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小沢一郎氏インタビュー:日刊ゲンダイ

【小沢一郎インタビュー】   12/29   日刊ゲンダイから
大震災は国を変えるチャンスだった

<民主党は次の選挙で全滅だ>

 2011年の政治は腹が立つことばかりだった。大震災・原発に対する不可解対応。菅政権は倒れたが、次の野田政権は増税路線一直線。国民にしてみれば、「フザケンナ!」だが、こうした政治状況に、もっとも怒っているのはこの人ではないか。ふがいない民主党政権に対し、小沢元代表はどう動くのか。

 民主党は09年総選挙のマニフェストで「地域主権の確立」を掲げました。僕は、東日本大震災は災いを転じてそれを実現する最大の機会だったと思います。

 地方に金を渡して、好きなように道路や橋、堤防を造ってくれ、と言えばいい。あれだけの惨状を目にすれば、中央の官僚だって反対できない。中央の官僚がいちいち査定し、補助金を出すのではなく、地方が考えて自分たちの予算を自由に使う。そうすれば、地域主権が実現して、それが地方経済の活性化をもたらす。地方が自分で考えて、予算を作れば、事業のスピードが違うし、本当に必要な予算で、地元の企業に発注する。国、地方を通じて行政の無駄がなくなり、効率的になります。ユーロ危機で日本の輸出がメタメタになる中、内需拡大策にもなる。

 それなのに、民主党政権はそうしなかった。政治家が「とりあえず、被害のひどい福島、宮城、岩手の3県だけでもやろう」と決断すれば、地域主権確立の突破口になったのに本当に残念です。

 依然として、中央省庁が被災状況を査定して霞が関に持ち帰り、紋切り型の事業にばかり予算を付けている。それに、中央が補助金を渡すシステムだと、地方の大きな事業は中央の大手企業が取ってしまうんです。被災地の仮設住宅にしても大手プレハブメーカーが受注して、東京から人を送って造った。これでは地方経済に役立たない。

 復興庁も「絶対反対」とは言いませんが、新しい役所をつくって、役人のポストを増やしてどうするのか。各省庁の機能を効果的に使えばいいんです。屋上屋を架せば、官僚支配の肥大化になる。そんな法律を通すのに膨大な時間をかけて、発足は春ですよ。それよりも早く地方が自由に使える金を配った方がよっぽどよかった。

 結局、民主党政権は中央省庁の権限を奪えず、従来の国の統治機構を変えられないままでいる。官僚の抵抗はありますが、政治の側に覚悟がないからです。明治以来の中央集権の官僚機構を根底から変える。そうした強い理念がないのだと思います。その点、大阪の橋下徹市長とは考えが一致している。旧体制、すなわち既存の官僚機構、国の統治機構をぶっ壊す。それをやり遂げなければ、真に国民のための政治はできない。彼はそう考えていると思います。それなら僕も賛成です。我々民主党が主張していたことなのに、お株を奪われた格好です。

 裁判でずっと座っているのはきついですよ。しかし、僕が検察・法務官僚に屈してしまうと、日本の民主主義は崩壊してしまう。

 この問題は僕個人の問題ではなく、政権交代を目前にした野党第1党の党首に対して、何の証拠もないのに、検察が強制捜査を行ったということなんです。それが許されるなら、日本は法治国家でも民主主義国家でもない。

 これまでの田代検事、前田元検事らの証言などで、国民の皆さんも「やっぱり国家権力の乱用だった。最初から小沢を起訴して裁判にかけようと意図して捜査した」ということが分かってきたと思います。犯罪をなくすのが警察、検察の仕事なのに、犯罪人をつくろうとしたのか、それがあなたたちの仕事なのか、と言いたい。

 公判が進んでいる以上、「日本は民主主義国家なんだ」という結論をきちんと出さなければいけない。僕自身がみんなにそれを示さなければならない。そういう覚悟で闘っています。

 野田政権のTPP交渉も疑問です。国内と国外で言うことが違う。向こうではアメリカにいいことを言って、日本に帰ってくると言い訳をする。こういう二枚舌の手法、姿勢が一番いけない。国内だけでなく海外からも信頼されなくなる。「何だ、アイツ。自分で言ったくせに、発表を訂正しろとか、ふざけるな」となっちゃう。

 野田首相が本当にTPP参加が正しいと思っているのであれば、「政治生命をかけてもやる」と言えばいいんです。そうやって、政治家が覚悟を決めなければ、外交になりません。

 僕は1980年代にタフな日米交渉を経験した。通信や建設の市場開放に関する協議です。当時は1週間か10日間、朝から晩までギャンギャンやりあった。でも、最後はお互い「いい仕事をしたね」と握手して別れた。

 政治家が筋道の通った話をすれば、相手も分かってくれるものです。その前提として、政治理念やビジョンが必要なことは当然です。それがないと、官僚の言いなりになる。官僚の代弁者みたいになってしまう。彼らは事なかれ主義だから、それだと真の交渉はできないんです。官僚に対しても同様です。自分の理念を語り、筋道の通った政治方針をきちんと示す。そのうえで、「責任はオレが取る」と言えばいい。

 なぜ、それができないのか。よい言い方をすると、やり方を知らないのです。知恵と胆力ですね。今の民主党議員はその辺の基礎的訓練ができていない。ディベートの技術は勉強したのかもしれないが、制度論とか、政治の哲学、理念、それに基づく国家統治などを本気で議論してきたとは思えない。だから、どうしたらいいのかがわからない。官僚の言う通りにしか動けない。

 官僚の言いなりで、国家の統治機構の改革に手をつけなければ、いつまでたっても、マニフェストで国民に約束した「国民の生活が第一。」の政策を実行する財源なんか出てきません。自民党政権時代と同じことをやっていたら、金なんか余るわけがない。財源がないから増税だ、ということになってしまう。でも、先の総選挙から4年間、制度改革には手をつけずに、ただただ消費税増税なんて、国民は絶対に許さない。だから、僕は反対しているんです。

<安定政権を作るためには何でもやる>

 こんなやり方では民主党は次の総選挙で全滅すると思います。しかし、起死回生の方法はある。2年前の夏の原点に返って、一つでも二つでもマニフェストを本気になって実行するしかない。国民は今も自民党がいいとは思っていません。「民主党が今度は本気になったな」と思ってもらえればまた勝てる。僕はまだ、野田政権が原点に戻ることを期待しています。

 例えば、先ほど話した地域主権を、せめて暫定的にでも震災地域でやる。「子ども手当」もやるべきです。これは子どもは社会みんなで育てるという理念の話であって、財源や名称の問題ではない。

 では、野田政権が原点に戻る決断をしなかった場合はどうするか。その時は、ありとあらゆる選択肢を考えます。どんな選択をしてでも、政治を落ち着かせなければならない。その一点につきる。

 金正日亡き後の朝鮮半島の緊張、ユーロ崩壊の危機、加えて、2012年は各国の指導者が代わり、カオスの年になる。どんなことをしても、差し迫った危機に対応できる能力と安定感を備えた政権をつくらなければいけません。
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小沢一郎氏、渡辺乾介対談(12月)の(2)

 「小沢一郎氏、渡辺乾介対談(12月)」の続きです。

小沢一郎「最後の大構想」② 聞き手・渡辺乾介氏 週刊ポスト2012/01/13・20号      1/4  大友涼介氏のブログから

新年一番。小沢一郎の目が妖しく、厳しく光った。言う。「今年は選挙になる」。世界的経済危機に、日本はどうなるのか。「このままではぐちゃぐちゃになる」。すべては国民の意思次第だ。再度言う。「国民生活第一の原点に政治を立て直す」。総選挙でやるしかない。三度言う。「やる。やる。やる」インタビュー第二回はその核心に迫った。

■アメリカの真の狙いは郵貯と医療

野田政権は増税に舵を切った。しかし、国民に痛みを求めるに相応した国の方向性も社会の未来像も示せず、尚且つ政治手法は疎にして雑。政策を打ち上げても実現の手順はおぼつかない。なぜ増税か。「そうしないと財務省が困る」というのでは、国民が納得しないのは理の当然というものだ。

小沢一郎・民主党元代表は増税と聞いて、言下に「できない」ときっぱり言った。

昨年から二年越しの危機が世界と日本を覆っている。

一つは、日本の震災復興と原発事故からの立て直し。

二つは、欧州発の金融混乱を引き金にした世界恐慌の恐れがあることだ。そういう中で、今年はアメリカ、フランス、ロシアの大統領選挙、アジアでは中国の指導者交代、韓国の大統領選があり、世界の指導者が選挙に追われて、危機乗り切りのための強いリーダーシップを発揮し難い状況にある。

その国際社会に、日本がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加と消費税増税を国際公約として掲げることが、世界危機に対する有効な方策になるのか。

TPP問題ひとつとっても、野田首相にまとめられるとは思えない。なぜなら、TPPは突き詰めればアメリカ中心の国際社会のままでいくのか、それとも大きな枠組みを変えることになるのかという、優れて文明論の岐路に立つ問題だからだ。そういう国家、政治の世界観が問われている自覚はこの政権には窺えないばかりか、与党内政局の混乱が増幅する気配である。

小沢が答える。

小沢:アメリカと対等に交渉する能力があるなら、別にTPPは心配ない。だけれども、今の政府は対等に交渉なんかできない、結局アメリカに言われるままになっちゃうんだろう、というのが国民の不安です。

TPPだけじゃなく、沖縄の普天間基地をはじめとする安全保障問題だろうが、全部同じなんです。経済問題も同じ。とにかく日本人は自立しなきゃいけない。まして政府はきちんと日本の国益を主張できなきゃいかんということですよ。

渡辺:TPP参加論者たちは、小沢さんはもともと市場開放論者だったじゃないかという物言いをする。

小沢:そう。僕は解放論者ですよ。

渡辺:かつてもウルグアイ・ラウンド(※注1)の時も、いち早く開放して有利な交渉権を獲得しようとした。

※注1・・・1986~95年にかけて行われた農産物、サービス貿易分野を中心とする多国間貿易交渉。自民党政権から交渉を引き継いだ細川政権は93年、コメに高い関税をかける代わりに一定量を輸入する部分開放を決断。国内農業対策として10年間で6兆100億円の対策費が支出された。

小沢:僕はそう主張した。だけど、日本政府はそれを言えなかったわけだ。あの時は自民党内で話が全部でき上がっていた後だから、そこから動かす余地はあまりなかったんだけれども、僕は自由貿易に原則賛成した上で交渉すればいいという意見だった。今だって政府に交渉能力があるんだったら何も心配ないです。

渡辺:しかし・・・。

小沢:ないから、心配になる。

渡辺:アメリカの言いなりになると、どういう問題が考えられるか。

小沢:協定書に載っている通りですよ。23分野(※注2)かな。でも、実はマスコミが一番騒いでいる農業なんて、アメリカにとっては大したことではないんですよ。

※注2・・・TPP協定の交渉には農業、金融、電気通信、政府調達、環境など23分野の作業部会が設けられている(主席交渉官会議を含めると24部会、21分野とする数え方もある)。

渡辺:それでアメリカが儲かるなんてことはない。

小沢:日本の農林水産業の年間総生産高は13兆円です。だから、金額だけでいえばたいしたことない。ただし、それに関わってる日本の農家は直接的な打撃を受ける。その対策は十分に講じなければならない。

でも、アメリカの狙いはそれじゃないんです。案の定、アメリカは挙げてきたでしょう。郵貯とか医療とかですよ。アメリカは自分の都合のいいところの規制撤廃を求めてくる。既にその国の市場に入り込んでいる分野は黙っている。

渡辺:実際、牛肉などはオーストラリアの方がアメリカより全然安い。

小沢:日本の牛肉だってちゃんと売れている。今は放射能問題があったりするけれど、アメリカ産とは肉の質が違うからね。

市場開放に備えるためにも、国内対策として農業戸別所得補償の創設をマニフェストに入れた。その対策をきちんとやれば、農業はやっていけるんです。けれども、ノーガードでTPPに参加したら、もろに生産者にしわ寄せがいく。

渡辺:先を見据えて農業戸別所得補償制度も考えて政権政策の基本にしたのに、それを棚上げにした。TPP参加の手順が何もない。

小沢:何を考えているんだか、わからないですね。

■日米は本当に同盟といえるのか

渡辺:憲法の前文には、「国際社会において、名誉ある地位を占めたい」という一節がある。しかし、TPP論者の主張は、欧米依存症ないしはアメリカ恐怖症の人たちが煽っている印象だ。対米、対中の狭間でどちらつかずで揺れたまま。結局、両方に相手にされなくなる。

小沢:アメリカだってもうイライラして、日本なんか相手にしてない。だから、たとえばTPPでも「野田首相はオバマ大統領にこう言った」ととアメリカが発表したでしょう。すると、日本政府は「そんなこと言っていない」なんて言う。(※注3)

※注3・・・昨年11月の日米首脳会談後、米政府は「野田首相がTPPについて『すべての物品及びサービスを貿易自由化交渉のテーブルに載せる』と述べたと発表した。これが日本国内で批判されると、日本政府は発言内容を「事実無根」と否定したが、米大統領副報道官は「米国の声明は正しい」と訂正する考えはないことを明言した。

この日本の二枚舌が、アメリカ政府にしてみれば「なんだあの野郎、ふざけるな」となり、日本国内でも一体どっちなんだという混乱、不信を招いてしまう。

今までずっとそういう手法でやってきたんだけれど、そういう二枚舌、中途半端が一番いけない。

渡辺:特に民主党政権で目立つのは、国際公約を乱発する手法です。国際交渉の経験がない人ほど外圧を怖がって、その場しのぎの発言をしている。

小沢:TPPや消費税増税の話ですね。普天間の問題だって、もう15~20年ぐらいになるでしょう。その間、日本は問題を解決する方法をなにも提示していない。だから、アメリカだって頭にくるに決まってますよ。

海兵隊は撤退してくれ、沖縄のきれいな海は埋められませんというのは当然です。その代わり、撤退することで生じる(日米安保の)空白はどうするのかを議論しなきゃ解決できない。日本ができることはやりますと言わなければならない。

沖縄は日本の領土じゃないですか。極東の安全と対中脅威論からいえば、琉球列島は非常に重要な海洋線になる。そこは日本がちゃんと守りますと言えばいい。それから、有事や非常時の情報収集やアメリカ軍との連携に必要な設備の設置とか、日米両国の世界戦略的な話をすれば、アメリカだって納得する。

それを全然なにも言わないで、なにもかもアメリカにおんぶに抱っこしようとする。嫌なことはなにもしたくないというのではだめですよ。

渡辺:あなたは国際社会を見る政治家の視点として、「日米中正三角形論」を唱えてきた。最近、TPPの旗振り役の与党幹部が、「そんなことは有り得ない」と批判していた。

小沢:日本の世界戦略なんて考えたことがないんだろうなあ。(苦笑)

中国は日米同盟関係についてはなにも文句は言わないです。だから、日米同盟は中国など気にせずにやればいい。ただし、その日米同盟は本当に同盟といえるものなのかということを、僕はずっと言ってきた。同盟関係じゃないんじゃないか。

日米にもし健全な同盟関係ができたとしても、中国は文句を言ってこない。一方、中国は歴史的にアメリカの十倍以上も長く付き合っているんだから、大事な国であることは間違いない。日米同盟と日中の友好親善はなにも矛盾しない。中国はちゃんとわかってますよ。

渡辺:あなたは毎年、長城計画で日中、ジョン万次郎の会(※注4)で日米の草の根交流を続けている。なにもやってない人が陰口を言う。

※注4・・・小沢氏は自民党時代から日米、日中間の草の根交流事業を行っている。「ジョン万次郎の会」(90年~)では、日米両国で毎年交互に「日米草の根交流サミット」を開催。「長城計画(86年~)では、両国の若者の相互訪問や中国からのホームステイ受け入れを実施している。

小沢:困ったもんです。アメリカも苛立っている。野田さんの訪米も延期になった。中国だって相手にしないでしょう。あの人は今までなにを言ってきたんだという感じで見ていますね。

■不景気にはむしろ減税すべき

渡辺:経済危機の中で国民に増税や重税を強いるというのは、戦前の世界恐慌で政府が金解禁など政策を誤って昭和恐慌を招いた歴史の失敗を繰り返す。

小沢:このままやればそうなる。もしやったら大変なことになる。2012年は絶対に深刻な不景気です。

渡辺:世界経済は非常に厳しくなる。

小沢:一般論で考えて、豊かな生活を体験した欧州の国民がレベルをダウンするというのは、経済が破綻するまで無理です。ということは、財政再建はできない。

日本だって、原発事故で電気を節約するといったって、生活レベルを下げて電気製品を使わなくなるわけじゃないでしょう。今は所得が減っているから買い物を控えているだけでね。

渡辺:不景気のとき減税をしなきゃいけないという考えは今も変わらないか。

小沢:やるとすれば減税ですね。あるいはもっと財政出動をしなきゃいけないかもしれない。すでにいった、原発の封じ込め(人間小沢一郎①参照)、何十兆円かかったってやらなきゃいけない。

渡辺:93年の『日本改造計画』でも、新進党、自由党の選挙公約でも、一貫して所得税・住民税を半減して経済を変えると唱えてきた。

小沢:だから所得税を少しずつ下げてきたけれども、その分住民税をばーんと上げた。だからお年寄りは困っている。政府がそういう姑息なことをやる。それで政治が不信を買うんです。

渡辺:今の日本の危機の根源は、政治が国民の信頼を失っていることにある。民主党政権の姿形、とりわけこの二代(菅直人、野田佳彦)は非常にみっともないようにみえる。

小沢:そうだね・・・。いや、あまり肯定するわけにもいかんけれど(笑)。

渡辺:これほど政権公約を変質させたり、反故にしたりすれば、外国であれば政権が一日ももたない。

小沢:日本では市民のパワーが政治の転換に結び付かない。しかし、二年前の総選挙で一歩を踏み出したから、今度は勇気を持ってやると思う。今のままでは民主党は次の総選挙で手痛いしっぺ返しを食らうよ。

渡辺:しかし、有権者に選択肢がない。自民党といわれても・・・。

小沢:だから僕は、カオスの状態になるといっている。過半数を取れる政党がなく、政治がゴチャゴチャになっているときに大不況になってみなさい。もう悲劇ですよ。そうなると日本人はすぐに情緒的に走るから、過激な議論になっちゃう。

たとえば田母神俊雄氏の議論(※注5)もそうでしょう。僕は彼の言ってることがすべて間違いというわけではないが、軍人としていうべき話じゃないと思う。けれども、ああいう真面目に考える人ほど過激な議論をする。だから非常に憂慮すべき事態だと思う。

※注5・・・2008年10月、現職の航空幕僚長だった田母神俊雄氏が論文で「大東亜戦争は侵略戦争ではない」「自衛隊は領域の警備もできない、集団自衛権も行使できない」など、従来の政府見解や憲法解釈を否定、批判した問題。田母神氏は航空幕僚長を解任され、その三日後に退官した。

渡辺:与野党の政治家、特に党幹部や政権中枢の人がもっともらしく財政再建を至上命題にして、「子孫にツケを残すな」という言い方をする。それを言う前に、政府や役所の無駄の排除、そして官僚利権の温床に命懸けで切り込むべきなのに、官僚と闘う覇気もない。財政再建論というのは、行政利権の聖域を死守しようとする官僚との闘いに臆した政治家の、持ちつ持たれつの方便、黙契ではないか。

小沢:論理的に詰めるとそうなるけれども、僕は(政権交代して)急に偉くなった人たちがみんな、基礎的な訓練をしていないからだと思う。政策であれ、政府内の調整であれ、外交であれ、基礎的な訓練をしていないから自分で判断ができない。同情的に言えばね。

渡辺:ずいぶん優しい。(笑)

小沢:だから、官僚と結託して自分も利権を拡大しようなんて、大それたことを考えるほどではないと思う。どうしたらいいかがわからないんですよ。

渡辺:まだ政権の日が浅いからか。それとも人の問題か。

小沢:(即答)人だね。

渡辺:自民党には、そうした訓練の場やシステムがあったということか。

小沢:でも、今はないようだね。時々、自民党の古い連中が言うんですよ。「我が党も民主党と一緒になってしまった」ってね。(笑)

渡辺:政権党時代の自民党にはそれがあった。

小沢:良くも悪くも、だけれどもね。僕らも当選したときは、四、五期生の人がああだこうだと教えてくれた。民主党にはそれがまったくない。今の自民党も一緒だね。

渡辺:あなたが一人前の政治家になったと感じたのはいつ頃だったのか。

小沢:自信がついたのは、自民党の総務局長と衆議院の議運委員長として党務や国会活動を経験してからですね。そして役人に驚かなくなった。中央省庁の役人は、課長で何百億円って金(予算)を動かす。最初、新人議員の頃は、本当に偉い人たちだと思ったよ。

今の一期生や二期生が役人に頭が上がらないのも無理はない。それを払拭するには時間がかかります。

渡辺:それが基礎的な訓練。

小沢:そう。僕は総務局長や議運委員長になるまでに、初当選から十五年ぐらいだった。それでいくと民主党は若いんですよ。

■僕は政権交代の生贄でもある

渡辺:こんな見方はどうか。今の政府・与党中枢には、小泉路線に郷愁を抱く政治家が少なくない。小泉政権時代に議員になった者も多く、彼らは小泉内閣の親米外交、アメリカの対テロ戦争支持に事実上協力し、いうなれば小泉氏にかわいがられた関係にあった。

しかし、あなたは対テロ戦争、自衛隊派遣に反対し、小泉内閣の格差拡大政策を厳しく批判して、いわば小泉氏とは政治的に対極関係にあった。

小泉氏は04年の年金制度改革の際、国民に年金保険料アップと支給額二割カットを押し付けて、これで百年安心の年金制度だと説明した。その裏で、年金債務が膨らんで550兆円になっている。消費税増税に年金財政の累積債務解消の狙いが含まれていることはすでに伺ったが(人間小沢一郎①参照)TPP参加問題も含めて、現在の民主党政権は、形を変えた小泉路線の踏襲ではないかとさえ思う。

小沢:小泉氏も明確な政策があったわけではない。彼はそのときどきの判断でエイヤッっとやるから何の論理もない。だから「自衛隊の行くところが安全なところだ」なんて、でたらめを平気で言える。度胸があるといえばあるし、他人から何を言われようが平気の平左だ。

ただ、小泉・竹中改革と呼ばれるものは小泉氏や竹中氏の発想だけで出たわけではない。政界だけじゃなくて、官界や経済界にも小泉流の新自由主義に賛成する人がいたから、エイヤッっでやることができたんじゃないかな。

渡辺:その勢力は現在も健在だ。民主党内の小沢路線と、政府・与党内に沈殿している小泉路線との二重構造が排除、解消されない限り、早晩、政権は政策的に立ち行かなくなる。

小沢:僕の主張を批判する人たちはなにもわかっていないんです。じゃあ、あんたはどういう政策なんだ、僕の路線や哲学とは何なんだ、小泉改革とは何なんだ、ということが全然わかっていないでしょう。そんな人たちをまともに相手にしたってしょうがない。

ただ、小泉氏は主張する能力はあったから、その意味で僕は彼の資質を認めるんです。けれども、彼は、向米、親米で、僕が反米だとかいう種類の表面的な論評は馬鹿げているね。

渡辺:小泉路線に郷愁を抱く人たちは、政権交代まではあなたの訴えた政治主導、「国民生活が第一」の理念に従った。しかし政権をとると、次第に政策の転換を図り、いわゆる「政治とカネ」を奇貨として、あなたを政治的に封じ込めた。

小沢:僕の問題は僕個人のことじゃないんです。それは政権交代の生贄でもあるし、権力闘争の結末でもあるわけです。僕の問題のように、国家権力が濫用されると大変なことになるということを、政治家はみんな真剣に考えなきゃいけない。検察・法務・司法官僚に狙われたら、明日は我が身なんですからね。

たとえばイギリスでは、国会議員がスパイ容疑で逮捕された時、与野党の議員は、国会議員を何の確証もないのに逮捕するのはけしからんと反対して釈放させた。それほど国民の代表として、民主主義のあり方というものに真剣なんだけれども、日本の場合はそこが全然違います。

この問題は政権交代の可能性が高いといわれていた09年の総選挙の直前に起きた。現に何の確証もなかったのに、政権交代するであろうとみられている野党第一党の党首に強制捜査をかけたんですよ。こんなことが民主主義社会で許されるはずがない。(犯罪の)確証があれば別ですけれども、結局、検察が二年近く捜査しても何も不正はなかった。それでもなお強制起訴して裁判にかけるというのは、民主主義に対する挑戦、破壊行為です。少なくとも民主主義国家、法治国家では絶対に許されない。

そこをみなさん考えてください。僕は一生懸命耐えて、頑張るけれども、そんなことを許していたら民主主義が成り立たない。官僚に睨まれた人はみんなおしまいになっちゃう。

渡辺:官僚に睨まれた者がそれだけ怖い目に遭うかという話でいえば、アメリカに逆らった政治家は潰されるという言われ方もする。

小沢:そう、それもあるんですよね。

渡辺:アメリカに睨まれたから、あなたはこうなったという見方もある。そう感じることはないか。

小沢:そりゃ、ありますよ。それがメインの理由とは思わないけれどもね。アメリカも勝手な国だから、自分の気に沿わないとみんなやっつけちゃう。そういう面はあると思う。今のアメリカ政府の人たちは、多分、僕の真意をわかっていないんじゃないかな。彼らも勉強不足なんです。特にアメリカのキャリア官僚はね。

渡辺:アメリカの官僚は、日本の官僚ほど優秀ではないかもしれません。

小沢:日本の官僚はよく指導すれば優秀なんです。放っておくからダメなんだね。

■体制が変わると困る大メディア

渡辺:あなたは裁判の初公判で、民主主義を踏みにじる日本憲政史上の一大汚点、法治国家で許されない暴力行為だと、強い口調で裁判の打ち切りを主張した。

小沢:冒頭の意見陳述だね。

渡辺:怒りの激しさが伝わる内容であったが、党内では「小沢封じ」といい、今度は司法まで加わった小沢攻撃という未だ異常な状態になている。先ほど、生贄という言葉を使ったが、日本の危機を双肩に乗せて裁判を闘っているように見える。

小沢:個人の自立、国家の自立、そして議会制民主主義の定着、それらを実現するためには、僕は屈するわけにはいかない。ここで屈したら、永久に日本に民主主義が定着しない。だから僕は一人の戦いだけれども、最後まで応援してくれる人もいっぱいいるから、頑張らないといけない。それは自分自身のためではなくて、日本の民主主義のためだと思っています。

渡辺:日本分析が鋭いオランダ人ジャーナリストのK・V・ウォルフレン氏は、こうした一政治家に対する執拗な攻撃は世界でも例を見ない「人物破壊」だと看破している。世界の人たちは、この小沢裁判を日本の民主主義、議会主義、法治主義の程度を量る尺度として見ているのではないか。

小沢:そう思いますね。日本は果たして民主主義国家なのかという疑いの目をもって見ています。

渡辺:いわゆる既得権益派には、あなたがいくら無罪を主張しようと、最高裁まで引っ張って政治的な動きを封じてしまえという魂胆があるかもしれない。世界に誰がこの異常さを説明するのか。

小沢:このまま推移すれば、やっぱり日本自身が天罰を受ける。それは仕方がない。国民が自ら立ち上がらなきゃどうしようもないことですからね。リビアやシリアとは違って、日本では立ち上がったからといって殺されるわけじゃないでしょう。本当におかしいと思ったら、僕のような政治的なケースの問題も、あるいは原発の問題でも、やっぱり国民みんなが立ち上がらないといけないと思う。

渡辺:大メディアは、ロシアで何百人がデモしたとかは報じても、あなたの真意を理解しよう、支持しようという人たちが全国各地で千人を超えるデモをしても、一行も書かないで無視する。

小沢:そうなんだよね。

渡辺:新聞がそうした民主主義の危機を伝えず、封印していることが問題だ。

小沢:大新聞、テレビというのは旧体制の中でも、一番既得権益を持っているところだから、今の体制を変えられるのは怖いんですよ。だから、小沢一郎は抹殺しろとなっちゃうわけです。

渡辺:政治と司法、メディアの人物破壊がいかに熾烈であろうとも、この戦いの審判というのは、究極、国民自身が下すしかない。

小沢:国民の公正で冷静な判断があってこその民主主義です。それがないと民主主義は根底から成り立たないのです。

***** ***** *****

本誌の小沢一郎インタビューは1990年11月、若き自民党幹事長当時を第一回目として以来、足掛け23年間、本号で22回目を数える。その間、小沢氏は与党にあっても野党に転じても日本政治の渦中に身を置き、名実共に中枢政治家として一本道を歩んできた。ざっと160ページ、23万文字。終始、国の在り方、政治が何をすべきか、日本の自由と民主主義の成熟を願う一念を熱く語り続けてきた。

順風と逆風が激しく交錯し、毀誉褒貶(きよほうへん)の定かならぬのも20余年変わらないとはいえ、世界経済が危機にある中、その政治人生の夢と希望を賭けた政権交代が国民の願いに反してよたりへたりする姿に、罵声をぶつけ、地団駄踏む音がびんびんと聞こえるようなインタビューだった。(このインタビューは2011年12月14日に行われた)
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