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ユーロ、誰も引けないギリシャ離脱カード

 ユーロの行方は依然不透明ではあるが選択肢はかなり明瞭になりつつある。
 民意の流れと指導者の実行力次第で方向が定まるだろう。 
 交渉か離脱か。国民国家解体に向けた統合強化(当面はユーロ共同債)か、ユーロの分裂か。
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ユーロは今やチキンレース
だが、誰も引けないギリシャ離脱カード   6/7  山田厚史 ダイヤモンド・オンライン

 ギリシャ危機はスペインに飛び火した。金融危機の再燃が危ぶまれる。G7の財務相は急遽、電話会議を開き対応に躍起だが、市場の動揺は収まらない。17日のギリシャ再選挙で、「緊縮財政拒否」を主張する急進左翼連合が第1党を取りかねない情勢だ。左派が勝利すれば「ギリシャのユーロ離脱」が現実味を帯びる、といわれる。しかし、その選択はあり得ない、と思う。

 離脱して困るのはギリシャである。一方EUは、ギリシャをユーロから追い出した時の混乱を恐れる。スペインに飛び火した危機が、手荒なまねができない状況を印象付けた。EUもギリシャにも「離脱カード」を引く蛮勇はない。

  無垢な野党ほど政権につくとブレが大きい

 急進左翼連合のチプラス党首は第2党に躍り出た総選挙の後、フランスとドイツを回り「ギリシャ国民は、全てのヨーロッパ人のために戦っている」と気勢をあげた。緊縮財政の押しつけは、新自由主義の手法を欧州に持ち込むもので、ギリシャを人道的危機に陥れるものだ、と訴えた。

 増税、年金カット、公務員の削減など「痛みを伴う調整政策」を有無を言わさず押し付けるEU委員会の姿勢は、アジア危機の時に乗り込んだIMFの傲慢さを思い出させる。上から目線で「お前らがしっかりしないから、こんなことになったんだ」と言っているような印象を国民に与えた。

 野党の立場にあるなら、この妥協なき姿勢は評価される。政権を担うとなると、話は別である。ギリシャ国民が「我々が何をしたというのだ。政治家の不始末で国民が痛い目にあうなど理に合わない」と怒る気持ちはよくわかる。この怒りが急進左派を躍進させた。旧政権から遠いところにいた政党であり「緊縮財政反対」を掲げ、現状へ異議申し立が鮮明だった。

 1994年に、日本で社会党の村山富市首相が誕生した時を振り返れば、よくわかる。自衛隊を認め、消費税の引き上げを決めた。無垢な野党ほど、政権につくとブレが大きい。

 国民が失うべきものを持たず、革命的な変革を求めているなら、急進左翼的政策もありだろう。だが、ギリシャの有権者の圧倒的多数は、「ユーロに留まっていたい」と考えている。欧州の一員であり、フランスやドイツと肩を並べ、今の生活水準を保ちたい、と望んでいる。

「緊縮財政反対。ユーロ離脱反対」。

 ユーロ圏に留まって、今の暮らしを維持したい、ということである。

  もしギリシャがユーロから離脱したら何が起こるか

 急進左派がこれを実現することは、不可能だ。EUが求める財政規律を蹴飛ばせば、ユーロに居られなくなる。ギリシャには「ユーロに入っているから、無理難題を押し付けられる。この際、ユーロから出てしまおう」という声もある。この少数意見に従って離脱に踏み切れば、どうなるか。

 EUやIMFが決めた金融支援を受けられなくなる。そうなればギリシャ国債の利払いが止まる。デフォルトである。どこの銀行もギリシャにカネを貸さなくなる。国債を発行できず、税金だけで国家を運営すれば、年金はおろか公務員の給与も払えなくなる。

 元の通貨ドラクマが復活するが、政府の信用がない国の通貨は誰も相手にしない。ドラクマで支払う貿易は難しく、他国の企業はユーロやドルでの決済を求めるだろう。

 ドラクマの対ユーロ/ドル価値は急落し、ギリシャは不況下の大インフレに見舞われる恐れがある。持っていれば目減りする通貨を人々は嫌い、ギリシャ国内でもドラクマは敬遠されるようになる。闇でユーロが流通し、大事なものはユーロやドルなど外貨でなければ買えなくなる。

 異様に思われるかもしれないが、こうした事態は20年前の東欧で珍しいことではなかった。信用の無い通貨を政府が発行しても、誰も見向きしない。あの頃、闇市場で流通していたのはドイツマルクとドルだった。ユーロ離脱は、ユーロが闇で流通する悲惨な経済を、ギリシャに出現させそうだ。

 その先触れのような事態がすでに始まっている。ギリシャでは預金が引き出されている、という。銀行預金も今はユーロだが、離脱すれば預けてあるカネがある日ドラクマになってしまうこともありうる。預金をドラクマに代えるため預金封鎖がいつかおこる。そんな予測から今のうちにユーロを現金で引き出して備えよう、という動きである。勢いが増すと取り付け騒ぎに発展する。全ては6月17日の総選挙次第だ。

  南欧の国債金利上昇が警告する金融危機の到来

 ギリシャの有権者は、さぞ悩んでいるだろう。気持ちでは「緊縮財政反対」を腹の底から叫び、急進左派の主張に拍手したいが、その後を考えると、現実的な打開策が必要だ。ユーロに留まっても、ユーロから飛び出しても、前のような潤沢な行政サービスは期待できない。EU諸国に頭をさげて支援をいただいて、それなりの緊縮策を受け入れるか、きっぱり縁を断って自力更生の道を歩むか。

 かつてトルコから独立した時は、失うものは無かった。民族主義の高揚の中で貧しいながらも自立を選んだ。今は失いたくない暮らしが、一方的な怒りの噴出を抑えている。全てを投げ打ってでもユーロから離脱する、などという元気はどこにもない。

 急進左翼連合のチプラス党首も「ユーロから離脱する」とは言っていない。自分から出てゆく気はないようだ。

「ギリシャはユーロから出てゆけ」という声は、ドイツやベネルクス3国など欧州北部に根強い。「ギリシャは他国からの借金で放漫財政を続けている。厳格な基準を守らせるべきで、できなければ退場しかない」という意見だ。

 理屈はその通りだが、ギリシャを離脱させ、国家のデフォルトを現実化させるリスクは計り知れない。スペイン第3位のバンキヤ銀行が先日破綻し、これまでに日本円で約1.9兆円の公的資金の注入を受けた。あちこちの外国銀行からカネを借りまくっている国家がデフォルトすれば、金融危機の引きガネになりかねない。

 金融不安の再燃で、南欧諸国の国債金利がまた上昇している。これ以上、深刻な事態になると金融危機ですよ、という警報である。

  ユーロ維持のために国家の壁は乗り越えられるか

 ギリシャ危機以前から欧州の銀行は、不動産バブルや投機的金融で経営が危ぶまれていた。ギリシャが破綻すれば、つぎの落ちこぼれる国はどこか、市場はモグラたたきが始まる。それほど欧州の金融ビジネスは、いま脆弱である。そんな時の、「筋を通してギリシャを追い出す」という選択は可能だろうか。

「緊縮財政は絶対に認められない」と息巻くギリシャ。だったら「出て行け。困るのはお前らだ」と迫る強国。両者とも、最悪の事態を回避したい、と願いながら、相手から妥協を引き出そうとしている。

 その陰で、「欧州共同債券」が議論されている。ギリシャやスペインの国債は、ユーロ建てでも市場で敬遠される。だから、共同債はユーロ圏をひとまとめにして、債券を発行し、危ない国にも資金を回そう、という構想だ。ドイツのような強い国の信用力で、危険な国を支える妥協案である。

 ドイツは「問題国の財政規律を弛緩させかねない」と異論と唱えていたが、強国が弱国を支えなければユーロ圏は維持できない、とい現実がある。

 経済から国境を取り払っても、政治は国単位で行われている。ユーロ圏を大事にすれば国家は妥協を迫られ、国家の都合を優先すればユーロ圏は成り立たない。

 ギリシャ問題は、国家の壁をどう乗り越えるだろうか。
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ギリシャと交渉するか離脱させるか

 交渉か離脱か。国民国家解体に向けた統合強化(当面はユーロ共同債)か、ユーロの分裂か。
 ユーロの危機がどこへ向かうかを占うのは予想の域を出ないものであるが、状況をよく把握することは可能である。
 過去と現在を比べると、将来の長期おおまかな向き方はわかる。
 その範囲のなかで、実力のある指導者と国民の流れが何を選び、実行するかによるだろう。
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  ドイツの本音~ギリシャ離脱でユーロ圏の結束は高まる  6/5  中原圭介

ドイツ当局では、6月17日の再選挙の結果によっては、ギリシャがユーロ圏から離脱してもいいと本気で思い始めているようです。

そもそも民間債務については、ギリシャは今年の3月にその約75%を削減することに成功しています。たとえギリシャがこれから無秩序なデフォルトをしたとしても、EUやIMFなどの国際機関は損失を被るものの、民間の金融機関が破綻するような影響はないと考えているのでしょう。

前回の記事でも申し上げましたように、ギリシャがユーロから離脱すれば、新通貨ドラクマは暴落し、ギリシャ国民の生活は今とは比べ物にならないほど苦境に追い込まれます。大企業や富裕層は国外に逃げ出し、ドラクマで支給される公務員給与や年金は実質的に半分以下の価値になってしまう可能性もあるのです。

ですから、ギリシャ国民の困窮ぶりを見たら、ポルトガルやアイルランドが後に続くという選択肢はなくなるでしょう。ドイツの主張する財政規律を守ったほうがマシだと、財政危機国や他のユーロ圏各国の国民も再認識するはずです。

ギリシャをユーロ圏から離脱させ、スケープゴートにすることによって、かえってユーロ圏の結束を固められるというシナリオを、ドイツが描き始めていても不思議ではありません。

しかしながら、ギリシャの切り捨てはアイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリアなどの債務不履行リスクを高め、これらの国々の国債利回りがさらに上昇することは避けられそうもありません。

ドイツはこのような事態を乗り切ることができると考えているのでしょうが、結局はスペインやイタリアが国債市場でぎりぎりまで追い込まれ、ドイツは重い腰を上げざるを得ないのではないでしょうか。

すなわち、ユーロ共同債の導入が現実化するということです。そうなれば、欧州の債務危機は一気に沈静化の方向に向かうでしょう。

逆に、再選挙の後に、ギリシャがEUと約束した緊縮財政策を守ることができたとしても、それは危機が先送りされたに過ぎません。近い将来、これまでと同じようにギリシャが計画を達成できないことが明らかになり、再び欧州の債務危機が深刻化することは避けられなくなるでしょう。

なお、海外の主要メディアの多くでは、ギリシャは通貨急落により輸出競争力が高まり、経済が回復するだろうという見方を示していますが、ギリシャに限っては通貨安による経済回復は当てはまらないと思われます。ギリシャでは輸出産業がGDPの約1割にとどまり、通貨安のメリットを生かし輸出を増やすのにも限界があるからです。
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