fc2ブログ

もうすぐ北風が強くなる

藤原、本澤対談:松下塾政権(2)

 ナチス・ドイツの降伏後のドイツ情報機関と宣伝要員が米国に移住し、冷戦開始に向けた米国情報機関の再編設立に加わったことは良く知られている。
 極右反共の思想宣伝と情報収集操作である。
 その系譜を引き継ぐ「松下政経塾」政権は、国民が考える普通の政治、政府ではない。

 小沢、鳩山の追い落としと政権乗っ取り。原発事故対応の異様さ。行政課題を放置して、米国の望む瓦礫、消費増税、TPPへの異常な執拗さ。
 そして、次々と奇妙な人物が現れる。

 関連ページ「藤原、本澤対談:松下塾政権とは何者か」、「藤原肇氏と初対談:本澤」、「「松下政経塾」とは、何者なのか」、「藤原、本澤:松下塾と米国、原発、政治」。
 ーーーーーーーーーーーーーーーーー
CIAに喰われた野田政経塾内閣に日本は潰される!     紙の爆弾2012年4月号
暴走する”松下ホモ人脈”

藤原肇(フリーランス・ジャーナリスト、慧智研究所長)
本澤二郎(政治評論家、元『東京タイムス』政治部長)

  野田政権の根っこはCIAとホモ

 - 今回は、厳しい政権批判を続けてきた二人のジャーナリストに現政権の問題を指摘していただきたいと思っています。
 まずは、『平成幕末のダイアグノシス』(東明社)という衝撃作を世に問うた藤原肇さんです。日本の政治と裏社会の実態を知りたいなら、従来の「暴力団、同和、半島」の三要素では不十分、これに「ホモ人脈」があり、CIAが対日工作するとき、この「ホモ人脈」が動いて政界・財界を動かしているという内容は、ショッキングでした。

藤原 日本では異常に見える新奇な仮説が、世界では常識であることが多い。その一例が政治や諜報の世界におけるホモ人脈の問題です。
 英国のMI6とKGBの争いをはじめ、CIAが使う脅迫の道具として、ホモ問題が活用されてきたのはインテリジェンスの世界では常識ですね。それが中曽根政治の背景だったし、リクルート事件でもホモ恐喝があったではないか、というのが『平成幕末のダイアグノシス』の執筆動機でした。九五年発行で、残念ながら絶版になっていますが。

 - それで野田政権も?

藤原 ええ。政経塾出身の野田政権も根っこになるのは、CIAコネクションとホモです。金権政治ならぬ「ホモ政権」。野田政権誕生で、日本の運命は大きく変わりそうです。

 - 本澤二郎さんは菅直人内閣発足直後に 「ハッキリ言って、管直人には人格に問題がある。そういう男が権力を持つと権力を維持するために何をやるかわからない」と糾弾し、その後の3・11で見せた狂気の政権を、いち早く「予言」しました。その本澤さんが、強く懸念を感じているのが「松下政経塾」の存在です。

本澤 まず政経塾の思想や政治教育は、皇国史観に基づく超国家主義ということを理解しないといけません。それ以上に問題なのは、母体となった松下電器の巨大な広告費です。松下財閥の広告費の魅力に抵抗できるメディアが日本にはない。
 結果、日本の大手マスコミは政経塾政権の危険性について批判することもなければ、批判的な見解を持つ人の意見も記事にしないし、日本がいかに狂っているかも報道しません。 松下(現パナソニック)、トヨタ、東電の広告御三家が日本を支配し、大本営発表で国民を編し続けてきたから、日本は再び亡国の危機に見舞われているのです。

 - 一〇年度の広告費でいえば、第一位がトヨタで一〇五六億円、二位がパナソニックで八三一億円、東京電力は単体では二八六億円で十八位ですが、電力グループ全体では八五人億円、原発のPRを担当する電事連を含めれば一千億円を突破します。トヨタや東電は献金や選挙支援で政界工作をしていたが、パナソニックは子飼いを政権の座につけた。それは何を意味するのでしょうか。

本澤 一例を挙げれば、小沢潰しのキャンペーン。これは巨大な宣伝広告費によって懐柔されたマスコミが、"マスゴミ"になり果てた証拠。御三家の巨大な広告費に中毒したメディアは口を閉ざし、その結果、出現したのが「政経塾政権」です。こんなひどい超国家主義を前面に掲げ、皇国史観を信奉する反動政権が登場したのは、明らかにメディアの批判精神の欠如が原因です。

 - 莫大な広告費で絶対にメディアから批判されない政権。なるほど、やりたい放題になる可能性は高いですね。

藤原 政経塾第一期生の野田が首相になり、ファシスト的な思想で政治を動かすという点。これは、中曽根内閣以来三〇年ぶりといってよく、超国家主義路線が日本に君臨したことになる。本澤さんが「予言」した通り、無能を露呈した菅内閣は、ぶざまな迷走と醜態を曝けだして自滅し、ドサクサのなかで野田内閣が登場したわけですが、これは「羊の皮を被った狼」内閣です。

本澤 「ドジョウ内閣」を自称しても、野田首相はA級戦犯の存在を否定し、大東亜共栄圏の復活を目指す点で、財界の操り人形にすぎないですからね。なにより、組閣の前に財界を表敬訪問している。

藤原 首相がそんな恥知らずなことをすれば、財界が日本国の主人公だと言い切るのと同じ。主権在民など吹き飛んでしまう。

本澤 そんな体たらくが政経塾政権の実態。その財界がアメリカ追従をしているから、日本政府が米国に隷属することになる。しかも、それを批判するメディアがない。本当に情けない国になってしまった。さらに隷属だけでなく、ナチス思想までアメリカの手で教え込まれている。日本の社会は破壊されつくしてしまい、亡国する以外に選択はなくなります。

藤原 政経塾政権によるナチス化が進めば、日本は全体主義に向けて邁進、マスメディアは翼賛体制化しますから、中曽根が実現できなかったファシスト革命が、放射能汚染の日本列島を制圧します。

本澤 そうなると救い難い地獄絵になる。

  CIAに操られる日本は「属国」以下の「属領」

 - やはり政経塾内陶は、アメリカによる対日工作、TPP(環太平洋戦略的経連携協定)を含めた経済植民地化のためにでっち上げられたのでしょうか。

本澤 政経塾OBの政治家には、地方自治体の首長が多い。民主党と自民党にも送り込まれで、日本の政治を動かしているんです。米国に送られて洗脳された者が多く、その洗脳の機関がジョージタウン大学のCSIS(戦略国際問題研究所)。
 そこは米国におけるナチスの地政学の砦です。また、京セラの稲盛財団が資金を提供し、イエズス会が支配しているという事実を知り、これには唖然としました。

 - CSISは小泉純一郎の次男の小泉進次郎をはじめ、浜田和幸などが籍を置いたことでも有名です。表向きは国際的な公共政策の研究所だが、実質はアメリカ軍のシンクタンクでイスラエルに兵器を供給し、中東戦争によって石油価格を高騰させる、石油王ロックフェラーのための石油価格コントロールセンターとも噂されます。

藤原 CSISの日本部長がマイケル・グリーンで、彼に育てられたのが小泉進次郎ということだけで、どんな組織か一発でわかる。ほかにも米軍の立川基地の防人として、CSISで訓練された長島昭久がいる。彼は自民党の石原伸晃の秘書をやって渡米し、SAIS(ジョンズホプキンズ大学高等国際問題研究大学院)ではプレジンスキー教授のゼミで仕込まれ、防衛省の政務官を経て野田の首相補佐官です。
 民主党の最高顧問・渡部恒三の息子の渡部恒雄は、CSISに陣取って東京に指令を出し、それを受けて内閣では政経塾OBの玄葉光一郎(外相)や長浜博行(官房副長官)が動く。
 また、民主党の要職は前原誠司(政調会長)や樽床伸二(幹事長代行)が受け持ち、対米従属の政治を推進しています。
 もちろんCSISの背後にはCIAがいて、日本の政治を取り仕切っている。日本政府がワシントン政府に追従するなら属国と呼んでも間違っていないが、政府の下部機関のCIAに操られる以上は、私は属領と呼ぶしかないと考えます。

 - たしかに、CSISを設立したデイビッド・M・アブシャイア(博士)と稲盛和夫は「アブシャイア・イナモリ・リーダーシップアカデミー」をCSIS内に作った。稲森は、生前から松下幸之助と昵懇で政経塾の世話人となってきた。その稲森が典型的な「ジャパン・ハンドラー」であるCSISに、政経塾メンバーを送り込むという構図ですね。

本澤 政経塾は民主、自民にのみに塾生を送り込んでいると思っでいましたが、すでにみんなの党にも潜り込んでいます。

 -衆参合わせて自民が六名±三名、民主が二五名±二名、首長が二名ですが、これにみんなの党も加わっている、と。

本澤 一〇年の参院選で当選した江口克彦なる人物です。彼は、なぜか、みんなの党の最高顧問となっています。そして江口は松下幸之助の側近中の側近。江口は松下の意向を受けで、松下政経塾の司令塔であるPHP研究所の社長になっでコントロールしていたんです。
 その人物が最高位に就任している以上、「みんなの党」は松下政経塾政権の別働隊と分析できる。人気上昇中のみんなの党にも、すでに唾を付けでいたわけですよ。

 - 「みんなの党」の資金源は何なのか、疑問視されていましたが、江口を通じて松下財閥である可能性が高い、と。根っこは政経塾政権と一緒となります。

本澤 すでに危険な兆候は現れています。野田政権は、日本の農漁業や福祉・医療に大打撃を与えるとみられているTPPについて菅内閣同様に熱心です。いうなれば売国政治。まったく酷い状況です。

  内閣調査室にコントロールされた「文藝春秋」

 - それでもマスコミは広告費というアメで政経塾内閣を批判できない。TPPにせよ、パナソニックとトヨタは大賛成ですからね。

藤原 その件の背後に電通と三宝会があります。三宝会の存在を世に知らしめた平野貞夫元参議院議員との対談で知ったことなんですが、やはり中曽根内閣によるバブル経済時代に、財界によってすでに準備が始まっていたそうです。
 しかも中曽根はCIAと結んで日本の核装備のために、原発の建設を財界とともに推進して、現在の破局の基盤作りをしていたんだし、それに協力したのがマスコミという構図です。

 - 平野貞夫氏の著書『平成政治20年史』によれば、この三宝会は竹下登元首相の指示で九六年に設立された。新開、テレビ、週刊誌、政治家、官僚、評論家が集まって、自民党にとっで最大の脅威だった小沢一郎をメディアの力で抹殺する作戦が展開された。最高顧問は竹下登、世話人が高橋利行(読売新聞世論調査部長)、後藤謙次(共同通信 編集委員)、芹川洋一(日本経済新開政治部次長)、佐田正樹(朝日新開電子電波メディア局局長付)、湯浅正巳(選択出版)などが実名で出ている(肩書きはすべて当時)。いま現在は、共同通信、ホリプロ、朝日、毎日、読売、日経、TBS、日テレ、フジ、テレ朝、講談社、文春、プレジデント、選択、朝日出版社が会員だというから、狙われたら抹殺されるでしょうね。

藤原 私の読者に松橋息光さんという、警視総監に次ぐ警視監をやっている人がいて、その彼の警備局時代のエピソードが面白かった。松橋さんの上司の川島という人物が、何かトラブルがあると「田中を呼べ、田中を呼べ」と命令するそうなんですよ。 その田中というのは、文藝春秋の田中健五、当時の文藝春秋の取材記者ですよ。

 - 田中健五は「諸君!」初代編集長で文春タカ派路線の生みの親でしたね。

藤原 右翼の日本文化会議の機関誌が、内閣調査室の資金で文藝春秋から出て、保守的な言論活動を展開したわけですよ。

本澤 あっておかしくない話です。

藤原 田中健五は「諸君-!」から「文藝春秋」の編集長を経て、その後は社長にと出世していくわけですが、大量の政府広報が記事のスタイルで、政府の機密費として文藝春秋に流れたことは、誌面を占めた政府提供記事で明白です。

本澤 読売新聞オーナーで、日本初のテレビ局を作り、中曽根とともに原発を推進した正力松太郎社長は、CIAのスパイになって「ポドム」という暗号名まで持っていた。 文藝春秋とともに読売はけしからんメディアだとわかる。
 警察官僚で内調出身の川島広守は内閣官房副長官を経て、巨人の代弁者としてセントラル・リーグの会長に就任した。 CIAのスパイだった正力松太郎や、読売ジャイアンツとの関係で、野球は警察利権。CIAの管轄下にあるのだそうです。

藤原 正カの右腕として米国と読売を結び、正カをCIAのスパイにする役目を果たした柴田秀利の『戦後マスコミ回遊記』を読めば、そういった野球の役割についてよくわかる。その延長線上に長嶋と中曽根の関係が奇妙な形で浮かび上がってくるし、さらにCIAとホモ人脈が絡んでくる。

本澤 そのCIAですが、日本人はなかなか、その存在がリアルに理解しにくい。実際にCIAは、米国大使館のなかにあるだけでなく、色んな形で企業に入り込んでいる。ソニーやメリル・リンチなどの中でも働き、内部から情報を集める。
 そういう現実があるのに、知られていませんよね。東京にはCIA関係者が何百人もいて、色んな形で工作をしているらしいですが、これまでの藤原さんの経験からして、どうご覧になっていますか。

藤原 特殊な計画や事業に入り込むだけでなく、大学関係者でも、語学力や実務経験を生かしながら、情報を嗅ぎまわる者がいます。

本澤 大学関係者というのは予想外。盲点ですね。

藤原 九〇年代、私はサントリーと共同事業をした関係で、子会社のTBSブリタニカの社長室や編集部に出入りが自由でしたが、同じ場所に「ニューズウィーク」の編集部があった。そこで誰を見かけたと思いますか? 当時のCIA日本部長のエズラ・フォーゲル。ここも彼らの巣だったかと、呆れるやら恐ろしくなるやら。

本澤 ニューズウィークがそうでしたか。

藤原 ロッキード事件の時に登場したハリー・カーンは、ニューズウィークの元編集長。CIAコネクションは世問的にはバレています。

本澤 ハリー・カーンが岸信介の英語の教師になり、グラマン事件に絡んで岸をCIAのスパイにしたのは有名ですね。

藤原 「ニューヨークタイムズ」のワイナー記者が書いた『灰の遺産』に、そのことは詳しく書いてある。昔は東京に大物スパイがたくさんいて、雑誌の編集長クラスはほとんどスパイでしたよ。

 - ハリー・カーンはGHQの「アメリカ対日協議会」(ACJ)のエージェントだったといわれていますよね。ACJはA級戦犯の釈放、公職追放された旧官僚の復職、解体された財閥の復興を仕切ったことで、戦後の日本に「ジャパン・ロビー」ともいうべき組織を作り上げていた。その中心メンバーなのに、その実態は本当に闇に包まれています。

藤原 彼らの諜報戦の裏工作に「ホモ関係」は重要な役割を演じてきたのです。

男が男に惚れる世界

 - ジャパン・ロビー、ジャパン・ハンドラー、そうしたネットワークを形成する過程で「ホモ」が問わっでくる、と?

藤原 ええ。諜報戦の資料やナチス史を読めば、ホモ関係がいかに重要な役目をはたしていたのかわかります。「長いサーベルの夜」で突撃隊(SA)が殲滅され、「スパイキャッチャー」でKGBがMI6を崩したのも、ホモ人脈を操った謀略戦の代表例です。

本澤 言われでみるとたしかにその通りだが、われわれ常識人にとっでは異常の世界。その辺のところが理解が難しくて、簡単には受け入れ難い面があるのです。

藤原 日本には昔から衆道の世界があって、『葉隠』に三島由紀夫が傾倒していたのは、殿に命を奉げる殉死の美学だし、天皇制は男が男に惚れる世界だという。その点で日本は世界に冠たるホモ天国だから、日本に住みつく米国人の半分は、ホモ趣味への魅力だと、人類学者のシーラ・ジョンソンが、『アメリカ人の日本人観』に書いています。

本澤 そこまで言うと身も蓋もなくなりますが、天皇制が国家主義者にとって衆道の擬態なら、女性天皇の登場が必要になりますね。

藤原 そこで松下政経塾ですよ。松下幸之助は塾生と一緒に風呂に入り、背中を流し合うのが晩年の道楽だったから。それが松下政経塾の始まりという説もある(笑)。また、政治家と秘書との関係に似たものがあり、秘密を共有する快感があるといいます。

 - なるほど。日本と違い聖書によって男色が否定されていた西洋では、つい最近まで男色行為の発覚は社会的な死に直結していた。日本も戦後長らく欧米なみのホモ弾圧があって、派手な「ホモ行為」が暴露されてしまうと復帰できなかった。不倫や愛人、それこそ汚職で逮捕されても復帰はできるのに。

藤原 このたぐいの話はタメにする噂も多くて、うかつに信じたら大火傷するけれど、無視できないものが多くて困ります(苦笑)。

 - 政経塾に入ると、ごく当たり前にホモ行為が行なわれていて、それをしなければ仲間にしてもらえないという状況なら、多分、入塾するような連中はやっちゃうでしょうね。で、それをCIAなどに証拠を押さえられて首根っこを掴まれる。たしかに、いまの野田政権の姿を見ていると弱みを握られ、利用されているのは間違いないでしょう。それが汚職や女性スキャンダルではなく、ホモだとは……。本当に情けなくなります。今日は貴重なお話、ありがとうございました。
関連記事

デフレ、米国債、輸出価格是正の課題

 日本経済の課題となっているデフレ循環、過剰な米国債保有、輸出品の内外価格差(価格競争の罠とブランド力)についての現状と方策。
 直面する3つの課題である。
 論旨はこのブログで常に主張していることと概ね一致するもので、整理しまとめています。
  ーーーーーーーーーーーーーーー
 この円安局面に解決すべき3つの課題:輸出価格の立て直し、デフレ、過大な外貨準備 4/12 根津利三郎

このところ、昨年後半から較べると外国為替市場で円高がだいぶ緩和された。2011年10月末には75円台であったものが3月15日には84円になった。その後、やや円高に戻っているが、先行きを考えると、米国の景気回復や日本の貿易収支の悪化など、基調的には円安になっていく可能性が強い。
かねてから高い法人税や電力不足と並んで「六重苦」にリストアップされていた円高が修正されつつあり、産業界は大歓迎だ。円高が是正され、多少余裕が出てきたこの機会に、日本として行うべきことを3点にまとめて述べてみたい。

1. 目立つ日本の内外価格差

第1は、日本企業の輸出品価格の立て直しだ。
【図1】は為替レートなど、いくつかの経済指標の動きを示しているが、これから日本企業の価格政策の特異性が明らかになる。すなわち、輸出価格と国内価格の格差だ。過去30年間、円建てで見た日本の輸出品の価格はほぼ一貫して下落したが、国内向けの出荷価格はほぼ横ばいであった。
その結果、2つの価格の格差が拡大した。一昔前ならダンピングとして欧米から非難されたであろう。
これは円高が進む中で輸出先市場での現地通貨建て価格は上げないという日本企業の戦略の表れである。
米国やドイツ、スイスなど他の先進工業国企業は、自国為替レートが上がれば、輸出先での価格も引き上げるのが普通であり、このような格差は見られない。

このような内外価格差はなぜ起こるのか? 
日本の主力輸出品のひとつである電子電機機械産業において、韓国や台湾、中国などとの競争に晒され、価格を下げなければ輸出を維持できなくなったことが理由である。
欧米企業は新たな競争者が現れた時に利益を犠牲にしてまで価格を下げることはしない。むしろ撤退して新たな分野に経営資源を移転する。
日本企業は雇用の問題もあり、簡単には撤退できない。生産水準を維持するため、価格を下げるという方針を取らざるを得なかった。そのため、企業収益や賃金の低迷といったデフレ的体質が長期にわたり続くことになった。

【図1】輸出物価、国内企業物価、為替レートの動き
(日銀統計、BISより富士通総研作成)

nezu201204-1.jpg

2. 問題は半導体関連産業に限定される

だが、そのような対応も限界に近づきつつある。
今年に入って薄型テレビや半導体で工場閉鎖や外国企業との提携など、縮小、撤退の動きが明らかになった。筆者の見るところ、このような問題は半導体やそれを利用する産業に顕著に起こっている。
薄型テレビの中核部品である液晶パネルはガラス基板の上に半導体回路を焼き付けたものであり、そのほか、パソコン、携帯端末なども半導体を核にした商品である。
先進国企業はこのような商品の生産は自国で行うことは止め、台湾や韓国企業に生産委託したり、アジアに工場を移して生産している。iPhoneを販売するApple社は最近、部品や原材料の調達先を公表したが、156社ある調達先企業はほとんどアジア企業である。
日本企業も将来的には国内で設計や開発は行うものの、生産は海外に移転する方向に進んでいくことになるであろう。
半導体の生産は製造技術さえ手に入れれば誰でも参入可能であり、差別化するのは難しいようだ。
今、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電も、中心になる発電パネルは半導体の塊であり、先進国企業は急速に中国企業に市場を奪われている。ハイテクだ、新エネルギーだといって、すべてが先進国にとっての成長産業になるわけではない。

3. 技術の特性と政府の政策が競争優位を決定する

だが、日本のものづくりがすべてダメになった、というのも悲観的すぎる。半導体を核とする産業以外の製造業はおおむね競争力を維持している、と筆者は考えている。
精密機械や一般機械では円高にも拘わらず輸出価格の崩落は見られず、企業収益は堅調であった。
面白いのは、電気産業の中でも冷蔵庫や洗濯機などでは日本企業はまだ頑張っている、ということだ。もちろん中国のハイアールや韓国のサムスン、LGなどに低価格市場は奪われているが、ハイエンドの市場では十分競争できている。
欧米企業でもワールプールやエレクトロルックスなどの名門企業は未だに健在だ。
エアコンになると日本企業の独壇場だ。これらの産業に共通しているのは、モーターを基軸とした産業であることで、日本企業が戦後長い時間をかけて蓄積してきたアナログ技術や暗黙知が引き続き競争優位をもたらしている。発電機などではドイツや日本など先進国企業が今でも強い。

これに対して、半導体はムーアの法則が当てはまる特殊な産業だ。
半導体の集積度は18か月ごとに2倍になる、というインテルの設立者が見い出した法則が今でも当てはまる別世界だ。
薄型テレビの価格はこの5年で40インチのものが40万円から4万円と、10分の1になっているが、これはほぼムーアの原則と一致する。すでに40年も前に言われたこの法則が今でも当てはまるのは驚きとしか言いようがないが、このような価格崩壊は技術的要因だけによるものではない。
今、世界で半導体の生産が行われているのは日本、韓国、台湾、中国だけだ。これらの国の政府は半導体を戦略産業と位置づけ、税金や補助金など様々な政策的支援を与えている。
その結果、過度な集積度競争と設備投資競争に走り、結果的に世界的な過剰設備をもたらし、収益性を下げてしまった。資本効率を無視した補助金競争、設備競争にあっては政府からの支援に多くを期待できない先進国の企業は、最終的に競争に勝てない

円安になった今、日本企業は輸出価格を立て直す努力をすべきだ。
2004年から2007年頃の円安時に日本企業はそのような努力をしなかったため、その後の円高局面で苦労することになった。
日本企業は価格崩落が止まらない半導体の製造事業から撤退し、経営資源を価格コントロールが維持できる分野に産業構造の転換を図ることができれば、欧米企業同様に、円高になっても輸出市場での価格を上げ、企業の収益性、ひいては経済の成長力を取り戻すことができる。
為替で苦しまないよう、新たな競争優位を再確立するため、現下の円安を最大限利用すべきだ。

4. デフレ・スパイラルを止める好機到来

円高が緩和したこの機会にやらなければならないことの2番目は、デフレの克服である。
日本の消費者物価指数はこの13年間、下落傾向を辿ってきた。その原因の1つが円高と考えられている。自国の通貨が高くなれば、輸入品の価格は安くなり、一般物価水準も下落することになる。我が国の場合、原油や食料品などの輸入依存度が高いので、円高のデフレ的効果は少なからざるものがあったはずだ。
だから、2月以降始まった円安傾向が今後とも持続するのであれば、デフレ脱却の良い機会になるはずだ。
だが、円安になれば自動的にデフレが止まると考えることはできない。実は、リーマンショック以前にかなり長期にわたり円が下落する局面があったが、デフレは止まらなかった。賃金が上がらなかったからである。

2002年1月から2008年2月まで続いた戦後最長の景気拡大期が「実感なき景気回復」と呼ばれたのは、成長率が高かったにも拘わらず賃金が低迷し、国民生活が良くならなかったからだ。
その結果、国内需要は盛り上がらず、外需依存度が高まり、リーマンショックで手痛い打撃を受けた
。過去4年間、日本企業がこれほど苦しんだのは、大震災やタイの洪水など不幸な要因もあったが、基本的には今世紀に入ってからの誤った経済政策によるものだ。
すなわち、成長の源を国内需要ではなく、米国や中国向け輸出に求めたことである。すでに経常収支が大幅黒字であった日本がさらに輸出拡大を試みても、それは円高を引き起こすだけに終わることは予見できたことであった。

円高を乗り切るため日本企業はコストカット、とりわけ賃金カットを進めてきた。雇用者所得は1997年をピークに減少し続けている。
その結果、国民の購買力も低下し、売り上げを維持するため企業は製品価格を引き下げざるを得なくなり、それがデフレをもたらした

こうして、円高、賃金カット、デフレのスパイラルが10年以上も続いてきた。5年ぶりの円安はこのような悪循環を断ち切る機会である。幸い内需企業を中心に企業収益は決して悪くない。
これから輸出企業についても円安の効果や海外事業からの収益が拡大すれば、すでに200兆円もの手元流動性がある企業の資金ポジションはさらに豊かになろう。

5. 目白押しのインフレ要因

円安は物価上昇につながる。加えて資源や食糧価格の上昇はガソリンなどの国内価格に影響し始めている。遠からず消費税も引き上げられるであろう。これからインフレに転じる要素は少なくない。デフレからの脱却という意味では結構な話だが、それには賃金も上昇し、実質所得が確保されることが不可欠だ。
賃金が低迷したまま物価だけが上がるようなことになれば、実質経済成長率はさらに下がり、スタグフレーションに陥る
であろう。前回の円安局面では賃金が上がらず、デフレはむしろ悪化した
もちろん企業自身が設備投資や研究開発に積極的に金を使うことも良い。現在、日本企業の設備投資の水準は現存する機械設備を維持するのに必要な額さえ下回っている。あるいは配当や自己株の買い取りなどで株主への還元を増やすことも消費者の購買力を増やすことになる。株主の発言力が弱い日本では、このような動きが起こりにくい。
余剰資金が企業貯蓄という形で銀行に預金され、国債購入に回るという悪循環が断ち切られ、設備投資や個人消費など内需拡大の方向に向けて経済が回り始めれば、日本を苦しめてきたデフレ・スパイラルを是正することができる。円安はこのような好循環を生み出す機会になり得る。

6. 外貨準備高を減らし、かつ分散化せよ

円安の機会をとらえて果たすべき第3の課題は、外貨準備の適正化だ。
日本には輸出企業を中心に円高を嫌う雰囲気が強く、日本政府は頻繁に外国為替市場で円売り・ドル買いを繰り返してきた。最近では2010年9月から11年10月まで、合計4回為替市場に介入している。
為替介入が市場の乱高下を是正するためのものだとすれば、売りもあれば買いもあるべきだが、日本の場合1985年のプラザ合意の後のドル売り・円買いを除き、常に円売り・ドル買いという一方的な介入を繰り返し行ってきた。
その結果、1兆ドルという膨大な金額の外貨準備が外国為替特別会計に溜まった。これは日本のGDPの2割に相当するが、このような多額の外貨準備を保有している国は中国のみで、先進国では見当たらない。
そもそも為替介入も外貨準備も経済政策としては時代遅れで不健全という理解が一般的である。
日本の外貨準備の大半は米国の財務省証券で保有されているが、当然これは為替リスクにさらされており、最新の財務省公表の資料では35兆円の評価損が生じているが、これは決して健全な姿ではない。
リスク管理の視点から考えれば、外貨資産の水準は減らすべきであり、さらにドル以外の資産、ユーロやその他の外貨、金などに分散すべきだ。中国はすでにドル資産から別の通貨に切り替えている。
だが、そのためには保有する米国財務省証券を処分する必要がある。

さらに問題なのは、為替介入の原資となる円資金を短期証券を発行することで調達したため、その残高が112兆円に上っているが、言うまでもなくこれは政府の借金である。日本の財政赤字がGDPの2倍にもなり、世界で最悪と言われる時にはこの金額も含まれている。
したがって外貨準備を減らし、その金で短期証券を返済することは、財政再建の視点からも緊急の課題だ。今までこれができなかったのは、米国債を売却すれば円高になり、輸出産業にマイナスの影響になることと、為替差損が現実のものとなり、責任問題にもなりかねないからであろう。
だが、さらに円安が進めば、輸出企業に対する悪影響や売却損をある程度の範囲に抑えつつ、外貨準備額を減らすことができるはずだ。日本には米国債を売ることをタブー視するような傾向があるが、円高になるかもしれない米国債保有額の縮小に米国政府が反対する理由は無い。

7. 85円を超えたら、ドル処分をすべき

筆者は、1ドルが85円を超えて円安となるようであれば、米国債の縮小に着手すべきと考える
ただし、米国債の途中売却ではない。毎年1000億ドル程度が満期を迎えるので、それを借り換えせず現金で返却してもらい、それを市場で円資金に転換し、短期証券を返済するのだ。
これだけで肥大化した外国為替特別会計を資産と負債の両面で圧縮することができる。
2005年以降で日本政府が最初にドル買い介入したのは、2010年9月15日で、その時の為替レートは1ドル85円であった。その程度の為替水準なら日本経済にとっても問題ないと考えていた、とみてよい。
日本の輸出企業は、円は安ければ安いほど良い、というような安直な考えの経営者もいるようだが、それは大きな間違いだ。すでに原油や天然ガスなど日本にとって不可欠のエネルギー源の値上がりが2年前から顕著になっており、欧米経済にインフレ圧力を加え始めている。
国際的なエネルギー価格の上昇の影響は円安とともに拡大されて一層深刻になり、そうでなくても原子力発電所の停止による追加的負担に苦しむ日本企業の競争力をさらに減殺させるであろう。
極端な円高同様、行き過ぎた円安もまた日本のためにならない。すでにガソリンは相当値上がりしており、さらなる上昇は企業も消費者も苦しめることになる。日本政府としては、行き過ぎた円安をも阻止する覚悟が必要だ。急激な円安時における外貨準備の取り崩しは、為替レート、ひいては日本経済の安定的成長のためにも必要であり、そのことが外貨準備の適正化にも貢献するのである。
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 このブログ内のデフレ論を中心に、過剰米国債、円高関係ページのリンク。

・ 労働分配率の強制修正
・ 世界で日本のみデフレ
・ デフレ脱却には賃金上昇が不可欠
・ 民間給与5.5%減、237,000円減
・ 日銀の金融緩和は誰のためか
・ 通貨戦争(4)日本
・ 公務員叩きとデフレ対策
・ 信用創造(3)無政府的な過剰通貨
・ 通貨戦争(13)闘う政治を
・ S&P国債格下げの理由はデフレ増税論
・ デフレ脱却できないままに食料・石油が高騰してくる
・ 始まる価格高騰はコスト転嫁できず倒産と需要減少
・ 100兆円の余力を持ったまま自殺するのか
・ 復興財源には外貨準備を使え 
・ 滅亡か、米国債売却による経済復興か
・ 窮乏化する日本
・ デフレを知らないふりする増税論者ども
・ 日本に増税を求める国際金融資本
・ デフレ下で増税を叫ぶ愚者たち:三橋
・ 通貨戦争(37)財務省・日銀の窮乏化政策
・ なぜデフレなのか、なぜ放置するのか
・ 通貨戦争(40)デフレ、円高、増税政策の日本
・ 60歳の地獄か、年金と再雇用の現実
・ 通貨戦争(42)通貨による搾取システム
・ ゆでガエル!
・ 消費増税でデフレ恐慌を目指すかいらい政権
・ デフレを放置し、黒を白とうそぶく日銀総裁
・ 増税でデフレ恐慌、襲う国際金融資本
・ 民を殺す消費増税
・ 日本の労働は封建主義の農奴農民か
関連記事

 | HOME | 

 

プロフィール

もうすぐ北風

Author:もうすぐ北風
こんにちは。
いろんな旅を続けています。
ゆきさきを決めてないなら、しばらく一緒に歩きましょうか。

最新記事(引用転載フリー)

カテゴリ

経済一般 (118)
経済一般~2012冬まで (161)
日本の経済 (224)
通貨戦争 (70)
ショック・ドクトリン (12)
震災関係 (23)
原発事故発生 (112)
事故と放射能2011 (165)
放射能汚染2012 (192)
汚染列島2013-14 (146)
汚染列島2015-16 (13)
福島の声 (127)
チェリノブイリからの声 (27)
政治 (413)
沖縄 (93)
社会 (316)
小沢一郎と「生活の党」 (232)
健康と食 (88)
環境と地球の歴史 (28)
未分類 (175)
脳卒中と入院 (7)

カウンター

最新コメント

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

リンク

このブログをリンクに追加する

カレンダー

03 | 2012/04 | 05
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 - - - - -

最新トラックバック

月別アーカイブ

RSSリンクの表示

Template by たけやん