自立と平和、民主主義と繁栄の日本を
2012-05-04
米国に呼びつけられた野田某は、嬉々として尻尾を振り振り飛んでいった。
またも国民と国会を無視して、勝手な約束をしてきたのはバレている。
このまま松下政経塾政権が続くと、日本は消費増税と合わせて、取り返しのつかないほどに米国に収奪されてしまうだろう。
今こそ、自立、平和、民主主義と繁栄の日本か、それとも売国、戦争、反動、貧困の日本か、が問われているだろう。
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小泉上回る国益売り飛ばし
日米首脳会談
震災に乗じTPPで略奪 4/20 長周新聞
野田首相が4月末に訪米し、オバマ大統領と日米首脳会談をおこなう。
民主党野田政府は日本国民の声を聞く耳はなく、選挙の公約はみな覆して、アメリカと財界のいうことは飛びついて実行する。
日米首脳会談は自民党小泉構造改革でさんざんに破壊された日本社会であるが、それに輪をかけて日本民族の根本的な利益を売り飛ばすものになる。
とりわけ、消費税増税や原発再稼働に加えて、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加による日本市場の大収奪、さらに米軍再編見直しによる、対中国戦争を想定した米本土防衛の盾として、日本を原水爆戦争の火の海に投げ込む方向へ導こうとしている。
日本人民がかかえるさまざまな困難の根源として、日米安保条約、対米従属構造がある。
「安保」と「日米同盟の深化」をうたう日米首脳会談に反対する日本人民のたたかいの力を強めることが求められている。
「安保」破棄の全国的闘争急務
野田首相は今月29日から5月2日まで米ワシントンを訪問し、30日にオバマと会談する予定だ。議題は頑強な国民世論に縛られて進まないTPP参加問題や在日米軍再編などが中心。
「TPP問題も含めたアジア太平洋地域のルール作りを日米でどうするかを中心に論議したい」(野田首相)、「首相訪米は長期にわたる日米同盟のあり方を規定することになる」(玄葉外相)といっている。
アメリカ側は「大統領は日米同盟、経済、貿易問題を含む2国間・地域・地球規模の問題について野田首相と協議し、関係を深めることを期待している」(カーニー米大統領報道官)と表明。会談後、「日米同盟関係の深化」を掲げた共同声明を発表する予定になっている。
アメリカは1990年代はじめの米ソ二極構造崩壊以後、一極支配の野望を進めてきたが、一方でアフガンやイラクへの軍事侵攻で敗退し、もう一方で続けてきた金融支配がリーマンショックまで来て破たんし、腐朽と衰退が著しくなった中で「日米関係の深化」を求めている。
それは経済危機の日本への大大的な転嫁であり、軍事力の肩代わり要求を大きな特徴としている。
消費増税で米国に貢ぐ IMFが要求露骨
第1の特徴は、日本経済の大収奪である。アメリカが牛耳るIMFに指図されて、日本の財政赤字は世界一であり、消費税の大増税をしなければ破たんすると騒ぎながら、そのIMFに十数兆円を拠出している。
「欧州危機の拡大を防ぐため」といって新たに5000億㌦(約41兆円)の資金増強を呼びかけると、出資比率2位の日本が真っ先に手をあげ「600億㌦(4・8兆円)を支出する」と莫大な税金を注ぎこむことを表明した。アメリカは日本が拠出することはほめるが自分は財政難を口実に拠出を拒否。中国やロシア、ブラジルなどは慎重姿勢。
このなかで安住財務相は「早期の合意形成に向けた流れを作るには、わが国の態度表明が重要」「(拠出額は)加盟国では飛び抜けて最大」と自慢する有様だ。日本政府はリーマンショック後の2009年にもIMFに10兆円拠出した。昨年夏には円高対策として10兆円投じてドル買い介入。そのカネはアメリカ国債の購入に消え、アメリカ財政へのプレゼントとなった。
日本に消費税増税を要求しているのはIMFである。1月には「2015年までに消費税率を10%に引き上げる」という日本の方針が「不十分」と注文。
IMFのコッタレリ財政局長は「消費税率を15%まで引き上げよ」と要求した。今月17日にIMFが公表した各国の財政状況に関する報告書でも「日本は一段と野心的な戦略が必要」とし、2010年代半ばまでに、現在の計画を上回る消費税率の引き上げと社会保障改革を要求した。
野田政府は「消費税に政治生命をかける」といったが、そのカネはアメリカが日本から巻き上げるために消えている。野田政府にとって日本国民は奴隷であり、アメリカ支配層が主人なのだ。
日本社会を丸ごと収奪 TPP参加問題
日米首脳会談で大きな議題の一つはTPPへの参加問題である。アメリカは「TPP参加を早く決めよ」と迫りつつ、郵政民営化見直し、牛肉やコメの輸入制限、公共事業参入制限などを「貿易障壁」と敵愾(がい)心を燃やし、露骨な要求をつきつけている。
「郵政民営化」をめぐっては、「見直し法」では手ぬるいとし、米財界や議会が猛烈な圧力をかけている。
「見直し法」は小泉改革時の現行法を規制する株式売却凍結法を廃止して郵政株売却に道を開くが、株の3分の1は国が保有し続け、金融子会社2社の株式完全売却を義務づける規定は削っている。
この少しでも国の関与が残ることに、米生命保険協会や米商工会議所、米サービス業連盟、在日欧州ビジネス協会など欧米の16業界団体が猛反発。米通商代表部のカーク代表も「保険業界や米議会が強い関心を示している」と脅した。
「国の関与が残る企業が相手では競争できない」「競争条件が不平等」と主張して、300兆円以上の国民資産を抱える「ゆうちょ銀行」や「かんぽ生命」の株をすべて売却し、外資が奪いとれるようにすることを迫っている。
さらに米通商代表部は2日に「2012年貿易障壁報告書」を発表。郵政とともに農業、工業分野、政府調達について再度具体要求を突きつけている。
「コメ輸入」については「アメリカから輸入されたミニマムアクセス(最低輸入機会)米のごく一部しか日本の消費者のもとに届いていない」「輸入米に対する日本の高度に規制され、不透明な輸入と流通の制度は、日本の消費者への意味ある接近を制限している」と非難し、日本でアメリカのコメがもっと出回るようにせよと要求している。
牛肉輸入問題については、「牛肉と牛肉製品の輸入を月齢20カ月かそれ以下のものに制限することで、米国産の牛肉と牛肉製品の利用を制限している」と非難し「日本の牛肉市場を再開放することは、重要な優先事項」と要求。「アメリカはあらゆる段階、機会に日本に圧力をかけていく」と脅している。
野田政府はすでに米国産牛肉の輸入対象を「30カ月以下」に広げる方向だ。
米食肉関連企業で構成する米国食肉輸出連合会(コロラド州)は「牛肉は15万㌧」「豚肉は34万㌧」と輸出量目標を発表している。
国産牛は福島原発事故でばらまかれたセシウム騒動でチェックが厳しくなり、廃用牛を使ったユッケ中毒の騒動で牛たたきやレバ刺しまで扱うことを禁じられ、畜産農家も食肉店も大打撃となっている。ここに米国産牛の輸入を野放図に増やす方向だ。
自動車業界についても「さまざまな非関税障壁により、日本の自動車市場への参入は阻害されている」「日本における米国製の自動車や部品販売は低迷を続けている」とし、米国車が売れるような体制作りを要求した。
そして「報告書」は一定額以上しか公共事業や公的な物品購入を外国企業に開放しない「政府調達」について要求。
「大型高速道路、公共建造物、鉄道、都市再開発、港湾」などに「米政府は特別の関心を払っている」とし公共事業の開放を求めた。
すでに七兆円かけて第二東名高速道路をつくっているが、東日本大震災にかこつけ「大災害対策」と称して高速道路や新幹線の大公共投資にのりだしている。
アメリカの要求というわけだ。震災復興には10年で23兆円かけるが、それは地元復興にことよせたゼネコンの市場となり、それをアメリカ企業に開放しろというわけだ。
災害便乗資本主義・ショックドクトリンの手法が暴露されてきたが、東日本大震災、世界恐慌というものに便乗して、日本市場の全面開放をさせて、日本社会を丸ごと大収奪するのがTPPであり、オバマ政府は野田政府にそれをやらせようとしている。
経費負担は大幅に増額 米軍再編見直し
首脳会談の重要な特徴は、日米軍事同盟の深化である。
アメリカは衰退する中でアジア重視の戦略に転換している。アメリカは今年1月「二正面作戦戦略」(朝鮮半島と中東地域での二つの戦争で同時に勝利する)を転換する「新軍事戦略」を打ち出した。
「新軍事戦略」はアメリカがアフガン・イラク戦争で敗北し、未曾有の経済恐慌で米国家財政自体が窮地に陥り、米陸上部隊の維持すらできないほど衰弱するなか、対中国戦争をにらんで日本や韓国、フィリピンなどの近隣諸国の若者を最前線に配備し、米軍はハワイやグアム、オーストラリアなど安全な後方に下げるものだ。
それは日本大収奪計画であるTPPが同時に、アメリカ支配の経済ブロック化をはかって中国包囲網をつくる計画と結びついている。
現在55万人いる米陸軍は今後10年で6万人以上削減し、米海空軍も後方に配置。
中国の核ミサイル攻撃が届くと想定する九州、沖縄、台湾、フィリピンを結ぶ第一列島線のなかから米軍を外に出し、日本全土を米本土防衛の盾にして、アメリカは通信ネットワークなどを駆使した「遠隔誘導戦争」をやる作戦である。
海軍トップのグリナート作戦部長は「連携相手のナンバーワンは日本の海上自衛隊だ」と公言した。日本の自衛隊は使い勝手のいい肉弾としか見なしていない。
この米軍の再編見直しには、日本の人、物だけではなくカネまで出させようとしている。
「普天間移設が進まないから先行実施」と宣伝された在沖海兵隊のグアム移転は、当初の移転人数が8000人から約4000人に半減した。野田政府は「日本の負担を減らせ」ともいえず、逆に負担増を要求される有様。
米側は「グアム以外に新たに海兵隊の移転先が増えるから増額が必要」といい張って09年の移転協定で決まった日本の負担額28億㌦を約41億㌦(約3280億円)にするよう要求した。
野田政府は「消費増税前に命運をかけており負担増は受け入れられない」といってみたが一蹴され、グアム移転費をインフレ率を加えた31億㌦程度に増額するとともに「テニアンで自衛隊が共同訓練する経費」「テニアン整備費」と名目を変えて、グアム移転費増額をカモフラージュする案を打診した。
アメリカ側は「減額は想定していない。日本側の姿勢にとても満足している」(パネッタ国防長官)、「両政府が合意できると確信している」(キャンベル次官補)とのべている。
ただ日米共同文書には具体的な負担額は盛り込まない方向で、事実の公表すらしない対応だ。
日米首脳会談ではグアム移転費の大幅増額、それとは別に米領北マリアナ諸島テニアンの米軍基地の整備費も日本側負担を要求するのに対して、野田政府はすべて応じる構えとなっている。
また、普天間基地を8年間で総額200億円以上かけ全面改修することをアメリカが要求し、永続使用にむけて動き出している。
辺野古への移設計画は撤回せず「一刻も早く危険性を除去する」(野田首相)、「普天間の固定化はいけない」(玄葉外相)といいながら継続する方向だ。
野田政府は米軍のために普天間基地を整備したうえ、辺野古への新基地も建設する対応。岩国や呉に普天間の海兵隊を移転する案も動いている。
野田首相の訪米による日米首脳会談は、売国独占資本集団の目先の利益のために、日本民族の根本的な利益を根こそぎ売り飛ばす売国の旅として設定されている。
自民党小泉政府以上の怒りを国民から買っている民主党野田政府であるが、国民からいかに浮き上がろうともアメリカに認められることで地位を守ろうというのである。
失業や生活難、あらゆる苦難が増大する国民生活であるが、あらゆる苦難の根源は敗戦後から続くアメリカの日本支配、国益を根こそぎ売り飛ばす売国奴政治にある。
独立、平和、民主主義と繁栄の道か、売国、戦争、反動、貧困の道か、日本全国で大衆自身がそれぞれの個別要求に共通するこの日本の国をどうするかという問題で、巨大な世論を形にする努力が求められている。
またも国民と国会を無視して、勝手な約束をしてきたのはバレている。
このまま松下政経塾政権が続くと、日本は消費増税と合わせて、取り返しのつかないほどに米国に収奪されてしまうだろう。
今こそ、自立、平和、民主主義と繁栄の日本か、それとも売国、戦争、反動、貧困の日本か、が問われているだろう。
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小泉上回る国益売り飛ばし
日米首脳会談
震災に乗じTPPで略奪 4/20 長周新聞
野田首相が4月末に訪米し、オバマ大統領と日米首脳会談をおこなう。
民主党野田政府は日本国民の声を聞く耳はなく、選挙の公約はみな覆して、アメリカと財界のいうことは飛びついて実行する。
日米首脳会談は自民党小泉構造改革でさんざんに破壊された日本社会であるが、それに輪をかけて日本民族の根本的な利益を売り飛ばすものになる。
とりわけ、消費税増税や原発再稼働に加えて、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加による日本市場の大収奪、さらに米軍再編見直しによる、対中国戦争を想定した米本土防衛の盾として、日本を原水爆戦争の火の海に投げ込む方向へ導こうとしている。
日本人民がかかえるさまざまな困難の根源として、日米安保条約、対米従属構造がある。
「安保」と「日米同盟の深化」をうたう日米首脳会談に反対する日本人民のたたかいの力を強めることが求められている。
「安保」破棄の全国的闘争急務
野田首相は今月29日から5月2日まで米ワシントンを訪問し、30日にオバマと会談する予定だ。議題は頑強な国民世論に縛られて進まないTPP参加問題や在日米軍再編などが中心。
「TPP問題も含めたアジア太平洋地域のルール作りを日米でどうするかを中心に論議したい」(野田首相)、「首相訪米は長期にわたる日米同盟のあり方を規定することになる」(玄葉外相)といっている。
アメリカ側は「大統領は日米同盟、経済、貿易問題を含む2国間・地域・地球規模の問題について野田首相と協議し、関係を深めることを期待している」(カーニー米大統領報道官)と表明。会談後、「日米同盟関係の深化」を掲げた共同声明を発表する予定になっている。
アメリカは1990年代はじめの米ソ二極構造崩壊以後、一極支配の野望を進めてきたが、一方でアフガンやイラクへの軍事侵攻で敗退し、もう一方で続けてきた金融支配がリーマンショックまで来て破たんし、腐朽と衰退が著しくなった中で「日米関係の深化」を求めている。
それは経済危機の日本への大大的な転嫁であり、軍事力の肩代わり要求を大きな特徴としている。
消費増税で米国に貢ぐ IMFが要求露骨
第1の特徴は、日本経済の大収奪である。アメリカが牛耳るIMFに指図されて、日本の財政赤字は世界一であり、消費税の大増税をしなければ破たんすると騒ぎながら、そのIMFに十数兆円を拠出している。
「欧州危機の拡大を防ぐため」といって新たに5000億㌦(約41兆円)の資金増強を呼びかけると、出資比率2位の日本が真っ先に手をあげ「600億㌦(4・8兆円)を支出する」と莫大な税金を注ぎこむことを表明した。アメリカは日本が拠出することはほめるが自分は財政難を口実に拠出を拒否。中国やロシア、ブラジルなどは慎重姿勢。
このなかで安住財務相は「早期の合意形成に向けた流れを作るには、わが国の態度表明が重要」「(拠出額は)加盟国では飛び抜けて最大」と自慢する有様だ。日本政府はリーマンショック後の2009年にもIMFに10兆円拠出した。昨年夏には円高対策として10兆円投じてドル買い介入。そのカネはアメリカ国債の購入に消え、アメリカ財政へのプレゼントとなった。
日本に消費税増税を要求しているのはIMFである。1月には「2015年までに消費税率を10%に引き上げる」という日本の方針が「不十分」と注文。
IMFのコッタレリ財政局長は「消費税率を15%まで引き上げよ」と要求した。今月17日にIMFが公表した各国の財政状況に関する報告書でも「日本は一段と野心的な戦略が必要」とし、2010年代半ばまでに、現在の計画を上回る消費税率の引き上げと社会保障改革を要求した。
野田政府は「消費税に政治生命をかける」といったが、そのカネはアメリカが日本から巻き上げるために消えている。野田政府にとって日本国民は奴隷であり、アメリカ支配層が主人なのだ。
日本社会を丸ごと収奪 TPP参加問題
日米首脳会談で大きな議題の一つはTPPへの参加問題である。アメリカは「TPP参加を早く決めよ」と迫りつつ、郵政民営化見直し、牛肉やコメの輸入制限、公共事業参入制限などを「貿易障壁」と敵愾(がい)心を燃やし、露骨な要求をつきつけている。
「郵政民営化」をめぐっては、「見直し法」では手ぬるいとし、米財界や議会が猛烈な圧力をかけている。
「見直し法」は小泉改革時の現行法を規制する株式売却凍結法を廃止して郵政株売却に道を開くが、株の3分の1は国が保有し続け、金融子会社2社の株式完全売却を義務づける規定は削っている。
この少しでも国の関与が残ることに、米生命保険協会や米商工会議所、米サービス業連盟、在日欧州ビジネス協会など欧米の16業界団体が猛反発。米通商代表部のカーク代表も「保険業界や米議会が強い関心を示している」と脅した。
「国の関与が残る企業が相手では競争できない」「競争条件が不平等」と主張して、300兆円以上の国民資産を抱える「ゆうちょ銀行」や「かんぽ生命」の株をすべて売却し、外資が奪いとれるようにすることを迫っている。
さらに米通商代表部は2日に「2012年貿易障壁報告書」を発表。郵政とともに農業、工業分野、政府調達について再度具体要求を突きつけている。
「コメ輸入」については「アメリカから輸入されたミニマムアクセス(最低輸入機会)米のごく一部しか日本の消費者のもとに届いていない」「輸入米に対する日本の高度に規制され、不透明な輸入と流通の制度は、日本の消費者への意味ある接近を制限している」と非難し、日本でアメリカのコメがもっと出回るようにせよと要求している。
牛肉輸入問題については、「牛肉と牛肉製品の輸入を月齢20カ月かそれ以下のものに制限することで、米国産の牛肉と牛肉製品の利用を制限している」と非難し「日本の牛肉市場を再開放することは、重要な優先事項」と要求。「アメリカはあらゆる段階、機会に日本に圧力をかけていく」と脅している。
野田政府はすでに米国産牛肉の輸入対象を「30カ月以下」に広げる方向だ。
米食肉関連企業で構成する米国食肉輸出連合会(コロラド州)は「牛肉は15万㌧」「豚肉は34万㌧」と輸出量目標を発表している。
国産牛は福島原発事故でばらまかれたセシウム騒動でチェックが厳しくなり、廃用牛を使ったユッケ中毒の騒動で牛たたきやレバ刺しまで扱うことを禁じられ、畜産農家も食肉店も大打撃となっている。ここに米国産牛の輸入を野放図に増やす方向だ。
自動車業界についても「さまざまな非関税障壁により、日本の自動車市場への参入は阻害されている」「日本における米国製の自動車や部品販売は低迷を続けている」とし、米国車が売れるような体制作りを要求した。
そして「報告書」は一定額以上しか公共事業や公的な物品購入を外国企業に開放しない「政府調達」について要求。
「大型高速道路、公共建造物、鉄道、都市再開発、港湾」などに「米政府は特別の関心を払っている」とし公共事業の開放を求めた。
すでに七兆円かけて第二東名高速道路をつくっているが、東日本大震災にかこつけ「大災害対策」と称して高速道路や新幹線の大公共投資にのりだしている。
アメリカの要求というわけだ。震災復興には10年で23兆円かけるが、それは地元復興にことよせたゼネコンの市場となり、それをアメリカ企業に開放しろというわけだ。
災害便乗資本主義・ショックドクトリンの手法が暴露されてきたが、東日本大震災、世界恐慌というものに便乗して、日本市場の全面開放をさせて、日本社会を丸ごと大収奪するのがTPPであり、オバマ政府は野田政府にそれをやらせようとしている。
経費負担は大幅に増額 米軍再編見直し
首脳会談の重要な特徴は、日米軍事同盟の深化である。
アメリカは衰退する中でアジア重視の戦略に転換している。アメリカは今年1月「二正面作戦戦略」(朝鮮半島と中東地域での二つの戦争で同時に勝利する)を転換する「新軍事戦略」を打ち出した。
「新軍事戦略」はアメリカがアフガン・イラク戦争で敗北し、未曾有の経済恐慌で米国家財政自体が窮地に陥り、米陸上部隊の維持すらできないほど衰弱するなか、対中国戦争をにらんで日本や韓国、フィリピンなどの近隣諸国の若者を最前線に配備し、米軍はハワイやグアム、オーストラリアなど安全な後方に下げるものだ。
それは日本大収奪計画であるTPPが同時に、アメリカ支配の経済ブロック化をはかって中国包囲網をつくる計画と結びついている。
現在55万人いる米陸軍は今後10年で6万人以上削減し、米海空軍も後方に配置。
中国の核ミサイル攻撃が届くと想定する九州、沖縄、台湾、フィリピンを結ぶ第一列島線のなかから米軍を外に出し、日本全土を米本土防衛の盾にして、アメリカは通信ネットワークなどを駆使した「遠隔誘導戦争」をやる作戦である。
海軍トップのグリナート作戦部長は「連携相手のナンバーワンは日本の海上自衛隊だ」と公言した。日本の自衛隊は使い勝手のいい肉弾としか見なしていない。
この米軍の再編見直しには、日本の人、物だけではなくカネまで出させようとしている。
「普天間移設が進まないから先行実施」と宣伝された在沖海兵隊のグアム移転は、当初の移転人数が8000人から約4000人に半減した。野田政府は「日本の負担を減らせ」ともいえず、逆に負担増を要求される有様。
米側は「グアム以外に新たに海兵隊の移転先が増えるから増額が必要」といい張って09年の移転協定で決まった日本の負担額28億㌦を約41億㌦(約3280億円)にするよう要求した。
野田政府は「消費増税前に命運をかけており負担増は受け入れられない」といってみたが一蹴され、グアム移転費をインフレ率を加えた31億㌦程度に増額するとともに「テニアンで自衛隊が共同訓練する経費」「テニアン整備費」と名目を変えて、グアム移転費増額をカモフラージュする案を打診した。
アメリカ側は「減額は想定していない。日本側の姿勢にとても満足している」(パネッタ国防長官)、「両政府が合意できると確信している」(キャンベル次官補)とのべている。
ただ日米共同文書には具体的な負担額は盛り込まない方向で、事実の公表すらしない対応だ。
日米首脳会談ではグアム移転費の大幅増額、それとは別に米領北マリアナ諸島テニアンの米軍基地の整備費も日本側負担を要求するのに対して、野田政府はすべて応じる構えとなっている。
また、普天間基地を8年間で総額200億円以上かけ全面改修することをアメリカが要求し、永続使用にむけて動き出している。
辺野古への移設計画は撤回せず「一刻も早く危険性を除去する」(野田首相)、「普天間の固定化はいけない」(玄葉外相)といいながら継続する方向だ。
野田政府は米軍のために普天間基地を整備したうえ、辺野古への新基地も建設する対応。岩国や呉に普天間の海兵隊を移転する案も動いている。
野田首相の訪米による日米首脳会談は、売国独占資本集団の目先の利益のために、日本民族の根本的な利益を根こそぎ売り飛ばす売国の旅として設定されている。
自民党小泉政府以上の怒りを国民から買っている民主党野田政府であるが、国民からいかに浮き上がろうともアメリカに認められることで地位を守ろうというのである。
失業や生活難、あらゆる苦難が増大する国民生活であるが、あらゆる苦難の根源は敗戦後から続くアメリカの日本支配、国益を根こそぎ売り飛ばす売国奴政治にある。
独立、平和、民主主義と繁栄の道か、売国、戦争、反動、貧困の道か、日本全国で大衆自身がそれぞれの個別要求に共通するこの日本の国をどうするかという問題で、巨大な世論を形にする努力が求められている。
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幸福を求める権利、健康で文化的な生活の権利
2012-05-04
被災地 幸福追求・生存権どこへ 今こそ憲法の出番 5/3 東京新聞
一人一人が尊重され、人間らしく平和で安全な社会に生きる。
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故以降、だれもがその願いを切実にしていることだろう。六十五年前のきょう、日本国憲法が施行された。一三条と二五条が保障する権利の実現に国は努力しているのか。
大震災の後、千六百十八人が関連死で亡くなっている。もうこれ以上、悲しみと苦しみを広げてはいけない。
◇
被災した約百世帯が入居する宮城県石巻市東部の万石浦(まんごくうら)仮設住宅。今年一月の深夜、救急車のサイレン音が響き、八十五歳の女性宅前に止まった。
女性は心臓を患っていた。この夜、女性は助けを求めて部屋の壁をたたいた。
「コンコンコン」。その音に異変を察した隣部屋の主婦が通報し、女性は一命をとりとめた。
女性は以前にも発作を起こしたことがあった。助けを呼ぶときは、壁をたたいて知らせることが合図になっていた。仮設住宅の薄い壁が命綱なのだ。
「うまく隣人が気づいてくれてよかったが…」と自治会長の後藤嘉男さん(71)。いつも気になるのは入居者の様子。高齢の単身者十九人には特に気を配っているという。
県内一の被災者を抱える石巻市は、七千二百戸の仮設住宅の入居先を決める際、公平を期すため原則抽選とした。このため、同じ地域の住民がバラバラに分かれて入居。見知らぬ人が隣人になった。
「周りは田んぼ、何にもないべ」。市中心部から離れた桃生(ものう)町の仮設住宅で、一人暮らしの木村勝夫さん(70)がこぼす。
町までの巡回バスは一日二便。五十一戸ある仮設住宅は空き部屋が多く、日中も人の気配がない。
木村さんは足が不自由で出歩けず、買い物はヘルパーに頼むが、調理に苦労する。
昼すぎ、テーブルの上には卵かけご飯の残りと焼酎。三年前まで建築業をしていたが、今は生活保護に頼る。
「マッチ箱に入れられたような生活。おかしくなる」とコップに焼酎をついだ。
同じ仮設住宅で一人で暮らす亀井洋さん(45)は震災後に職を失い、今年に入ってようやく、仙台港での荷揚げのアルバイトを紹介してもらった。
日当は一万二百五十円だが、仕事があるときだけの臨時アルバイト。
「少ないと月に五日程度、十日働けたらいい方。朝晩自炊して食べていくのがやっと。全く先が見えない」と話す。
四月半ば、市内の田んぼの中に立つ仮設住宅で、五十二歳の男性と知人の三十六歳の女性の遺体が見つかった。死後一~二週間。
男性が先に病死し、女性が後で亡くなったとみられる。
「死」のニュースは、仮設住宅で暮らす被災者にとって人ごとではない。
「ドキッとするんです」と万石浦の後藤さんは話す。昨年九月にも別の仮設住宅で一人暮らしの男性が刃物で腹を刺して命を絶っている。
炊き出しなどで被災者を支援するNPO法人「フェアトレード東北」の佐藤大知さん(26)は「仮設住宅の規模や場所によって支援の届き方に格差が出ている。市中心部から離れた仮設住宅には支援が行き届かず、孤立している人が点在している」と訴える。
◆原発は違憲 心穏やかに生きる権利守れ
憲法は、少数の人権を守るため、多数に基づく民主的政治に時として縛りをかけるものです。今回の震災では二万人近い人が亡くなり、帰宅できない人は三十四万人を超える。
大変な被害ですが全人口からすれば少数です。厳しい言い方をすれば、ほとんどの国民にとっては「人ごと」。この事実を、まず直視しなければいけない。
被害者が多数なら、多数で物事を決める民主主義のルートで支援策を決めればいいのですが、今こそ少数者の権利を守る憲法が必要です。
幸福追求に対する権利を保障する一三条、健康で文化的な最低限度の生活を保障する二五条の訴えは切実です。
被災して人間らしい生活と程遠い生活を強いられている人たちは「すばらしい憲法があるのになぜ私たちは…」と歯がゆく思っているでしょう。
憲法は、一人一人が自分の権利を主張するのを認めている。被災者がそれぞれ違う権利を主張するのは、わがままではない。
みんなと違うことを言うと申し訳ないと感じるのは、間違いです。
憲法前文では「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とあります。「平和」とは単に戦争のない状態ではなく病気や飢餓、貧困や人権侵害、災害を含め、生活を脅かす脅威から免れて心穏やかに生きることができる、ということ。一三条はさらに生命の脅威を排除することも人権として保障しています。
その観点からみると原発は憲法違反だと考えます。放射能の危険にさらされないで生きたいという人権を、憲法は保障しています。憲法の平和主義の根幹は攻撃されない国をつくること。テロの標的になり得て、攻撃されれば原爆と同じようになるものを持つべきではない。核と原子力。英語ではどちらも「nuclear」なのに日本では使い分けてきたのです。
震災では、憲法が国民の血肉になっていないことが分かりました。「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」。前文の理想を具体化しなければなりません。憲法は、政治家に守らせる法。守らせるためには、国民も憲法の内容を知らなければなりません。
<いとう・まこと> 1958年生まれ、東京都出身。東大法学部卒、資格試験の受験指導校「伊藤塾」を主宰。憲法の理念を広げる活動にも取り組む。近著「憲法が教えてくれたこと」は女子高校生が主人公の小説仕立てで、中高生向けに憲法の価値を説いている。
一人一人が尊重され、人間らしく平和で安全な社会に生きる。
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故以降、だれもがその願いを切実にしていることだろう。六十五年前のきょう、日本国憲法が施行された。一三条と二五条が保障する権利の実現に国は努力しているのか。
大震災の後、千六百十八人が関連死で亡くなっている。もうこれ以上、悲しみと苦しみを広げてはいけない。
◇
被災した約百世帯が入居する宮城県石巻市東部の万石浦(まんごくうら)仮設住宅。今年一月の深夜、救急車のサイレン音が響き、八十五歳の女性宅前に止まった。
女性は心臓を患っていた。この夜、女性は助けを求めて部屋の壁をたたいた。
「コンコンコン」。その音に異変を察した隣部屋の主婦が通報し、女性は一命をとりとめた。
女性は以前にも発作を起こしたことがあった。助けを呼ぶときは、壁をたたいて知らせることが合図になっていた。仮設住宅の薄い壁が命綱なのだ。
「うまく隣人が気づいてくれてよかったが…」と自治会長の後藤嘉男さん(71)。いつも気になるのは入居者の様子。高齢の単身者十九人には特に気を配っているという。
県内一の被災者を抱える石巻市は、七千二百戸の仮設住宅の入居先を決める際、公平を期すため原則抽選とした。このため、同じ地域の住民がバラバラに分かれて入居。見知らぬ人が隣人になった。
「周りは田んぼ、何にもないべ」。市中心部から離れた桃生(ものう)町の仮設住宅で、一人暮らしの木村勝夫さん(70)がこぼす。
町までの巡回バスは一日二便。五十一戸ある仮設住宅は空き部屋が多く、日中も人の気配がない。
木村さんは足が不自由で出歩けず、買い物はヘルパーに頼むが、調理に苦労する。
昼すぎ、テーブルの上には卵かけご飯の残りと焼酎。三年前まで建築業をしていたが、今は生活保護に頼る。
「マッチ箱に入れられたような生活。おかしくなる」とコップに焼酎をついだ。
同じ仮設住宅で一人で暮らす亀井洋さん(45)は震災後に職を失い、今年に入ってようやく、仙台港での荷揚げのアルバイトを紹介してもらった。
日当は一万二百五十円だが、仕事があるときだけの臨時アルバイト。
「少ないと月に五日程度、十日働けたらいい方。朝晩自炊して食べていくのがやっと。全く先が見えない」と話す。
四月半ば、市内の田んぼの中に立つ仮設住宅で、五十二歳の男性と知人の三十六歳の女性の遺体が見つかった。死後一~二週間。
男性が先に病死し、女性が後で亡くなったとみられる。
「死」のニュースは、仮設住宅で暮らす被災者にとって人ごとではない。
「ドキッとするんです」と万石浦の後藤さんは話す。昨年九月にも別の仮設住宅で一人暮らしの男性が刃物で腹を刺して命を絶っている。
炊き出しなどで被災者を支援するNPO法人「フェアトレード東北」の佐藤大知さん(26)は「仮設住宅の規模や場所によって支援の届き方に格差が出ている。市中心部から離れた仮設住宅には支援が行き届かず、孤立している人が点在している」と訴える。
◆原発は違憲 心穏やかに生きる権利守れ
憲法は、少数の人権を守るため、多数に基づく民主的政治に時として縛りをかけるものです。今回の震災では二万人近い人が亡くなり、帰宅できない人は三十四万人を超える。
大変な被害ですが全人口からすれば少数です。厳しい言い方をすれば、ほとんどの国民にとっては「人ごと」。この事実を、まず直視しなければいけない。
被害者が多数なら、多数で物事を決める民主主義のルートで支援策を決めればいいのですが、今こそ少数者の権利を守る憲法が必要です。
幸福追求に対する権利を保障する一三条、健康で文化的な最低限度の生活を保障する二五条の訴えは切実です。
被災して人間らしい生活と程遠い生活を強いられている人たちは「すばらしい憲法があるのになぜ私たちは…」と歯がゆく思っているでしょう。
憲法は、一人一人が自分の権利を主張するのを認めている。被災者がそれぞれ違う権利を主張するのは、わがままではない。
みんなと違うことを言うと申し訳ないと感じるのは、間違いです。
憲法前文では「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とあります。「平和」とは単に戦争のない状態ではなく病気や飢餓、貧困や人権侵害、災害を含め、生活を脅かす脅威から免れて心穏やかに生きることができる、ということ。一三条はさらに生命の脅威を排除することも人権として保障しています。
その観点からみると原発は憲法違反だと考えます。放射能の危険にさらされないで生きたいという人権を、憲法は保障しています。憲法の平和主義の根幹は攻撃されない国をつくること。テロの標的になり得て、攻撃されれば原爆と同じようになるものを持つべきではない。核と原子力。英語ではどちらも「nuclear」なのに日本では使い分けてきたのです。
震災では、憲法が国民の血肉になっていないことが分かりました。「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」。前文の理想を具体化しなければなりません。憲法は、政治家に守らせる法。守らせるためには、国民も憲法の内容を知らなければなりません。
<いとう・まこと> 1958年生まれ、東京都出身。東大法学部卒、資格試験の受験指導校「伊藤塾」を主宰。憲法の理念を広げる活動にも取り組む。近著「憲法が教えてくれたこと」は女子高校生が主人公の小説仕立てで、中高生向けに憲法の価値を説いている。
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ユーロは第二次大恐慌の引き金か:三橋
2012-05-04
スペインの失業率が、ついに1933年大恐慌下のアメリカに並ぶ失業率となった。
サブプライムショック、リーマンショックによる不動産価格崩壊と信用恐慌、国家債務の増大は実体経済を破壊し続ける。
失業の増大は実体経済の縮小そのものを示す。
「恐慌」に他ならない。
米国も欧州も不動産価格崩壊と信用恐慌、国家債務の増大は同じであり、投資も需要も増えないために流動性供給は実体経済に及んでいない。
なんとか、ソフトランディングを引っ張っているだけだ。
共通通貨の恩恵をうける債権国ドイツ、オランダ、フランスは資産も実体経済も拡張を続けているが、被害国はギリシャ、スペインをはじめとして、国民経済が縮小循環(恐慌)を始めている。
ここに緊縮財政策を実施するとどうなるか。
スティグリッツやクルーグマンの言うとおり「自殺行為」となるだろう。
欧米への恐慌波及である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第二次大恐慌の引き金 5/3 三橋貴明 Klugから
2012年第1四半期のスペインの失業率が、24.4%に達した。スペインの雇用統計について、現在の集計方法が始まった1996年以来、最悪の値を更新したのである。
本連載でも頻繁に取り上げる、大恐慌下のアメリカが1933年に記録した失業率24.9%に、匹敵するほどに雇用環境が悪化しているわけだ。
ちなみに、大恐慌期のアメリカは「全土」の失業率が24.9%であり、農村部はそこまで酷くはなかった。
すなわち、逆に言えば都市部の雇用環境はより悪化していたわけで、何とは50%に近接したのである。
所得を得られないという点は同じだが、農村部は都市部ほど「失業」はしない。当時のアメリカの都市部では、労働者の半分が「所得を得られない」状況になっていたわけだ。
まさに、経済的なカタストロフィ状態に陥っていたといっても過言ではない。
高インフレ、あるいはハイパーインフレーションも、失業率が極端に上昇するデフレ深刻化や恐慌も、共に国民経済の「失敗」なのである。
理由は、インフレ率高騰も恐慌も、両方とも国民が「飢える」という同じ結果をもたらすためだ。
高インフレとは、需要に対し供給能力が全く足らず、インフレギャップが巨大化している状況である。
例えば、1946年ごろの日本がまさにそうだったわけだが、財やサービスの供給能力が需要に全く追い付かず、実際に当時の日本国民は飢えた。
46年の日本のインフレ率は360%を上回ったが、これは日本において「歴史上最も高いインフレ率」と考えられている。
基本的に平和が続き、国民が供給能力の蓄積を好む日本では、インフレ率はそう簡単には上がらない。
何しろ、明治初期に明治政府が政府紙幣(明治通宝など)を発行し、富国強兵に向けた政策を展開したにも関わらず、インフレ率は一桁で収まったほどだ。
46年の日本のインフレ率は、有史以来空前の高さと言っても過言ではないのである。
さて、国民経済の供給能力が極端に不足し、インフレ率が高騰している国においては、国民は物不足、サービス不足、最終的には「飢え」に苦しむ。
逆に、恐慌下では、財やサービスの生産能力は「余って」おり、実際に農村部に食料が溢れかえっているケースが多い。
それにも関わらず、デフレ深刻化で所得を得られない失業者が極端に増え、国民が高インフレ同様に飢えてしまうのだ。
何しろ、失業者は所得を得られないため、財やサービスを購入するお金がない。所得を得られないとは、やはり「飢え」に繋がってしまうのである。
現在のスペインは「供給能力の拡大」ではなく、「需要の極端な縮小」によりデフレギャップが発生している。需要の極端な縮小の原因は、バブル崩壊以外にない。
バブル崩壊後の国は、特に民間の「投資」が激減する。何しろ、「消費」はある程度は維持しなければ、国民が飢え死にしてしまうのに対し、投資は「先送り」が可能なのだ。
結果、現在のスペインは「低インフレ」の状態に陥っている。
労働者の四分の一近くが失業状態にあり、かつ若年層失業率は50%を超え、所得不足から「飢え」へと向かっている国民が少ないにも関わらず、いや、だからこそ物価が低迷しているのだ。
【図152-1 ユーロ圏及びイギリス、スイスのインフレ率(対前年比%)】

出典:ユーロスタット
図152-1の通り、現在のスペインのインフレ率は2%を下回っている。同国の物価上昇率の水準は、他のユーロ加盟国(ギリシャ除く)よりも低くなっているのである。
スペインやギリシャの物価上昇率が落ち込んでいるのは、別に両国の供給能力が高まったためではない。そうではなく、バブル崩壊により需要が急収縮しているために、物価上昇率が低迷していっているのだ。
日本の例を見るまでもなく、健全な価格競争により物価が下落したのではなく、「バブル崩壊後の需要の縮小」によりインフレ率が落ち込む国においては、企業経営がひたすら厳しくなっていく。
企業の業績が悪化すると、当然ながら人員削減が行われ、失業率が上昇していく。
フィリップス曲線からも分かる通り、失業率の改善には、ある程度のインフレ率が欠かせないのだ。ところが、現在のギリシャやスペインはインフレ率を上昇させる政策を採ることを「許されておらず」、このままではスイスや日本同様に深刻なデフレ局面を迎えることになり、失業率はアメリカ大恐慌期を上回ることになるだろう。
ちなみに、2012年のギリシャの物価上昇率は、最終的にはマイナスになると予想されている。このままでは、スペインも同じ道を辿ることになるだろう。
デフレ期のオーソドックスな対策は、「国債発行+財政出動+通貨発行(国債買取)」のパッケージである。中央銀行が国債を買い取り、通貨を発行しつつ、政府がそのお金を「雇用」が生まれるように使うのだ。
雇用の創出とは、すなわち付加価値(GDP)の発生だ。政府が中央銀行に発行させた通貨を国債で吸い上げ、雇用創出のために使えば、国内の需要を意味する名目GDPが成長する。すなわち、物価下落の主因であるデフレギャップを埋められる。
しかも、日本やスイスのように「健全な資本主義国」がデフレに落ち込むと、長期金利は低迷する。本稿執筆時点で、日本の長期金利(新規発行十年物国債金利)は0.9%、スイスが何と0.71%だ。
日本政府やスイス政府は「超低迷」した長期金利を活用し、自国内の需要を政府主導で拡大していけばいいのである。政府が有効需要となる支出を増やせば、間違いなく雇用環境が改善し、企業の投資も復活する。
日本やスイスの長期金利が超低迷している理由は、両国共に経常収支黒字国かつ自国通貨国であるためだ。経常収支黒字国とは、すなわち国内が過剰貯蓄状態にあることを意味している。
そして、この「過剰貯蓄」は、日本の場合は日本円、スイスの場合はスイス・フランだ。銀行に次々と「預けられる」預金(実際には銀行の借金)は、それぞれ日本円、スイス・フランなのである。
日本円やスイス・フランを預けられた両国の銀行は、懸命に投資先を探し求める。ところが、デフレで需要が収縮している時期に、企業は融資を増やそうとしない。
また、デフレで経営状況が悪化した企業には、銀行側の与信が通らない。
結果、両国の銀行は結局は「日本国債」あるいは「スイス国債」を購入するしかないのだ。日本やスイスの場合、実は過剰貯蓄に悩む銀行側に、お金を貸し出す際の「選択肢」がない。
日本で言えば、日本企業や家計が銀行に貯まった「日本円」を借りてくれない場合、最終的には国債を買うしかなくなるのだ。
何しろ、日本円は日本国内でしか流通しておらず、外国に借り手はほとんどいない。
それに対し、スペインやギリシャはユーロ加盟国であり、中央銀行の機能をECB(欧州中央銀行)に委譲している。ユーロ圏内で過剰貯蓄を抱えた金融機関は、別にスペインやギリシャにお金を貸し出す義務はない。
手元のユーロを、経常収支黒字国で国債の信用も高いドイツやオランダに貸し付ければ(ドイツ国債やオランダ国債を買う)、それで話が済んでしまうのだ。
すなわち、ユーロ圏の金融機関と国債の関係を見ると、「貸し手側」に選択肢があるということになる。
スペイン政府がユーロ圏の金融機関からお金を借りる際には、ドイツ政府やギリシャ政府などと「競争」しなければならないわけだ。
しかも、スペインやギリシャは経常収支赤字国だ。
経常収支赤字国は国内が過小貯蓄状態であるため、そもそも不動産バブルなどは発生しない「はず」だ。ところが、ユーロに加盟したことで為替レートの変動が消滅し、ユーロ加盟国から高い金利を求めるお金(ユーロ)がスペインやギリシャに流れ込み、バブルを膨張させ、ギリシャの場合は財政赤字をひたすら拡大していったわけだ。
結果的に、バブル崩壊後にギリシャやスペインがお金を返す相手は「外国の金融機関」という話になり、長期金利が高騰していった。
繰り返しになるが、ユーロを保有する金融機関は、日本の銀行とは異なり「借り手」を選ぶことが出来る。
すなわち、ギリシャやスペインは、日本やスイスとは異なり「国債発行+財政出動+通貨発行(国債買取)」という正しいデフレ対策を採れないわけだ。
そもそも、ユーロ加盟国は金融政策についてECBに委譲しているため、独自の政策としてユーロを発行する(自国国債を買い取る)ことすら不可能なのである。
しかも、ギリシャやスペインにお金を貸していた国際金融市場は、両国(両国のみではないが)に緊縮財政を要求し、名目GDPを縮小させ、税収を減らし、財政問題を悪化させていっている。
そこに、ユーロの盟主たるドイツの「財政均衡至上主義」が加わり、ユーロ加盟国は「財政均衡の憲法化」という、冗談のような政策を採らされようとしている有様だ。
バブル崩壊後に民間の投資縮小で国内の需要が減少している最中に、政府までもが公共投資削減などの緊縮財政を実施すると、その国はデフレ化し、恐慌へと向かうことになる。
バブル崩壊後の政府による緊縮財政は、日本の例を見るまでもなく「経済的自殺行為」なのである。
『2012年4月26日 ブルームバーグ紙「スティグリッツ教授:欧州の緊縮策は「自殺」への処方箋」
ノーベル経済学賞受賞者で米コロンビア大学教授のジョゼフ・スティグリッツ氏は、欧州大陸は緊縮策に重点的に取り組むことで「自殺」に向かっており、「悲惨な」状況にあると指摘した。
スティグリッツ氏(69)は26日にウィーンで記者団に対し、「いかなる大国でもこれまでに緊縮プログラムが成功したケースはない」と述べ、「欧州のアプローチは間違いなく成功の見込みが最も薄いものだ。欧州は自殺に向かっていると思う」と語った。
欧州連合(EU)27カ国はソブリン債危機の中で総額4500億ユーロ(約48兆円)の緊縮措置を実行している。一方で各国政府が財政赤字の穴埋めや財政危機に陥る他の加盟国の救済資金拠出で借り入れを増やしたことから、ユーロ圏全体の債務は昨年、単一通貨導入以降で最高水準に達した。
スティグリッツ氏はギリシャが欧州で緊縮策を導入している一部にすぎないなら当局は無視でき得ると述べた上で、「だが英国やフランスなどの国が緊縮策を取れば、共同で緊縮策を講じるようなものであり、それに伴う経済的な影響は悲惨なものになろう」と予想。同氏はまた、ユーロ圏首脳は「緊縮策それ自体では機能せず、経済成長が必要であることを理解している」ものの何の行動も伴っていないとし、昨年12月に実行に合意したのはユーロの死を確実にする処方箋だと述べた。』
スティグリッツ教授の言う通り、デフレ局面で緊縮プログラムに成功した国はない。現在のスペインやギリシャが加盟国や国際機関(IMFなど)から緊縮財政を強要されているのは、まさしく恐慌への道を目隠ししたまま歩かされているようなものだ。
実際、ユーロで財政危機に陥った国々は、08年以降にひたすら緊縮財政を実施しているわけだがが、ユーロ圏全体の債務(政府の負債)は増えていっている。
デフレ下の緊縮財政が名目GDPを押し下げ、税収を抑制する以上、当たり前だ。名目GDPを健全な成長に戻し、税収を「成長により」増加させることを考えなければ、ユーロ加盟国の財政は延々と悪化していくことになる。
バブル崩壊後のデフレ期に、政府が緊縮財政を実施しても、財政が改善することはない。理由は明々白々で、緊縮財政が名目GDPを抑制し、さらに税収の源が名目GDPであるためだ。
税収が減っていく国に置いて「財政を改善ずる」などという奇跡は、現実には起きない。そんなことは、97年以降の日本の例を見れば、誰でも理解できるはずである。
4月30日、ILO(国際労働機関)は、財政危機に揺れるヨーロッパを中心とした先進国の「緊縮財政」が、雇用の回復に悪影響を及ぼすとして警鐘を鳴らした。
ILOによると、2011年時点で、先進国の求職者の約40%が1年以上も職がない状態が続き、失業期間の長期化が目立っているという。
各国の緊縮財政で失業率が上昇すると、当然ながら名目GDPの消費という「需要」が減る。企業の投資(やはり需要)も減る。
そもそも緊縮財政とは、政府支出という需要項目を削減する行為であるわけだが、それが民間にも波及し、スパイラル的な需要収縮に突入してしまう。
需要が縮小すれば、デフレギャップが拡大し、企業はさらなるリストラクチャリングに励むことになる。すなわち、失業率が上昇する。失業率が上昇すると・・・と、需要と雇用、そして国民所得が急収縮していく状況を、正に恐慌と呼ぶのだ。
日本を含めた先進国の政府は、早急に現時点で優先されるべき政策が何かを理解しなければならない。すなわち、政府支出拡大により「需要」「雇用」そして「所得」を増やすことだ。
財政健全化など、名目GDPが堅調に成長していく局面に入れば、放っておいても実現できる。
上記の「マインドの切り替え」が行われない場合、世界は冗談でも何でもなく「第二次大恐慌」に突入しかねない。そして、現時点で最も「大恐慌」の引き金を引く可能性が高い地域が、ユーロ圏なのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
このブログ内での、ユーロの基本的で致命的な欠陥とリーマンショック以来の二極化の危機についての、関連記事リンクです。
・ 通貨、金利と信用創造の特殊な性質
・ 欧州の財政危機」
・ ユーロは夢の終わりか
・ ヨーロッパの危機
・ 動けなくなってきたユーロ」
・ ギリシャを解体、山分けする国際金融資本
・ 過剰信用と恐慌、焼け太る国際金融資本「家」
・ ユーロは凋落、デフレと円高は悪化へ
・ ユーロの危機は労働階級を試練にさらす
・ ギリシャの危機拡大はEUの危機!
・ 公平な分配で経済成長を続けるアルゼンチン
・ アイスランドの教訓:銀行は破綻させよ
・ ギリシャ、イタリアでIMF、EU抗議の大デモ
・ 破滅するユーロか、破滅する国家か
・ 欧州直接統治へ進む国際金融資本
・ ユーロは国民国家を解体するか
・ アイスランドの教訓、ギリシャはドラクマに戻せ
・ ユーロは崩壊か分裂か
・ 動乱の2012年
・ 通貨戦争(46)ドル、ユーロ、円
・ ヨーロッパは恐慌に向かっている
・ ユーロ危機で延命するドル・ 通貨戦争(48)分裂に向かうユーロ
・ 緊迫するユーロ、ギリシャは何処へ向かうか
・ IMF、EU、メルケルと闘うギリシャ
・ ギリシャ、抗議の暴動
・ 資産も主権も国際資本に奪われるギリシャ
・ ギリシャは民主主義を守るためにデフォルトを!
・ ユーロが襲うギリシャの社会危機、政治危機
・ 毒饅頭を食わされたギリシャ
・ 何も改善しないEU新財政協定
・ ユーロの悲劇:三橋
・ 通貨戦争(51)ユーロ分裂に備え始めた欧州
・ ヨーロッパは底なしの危機、27の指標
・ 通貨戦争(54)債務国から巨額の資金流出
サブプライムショック、リーマンショックによる不動産価格崩壊と信用恐慌、国家債務の増大は実体経済を破壊し続ける。
失業の増大は実体経済の縮小そのものを示す。
「恐慌」に他ならない。
米国も欧州も不動産価格崩壊と信用恐慌、国家債務の増大は同じであり、投資も需要も増えないために流動性供給は実体経済に及んでいない。
なんとか、ソフトランディングを引っ張っているだけだ。
共通通貨の恩恵をうける債権国ドイツ、オランダ、フランスは資産も実体経済も拡張を続けているが、被害国はギリシャ、スペインをはじめとして、国民経済が縮小循環(恐慌)を始めている。
ここに緊縮財政策を実施するとどうなるか。
スティグリッツやクルーグマンの言うとおり「自殺行為」となるだろう。
欧米への恐慌波及である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第二次大恐慌の引き金 5/3 三橋貴明 Klugから
2012年第1四半期のスペインの失業率が、24.4%に達した。スペインの雇用統計について、現在の集計方法が始まった1996年以来、最悪の値を更新したのである。
本連載でも頻繁に取り上げる、大恐慌下のアメリカが1933年に記録した失業率24.9%に、匹敵するほどに雇用環境が悪化しているわけだ。
ちなみに、大恐慌期のアメリカは「全土」の失業率が24.9%であり、農村部はそこまで酷くはなかった。
すなわち、逆に言えば都市部の雇用環境はより悪化していたわけで、何とは50%に近接したのである。
所得を得られないという点は同じだが、農村部は都市部ほど「失業」はしない。当時のアメリカの都市部では、労働者の半分が「所得を得られない」状況になっていたわけだ。
まさに、経済的なカタストロフィ状態に陥っていたといっても過言ではない。
高インフレ、あるいはハイパーインフレーションも、失業率が極端に上昇するデフレ深刻化や恐慌も、共に国民経済の「失敗」なのである。
理由は、インフレ率高騰も恐慌も、両方とも国民が「飢える」という同じ結果をもたらすためだ。
高インフレとは、需要に対し供給能力が全く足らず、インフレギャップが巨大化している状況である。
例えば、1946年ごろの日本がまさにそうだったわけだが、財やサービスの供給能力が需要に全く追い付かず、実際に当時の日本国民は飢えた。
46年の日本のインフレ率は360%を上回ったが、これは日本において「歴史上最も高いインフレ率」と考えられている。
基本的に平和が続き、国民が供給能力の蓄積を好む日本では、インフレ率はそう簡単には上がらない。
何しろ、明治初期に明治政府が政府紙幣(明治通宝など)を発行し、富国強兵に向けた政策を展開したにも関わらず、インフレ率は一桁で収まったほどだ。
46年の日本のインフレ率は、有史以来空前の高さと言っても過言ではないのである。
さて、国民経済の供給能力が極端に不足し、インフレ率が高騰している国においては、国民は物不足、サービス不足、最終的には「飢え」に苦しむ。
逆に、恐慌下では、財やサービスの生産能力は「余って」おり、実際に農村部に食料が溢れかえっているケースが多い。
それにも関わらず、デフレ深刻化で所得を得られない失業者が極端に増え、国民が高インフレ同様に飢えてしまうのだ。
何しろ、失業者は所得を得られないため、財やサービスを購入するお金がない。所得を得られないとは、やはり「飢え」に繋がってしまうのである。
現在のスペインは「供給能力の拡大」ではなく、「需要の極端な縮小」によりデフレギャップが発生している。需要の極端な縮小の原因は、バブル崩壊以外にない。
バブル崩壊後の国は、特に民間の「投資」が激減する。何しろ、「消費」はある程度は維持しなければ、国民が飢え死にしてしまうのに対し、投資は「先送り」が可能なのだ。
結果、現在のスペインは「低インフレ」の状態に陥っている。
労働者の四分の一近くが失業状態にあり、かつ若年層失業率は50%を超え、所得不足から「飢え」へと向かっている国民が少ないにも関わらず、いや、だからこそ物価が低迷しているのだ。
【図152-1 ユーロ圏及びイギリス、スイスのインフレ率(対前年比%)】

出典:ユーロスタット
図152-1の通り、現在のスペインのインフレ率は2%を下回っている。同国の物価上昇率の水準は、他のユーロ加盟国(ギリシャ除く)よりも低くなっているのである。
スペインやギリシャの物価上昇率が落ち込んでいるのは、別に両国の供給能力が高まったためではない。そうではなく、バブル崩壊により需要が急収縮しているために、物価上昇率が低迷していっているのだ。
日本の例を見るまでもなく、健全な価格競争により物価が下落したのではなく、「バブル崩壊後の需要の縮小」によりインフレ率が落ち込む国においては、企業経営がひたすら厳しくなっていく。
企業の業績が悪化すると、当然ながら人員削減が行われ、失業率が上昇していく。
フィリップス曲線からも分かる通り、失業率の改善には、ある程度のインフレ率が欠かせないのだ。ところが、現在のギリシャやスペインはインフレ率を上昇させる政策を採ることを「許されておらず」、このままではスイスや日本同様に深刻なデフレ局面を迎えることになり、失業率はアメリカ大恐慌期を上回ることになるだろう。
ちなみに、2012年のギリシャの物価上昇率は、最終的にはマイナスになると予想されている。このままでは、スペインも同じ道を辿ることになるだろう。
デフレ期のオーソドックスな対策は、「国債発行+財政出動+通貨発行(国債買取)」のパッケージである。中央銀行が国債を買い取り、通貨を発行しつつ、政府がそのお金を「雇用」が生まれるように使うのだ。
雇用の創出とは、すなわち付加価値(GDP)の発生だ。政府が中央銀行に発行させた通貨を国債で吸い上げ、雇用創出のために使えば、国内の需要を意味する名目GDPが成長する。すなわち、物価下落の主因であるデフレギャップを埋められる。
しかも、日本やスイスのように「健全な資本主義国」がデフレに落ち込むと、長期金利は低迷する。本稿執筆時点で、日本の長期金利(新規発行十年物国債金利)は0.9%、スイスが何と0.71%だ。
日本政府やスイス政府は「超低迷」した長期金利を活用し、自国内の需要を政府主導で拡大していけばいいのである。政府が有効需要となる支出を増やせば、間違いなく雇用環境が改善し、企業の投資も復活する。
日本やスイスの長期金利が超低迷している理由は、両国共に経常収支黒字国かつ自国通貨国であるためだ。経常収支黒字国とは、すなわち国内が過剰貯蓄状態にあることを意味している。
そして、この「過剰貯蓄」は、日本の場合は日本円、スイスの場合はスイス・フランだ。銀行に次々と「預けられる」預金(実際には銀行の借金)は、それぞれ日本円、スイス・フランなのである。
日本円やスイス・フランを預けられた両国の銀行は、懸命に投資先を探し求める。ところが、デフレで需要が収縮している時期に、企業は融資を増やそうとしない。
また、デフレで経営状況が悪化した企業には、銀行側の与信が通らない。
結果、両国の銀行は結局は「日本国債」あるいは「スイス国債」を購入するしかないのだ。日本やスイスの場合、実は過剰貯蓄に悩む銀行側に、お金を貸し出す際の「選択肢」がない。
日本で言えば、日本企業や家計が銀行に貯まった「日本円」を借りてくれない場合、最終的には国債を買うしかなくなるのだ。
何しろ、日本円は日本国内でしか流通しておらず、外国に借り手はほとんどいない。
それに対し、スペインやギリシャはユーロ加盟国であり、中央銀行の機能をECB(欧州中央銀行)に委譲している。ユーロ圏内で過剰貯蓄を抱えた金融機関は、別にスペインやギリシャにお金を貸し出す義務はない。
手元のユーロを、経常収支黒字国で国債の信用も高いドイツやオランダに貸し付ければ(ドイツ国債やオランダ国債を買う)、それで話が済んでしまうのだ。
すなわち、ユーロ圏の金融機関と国債の関係を見ると、「貸し手側」に選択肢があるということになる。
スペイン政府がユーロ圏の金融機関からお金を借りる際には、ドイツ政府やギリシャ政府などと「競争」しなければならないわけだ。
しかも、スペインやギリシャは経常収支赤字国だ。
経常収支赤字国は国内が過小貯蓄状態であるため、そもそも不動産バブルなどは発生しない「はず」だ。ところが、ユーロに加盟したことで為替レートの変動が消滅し、ユーロ加盟国から高い金利を求めるお金(ユーロ)がスペインやギリシャに流れ込み、バブルを膨張させ、ギリシャの場合は財政赤字をひたすら拡大していったわけだ。
結果的に、バブル崩壊後にギリシャやスペインがお金を返す相手は「外国の金融機関」という話になり、長期金利が高騰していった。
繰り返しになるが、ユーロを保有する金融機関は、日本の銀行とは異なり「借り手」を選ぶことが出来る。
すなわち、ギリシャやスペインは、日本やスイスとは異なり「国債発行+財政出動+通貨発行(国債買取)」という正しいデフレ対策を採れないわけだ。
そもそも、ユーロ加盟国は金融政策についてECBに委譲しているため、独自の政策としてユーロを発行する(自国国債を買い取る)ことすら不可能なのである。
しかも、ギリシャやスペインにお金を貸していた国際金融市場は、両国(両国のみではないが)に緊縮財政を要求し、名目GDPを縮小させ、税収を減らし、財政問題を悪化させていっている。
そこに、ユーロの盟主たるドイツの「財政均衡至上主義」が加わり、ユーロ加盟国は「財政均衡の憲法化」という、冗談のような政策を採らされようとしている有様だ。
バブル崩壊後に民間の投資縮小で国内の需要が減少している最中に、政府までもが公共投資削減などの緊縮財政を実施すると、その国はデフレ化し、恐慌へと向かうことになる。
バブル崩壊後の政府による緊縮財政は、日本の例を見るまでもなく「経済的自殺行為」なのである。
『2012年4月26日 ブルームバーグ紙「スティグリッツ教授:欧州の緊縮策は「自殺」への処方箋」
ノーベル経済学賞受賞者で米コロンビア大学教授のジョゼフ・スティグリッツ氏は、欧州大陸は緊縮策に重点的に取り組むことで「自殺」に向かっており、「悲惨な」状況にあると指摘した。
スティグリッツ氏(69)は26日にウィーンで記者団に対し、「いかなる大国でもこれまでに緊縮プログラムが成功したケースはない」と述べ、「欧州のアプローチは間違いなく成功の見込みが最も薄いものだ。欧州は自殺に向かっていると思う」と語った。
欧州連合(EU)27カ国はソブリン債危機の中で総額4500億ユーロ(約48兆円)の緊縮措置を実行している。一方で各国政府が財政赤字の穴埋めや財政危機に陥る他の加盟国の救済資金拠出で借り入れを増やしたことから、ユーロ圏全体の債務は昨年、単一通貨導入以降で最高水準に達した。
スティグリッツ氏はギリシャが欧州で緊縮策を導入している一部にすぎないなら当局は無視でき得ると述べた上で、「だが英国やフランスなどの国が緊縮策を取れば、共同で緊縮策を講じるようなものであり、それに伴う経済的な影響は悲惨なものになろう」と予想。同氏はまた、ユーロ圏首脳は「緊縮策それ自体では機能せず、経済成長が必要であることを理解している」ものの何の行動も伴っていないとし、昨年12月に実行に合意したのはユーロの死を確実にする処方箋だと述べた。』
スティグリッツ教授の言う通り、デフレ局面で緊縮プログラムに成功した国はない。現在のスペインやギリシャが加盟国や国際機関(IMFなど)から緊縮財政を強要されているのは、まさしく恐慌への道を目隠ししたまま歩かされているようなものだ。
実際、ユーロで財政危機に陥った国々は、08年以降にひたすら緊縮財政を実施しているわけだがが、ユーロ圏全体の債務(政府の負債)は増えていっている。
デフレ下の緊縮財政が名目GDPを押し下げ、税収を抑制する以上、当たり前だ。名目GDPを健全な成長に戻し、税収を「成長により」増加させることを考えなければ、ユーロ加盟国の財政は延々と悪化していくことになる。
バブル崩壊後のデフレ期に、政府が緊縮財政を実施しても、財政が改善することはない。理由は明々白々で、緊縮財政が名目GDPを抑制し、さらに税収の源が名目GDPであるためだ。
税収が減っていく国に置いて「財政を改善ずる」などという奇跡は、現実には起きない。そんなことは、97年以降の日本の例を見れば、誰でも理解できるはずである。
4月30日、ILO(国際労働機関)は、財政危機に揺れるヨーロッパを中心とした先進国の「緊縮財政」が、雇用の回復に悪影響を及ぼすとして警鐘を鳴らした。
ILOによると、2011年時点で、先進国の求職者の約40%が1年以上も職がない状態が続き、失業期間の長期化が目立っているという。
各国の緊縮財政で失業率が上昇すると、当然ながら名目GDPの消費という「需要」が減る。企業の投資(やはり需要)も減る。
そもそも緊縮財政とは、政府支出という需要項目を削減する行為であるわけだが、それが民間にも波及し、スパイラル的な需要収縮に突入してしまう。
需要が縮小すれば、デフレギャップが拡大し、企業はさらなるリストラクチャリングに励むことになる。すなわち、失業率が上昇する。失業率が上昇すると・・・と、需要と雇用、そして国民所得が急収縮していく状況を、正に恐慌と呼ぶのだ。
日本を含めた先進国の政府は、早急に現時点で優先されるべき政策が何かを理解しなければならない。すなわち、政府支出拡大により「需要」「雇用」そして「所得」を増やすことだ。
財政健全化など、名目GDPが堅調に成長していく局面に入れば、放っておいても実現できる。
上記の「マインドの切り替え」が行われない場合、世界は冗談でも何でもなく「第二次大恐慌」に突入しかねない。そして、現時点で最も「大恐慌」の引き金を引く可能性が高い地域が、ユーロ圏なのだ。
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