危険なセシウム循環飛散、環境省の嘘:武田
2012-02-25
セシウム・・・再飛散の恐ろしさ(瓦礫と同じ新しい危険) 2/25 武田邦彦
福島を中心にセシウムの「降下量」が12月から増え、2月になっても一日あたり100ベクレルをこえる日が続いています。これについて政府、自治体、マスコミが報道しないのは、その重要性について理解していないものと思います。
3月に東北南部・関東北部の国民は被曝の一撃を受けました。それは徐々に減少し、6月から7月頃には「空から降ってくる放射性物質」は減り、ようやく打撃を受けることが少なくなったのです。
10月、11月になるとセシウムの定時降下物は1日あたり10ベクレルを切るようになり私もホッとしていました。
ところが12月中旬からセシウムが増え始め、1月には400ベクレルを超えることや、100ベクレルを超える日が多く出てきました。2月も15日に300ベクレルに達するなど、むしろ増加傾向が続いています。

この問題の危険性は上の図に示したように、「3月、4月の一撃だけ」から「あちこちから来る放射性物質で、100年間繰り返し被曝する」という状態へと変わったことを示しています。つまり、放射性物質は100年は無くならないし、人の体を何回も通り過ぎてもその量は変わりません。
つまり、1月の被曝量が規制値の10分の1でも、1年(12ヶ月)では規制値の1.2倍になってしまうという「繰り返し被曝」が発生するからです。
初期の除染が大切なのはこれも心配だったからです。つまり、地面に降った放射性物質が土にしみこみ、そこからの放射線で被曝するばかりではなく、空気中に飛散したもので呼吸から内部被曝を受けます。
良く原理を知らない人が「セシウムの降下物が増えていると言っても、空間線量が変わらないから大丈夫」のように言っていますが、空間線量の主力は地面からで、セシウムが空気中にあればそれを呼吸で吸い込んで3ヶ月分、被曝するからまったく別なのです。
また、福島県が1月2日の432ベクレルについて、「被曝量は規制値の500分の1」という発表があり、私の計算とかなり違っていたので、「100ベクレルはとれた野菜が危険なレベル」という表現にしておきましたが、よくよく検討すると、福島県の説明はおそらく間違いと思います。
つまり、福島県の「500分の1」というのは、空中に飛散する放射性物質を呼吸で体内に取り込むことはなく(福島県の人は呼吸しないという仮定)、地面に落ちた放射性物質からの空間線量のことを言っていることがわかったのです。「福島の人は呼吸しない」という県の仮定もかなり大胆で、セシウムが降下するというのは、降下する前に空中に漂っていたからですから、もっとも注意を必要とするのは呼吸、つまり「マスクをかける」ということだからです。
瓦礫やゴミの焼却、薪ストーブがすべて危険なのは、日本人がドンドン内部に放射性物質を貯めてしまうからで、政府発表の80億ベクレルという数値は、日本人が平均的に被曝すれば日本に誰も住めないという数字であることを再確認し、また県は県民の健康を守ることを第一にして欲しいと思います。
内部被曝量は、降下する物質が5ミクロン以下か、以上かで肺に入るか、胃に行くかなど難しいところがあり、さらに降下しているものは、5月頃まではヨウ素も含み、現在は少ないとはいえストロンチウムやプルトニウムも含んでいます。
また人間が一日に呼吸する量は約20立方メートルですから、どのような粒がどのよに飛散しているかによって違いますが、おおよそ、100ベクレル(平方メートルあたり)なら、一日に100ベクレルの被曝を受けることになり、これを毎日続けていると、100で割るとミリシーベルト(年間)になりますから、100ベクレルのところに住んでいれば、マスクをしなければ1年1ミリの被曝になります。
これは福島県発表の500倍ですから、もしできれば福島県と計算を検討したいと思いますが、おそらく応じてくれないでしょう。これまで、福島の原子力センターや放射線防護の機関に度々、質問をしているのですが、返事がありません。
専門家が個別のデータを出すのではなく、考えや計算の違う人ほど、相互によく計算をつきあわせて国民に迷惑をかけないようにするべきと思います。
情報短信 瓦礫処理のウソ:環境省とはなにものか? 2/25 武田邦彦
読売新聞の2月21日に環境省の全面広告が乗りました。瓦礫処理について、「広域処理をお願いする岩手県と宮城県の沿岸部は福島第一原発から100キロ~250キロ以上離れており、空間放射線量は他の地域とほぼ同等です」とあります。
まず事実として宮城県南部は福島原発から100キロを切るところがあります。第二に汚染は原発からの距離ではなく(放射線が原発から来るわけではなく)、放射性物質が降った場所ですから、それも誤魔化そうとしています。また、瓦礫が汚染されていても空間線量率にそれほど影響はありません。
瓦礫の処理では細野環境相が「(被災地以外の地域が瓦礫を)受け入れられない理屈は通らない」と言っていることで、泉田新潟県知事が「どこに市町村ごとに核廃棄物場を持っている国があるのか」、「国が環境整備をしないといけない。国際原子力機関(IAEA)の基本原則で言えば、放射性物質は集中管理をするべきだ」としているのはもっともである。
もともと、環境省は経産省などの他の官庁が「生産優先」で仕事をすると環境が悪化するのでそれを食い止める役割を負っていましたが、リサイクル、温暖化と続く利権に飲み込まれ、今ではすっかり「国民の健康を損ない、環境を悪化させる役割」を追い、このところ15年、ウソばかりついています。
そういえば、IPCC(地球温暖化政府間パネル:国連機関)が「温暖化すると南極の氷が増える」と報告しているにも関わらず、日本人が英語を読まないことを考えて「増える」という英語を「減る」と訳した前科を持つ役所です。これでずいぶん多くの人がだまされました。
リサイクルや温暖化についての環境省のウソは「お金」だけのことですが、被曝となると「健康」に直接関係があるので、早く環境省をつぶす必要があります。マスコミも長い間、環境省にダマされていたのですから、この際、国民側に立ってください。
東北では「瓦礫処理施設が欲しい」と言っているのに、環境省が審査を遅らせ「3年間は許可を出さない」と言っているのですが、その理由は「瓦礫は放射線を含むから審査を慎重にしなければならない」というらしい(伝聞)のですからすでに「公僕」としての役所ではないと考えられます。
福島を中心にセシウムの「降下量」が12月から増え、2月になっても一日あたり100ベクレルをこえる日が続いています。これについて政府、自治体、マスコミが報道しないのは、その重要性について理解していないものと思います。
3月に東北南部・関東北部の国民は被曝の一撃を受けました。それは徐々に減少し、6月から7月頃には「空から降ってくる放射性物質」は減り、ようやく打撃を受けることが少なくなったのです。
10月、11月になるとセシウムの定時降下物は1日あたり10ベクレルを切るようになり私もホッとしていました。
ところが12月中旬からセシウムが増え始め、1月には400ベクレルを超えることや、100ベクレルを超える日が多く出てきました。2月も15日に300ベクレルに達するなど、むしろ増加傾向が続いています。

この問題の危険性は上の図に示したように、「3月、4月の一撃だけ」から「あちこちから来る放射性物質で、100年間繰り返し被曝する」という状態へと変わったことを示しています。つまり、放射性物質は100年は無くならないし、人の体を何回も通り過ぎてもその量は変わりません。
つまり、1月の被曝量が規制値の10分の1でも、1年(12ヶ月)では規制値の1.2倍になってしまうという「繰り返し被曝」が発生するからです。
初期の除染が大切なのはこれも心配だったからです。つまり、地面に降った放射性物質が土にしみこみ、そこからの放射線で被曝するばかりではなく、空気中に飛散したもので呼吸から内部被曝を受けます。
良く原理を知らない人が「セシウムの降下物が増えていると言っても、空間線量が変わらないから大丈夫」のように言っていますが、空間線量の主力は地面からで、セシウムが空気中にあればそれを呼吸で吸い込んで3ヶ月分、被曝するからまったく別なのです。
また、福島県が1月2日の432ベクレルについて、「被曝量は規制値の500分の1」という発表があり、私の計算とかなり違っていたので、「100ベクレルはとれた野菜が危険なレベル」という表現にしておきましたが、よくよく検討すると、福島県の説明はおそらく間違いと思います。
つまり、福島県の「500分の1」というのは、空中に飛散する放射性物質を呼吸で体内に取り込むことはなく(福島県の人は呼吸しないという仮定)、地面に落ちた放射性物質からの空間線量のことを言っていることがわかったのです。「福島の人は呼吸しない」という県の仮定もかなり大胆で、セシウムが降下するというのは、降下する前に空中に漂っていたからですから、もっとも注意を必要とするのは呼吸、つまり「マスクをかける」ということだからです。
瓦礫やゴミの焼却、薪ストーブがすべて危険なのは、日本人がドンドン内部に放射性物質を貯めてしまうからで、政府発表の80億ベクレルという数値は、日本人が平均的に被曝すれば日本に誰も住めないという数字であることを再確認し、また県は県民の健康を守ることを第一にして欲しいと思います。
内部被曝量は、降下する物質が5ミクロン以下か、以上かで肺に入るか、胃に行くかなど難しいところがあり、さらに降下しているものは、5月頃まではヨウ素も含み、現在は少ないとはいえストロンチウムやプルトニウムも含んでいます。
また人間が一日に呼吸する量は約20立方メートルですから、どのような粒がどのよに飛散しているかによって違いますが、おおよそ、100ベクレル(平方メートルあたり)なら、一日に100ベクレルの被曝を受けることになり、これを毎日続けていると、100で割るとミリシーベルト(年間)になりますから、100ベクレルのところに住んでいれば、マスクをしなければ1年1ミリの被曝になります。
これは福島県発表の500倍ですから、もしできれば福島県と計算を検討したいと思いますが、おそらく応じてくれないでしょう。これまで、福島の原子力センターや放射線防護の機関に度々、質問をしているのですが、返事がありません。
専門家が個別のデータを出すのではなく、考えや計算の違う人ほど、相互によく計算をつきあわせて国民に迷惑をかけないようにするべきと思います。
情報短信 瓦礫処理のウソ:環境省とはなにものか? 2/25 武田邦彦
読売新聞の2月21日に環境省の全面広告が乗りました。瓦礫処理について、「広域処理をお願いする岩手県と宮城県の沿岸部は福島第一原発から100キロ~250キロ以上離れており、空間放射線量は他の地域とほぼ同等です」とあります。
まず事実として宮城県南部は福島原発から100キロを切るところがあります。第二に汚染は原発からの距離ではなく(放射線が原発から来るわけではなく)、放射性物質が降った場所ですから、それも誤魔化そうとしています。また、瓦礫が汚染されていても空間線量率にそれほど影響はありません。
瓦礫の処理では細野環境相が「(被災地以外の地域が瓦礫を)受け入れられない理屈は通らない」と言っていることで、泉田新潟県知事が「どこに市町村ごとに核廃棄物場を持っている国があるのか」、「国が環境整備をしないといけない。国際原子力機関(IAEA)の基本原則で言えば、放射性物質は集中管理をするべきだ」としているのはもっともである。
もともと、環境省は経産省などの他の官庁が「生産優先」で仕事をすると環境が悪化するのでそれを食い止める役割を負っていましたが、リサイクル、温暖化と続く利権に飲み込まれ、今ではすっかり「国民の健康を損ない、環境を悪化させる役割」を追い、このところ15年、ウソばかりついています。
そういえば、IPCC(地球温暖化政府間パネル:国連機関)が「温暖化すると南極の氷が増える」と報告しているにも関わらず、日本人が英語を読まないことを考えて「増える」という英語を「減る」と訳した前科を持つ役所です。これでずいぶん多くの人がだまされました。
リサイクルや温暖化についての環境省のウソは「お金」だけのことですが、被曝となると「健康」に直接関係があるので、早く環境省をつぶす必要があります。マスコミも長い間、環境省にダマされていたのですから、この際、国民側に立ってください。
東北では「瓦礫処理施設が欲しい」と言っているのに、環境省が審査を遅らせ「3年間は許可を出さない」と言っているのですが、その理由は「瓦礫は放射線を含むから審査を慎重にしなければならない」というらしい(伝聞)のですからすでに「公僕」としての役所ではないと考えられます。
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ユーロが襲うギリシャの社会危機、政治危機
2012-02-25
ギリシャは債務の肩代わりにEUに国家主権と民主制度を制限され、官民の資産を国際資本に収奪されることとなった。
重大な社会危機であり、政治危機である。
一方、EUの「優等国」は各政権ともに国内政治基盤を失わないためには、妥協はできない。
そして、アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリアなどの国民は、この状況展開を注視している。
状況はユーロ圏内に「帝国主義」と「植民地」が現れたに等しい。
リーマンショック以来の「優等国」と「劣等国」への分解は、ついにユーロ内に、とんでもない分断をもたらしてしまった。
主権国家が通貨発行権を持たないことの恐ろしさが、明らかになってしまった。
第二、第三のギリシャが現れるのも疑いはない。
ギリシャの政府が政権を維持できるとはとても思われない。
ユーロとは一体何だったのか。
国際金融資本がヨーロッパの資産を掠めるための仕掛けだった疑いが強い。
ユーロの夢は終わった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
続 主権が奪われるギリシャ 2/24 三橋貴明 Klugから
ギリシャ危機が、再び大詰めを迎えようとしている。
ギリシャは3月20日に国債145ユーロ(1兆3000億円)の償還を控えているが、現時点ではギリシャ政府が自力で借り入れを返済できる可能性はない。ギリシャの突発的なデフォルトを防ぐために、ギリシャ政府と債権者間で債務減免の協議が継続し、さらにユーロ圏の財務大臣たちがブリュッセルに集まり、第二次ギリシャ支援実施に向けた各種の詰めを行っている。
ギリシャ側は、第二次ギリシャ支援を受けるための条件を「全て」満たしたと主張している。
『2012年2月20日 ブルームバーグ紙「ギリシャ財務相:不透明な長い時期は終わる-救済条件は全て満たした」
ギリシャのベニゼロス財務相は20日、第2次救済の承認をこの日得るために必要な全ての条件を同国が満たしたと言明した。
ベニゼロス財務相はブリュッセルで記者団に対し、「ギリシャ経済のみならずユーロ圏全体にとってもプラスではなかった不透明な長い時期が今日終わるだろう」と語った。アテネの同財務相のオフィスが電子メールで発言内容を配布した。
同相はさらに「欧州は今、何が重要かを認識している。それは完全かつ実施された決定とともに、首尾一貫して常に変わることがない規則を伴う明確なメッセージを送ることだ」と論じた。』
財務相会合でギリシャ支援について合意できない場合、3月1日に予定されるEU首脳会議に結論が先送りされる。その場合、手続き的な期間を考慮すると、3月20日の国債償還に支援が間に合うかどうか、大変微妙な事態となる。
一部の報道によると、ギリシャ政府は民間債権者との「債務交換」について3月8日に開始し、3月11日までの完了を目指すとのことである。債務交換と書けば聞こえはいいが、現在も協議されている「ギリシャ救済」案では、同国の債権を購入した独仏の銀行などの債権者は実質的に70%の損失を負担することになってしまう。
債権者が70%もの損失を被るなど、ギリシャ政府のデフォルト(債務不履行)以外の何物でもないと思うわけだが、EU首脳は、
「これは債権者側の『自発的な債権放棄』であるため、デフォルトに該当しない」
という強弁で乗り切るつもりのようである。
とはいえ、別にギリシャ債を持つ債権者の「全て」が莫大な損失が発生する債務交換に応じるわけではない。ギリシャ政府は債務交換に応じない債権者に「損失受け入れを強制する」法案の作成を進めている。すなわち「集団行動条項」である。
債務交換に応じなかった債権者に「集団行動条項」を用いて損失を強制した場合であっても、果たしてEU首脳陣は「これもデフォルトではない」と言い張るのだろうか。常識的には不可能だが、とにかく現在のEU首脳陣は、ギリシャのデフォルトを「表向き」回避するためであるならば、どんな屁理屈でも言い出しかねない。
集団行動条約により債権者が損失を強制された場合であっても、
「いや、これはギリシャの『集団行動条項』という法律により、債権者が『自発的な債権放棄を強制された』だけに過ぎない。よって、デフォルトには該当しない」
などと、強弁を通り越した無茶苦茶な言い分で、EU側はギリシャのデフォルトを否定にかかるだろう。とはいえ、さすがにCDSを購入していた機関投資家が、上記の強弁を認めるとは思えない。というよりも、債権者が強制的に債権放棄を強いられた状況においても、ギリシャがデフォルト認定されない場合、CDSのプレミアムを支払っていた機関投資家たちが大損をすることになる。
彼らは当然ながら、EU首脳陣もしくはCDSを販売していた保険会社への訴訟行為に出るであろうし、そう簡単にことが収まるとは思えない。
いずれにせよ、上記の「3月8日からの債務交換開始」は、本稿執筆時点でも結論が出ていない財務相会談において、第二次ギリシャ支援が決定された場合にのみ可能となる。結論が先送りされ、3月1日のEU首脳会談に持ち越されてしまうと、ギリシャ政府が債権者と債務交換を始めても、20日の国債償還には間に合わない可能性が出てくるわけだ。
しかも、ECBが保有する500億ユーロという巨額のギリシャ債権については、債務交換の「対象外」となる可能性が高い。何しろ、ECB自身がギリシャ政府と、
「我々が購入したギリシャ債は、債務交換の対象から外せ」
と交渉しているのである。民間の債権者は、半強制的に(事実上、強制的に)極めて不利な債務交換に応じさせられ、中央銀行であるECBは対象外となるわけだ。中央銀行は損失を免れ、民間債権者は七割の損失を強いられる。こんな有様に至っても、
「ギリシャはデフォルトしていない」
と、EU首脳陣が声高に叫び続ける。不思議な時代になったものだ。
さて、冒頭の記事にもあるように、ギリシャのベニゼロス財務大臣は、
「ギリシャ経済のみならずユーロ圏全体にとってもプラスではなかった不透明な長い時期が今日終わるだろう」
と大見得を切っているが、残念ながらギリシャが第二次支援を受け、3月20日の国債償還を乗り切ることができたとしても、不透明な時期は終わらない。何しろ、現在のギリシャは事実上のデフレ状態に突入しているのである。
ギリシャが支援を受けるための緊縮財政を強行した場合、すでにしてマイナス成長に突入している名目GDPが、さらに減少することになる。本連載で散々に繰り返してきた通り、政府の税収は名目GDPと相関関係にある。
デフレ期の政府が緊縮財政を実施すると、国内の景気は一気に悪化する。企業は黒字を出せなくなり、法人税を支払えなくなり、さらに失業者が増える。失業者は所得税を支払う必要がないため、デフレ期の国が緊縮財政を強行すると、政府は減収になってしまうのだ。
ギリシャ政府の租税収入が減ると、当然の話として財政はこれまで以上に悪化することになる。EU首脳部は、またもやギリシャ支援を迫られ、再度、ギリシャに対し緊縮財政を強要するしかない。
EUからのさらなる緊縮財政要求をギリシャ側が受けた場合、またまた名目GDPが減り、税収減と財政悪化を招く悪循環に突入してしまうオチとなる。
【図142-1 ギリシャのインフレ率(対前年比)と失業率(単位:%)】

出典:ユーロスタット
現在のギリシャは、CPI(消費者物価指数)で見たインフレ率が対前年比で2%台という、歴史的に見て極めて低い水準にある。日本人からしてみれば、2%台のインフレ率というのは決して低い数字ではない。しかし、ユーロ加盟までインフレ率が10%を超えることが普通だったギリシャにしてみれば、「歴史的な低さ」になる。
ユーロ加盟前のギリシャのインフレ率が二けた前後で推移していたのは、もちろん同国の供給能力が需要に対し極端に不足し、慢性的な貿易赤字国だったためである。しかも、通貨ドラクマは他通貨に対し継続的に下落しており、輸入物価上昇も同国のインフレを後押ししていた。
それがユーロ加盟後は、少なくとも対ユーロで通貨が下落することはなくなり(当たり前だが)、インフレは抑制された。しかも、ドイツの信用で維持されている「強いユーロ」がギリシャの輸入物価を押し下げ、インフレ率は3%台から5%程度で推移するようになる。
その後、ギリシャのバブルが崩壊し、名目GDPがマイナス成長に突入。ギリシャのインフレ率は1%台から2%前半で推移するようになってしまった。
国内の需要不足でインフレ率が押し下げられている中、失業率は急上昇。ついに、スペインと並んで20%台の大台を上回ってしまったわけである。
元々、国内の供給能力が不足がちで、インフレ率が高めに推移していたギリシャがデフレに近い状況に陥っているのである。08年以降の同国の需要収縮(=名目GDPの収縮)の状況がいかに凄まじいか見て取れる。
しかも、失業率20%超とはいっても、それは「全世代」を対象にしたものだ。ギリシャの若年層失業率は、すでに50%を上回っている。若者の半分が就職できない社会とは、果たしていかなるものか。日本国民には想像がつかない。
失業率が20%を上回っている状況で、「外国」や「国際機関」から緊縮財政を強要される。緊縮財政の具体的な中身を見ると、公務員削減や社会保障支出削減など、いわゆる国民に「痛み」を強いる政策がてんこ盛りだ。この有様で、ギリシャ国民に怒るなと言ったところで、無理な話だ。
ギリシャでは、4月に総選挙が予定されている。現時点でギリシャの2大政党である全ギリシャ社会主義運動と新民主主義党の支持率は、同国の民主化(1974年)以来、最低の水準にまで落ち込んでいる。
ちなみに、現在のギリシャの首相であるルーカス・パパデモス氏は、元々は経済学者であり、政治家でも何でもなかった。それが、昨年11月のパパンドレウ前首相の電撃的な辞任を受け、連立を組むことになった全ギリシャ社会主義運動と新民主主義党が首相として担ぎだしたのである。
パパデモス首相はギリシャのユーロ参加に尽力したという過去を持ち、当然の話として同国のユーロ離脱には反対の立場をとる。とはいえ、元々は経済学者ということもあり、国内に確固たる政治的な基盤を持っているわけではない。
ギリシャの連立政権を構成する全ギリシャ社会主義運動と新民主主義党、それに国民政党派運動の各党首は、一応、政権がどのような形を採ろうとも、緊縮財政路線を堅持するとEU首脳陣に約束している。とはいえ、それにしても国民の支持というものがなければ、特にギリシャのような国で一定の政治路線を貫けるはずがない。
現在、全ギリシャ社会主義運動の支持率は8.2%、新民主主義党の支持率は19%と、惨憺たる有様に陥っている。この状況で総選挙に突入し、果たしてEUと約束した緊縮財政路線を押し通せるのだろうか。それ以前に、総選挙の時点で、
「このまま緊縮財政を継続し、失業率上昇に拍車をかけます」
などと、政治家が言えるものなのだろうか。
EUにとって不運だったのが、ギリシャの国債償還の時期が総選挙の前になってしまったことである。この順番が逆であれば、ギリシャの総選挙の行方を見定めた上で、同国への支援を実施することができたはずなのだ。
ところが、総選挙が後になってしまったため、EU側はギリシャの政治的な情勢について不明確な状況で、見切り発車の支援に踏み込まざるを得ないのだ。
EU財務相会談もしくは首脳会議でギリシャへの第二次支援を決定し、実際に支援融資を実施したとして、一か月後の総選挙で「反・緊縮財政派」が勝利すると、ユーロ圏は再び混乱の渦の中に投げ込まれてしまう。
そして、現在の失業率やギリシャ国民の抗議活動を見る限り、緊縮財政を約束した現在の与党勢力が勝利する可能性は、極めて小さい。
本来であれば、EUはギリシャの総選挙まで支援決定を延期すべきなのだ。実際、フィンランドやオランダなどの一部のユーロ加盟国は、ギリシャ総選挙後まで支援プログラムを先送りすべきと主張している。3月20日の国債償還は、つなぎ融資を提供し、ギリシャの政治情勢が落ち着くまで、本格的な支援を実施するべきではないと提案しているのである。まことにごもっとも、としか言いようがない。
EUが早期にギリシャ支援を決定し、同国が3月20日の国債償還を乗り切った上で、4月の総選挙で緊縮財政路線が否定されてしまうと、各ユーロ加盟国の首脳陣が自国の国民から袋叩きの目に会うことになる。すなわち、各ユーロ加盟国の政治家たちが、選挙で勝てなくなってしまうのだ。
それに輪をかけて立場がなくなるのは、実質的に七割の損失を強いられた独仏などの債権者である。これらの金融機関の経営者たちは、株主から訴訟を起こされることになるのではないか。
いずれにせよ、EUの財務相会合や首脳会議がどのような結論を出そうとも、ギリシャ情勢は同国のペニゼロス財務大臣が言うように「不透明な長い時期が今日終わる」などという甘い話は有り得ないのである。
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このブログ内での、ユーロの基本的で致命的な欠陥とリーマンショック以来の二極化の危機についての、関連記事リンクです。
・ 通貨、金利と信用創造の特殊な性質
・ 欧州の財政危機」
・ ユーロは夢の終わりか
・ ヨーロッパの危機
・ 動けなくなってきたユーロ」
・ ギリシャを解体、山分けする国際金融資本
・ 過剰信用と恐慌、焼け太る国際金融資本「家」
・ ユーロは凋落、デフレと円高は悪化へ
・ ユーロの危機は労働階級を試練にさらす
・ ギリシャの危機拡大はEUの危機!
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・ ギリシャ、イタリアでIMF、EU抗議の大デモ
・ 破滅するユーロか、破滅する国家か
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・ ユーロは国民国家を解体するか
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・ 通貨戦争(46)ドル、ユーロ、円
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・ ユーロ危機で延命するドル・ 通貨戦争(48)分裂に向かうユーロ
・ 緊迫するユーロ、ギリシャは何処へ向かうか
・ IMF、EU、メルケルと闘うギリシャ
・ ギリシャ、抗議の暴動
・ 資産も主権も国際資本に奪われるギリシャ
・ ギリシャは民主主義を守るためにデフォルトを!
重大な社会危機であり、政治危機である。
一方、EUの「優等国」は各政権ともに国内政治基盤を失わないためには、妥協はできない。
そして、アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリアなどの国民は、この状況展開を注視している。
状況はユーロ圏内に「帝国主義」と「植民地」が現れたに等しい。
リーマンショック以来の「優等国」と「劣等国」への分解は、ついにユーロ内に、とんでもない分断をもたらしてしまった。
主権国家が通貨発行権を持たないことの恐ろしさが、明らかになってしまった。
第二、第三のギリシャが現れるのも疑いはない。
ギリシャの政府が政権を維持できるとはとても思われない。
ユーロとは一体何だったのか。
国際金融資本がヨーロッパの資産を掠めるための仕掛けだった疑いが強い。
ユーロの夢は終わった。
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続 主権が奪われるギリシャ 2/24 三橋貴明 Klugから
ギリシャ危機が、再び大詰めを迎えようとしている。
ギリシャは3月20日に国債145ユーロ(1兆3000億円)の償還を控えているが、現時点ではギリシャ政府が自力で借り入れを返済できる可能性はない。ギリシャの突発的なデフォルトを防ぐために、ギリシャ政府と債権者間で債務減免の協議が継続し、さらにユーロ圏の財務大臣たちがブリュッセルに集まり、第二次ギリシャ支援実施に向けた各種の詰めを行っている。
ギリシャ側は、第二次ギリシャ支援を受けるための条件を「全て」満たしたと主張している。
『2012年2月20日 ブルームバーグ紙「ギリシャ財務相:不透明な長い時期は終わる-救済条件は全て満たした」
ギリシャのベニゼロス財務相は20日、第2次救済の承認をこの日得るために必要な全ての条件を同国が満たしたと言明した。
ベニゼロス財務相はブリュッセルで記者団に対し、「ギリシャ経済のみならずユーロ圏全体にとってもプラスではなかった不透明な長い時期が今日終わるだろう」と語った。アテネの同財務相のオフィスが電子メールで発言内容を配布した。
同相はさらに「欧州は今、何が重要かを認識している。それは完全かつ実施された決定とともに、首尾一貫して常に変わることがない規則を伴う明確なメッセージを送ることだ」と論じた。』
財務相会合でギリシャ支援について合意できない場合、3月1日に予定されるEU首脳会議に結論が先送りされる。その場合、手続き的な期間を考慮すると、3月20日の国債償還に支援が間に合うかどうか、大変微妙な事態となる。
一部の報道によると、ギリシャ政府は民間債権者との「債務交換」について3月8日に開始し、3月11日までの完了を目指すとのことである。債務交換と書けば聞こえはいいが、現在も協議されている「ギリシャ救済」案では、同国の債権を購入した独仏の銀行などの債権者は実質的に70%の損失を負担することになってしまう。
債権者が70%もの損失を被るなど、ギリシャ政府のデフォルト(債務不履行)以外の何物でもないと思うわけだが、EU首脳は、
「これは債権者側の『自発的な債権放棄』であるため、デフォルトに該当しない」
という強弁で乗り切るつもりのようである。
とはいえ、別にギリシャ債を持つ債権者の「全て」が莫大な損失が発生する債務交換に応じるわけではない。ギリシャ政府は債務交換に応じない債権者に「損失受け入れを強制する」法案の作成を進めている。すなわち「集団行動条項」である。
債務交換に応じなかった債権者に「集団行動条項」を用いて損失を強制した場合であっても、果たしてEU首脳陣は「これもデフォルトではない」と言い張るのだろうか。常識的には不可能だが、とにかく現在のEU首脳陣は、ギリシャのデフォルトを「表向き」回避するためであるならば、どんな屁理屈でも言い出しかねない。
集団行動条約により債権者が損失を強制された場合であっても、
「いや、これはギリシャの『集団行動条項』という法律により、債権者が『自発的な債権放棄を強制された』だけに過ぎない。よって、デフォルトには該当しない」
などと、強弁を通り越した無茶苦茶な言い分で、EU側はギリシャのデフォルトを否定にかかるだろう。とはいえ、さすがにCDSを購入していた機関投資家が、上記の強弁を認めるとは思えない。というよりも、債権者が強制的に債権放棄を強いられた状況においても、ギリシャがデフォルト認定されない場合、CDSのプレミアムを支払っていた機関投資家たちが大損をすることになる。
彼らは当然ながら、EU首脳陣もしくはCDSを販売していた保険会社への訴訟行為に出るであろうし、そう簡単にことが収まるとは思えない。
いずれにせよ、上記の「3月8日からの債務交換開始」は、本稿執筆時点でも結論が出ていない財務相会談において、第二次ギリシャ支援が決定された場合にのみ可能となる。結論が先送りされ、3月1日のEU首脳会談に持ち越されてしまうと、ギリシャ政府が債権者と債務交換を始めても、20日の国債償還には間に合わない可能性が出てくるわけだ。
しかも、ECBが保有する500億ユーロという巨額のギリシャ債権については、債務交換の「対象外」となる可能性が高い。何しろ、ECB自身がギリシャ政府と、
「我々が購入したギリシャ債は、債務交換の対象から外せ」
と交渉しているのである。民間の債権者は、半強制的に(事実上、強制的に)極めて不利な債務交換に応じさせられ、中央銀行であるECBは対象外となるわけだ。中央銀行は損失を免れ、民間債権者は七割の損失を強いられる。こんな有様に至っても、
「ギリシャはデフォルトしていない」
と、EU首脳陣が声高に叫び続ける。不思議な時代になったものだ。
さて、冒頭の記事にもあるように、ギリシャのベニゼロス財務大臣は、
「ギリシャ経済のみならずユーロ圏全体にとってもプラスではなかった不透明な長い時期が今日終わるだろう」
と大見得を切っているが、残念ながらギリシャが第二次支援を受け、3月20日の国債償還を乗り切ることができたとしても、不透明な時期は終わらない。何しろ、現在のギリシャは事実上のデフレ状態に突入しているのである。
ギリシャが支援を受けるための緊縮財政を強行した場合、すでにしてマイナス成長に突入している名目GDPが、さらに減少することになる。本連載で散々に繰り返してきた通り、政府の税収は名目GDPと相関関係にある。
デフレ期の政府が緊縮財政を実施すると、国内の景気は一気に悪化する。企業は黒字を出せなくなり、法人税を支払えなくなり、さらに失業者が増える。失業者は所得税を支払う必要がないため、デフレ期の国が緊縮財政を強行すると、政府は減収になってしまうのだ。
ギリシャ政府の租税収入が減ると、当然の話として財政はこれまで以上に悪化することになる。EU首脳部は、またもやギリシャ支援を迫られ、再度、ギリシャに対し緊縮財政を強要するしかない。
EUからのさらなる緊縮財政要求をギリシャ側が受けた場合、またまた名目GDPが減り、税収減と財政悪化を招く悪循環に突入してしまうオチとなる。
【図142-1 ギリシャのインフレ率(対前年比)と失業率(単位:%)】

出典:ユーロスタット
現在のギリシャは、CPI(消費者物価指数)で見たインフレ率が対前年比で2%台という、歴史的に見て極めて低い水準にある。日本人からしてみれば、2%台のインフレ率というのは決して低い数字ではない。しかし、ユーロ加盟までインフレ率が10%を超えることが普通だったギリシャにしてみれば、「歴史的な低さ」になる。
ユーロ加盟前のギリシャのインフレ率が二けた前後で推移していたのは、もちろん同国の供給能力が需要に対し極端に不足し、慢性的な貿易赤字国だったためである。しかも、通貨ドラクマは他通貨に対し継続的に下落しており、輸入物価上昇も同国のインフレを後押ししていた。
それがユーロ加盟後は、少なくとも対ユーロで通貨が下落することはなくなり(当たり前だが)、インフレは抑制された。しかも、ドイツの信用で維持されている「強いユーロ」がギリシャの輸入物価を押し下げ、インフレ率は3%台から5%程度で推移するようになる。
その後、ギリシャのバブルが崩壊し、名目GDPがマイナス成長に突入。ギリシャのインフレ率は1%台から2%前半で推移するようになってしまった。
国内の需要不足でインフレ率が押し下げられている中、失業率は急上昇。ついに、スペインと並んで20%台の大台を上回ってしまったわけである。
元々、国内の供給能力が不足がちで、インフレ率が高めに推移していたギリシャがデフレに近い状況に陥っているのである。08年以降の同国の需要収縮(=名目GDPの収縮)の状況がいかに凄まじいか見て取れる。
しかも、失業率20%超とはいっても、それは「全世代」を対象にしたものだ。ギリシャの若年層失業率は、すでに50%を上回っている。若者の半分が就職できない社会とは、果たしていかなるものか。日本国民には想像がつかない。
失業率が20%を上回っている状況で、「外国」や「国際機関」から緊縮財政を強要される。緊縮財政の具体的な中身を見ると、公務員削減や社会保障支出削減など、いわゆる国民に「痛み」を強いる政策がてんこ盛りだ。この有様で、ギリシャ国民に怒るなと言ったところで、無理な話だ。
ギリシャでは、4月に総選挙が予定されている。現時点でギリシャの2大政党である全ギリシャ社会主義運動と新民主主義党の支持率は、同国の民主化(1974年)以来、最低の水準にまで落ち込んでいる。
ちなみに、現在のギリシャの首相であるルーカス・パパデモス氏は、元々は経済学者であり、政治家でも何でもなかった。それが、昨年11月のパパンドレウ前首相の電撃的な辞任を受け、連立を組むことになった全ギリシャ社会主義運動と新民主主義党が首相として担ぎだしたのである。
パパデモス首相はギリシャのユーロ参加に尽力したという過去を持ち、当然の話として同国のユーロ離脱には反対の立場をとる。とはいえ、元々は経済学者ということもあり、国内に確固たる政治的な基盤を持っているわけではない。
ギリシャの連立政権を構成する全ギリシャ社会主義運動と新民主主義党、それに国民政党派運動の各党首は、一応、政権がどのような形を採ろうとも、緊縮財政路線を堅持するとEU首脳陣に約束している。とはいえ、それにしても国民の支持というものがなければ、特にギリシャのような国で一定の政治路線を貫けるはずがない。
現在、全ギリシャ社会主義運動の支持率は8.2%、新民主主義党の支持率は19%と、惨憺たる有様に陥っている。この状況で総選挙に突入し、果たしてEUと約束した緊縮財政路線を押し通せるのだろうか。それ以前に、総選挙の時点で、
「このまま緊縮財政を継続し、失業率上昇に拍車をかけます」
などと、政治家が言えるものなのだろうか。
EUにとって不運だったのが、ギリシャの国債償還の時期が総選挙の前になってしまったことである。この順番が逆であれば、ギリシャの総選挙の行方を見定めた上で、同国への支援を実施することができたはずなのだ。
ところが、総選挙が後になってしまったため、EU側はギリシャの政治的な情勢について不明確な状況で、見切り発車の支援に踏み込まざるを得ないのだ。
EU財務相会談もしくは首脳会議でギリシャへの第二次支援を決定し、実際に支援融資を実施したとして、一か月後の総選挙で「反・緊縮財政派」が勝利すると、ユーロ圏は再び混乱の渦の中に投げ込まれてしまう。
そして、現在の失業率やギリシャ国民の抗議活動を見る限り、緊縮財政を約束した現在の与党勢力が勝利する可能性は、極めて小さい。
本来であれば、EUはギリシャの総選挙まで支援決定を延期すべきなのだ。実際、フィンランドやオランダなどの一部のユーロ加盟国は、ギリシャ総選挙後まで支援プログラムを先送りすべきと主張している。3月20日の国債償還は、つなぎ融資を提供し、ギリシャの政治情勢が落ち着くまで、本格的な支援を実施するべきではないと提案しているのである。まことにごもっとも、としか言いようがない。
EUが早期にギリシャ支援を決定し、同国が3月20日の国債償還を乗り切った上で、4月の総選挙で緊縮財政路線が否定されてしまうと、各ユーロ加盟国の首脳陣が自国の国民から袋叩きの目に会うことになる。すなわち、各ユーロ加盟国の政治家たちが、選挙で勝てなくなってしまうのだ。
それに輪をかけて立場がなくなるのは、実質的に七割の損失を強いられた独仏などの債権者である。これらの金融機関の経営者たちは、株主から訴訟を起こされることになるのではないか。
いずれにせよ、EUの財務相会合や首脳会議がどのような結論を出そうとも、ギリシャ情勢は同国のペニゼロス財務大臣が言うように「不透明な長い時期が今日終わる」などという甘い話は有り得ないのである。
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