必要な債券などを借りて売るが、証券金融会社に品不足が生じた際に、その不足する株式を追加のコストを支払って外部から調達する。
品借り料はその追加費用のこと。信用取引の売り方から徴収して買い方に支払われる。なお、貸し手側から見れば「品貸し料」。
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このブログ内での、ユーロの基本的で致命的な欠陥とリーマンショック以来の二極化と財政緊縮政策の危機についての、関連記事リンクです。
・ 通貨、金利と信用創造の特殊な性質
・ 欧州の財政危機」
・ ユーロは夢の終わりか
・ ヨーロッパの危機
・ 動けなくなってきたユーロ」
・ ギリシャを解体、山分けする国際金融資本
・ 過剰信用と恐慌、焼け太る国際金融資本「家」
・ ユーロは凋落、デフレと円高は悪化へ
・ ユーロの危機は労働階級を試練にさらす
・ ギリシャの危機拡大はEUの危機!
・ 公平な分配で経済成長を続けるアルゼンチン
・ アイスランドの教訓:銀行は破綻させよ
・ ギリシャ、イタリアでIMF、EU抗議の大デモ
・ 破滅するユーロか、破滅する国家か
・ 欧州直接統治へ進む国際金融資本
・ ユーロは国民国家を解体するか
・ アイスランドの教訓、ギリシャはドラクマに戻せ
・ ユーロは崩壊か分裂か
・ 動乱の2012年
・ 通貨戦争(46)ドル、ユーロ、円
・ ヨーロッパは恐慌に向かっている
・ ユーロ危機で延命するドル・ 通貨戦争(48)分裂に向かうユーロ
・ 緊迫するユーロ、ギリシャは何処へ向かうか
・ IMF、EU、メルケルと闘うギリシャ
・ ギリシャ、抗議の暴動
・ 資産も主権も国際資本に奪われるギリシャ
・ ギリシャは民主主義を守るためにデフォルトを!
・ ユーロが襲うギリシャの社会危機、政治危機
・ 毒饅頭を食わされたギリシャ
・ 何も改善しないEU新財政協定
・ ユーロの悲劇:三橋
・ 通貨戦争(51)ユーロ分裂に備え始めた欧州
・ 通貨戦争(54)債務国から巨額の資金流出
・ ギリシャ、経済の崩壊と政治の腐敗
・ ヨーロッパは変われるのか?
・ 緊縮財政を否定する各国国民
・ 通貨戦争(55)ユーロの罠
・ ドイツのユーロと加盟国の国民経済
・ ギリシャ反・緊縮財政の渦
・ 国際金融資本が仕掛けたヨーロッパの危機
・ ギリシャと交渉するか離脱させるか
・ ユーロ、誰も引けないギリシャ離脱カード
・ ユーロのボールはドイツに渡った
債務国は金利倒れ、債権国は逆に短期債でマイナス金利倒れの危険。
過剰流動性は実体経済に回らないため、不況とインフレのスタグフレーションが悪化を続けている。
一方で債券市場は溢れかえり、新たなバブル崩壊の危険に晒されている。
欧州の経済動向を眺めていると、日本の様子がよく解ります。
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欧州市場における「新たな火種」 7/23 「闇株新聞」から
先週末(7月20日)の欧州市場では、ユーロの下落・株式下落・スペイン国債利回りの上昇となりました。典型的な危機再来相場のようですが、そんなに単純でもなさそうです。
まず通貨ユーロは、先週末の引値で1ユーロ=1.2150ドル、対円では95.30円となりました。対ドルでは最初にギリシャ問題が発覚した2010年5月に1ユーロ=1.2ドルを割り込んでいるのですが、対円では2000年10月に89円を瞬間に割り込んだ時以来の安値です。因みにその時点では1ユーロ=0.8252ドルでした。
本誌は昨年9月以降ずっと「ユーロ安」と主張しています。一本調子で「ユーロ安」になっているわけではないので自慢は出来ないのですが、その理由は「域内で通貨を固定してその中に財務問題国を抱えた場合の処方箋は通貨安(つまりユーロ安)しかないことをユーロ圏首脳が理解している」と「ECBがユーロ安のために大量資金供給などの正しい方策を思い切って行い市場にも明確なメッセージを伝えている」と考えているからです。
つまり「ユーロ安」は、ユーロ圏首脳やECBが明確に「ユーロ安」にしようと思っているからであり、別に心配することはないのです。
逆に日本では政府や日銀が「円安にしようと思っていない」か「思っていても正しい方法をとらない(分からない)」から「円高」なのです。
次にスペイン10年国債の利回りが週末に7.3%となり史上最高水準です。10兆円の銀行支援が正式に決まったところの利回り上昇なので「かなり問題」です。またイタリア10年国債利回りも6.2%へと上昇しています。
これは単純に銀行の不良債債権問題とか国家の債務問題ではなく、全く違ったレベルでの問題が顕在化してきているような気がします。
ドイツ10年国債の利回りが1.17%と、ほぼ史上最低利回りとなっています。本年3月頃の利回りは2%くらいでした。日本10年国債の利回りは本年3月の1%あたりから直近の0.74%へ低下しているのですが、それに比べても「異常な利回りの低下」です。
これは巨大な債券アービトラージが、巨大な損失を抱えていることを意味します。債券アービトラージとは「割安な債券(例えばイタリアやスペイン国債)を買い、割高な債券(例えばドイツ国債)を売る」ものです。
いくらイタリアやスペイン国債が問題含みと言っても「同じユーロ建て、ユーロ体制堅持のために支援体制が出来るはず」と思って利回りが拡大していく過程で(あるいは支援の合意が出来そうなときに)巨額に積み上がっているはずなのです。
当たっているとすれば「新たな火種」となります。
直接関係ないかもしれませんが、ユーロ圏ではドイツ・オランダ・フィンランド・オーストリアの2年以下の国債利回りがマイナスになっています。これもこれらの国債が債券アービトラージの「売り」の対象になっており、「品借り調達」のコストを考えるとマイナス利回りになっているような気がするのです(注)。
(注)例えば、本来の2年国債の利回りが0.2%としても、「品借り調達コスト」が0.3%であれば、国債をマイナス0.1%で購入しても「品貸し」に出せばコストが合うのです。誰も指摘しないのですが、国債利回りがマイナスになるのはこういう場合しかないのです。
何れにしてもユーロ圏、およびその周辺の非ユーロ諸国(英国・スイス・スウェーデン・デンマークなど)の債券市場は「新たな火種」を抱えているような気がします。
話題が全く変わるのですが、先週末(7月20日)に笠間治雄・検事総長が「勇退」し、小津博司・東京高検検事長が「予定通り」に昇格しました。まあ笠間氏の就任時からの既定路線で、粛々と「赤レンガ派」に大政奉還が行われたわけです。
本誌で以前、小津検事長の検察官定年(63歳)が本年の7月12日と書いてあったので「どうしたんだろう」とのコメントも頂いていたのですが、7月21日だったようで「無事セーフ」でした。検事総長の定年は65歳なので、まるまる2年間の任期となります。
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(引用者の注釈)
債券アービトラージ:類似した債券で過小評価された方を買い建て、過大評価された方を売り建てて、これらの価格が合理的な水準に戻ったところで、それぞれの決済を同時に行って差額の利益を獲得する投資戦略のこと。
品借り調達コスト:債券、株式などの信用取引において信用売りをする場合、証券会社が証券金融会社から信用取引に必要な債券などを借りて売るが、証券金融会社に品不足が生じた際に、その不足する株式を追加のコストを支払って外部から調達する。
品借り料はその追加費用のこと。信用取引の売り方から徴収して買い方に支払われる。なお、貸し手側から見れば「品貸し料」。
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