ユーロは崩壊か分裂か
2011-12-18
見捨てられるユーロ 三橋貴明 Klugから
12月9日にブリュッセルで開催されたEU首脳会議を経て、英米両国が「ユーロを見捨てる」動きが決定的になった。
『2011年12月10日 産経新聞「「もう米国民は関わらない」迷走欧州に米報道官 IMF資金供出も否定」
カーニー米大統領報道官は9日、欧州連合(EU)がまとめた危機対策は不十分との見方を示すとともに、国際通貨基金(IMF)への資金拠出にも応じないと明言した。
EUが財政規律強化へ新協定を打ち出したことに、カーニー氏は「進展の兆しはある」としながらも「一層の取り組みが必要なのは明白だ」と強調。EU新基本条約制定やユーロ共同債で合意できなかったことに不満を隠さなかった。
一方、米有力シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所のエコノミスト、デスモンド・ラックマン氏は「EUは欧州で広がる信用危機への処方箋を示せなかった」と分析。EUがIMFへ最大2千億ユーロの融資を決めたことにも、ブルッキングス研究所のダグラス・エリオット研究員は「市場を納得させるには不十分」とみる。カーニー氏も「米国の納税者がこれ以上関わる必要はない」として、米国はIMFに拠出しないと指摘。「欧州が解決すべき問題だ」と突き放した。(後略)』
『2011年12月10日 ブルームバーグ「EU財政合意「幸運を祈る」、蚊帳の外の英首相-スウェーデン追随か」
キャメロン英首相は、ユーロを救済するために主権を犠牲にすることを拒否し、財政規律を強化する欧州諸国の合意に参加しない道を選んだと語った。
キャメロン首相は、欧州連合(EU)の合意に伴う規制から金融取引の中心であるシティー(ロンドンの金融街)を保護する手段を確保することができず、フランスのサルコジ大統領やドイツのメルケル首相と袂(たもと)を分かつ結果となった。英国のほか、場合によってはハンガリーとスウェーデン、チェコが新たな財政規律の枠組みの外にとどまる見通しだ。
首相はブリュッセルでのEU首脳会議の夜を徹した協議の終了後、記者団に対し、「提案内容は英国にとって良いものではなかった。彼らだけでしたいようにやらせる方がよい。幸運を祈っている」と突き放した。』
正直、ここまで英米両国が露骨にユーロを見捨てにかかるとは、予想していなかった。とはいえ、EU首脳会議の結論を見る限り、英米がこのような態度をとるのも無理もないといえる。
現状のユーロの問題を解決するには、もはや二つの道しか残されていない。
(1) ギリシャ、ポルトガルなど、「経常収支赤字」「対外純負債」が延々と続き、ユーロに加盟している限り財政危機を沈静化できない国々を切り離す。(ギリシャなどが独自通貨を導入し、あるタイミングでユーロから切り替える)
(2) ユーロ共同債を発行し、さらにECBが国債買取枠を増やし、「ユーロ全体で」危機を沈静化させる。すなわち、ドイツが『地方交付金』のイメージで、ギリシャなどの国に自らの税金を注ぎ込み、救済する。さらに、ECBがまさに「地方債」を買い取るコンセプトでギリシャ債などを買い取り、長期金利を抑え込む。
無論、ECBが各国の国債を買い取ると、各国のインフレ率が急騰する可能性が高い。均衡財政至上主義のドイツ政府や、ユーロという通貨を「こよなく愛する」ドイツ国民は、財政赤字が増え、ユーロの価値が下がっていくのを是認しなければならない。
すなわち、「腐った部分を切り捨てるか、もしくは完全に一体化する」以外の道は、ユーロにはもはや残されていないわけである。そもそも、各国が金融政策に関する「主権」をECBに委譲しているにも関わらず、財政政策の主権は各国個別に持つというユーロのコンセプト自体に、無理があったのだ。
ユーロ加盟国が財政支出のために国債を発行するのは、これは完全に各国の主権行為である。例えば、スペインの失業率は20%を超えているが、それにも関わらずスペイン政府が雇用改善のための国債発行、財政出動に乗り出さないのでは、政府が存在する意義がなくなってしまう。と言うよりも、普通に政治家が選挙で落選してしまうだろう。
本来、財政政策と金融政策は不可分である。例えば、スペインが失業率対策のために国債を増発し、長期金利が上昇してきたならば、スペイン中央銀行は国債を買い取り、利回りを抑制しなければならない。無論、結果的にインフレ率が高まっていくだろうが、インフレ率上昇は企業の設備投資意欲を高め、失業率低下に貢献する。
財政政策を実施する政府と、金融政策を管理する中央銀行は、協調して国内の問題解決に当たらなければならないのである。ところが、ユーロ加盟国は金融政策をECBに委譲している。結果、独立した金融政策を採ろうとしても、完全に不可能という奇妙な状態に陥ってしまった。すなわち、主権の一部を喪失した国々の典型例こそが、現在のユーロ加盟国なのである。
一応、現在のユーロ諸国は上記の内の(2)について推進しようとはしている。
ところが、今回のEU首脳会議で決められたのは「財政規律強化」のみで、ユーロ共同債導入も、ECBの国債買取増大も決定することができなかった。ブンデスバンク(ドイツ連邦銀行)のバイトマン総裁に至っては、
「税金を各国に再分配する任務は明らかに金融政策の中にはない。国家の債務が中銀を通じて資金手当てされることは引き続き条約で禁止されている」
と、ECBの国債買取増大を明確に否定してしたのである。ドイツらしいと言えば、ドイツらしいのだが、これで破綻に直面したPIIGS諸国を救う手だては、ほぼなくなってしまった。
現在、欧州諸国の長期金利(新規発行十年物国債金利)の利回りは、明らかに「二極化」の局面に入っている。すなわち、経常収支黒字国で対外純資産がふんだんにある国の金利が下がり、逆に経常収支赤字かつ対外純負債国の金利が急騰していっているのだ。
また、ユーロに加盟していないイギリスも、ポンド高と長期金利の低下が同時に発生している。明らかに、ユーロからポンドへの両替が増え、イギリス国債に資金が流れ込んでいるのである。
【図132-1 欧州諸国の新規発行十年物国債金利の推移(単位:%)】

出典:ユーロスタット
長期金利が完全な二極化状態にあるにも関わらず、EU首脳会議では解決に繋がる対策をまともに打つことが出来なかった。
結果、まずはアメリカがユーロを見放し、IMFへの資金拠出を求められても応じないことを明言したわけである。結局のところ、IMFは「救済できるところ」しか救済しない。すなわち「助かるところしか助けない」のがIMFなのだ。08年のアイスランドの危機の際に、IMFがなかなか緊急支援に応じなかったのは、同国が「助けられるかどうか不明」だったためである。
今回のアメリカの決断は、
「ユーロは自らを救済することができない」
と判断したに等しいわけだ。
何しろ、IMFの融資は出資者の85%の同意を経なければ、実行されない。そして、アメリカはIMFの出資の16%を保有しており、事実上の拒否権を持っているのだ。一応、アメリカはIMFからユーロ諸国への緊急融資には同意しているが、それにしても最大出資者が資金拠出に応じないと宣言したことは、衝撃的だ。
さらに、イギリスのキャメロン首相は、EUの首脳会議で話し合われた新基本条約について、
「(独仏が主導した)EU新基本条約締結は英国の国益には合致しない。不参加は厳しい決断だが、正しいものだ」
と、完膚なきまでに拒否をした。結果、EU新基本条約の目玉である財政規律に関する規則強化は、EU27カ国全体の合意にはならなかった。
イギリスがEU新基本条約を拒んだ理由は、同条約が含む「財政規律の違反国に対する自動的制裁発動」などが、英国の主権を侵害するものであると判断したためだ。「他国が定めた基準」により、自国の財政に対して自動的に制裁が発動されてしまうのでは、これは確かに主権侵害である。
何というか、結局のところユーロとは「各国の主権」の問題であることがよく分かる。各国が金融政策に関する主権を放棄し、かつ今回は財政に関する主権についても、一歩踏み込んだ条約を締結しようとしたわけだ。
各国が主権を失っても、代わりに得られるメリットがそれを上回るのであれば、ユーロは今後も存続しうるだろう。しかし、現状は主権喪失の代償として得られるメリットが、あまりにも少ない。特にドイツなどは、自国の国民経済発展のために使われるべきお金が、ギリシャなどの「不良国」に支払われてしまうのである。
無論、ユーロがすでにナショナリズムを醸成し、各国国民が「ユーロ国民」としての意識を持っていれば、特に問題はない。日本の都市部の人が、地方交付金についてブツブツと文句を言いつつ、決して拒否はしないのと同じだ。ところが、現時点でユーロ・ナショナリズムは存在していないのである。ドイツ国民はドイツ国民で、ギリシャ国民はギリシャ国民なのだ。すなわち、ユーロ国民というものは未だ存在していないのである。
ドイツ国民からしてみれば、自らの主権の範囲は「ドイツ」のみにしか及ばないにも関わらず、他国(ギリシャ等)を救済するために自らのお金が使われるわけだ。これで政治的な反発が起きなければ、そちらの方が不思議である。
もちろん、反発は起こっている。結果的に、ドイツはユーロ共同債やECBによる各加盟国の国債買取には断固反対し、各国が「財政規律を強化する」という、むしろ逆効果になりそうな案しかEU首脳会議で話し合われなかったわけである。(ドイツらしいと言えば、ドイツらしいのだが)。
いずれにせよ、ユーロ圏の各加盟国の経済モデルや発展段階、国民所得はバラバラであり、メリットが一致することはまずない。さらに、ユーロ・ナショナリズムを醸成するには、もはや手遅れだろう。例えば、ドイツとフランス、それにベネルクス三国のみで共通通貨ユーロを使用するのであれば、一応、最適通貨圏ということもあり、何とか維持することができただろう。しかし、ユーロはあまりにも加盟国を増やしすぎた。
アメリカ(及びIMF)が、半分見捨てた状態になり、かつ、英国が「付き合っていられない」と距離を置き、各国が「主権」の一部を放棄することで成立していたユーロという社会実験は、いよいよ最終段階を迎えたように思える。次なるイベントは、ほぼ確実に各ユーロ加盟国のソブリン債の格下げだろう。
そもそも、現在のユーロのように「共通通貨」を兼用する国の一部が、事実上、破綻状態にあるにも関わらず、独仏などの国債がAAAと格付けされている時点でおかしな話なのだ。しかも、ドイツ国債はユーロ全体の信用不安が進行した結果、巻き添えを食った形で札割れを起こしているにも関わらず、最高格付けなのだ。
格付け機関のムーディーズは、EU首脳会議がユーロ圏の危機解決への決定的政策対応を打ち出せなかったとして、EU全加盟国の格付けを見直すと発表した。また、S&Pは先週、最高格付けのドイツやフランスを含め、ユーロ圏15か国を格下げ方向で見直すと発表している。
とにかく、ユーロ加盟国の各政府は、国債の外国消化率が高い。日本の場合、国債の95%を国内で消化し、かつ100%が円建てであるため、格付け機関など無視することが可能だ。とはいえ、ユーロ加盟国はイタリアという例外を除き、国債の外国消化率が極めて高い。さらに、各国政府は共通通貨ユーロ建てで国債を発行しているため、デフォルトリスクは日本とは比較にならない。
格付け機関が相次いでユーロ主要国の格下げを実施したとき、ユーロは崩壊への道をまた一歩、大きく踏み出したと判断して間違いない。
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このブログ内のユーロ崩壊に関する記事一覧リンク
「欧州の財政危機」
「ユーロは夢の終わりか」
「動けなくなってきたユーロ」
「ヨーロッパの危機」
「ユーロは凋落、デフレと円高は悪化へ」
「ユーロの危機は労働階級を試練にさらす」
「ギリシャを解体、山分けする国際金融資本」
「ギリシャの危機拡大はEUの危機!」
「破滅するユーロか、破滅する国家か」
「欧州直接統治へ進む国際金融資本」
「ユーロは国民国家を解体するか」
「アイスランドの教訓、ギリシャはドラクマに戻せ」
12月9日にブリュッセルで開催されたEU首脳会議を経て、英米両国が「ユーロを見捨てる」動きが決定的になった。
『2011年12月10日 産経新聞「「もう米国民は関わらない」迷走欧州に米報道官 IMF資金供出も否定」
カーニー米大統領報道官は9日、欧州連合(EU)がまとめた危機対策は不十分との見方を示すとともに、国際通貨基金(IMF)への資金拠出にも応じないと明言した。
EUが財政規律強化へ新協定を打ち出したことに、カーニー氏は「進展の兆しはある」としながらも「一層の取り組みが必要なのは明白だ」と強調。EU新基本条約制定やユーロ共同債で合意できなかったことに不満を隠さなかった。
一方、米有力シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所のエコノミスト、デスモンド・ラックマン氏は「EUは欧州で広がる信用危機への処方箋を示せなかった」と分析。EUがIMFへ最大2千億ユーロの融資を決めたことにも、ブルッキングス研究所のダグラス・エリオット研究員は「市場を納得させるには不十分」とみる。カーニー氏も「米国の納税者がこれ以上関わる必要はない」として、米国はIMFに拠出しないと指摘。「欧州が解決すべき問題だ」と突き放した。(後略)』
『2011年12月10日 ブルームバーグ「EU財政合意「幸運を祈る」、蚊帳の外の英首相-スウェーデン追随か」
キャメロン英首相は、ユーロを救済するために主権を犠牲にすることを拒否し、財政規律を強化する欧州諸国の合意に参加しない道を選んだと語った。
キャメロン首相は、欧州連合(EU)の合意に伴う規制から金融取引の中心であるシティー(ロンドンの金融街)を保護する手段を確保することができず、フランスのサルコジ大統領やドイツのメルケル首相と袂(たもと)を分かつ結果となった。英国のほか、場合によってはハンガリーとスウェーデン、チェコが新たな財政規律の枠組みの外にとどまる見通しだ。
首相はブリュッセルでのEU首脳会議の夜を徹した協議の終了後、記者団に対し、「提案内容は英国にとって良いものではなかった。彼らだけでしたいようにやらせる方がよい。幸運を祈っている」と突き放した。』
正直、ここまで英米両国が露骨にユーロを見捨てにかかるとは、予想していなかった。とはいえ、EU首脳会議の結論を見る限り、英米がこのような態度をとるのも無理もないといえる。
現状のユーロの問題を解決するには、もはや二つの道しか残されていない。
(1) ギリシャ、ポルトガルなど、「経常収支赤字」「対外純負債」が延々と続き、ユーロに加盟している限り財政危機を沈静化できない国々を切り離す。(ギリシャなどが独自通貨を導入し、あるタイミングでユーロから切り替える)
(2) ユーロ共同債を発行し、さらにECBが国債買取枠を増やし、「ユーロ全体で」危機を沈静化させる。すなわち、ドイツが『地方交付金』のイメージで、ギリシャなどの国に自らの税金を注ぎ込み、救済する。さらに、ECBがまさに「地方債」を買い取るコンセプトでギリシャ債などを買い取り、長期金利を抑え込む。
無論、ECBが各国の国債を買い取ると、各国のインフレ率が急騰する可能性が高い。均衡財政至上主義のドイツ政府や、ユーロという通貨を「こよなく愛する」ドイツ国民は、財政赤字が増え、ユーロの価値が下がっていくのを是認しなければならない。
すなわち、「腐った部分を切り捨てるか、もしくは完全に一体化する」以外の道は、ユーロにはもはや残されていないわけである。そもそも、各国が金融政策に関する「主権」をECBに委譲しているにも関わらず、財政政策の主権は各国個別に持つというユーロのコンセプト自体に、無理があったのだ。
ユーロ加盟国が財政支出のために国債を発行するのは、これは完全に各国の主権行為である。例えば、スペインの失業率は20%を超えているが、それにも関わらずスペイン政府が雇用改善のための国債発行、財政出動に乗り出さないのでは、政府が存在する意義がなくなってしまう。と言うよりも、普通に政治家が選挙で落選してしまうだろう。
本来、財政政策と金融政策は不可分である。例えば、スペインが失業率対策のために国債を増発し、長期金利が上昇してきたならば、スペイン中央銀行は国債を買い取り、利回りを抑制しなければならない。無論、結果的にインフレ率が高まっていくだろうが、インフレ率上昇は企業の設備投資意欲を高め、失業率低下に貢献する。
財政政策を実施する政府と、金融政策を管理する中央銀行は、協調して国内の問題解決に当たらなければならないのである。ところが、ユーロ加盟国は金融政策をECBに委譲している。結果、独立した金融政策を採ろうとしても、完全に不可能という奇妙な状態に陥ってしまった。すなわち、主権の一部を喪失した国々の典型例こそが、現在のユーロ加盟国なのである。
一応、現在のユーロ諸国は上記の内の(2)について推進しようとはしている。
ところが、今回のEU首脳会議で決められたのは「財政規律強化」のみで、ユーロ共同債導入も、ECBの国債買取増大も決定することができなかった。ブンデスバンク(ドイツ連邦銀行)のバイトマン総裁に至っては、
「税金を各国に再分配する任務は明らかに金融政策の中にはない。国家の債務が中銀を通じて資金手当てされることは引き続き条約で禁止されている」
と、ECBの国債買取増大を明確に否定してしたのである。ドイツらしいと言えば、ドイツらしいのだが、これで破綻に直面したPIIGS諸国を救う手だては、ほぼなくなってしまった。
現在、欧州諸国の長期金利(新規発行十年物国債金利)の利回りは、明らかに「二極化」の局面に入っている。すなわち、経常収支黒字国で対外純資産がふんだんにある国の金利が下がり、逆に経常収支赤字かつ対外純負債国の金利が急騰していっているのだ。
また、ユーロに加盟していないイギリスも、ポンド高と長期金利の低下が同時に発生している。明らかに、ユーロからポンドへの両替が増え、イギリス国債に資金が流れ込んでいるのである。
【図132-1 欧州諸国の新規発行十年物国債金利の推移(単位:%)】

出典:ユーロスタット
長期金利が完全な二極化状態にあるにも関わらず、EU首脳会議では解決に繋がる対策をまともに打つことが出来なかった。
結果、まずはアメリカがユーロを見放し、IMFへの資金拠出を求められても応じないことを明言したわけである。結局のところ、IMFは「救済できるところ」しか救済しない。すなわち「助かるところしか助けない」のがIMFなのだ。08年のアイスランドの危機の際に、IMFがなかなか緊急支援に応じなかったのは、同国が「助けられるかどうか不明」だったためである。
今回のアメリカの決断は、
「ユーロは自らを救済することができない」
と判断したに等しいわけだ。
何しろ、IMFの融資は出資者の85%の同意を経なければ、実行されない。そして、アメリカはIMFの出資の16%を保有しており、事実上の拒否権を持っているのだ。一応、アメリカはIMFからユーロ諸国への緊急融資には同意しているが、それにしても最大出資者が資金拠出に応じないと宣言したことは、衝撃的だ。
さらに、イギリスのキャメロン首相は、EUの首脳会議で話し合われた新基本条約について、
「(独仏が主導した)EU新基本条約締結は英国の国益には合致しない。不参加は厳しい決断だが、正しいものだ」
と、完膚なきまでに拒否をした。結果、EU新基本条約の目玉である財政規律に関する規則強化は、EU27カ国全体の合意にはならなかった。
イギリスがEU新基本条約を拒んだ理由は、同条約が含む「財政規律の違反国に対する自動的制裁発動」などが、英国の主権を侵害するものであると判断したためだ。「他国が定めた基準」により、自国の財政に対して自動的に制裁が発動されてしまうのでは、これは確かに主権侵害である。
何というか、結局のところユーロとは「各国の主権」の問題であることがよく分かる。各国が金融政策に関する主権を放棄し、かつ今回は財政に関する主権についても、一歩踏み込んだ条約を締結しようとしたわけだ。
各国が主権を失っても、代わりに得られるメリットがそれを上回るのであれば、ユーロは今後も存続しうるだろう。しかし、現状は主権喪失の代償として得られるメリットが、あまりにも少ない。特にドイツなどは、自国の国民経済発展のために使われるべきお金が、ギリシャなどの「不良国」に支払われてしまうのである。
無論、ユーロがすでにナショナリズムを醸成し、各国国民が「ユーロ国民」としての意識を持っていれば、特に問題はない。日本の都市部の人が、地方交付金についてブツブツと文句を言いつつ、決して拒否はしないのと同じだ。ところが、現時点でユーロ・ナショナリズムは存在していないのである。ドイツ国民はドイツ国民で、ギリシャ国民はギリシャ国民なのだ。すなわち、ユーロ国民というものは未だ存在していないのである。
ドイツ国民からしてみれば、自らの主権の範囲は「ドイツ」のみにしか及ばないにも関わらず、他国(ギリシャ等)を救済するために自らのお金が使われるわけだ。これで政治的な反発が起きなければ、そちらの方が不思議である。
もちろん、反発は起こっている。結果的に、ドイツはユーロ共同債やECBによる各加盟国の国債買取には断固反対し、各国が「財政規律を強化する」という、むしろ逆効果になりそうな案しかEU首脳会議で話し合われなかったわけである。(ドイツらしいと言えば、ドイツらしいのだが)。
いずれにせよ、ユーロ圏の各加盟国の経済モデルや発展段階、国民所得はバラバラであり、メリットが一致することはまずない。さらに、ユーロ・ナショナリズムを醸成するには、もはや手遅れだろう。例えば、ドイツとフランス、それにベネルクス三国のみで共通通貨ユーロを使用するのであれば、一応、最適通貨圏ということもあり、何とか維持することができただろう。しかし、ユーロはあまりにも加盟国を増やしすぎた。
アメリカ(及びIMF)が、半分見捨てた状態になり、かつ、英国が「付き合っていられない」と距離を置き、各国が「主権」の一部を放棄することで成立していたユーロという社会実験は、いよいよ最終段階を迎えたように思える。次なるイベントは、ほぼ確実に各ユーロ加盟国のソブリン債の格下げだろう。
そもそも、現在のユーロのように「共通通貨」を兼用する国の一部が、事実上、破綻状態にあるにも関わらず、独仏などの国債がAAAと格付けされている時点でおかしな話なのだ。しかも、ドイツ国債はユーロ全体の信用不安が進行した結果、巻き添えを食った形で札割れを起こしているにも関わらず、最高格付けなのだ。
格付け機関のムーディーズは、EU首脳会議がユーロ圏の危機解決への決定的政策対応を打ち出せなかったとして、EU全加盟国の格付けを見直すと発表した。また、S&Pは先週、最高格付けのドイツやフランスを含め、ユーロ圏15か国を格下げ方向で見直すと発表している。
とにかく、ユーロ加盟国の各政府は、国債の外国消化率が高い。日本の場合、国債の95%を国内で消化し、かつ100%が円建てであるため、格付け機関など無視することが可能だ。とはいえ、ユーロ加盟国はイタリアという例外を除き、国債の外国消化率が極めて高い。さらに、各国政府は共通通貨ユーロ建てで国債を発行しているため、デフォルトリスクは日本とは比較にならない。
格付け機関が相次いでユーロ主要国の格下げを実施したとき、ユーロは崩壊への道をまた一歩、大きく踏み出したと判断して間違いない。
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恐慌と戦争から新たな社会へ
2011-12-18
明治以来、誰にも頼まれもしないのにアジア侵略に進み、ついには帝国主義間戦争にまで誘い込まれて壊滅的な沖縄戦と大空襲、ついに原爆を打ち込まれて無条件降伏した日本。
米国は周到にも、マスコミと官僚を温存すると共に、民主主義の米国と戦争責任が無かった平和主義の天皇と言うイメージを創り上げた。
当時、米軍情報局の対日工作は日本人18万人を雇用して放送と全ての印刷物を検閲し、情報統制していたのである。
こうして、米軍の蛮行は一切隠され、やさしい米兵のイメージが作られ、天皇については旧軍の統帥権はなかったものとして平和な昭和天皇が作られた。戦争犯罪は陸軍に押し付けた。
歴史の偽造である。
この偽造が65年以上も続いており、国民は子どもは義務教育から大人はマスコミと政府に洗脳されてきたわけである。
小泉政権の構造改革によってダメージを受けた国民は政権交代を実現させたが、これも米国が気に入らない政権はマスコミと官僚の総攻撃によって半年からせいぜい1年で倒されることが、国民の眼にも明らかになってしまった。
この恐慌によって米国支配層の力量は極めて脆弱になっており、世界でなりふり構わぬ行動に出始めている。
大衆によって政権交代は何度でもできるが、米国支配層である国際金融資本と軍産複合体にとっては、これ以上はますます裸をさらすばかりとなる。
日本のみならず世界の大衆が、米国と国際金融資本の嘘を見破り始めている。
米英の軍産複合体は依然として、隙あらば緊張とあわよくば戦争へと狙っている。
だがしかし、恐慌の窮乏と戦争の危機の中で、中南米、アラブ、欧州、米国本土と至るところで、勤労大衆の抗議、運動、そして政権獲得が進んでいる。
国際金融資本と軍事侵略に抗する流れは、すで中南米を先頭に動いている。
現実には、この日本もこの流れの中にある。
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320万人殺された悲劇繰返すな
日米開戦70年を迎えて
日本潰した米国の戦後支配 2011年12月7日 長周新聞
日米開戦から70年を迎える。1931(昭和6)年の満州事変、37(昭和12)年からの中国全面侵略戦争とすすみ、中国人民の抗日戦争でうち負かされるなかの1941(昭和16)年12月8日、日米開戦へとすすんだ。
この戦争で320万人もの日本人が、中国や南方の戦場で、また本土空襲や沖縄戦、そして広島・長崎への原爆投下によって無惨に殺され、およそ1000万人が家財を失って焼け出された。
それから70年、日本社会は貧富の格差が極端なものとなって社会がガタガタに崩壊し、そのうえにもういちど中国・アジアとの戦争、日本を原水爆戦争の戦場にする戦争に駆り立てられている。
70年前の悲劇が終わってはおらず、再び繰り返されようとしている。敗戦によって日本を占領し、従属国にしたアメリカのために。この現実を黙って見ているわけにはいかない。
食い物にされて前線基地化
日米開戦から70年、あの第二次大戦における日本人民が体験した筆舌に尽くしがたい苦難を思い起こし、若い世代に継承することが今ほど重要なときはない。
41年に日米開戦をしたが、その翌年にはミッドウェー海戦で大敗北し、43年にはガダルカナルの撤退、44年にはサイパンの陥落となり、敗走につぐ敗走となった。フィリピン、ビルマ、ニューギニアなど南方に送られた兵隊は、武器も食糧も補給がなく取り残されて、多くが戦斗ではなく飢えや病気で無惨に殺されていった。
サイパン、テニアンを占領した米軍はそこを出撃基地にして本土空襲を開始し、都市という都市を空襲で焼き払った。45年3月の東京大空襲にはじまり、大阪、名古屋から日本中の都市という都市を空襲で焼き払った。
4月には沖縄戦、8月には広島、長崎の原爆投下をへて8月15日に無条件降伏となった。
この戦争において、戦地で200万、内地で100万もの人人が殺された。身内の中に戦死者がいない家はないというほど殺された。1000万人もの人人が家財道具を焼かれ、焼け野原に放り出された。
戦後は、この戦争の大きな痛手と深刻な荒廃の中から、人人が立ち上がって、平和で豊かな社会を目指して建設してきた。
しかし戦後六六年たった現在、あの戦争で犠牲になった人人の願いも、それを受けて戦後社会を建設してきた人人も、その望みとはまったく逆の社会になってしまった。
この13年間、自殺者は毎年3万人を超える。日米開戦の前までの日中戦争の戦死者を上回る自殺者数になっている。自殺の理由は失業、就職できない、生活苦などが大多数となった。新卒大学生の半分が就職できない。就職してもほとんどが将来展望の立てようがない非正規雇用。
農業も漁業もつぶれて、食糧生産を担い、国土保全を担う農漁村は崩壊にまかせられている。
貧富の格差はひどいものとなり、日本社会はガタガタに崩壊してきた。これは、アメリカが毎年要求してきた年次改革要望書を忠実に実行してきた小泉・竹中改革の犯罪である。
財界も政府も「国際競争力が命綱」といって、労働者や農漁業や中小企業を痛めつけてきたが、輸出で得たドルは日本国内には回らず、アメリカ国債の購入に回されてきた。
その国債はいまやドル安で紙くずにされている。そしていまTPPで日本市場を根こそぎアメリカに売り渡そうとしている。
その上に、日本を盾とする米軍再編をすすめ、自衛隊を米軍の下請け軍隊としてかり出して、日本を戦場とする核戦争に引きずり込もうとしている。
かつて大失敗した中国侵略であるが、その中国との戦争をアメリカの代理になってやらされようとしている。米軍はグアムやオーストラリアなどに分散配備しようとしているが、それは日本だけに基地を集中していては、対中戦争において瞬時にミサイル攻撃を受けて壊滅するからだということを隠さない。
アメリカは自分が対中国の核戦争を仕掛けるが、前線基地である日本を核戦争の盾にするというのである。
革命を恐れた中枢 日米開戦の歴史に根 既に中国で敗北
なぜこんなことになっているのか、日米開戦以来の歴史の中から、はっきりと解明しなければならない。
70年前の日本は、どうして日米開戦に突きすすんだのか。
明治維新によって成立した絶対主義天皇制は、朝鮮への侵略・併合、台湾の強奪、ロシア革命への干渉、中国への全面的な侵略戦争と、アジアの他民族への侵略につぐ侵略を重ねてきた。
それは明治維新以後成立した日本資本主義が、地主と農民、資本家勢力と労働者勢力という基本矛盾をなし、労働者や農民が地主と資本家勢力の二重の搾取による苛烈な搾取・収奪のもとにおかれ、国内市場の狭隘さを大きな特徴としており、国内の凶暴な弾圧とともに他民族の略奪、侵略性を特徴として持っていた。
そして中国への全面侵略戦争へと突きすすみ、中国人民の強力な抗日戦争にあうとともに、旧来中国を半植民地状態にしてきたイギリス、中国を最大の市場として狙っていたアメリカとの植民地争奪をめぐる対立を激化させた。そしてシンガポール、インドシナ、ビルマ、フィリピンなどへ侵攻を拡大。
それは米英仏蘭の植民地権益を奪うというものであり、必然的に米英仏蘭という欧米列強との戦争にすすむというものであった。
この米英仏蘭との戦争に突入するうえでの大きな背景は、中国を侵略した日本帝国主義であったが、次第に強力になっていく抗日戦争によって追い込まれ、にっちもさっちもいかなくなったという事情があった。
陸軍の中では中国撤退論もあったが、それでは天皇を頭とする支配勢力の権威が丸つぶれになり、彼らの支配を危うくすることを恐れていた。
中国に当時の陸軍兵力の主力100万人以上を投入したが、点と線で結んだ広大な大陸の一部をようやく維持するのに精一杯で、日本軍の戦死者はすでに18万5000人を数え、中国人民の抗日戦争の包囲の中で敗北は必至の状態だった。
太平洋戦争でアメリカに負ける前に、中国で敗北したのである。
日米開戦について、海軍では「1年は持つがその先は負ける」と主張していた。だが、それにもかかわらず日米戦争に突きすすんだ。それはなぜか。
天皇を頭とする戦争指導者の中枢にとっては、天皇の支配的な地位をいかに守るかが最大の関心であった。
敗戦の年の2月、近衛文麿の天皇への上奏文は「敗戦は必至。英米は国体の変革までは求めていない。 憂うべきは共産革命」とのべている。
彼らにとってもっとも恐ろしいのは人民の革命であり、したがって敗戦を早くから自覚しながら、みずからに戦争責任が及ぶのを避け、支配が維持される形で米英に依拠して降服する条件を探ろうとしたのである。
英米との関係ではナチス・ドイツとともに対ソ戦争に向けることで取り引きする道があったが、それ以前にノモンハンでソ連に介入して完膚無きまでうち負かされていたことがあり、「とても歯が立たない」というところから「イデオロギーより実利」を選択。北進策をやめて南進策へとすすんだ。
待ち構えていた米国 真珠湾攻撃口実に日本占領 天皇は裏切り
そして1941年12月8日、ハワイの真珠湾を攻撃して日米開戦の口火を切った。
真珠湾攻撃を「先に奇襲攻撃をした方が悪い」「原爆による報復は当然」とアメリカ側は宣伝してきた。
しかし戦争はそんな表面的で単純な要因ではない。アメリカ支配層は、日本軍が真珠湾を攻撃したことで、日本を叩きつぶし占領するチャンスとして小躍りして喜んだ。
アメリカは幕末のペリー来航以来、中国とともに日本を占領支配する野望を隠していなかった。
アメリカは日露戦争直後から、日本を叩きつぶして中国を奪いとることを最大の戦略とする「オレンジ計画」を策定していた。
それは先にハワイを攻撃させ、そうすれば「米国民は怒りをもって立ち上がり、工業力にものをいわせて猛反撃を開始し、日本の軍事・経済力を破壊して無条件降伏に追い込む」と記されている。
事実、真珠湾に向かう途中のカナダ沖では潜水艦が撃沈されており、アメリカが待ちかまえていたところに攻撃したのが歴史の事実である。
そしてアメリカは日米開戦直後から、日本の軍部に戦争責任をかぶせ、「天皇を平和の象徴とする間接支配」を基調とする対日占領政策「日本計画」を決定し、その方向で日本の支配層に働きかけを強めていた。
しかし、そういう上層部の思惑は国民は知る由もなかった。
そして43年ガダルカナル撤退、44年サイパン陥落で東条内閣が倒れても戦争をやめなかった。南の島では取り残された兵隊が飢えと病気で次次に死んでいき、武器も食糧もなく輸送船に積み込まれた日本兵が、アメリカの潜水艦によって次次に海の藻屑となった。
45年3月10日の東京大空襲を皮切りに大阪、名古屋などの大都市から下関、岩国、光などの中小都市まで、全土94都市がB29の焼夷弾と爆弾の雨を浴び放題。逃げ惑う日本の女子どもを、グラマンの米兵がニタニタ笑いながら撃ち殺した。
そして、沖縄戦の惨劇が起こっても戦争をやめず、アメリカが広島と長崎に原爆を投下し、何十万もの無辜の老若男女を焼き殺して無条件降伏となった。
早くから日本の敗戦は決定的であり、原爆投下は戦争終結のためには必要なかった。それはアメリカがソ連を排除して日本を単独占領し、日本の支配層を手下にして新たな日本の支配者になり、日本人民を搾取・収奪するとともにアジア侵略の拠点とする計画を実行するためであった。
そして国民には「本土決戦」「一億玉砕」を叫んできた天皇制政府も、この点では利害が一致しており、日本国民を犠牲にし裏切って自分たちの支配の地位を守った。
本土空襲で「皇居も軍も三菱も無傷だった」と体験者が証言しているが、戦前の駐日大使で、三菱や住友と深い関係を持っていたグルー(JPモルガンの利益代表)が、「日本の軍需工場を攻撃するな」「今から日本の資本主義を発展させ、収奪していくんだ」と語っていたことが最近の史料で明らかになっている。
民族の悲劇が到来 戦後は太らせて食い潰す 原発政策が象徴
したがって第二次大戦の終結は、「平和で民主主義の時代」が到来したのではなく、日本民族にとってのより大きな悲劇の始まりであった。
アメリカの日本占領は、歴史上で例を見ないものである。
米英はドイツとの戦争のさいにはヒットラーを標的にしたし、ドイツのマスコミなどは戦後すべて解体した。
ところが日本においては、天皇制軍隊の解体、財閥解体、地主制の廃止、憲法改定などをやって、民主主義のような大騒ぎをしたが、実際には戦争を推進した天皇も財閥も政治家も官僚もマスコミも、戦前の支配機構が「平和主義者」のような顔をしてそのまま残った。
彼らがアメリカの日本侵略支配の代理人として地位を守ろうとしたのである。
日本の敗戦とそれに続く六年間のアメリカ軍占領の後に、1951年9月、サンフランシスコ片面講和条約が結ばれた。
ポツダム宣言にもとづく全面講和であれば、日本には外国兵は一人もおらず、一カ所の軍事基地もあるはずはなく、内政・外交ともに日本は完全な独立国として行動し、アジアの平和に貢献できるはずであった。
ところがこの単独講和と同時に締結された「日米安保条約」および諸協定は、外貌だけ「独立した」ように見せかけながら、その実アメリカの占領を固定化する歴史上類をみない屈辱条約であった。
その後、アメリカの技術、資本、市場に依存して高度経済成長なる重化学工業化を進めてきた。日本は豊かになったといってきたが、その結果が現在である。
牛か豚のように太らせて食い物にするという結末となった。
もっとも象徴的なものは原爆を投下された日本を原発列島にしたことである。
原子力は戦後アメリカ輸入の最先端技術で夢のエネルギーとされてきた。その結果が、今回の東日本大震災に続く福島原発大事故である。
日本で原発建設を強行したのは、日本人の原爆投下への怒りをかき消すとともに、日本を余剰ウランのはけ口とするアメリカのエネルギー戦略実行の目的からであった。
そして世界有数の地震大国日本の海岸線に54基もつくったなら大事故になるのはわかり切ったことであった。
東電の福島第一原発一号機はアメリカの原子力メーカーGEからの輸入品であり、あとの原発もGEの設計で東芝や日立が下請となってつくったものである。原子力の特許はアメリカが占有し、日本のメーカーは莫大な特許料を支払っており、事故になっても製造者責任も問わない。
重化学工業化にともなって、日本の農漁業は衰退の一途をたどってきた。
その結果、かつて100%以上であった食料自給率が、近年は40%にまで下がり、主食である穀物自給率だけを見ると28%という他国に例を見ない異常な事態になっている。
それもアメリカの農産物を売りつけるため、「コメと魚」が中心であった日本人の食文化を欧米型に変えさせ、小麦や大豆、牛肉やオレンジと次次に輸入自由化をおこなってきた結果である。
米国で余剰農産物処理法(対日輸出促進のため)が成立した1954年、日本では学校給食法が成立し、パンと脱脂粉乳の給食が始まった。
そして今では、農林業の衰退で森林や田畑に人の手が入らなくなって、水源涵養機能や国土保全機能が崩壊し、大雨になったら洪水の心配をしなければならない国土崩壊の事態に直面している。
市場原理で経済も破壊 小泉改革押しつけ
とくにアメリカは、1971年のニクソンショック・金ドル交換停止をへて、80年代に入って新自由主義、市場原理主義経済へ舵を切り、核軍事力とともに情報通信技術と金融技術による世界支配に力を入れるようになった。
日本ではアメリカが指図した小泉・竹中改革が日本社会をさんざんに破壊した。再生産に投じられない膨大な余剰資金があふれ、その資金を使った詐欺金融が大手を振ってまかり通り、世界経済をガタガタに破壊しはじめ、それが大破綻に至った。
大企業は経営者ではなく株主優先、投資家支配つまり金融業者支配で、製造企業は雇用や技術開発よりも株主への配当を優先する株価至上主義で追い立てられ、リストラや下請切りで短期的利益を追求し、生産を担う現場の労働者には非正規の奴隷労働が強いられた。
利ざや稼ぎの金融業者が、労働の尊厳など踏みにじり、社会的な共通利益など踏みにじり、がさつに金あさりをする世の中になってしまった。
現在はTPP強要 今も続く民族絶滅作戦 中国侵略に動員
現在、アメリカはTPPで小泉構造改革の積み残しを最後的にやってしまおうとしている。
TPPは関税引き下げによる農漁業の最後的破壊ばかりでなく、金融と投資、労働から医療、食品安全規制、政府調達などのすべてにアメリカ式のルールを押しつけようとする不平等条約であり、アメリカ企業の営業の自由を制約するルールや規制は日本政府を訴えて損害賠償金を要求するという、国家主権もなにもない条項も押しつけようとしている。
それと連動して日本を対中国の戦争に動員する方向を強めている。野田政府は沖縄・辺野古への新基地建設、岩国では愛宕山の買収による米空母艦載機移駐のごり押しを進めている。
アメリカは、対中戦争になれば在日米軍基地が中国のミサイル攻撃で瞬時に壊滅することを想定し、米軍はグアムやオーストラリアなどに分散撤退し、日本やフィリピンなど同盟国を戦争の矢面に立たせ、みずからは「遠隔誘導戦争」といって無人偵察機を操り犠牲を最小限に留めようとしている。
先の戦争では、天皇制政府は中国への無謀な侵略戦争をひき起こしてうち負かされ、第二次大戦の無惨な敗北にいきついた。それをもう一度やろうというのである。
しかも今度はアメリカの指図で日本の青年が戦場に送り出され、日本列島を原水爆戦争の戦場にするという。その悲劇たるや前回とは比較にならない。
先の戦争ではアメリカは、日本人はサルと同じ野蛮で未開の民族だとして無差別殺戮をおこなったが、その民族絶滅作戦は今も続いているのである。
遅れた農業国ではなく、高度の発達した資本主義国であり、世界一の債権国である日本が、戦後66年にわたってアメリカの植民地的な従属下にあるのは、日本の財界、政界、軍隊や警察、検察、裁判所、官僚機構やマスメディアから御用学者、労組幹部に至るまでのすべての支配機構が、そっくりそのままアメリカの侵略支配の道具になっているからである。
だから戦後の出発から今まで、自民党政府が民主党政府に変わってもなにも変わらなかった。
不況でかつてなく大衆消費が落ち込んでいるというのにTPPをやり消費税増税をやるという。
国というものが国民の生命や財産を守るものではなく、国益など知ったことではない連中で占められていることは、今年、かつてなく人人の意識に刻み込まれた。
いかなる時代の支配者も、国民を養い動員することができる間しか支配を続けることはできず、そのことは支配者として終わりを意味している。
国の経済活動を担い、もっとも政治的力を持っている労働者をはじめとする人民の力を大合流させ、独立・民主・平和・繁栄の日本をたたかいとることで社会をまともに立て直すときにきている。
核軍事力と金融力で他国に凶暴に襲いかかっているアメリカだが、その歴史的な衰退をおおいかくすことはできない。
「ウォール街を占拠せよ!」のデモは欧州にも広がり、一握りの金融寡頭集団に対する全世界的な共同斗争が発展している。
チュニジアやエジプトでは親米独裁政府が人民のたたかいで倒された。世界大恐慌と戦争の危機の真っ只中から、金融資本主義にとってかわる次の新しい社会を建設する国際的団結が生まれてくることは疑いない。
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参照リンク:米国の対日戦争計画「オレンジ計画」、対日占領計画「日本計画JapanPlan」、米軍の沖縄占領を希望した「1047年天皇メッセージ」
米国は周到にも、マスコミと官僚を温存すると共に、民主主義の米国と戦争責任が無かった平和主義の天皇と言うイメージを創り上げた。
当時、米軍情報局の対日工作は日本人18万人を雇用して放送と全ての印刷物を検閲し、情報統制していたのである。
こうして、米軍の蛮行は一切隠され、やさしい米兵のイメージが作られ、天皇については旧軍の統帥権はなかったものとして平和な昭和天皇が作られた。戦争犯罪は陸軍に押し付けた。
歴史の偽造である。
この偽造が65年以上も続いており、国民は子どもは義務教育から大人はマスコミと政府に洗脳されてきたわけである。
小泉政権の構造改革によってダメージを受けた国民は政権交代を実現させたが、これも米国が気に入らない政権はマスコミと官僚の総攻撃によって半年からせいぜい1年で倒されることが、国民の眼にも明らかになってしまった。
この恐慌によって米国支配層の力量は極めて脆弱になっており、世界でなりふり構わぬ行動に出始めている。
大衆によって政権交代は何度でもできるが、米国支配層である国際金融資本と軍産複合体にとっては、これ以上はますます裸をさらすばかりとなる。
日本のみならず世界の大衆が、米国と国際金融資本の嘘を見破り始めている。
米英の軍産複合体は依然として、隙あらば緊張とあわよくば戦争へと狙っている。
だがしかし、恐慌の窮乏と戦争の危機の中で、中南米、アラブ、欧州、米国本土と至るところで、勤労大衆の抗議、運動、そして政権獲得が進んでいる。
国際金融資本と軍事侵略に抗する流れは、すで中南米を先頭に動いている。
現実には、この日本もこの流れの中にある。
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320万人殺された悲劇繰返すな
日米開戦70年を迎えて
日本潰した米国の戦後支配 2011年12月7日 長周新聞
日米開戦から70年を迎える。1931(昭和6)年の満州事変、37(昭和12)年からの中国全面侵略戦争とすすみ、中国人民の抗日戦争でうち負かされるなかの1941(昭和16)年12月8日、日米開戦へとすすんだ。
この戦争で320万人もの日本人が、中国や南方の戦場で、また本土空襲や沖縄戦、そして広島・長崎への原爆投下によって無惨に殺され、およそ1000万人が家財を失って焼け出された。
それから70年、日本社会は貧富の格差が極端なものとなって社会がガタガタに崩壊し、そのうえにもういちど中国・アジアとの戦争、日本を原水爆戦争の戦場にする戦争に駆り立てられている。
70年前の悲劇が終わってはおらず、再び繰り返されようとしている。敗戦によって日本を占領し、従属国にしたアメリカのために。この現実を黙って見ているわけにはいかない。
食い物にされて前線基地化
日米開戦から70年、あの第二次大戦における日本人民が体験した筆舌に尽くしがたい苦難を思い起こし、若い世代に継承することが今ほど重要なときはない。
41年に日米開戦をしたが、その翌年にはミッドウェー海戦で大敗北し、43年にはガダルカナルの撤退、44年にはサイパンの陥落となり、敗走につぐ敗走となった。フィリピン、ビルマ、ニューギニアなど南方に送られた兵隊は、武器も食糧も補給がなく取り残されて、多くが戦斗ではなく飢えや病気で無惨に殺されていった。
サイパン、テニアンを占領した米軍はそこを出撃基地にして本土空襲を開始し、都市という都市を空襲で焼き払った。45年3月の東京大空襲にはじまり、大阪、名古屋から日本中の都市という都市を空襲で焼き払った。
4月には沖縄戦、8月には広島、長崎の原爆投下をへて8月15日に無条件降伏となった。
この戦争において、戦地で200万、内地で100万もの人人が殺された。身内の中に戦死者がいない家はないというほど殺された。1000万人もの人人が家財道具を焼かれ、焼け野原に放り出された。
戦後は、この戦争の大きな痛手と深刻な荒廃の中から、人人が立ち上がって、平和で豊かな社会を目指して建設してきた。
しかし戦後六六年たった現在、あの戦争で犠牲になった人人の願いも、それを受けて戦後社会を建設してきた人人も、その望みとはまったく逆の社会になってしまった。
この13年間、自殺者は毎年3万人を超える。日米開戦の前までの日中戦争の戦死者を上回る自殺者数になっている。自殺の理由は失業、就職できない、生活苦などが大多数となった。新卒大学生の半分が就職できない。就職してもほとんどが将来展望の立てようがない非正規雇用。
農業も漁業もつぶれて、食糧生産を担い、国土保全を担う農漁村は崩壊にまかせられている。
貧富の格差はひどいものとなり、日本社会はガタガタに崩壊してきた。これは、アメリカが毎年要求してきた年次改革要望書を忠実に実行してきた小泉・竹中改革の犯罪である。
財界も政府も「国際競争力が命綱」といって、労働者や農漁業や中小企業を痛めつけてきたが、輸出で得たドルは日本国内には回らず、アメリカ国債の購入に回されてきた。
その国債はいまやドル安で紙くずにされている。そしていまTPPで日本市場を根こそぎアメリカに売り渡そうとしている。
その上に、日本を盾とする米軍再編をすすめ、自衛隊を米軍の下請け軍隊としてかり出して、日本を戦場とする核戦争に引きずり込もうとしている。
かつて大失敗した中国侵略であるが、その中国との戦争をアメリカの代理になってやらされようとしている。米軍はグアムやオーストラリアなどに分散配備しようとしているが、それは日本だけに基地を集中していては、対中戦争において瞬時にミサイル攻撃を受けて壊滅するからだということを隠さない。
アメリカは自分が対中国の核戦争を仕掛けるが、前線基地である日本を核戦争の盾にするというのである。
革命を恐れた中枢 日米開戦の歴史に根 既に中国で敗北
なぜこんなことになっているのか、日米開戦以来の歴史の中から、はっきりと解明しなければならない。
70年前の日本は、どうして日米開戦に突きすすんだのか。
明治維新によって成立した絶対主義天皇制は、朝鮮への侵略・併合、台湾の強奪、ロシア革命への干渉、中国への全面的な侵略戦争と、アジアの他民族への侵略につぐ侵略を重ねてきた。
それは明治維新以後成立した日本資本主義が、地主と農民、資本家勢力と労働者勢力という基本矛盾をなし、労働者や農民が地主と資本家勢力の二重の搾取による苛烈な搾取・収奪のもとにおかれ、国内市場の狭隘さを大きな特徴としており、国内の凶暴な弾圧とともに他民族の略奪、侵略性を特徴として持っていた。
そして中国への全面侵略戦争へと突きすすみ、中国人民の強力な抗日戦争にあうとともに、旧来中国を半植民地状態にしてきたイギリス、中国を最大の市場として狙っていたアメリカとの植民地争奪をめぐる対立を激化させた。そしてシンガポール、インドシナ、ビルマ、フィリピンなどへ侵攻を拡大。
それは米英仏蘭の植民地権益を奪うというものであり、必然的に米英仏蘭という欧米列強との戦争にすすむというものであった。
この米英仏蘭との戦争に突入するうえでの大きな背景は、中国を侵略した日本帝国主義であったが、次第に強力になっていく抗日戦争によって追い込まれ、にっちもさっちもいかなくなったという事情があった。
陸軍の中では中国撤退論もあったが、それでは天皇を頭とする支配勢力の権威が丸つぶれになり、彼らの支配を危うくすることを恐れていた。
中国に当時の陸軍兵力の主力100万人以上を投入したが、点と線で結んだ広大な大陸の一部をようやく維持するのに精一杯で、日本軍の戦死者はすでに18万5000人を数え、中国人民の抗日戦争の包囲の中で敗北は必至の状態だった。
太平洋戦争でアメリカに負ける前に、中国で敗北したのである。
日米開戦について、海軍では「1年は持つがその先は負ける」と主張していた。だが、それにもかかわらず日米戦争に突きすすんだ。それはなぜか。
天皇を頭とする戦争指導者の中枢にとっては、天皇の支配的な地位をいかに守るかが最大の関心であった。
敗戦の年の2月、近衛文麿の天皇への上奏文は「敗戦は必至。英米は国体の変革までは求めていない。 憂うべきは共産革命」とのべている。
彼らにとってもっとも恐ろしいのは人民の革命であり、したがって敗戦を早くから自覚しながら、みずからに戦争責任が及ぶのを避け、支配が維持される形で米英に依拠して降服する条件を探ろうとしたのである。
英米との関係ではナチス・ドイツとともに対ソ戦争に向けることで取り引きする道があったが、それ以前にノモンハンでソ連に介入して完膚無きまでうち負かされていたことがあり、「とても歯が立たない」というところから「イデオロギーより実利」を選択。北進策をやめて南進策へとすすんだ。
待ち構えていた米国 真珠湾攻撃口実に日本占領 天皇は裏切り
そして1941年12月8日、ハワイの真珠湾を攻撃して日米開戦の口火を切った。
真珠湾攻撃を「先に奇襲攻撃をした方が悪い」「原爆による報復は当然」とアメリカ側は宣伝してきた。
しかし戦争はそんな表面的で単純な要因ではない。アメリカ支配層は、日本軍が真珠湾を攻撃したことで、日本を叩きつぶし占領するチャンスとして小躍りして喜んだ。
アメリカは幕末のペリー来航以来、中国とともに日本を占領支配する野望を隠していなかった。
アメリカは日露戦争直後から、日本を叩きつぶして中国を奪いとることを最大の戦略とする「オレンジ計画」を策定していた。
それは先にハワイを攻撃させ、そうすれば「米国民は怒りをもって立ち上がり、工業力にものをいわせて猛反撃を開始し、日本の軍事・経済力を破壊して無条件降伏に追い込む」と記されている。
事実、真珠湾に向かう途中のカナダ沖では潜水艦が撃沈されており、アメリカが待ちかまえていたところに攻撃したのが歴史の事実である。
そしてアメリカは日米開戦直後から、日本の軍部に戦争責任をかぶせ、「天皇を平和の象徴とする間接支配」を基調とする対日占領政策「日本計画」を決定し、その方向で日本の支配層に働きかけを強めていた。
しかし、そういう上層部の思惑は国民は知る由もなかった。
そして43年ガダルカナル撤退、44年サイパン陥落で東条内閣が倒れても戦争をやめなかった。南の島では取り残された兵隊が飢えと病気で次次に死んでいき、武器も食糧もなく輸送船に積み込まれた日本兵が、アメリカの潜水艦によって次次に海の藻屑となった。
45年3月10日の東京大空襲を皮切りに大阪、名古屋などの大都市から下関、岩国、光などの中小都市まで、全土94都市がB29の焼夷弾と爆弾の雨を浴び放題。逃げ惑う日本の女子どもを、グラマンの米兵がニタニタ笑いながら撃ち殺した。
そして、沖縄戦の惨劇が起こっても戦争をやめず、アメリカが広島と長崎に原爆を投下し、何十万もの無辜の老若男女を焼き殺して無条件降伏となった。
早くから日本の敗戦は決定的であり、原爆投下は戦争終結のためには必要なかった。それはアメリカがソ連を排除して日本を単独占領し、日本の支配層を手下にして新たな日本の支配者になり、日本人民を搾取・収奪するとともにアジア侵略の拠点とする計画を実行するためであった。
そして国民には「本土決戦」「一億玉砕」を叫んできた天皇制政府も、この点では利害が一致しており、日本国民を犠牲にし裏切って自分たちの支配の地位を守った。
本土空襲で「皇居も軍も三菱も無傷だった」と体験者が証言しているが、戦前の駐日大使で、三菱や住友と深い関係を持っていたグルー(JPモルガンの利益代表)が、「日本の軍需工場を攻撃するな」「今から日本の資本主義を発展させ、収奪していくんだ」と語っていたことが最近の史料で明らかになっている。
民族の悲劇が到来 戦後は太らせて食い潰す 原発政策が象徴
したがって第二次大戦の終結は、「平和で民主主義の時代」が到来したのではなく、日本民族にとってのより大きな悲劇の始まりであった。
アメリカの日本占領は、歴史上で例を見ないものである。
米英はドイツとの戦争のさいにはヒットラーを標的にしたし、ドイツのマスコミなどは戦後すべて解体した。
ところが日本においては、天皇制軍隊の解体、財閥解体、地主制の廃止、憲法改定などをやって、民主主義のような大騒ぎをしたが、実際には戦争を推進した天皇も財閥も政治家も官僚もマスコミも、戦前の支配機構が「平和主義者」のような顔をしてそのまま残った。
彼らがアメリカの日本侵略支配の代理人として地位を守ろうとしたのである。
日本の敗戦とそれに続く六年間のアメリカ軍占領の後に、1951年9月、サンフランシスコ片面講和条約が結ばれた。
ポツダム宣言にもとづく全面講和であれば、日本には外国兵は一人もおらず、一カ所の軍事基地もあるはずはなく、内政・外交ともに日本は完全な独立国として行動し、アジアの平和に貢献できるはずであった。
ところがこの単独講和と同時に締結された「日米安保条約」および諸協定は、外貌だけ「独立した」ように見せかけながら、その実アメリカの占領を固定化する歴史上類をみない屈辱条約であった。
その後、アメリカの技術、資本、市場に依存して高度経済成長なる重化学工業化を進めてきた。日本は豊かになったといってきたが、その結果が現在である。
牛か豚のように太らせて食い物にするという結末となった。
もっとも象徴的なものは原爆を投下された日本を原発列島にしたことである。
原子力は戦後アメリカ輸入の最先端技術で夢のエネルギーとされてきた。その結果が、今回の東日本大震災に続く福島原発大事故である。
日本で原発建設を強行したのは、日本人の原爆投下への怒りをかき消すとともに、日本を余剰ウランのはけ口とするアメリカのエネルギー戦略実行の目的からであった。
そして世界有数の地震大国日本の海岸線に54基もつくったなら大事故になるのはわかり切ったことであった。
東電の福島第一原発一号機はアメリカの原子力メーカーGEからの輸入品であり、あとの原発もGEの設計で東芝や日立が下請となってつくったものである。原子力の特許はアメリカが占有し、日本のメーカーは莫大な特許料を支払っており、事故になっても製造者責任も問わない。
重化学工業化にともなって、日本の農漁業は衰退の一途をたどってきた。
その結果、かつて100%以上であった食料自給率が、近年は40%にまで下がり、主食である穀物自給率だけを見ると28%という他国に例を見ない異常な事態になっている。
それもアメリカの農産物を売りつけるため、「コメと魚」が中心であった日本人の食文化を欧米型に変えさせ、小麦や大豆、牛肉やオレンジと次次に輸入自由化をおこなってきた結果である。
米国で余剰農産物処理法(対日輸出促進のため)が成立した1954年、日本では学校給食法が成立し、パンと脱脂粉乳の給食が始まった。
そして今では、農林業の衰退で森林や田畑に人の手が入らなくなって、水源涵養機能や国土保全機能が崩壊し、大雨になったら洪水の心配をしなければならない国土崩壊の事態に直面している。
市場原理で経済も破壊 小泉改革押しつけ
とくにアメリカは、1971年のニクソンショック・金ドル交換停止をへて、80年代に入って新自由主義、市場原理主義経済へ舵を切り、核軍事力とともに情報通信技術と金融技術による世界支配に力を入れるようになった。
日本ではアメリカが指図した小泉・竹中改革が日本社会をさんざんに破壊した。再生産に投じられない膨大な余剰資金があふれ、その資金を使った詐欺金融が大手を振ってまかり通り、世界経済をガタガタに破壊しはじめ、それが大破綻に至った。
大企業は経営者ではなく株主優先、投資家支配つまり金融業者支配で、製造企業は雇用や技術開発よりも株主への配当を優先する株価至上主義で追い立てられ、リストラや下請切りで短期的利益を追求し、生産を担う現場の労働者には非正規の奴隷労働が強いられた。
利ざや稼ぎの金融業者が、労働の尊厳など踏みにじり、社会的な共通利益など踏みにじり、がさつに金あさりをする世の中になってしまった。
現在はTPP強要 今も続く民族絶滅作戦 中国侵略に動員
現在、アメリカはTPPで小泉構造改革の積み残しを最後的にやってしまおうとしている。
TPPは関税引き下げによる農漁業の最後的破壊ばかりでなく、金融と投資、労働から医療、食品安全規制、政府調達などのすべてにアメリカ式のルールを押しつけようとする不平等条約であり、アメリカ企業の営業の自由を制約するルールや規制は日本政府を訴えて損害賠償金を要求するという、国家主権もなにもない条項も押しつけようとしている。
それと連動して日本を対中国の戦争に動員する方向を強めている。野田政府は沖縄・辺野古への新基地建設、岩国では愛宕山の買収による米空母艦載機移駐のごり押しを進めている。
アメリカは、対中戦争になれば在日米軍基地が中国のミサイル攻撃で瞬時に壊滅することを想定し、米軍はグアムやオーストラリアなどに分散撤退し、日本やフィリピンなど同盟国を戦争の矢面に立たせ、みずからは「遠隔誘導戦争」といって無人偵察機を操り犠牲を最小限に留めようとしている。
先の戦争では、天皇制政府は中国への無謀な侵略戦争をひき起こしてうち負かされ、第二次大戦の無惨な敗北にいきついた。それをもう一度やろうというのである。
しかも今度はアメリカの指図で日本の青年が戦場に送り出され、日本列島を原水爆戦争の戦場にするという。その悲劇たるや前回とは比較にならない。
先の戦争ではアメリカは、日本人はサルと同じ野蛮で未開の民族だとして無差別殺戮をおこなったが、その民族絶滅作戦は今も続いているのである。
遅れた農業国ではなく、高度の発達した資本主義国であり、世界一の債権国である日本が、戦後66年にわたってアメリカの植民地的な従属下にあるのは、日本の財界、政界、軍隊や警察、検察、裁判所、官僚機構やマスメディアから御用学者、労組幹部に至るまでのすべての支配機構が、そっくりそのままアメリカの侵略支配の道具になっているからである。
だから戦後の出発から今まで、自民党政府が民主党政府に変わってもなにも変わらなかった。
不況でかつてなく大衆消費が落ち込んでいるというのにTPPをやり消費税増税をやるという。
国というものが国民の生命や財産を守るものではなく、国益など知ったことではない連中で占められていることは、今年、かつてなく人人の意識に刻み込まれた。
いかなる時代の支配者も、国民を養い動員することができる間しか支配を続けることはできず、そのことは支配者として終わりを意味している。
国の経済活動を担い、もっとも政治的力を持っている労働者をはじめとする人民の力を大合流させ、独立・民主・平和・繁栄の日本をたたかいとることで社会をまともに立て直すときにきている。
核軍事力と金融力で他国に凶暴に襲いかかっているアメリカだが、その歴史的な衰退をおおいかくすことはできない。
「ウォール街を占拠せよ!」のデモは欧州にも広がり、一握りの金融寡頭集団に対する全世界的な共同斗争が発展している。
チュニジアやエジプトでは親米独裁政府が人民のたたかいで倒された。世界大恐慌と戦争の危機の真っ只中から、金融資本主義にとってかわる次の新しい社会を建設する国際的団結が生まれてくることは疑いない。
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参照リンク:米国の対日戦争計画「オレンジ計画」、対日占領計画「日本計画JapanPlan」、米軍の沖縄占領を希望した「1047年天皇メッセージ」
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