世界中に広がったウォール街占拠
2011-10-16

「ウォール街を占拠せよ」。この格差反対の占拠運動は完全に世界に拡大してきた。
ウォール街のグループから呼びかけた10/15の世界行動は、どこでなにが起こっているのか把握できないほどに多数の国と多数の都市で行動が起こされた。
格差への反対は、この世界金融危機に各国政府の金融資本支援に対する反対であるが、根底には金融資本家自体が政府を支配していることへの抗議である。
この失業と貧困を生み出した者が、投機で巨利を得るカジノ資本主義と、その過剰な信用創造であることへの抗議である。
正しくもウォール街を占拠して始まったのである。
なお、同じ意味なのだがAFPによると、公園、広場を占拠して寝泊りし、抗議する反格差運動は5月にスペインで始まり、欧州に拡大し、9月にようやくウォール街に到達し、10月にここから世界へ、と言う経過だ。日本のマスコミはヨーロッパつんぼなので、私たちも気づかなかったらしい。
このブログ内の関連記事。
ウォール街を占拠しよう
「ウォール街を占拠しよう」が拡大している
さらに急拡大しているウォール街占拠
10.15行動の呼びかけ
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99%の声を聞け!~自由広場が出現した「オキュパイ・トウキョウ」 10/15 レイバーネット
10月15日、「ウォール街を占拠せよ!世界同時アクションin東京」の一つとして六本木・三河台公園で行動が取り組まれた。呼びかけたのは、内田聖子(PARC)・松元ちえ(レイバーネット)・河添誠(首都圏青年ユニオン)・雨宮処凛(作家)の4氏。
驚くのは、公安警察とマスメディアが多いこと。注目度はバツグンだ。公園には約200人が集まり、一人ひとりが言いたいことを自由にアピールした。ある学生は「だれかを犠牲に搾取する経済成長はもうやめよう。金を求め続ける生活はもうやめよう。私は怒っている!」と叫ぶように訴えた。
公園ではスカイプでアメリカとつないだり、手作りカレーを振る舞ったり、ドラムをたたいたり、自由な広場空間が一挙に生まれた。99%の運動が日本でも大きく拡がる可能性を秘めたイベントとなった。(M)
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反格差デモ、世界各地に拡大 ローマやパリ、東京でも 10/16 CNN
経済格差や大手金融機関の優遇策に反発して米ニューヨークのウォール街で始まった抗議デモは15日までに、欧州、アジア、オーストラリアなど世界各地の主要都市に飛び火した。ローマでは参加者の一部が暴徒化し、70人の負傷者が出た。
ローマでは、デモのメーン会場となったサンジョバンニ門近くの内務省ビルで火災が発生し、消防隊が出動した。火炎瓶が投げ付けられたとの目撃情報がある。アレマンノ・ローマ市長の報道官は、警官40人を含む70人が負傷したと述べた。15日深夜の時点で逮捕者の数は不明。
警察によると、平和的なデモの中に数百人の暴徒が入り込み、車に火を付けたり窓ガラスを割ったりして警官隊と衝突した。現地の米誌記者はCNNに、デモが「乗っ取られた」と語った。
パリでこの日に開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、世界の市場と銀行システムの安定化に向け、必要なあらゆる措置を実行するとの共同声明を採択した。一方、世界的なデモを呼び掛けたサイト「ユナイテッド・フォー・グローバル・チェンジ」によると、デモは82カ国、951都市で展開された。
デモの呼び掛けはインターネットの交流サイト「フェイスブック」やミニブログ「ツイッター」を通して広がった。各地の参加者らは、「私たちは99%」「1%の富裕層に課税を」「銀行はがんだ」などと書いた横断幕を掲げた。
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ヨーロッパとアジアでの反資本主義体制デモの拡大 10/15 イラン国営ラジオ
アメリカで始まった反資本主義体制デモは、世界各地に広まりました。現在、ウォール街での抗議デモと同様の抗議デモが、世界の900に上る都市で行なわれている、というニュースが報じられています。世界各地の活動家らは、人々に対し自らの権利回復に向けて立ち上がるよう求めています。これについて、IRIB国際放送ラジオ日本語の報告です。
15日土曜には、ヨーロッパを中心とした世界のおよそ80の都市で抗議デモが行なわれています。イギリス・ロンドンでは最大規模のデモが開催されています。デモ参加者らは、雇用機会の創出、教育、住宅、環境保護そして、戦争の終結を求めています。
イタリア、ギリシャ、フランスでは、市民が自国での不平等に不満を訴え、街頭で抗議デモを開催することにより、自国の政府に自分達の抗議の意をアピールしています。
また、カナダでも、市民による運動グループが、15日には同国の複数の都市にあるショッピングセンターを象徴的に占拠すると発表しています。
抗議運動が、アジア・太平洋地域にまで波及
日本でも、およそ200人が、資本主義体制の運営者らに対する抗議の意を込めて、様々なスローガンを書いたプラカードを掲げ、街頭に繰り出しました。
また、オーストラリアのシドニーやメルボルンといった都市でも、労働組合員を含めたデモ参加者らが、これらの都市にある主要な銀行の前に集結し、抗議の意を表明しています。
ニュージーランドの各都市でも15日、資本主義体制に対する数百人規模の抗議デモが行なわれました。
同国での抗議デモの主催者らは、今回のデモの開催目的は、同国における各社会階層の間での格差の広がりや、社会的な不平等に抗議することであるとしています。
韓国でも、ある銀行の前に抗議者らがデモ集会を行いました。
また、インドネシアの首都ジャカルタで、同国駐在のアメリカ大使館前に多数の人々が集結し、抗議デモを行いました。
資本主義体制に抗議する人々は、ソーシャルネットワークを通じて、10月15日を世界的な抗議の日としています。
さらに、ケニア、南アフリカ、ロシア、フランス、メキシコ、ベネズエラといった国々でも、この日にちなんだデモが企画されています。
「ウォール街を占拠せよ」と称する資本主義体制への抗議運動は、9月17日、アメリカ・ニューヨークで開始されました。
ニューヨークでは依然として、デモ隊と警察との衝突が続いており、デモ参加者の多くが逮捕されています。
アメリカ人のデモ参加者らは、アメリカで広がる社会的な不平等や貧困、政府での汚職に抗議しています。
「ウォール街を占拠せよ」運動は、アメリカ国民の抱える経済問題の責任が同国の資本家にあるとしており、同時にアフガニスタンやイラクでの戦争の終結を求めています。
ニューヨークで始まったこの抗議デモは、さらに、ヨーロッパの金融機関や銀行に対するアメリカ政府の資金援助に、アメリカ国民が怒りを示していることを物語っています。
アメリカ政府は、国内の失業率が9%を超えている中、アメリカやヨーロッパの金融機関や銀行に対し、およそ14兆ドル以上の資金援助を行いましたが、オバマ政権のこの措置は、多くのアメリカ国民の怒りを引き起こしていま
す。
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世界で一斉に「反ウォール街デモ」、日本では反原発の訴えも 10/15 REUTERS
米ニューヨークで始まった格差是正などを訴える「反ウォール街デモ」は15日、ニュージーランドを皮切りに、オーストラリアや日本、英国やドイツなど世界各地で一斉に行われている。
「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」と銘打って始まった一連の抗議運動は、主にインターネット上のソーシャルメディアを使って参加が呼び掛けられているが、実際に各地でどれぐらいの人数が集まるか分からない部分も多い。
ニュージーランドの首都ウェリントンでは約200人、同国最大の都市クライストチャーチでは約3000人、2月に地震に見舞われたクライストチャーチでは約50人がデモに参加した。
オーストラリアのメルボルンでは、市街地の中心部に約1000人が集まり、社会格差の是正などを訴える演説が行われた。デモ主催組織「メルボルンを占拠せよ(Occupy Melbourne)」のスポークスマン、ニック・カーソンさんは「人々は本物の民主主義が欲しいのだと思う」と語り、豪州国内の主要都市で同様のデモが行われる予定だと述べた。シドニーでは、労働組合員や先住民族アボリジニの代表団体メンバーを含む約2000人が、オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)の入る建物の近くに集まった。
日本の各メディアの報道によると、東京でも六本木の公園で約100人が集会を開いたほか、日比谷公園周辺を約100人が行進。今年3月の東日本大震災で事故を起こした福島第1原発からの放射能汚染が依然懸念されるなか、東京では格差問題だけでなく、反原発を訴える参加者も見られた。
フィリピンの首都マニラでも、「米帝国主義を打倒せよ」などと書かれた横断幕を持ち、数十人が米大使館に向かってデモ行進した。
これまで反ウォール街デモは概して平和的に行われているが、イタリアのミラノでは14日、学生らが米大手金融機関ゴールドマン・サックス(GS.N: 株価, 企業情報, レポート)のオフィスに乱入する騒ぎが発生。騒動はすぐに収まったが、学生ら退去したオフィスビルの壁には、赤字で「金をよこせ」と書かれた落書きが残された。またローマでは、ベルルスコーニ政権が打ち出した緊縮財政に対する大規模抗議デモに備え、警察が警戒を強めている。
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ニューヨークのデモで、警官により数十人が逮捕 10/15 イラン国営ラジオ
アメリカ・ニューヨークで行われている「ウォール街を占拠せよ」運動のデモで、警官により数十人が逮捕されました。
逮捕された人々は、ズコッティ・パークを出発し、ウォール街へ向かう予定のデモ隊に参加していましたが、集会場所を退去するよう圧力を受けたことに抵抗し、逮捕されました。
「ウォール街を占拠せよ」運動による抗議活動は、アメリカの多くの都市に拡大しています。
「ワシントンを占拠せよ」運動も、「ウォール街を占拠せよ」運動と同時に行われており、日々その規模を拡大しています。
「ワシントンを占拠せよ」運動の主催者らは、提供されたテントによって、集会場所を完全に占拠しています。
この運動の集会場所は、情報伝達、医療、食糧配布、そして市民からの支援を集める役割を担っています。
地元のレストランも、水と食事をデモ参加者に提供しています。
この報告によりますと、ワシントンでは日々テントの数が増えており、市民は自分たちの要求が叶えられるまで、この場所に留まることを決意しているということです。
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「ソウルを占拠せよ」 韓国でも格差抗議デモ 10/16 聯合ニュース
ニューヨークのウォール街で始まった経済格差への抗議デモは15日、韓国でも行われた。「1%の富裕層に立ち向かう99%の怒れる人々、広場を占拠せよ」を合言葉に約600人がソウルでデモを行った。
参加者らは、投機資本や自由貿易協定(FTA)による被害、高額な学費の是正などを訴えた。
また、ソウルのウォールストリートと呼ばれる汝矣島には300人が集まり、金融委員会の前で強欲な金融機関に対する批判などを行った。韓国では、金融危機の際に公的資金で救済された金融機関が、巨額の収益を自分たちだけで配分しようとしていることに非難の声が高まっている。
これらデモ参加者は発表文などを通じ、「高い学費で自殺する大学生、金融機関の不正や投機資本のために苦しむ人々があふれている。韓国の普通の人々は、一体あなたたちと何が違うのか」などと気勢を上げた。
デモに参加した市民団体の一部は、22日に非正社員職撤廃のための全国労働者大会をソウル市庁前のソウル広場で行う予定。
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経済危機に「怒れる者たち」、15日に世界同時抗議へ 10/14 AFP
強烈な経済危機に憤り、責任は政治家や銀行家にあると非難する「怒れる人々」が15日に世界同時抗議行動を呼び掛けており、その動きは71か国・719都市に広まっている。
■「われわれはモノではない」、ネットで拡散
発端となったのは、スペイン・マドリード(Madrid)中心部のプエルタ・デル・ソル(Puerta del Sol)広場で5月15日に始まった抗議集会だ。スペイン全土に広がり、さらに他国へと飛び火した運動の力が今週末、世界規模で初めて示されようとしている。
一連の抗議運動は、巨額の公的債務削減を目指す各国政府が福祉関連支出を大幅に切り込む中でうねりを増してきた。世界中で予定されている行動をまとめたネットワーク「15october.net」のウェブサイトでは、次のような主張を掲げている。「声を1つにして宣言し、政治家や彼らが仕えている金融エリートたちに知らせよう。未来を決定するのは、われわれ民衆であることを。わたしたちは、わたしたちを代表していない政治家や銀行家の良いようにされる『モノ』ではない」
呼び掛けには、フェースブック(Facebook)やツイッター(Twitter)が大きく活用されている。現在、15日に街頭抗議が予定されているのは、欧州、北米、南米、アジア、アフリカの71か国、719都市に上る。
■スペインから世界へ飛び火
火付け役となったスペインでは、失業率が全体で20.89%に上り、16~24歳に限ると46.1%と約半数が失業状態だ。テントを張って泊まり込む「広場占拠」による抗議行動は5月、プエルタ・デル・ソルを始めとするスペイン全土で展開され、続いて欧州に拡大して、ギリシャなど金融危機で大きな打撃を受けている国々で強力に支持された。9月には、グローバル資本主義の中心地である米ニューヨークの金融街、ウォール街(Wall Street)に到達。
ウォール街の小さな広場に9月17日、数百人がテントを張って始まった抗議行動「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」は、米国のメディアや政治家らに大きな衝撃を与えている。ニューヨークでは15日、午後5時(日本時間16日午前6時)にタイムズスクエア(Times Square)での集会が呼び掛けられている。
■特定の代表不在、「アノニマス」の運動
失業に対する怒りと経済エリートへの反発が、ともすれば全く異なる世界各地の運動を結んでいる共通のテーマだ。しかし、スペインの抗議運動が非常に具体的に、労働時間の短縮と65歳定年制導入による失業対策を要求しているのに対し、その他各国での抗議の矛先はさまざまで、「怒れる者たち」の運動の方向性は明確ではない。
市場による支配に替わる政策を模索する社会運動体「ATTAC(アタック)」の共同代表を務めるフランスの経済学者、トーマス・クトロ(Thomas Coutrot)氏は「怒れる者たちの運動」について、特定の人物やグループが代表する運動に対して良い意味で「アレルギー」を持っていると評価する。その上で「もちろん、代表を置かずにひとつの運動を築き上げていくことは容易ではない」と語っている。(c)AFP/Elodie Cuzin
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復興増税で家計と企業は窮乏化し財政も破綻
2011-10-16
関連するページ、「なぜデフレなのか、なぜ放置するのか」、「勤労者の窮乏、化は恐慌への道づくり」、「増税の結果はデフレ恐慌、経済社会の自殺」も御覧ください。
「復興増税」なる政策は家計の窮乏化、企業の減収破綻、そして財政の悪化破綻への導くものである。
つまり、現在進行しているデフレスパイラル(賃金下降-需給ギャップ拡大の縮小循環)に財政も加える結果となる。
財政の悪化循環となり、増税の拡大循環を作り出すだろう。
喜ぶのは日本の資金をあてにする、欧米を支配する国際金融資本だけである。
増税の意味すら知らない政治家たち 10/13 三橋貴明 Klugから
(※なお、文中に報道から引用されている大和総研の試算はこちらのレポート(年収階層別の詳しい試算表がある):もうすぐ北風)
民主党政権は東北大震災の復興予算(第三次補正予算)成立に際し、「復興増税」という人類史上空前の愚行に乗り出そうとしているわけだが、現実に増税が実施されたら国民経済(国民生活ではない)はどうなるだろうか。
『2011年10月6日 朝日新聞「2年後の手取り、60万円減も 増税案など前提に試算」
東日本大震災の復興増税や厚生年金保険料の引き上げ、子ども手当の見直しなどでサラリーマンの手取り額は2年後に年13万~60万円減る――。そんな「負担増」の試算を大和総研がまとめた。
2013年1月から10年間、所得税額を4%上乗せするなどとした復興増税の政府・与党案を前提に、夫婦と子ども2人世帯で試算した。厚生年金保険料率は04年の制度改正で、17年度まで毎年0.177%ずつ段階的に引き上げることが決まっており、年収1千万円以下では復興増税よりも負担増額が大きかった。
子ども手当の見直しでは、来年6月から年収960万円程度を境に、全額支給の対象から外れる。与野党はこうした所得制限世帯への影響を和らげる対策を検討中だが、今回は年収1千万円以上は手当ゼロで試算。その影響で手取り額が大きく減り、11年と比べた合計の減少率は年収1千万円の世帯が最大だった。』
野田首相をはじめとする現在の民主党首脳部は、増税や税金の意味すら理解していないとしか思えない。以前も掲載した図で恐縮だが、税金とはマクロ経済の視点からいえば、「GDP(名目GDP)から政府に分配された所得」という意味を持つ。
【図123-1 全ての源泉はGDPである】

政府は国民の所得の合計であるGDPから(分配面のGDPで考えると分かりやすい)、まずは「生産・輸入品に課せられる税」として所得の分配を受ける。代表的なものは、いうまでもなく消費税だ。さらに、国民に分配された所得(雇用者報酬、営業余剰)から、所得税や法人税を徴収していくことになる。結果的に国民の手元に残されたお金が、可処分所得、別の表現をすると「手取り」となる。
家計や企業は可処分所得の一部を貯蓄に回し、残りを新たな支出(消費や投資)に使うことになるわけだ。消費や投資として支出されたお金は、次の段階のGDPとして統計に積み上がっていく。
いずれにしても、政府の税収の原資は名目GDP以外にはない。税率が同じと仮定すると、名目GDPが順調に成長している時期は、政府の税収は放っておいても増えていく。逆に、名目GDPが減っている時期には、政府はどのように足掻いても減収になってしまうのだ。
政府の税収を式で表すと、以下になる。
◆税収=名目GDP × 税率 × 税収弾性率
税収弾性率とは、名目GDPが1%増えた際に、税収が何%増えるかを示す指標である。
例えば、現在の日本において、名目GDPが成長をし始める、すなわち好景気になると、赤字を続けていた企業が法人税を払い始める(何しろ、現在は法人企業の七割が赤字であり、法人税をまともに払っていない)。
あるいは、好景気で雇用環境が改善し、失業者が就職すると、所得税を払い始めることになる。結果、今の日本で名目GDPが成長を始めると、税収は経済成長率以上に伸びることになるわけだ。
参考までに、現在の日本の税収弾性率は3~4と言われている。名目GDPが1%成長すると、政府の税収は3~4%増えることになるのである。
税収弾性率3~4というのは、比較的高い数値だ。とはいえ、日本の税収弾性率が高いのは、深刻なデフレ不況で法人税を支払っている企業が少ないことや、所得税を払わない(払えない)国民が多いことに起因しているため、全く嬉しい話ではないのだが。
上記とは逆に、景気が悪くなる、すなわち名目GDPがマイナス成長になると、それまで法人税を払っていた企業が赤字になり、税金を払わなくなる。また、所得税を支払っていた国民が失業し、やはり税金を払わなくなるわけだ。結果、税収は名目GDPのマイナス以上の率で減ることになる。
いずれにせよ、政府の税収は名目GDP次第であるということに代わりはない。
図123-1の通り、国民(家計と企業)は可処分所得から消費や投資を行い、新たなGDPを形成することになる。その大元である可処分所得が減ってしまった場合、100%の確率で翌年の国民による消費や投資は減る。
もっとも、高インフレ率やバブルで悩んでいる国は、国民の消費や投資を減らすためにこそ、増税をすべきなのだ。無論、現在の日本の環境はそうではない。
また、可処分所得が減った国民は、「減った分の消費や投資を減らす」のみならず、将来不安を覚え、GDPと無関係な貯蓄の割合を増やす可能性すらあるのだ。貯蓄性向が上がると、可処分所得の減少率以上に、翌年の消費や投資が減ることになる。
いずれにせよ、国民の消費や投資が減れば、名目GDPはマイナス成長になり、政府は減収になる。結果、東北大震災の復興国債の償還が、中期的には困難になっていくことになるだろう。
すなわち、現時点の日本が増税を行い、国民の可処分所得を減少させると、
1.名目GDPが減ることによる減収効果
2.税収弾性率による減収効果
と、二重の意味で政府は減収圧力に晒されることになるわけだ。
すると、日本政府の財政は更なる悪化に見舞われ、増税至上主義である財務省は、再びマスコミを使い、
「政府の財政がこんなに悪いのです。将来世代にツケを残さないためにも、増税しましょう」
とキャンペーンを仕掛けてくるため、まさしく我が国は「増税無間地獄」の中に放り込まれることになる(すでになっているわけだが)。
ここで、過去の日本における名目GDPと税収の関係を見てみよう。
【図123-2 日本の名目GDP(左軸)と政府の租税収入の推移(単位:十億円)】

出典:内閣府、財務省
97年の橋本緊縮財政によるデフレ深刻化以降、政府の租税収入が、ものの見事に名目GDPと同じ動きをしているのが分かるだろう。(95年以前に両者に乖離が見られるのは、バブル崩壊後に各種の減税措置が実施されたため)
無論、日本の名目GDPが順調に拡大しているというのであれば、日本政府が復興を増税で成し遂げようとしても、筆者は批判する気はない。と言うよりも、名目GDPの拡大が激しすぎる環境下の政府は、積極的に増税を実施し、国民の消費意欲や投資意欲を冷まさなければならない。
とはいえ、デフレが継続し、名目GDPが低成長どころか「マイナスにならなければ、マシな方」という悲惨な状況にある日本が増税をすると、100%の確率で翌年の名目GDPは減少する。結果、政府は減収になってしまう。
「政府が増税をすると減収になる」
という話であり、一般人にはピンと来ないかもしれない。とはいえ、政府の税収が「名目GDPから政府に分配される所得」であることを理解すれば、ご納得頂けるだろう。デフレに悩む日本において、政府の増収を実現するには、名目GDPを成長させる以外に手はない。
すなわち、財政政策と金融政策のパッケージという「正しいデフレ対策」のみが、政府の税収を増やしてくれるのだ。しかも、現在の日本は税収弾性率が高いため、名目GDPを成長させさえすれば、政府の税収は「予想以上に」増えることになる。
それにも関わらず、マクロ経済の知識がないのか、あるいは増税至上主義である財務省に篭絡されてしまっているのか、野田政権は「税収を増やす、唯一の方法」に見向きもしない。それどころか、わざわざ政府の税収を減らす増税に血眼になり、自ら泥沼に突っ込んでいっている。
繰り返しになるが、現在の日本が政府の税収を増やすには、名目GDPを成長させなければならない。復興増税や「税と社会保障の一体改革」で名目GDPの成長を達成できるというのであれば、是非ともそのロジックを伺いたいところだが、さすがに「増税すれば、日本経済は成長する」などと強弁する人はほとんどいない。唯一、菅政権のブレーンであった小野善康氏(大阪大学教授)のみが、
「現在の日本は国民が消費をせず、貯蓄としてお金を眠らせているから不景気が続く。増税で国民の貯蓄を政府が吸収し、景気対策をすれば景気回復する」
と、面白い理論を述べていたが、この種の暴論に賛成する経済学者は、さすがに皆無だ(前半は正しいのだが)。現在の日本に足りないのは投資であり、家計が消費をせずに貯蓄を増やしてしまうのは、経済成長率が低いためである。そして、経済成長を達成するためには、投資が増えなければならない。
そもそも、日本の消費は統計上、投資もしくは純輸出に牽引されなければ増えない。すなわち「国民が消費をしないから、不景気」なのではない。「不景気だから、国民が消費をしない」が正しい理解なのである。
いずれにせよ、現在の日本で政府が増税をし、自らに分配される所得(税収)を増やしてしまうと、国民の可処分所得は減る。国民の可処分所得が減ると、消費よりも先に投資の方が縮小することになる。理由は単純明快で、国民は生活する上での消費をゼロにすることはできないが、投資については「先延ばし」が可能であるためだ。
例えば、住宅購入を検討していたサラリーマンの手取り(可処分所得)が減ったとしても、生活を営む上で、それなりの消費は行わなければならない。消費をゼロにしてしまうと、自給自足の生活を成り立たせていない限り、飢え死にしてしまう。
それに対し、住宅購入は先延ばしが可能だ。
「マンションを購入しようと思っていたけど、増税で手取りが減ったわけだから、もう少し先延ばしにしよう」
という判断をしてしまうわけである。結果、その年における彼の「住宅投資(GDP上の需要項目の一つ)」はゼロになってしまう。
別に住宅投資に限らず、企業の設備投資も同様だ。デフレ深刻化に加え、増税で可処分所得(最終利益)が減った企業は、当然の話として設備投資の先送りという決断をすることになるだろう。
結果、国民経済成長のために必須の投資が縮小し、名目GDPは成長しない。
日本の名目GDPが減るということは、国民生活、安全保障、そして「財政」にとっても問題になる。まさに、財務省の大好きな「財政健全化」のためにも、現時点での増税は何としても阻止しなければならないのである。
「復興増税」なる政策は家計の窮乏化、企業の減収破綻、そして財政の悪化破綻への導くものである。
つまり、現在進行しているデフレスパイラル(賃金下降-需給ギャップ拡大の縮小循環)に財政も加える結果となる。
財政の悪化循環となり、増税の拡大循環を作り出すだろう。
喜ぶのは日本の資金をあてにする、欧米を支配する国際金融資本だけである。
増税の意味すら知らない政治家たち 10/13 三橋貴明 Klugから
(※なお、文中に報道から引用されている大和総研の試算はこちらのレポート(年収階層別の詳しい試算表がある):もうすぐ北風)
民主党政権は東北大震災の復興予算(第三次補正予算)成立に際し、「復興増税」という人類史上空前の愚行に乗り出そうとしているわけだが、現実に増税が実施されたら国民経済(国民生活ではない)はどうなるだろうか。
『2011年10月6日 朝日新聞「2年後の手取り、60万円減も 増税案など前提に試算」
東日本大震災の復興増税や厚生年金保険料の引き上げ、子ども手当の見直しなどでサラリーマンの手取り額は2年後に年13万~60万円減る――。そんな「負担増」の試算を大和総研がまとめた。
2013年1月から10年間、所得税額を4%上乗せするなどとした復興増税の政府・与党案を前提に、夫婦と子ども2人世帯で試算した。厚生年金保険料率は04年の制度改正で、17年度まで毎年0.177%ずつ段階的に引き上げることが決まっており、年収1千万円以下では復興増税よりも負担増額が大きかった。
子ども手当の見直しでは、来年6月から年収960万円程度を境に、全額支給の対象から外れる。与野党はこうした所得制限世帯への影響を和らげる対策を検討中だが、今回は年収1千万円以上は手当ゼロで試算。その影響で手取り額が大きく減り、11年と比べた合計の減少率は年収1千万円の世帯が最大だった。』
野田首相をはじめとする現在の民主党首脳部は、増税や税金の意味すら理解していないとしか思えない。以前も掲載した図で恐縮だが、税金とはマクロ経済の視点からいえば、「GDP(名目GDP)から政府に分配された所得」という意味を持つ。
【図123-1 全ての源泉はGDPである】

政府は国民の所得の合計であるGDPから(分配面のGDPで考えると分かりやすい)、まずは「生産・輸入品に課せられる税」として所得の分配を受ける。代表的なものは、いうまでもなく消費税だ。さらに、国民に分配された所得(雇用者報酬、営業余剰)から、所得税や法人税を徴収していくことになる。結果的に国民の手元に残されたお金が、可処分所得、別の表現をすると「手取り」となる。
家計や企業は可処分所得の一部を貯蓄に回し、残りを新たな支出(消費や投資)に使うことになるわけだ。消費や投資として支出されたお金は、次の段階のGDPとして統計に積み上がっていく。
いずれにしても、政府の税収の原資は名目GDP以外にはない。税率が同じと仮定すると、名目GDPが順調に成長している時期は、政府の税収は放っておいても増えていく。逆に、名目GDPが減っている時期には、政府はどのように足掻いても減収になってしまうのだ。
政府の税収を式で表すと、以下になる。
◆税収=名目GDP × 税率 × 税収弾性率
税収弾性率とは、名目GDPが1%増えた際に、税収が何%増えるかを示す指標である。
例えば、現在の日本において、名目GDPが成長をし始める、すなわち好景気になると、赤字を続けていた企業が法人税を払い始める(何しろ、現在は法人企業の七割が赤字であり、法人税をまともに払っていない)。
あるいは、好景気で雇用環境が改善し、失業者が就職すると、所得税を払い始めることになる。結果、今の日本で名目GDPが成長を始めると、税収は経済成長率以上に伸びることになるわけだ。
参考までに、現在の日本の税収弾性率は3~4と言われている。名目GDPが1%成長すると、政府の税収は3~4%増えることになるのである。
税収弾性率3~4というのは、比較的高い数値だ。とはいえ、日本の税収弾性率が高いのは、深刻なデフレ不況で法人税を支払っている企業が少ないことや、所得税を払わない(払えない)国民が多いことに起因しているため、全く嬉しい話ではないのだが。
上記とは逆に、景気が悪くなる、すなわち名目GDPがマイナス成長になると、それまで法人税を払っていた企業が赤字になり、税金を払わなくなる。また、所得税を支払っていた国民が失業し、やはり税金を払わなくなるわけだ。結果、税収は名目GDPのマイナス以上の率で減ることになる。
いずれにせよ、政府の税収は名目GDP次第であるということに代わりはない。
図123-1の通り、国民(家計と企業)は可処分所得から消費や投資を行い、新たなGDPを形成することになる。その大元である可処分所得が減ってしまった場合、100%の確率で翌年の国民による消費や投資は減る。
もっとも、高インフレ率やバブルで悩んでいる国は、国民の消費や投資を減らすためにこそ、増税をすべきなのだ。無論、現在の日本の環境はそうではない。
また、可処分所得が減った国民は、「減った分の消費や投資を減らす」のみならず、将来不安を覚え、GDPと無関係な貯蓄の割合を増やす可能性すらあるのだ。貯蓄性向が上がると、可処分所得の減少率以上に、翌年の消費や投資が減ることになる。
いずれにせよ、国民の消費や投資が減れば、名目GDPはマイナス成長になり、政府は減収になる。結果、東北大震災の復興国債の償還が、中期的には困難になっていくことになるだろう。
すなわち、現時点の日本が増税を行い、国民の可処分所得を減少させると、
1.名目GDPが減ることによる減収効果
2.税収弾性率による減収効果
と、二重の意味で政府は減収圧力に晒されることになるわけだ。
すると、日本政府の財政は更なる悪化に見舞われ、増税至上主義である財務省は、再びマスコミを使い、
「政府の財政がこんなに悪いのです。将来世代にツケを残さないためにも、増税しましょう」
とキャンペーンを仕掛けてくるため、まさしく我が国は「増税無間地獄」の中に放り込まれることになる(すでになっているわけだが)。
ここで、過去の日本における名目GDPと税収の関係を見てみよう。
【図123-2 日本の名目GDP(左軸)と政府の租税収入の推移(単位:十億円)】

出典:内閣府、財務省
97年の橋本緊縮財政によるデフレ深刻化以降、政府の租税収入が、ものの見事に名目GDPと同じ動きをしているのが分かるだろう。(95年以前に両者に乖離が見られるのは、バブル崩壊後に各種の減税措置が実施されたため)
無論、日本の名目GDPが順調に拡大しているというのであれば、日本政府が復興を増税で成し遂げようとしても、筆者は批判する気はない。と言うよりも、名目GDPの拡大が激しすぎる環境下の政府は、積極的に増税を実施し、国民の消費意欲や投資意欲を冷まさなければならない。
とはいえ、デフレが継続し、名目GDPが低成長どころか「マイナスにならなければ、マシな方」という悲惨な状況にある日本が増税をすると、100%の確率で翌年の名目GDPは減少する。結果、政府は減収になってしまう。
「政府が増税をすると減収になる」
という話であり、一般人にはピンと来ないかもしれない。とはいえ、政府の税収が「名目GDPから政府に分配される所得」であることを理解すれば、ご納得頂けるだろう。デフレに悩む日本において、政府の増収を実現するには、名目GDPを成長させる以外に手はない。
すなわち、財政政策と金融政策のパッケージという「正しいデフレ対策」のみが、政府の税収を増やしてくれるのだ。しかも、現在の日本は税収弾性率が高いため、名目GDPを成長させさえすれば、政府の税収は「予想以上に」増えることになる。
それにも関わらず、マクロ経済の知識がないのか、あるいは増税至上主義である財務省に篭絡されてしまっているのか、野田政権は「税収を増やす、唯一の方法」に見向きもしない。それどころか、わざわざ政府の税収を減らす増税に血眼になり、自ら泥沼に突っ込んでいっている。
繰り返しになるが、現在の日本が政府の税収を増やすには、名目GDPを成長させなければならない。復興増税や「税と社会保障の一体改革」で名目GDPの成長を達成できるというのであれば、是非ともそのロジックを伺いたいところだが、さすがに「増税すれば、日本経済は成長する」などと強弁する人はほとんどいない。唯一、菅政権のブレーンであった小野善康氏(大阪大学教授)のみが、
「現在の日本は国民が消費をせず、貯蓄としてお金を眠らせているから不景気が続く。増税で国民の貯蓄を政府が吸収し、景気対策をすれば景気回復する」
と、面白い理論を述べていたが、この種の暴論に賛成する経済学者は、さすがに皆無だ(前半は正しいのだが)。現在の日本に足りないのは投資であり、家計が消費をせずに貯蓄を増やしてしまうのは、経済成長率が低いためである。そして、経済成長を達成するためには、投資が増えなければならない。
そもそも、日本の消費は統計上、投資もしくは純輸出に牽引されなければ増えない。すなわち「国民が消費をしないから、不景気」なのではない。「不景気だから、国民が消費をしない」が正しい理解なのである。
いずれにせよ、現在の日本で政府が増税をし、自らに分配される所得(税収)を増やしてしまうと、国民の可処分所得は減る。国民の可処分所得が減ると、消費よりも先に投資の方が縮小することになる。理由は単純明快で、国民は生活する上での消費をゼロにすることはできないが、投資については「先延ばし」が可能であるためだ。
例えば、住宅購入を検討していたサラリーマンの手取り(可処分所得)が減ったとしても、生活を営む上で、それなりの消費は行わなければならない。消費をゼロにしてしまうと、自給自足の生活を成り立たせていない限り、飢え死にしてしまう。
それに対し、住宅購入は先延ばしが可能だ。
「マンションを購入しようと思っていたけど、増税で手取りが減ったわけだから、もう少し先延ばしにしよう」
という判断をしてしまうわけである。結果、その年における彼の「住宅投資(GDP上の需要項目の一つ)」はゼロになってしまう。
別に住宅投資に限らず、企業の設備投資も同様だ。デフレ深刻化に加え、増税で可処分所得(最終利益)が減った企業は、当然の話として設備投資の先送りという決断をすることになるだろう。
結果、国民経済成長のために必須の投資が縮小し、名目GDPは成長しない。
日本の名目GDPが減るということは、国民生活、安全保障、そして「財政」にとっても問題になる。まさに、財務省の大好きな「財政健全化」のためにも、現時点での増税は何としても阻止しなければならないのである。
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