小沢一郎氏2/9インタビュー
2012-02-10
小沢一郎 VS フツーの市民 対談 ~革命的改革を語ろう~ 2/9 「日々坦々」から
以下、聴き起こし(一部)
現状認識
数年前から非常に政治経済とも大きな転換期に立っているし、その中で非常に厳しい状況がくるかもしれないと折りに触れて言ってきたつもりなんですがが、現実的にだんだん心配な方向に進んできている。
その一つの典型的なのがユーロの危機。米国経済も完全に回復している状況ではない。
ギリシャも象徴的なことになっているが、協議が整ったのかどうか情報は知らないが、いずれにしても、当面の危機が仮に乗り越えられたとしても、完全にユーロの破綻を回避するということにはならない気がする。
ですから経済的にヨーぱからアメリカ、日本を含めアジアの新興国にも大きな影響があるんじゃないかという経済的なことが当面一つですが、と同時に、ぼくがいつも心配していたのが、経済的危機が極東においては政治的危機につながる可能性がある
現実的に北朝鮮では指導者が代わり、中国でもいろんな格差の問題、トータルとしての経済は膨らんでいるが、貧富の格差は非常に大きくなっている。
また、各民族の格差というのも拡がっていて今、チベット民族の漢民族に対する反感、、四川省の暴動、新疆(しんきょう)ウイグル自治区など民族的紛争が同時におきている。
そういった経済格差と民族的な紛争というのが同時に中国でおきていて、これが、ほんとに深刻になると、中近東の紛争どころじゃなくなる。
世界一大きな人口を要する、そして経済的にも大きくなってしまって、軍事的にも大変、大きな中国が混乱するということは、世界の大動乱に繋がる可能性があって、特にすぐそばの日本はどうして対処するかという大きな問題になる。
ということで、経済的、政治的な大変なことが起きる可能性がある。
だから日本は早く、ほんとに民主主義を政治家がきちんと理解して定着させて、そういった荒波を乗り越えなければならない。そういうふうに今思っております。
******** ********
司法の危機について
ぼくは今裁判の場におりますから、個人的なものは控えなければなりませんが、それ以上にぼくや秘書の問題はぼくら個人の問題ではない。
ひと言の結論からいえば、日本には本当の民主主義が定着していない。
そして、あらゆる場で官僚主導の政治や行政がまかり通っている、というところに結論をいえば、そういうことになる。
それは最終的には政治の責任であり、もっと突き詰めれば、その政治を選択している国民の責任。
たとえば、司法という名でくくられていますが、検察は司法ではない。
行政の中でも準司法的扱いだが、所詮、法務省の行政の一つ。
行政というのは、その意味において国民が選んだ政治のコントロールの下にあるわけで、そこは裁判所とは違う。
ただ、裁判所と検察との、それぞれの役割のケジメが崩れてきている。
裁判所はきちっと独立した、まさに国民の基本的人権を制約する判決を出すわけですから、公正・公平な機関でなければならない。
もう一つは国権の最高機関、国会に裁判官訴追委員会、弾劾裁判所があるが機能していない。
****************
革命的改革について
現在の日本の社会の一番の問題は、俗にいう格差が広がったということで、所得だけではなく、雇用、産業、地域間などいろいろな意味で格差が広がった。
すなわち、公正・公平な社会ではなくなってきていること。
国の行政の機構、統治機構がずっと同じ制度、仕組みでそこにドンドン既得権が増えていった。
だから、ぼくらは明治以来の中央集権を根本的に変えようと。
中央集権制というのも明治の時代、そしても戦後の時代も、必要に迫られて追いつけ追い越せで国が号令をかけて、みんなで一所懸命協力してやる、というシステムですから、中央集権というのは。
その時代には結果として、いい効果を発揮したわけですが、現在ではむしろ弊害の方が多い。
本来はどんな制度も仕組みも、国民のためにというのが本来だが、長年の権力と長年制度の中で悪い方のところばかりが大きくなり不公正、不公平が出てきているんだと思います。
そういう意味で、なんとしても私たちは、中央集権、官僚が全てを牛耳る仕組みは止めよう、地方分権、地方主権、地方のことは地方、地域のことは地住民の皆さんで知恵、創意工夫でやると、そこにお金もきちんとやる、権限もやる。
そういうことで、官僚支配の弊害を無くそうというのが我々の主張で、それで政権も我々は預かったわけなんですけど、それが全然できてない。
革命的改革というのは、まさに百何十年も続いた制度、それをを変えるというのは、大変なこと。
昔ならば、腕っ節で武力で変えるという話になるけれども、今は選挙を通じてしか変えられない。
いろいろな分野にいろんなところに既得権がいっぱいある。
官僚だけではなく、それに関連する民間部門だの、いろんなところに既得権があるから、それを整理していってムダを省くという作業は容易なことではないが、やらざるを得ない。
独法というのは特殊法人よりさらに悪いが、なぜかというと独立だから、国会、立法府が干渉ができなくなっている。
改革したみたいなことをいっているが全然ウソで、お金も掴みでやっちゃって、理事の数は逆に増えて倍くらいになっている。
マニフェストには、特殊法人、独立行政法人は原則、民営か廃止にしようと主張してきた、どっちかだと。
この基本法を出したいと思っているが、そういう発想すら今は浮かんでこないのか・・・。
******** ********
僕は先日のインタビューで、
ぼくたちは、国民のみなさんに政権を任されるときにいろいろ訴えたと。
それを全く忘れたかのような人たちと一緒にされたくない。
歌を忘れたカナリアは我々ではなくてあの人たちだと。
だから忘れちゃっている人たちが、民主党を離党したらいいんじゃないかと言ったんですが・・・。
極端に言うと、民主党政権が潰れたって、それはそれでいいんですよ。
だけれども今、そういう状況になると、自民党もダメでしょ、民主党もダメでしょ。
そうすると結局、みんなの党だ、維新だと言いますけれども、彼等だって過半数は取れないよ。
どこも過半数をとれないという状況になっちゃうんだね。
それは非常に日本にとって、不幸なことですから、ぼくは、何としてもね、そういう状態だけは防ぎたい。
それが民主党であれ、なんであれ。
やはり、きちんとした政権基盤の上に立ったものでないと、
さっきから言ってるような、国内の原発や震災の処理、
あるいは世界的な不況が襲ってきたとき、
政治的動乱が起きてきたとき、
日本の政治が不安定だったら、これはどうしようもなくなるよ。
だから、その意味でぼくは、それだけは避けたい。
以下、聴き起こし(一部)
現状認識
数年前から非常に政治経済とも大きな転換期に立っているし、その中で非常に厳しい状況がくるかもしれないと折りに触れて言ってきたつもりなんですがが、現実的にだんだん心配な方向に進んできている。
その一つの典型的なのがユーロの危機。米国経済も完全に回復している状況ではない。
ギリシャも象徴的なことになっているが、協議が整ったのかどうか情報は知らないが、いずれにしても、当面の危機が仮に乗り越えられたとしても、完全にユーロの破綻を回避するということにはならない気がする。
ですから経済的にヨーぱからアメリカ、日本を含めアジアの新興国にも大きな影響があるんじゃないかという経済的なことが当面一つですが、と同時に、ぼくがいつも心配していたのが、経済的危機が極東においては政治的危機につながる可能性がある
現実的に北朝鮮では指導者が代わり、中国でもいろんな格差の問題、トータルとしての経済は膨らんでいるが、貧富の格差は非常に大きくなっている。
また、各民族の格差というのも拡がっていて今、チベット民族の漢民族に対する反感、、四川省の暴動、新疆(しんきょう)ウイグル自治区など民族的紛争が同時におきている。
そういった経済格差と民族的な紛争というのが同時に中国でおきていて、これが、ほんとに深刻になると、中近東の紛争どころじゃなくなる。
世界一大きな人口を要する、そして経済的にも大きくなってしまって、軍事的にも大変、大きな中国が混乱するということは、世界の大動乱に繋がる可能性があって、特にすぐそばの日本はどうして対処するかという大きな問題になる。
ということで、経済的、政治的な大変なことが起きる可能性がある。
だから日本は早く、ほんとに民主主義を政治家がきちんと理解して定着させて、そういった荒波を乗り越えなければならない。そういうふうに今思っております。
******** ********
司法の危機について
ぼくは今裁判の場におりますから、個人的なものは控えなければなりませんが、それ以上にぼくや秘書の問題はぼくら個人の問題ではない。
ひと言の結論からいえば、日本には本当の民主主義が定着していない。
そして、あらゆる場で官僚主導の政治や行政がまかり通っている、というところに結論をいえば、そういうことになる。
それは最終的には政治の責任であり、もっと突き詰めれば、その政治を選択している国民の責任。
たとえば、司法という名でくくられていますが、検察は司法ではない。
行政の中でも準司法的扱いだが、所詮、法務省の行政の一つ。
行政というのは、その意味において国民が選んだ政治のコントロールの下にあるわけで、そこは裁判所とは違う。
ただ、裁判所と検察との、それぞれの役割のケジメが崩れてきている。
裁判所はきちっと独立した、まさに国民の基本的人権を制約する判決を出すわけですから、公正・公平な機関でなければならない。
もう一つは国権の最高機関、国会に裁判官訴追委員会、弾劾裁判所があるが機能していない。
****************
革命的改革について
現在の日本の社会の一番の問題は、俗にいう格差が広がったということで、所得だけではなく、雇用、産業、地域間などいろいろな意味で格差が広がった。
すなわち、公正・公平な社会ではなくなってきていること。
国の行政の機構、統治機構がずっと同じ制度、仕組みでそこにドンドン既得権が増えていった。
だから、ぼくらは明治以来の中央集権を根本的に変えようと。
中央集権制というのも明治の時代、そしても戦後の時代も、必要に迫られて追いつけ追い越せで国が号令をかけて、みんなで一所懸命協力してやる、というシステムですから、中央集権というのは。
その時代には結果として、いい効果を発揮したわけですが、現在ではむしろ弊害の方が多い。
本来はどんな制度も仕組みも、国民のためにというのが本来だが、長年の権力と長年制度の中で悪い方のところばかりが大きくなり不公正、不公平が出てきているんだと思います。
そういう意味で、なんとしても私たちは、中央集権、官僚が全てを牛耳る仕組みは止めよう、地方分権、地方主権、地方のことは地方、地域のことは地住民の皆さんで知恵、創意工夫でやると、そこにお金もきちんとやる、権限もやる。
そういうことで、官僚支配の弊害を無くそうというのが我々の主張で、それで政権も我々は預かったわけなんですけど、それが全然できてない。
革命的改革というのは、まさに百何十年も続いた制度、それをを変えるというのは、大変なこと。
昔ならば、腕っ節で武力で変えるという話になるけれども、今は選挙を通じてしか変えられない。
いろいろな分野にいろんなところに既得権がいっぱいある。
官僚だけではなく、それに関連する民間部門だの、いろんなところに既得権があるから、それを整理していってムダを省くという作業は容易なことではないが、やらざるを得ない。
独法というのは特殊法人よりさらに悪いが、なぜかというと独立だから、国会、立法府が干渉ができなくなっている。
改革したみたいなことをいっているが全然ウソで、お金も掴みでやっちゃって、理事の数は逆に増えて倍くらいになっている。
マニフェストには、特殊法人、独立行政法人は原則、民営か廃止にしようと主張してきた、どっちかだと。
この基本法を出したいと思っているが、そういう発想すら今は浮かんでこないのか・・・。
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僕は先日のインタビューで、
ぼくたちは、国民のみなさんに政権を任されるときにいろいろ訴えたと。
それを全く忘れたかのような人たちと一緒にされたくない。
歌を忘れたカナリアは我々ではなくてあの人たちだと。
だから忘れちゃっている人たちが、民主党を離党したらいいんじゃないかと言ったんですが・・・。
極端に言うと、民主党政権が潰れたって、それはそれでいいんですよ。
だけれども今、そういう状況になると、自民党もダメでしょ、民主党もダメでしょ。
そうすると結局、みんなの党だ、維新だと言いますけれども、彼等だって過半数は取れないよ。
どこも過半数をとれないという状況になっちゃうんだね。
それは非常に日本にとって、不幸なことですから、ぼくは、何としてもね、そういう状態だけは防ぎたい。
それが民主党であれ、なんであれ。
やはり、きちんとした政権基盤の上に立ったものでないと、
さっきから言ってるような、国内の原発や震災の処理、
あるいは世界的な不況が襲ってきたとき、
政治的動乱が起きてきたとき、
日本の政治が不安定だったら、これはどうしようもなくなるよ。
だから、その意味でぼくは、それだけは避けたい。
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帝国主義によるシリアの内戦
2012-02-10

シリア・ダマスカスの大統領支持派デモ
シリアの反政府デモと武装衝突についての報道が徐々に加熱している。
リビアの内戦と全く同様に、欧米マスコミはあらわな偏向、歪曲の報道をしており、日本の大マスコミはいつもどおりに欧米側の偏向、歪曲報道を紹介しているだけである。
政権支持派のデモの写真を反政府派としたり、死傷者はみな反政府派だったりと、欧米の国民をかなり愚弄する報道が続いている。
欧米側の「反政府勢力の民主化デモと弾圧するシリア政府」という構図はだんだんに不自然さを増している。
事態は欧米からの資金と武器による、内戦状態になりつつある。
イラク、リビアに続いて「シリアへの帝国主義軍事侵略が始まっている」。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シリアの内戦 2/9 田中宇
中東のシリアで内戦状態がひどくなっている。シリア情勢について米欧日マスコミは、エジプト型の市民の反政府デモを、アサド政権の軍隊が弾圧して死者が出ているという論調で報じている。
だが実際は、カタールやサウジアラビア、トルコ、欧米によって支援されて武装したイスラム主義の民兵団が、各所でシリア軍と戦闘しており、事態は「民主化弾圧」でなく「内戦」だ。 (For all of the media bias, the blood of Syrians tells the story) (Insight: Syria's Assad set for long conflict)
市民の世論は、親政府派と反政府派に2分されている。カタールの機関が昨年末に行ったネット上の世論調査によると、シリア人の55%がアサド大統領を支持し、45%がアサドは辞めるべきだと答えている。
シリア市民のデモは、反政府と親政府の両方が行われている。市民の死者が増えているが、多くは、政府軍と反政府ゲリラ軍との戦闘の巻き添えになって死んだと考えられる。 (Syria through a glass, darkly)
シリアの現状をめぐる情報は、歪曲や不確定さに満ちている。上記のカタールの機関が行った調査は、シリアを含むアラブ全域のネット世論調査として行われており、アラブ全体の1012人の回答者の81%が、アサド大統領は辞めるべきだと答えたことを強調して表示している。
しかし、アサドが辞めるべきかどうかはアラブ全体で決めることでなく、シリア人が決めることだ。シリアの回答者は97人で、そのうち55%がアサド続投を支持し、45%が辞任すべきと答えたと、調査報告書(PDF)の11ページの下の方に、グラフでなく文字として地味に書いている。
母数が97人しかないので、この調査の有意性に疑問があるが、同時に、シリアの反政府ゲリラを支援するカタールによる情報歪曲も強く感じることができる。 (Syria's President Assad - should he resign?)
アラブ諸国で作るアラブ連盟は、昨年末から1カ月間、シリアに160人の調査団を派遣し、シリア軍が市民を弾圧していないかどうか調査し、報告書を作った。これは、一昨年にシリアで蜂起が始まって以来の、最も本格的なシリア情勢の報告書である。
それによると、シリアでは政府支持と反政府の両方のデモが行われ、双方のデモの参加者が衝突して小競り合いになることがあったものの、政府軍がデモを弾圧していることを確認できなかった。
半面、反政府ゲリラがシリア兵を殺害しているとか、反政府ゲリラが市街地に拠点を持っているシリア中部の都市ホムスでは、ゲリラが検問所を作って町に搬入される途中の食料を止めており、食糧不足になっていると書いている。 (Report of the Head of the League of Arab States Observer Mission to Syria)
調査団には、アラブ連盟を代表して、アルジェリア、エジプト、オマーン、カタール、スーダンの5カ国が要員を送り込み、報告書が作成されて、4カ国が報告書の内容を支持したが、カタールだけは内容に反対した。
シリアの反政府ゲリラを強く支援し、アサド政権の転覆を狙うカタールは「シリア軍が市民のデモを弾圧していることが確認できなかった」とする報告書の内容を認めるわけにいかなかった。欧米マスコミが報じるような「シリア軍が市民のデモを弾圧していた」という内容である必要があった。
カタールは、ちょうど輪番制のアラブ連盟の議長国であり、報告書の英訳を禁じたり、アラブ連盟のウェブサイトへの掲出を阻止したりして、報告書が広報されることを防いだ。結局、報告書は米国のマスコミにリークされ、英訳され報道された。 (Exposed: The Arab agenda in Syria) (Presidency of Arab League Seeks To Bury Own Experts' Report)
ユーチューブなどネット上には、ホムスなどシリア各地での銃撃戦の様子や、殺された市民の遺体を映した動画が出回っている。情景を英語で説明する若いシリア市民は「活動家」と称し、反政府派の市民だ。いかにアサド政権が悪者かが、動画で描かれているが、実際のところ、誰が市民を殺しているのか、確定できない。
ホムスの市街地では、政府軍と反政府ゲリラが戦闘しており、そこで死んだ市民は、イメージとして流布している「反政府デモの最中に政府軍に撃たれた」のではない。 (dannys report in the field hospital6-2-2012.mp4) (Activist's Videos Tell of Syrian Carnage)
▼シリアの戦いはイランとの戦い
米諜報機関系の分析サイトであるストラトフォーによると、シリアの反政府ゲリラ(Free Syrian Army)は、レバノンから武器などの物資を搬入している。
レバノンのベカー平原の北部からホムスへ、中部からダマスカス郊外に続く密輸ルートがある。ベカー平原では、シリアと仲の良いシーア派のヒズボラが密輸取り締まりの警邏をしているが、平原にはスンニ派の村もあり、そこに滑走路が造られてレバノン国外から武器が搬入されているという。
シリアの反政府ゲリラが外国から支援されていることは、広く認知されている。 (Syrian Rebels' Supply Lines)
シリアでは「シャビーハ」(shabiha)と呼ばれる正体不明の武装集団が各地で跋扈し、デモに参加する市民を殴ったり殺したり、市街地で銃を乱射したり、建物を破壊したりしている。反政府派によると、シャビーハはアサド家直轄の、アラウィ派で構成された政府肝いりの犯罪集団で、シリア政府はシャビーハに反政府運動を弾圧させ、政府は何もやってないと強弁しているという。
アラウィ派は山岳系(スーフィ・シーア系)のイスラム教徒で、シリアの人口の11%の少数派だが、植民地支配したフランスがシリア人を分断支配するため、アラウィ派を治安維持部隊として重用した関係で、今でもシリアの軍や警察はアラウィ派が握っており、アサド家もアラウィ派だ(シリア人の70%はスンニ派)。 (Syria unrest: Who are the shabiha?)
しかし、以前アレッポで摘発されたシャビーハは、アラウィ派でなくスンニ派だった。欧米日で流布する「アサド=悪」のイメージで決めつけると「シャビーハはシリア政府傘下の殺し屋部隊だ」となる。
だが、欧米やカタールがシリア政府の転覆を狙って反政府ゲリラの戦力を支援しているという現実からすると、シャビーハが反政府ゲリラの一部であり、政府傘下の悪党のふりをして反政府デモ隊を殴りつけ、内外でのシリア政府のイメージを悪化させようとしているとしても不思議でない。
シャビーハの実体は不明のままだ。 (Shabeeha From Wikipedia)
シリアの反政府ゲリラを支援してアサド政権転覆を画策しているのは、米英仏のNATO諸国と、カタールとサウジアラビアというGCC諸国(ペルシャ湾南岸アラブ産油国)だ。
彼らがアサド政権を転覆したいのは、アサドがイランと親しくしており、イラクから米軍が撤退したことで、イランが中東政治の中で台頭し、地中海岸からアフガニスタン西部までの広大な影響圏を確保し、ペルシャ湾岸のGCC諸国にとってイランが脅威になっているからだ。
もしシリアでアサド政権が転覆され、その後GCC寄りのスンニ派イスラム主義の政権ができて、シリアが反イランに転向すると、新生シリアはとなりのイラクのスンニ派ゲリラを支援し、イラクをスンニ派対シーア派の内戦に陥らせることができる。
イラクはこのままだと、スンニ派が弱いまま、親イランのシーア派の政権で安定し、イラクはイランの傘下で大産油国になり、ペルシャ湾岸でのイランの台頭に拍車がかかる。シリアを政権転覆して反イランに転じさせれば、イラクを内戦に陥らせて弱体化でき、イランの台頭を防げる。
シリアの政権転覆をめぐる闘いは、実はイランとの闘いである。 (イラン・米国・イスラエル・危機の本質)
NATOとGCCがアサド敵視である半面、イラン、レバノン、ロシア、中国は、アサドを支持している。いずれもイランと親しい国だ。
ロシア海軍はシリアの軍港を、地中海の大事な拠点として租借している。中国はイランやイラクから安定的に石油を調達したいので、シリアの政権転覆を好まない。
ロシアと中国は、昨年10月と今年2月の二度にわたって、国連安保理でNATOとGCCが企図するシリア政権転覆につながる制裁案を、拒否権を発動して葬り去っている。 (Run-up to proxy war over Syria)
シリアの北隣のトルコも、シリア反政府ゲリラに拠点を貸したり、シリアの事実上の亡命次期政権であるSNC(Syrian National Council)の創設を支援したりして、アサド政権の転覆を支持している。だがその一方でトルコは、シリアを自国の影響圏ととらえ、欧米やGCCが勝手にシリアの政権を転覆することを抑止している。
シリアが政権転覆されてイラクも内戦に陥ると、米軍撤退で独立の道が閉ざされたイラクやシリアのクルド人が独立運動に再び目覚め、トルコ政府が一番懸念する国内クルド人の独立運動が再燃しかねない。
だから私が見るところ、実はトルコはシリアの政権転覆を阻止したく、NATOやGCCの勝手にさせぬよう、シリア反政府組織を自国の影響下に置いているとも考えられる。 (Would Turkey intervene in Syria?)
NATOとGCCは、国連のお墨付きを得てシリアを政権転覆することができなくなったが、国連と関係なくシリアを空爆して反政府ゲリラを軍事的に支援し、政権転覆を誘発する「リビア方式」が、まだ残っている。
しかし詳細に見ると、リビア方式をシリアでやるのは難しいとわかる。米国は今年、微妙な選挙年であり、オバマは新たな戦争をやりたくない。しかも米政府は軍事費削減の真っ最中だ。
NATOのリビア空爆を主導したのは、米国でなく英仏だったが、フランスは最近「アルメニア人虐殺」をめぐる言論弾圧法でトルコを激怒させており、英仏主導のシリア空爆案に、トルコは賛成しない。
GCCは石油成金なので、黒幕になりたがるが直接の戦闘意欲がない。
トルコはイランと協調する戦略であり、自らシリアに侵攻すると考えにくい。 (◆トルコとEUの離反)
▼シリア反政府派は政治能力が低い
アサド政権を転覆したとしても、その後、別の安定した政権がシリアにできる可能性も低い。リビアは、西部のトリポリが東部のベンガジを長く搾取した構図があり、それを転覆したのが昨年のカダフィ殺害だった。
リビアは東部が西部を率いる形になって行きうる。だがシリアにはリビアのような地域主義の構図がない。
シリアは他民族で、アラウィ派やキリスト教徒、クルド人など、人口の約1割ずつを占める勢力がいくつもある。反政府派を主導するSNCは、これら少数派の権利を守ることをきちんと宣言していないし、少数派の代表との接触が不十分だ。
シリアの治安を一手に握るアラウィ派の幹部群の中から反政府派に寝返る人を多く出すことが、政権転覆の戦略として必須だが、SNCはそれを全くしていない。シリア軍から寝返った兵士や将校を取りまとめた組織として自由シリア軍(FSA)が昨年作られたが、実体は烏合の衆に近い。 (Syria Rebels Without a Clue)
シリアのキリスト教徒の多くは、比較的裕福なビジネスマンだ。ダマスカスのキリスト教徒は、米CNNの取材に対し、アサド政権を支持しないが、シリアの安定が保たれることを最も望むと述べ、反政府勢力が、政権転覆後の安定や少数派の保護についてどう考えているのか表明しないのが不安だと言っている。
反政府勢力の幹部の中には、アラウィ派を皆殺しにしてやるとか、厳格な(スンニ派の)イスラム教の国にするんだとか豪語する者が目立つ。これでは、キリスト教徒やアラウィ、クルド、シーアなどの少数派が、反政府運動に合流しにくい。 (In Syria, many caught 'in the middle')
米欧では、今にもアサド政権が転覆しそうな印象の記事が多く流れている。
だがそれらは、出来の悪い、米欧のためにならない歪曲報道だ。中東に住む分析者は、アサド政権はなかなか転覆されず、この内戦は長引くだろうと書いている。 (From Washington this looks like Syria's 'Benghazi moment'. But not from here)
2月4日に国連安保理で中露が拒否権を発動してシリア制裁案が否決された後、シリア政府は、反政府ゲリラの拠点であるホムスの市街地に砲撃を加え、ゲリラを潰そうとしている。イランは反乱鎮圧用の1万5千人の部隊をシリアに派兵したという。 (Report: Top Iran military official aiding Assad's crackdown on Syria opposition)
2月7日にはロシアの外相がシリアを訪れ、内戦の解決策について協議した。ロシアは、シリア政府軍が反政府ゲリラを武力で鎮圧したところで和解案を出し、反政府派を黙らせたいのだろう。
反政府ゲリラが鎮圧されなければ、シリアの内戦は長期化していく。 (Syrian opposition agrees to Russian mediation)
シリアの隣国であるイスラエルの上層部は、現状について何もコメントしていないが、彼らもシリアの内戦化を恐れているだろう。
従来のシリアは、アサド政権が米欧に制裁されて長く封じ込められ、弱くて安定した、イスラエルにとって都合の良い状態にあった。
アサド政権が転覆され、すぐに新政権ができてイラクの内戦化を煽ってくれて、イランの台頭が削がれるのであれば、イスラエルにとって好都合だ。
だがアサド政権が倒れて安定的な次の政権ができず、内戦がひどくなると、反政府ゲリラの中にイスラエルを敵視する強硬なイスラム主義者が多いこともあり、予測不能な事態になる。
イスラエルは、アサド政権が倒れて内戦化した場合、イスラエルが占領している元シリア領のゴラン高原の一部を逃げてきたアラウィ派に使わせてやり、イスラエルにとっての盾として使うことを検討している。
中東政治は、敵味方の関係が流動的だ。 (Israel prepared to take in Syrian refugees, chief of staff says)
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真摯に絞った2つの提言
2012-02-10
消費増税などと米国と、財務省の姑息な利益追求を図っている暇があるなら、そんな馬鹿国民犠牲政策でなく、国民経済の立て直しが緊急の課題である。
どうせ、彼らは言うことは聞かないが、国民には正論と真っ当な道を知ってもらわなければならない。
重要でしかも緊急な2つに絞った提言。
50兆円程度の量的金融緩和による流動性供給。
外為資金特別会計の意思決定の明朗化、機能拡充と弾力運用そして国民への還元ルール。
まさしく妥当な考えと同意する。
引用者としてはデフレ脱却のために、この2つにさらに勤労者可処分所得の増大(雇用形態、最賃、給付税制、etc)を加えたいところである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日本政府および日本銀行に対する「真摯な提言」 2/10 「闇株新聞」から
今までも「提言」めいたものを多数書いてきたのですが、本日は特に重要で緊急性があると思われる2つに絞って「真摯に提言」したいと思います。
(その1)日本銀行は50兆円規模の追加量的緩和に早急に踏み切るべし
巨額の量的緩和を「発表」することで円安を誘導し(間違いなく円安になります)、円安になることで株高になり日本経済の閉塞感が一変し、実体経済への好影響も出始めます。つまり量的緩和がすぐに実体経済へ波及するのではなく、まず資産効果が出て心理面が好転し、それで実体経済が回復するという順番なのです。
昨年末のECBの実質量的緩和への転換(4892億ユーロの3年間の資金供給)で、まず米国でも量的緩和への期待が盛り上がって米国株が上昇し、それを受けて世界の株式市場や新興国や資源へ資金が流れ込み、一気に世界経済が明るくなったのです。
金融の緩和度合いを示す各中央銀行の現在のバランスシートの額を比べてみますと、FRBが2兆9000億ドル、ECBが2兆7300億ユーロと、リーマンショック以前からそれぞれ3.5倍、3倍弱になっています。
ところが日本銀行のバランスシートは、本年1月末現在で136.9兆円(うち当座預金29.8兆円)と、なんと前回の量的緩和の最終局面である2006年3月の144.5兆円(うち当座預金31.2兆円)を下回っているのです。従ってここから50兆円増やしても何の問題もありません。
FRBやECBだけでなくBOE(英国中央銀行)や昨年のスイス中央銀行の例を見ても、中央銀行がバランスシートを拡大すること自体が、自国通貨の引き下げと株価の上昇を引き起こしており、その結果市場心理が好転して本当に経済が回復していくのです。
日本銀行が明らかに十分な量的緩和を行っていないために円高が続き、株式市場も最近こそは世界の株高に引っ張られて多少は上昇しているもののまだまだ力不足で、いつまでたっても経済が低迷しているのです。
しかしその分、量的緩和に踏み切った時のサプライズ効果は大きいはずです。特に日本の場合は「円安」と「株高」という2つの相乗効果が期待できます。そうなれば当面は日本銀行の当座預金に豚積み(ぶたづみ)しておくだけの銀行も(当座預金への0.1%付利は絶対廃止すべきです)、いくらなんでも少しくらいはリスクをとりはじめるかもしれません。これが重要なのです。
さらに副次的な効果としては、量的緩和とは日本銀行が市中銀行から資産(大半が国債)を買い入れることなので、最近銀行が国債の暴落を心配しているらしいのですが、日本銀行が50兆円も買い入れてくれることが分かれば途端に強気に転じてその後の国債消化もスムーズにいくはずです。
従って、50兆円は例えば向こう半年間などの期間限定で行い、デフレが払しょくされなければさらに追加すると付け加えておくべきです。
これは1円も国民負担の無い、一番安上がりで即効性のある経済対策なのです。まあ早くも「インフレになる」と心配してくれる評論家が出てくると思いますが、100兆円近いと言われる需給ギャップを抱えている日本では、これくらいではインフレになりません。
これでは日本銀行の国債保有上限を規定する「日銀券ルール」超えてしまうのですが、確か現在55兆円ある「資産買入等の基金」はルールの適応外だったような気がするので、これを拡大して使います(違っていたら「緊急措置」で対応します)。
日本銀行が自国の国債をいくら買い入れても、発行する銀行券の「信用失墜」にはなりません。ECBがギリシャやイタリアやスペインなどの債務問題国の国債買い入れに消極的なのとは根本的に意味が違います。ただ、日本銀行も買入れの対象はあくまでも国債に限るべきで、ETFやREITなどのリスク商品の買入れは明らかに邪道です。
(その2)目的を明確にした外為資金特別会計の機能拡充と運用弾力化に踏み切るべし
量的緩和を行えば間違いなく円安になるため、発表以前(為替市場にはインサイダー取引はありません)に秘かに円売り介入をしておき、発表直後にさらに大規模に行えば間違いなく「かなりの円安」になり「利益」も出ます。
歴史的に見ても1960~70年代に斜陽国であった英国が、現在もそれなりの地位を確保できているのは、当時1ポンド=1008円だった為替が現在120円くらいで、昔から積み上げた対外資産の評価が大幅に膨らんだからです(もう1つはサッチャーの打ち出した金融自由化です)。
あくまでも個人的な考えですが、日本の債務問題を解決するためには「将来の円安に賭ける」方法しかないと思っています。円安の経済効果という意味ではなく、保有している「外貨」の値上がり益を国債償還と景気刺激と減税などの国民への還元に使うのです
従って、近い将来「国運を賭けて」100兆円規模の外貨取得を行うべきだと思っています。尤もそのためには、将来円安になった場合はその「利益」が国民に還元されるルールが確立されていなければなりません。なぜなら為替介入を含む外貨取得は、原資が国債発行で明らかな国民負担だからです。
これだけ国民に対して耐乏生活を強い、さらに増税までしようとしておきながら、ここ半年で16兆円もの為替介入を(従って国債発行も)勝手に行い、仮に円安になった場合もその利益の還元方法が全く無い(還元するつもりもない)状態ではいけないのです。
要するこれらの目的に対応できるように、外為資金特別会計の機能拡充と運用弾力化と意思決定ルールを含む情報開示と国民への還元ルールを明確にしておく必要があるのです。
外為資金特別会計の枠の拡大は、発行する政府短期証券の発行枠の上限を拡大すればよく、国民に利益を還元すると言っても現在の外為資金特別会計の外貨コストはドル換算で104円くらい(過去、利息収入から累計30兆円以上を一般会計に補填していることもあるのですが)なのでこのままだと当分利益が出ません。そこで新たな取得分を区分して「利益」が「過去の遺物」で相殺されないような工夫が必要です。
そもそもの問題は日本の銀行の信用創造機能が全く失われていることで、本来は銀行から資金がもっと「民間」に供給されていれば、それなりの金額が外貨や株式に投資されてすでに「円安」「株高」になっていたはずです。
さらにまだまだ当分の間(50兆円の量的緩和が始まっても)銀行から「民間」に資金が流れることは期待できず、「資金の乏しい民間」が「円安」「株高」の恩恵を受けられないことになります。そこでまず外為資金特別会計で「代表して」利益を取り国民に還元していく方法が必要となるのです。
簡潔に書こうと思っていたのですが、かえって長文になってしまいました。
どうせ、彼らは言うことは聞かないが、国民には正論と真っ当な道を知ってもらわなければならない。
重要でしかも緊急な2つに絞った提言。
50兆円程度の量的金融緩和による流動性供給。
外為資金特別会計の意思決定の明朗化、機能拡充と弾力運用そして国民への還元ルール。
まさしく妥当な考えと同意する。
引用者としてはデフレ脱却のために、この2つにさらに勤労者可処分所得の増大(雇用形態、最賃、給付税制、etc)を加えたいところである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日本政府および日本銀行に対する「真摯な提言」 2/10 「闇株新聞」から
今までも「提言」めいたものを多数書いてきたのですが、本日は特に重要で緊急性があると思われる2つに絞って「真摯に提言」したいと思います。
(その1)日本銀行は50兆円規模の追加量的緩和に早急に踏み切るべし
巨額の量的緩和を「発表」することで円安を誘導し(間違いなく円安になります)、円安になることで株高になり日本経済の閉塞感が一変し、実体経済への好影響も出始めます。つまり量的緩和がすぐに実体経済へ波及するのではなく、まず資産効果が出て心理面が好転し、それで実体経済が回復するという順番なのです。
昨年末のECBの実質量的緩和への転換(4892億ユーロの3年間の資金供給)で、まず米国でも量的緩和への期待が盛り上がって米国株が上昇し、それを受けて世界の株式市場や新興国や資源へ資金が流れ込み、一気に世界経済が明るくなったのです。
金融の緩和度合いを示す各中央銀行の現在のバランスシートの額を比べてみますと、FRBが2兆9000億ドル、ECBが2兆7300億ユーロと、リーマンショック以前からそれぞれ3.5倍、3倍弱になっています。
ところが日本銀行のバランスシートは、本年1月末現在で136.9兆円(うち当座預金29.8兆円)と、なんと前回の量的緩和の最終局面である2006年3月の144.5兆円(うち当座預金31.2兆円)を下回っているのです。従ってここから50兆円増やしても何の問題もありません。
FRBやECBだけでなくBOE(英国中央銀行)や昨年のスイス中央銀行の例を見ても、中央銀行がバランスシートを拡大すること自体が、自国通貨の引き下げと株価の上昇を引き起こしており、その結果市場心理が好転して本当に経済が回復していくのです。
日本銀行が明らかに十分な量的緩和を行っていないために円高が続き、株式市場も最近こそは世界の株高に引っ張られて多少は上昇しているもののまだまだ力不足で、いつまでたっても経済が低迷しているのです。
しかしその分、量的緩和に踏み切った時のサプライズ効果は大きいはずです。特に日本の場合は「円安」と「株高」という2つの相乗効果が期待できます。そうなれば当面は日本銀行の当座預金に豚積み(ぶたづみ)しておくだけの銀行も(当座預金への0.1%付利は絶対廃止すべきです)、いくらなんでも少しくらいはリスクをとりはじめるかもしれません。これが重要なのです。
さらに副次的な効果としては、量的緩和とは日本銀行が市中銀行から資産(大半が国債)を買い入れることなので、最近銀行が国債の暴落を心配しているらしいのですが、日本銀行が50兆円も買い入れてくれることが分かれば途端に強気に転じてその後の国債消化もスムーズにいくはずです。
従って、50兆円は例えば向こう半年間などの期間限定で行い、デフレが払しょくされなければさらに追加すると付け加えておくべきです。
これは1円も国民負担の無い、一番安上がりで即効性のある経済対策なのです。まあ早くも「インフレになる」と心配してくれる評論家が出てくると思いますが、100兆円近いと言われる需給ギャップを抱えている日本では、これくらいではインフレになりません。
これでは日本銀行の国債保有上限を規定する「日銀券ルール」超えてしまうのですが、確か現在55兆円ある「資産買入等の基金」はルールの適応外だったような気がするので、これを拡大して使います(違っていたら「緊急措置」で対応します)。
日本銀行が自国の国債をいくら買い入れても、発行する銀行券の「信用失墜」にはなりません。ECBがギリシャやイタリアやスペインなどの債務問題国の国債買い入れに消極的なのとは根本的に意味が違います。ただ、日本銀行も買入れの対象はあくまでも国債に限るべきで、ETFやREITなどのリスク商品の買入れは明らかに邪道です。
(その2)目的を明確にした外為資金特別会計の機能拡充と運用弾力化に踏み切るべし
量的緩和を行えば間違いなく円安になるため、発表以前(為替市場にはインサイダー取引はありません)に秘かに円売り介入をしておき、発表直後にさらに大規模に行えば間違いなく「かなりの円安」になり「利益」も出ます。
歴史的に見ても1960~70年代に斜陽国であった英国が、現在もそれなりの地位を確保できているのは、当時1ポンド=1008円だった為替が現在120円くらいで、昔から積み上げた対外資産の評価が大幅に膨らんだからです(もう1つはサッチャーの打ち出した金融自由化です)。
あくまでも個人的な考えですが、日本の債務問題を解決するためには「将来の円安に賭ける」方法しかないと思っています。円安の経済効果という意味ではなく、保有している「外貨」の値上がり益を国債償還と景気刺激と減税などの国民への還元に使うのです
従って、近い将来「国運を賭けて」100兆円規模の外貨取得を行うべきだと思っています。尤もそのためには、将来円安になった場合はその「利益」が国民に還元されるルールが確立されていなければなりません。なぜなら為替介入を含む外貨取得は、原資が国債発行で明らかな国民負担だからです。
これだけ国民に対して耐乏生活を強い、さらに増税までしようとしておきながら、ここ半年で16兆円もの為替介入を(従って国債発行も)勝手に行い、仮に円安になった場合もその利益の還元方法が全く無い(還元するつもりもない)状態ではいけないのです。
要するこれらの目的に対応できるように、外為資金特別会計の機能拡充と運用弾力化と意思決定ルールを含む情報開示と国民への還元ルールを明確にしておく必要があるのです。
外為資金特別会計の枠の拡大は、発行する政府短期証券の発行枠の上限を拡大すればよく、国民に利益を還元すると言っても現在の外為資金特別会計の外貨コストはドル換算で104円くらい(過去、利息収入から累計30兆円以上を一般会計に補填していることもあるのですが)なのでこのままだと当分利益が出ません。そこで新たな取得分を区分して「利益」が「過去の遺物」で相殺されないような工夫が必要です。
そもそもの問題は日本の銀行の信用創造機能が全く失われていることで、本来は銀行から資金がもっと「民間」に供給されていれば、それなりの金額が外貨や株式に投資されてすでに「円安」「株高」になっていたはずです。
さらにまだまだ当分の間(50兆円の量的緩和が始まっても)銀行から「民間」に資金が流れることは期待できず、「資金の乏しい民間」が「円安」「株高」の恩恵を受けられないことになります。そこでまず外為資金特別会計で「代表して」利益を取り国民に還元していく方法が必要となるのです。
簡潔に書こうと思っていたのですが、かえって長文になってしまいました。
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