イラン経済封鎖で政府転覆を狙う米国
2012-03-04
イランを先制攻撃したいイスラエル。ホメイニ革命以来、イランのイスラム政権転覆を果たしたい米国。
イスラエル単独攻撃は、人造シオニスト国家の自滅につながるだけだろう。
世界のユダヤ人にとって好ましいことではない。
リビアで味をしめた米英仏は、イスラム政権の転覆を図っているが、強力なイスラム革命の防衛隊が組織された「大国イラン」は、そう簡単に転覆できるとは思われない。
ホルムズ海峡危機を煽る状態で緊張を持続させる可能性が強い。
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原油の大動脈「ホルムズ海峡」封鎖はあるか?世界を引き裂くイラン核疑惑の帰趨 2/2 山田厚史 ダイヤモンド・オンライン
ユーロ分裂の危機を抱える欧州の隣で、「イランの核開発疑惑」が世界秩序を根底から揺さぶっている。背景にイスラエルとパレスチナの対立があり、底流には大国による核独占体制の瓦解、キリスト教国による世界支配の終焉という歴史的な潮流がある。
イランも米国も戦争は望んではいないが、互いに手詰まりで、解決の糸口は見えない。切り札のように言われるのが「イスラエルによるイラン核施設への空爆」だが、強行すれば、ホルムズ海峡に機雷がバラ撒かれることを覚悟しなければならない。力による解決は、世界を深刻な危機に突き落とす。
原油の輸送が途絶え、日本経済は想定外の混乱に曝されるだろう。遠くにあるイランは、「深刻な事態」とされても実感が伴わない。考えたくもない話だが、われわれの暮らしを直撃するリスクを秘めている。
「米国の都合」優先がもたらす矛盾
昨年9月、イラン南部のブシェールで100万kWの原発が運転を始めた。中東のイスラム国で初めての商業運転だ。イラン政府はさらに2基をここに増設する。「核の平和利用」とされているが、米国などは「核の濃縮を進めようとしている」という疑惑の眼差しを注いでいる。
原発で核燃料を燃やせばプルトニウムが出来る。原爆の原料だ。狭い日本に54基もの原発を立地しプルトニウムを作り続けている裏には、いつでも核兵器を造れるという潜在的核保有という力を維持する狙いがあった、とも言われている。被爆国の日本は「核兵器開発」を否定し、他国も納得していた。
イランが「核兵器への転用は考えていない」と言っても、日本と同列に見る国はないだろう。米国の核の傘にある日本と違い、イスラエルと対峙するイランには「核武装」が軍事・外交に直結する事情がある。
核が手が届かないハイテク技術でなくなったことが事態を複雑にした。広島・長崎で米国が原爆を使ってから、紛争を抱える国家は核兵器に頼るようになった。ソ連、英国、フランスが後を追い、途上国だった中国までも核を持つようになった。そこで始まったのが「核拡散防止条約(NPT)」による抑制だった。「大国の核保有」を既得権にし、新興国の保有を認めないこの条約は、インド・パキスタンによって有名無実化した。
米国は経済発展著しいインド市場への野心と、アフガニスタンを押さえる要衝としてのパキスタンへの配慮から、両国の核武装を黙認した。現状の核保有体制は「米国の都合」が優先することが明確になった。親米国の核は許されるが、反米国の核は許されない。こうした色分けが米国と関係がこじれた国家に、「なにがなんでも核を」という衝動を呼び起こした。北朝鮮もイランもこの文脈から「核保有国」になろうとしている。
イランから見れば「好戦的」に映る米国が3万発を超える核爆弾を持ちながら、他国の核を認めないのは理不尽だろう。核保有が確実視されるイスラエルが、査察も制裁も受けていない不平等な現実がある。パレスチナ国家が現実味を帯び一触即発の中東情勢で、イスラエルに対抗する核開発は、イランにとって避けて通れない課題になっている。
国際原子力機関(IAEA)によるイランの査察が近く始まるが、イランは表向きはともかくとして協力はしないだろう。イランから見ればIAEAは大国の核独占体制を補完する機関で米国の手先である。米国もIAEAでイランを止められるとは考えていない。
強攻策に出たオバマ大統領の事情
対イラン経済制裁はそんな事情から始まった。イラン経済の背骨である原油を国際市場から閉め出す。「兵糧責め」である。制裁は他国に呼びかけて包囲網を広げるものだが、今回のやり方は次のようなもので極めて強引だ。
イランの石油収入はイラン中央銀行が管理している。したがってイラン中央銀行と取引のある銀行は米国内での営業を認めない。自国の銀行が米国内で営業したければ、イランとの原油取引を停止せよ――。
「イラン貿易のファイナンスをすれば、イラン中央銀行に口座を持つのは当たり前です。経済がグローバル化しているのにイランと取引のある銀行は米国から閉め出す、と言っているのに等しい」と、メガバンクの担当者は呆れる。WTOが定める公正な市場参入を歪めるような制裁だが、米国が言えば通ってしまうのが今の世界秩序だ。
無茶を承知で強攻策に出たオバマ政権には切迫した事情がある。大統領選挙の年だからだ。経済の苦境で支持率が低下したオバマにとって、ユダヤ人票の動向は当落を左右する重みを持っている。米国のユダヤ系市民は約600万人といわれ、人口の3%にも満たないが、新聞社・放送局などメディアや金融や不動産などを手がける富裕層に確固たる地位を占めている。結束力を誇る全米ユダヤ協会の推薦は集票と資金に直結する。共和党で有力視される右派のギングリッチ候補がイスラエル支持を鮮明にしているだけに、オバマも親イスラエルを押し出さざるを得なくなった。
政界を仕切るイスラエルロビーにとって、選挙の年は政策を前進させる好機だ。民主党政権は伝統的にイスラエルと近く、4年前の大統領選挙でユダヤ票はオバマの当選に貢献した。
イランの核開発阻止はイスラエルの死活問題だけに、オバマも引きずり込まれ、イラン・米国の双方にとって「落としどころ」が見えない危険なゲームにはまってしまった。
イスラエルによる空爆はあるか?
そこで言われるのが「イスラエルによる空爆」だ。イスラエルは81年にイラクの原子力発電所を空爆し原子炉を破壊した。イラン・イラク戦争の最中で、イラクはどこから攻撃されたかさえ掴めなかったが、イスラエルが「隣国の核武装を阻止するため」と作戦を公表した。2007年にはシリアが建設中の原子炉を空爆。イスラエルの身勝手な軍事行動は国際的非難を浴びたが、米国が擁護し国連も非難決議だけで、制裁など実効ある措置は取られていない。
今回も手詰まりを打開するのが「イスラエルの単独攻撃」なのか。それが出来るなら、これまでのように原発が稼働する前に攻撃していたはずだ。パレスチナ問題が国際的に注目され、「軍事的強者」であるイスラエルの振る舞いに、世界が冷ややかな目を向けるようになった今、イラクやシリアでやった離れ業はイラン相手に通用するだろうか。イランは「ペルシャ湾の入り口ホルムズ海峡封鎖」という世界を混乱に巻き込む作戦をほのめかし、イスラエルの武力行使を牽制している。
イランとオマーンに挟まれたホルムズ海峡は幅30km。遠浅の海でタンカーが往き来できるのは、真ん中を掘った幅2~3kmの航路だけだ。ここに機雷をバラ撒けば原油の大動脈が閉塞される。中東に90%近い原油を依存している日本にとって他人事ではない。原発事故で火力に依存する日本の発電に深刻な影響が出る。価格は跳ね上がるだけでなく、世界は原油の取り合いになり必要量の確保さえ危うくなる。
イランが原発を稼働しただけで、世界危機の瀬戸際になりかねない軍事行動に出ることは、米国やイスラエルにとっても好ましいことではない。事態は相手の出方を見ながら、膠着状態が続くのでははないか。
海の時代から陸の時代へ
辛いのはイランだろう。禁輸や銀行取引の停止で物資の流入が細り、通貨は急落、インフレが起きている。
イラン中央銀行は1月25日、5年ものの預金金利を年16%を21%に引き上げた。物価上昇は年率20%とされている。庶民は音をあげ、政府も物価を上回る預金金利にしなければならなかった。だが高金利は国内経済を冷やし生産活動を萎縮させる。インフレは政権への不満を募らせる。
インフレ率20%は公式発表だ。食料品など生活必需品はそれよりも高いだろう。不自由な政治体制への不満と結びつく可能性もあるだろう。強引に見えるイラン制裁で米国が狙っているのは「テヘランの春」である。経済を締め上げて庶民の不満を体制転換に結びつける。リビアでカダフィ政権を倒した手法である。
「CIAと革命防衛隊の暗闘が始まった」という声も聞く。民衆の蜂起を演出するCIAの手先と、親米分子を摘発するイラン革命防衛隊がテヘランや地方都市で動き出した、というのだ。
ジャスミン革命に席巻された「アラブの春」とイランは独裁・非民主という制度は共通しているが大きな違いがある。「政権の腐敗」だ。アラブ国家にありがちな世俗的なイスラム政権と一線を画すイランの原理主義的宗教支配は、確かに息苦しさはあるが、民衆の生活を包み込む強さを持っている。都市を離れればその影響力は決して小さくはない。
中国・ロシア・途上国の支援もイランにとって心強い。米欧の制裁は海路でイランへの物資を締め上げるだろうが、陸でつながる中国やロシアからの輸送路が拡大するだろう。エコノミストである内閣府参与の水野和夫氏は、「近代は欧米が覇権を握る海の時代だったが、これが終わり、いま陸の時代が始まろうとしている」という。
近代の総決算である第2次世界大戦後の世界はキリスト教、核兵器、ドルという通貨の三点セットが基軸となった。G7の時代が去り、G20が世界秩序に関与する今、キリスト教国の核と通貨の支配がほころびている。
大西洋から太平洋に軸を移して延命しようとする海の時代が、ユーラシア大陸を中心とする陸の時代に取って代わるのか。
未来はまだ見えないが、ユーラシアの真ん中にあるイランが引き裂く世界の混乱から、次のヒントが見えてくるかも知れない。
イスラエル単独攻撃は、人造シオニスト国家の自滅につながるだけだろう。
世界のユダヤ人にとって好ましいことではない。
リビアで味をしめた米英仏は、イスラム政権の転覆を図っているが、強力なイスラム革命の防衛隊が組織された「大国イラン」は、そう簡単に転覆できるとは思われない。
ホルムズ海峡危機を煽る状態で緊張を持続させる可能性が強い。
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原油の大動脈「ホルムズ海峡」封鎖はあるか?世界を引き裂くイラン核疑惑の帰趨 2/2 山田厚史 ダイヤモンド・オンライン
ユーロ分裂の危機を抱える欧州の隣で、「イランの核開発疑惑」が世界秩序を根底から揺さぶっている。背景にイスラエルとパレスチナの対立があり、底流には大国による核独占体制の瓦解、キリスト教国による世界支配の終焉という歴史的な潮流がある。
イランも米国も戦争は望んではいないが、互いに手詰まりで、解決の糸口は見えない。切り札のように言われるのが「イスラエルによるイラン核施設への空爆」だが、強行すれば、ホルムズ海峡に機雷がバラ撒かれることを覚悟しなければならない。力による解決は、世界を深刻な危機に突き落とす。
原油の輸送が途絶え、日本経済は想定外の混乱に曝されるだろう。遠くにあるイランは、「深刻な事態」とされても実感が伴わない。考えたくもない話だが、われわれの暮らしを直撃するリスクを秘めている。
「米国の都合」優先がもたらす矛盾
昨年9月、イラン南部のブシェールで100万kWの原発が運転を始めた。中東のイスラム国で初めての商業運転だ。イラン政府はさらに2基をここに増設する。「核の平和利用」とされているが、米国などは「核の濃縮を進めようとしている」という疑惑の眼差しを注いでいる。
原発で核燃料を燃やせばプルトニウムが出来る。原爆の原料だ。狭い日本に54基もの原発を立地しプルトニウムを作り続けている裏には、いつでも核兵器を造れるという潜在的核保有という力を維持する狙いがあった、とも言われている。被爆国の日本は「核兵器開発」を否定し、他国も納得していた。
イランが「核兵器への転用は考えていない」と言っても、日本と同列に見る国はないだろう。米国の核の傘にある日本と違い、イスラエルと対峙するイランには「核武装」が軍事・外交に直結する事情がある。
核が手が届かないハイテク技術でなくなったことが事態を複雑にした。広島・長崎で米国が原爆を使ってから、紛争を抱える国家は核兵器に頼るようになった。ソ連、英国、フランスが後を追い、途上国だった中国までも核を持つようになった。そこで始まったのが「核拡散防止条約(NPT)」による抑制だった。「大国の核保有」を既得権にし、新興国の保有を認めないこの条約は、インド・パキスタンによって有名無実化した。
米国は経済発展著しいインド市場への野心と、アフガニスタンを押さえる要衝としてのパキスタンへの配慮から、両国の核武装を黙認した。現状の核保有体制は「米国の都合」が優先することが明確になった。親米国の核は許されるが、反米国の核は許されない。こうした色分けが米国と関係がこじれた国家に、「なにがなんでも核を」という衝動を呼び起こした。北朝鮮もイランもこの文脈から「核保有国」になろうとしている。
イランから見れば「好戦的」に映る米国が3万発を超える核爆弾を持ちながら、他国の核を認めないのは理不尽だろう。核保有が確実視されるイスラエルが、査察も制裁も受けていない不平等な現実がある。パレスチナ国家が現実味を帯び一触即発の中東情勢で、イスラエルに対抗する核開発は、イランにとって避けて通れない課題になっている。
国際原子力機関(IAEA)によるイランの査察が近く始まるが、イランは表向きはともかくとして協力はしないだろう。イランから見ればIAEAは大国の核独占体制を補完する機関で米国の手先である。米国もIAEAでイランを止められるとは考えていない。
強攻策に出たオバマ大統領の事情
対イラン経済制裁はそんな事情から始まった。イラン経済の背骨である原油を国際市場から閉め出す。「兵糧責め」である。制裁は他国に呼びかけて包囲網を広げるものだが、今回のやり方は次のようなもので極めて強引だ。
イランの石油収入はイラン中央銀行が管理している。したがってイラン中央銀行と取引のある銀行は米国内での営業を認めない。自国の銀行が米国内で営業したければ、イランとの原油取引を停止せよ――。
「イラン貿易のファイナンスをすれば、イラン中央銀行に口座を持つのは当たり前です。経済がグローバル化しているのにイランと取引のある銀行は米国から閉め出す、と言っているのに等しい」と、メガバンクの担当者は呆れる。WTOが定める公正な市場参入を歪めるような制裁だが、米国が言えば通ってしまうのが今の世界秩序だ。
無茶を承知で強攻策に出たオバマ政権には切迫した事情がある。大統領選挙の年だからだ。経済の苦境で支持率が低下したオバマにとって、ユダヤ人票の動向は当落を左右する重みを持っている。米国のユダヤ系市民は約600万人といわれ、人口の3%にも満たないが、新聞社・放送局などメディアや金融や不動産などを手がける富裕層に確固たる地位を占めている。結束力を誇る全米ユダヤ協会の推薦は集票と資金に直結する。共和党で有力視される右派のギングリッチ候補がイスラエル支持を鮮明にしているだけに、オバマも親イスラエルを押し出さざるを得なくなった。
政界を仕切るイスラエルロビーにとって、選挙の年は政策を前進させる好機だ。民主党政権は伝統的にイスラエルと近く、4年前の大統領選挙でユダヤ票はオバマの当選に貢献した。
イランの核開発阻止はイスラエルの死活問題だけに、オバマも引きずり込まれ、イラン・米国の双方にとって「落としどころ」が見えない危険なゲームにはまってしまった。
イスラエルによる空爆はあるか?
そこで言われるのが「イスラエルによる空爆」だ。イスラエルは81年にイラクの原子力発電所を空爆し原子炉を破壊した。イラン・イラク戦争の最中で、イラクはどこから攻撃されたかさえ掴めなかったが、イスラエルが「隣国の核武装を阻止するため」と作戦を公表した。2007年にはシリアが建設中の原子炉を空爆。イスラエルの身勝手な軍事行動は国際的非難を浴びたが、米国が擁護し国連も非難決議だけで、制裁など実効ある措置は取られていない。
今回も手詰まりを打開するのが「イスラエルの単独攻撃」なのか。それが出来るなら、これまでのように原発が稼働する前に攻撃していたはずだ。パレスチナ問題が国際的に注目され、「軍事的強者」であるイスラエルの振る舞いに、世界が冷ややかな目を向けるようになった今、イラクやシリアでやった離れ業はイラン相手に通用するだろうか。イランは「ペルシャ湾の入り口ホルムズ海峡封鎖」という世界を混乱に巻き込む作戦をほのめかし、イスラエルの武力行使を牽制している。
イランとオマーンに挟まれたホルムズ海峡は幅30km。遠浅の海でタンカーが往き来できるのは、真ん中を掘った幅2~3kmの航路だけだ。ここに機雷をバラ撒けば原油の大動脈が閉塞される。中東に90%近い原油を依存している日本にとって他人事ではない。原発事故で火力に依存する日本の発電に深刻な影響が出る。価格は跳ね上がるだけでなく、世界は原油の取り合いになり必要量の確保さえ危うくなる。
イランが原発を稼働しただけで、世界危機の瀬戸際になりかねない軍事行動に出ることは、米国やイスラエルにとっても好ましいことではない。事態は相手の出方を見ながら、膠着状態が続くのでははないか。
海の時代から陸の時代へ
辛いのはイランだろう。禁輸や銀行取引の停止で物資の流入が細り、通貨は急落、インフレが起きている。
イラン中央銀行は1月25日、5年ものの預金金利を年16%を21%に引き上げた。物価上昇は年率20%とされている。庶民は音をあげ、政府も物価を上回る預金金利にしなければならなかった。だが高金利は国内経済を冷やし生産活動を萎縮させる。インフレは政権への不満を募らせる。
インフレ率20%は公式発表だ。食料品など生活必需品はそれよりも高いだろう。不自由な政治体制への不満と結びつく可能性もあるだろう。強引に見えるイラン制裁で米国が狙っているのは「テヘランの春」である。経済を締め上げて庶民の不満を体制転換に結びつける。リビアでカダフィ政権を倒した手法である。
「CIAと革命防衛隊の暗闘が始まった」という声も聞く。民衆の蜂起を演出するCIAの手先と、親米分子を摘発するイラン革命防衛隊がテヘランや地方都市で動き出した、というのだ。
ジャスミン革命に席巻された「アラブの春」とイランは独裁・非民主という制度は共通しているが大きな違いがある。「政権の腐敗」だ。アラブ国家にありがちな世俗的なイスラム政権と一線を画すイランの原理主義的宗教支配は、確かに息苦しさはあるが、民衆の生活を包み込む強さを持っている。都市を離れればその影響力は決して小さくはない。
中国・ロシア・途上国の支援もイランにとって心強い。米欧の制裁は海路でイランへの物資を締め上げるだろうが、陸でつながる中国やロシアからの輸送路が拡大するだろう。エコノミストである内閣府参与の水野和夫氏は、「近代は欧米が覇権を握る海の時代だったが、これが終わり、いま陸の時代が始まろうとしている」という。
近代の総決算である第2次世界大戦後の世界はキリスト教、核兵器、ドルという通貨の三点セットが基軸となった。G7の時代が去り、G20が世界秩序に関与する今、キリスト教国の核と通貨の支配がほころびている。
大西洋から太平洋に軸を移して延命しようとする海の時代が、ユーラシア大陸を中心とする陸の時代に取って代わるのか。
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毒饅頭を食わされたギリシャ
2012-03-04
ギリシャはユーロと言う毒饅頭を食わされた。
誰に、国際金融資本と独仏蘭にである。
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ギリシャだけが悪いのか 護送船団「ユーロ」の盲点 1/19 山田厚史 ダイヤモンド・オンライン
それにしても底が見えないユーロ安だ。昨年末、EU首脳会議で「結束」を確認した欧州だが、今年の焦点は「分裂」である。回避するには「ドイツの決断」が問われる。「統一通貨ユーロはドイツの国益」という、あられもない話が表面化する年になるだろう。
ギリシャはユーロという「毒饅頭」を食べた
「欧州一体化」の象徴であるユーロは「戦争のない安定した欧州の創設」という理想を背負っている。小国がひしめく欧州が多数の国家に分かれていることは、効率的ではない。経済合理性に照らせば、欧州統一は歴史の流れかもしれない。問題は統合で得をするのは誰かにある。国家という単位で損得を測れば、「圧倒的に有利なのはドイツ」である。
ユーロへの加盟で、ギリシャやポルトガルなど周縁国は、つかの間の歓びを味わった。エーゲ海文明のころギリシャにはドラクマという通貨があった。トルコから独立した新生ギリシャは、通貨にドラクマを復活させることで自尊心を回復した。そのドラクマを手放してユーロの一員になった。ギリシャでは政府も国民も、自国の経済に自信がなかったからだ。世界に通用するのは観光とオリーブぐらい。最大の産業は公務員で、日本の地方都市のような国家である。経済は脆弱で、通貨は不安定。ドラクマでは海外の銀行も相手にしてくれない。
ユーロになって世界の銀行がカネを貸してくれた。いざとなったら欧州の強国が支援する、という暗黙の了解があったからだ。
その通りの展開になった。つかい放題つかって借金し、払えなくなって他国に支援を求める。「お金持ちのみなさん、なんとかして下さい」である。これだけ見れば、「ギリシャってひどい国だ」「自助努力せず他国に頼るなんて身勝手だ」という意見がでる。日本でもそんな論調が多い。
だが見方を変えれば、当然の帰結としてギリシャは破綻に追い込まれた、といえるだろう。経済が弱いのは、今始まった話ではない。ユーロという「毒饅頭」を食べたのが原因である。
どうして強者は弱者に恩恵を施すのか
ドラクマのままだったら、どうだっただろう。モノが自由に動く統一市場になってドイツのクルマ、イタリアやフランスのファッションなどがどんどん流入した。貿易は赤字、おカネは流出。ドラクマの価値が下がり、ギリシャは貧しくなる(購買力が小さくなる)が、自国の製品やサービスの値段が安くなり、産業の国際競争力は高まる。ドラクマ安でギリシャ旅行は安くなり、おとずれる観光客は土産物などもどんどん買う。農産物の輸出も増える。貿易赤字は減って、ドラクマも値が上がる。そんなことが可能だった。
売買の手段である通貨には、国際競争力を調節する機能もある。国際取引で通貨はゴルフの「ハンディ」のような役目を果たす。実力に差があっても「ハンディ」をつけることで、互角の戦いが出来る。それが通貨の役割。それぞれの国家が違う通貨を使うことで、国家間の取引は「持続可能」な関係になる。
ユーロへの熱狂が、その大事な役割を忘れさせてしまった。ハンディなしのガチンコが始まったのである。
同じメンバーで卓を囲んでいる麻雀仲間がいるとしよう。いつもニコニコ現金払い、なら問題ないが、勝負の結果を「付け払い」にしていれば、どういうことが起こるか。長く続けていれば、強い人が儲け、弱い人は借金が貯まる。やがて精算できない額になる。そんな時、どうする。
払えるだけ払わせてメンバーから外す、というのが筋だろう。払えなければメンバーの資格はない。だが職場や学校の親しい仲間なら「半分だけ払って後は帳消し」など救済措置が取られることがよくある。
仲間の絆を壊したくない、という配慮もあるだろう。だが、もう一つ大きな理由がある。弱いメンバーを外してしまうと、儲かるカモを失うことになる。強者にとって弱者に恩恵を施すことは、自分が儲かる構造を継続することにつながる。筋を通して取り立てれば金のタマゴを産むニワトリを失う。
思い出した日本金融界の「護送船団方式」
私が新米の経済記者として大蔵省(現財務省)を回っていた頃、こんなことがあった。
昭和50年代半ばに、大光相互銀行という地方の金融機関が乱脈経営で実質的に破綻した。大蔵省の肝いりで救済策が決まった。大手銀行が市場金利より安い巨額の融資をする。大行相互は、その資金で日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)などが発行する金融債を購入する。低利融資と金融債の利ざやは1%ほどあり、運用益で損失を埋めれば数年で再生できる。
興銀も低利融資に加わっていた。安い金利で融資し、そのカネで金融債を買ってもらえば、興銀自身は逆ザヤになってしまう。損する取引ではないか。経営者は特別背任にならないのか。株主代表訴訟に耐えられるのか。夜回りで興銀の幹部に、そんな質問をぶつけた。
「山田さん、まだ金融界が分かっていないね」と笑われた。こんな話だった。
日本の金融界は、大蔵省を頂点に「護送船団方式」という、皆が支え合う仕組みになっている。銀行によって強いところも、弱いところもある。それが、競争してつぶし合ったらどうなるのか。経済は混乱し、融資先や預金者に迷惑をかける。だから、弱い銀行でも生きていけるようにする。1行たりともつぶれない、だから安心して預金しましょう、という「銀行神話」が日本には必要だ。
効率の悪い金融機関でも生きていけるという構造は、興銀のように強い銀行は「超過利潤」を取ることができる。だから大光相互のような破綻が起きたら、蓄えの一部を提供しこの仕組みを存続させる。これは「損失」ではなく、将来の利益のために必要なことなのだ――。
ギリシャの救済でこの話を思い出した。ギリシャが生き続けることはドイツの利益になる。蓄えの一部を吐き出すことは、この仕組みを維持するうえで、当たり前のことなのだ。ドイツは、少なくともドイツの為政者はそのことを知っているはずだ。
あけすけに真実を語れないドイツはどうする?
「国際競争力の調整」という機能を取り外したユーロ体制は、逃げ場がないガチンコ勝負である。さながら鉄条網でリングを囲ったデスマッチ。貿易規制なし、関税ゼロ。完全な自由貿易で勝つのは強い企業をたくさん抱えている国家だ。フォルクスワーゲン、ベンツなど自動車産業、ジーメンスなど電気・機械産業、ドイツ銀行など金融。どれをとってもドイツの優位は不動だ。
通貨がマルクのままだったら輸出で大儲けすればマルク高になり、競争力が落ちる。ユーロになってその心配はない。ユーロランドの国から大儲けして、蓄えた資金で中国など域外に投資する。欧州を制し、グローバル市場に打って出る。中国、インドなどアジア地域で一番活発に事業を展開しているのは、ドイツを筆頭とするユーロの勝ち組である。
武力による欧州統一に挫折したドイツは、経済統合で三度目の正直を果たそうとしている。二つの大戦で欧州を戦場にした敗戦国は、先頭には立てない。野心満々のフランスを押し立て、財政・金融という縁の下の力持ちに徹し、貿易と金融で欧州を統一した。
だが、強国が弱小国を収奪しまくる仕組みは「持続的」ではない。相手がダウンしてしまうとゲームは終わってしまう。安全装置として「欧州金融安定化基金(EFSF)」が強化されようとしているが、今の規模では十分でない。拠出を求められた小国やユーロに入っていない英国が反対している。今の仕組みがドイツを中心とする「勝ち組国家」の利益につながると分かっているからだ。
ドイツが本気で身を乗り出さなければ支援体制はまとまらない。市場に不安が広がり、問題国の金利が跳ね上がる。ギリシャ危機が表面化して2年余りが経つのに、解決の糸口さえも見いだしていない。懸案になっている資金支援は「多重債務者への追い貸し」のようなもので、ユーロ体制の持続的発展を担保するものではない。債務切り捨てや、富める国から貧しい国へと財政支援など、荒療治はまだ始まっていない。
解決を難しくしているのは、経済統合や統一通貨について「本音と建て前」がごちゃごちゃになっていることだ。建前は「全ての国が一緒に豊かになるために」とされているので、ドイツ国民は「自分たちだけが多く負担するのは理屈に合わない」「自助努力の足りない国に私たちの税金を使うな」と主張する。
メルケル首相は「実はユーロは我が国に都合のいいルールで」とは口が裂けても言えない。冷徹な打算で救いの手を差し伸べようとしても「外交的敗北」と有権者は納得しないだろう。だから一歩を踏み出せない。民主主義の弱点だ。市場原理にそった政策の内実は「建前」ほど美しくはないのだ。
夜回りで私に教えてくれた興銀の幹部も、世間に対してそんな説明はしなかった。「金融秩序の安定のため」と抽象的な表現だった。あけすけに言えば、身も蓋もない話なのだ。大蔵省の指導で全てが決まった時代なら、そんな芸当も可能だった。
ドイツが得をする「共通通貨という仕組み」が、説明責任という時代の要請に揺れているのが今の風景だ。正直な情報が公開されなければ民主主義も機能しない。
決断できなければ、市場は待ってくれないだろう。選択肢は、ユーロ分裂か、ドイツが決断するか。しくじれば津波は世界に及ぶ。
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このブログ内での、ユーロの基本的で致命的な欠陥とリーマンショック以来の二極化の危機についての、関連記事リンクです。
・ 通貨、金利と信用創造の特殊な性質
・ 欧州の財政危機」
・ ユーロは夢の終わりか
・ ヨーロッパの危機
・ 動けなくなってきたユーロ」
・ ギリシャを解体、山分けする国際金融資本
・ 過剰信用と恐慌、焼け太る国際金融資本「家」
・ ユーロは凋落、デフレと円高は悪化へ
・ ユーロの危機は労働階級を試練にさらす
・ ギリシャの危機拡大はEUの危機!
・ 公平な分配で経済成長を続けるアルゼンチン
・ アイスランドの教訓:銀行は破綻させよ
・ ギリシャ、イタリアでIMF、EU抗議の大デモ
・ 破滅するユーロか、破滅する国家か
・ 欧州直接統治へ進む国際金融資本
・ ユーロは国民国家を解体するか
・ アイスランドの教訓、ギリシャはドラクマに戻せ
・ ユーロは崩壊か分裂か
・ 動乱の2012年
・ 通貨戦争(46)ドル、ユーロ、円
・ ヨーロッパは恐慌に向かっている
・ ユーロ危機で延命するドル・ 通貨戦争(48)分裂に向かうユーロ
・ 緊迫するユーロ、ギリシャは何処へ向かうか
・ IMF、EU、メルケルと闘うギリシャ
・ ギリシャ、抗議の暴動
・ 資産も主権も国際資本に奪われるギリシャ
・ ギリシャは民主主義を守るためにデフォルトを!
・ ユーロが襲うギリシャの社会危機、政治危機
誰に、国際金融資本と独仏蘭にである。
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ギリシャだけが悪いのか 護送船団「ユーロ」の盲点 1/19 山田厚史 ダイヤモンド・オンライン
それにしても底が見えないユーロ安だ。昨年末、EU首脳会議で「結束」を確認した欧州だが、今年の焦点は「分裂」である。回避するには「ドイツの決断」が問われる。「統一通貨ユーロはドイツの国益」という、あられもない話が表面化する年になるだろう。
ギリシャはユーロという「毒饅頭」を食べた
「欧州一体化」の象徴であるユーロは「戦争のない安定した欧州の創設」という理想を背負っている。小国がひしめく欧州が多数の国家に分かれていることは、効率的ではない。経済合理性に照らせば、欧州統一は歴史の流れかもしれない。問題は統合で得をするのは誰かにある。国家という単位で損得を測れば、「圧倒的に有利なのはドイツ」である。
ユーロへの加盟で、ギリシャやポルトガルなど周縁国は、つかの間の歓びを味わった。エーゲ海文明のころギリシャにはドラクマという通貨があった。トルコから独立した新生ギリシャは、通貨にドラクマを復活させることで自尊心を回復した。そのドラクマを手放してユーロの一員になった。ギリシャでは政府も国民も、自国の経済に自信がなかったからだ。世界に通用するのは観光とオリーブぐらい。最大の産業は公務員で、日本の地方都市のような国家である。経済は脆弱で、通貨は不安定。ドラクマでは海外の銀行も相手にしてくれない。
ユーロになって世界の銀行がカネを貸してくれた。いざとなったら欧州の強国が支援する、という暗黙の了解があったからだ。
その通りの展開になった。つかい放題つかって借金し、払えなくなって他国に支援を求める。「お金持ちのみなさん、なんとかして下さい」である。これだけ見れば、「ギリシャってひどい国だ」「自助努力せず他国に頼るなんて身勝手だ」という意見がでる。日本でもそんな論調が多い。
だが見方を変えれば、当然の帰結としてギリシャは破綻に追い込まれた、といえるだろう。経済が弱いのは、今始まった話ではない。ユーロという「毒饅頭」を食べたのが原因である。
どうして強者は弱者に恩恵を施すのか
ドラクマのままだったら、どうだっただろう。モノが自由に動く統一市場になってドイツのクルマ、イタリアやフランスのファッションなどがどんどん流入した。貿易は赤字、おカネは流出。ドラクマの価値が下がり、ギリシャは貧しくなる(購買力が小さくなる)が、自国の製品やサービスの値段が安くなり、産業の国際競争力は高まる。ドラクマ安でギリシャ旅行は安くなり、おとずれる観光客は土産物などもどんどん買う。農産物の輸出も増える。貿易赤字は減って、ドラクマも値が上がる。そんなことが可能だった。
売買の手段である通貨には、国際競争力を調節する機能もある。国際取引で通貨はゴルフの「ハンディ」のような役目を果たす。実力に差があっても「ハンディ」をつけることで、互角の戦いが出来る。それが通貨の役割。それぞれの国家が違う通貨を使うことで、国家間の取引は「持続可能」な関係になる。
ユーロへの熱狂が、その大事な役割を忘れさせてしまった。ハンディなしのガチンコが始まったのである。
同じメンバーで卓を囲んでいる麻雀仲間がいるとしよう。いつもニコニコ現金払い、なら問題ないが、勝負の結果を「付け払い」にしていれば、どういうことが起こるか。長く続けていれば、強い人が儲け、弱い人は借金が貯まる。やがて精算できない額になる。そんな時、どうする。
払えるだけ払わせてメンバーから外す、というのが筋だろう。払えなければメンバーの資格はない。だが職場や学校の親しい仲間なら「半分だけ払って後は帳消し」など救済措置が取られることがよくある。
仲間の絆を壊したくない、という配慮もあるだろう。だが、もう一つ大きな理由がある。弱いメンバーを外してしまうと、儲かるカモを失うことになる。強者にとって弱者に恩恵を施すことは、自分が儲かる構造を継続することにつながる。筋を通して取り立てれば金のタマゴを産むニワトリを失う。
思い出した日本金融界の「護送船団方式」
私が新米の経済記者として大蔵省(現財務省)を回っていた頃、こんなことがあった。
昭和50年代半ばに、大光相互銀行という地方の金融機関が乱脈経営で実質的に破綻した。大蔵省の肝いりで救済策が決まった。大手銀行が市場金利より安い巨額の融資をする。大行相互は、その資金で日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)などが発行する金融債を購入する。低利融資と金融債の利ざやは1%ほどあり、運用益で損失を埋めれば数年で再生できる。
興銀も低利融資に加わっていた。安い金利で融資し、そのカネで金融債を買ってもらえば、興銀自身は逆ザヤになってしまう。損する取引ではないか。経営者は特別背任にならないのか。株主代表訴訟に耐えられるのか。夜回りで興銀の幹部に、そんな質問をぶつけた。
「山田さん、まだ金融界が分かっていないね」と笑われた。こんな話だった。
日本の金融界は、大蔵省を頂点に「護送船団方式」という、皆が支え合う仕組みになっている。銀行によって強いところも、弱いところもある。それが、競争してつぶし合ったらどうなるのか。経済は混乱し、融資先や預金者に迷惑をかける。だから、弱い銀行でも生きていけるようにする。1行たりともつぶれない、だから安心して預金しましょう、という「銀行神話」が日本には必要だ。
効率の悪い金融機関でも生きていけるという構造は、興銀のように強い銀行は「超過利潤」を取ることができる。だから大光相互のような破綻が起きたら、蓄えの一部を提供しこの仕組みを存続させる。これは「損失」ではなく、将来の利益のために必要なことなのだ――。
ギリシャの救済でこの話を思い出した。ギリシャが生き続けることはドイツの利益になる。蓄えの一部を吐き出すことは、この仕組みを維持するうえで、当たり前のことなのだ。ドイツは、少なくともドイツの為政者はそのことを知っているはずだ。
あけすけに真実を語れないドイツはどうする?
「国際競争力の調整」という機能を取り外したユーロ体制は、逃げ場がないガチンコ勝負である。さながら鉄条網でリングを囲ったデスマッチ。貿易規制なし、関税ゼロ。完全な自由貿易で勝つのは強い企業をたくさん抱えている国家だ。フォルクスワーゲン、ベンツなど自動車産業、ジーメンスなど電気・機械産業、ドイツ銀行など金融。どれをとってもドイツの優位は不動だ。
通貨がマルクのままだったら輸出で大儲けすればマルク高になり、競争力が落ちる。ユーロになってその心配はない。ユーロランドの国から大儲けして、蓄えた資金で中国など域外に投資する。欧州を制し、グローバル市場に打って出る。中国、インドなどアジア地域で一番活発に事業を展開しているのは、ドイツを筆頭とするユーロの勝ち組である。
武力による欧州統一に挫折したドイツは、経済統合で三度目の正直を果たそうとしている。二つの大戦で欧州を戦場にした敗戦国は、先頭には立てない。野心満々のフランスを押し立て、財政・金融という縁の下の力持ちに徹し、貿易と金融で欧州を統一した。
だが、強国が弱小国を収奪しまくる仕組みは「持続的」ではない。相手がダウンしてしまうとゲームは終わってしまう。安全装置として「欧州金融安定化基金(EFSF)」が強化されようとしているが、今の規模では十分でない。拠出を求められた小国やユーロに入っていない英国が反対している。今の仕組みがドイツを中心とする「勝ち組国家」の利益につながると分かっているからだ。
ドイツが本気で身を乗り出さなければ支援体制はまとまらない。市場に不安が広がり、問題国の金利が跳ね上がる。ギリシャ危機が表面化して2年余りが経つのに、解決の糸口さえも見いだしていない。懸案になっている資金支援は「多重債務者への追い貸し」のようなもので、ユーロ体制の持続的発展を担保するものではない。債務切り捨てや、富める国から貧しい国へと財政支援など、荒療治はまだ始まっていない。
解決を難しくしているのは、経済統合や統一通貨について「本音と建て前」がごちゃごちゃになっていることだ。建前は「全ての国が一緒に豊かになるために」とされているので、ドイツ国民は「自分たちだけが多く負担するのは理屈に合わない」「自助努力の足りない国に私たちの税金を使うな」と主張する。
メルケル首相は「実はユーロは我が国に都合のいいルールで」とは口が裂けても言えない。冷徹な打算で救いの手を差し伸べようとしても「外交的敗北」と有権者は納得しないだろう。だから一歩を踏み出せない。民主主義の弱点だ。市場原理にそった政策の内実は「建前」ほど美しくはないのだ。
夜回りで私に教えてくれた興銀の幹部も、世間に対してそんな説明はしなかった。「金融秩序の安定のため」と抽象的な表現だった。あけすけに言えば、身も蓋もない話なのだ。大蔵省の指導で全てが決まった時代なら、そんな芸当も可能だった。
ドイツが得をする「共通通貨という仕組み」が、説明責任という時代の要請に揺れているのが今の風景だ。正直な情報が公開されなければ民主主義も機能しない。
決断できなければ、市場は待ってくれないだろう。選択肢は、ユーロ分裂か、ドイツが決断するか。しくじれば津波は世界に及ぶ。
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このブログ内での、ユーロの基本的で致命的な欠陥とリーマンショック以来の二極化の危機についての、関連記事リンクです。
・ 通貨、金利と信用創造の特殊な性質
・ 欧州の財政危機」
・ ユーロは夢の終わりか
・ ヨーロッパの危機
・ 動けなくなってきたユーロ」
・ ギリシャを解体、山分けする国際金融資本
・ 過剰信用と恐慌、焼け太る国際金融資本「家」
・ ユーロは凋落、デフレと円高は悪化へ
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巨大地震、津波の予測を改ざん、握り潰したた文科省
2012-03-04
大震災の直前に、東北沖の巨大地震と大津波の予測が出されていた。
文部科学省はわざわざ電力会社の意向を聞き出し、報告を改ざんし、捏造の果てに握りつぶしていた。
(太字は引用者)
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電力会社求め巨大津波警戒を修正 地震調査報告書で文科省 2/25 共同
東日本大震災の8日前、宮城―福島沖での巨大津波の危険を指摘する報告書を作成中だった政府の地震調査委員会事務局(文部科学省)が、東京電力など原発を持つ3社と非公式会合を開催、電力会社が巨大津波や地震への警戒を促す表現を変えるよう求め、事務局が「工夫する」と修正を受け入れていたことが、25日までの情報公開請求などで分かった。
報告書の修正案は昨年3月11日の震災の影響で公表されていない。調査委の委員を務める研究者らも知らされておらず「信じられない」などの声が出ている。電力会社との「擦り合わせ」とも取られかねず、文科省の姿勢が問われそうだ。
文科省は「誤解を招かないよう表現を修正した」などと説明。東電は「文科省から情報交換したいとの要請があった。(修正を求めたのは)正確に記載してほしいとの趣旨だった」としている。
作成中だった報告書は、宮城県などを襲った貞観地震津波(869年)の新知見を反映させた地震の「長期評価」。貞観地震と同規模の地震が繰り返し起きる可能性があると指摘されていた。
開示された資料や取材によると、会合は「情報交換会」と呼ばれ、昨年3月3日午前10時から正午まで省内の会議室で開催。青森、宮城、福島、茨城各県に原発を持つ東電、東北電力、日本原子力発電から計9人が出席した。
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巨大津波警戒の報告書修正 電力会社の注文受け文科省 2/26 中国新聞
東日本大震災の8日前、宮城―福島沖での巨大津波の危険を指摘する報告書を作成中だった政府の地震調査委員会事務局(文部科学省)が、東京電力など原発を持つ3社と非公式会合を開催、電力会社が巨大津波や地震への警戒を促す表現を変えるよう求め、事務局が「工夫する」と修正を受け入れていたことが、25日までの情報公開請求などで分かった。
報告書の修正案は昨年3月11日の震災の影響で公表されていない。調査委の委員を務める研究者らも知らされておらず「信じられない」などの声が出ている。電力会社との「擦り合わせ」とも取られかねず、文科省の姿勢が問われそうだ。
文科省は「誤解を招かないよう表現を修正した」などと説明。東電は「文科省から情報交換したいとの要請があった。(修正を求めたのは)正確に記載してほしいとの趣旨だった」としている。
作成中だった報告書は、宮城県などを襲った貞観地震津波(869年)の新知見を反映させた地震の「長期評価」。貞観地震と同規模の地震が繰り返し起きる可能性があると指摘されていた。
開示された資料や取材によると、会合は「情報交換会」と呼ばれ、昨年3月3日午前10時から正午まで省内の会議室で開催。青森、宮城、福島、茨城各県に原発を持つ東電、東北電力、日本原子力発電から計9人が出席した。
巨大津波への警戒を促す記述について、東電などは「貞観地震が繰り返していると誤解されないようにしてほしい」と要求。文科省は「内容は変えないが、誤解を生じにくいよう文章を工夫したい」と応じ、数日後には「繰り返し発生しているかは適切なデータが十分でないため、さらなる調査研究が必要」などとする修正案を作成した。
電力会社側はさらに活断層評価に関する意見交換会も要求。昨年3月末に会合が予定されたが、結局開かれなかった。
政府の東京電力福島第1原発事故調査・検証委員会によると、東電は昨年3月7日、経済産業省原子力安全・保安院に「貞観地震の記述を変更するよう文科省に求めた」と報告している。
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「いつ起きても」を削除 巨大津波の記述、文科省 2/28 中国新聞
東日本大震災直前の昨年2月、政府の地震調査委員会(文部科学省)が東北地方の巨大津波について、報告書に「いつ起きてもおかしくはない」と警戒する記述を盛り込むことを検討しながら、委員の議論を受けて削除していたことが、28日までの文部科学省への情報公開請求などで分かった。「切迫度のより高い東海地震と同じ表現を使うのは不適切」との理由だった。
報告書案は震災8日前、文科省と東京電力など3社との非公式会合に提示。電力会社の要求でさらに表現を弱めた修正案がつくられたが、結局公表されなかった。
委員は大学の研究者を中心に気象庁などの専門家ら計十数人。報告書は、三陸沖―房総沖の地震の発生確率などを求める「長期評価」の見直しの一環で作成していた。
開示資料と取材によると、報告書案では「宮城県沖から福島県沖にかけて」という項目を新設。両県の太平洋沿岸の地中で、過去2500年間に貞観地震(869年、マグニチュード推定8・3)など計4回、巨大津波が来たことを示す堆積物が見つかったとの研究結果に基づき「(周期から)巨大津波を伴う地震がいつ発生してもおかしくはない」と記述した。
だが、この文言が東海地震と結び付けて考えられる可能性があるなどとの指摘が出た。30年以内の発生確率が87%(現在は88%)だった東海地震と比べ、貞観地震などの再来にはそこまでの切迫性はないとして「発生する可能性があることに留意する必要がある」と弱められた。
当初あった「巨大津波による堆積物が約450~800年程度の間隔で堆積」「前回から既に500年経過」などの表現も削除された。
東日本大震災について、地震調査委は昨年3月11日時点にさかのぼって発生確率を推定。「30年以内で10~20%」だったとしている。
文部科学省はわざわざ電力会社の意向を聞き出し、報告を改ざんし、捏造の果てに握りつぶしていた。
(太字は引用者)
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電力会社求め巨大津波警戒を修正 地震調査報告書で文科省 2/25 共同
東日本大震災の8日前、宮城―福島沖での巨大津波の危険を指摘する報告書を作成中だった政府の地震調査委員会事務局(文部科学省)が、東京電力など原発を持つ3社と非公式会合を開催、電力会社が巨大津波や地震への警戒を促す表現を変えるよう求め、事務局が「工夫する」と修正を受け入れていたことが、25日までの情報公開請求などで分かった。
報告書の修正案は昨年3月11日の震災の影響で公表されていない。調査委の委員を務める研究者らも知らされておらず「信じられない」などの声が出ている。電力会社との「擦り合わせ」とも取られかねず、文科省の姿勢が問われそうだ。
文科省は「誤解を招かないよう表現を修正した」などと説明。東電は「文科省から情報交換したいとの要請があった。(修正を求めたのは)正確に記載してほしいとの趣旨だった」としている。
作成中だった報告書は、宮城県などを襲った貞観地震津波(869年)の新知見を反映させた地震の「長期評価」。貞観地震と同規模の地震が繰り返し起きる可能性があると指摘されていた。
開示された資料や取材によると、会合は「情報交換会」と呼ばれ、昨年3月3日午前10時から正午まで省内の会議室で開催。青森、宮城、福島、茨城各県に原発を持つ東電、東北電力、日本原子力発電から計9人が出席した。
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巨大津波警戒の報告書修正 電力会社の注文受け文科省 2/26 中国新聞
東日本大震災の8日前、宮城―福島沖での巨大津波の危険を指摘する報告書を作成中だった政府の地震調査委員会事務局(文部科学省)が、東京電力など原発を持つ3社と非公式会合を開催、電力会社が巨大津波や地震への警戒を促す表現を変えるよう求め、事務局が「工夫する」と修正を受け入れていたことが、25日までの情報公開請求などで分かった。
報告書の修正案は昨年3月11日の震災の影響で公表されていない。調査委の委員を務める研究者らも知らされておらず「信じられない」などの声が出ている。電力会社との「擦り合わせ」とも取られかねず、文科省の姿勢が問われそうだ。
文科省は「誤解を招かないよう表現を修正した」などと説明。東電は「文科省から情報交換したいとの要請があった。(修正を求めたのは)正確に記載してほしいとの趣旨だった」としている。
作成中だった報告書は、宮城県などを襲った貞観地震津波(869年)の新知見を反映させた地震の「長期評価」。貞観地震と同規模の地震が繰り返し起きる可能性があると指摘されていた。
開示された資料や取材によると、会合は「情報交換会」と呼ばれ、昨年3月3日午前10時から正午まで省内の会議室で開催。青森、宮城、福島、茨城各県に原発を持つ東電、東北電力、日本原子力発電から計9人が出席した。
巨大津波への警戒を促す記述について、東電などは「貞観地震が繰り返していると誤解されないようにしてほしい」と要求。文科省は「内容は変えないが、誤解を生じにくいよう文章を工夫したい」と応じ、数日後には「繰り返し発生しているかは適切なデータが十分でないため、さらなる調査研究が必要」などとする修正案を作成した。
電力会社側はさらに活断層評価に関する意見交換会も要求。昨年3月末に会合が予定されたが、結局開かれなかった。
政府の東京電力福島第1原発事故調査・検証委員会によると、東電は昨年3月7日、経済産業省原子力安全・保安院に「貞観地震の記述を変更するよう文科省に求めた」と報告している。
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「いつ起きても」を削除 巨大津波の記述、文科省 2/28 中国新聞
東日本大震災直前の昨年2月、政府の地震調査委員会(文部科学省)が東北地方の巨大津波について、報告書に「いつ起きてもおかしくはない」と警戒する記述を盛り込むことを検討しながら、委員の議論を受けて削除していたことが、28日までの文部科学省への情報公開請求などで分かった。「切迫度のより高い東海地震と同じ表現を使うのは不適切」との理由だった。
報告書案は震災8日前、文科省と東京電力など3社との非公式会合に提示。電力会社の要求でさらに表現を弱めた修正案がつくられたが、結局公表されなかった。
委員は大学の研究者を中心に気象庁などの専門家ら計十数人。報告書は、三陸沖―房総沖の地震の発生確率などを求める「長期評価」の見直しの一環で作成していた。
開示資料と取材によると、報告書案では「宮城県沖から福島県沖にかけて」という項目を新設。両県の太平洋沿岸の地中で、過去2500年間に貞観地震(869年、マグニチュード推定8・3)など計4回、巨大津波が来たことを示す堆積物が見つかったとの研究結果に基づき「(周期から)巨大津波を伴う地震がいつ発生してもおかしくはない」と記述した。
だが、この文言が東海地震と結び付けて考えられる可能性があるなどとの指摘が出た。30年以内の発生確率が87%(現在は88%)だった東海地震と比べ、貞観地震などの再来にはそこまでの切迫性はないとして「発生する可能性があることに留意する必要がある」と弱められた。
当初あった「巨大津波による堆積物が約450~800年程度の間隔で堆積」「前回から既に500年経過」などの表現も削除された。
東日本大震災について、地震調査委は昨年3月11日時点にさかのぼって発生確率を推定。「30年以内で10~20%」だったとしている。
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