国債の日銀直接引受けできるのに、なぜ増税。
2011-10-11
日銀の国債直接引受は「禁じ手」などと法外なデマをマスコミと政府が流しているが、国民経済を壊してでも利権を拡張したい財務省とオリジナル民主党幹部ども。
そこのところを、解りやすく引き出したインタビューがあったので紹介します。
【緊急特別インタビュー】世界一やさしい“増税なしの”復興財源捻出方法 ―― 18兆円の「日銀埋蔵金」とは何か? 高橋洋一 10/7 シノドスジャーナルから
昨今、復興財源捻出のために、増税が必要だという議論が加熱している。9月28日のロイターの報道(http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-23388820110928)によれば、「民主党税制調査会の古本伸一郎事務局長は、税外収入5兆円、臨時増税11兆2000億円を前提に与野党協議を進める考えを示した」とされている。
しかし不況下の増税は、さらなる不況圧力を招き、国民の生活に大きなマイナス圧力をもたらすことは明白だ。たとえば、1997年の消費税2%増税の際には、大きな不況が日本を覆い、たしかに消費税収は微増したものの、結局他の税収(法人税・所得税)が大きく減少、2011年までの14年間かけて約12兆円も税収全体が減ってしまうという事態が起きた。財政赤字削減のための増税が、結果的に景気の悪化を招き、財政赤字を逆に悪化させる事態をもたらしたのだ。
それどころか、1997年の2%の消費税増税にあおられた大きな景況感の悪化により、日本の年間の自殺者数は、2万人台の前半で推移していたところから、3万人強へと一気に増加するという事態を招いた。しかもその3万人強という年間の自殺者数の推移はもう、かれこれ10年以上定常化してしまっているという状況なのだ――。
政府はまた同じ轍を踏むのか? 増税以外に、財源を捻出する方法はないのか?
「復興財源捻出のためには、増税は1円も必要ない。じつは、日本銀行が毎年、法律の枠内で行なっている、国債の直接引き受けを行えば、そこから18兆円を即座に捻出できるので、国民生活を犠牲にすることなく、復興財源を賄うことができる」と主張をしている嘉悦大学教授・高橋洋一氏に聞いた。(シノドス編集部)
■そもそも日銀マンと財務省職員の関係について
――財務省の人と日本銀行(以下、日銀)の人というのは、どういう場面で仕事上のつきあいがあるのですか。
高橋 基本的には、ほぼ主従の関係にあります。財務省が主で、日銀が従。実際に財務省は、日銀に指示を出してやる仕事ばっかりになる。日銀は財務省から何か指示が出た場合「なぜですか」とか理由を聞くことすら全然ない。財務省からは一方的に指示しかしないんだから。日銀からは反論どころか質問すらないほど。だから日銀の側からすると、財務省に対して大きなコンプレックスを持っていると思いますよ。実質的に日銀がやっている仕事は財務省の下働きみたいなものだから。
私の場合、財務省にいた頃、唯一日銀と少しだけ議論になったのは、日銀に国債を直接引き受けさせる際の額についての話だけだった。でも最後は簡単。こちらから「やれ」って言えばおしまい。それ以上は日銀は何も言えない。
そしてこれがこのインタビューの核心でもある「じつは日銀は、現行の法律の枠内で普通に国債の直接引き受けを18兆円分できるのだから、政府はそれを復興財源にすればいいだけで、復興増税なんて1円も必要ない」という話につながるのです。
いまもとくに日銀の国債直接引き受けの問題が大きく報じられていて、日銀は「そんなことはできない」と言っているけど、実際は毎年、日銀は財務省から直接国債を引き受けている。だけど日銀のサイドからすれば、財務省にやらされていることで、屈辱だから、絶対にやっているとは言わないわけ。
――日銀の国債直接引き受けというのは、要するに政府・財務省が国債を発行して、そのうちの何割かを日銀に引き受けさせるということですが、毎年日銀は、どのぐらいの額を引き受けているんですか。
高橋 だいたい10兆から、20兆円。だから、よく私の本とかツイッターとか見るとわかると思うけど、日銀引き受けは禁じ手でもなんでもなくて、できないのなんかまったくの嘘。毎年普通にやっていることですよ。過去最高で、23兆を引き受けさせた記録があるけど、それはわたしが官邸にいたときの話です。そして、一切何も困ったことは起きていない。
■日銀による国債の直接引き受けの法律的根拠
高橋 この日銀による国債の直接引き受けというのは、財政法の5条に書かれている。そこでは日銀の国債直接引き受けは禁止されている。だけど、但し書きというのがあって、「国会の議決を経た金額の範囲内」であれば直接引き受けできるって書いてある。
だから日銀に国債を直接引き受けさせるためには、財務省が予算総則っていうのを書く。その予算総則に「今年はいくらまで日銀に引き受けさせる」ということを書いておけばいいだけ。それで財務省が予算をつくって、国会が議決すればいいだけです。日銀には反論する余地もない。それで毎年、日銀は国債を財務省から直接引き受けしてるんですよ。
なのに日銀は、その事実(=じつは毎年国債の直接引き受けをやっていること)を一切口にしない。黙っているってこと自体が、彼らが悔しがっている証拠だと思います。
――ちなみに、毎年日銀が国債を10~20兆円直接引き受けているのはどういう理由からなのですか。
高橋 それはね、そもそも日銀は80~100兆円の国債を持ってるんだけど、そのうち「今年度の償還額」っていうのがある。償還額というのはつまり、満期がくる金額のことなんだけど、今年の話でいうと、日銀の持ってる国債は30兆円分満期がくる。日銀が新たに30兆円の国債を買い入れないと、自動的に30兆円分の金融引き締めになってしまうわけ。マネーが減るわけだから。
だから「この償還額の範囲では、日銀に引き受けさせることができる」っていうことが予算に書いてあるわけ。
それで今年度(2011年)は30兆までは日銀に国債を直接引き受けさせることができるんだけど、今年は日銀の直接引き受けは12兆になってしまっている。わたしはそこを指摘して「まだ18兆円も普通に(予算に則った)日銀に国債を直接引き受けさせる枠があるのだから、日銀に国債を引き受けさせればいいじゃない」と言っているわけ。「今の範囲で、合法的かつ予算の範囲でできるじゃない」と。
日銀の直接引き受けは全然根拠のない話じゃなくて、今の予算の範囲で――少なくとも30兆って枠はこの前の3月に成立した予算でとっているんだから、まだ余っている18兆円分を引き受けさせればいいじゃないって言っているだけなんだから。
こういう風な話をすると、日銀がいかに財務省に虐げられてたかっていう言い方もできるかもしれないけども、わたしは「30兆円の国債の償還が今年あって、それを増やさなかったら必要なマネーが減って、デフレになって大変でしょ」って言ってるだけ。わたしがもし財務省の担当だったら確実にやる。復興のために増税するなんてことを言うんじゃなくて、震災復興債を出して、日銀が直接引き受ければそれでいいだろうって。それで一気に復興をすればいいだけなんだから。
■30兆円の法律の枠内の国債直接引受で、通貨の信認は毀損するか?
高橋 それで日銀も、日銀が国債を直接引き受けると「通貨の信認が毀損する」とかって言ってて、ハイパーインフレとか大幅な円安が起こるなんて言ってるけど、すべて詭弁。
だって、日銀の30兆円規模の国債引き受けというのは、毎年予算の範囲内でマネタリーベースが増えるわけでないから。それでハイパーインフレ ―― どころかちょっとのインフレすら起こりませんよ。どころかずっとデフレだったんだから。さらに「円安が起こりましたか?」という話。日本国内は、長引く円高でヒイヒイ言ってますよ。いま過去最高の円高ですよと。
もし日銀が、「毎年やってる予算の枠内での国債の直接引き受け ―― 今年で言えば具体的には、財務省が日銀に『やりなさい』とひとこと言えば買い取らせることのできる30兆円の枠内で、まだ実施してない18兆円の国債引き受けることで、通貨の信認が毀損する」という発言をつづけるのであれば、「じゃあ、なぜ昨年も一昨年も、まったく同じ国債の直接引き受けを現実にやっているのに、通貨の信認の毀損どころか、デフレが起こり、円高が進展しているのか?」の説明をしなければいけない。
なぜ日銀は、いままで普通に直接引き受けをやっていたのに、禁じ手みたいな話を突然言い出したかというと、今回の震災によって、普段は誰にも知られずに行われていたその直接引き受けに対して、にわかにそれを求める声が大々的に外野から寄せられるようになったから。
日銀がいま必死にその火消しに回っているのはプライドがあるから。日銀が「直接引き受けは禁じ手だ」って言うから、マスコミの人もこぞって「禁じ手、禁じ手」っていうでしょ? これはいかにマスコミの人が、政府や日銀の発表を鵜呑みにしていて、いかに自分たちでは知識がないかということがあらわになってしまっている。マスコミは、日銀の発表だけを鵜呑みにして、そこで思考が停止してる証拠です。
仮に、わたしが財務省の担当者なら、すぐに18兆円を日銀に引き受けさせるけど、それに対して日銀は一言も反論できず、粛々と引き受けるしかないわけですよ。ちょっと酷いように見えるけど、それで増税なしで震災復興もでき、しかも円高・デフレ対策にもなるのだから、国民経済から見れば文句なしのいい手だ。
――そういえば日銀は、その主張に対して表だって反論しているように思われていますけど、実際はマスコミやマーケットに向けて発言しているだけですものね。
高橋 そう。表だって言えないから、裏で色んなことを言うしかない。唯一の強みはさ、金融マーケットについて財務省は無知だから、その無知を利用することはできる。細かくいうと財務省の職員は、金融マーケット ―― 金利とかの細かい話をされると分からないわけ。だから日銀は、「直接引き受けすると、金利が暴騰しますよ」とか、「国債金利が暴騰して、消火が大変になります」って言うと、意外と財務省の人間は「ああそうか」ってなってしまうというのもある。財務省と日銀の関係で言うと、日銀はそうやって牽制球を投げるので精一杯。ここでも財務省と日銀の主従関係の姿が透けて見えます。
でもそんなことがいかに嘘かっていうのは、ちょっと考えれば簡単に見抜くことができる。なぜなら、さっきも話しましたが、昨年も一昨年も日銀は、今回わたしが主張しているような「法律の枠内での国債の直接引き受け」をやってるのに、「国債金利が暴騰して大変なことが起きる」みたいな自体は一切起こっていない。
「復興のためなら増税もしょうがない」と短絡的に考えるのではなく、国民は、この日銀と財務省が隠している事実を、厳しい目でチェックすべきです。
そこのところを、解りやすく引き出したインタビューがあったので紹介します。
【緊急特別インタビュー】世界一やさしい“増税なしの”復興財源捻出方法 ―― 18兆円の「日銀埋蔵金」とは何か? 高橋洋一 10/7 シノドスジャーナルから
昨今、復興財源捻出のために、増税が必要だという議論が加熱している。9月28日のロイターの報道(http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-23388820110928)によれば、「民主党税制調査会の古本伸一郎事務局長は、税外収入5兆円、臨時増税11兆2000億円を前提に与野党協議を進める考えを示した」とされている。
しかし不況下の増税は、さらなる不況圧力を招き、国民の生活に大きなマイナス圧力をもたらすことは明白だ。たとえば、1997年の消費税2%増税の際には、大きな不況が日本を覆い、たしかに消費税収は微増したものの、結局他の税収(法人税・所得税)が大きく減少、2011年までの14年間かけて約12兆円も税収全体が減ってしまうという事態が起きた。財政赤字削減のための増税が、結果的に景気の悪化を招き、財政赤字を逆に悪化させる事態をもたらしたのだ。
それどころか、1997年の2%の消費税増税にあおられた大きな景況感の悪化により、日本の年間の自殺者数は、2万人台の前半で推移していたところから、3万人強へと一気に増加するという事態を招いた。しかもその3万人強という年間の自殺者数の推移はもう、かれこれ10年以上定常化してしまっているという状況なのだ――。
政府はまた同じ轍を踏むのか? 増税以外に、財源を捻出する方法はないのか?
「復興財源捻出のためには、増税は1円も必要ない。じつは、日本銀行が毎年、法律の枠内で行なっている、国債の直接引き受けを行えば、そこから18兆円を即座に捻出できるので、国民生活を犠牲にすることなく、復興財源を賄うことができる」と主張をしている嘉悦大学教授・高橋洋一氏に聞いた。(シノドス編集部)
■そもそも日銀マンと財務省職員の関係について
――財務省の人と日本銀行(以下、日銀)の人というのは、どういう場面で仕事上のつきあいがあるのですか。
高橋 基本的には、ほぼ主従の関係にあります。財務省が主で、日銀が従。実際に財務省は、日銀に指示を出してやる仕事ばっかりになる。日銀は財務省から何か指示が出た場合「なぜですか」とか理由を聞くことすら全然ない。財務省からは一方的に指示しかしないんだから。日銀からは反論どころか質問すらないほど。だから日銀の側からすると、財務省に対して大きなコンプレックスを持っていると思いますよ。実質的に日銀がやっている仕事は財務省の下働きみたいなものだから。
私の場合、財務省にいた頃、唯一日銀と少しだけ議論になったのは、日銀に国債を直接引き受けさせる際の額についての話だけだった。でも最後は簡単。こちらから「やれ」って言えばおしまい。それ以上は日銀は何も言えない。
そしてこれがこのインタビューの核心でもある「じつは日銀は、現行の法律の枠内で普通に国債の直接引き受けを18兆円分できるのだから、政府はそれを復興財源にすればいいだけで、復興増税なんて1円も必要ない」という話につながるのです。
いまもとくに日銀の国債直接引き受けの問題が大きく報じられていて、日銀は「そんなことはできない」と言っているけど、実際は毎年、日銀は財務省から直接国債を引き受けている。だけど日銀のサイドからすれば、財務省にやらされていることで、屈辱だから、絶対にやっているとは言わないわけ。
――日銀の国債直接引き受けというのは、要するに政府・財務省が国債を発行して、そのうちの何割かを日銀に引き受けさせるということですが、毎年日銀は、どのぐらいの額を引き受けているんですか。
高橋 だいたい10兆から、20兆円。だから、よく私の本とかツイッターとか見るとわかると思うけど、日銀引き受けは禁じ手でもなんでもなくて、できないのなんかまったくの嘘。毎年普通にやっていることですよ。過去最高で、23兆を引き受けさせた記録があるけど、それはわたしが官邸にいたときの話です。そして、一切何も困ったことは起きていない。
■日銀による国債の直接引き受けの法律的根拠
高橋 この日銀による国債の直接引き受けというのは、財政法の5条に書かれている。そこでは日銀の国債直接引き受けは禁止されている。だけど、但し書きというのがあって、「国会の議決を経た金額の範囲内」であれば直接引き受けできるって書いてある。
だから日銀に国債を直接引き受けさせるためには、財務省が予算総則っていうのを書く。その予算総則に「今年はいくらまで日銀に引き受けさせる」ということを書いておけばいいだけ。それで財務省が予算をつくって、国会が議決すればいいだけです。日銀には反論する余地もない。それで毎年、日銀は国債を財務省から直接引き受けしてるんですよ。
なのに日銀は、その事実(=じつは毎年国債の直接引き受けをやっていること)を一切口にしない。黙っているってこと自体が、彼らが悔しがっている証拠だと思います。
――ちなみに、毎年日銀が国債を10~20兆円直接引き受けているのはどういう理由からなのですか。
高橋 それはね、そもそも日銀は80~100兆円の国債を持ってるんだけど、そのうち「今年度の償還額」っていうのがある。償還額というのはつまり、満期がくる金額のことなんだけど、今年の話でいうと、日銀の持ってる国債は30兆円分満期がくる。日銀が新たに30兆円の国債を買い入れないと、自動的に30兆円分の金融引き締めになってしまうわけ。マネーが減るわけだから。
だから「この償還額の範囲では、日銀に引き受けさせることができる」っていうことが予算に書いてあるわけ。
それで今年度(2011年)は30兆までは日銀に国債を直接引き受けさせることができるんだけど、今年は日銀の直接引き受けは12兆になってしまっている。わたしはそこを指摘して「まだ18兆円も普通に(予算に則った)日銀に国債を直接引き受けさせる枠があるのだから、日銀に国債を引き受けさせればいいじゃない」と言っているわけ。「今の範囲で、合法的かつ予算の範囲でできるじゃない」と。
日銀の直接引き受けは全然根拠のない話じゃなくて、今の予算の範囲で――少なくとも30兆って枠はこの前の3月に成立した予算でとっているんだから、まだ余っている18兆円分を引き受けさせればいいじゃないって言っているだけなんだから。
こういう風な話をすると、日銀がいかに財務省に虐げられてたかっていう言い方もできるかもしれないけども、わたしは「30兆円の国債の償還が今年あって、それを増やさなかったら必要なマネーが減って、デフレになって大変でしょ」って言ってるだけ。わたしがもし財務省の担当だったら確実にやる。復興のために増税するなんてことを言うんじゃなくて、震災復興債を出して、日銀が直接引き受ければそれでいいだろうって。それで一気に復興をすればいいだけなんだから。
■30兆円の法律の枠内の国債直接引受で、通貨の信認は毀損するか?
高橋 それで日銀も、日銀が国債を直接引き受けると「通貨の信認が毀損する」とかって言ってて、ハイパーインフレとか大幅な円安が起こるなんて言ってるけど、すべて詭弁。
だって、日銀の30兆円規模の国債引き受けというのは、毎年予算の範囲内でマネタリーベースが増えるわけでないから。それでハイパーインフレ ―― どころかちょっとのインフレすら起こりませんよ。どころかずっとデフレだったんだから。さらに「円安が起こりましたか?」という話。日本国内は、長引く円高でヒイヒイ言ってますよ。いま過去最高の円高ですよと。
もし日銀が、「毎年やってる予算の枠内での国債の直接引き受け ―― 今年で言えば具体的には、財務省が日銀に『やりなさい』とひとこと言えば買い取らせることのできる30兆円の枠内で、まだ実施してない18兆円の国債引き受けることで、通貨の信認が毀損する」という発言をつづけるのであれば、「じゃあ、なぜ昨年も一昨年も、まったく同じ国債の直接引き受けを現実にやっているのに、通貨の信認の毀損どころか、デフレが起こり、円高が進展しているのか?」の説明をしなければいけない。
なぜ日銀は、いままで普通に直接引き受けをやっていたのに、禁じ手みたいな話を突然言い出したかというと、今回の震災によって、普段は誰にも知られずに行われていたその直接引き受けに対して、にわかにそれを求める声が大々的に外野から寄せられるようになったから。
日銀がいま必死にその火消しに回っているのはプライドがあるから。日銀が「直接引き受けは禁じ手だ」って言うから、マスコミの人もこぞって「禁じ手、禁じ手」っていうでしょ? これはいかにマスコミの人が、政府や日銀の発表を鵜呑みにしていて、いかに自分たちでは知識がないかということがあらわになってしまっている。マスコミは、日銀の発表だけを鵜呑みにして、そこで思考が停止してる証拠です。
仮に、わたしが財務省の担当者なら、すぐに18兆円を日銀に引き受けさせるけど、それに対して日銀は一言も反論できず、粛々と引き受けるしかないわけですよ。ちょっと酷いように見えるけど、それで増税なしで震災復興もでき、しかも円高・デフレ対策にもなるのだから、国民経済から見れば文句なしのいい手だ。
――そういえば日銀は、その主張に対して表だって反論しているように思われていますけど、実際はマスコミやマーケットに向けて発言しているだけですものね。
高橋 そう。表だって言えないから、裏で色んなことを言うしかない。唯一の強みはさ、金融マーケットについて財務省は無知だから、その無知を利用することはできる。細かくいうと財務省の職員は、金融マーケット ―― 金利とかの細かい話をされると分からないわけ。だから日銀は、「直接引き受けすると、金利が暴騰しますよ」とか、「国債金利が暴騰して、消火が大変になります」って言うと、意外と財務省の人間は「ああそうか」ってなってしまうというのもある。財務省と日銀の関係で言うと、日銀はそうやって牽制球を投げるので精一杯。ここでも財務省と日銀の主従関係の姿が透けて見えます。
でもそんなことがいかに嘘かっていうのは、ちょっと考えれば簡単に見抜くことができる。なぜなら、さっきも話しましたが、昨年も一昨年も日銀は、今回わたしが主張しているような「法律の枠内での国債の直接引き受け」をやってるのに、「国債金利が暴騰して大変なことが起きる」みたいな自体は一切起こっていない。
「復興のためなら増税もしょうがない」と短絡的に考えるのではなく、国民は、この日銀と財務省が隠している事実を、厳しい目でチェックすべきです。
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通貨戦争(41)ユーロは凋落、デフレと円高は悪化へ
2011-10-11
ドルとユーロの通貨安戦争はまだドルが3倍を超える増発で「勝っている?」状況だ。
現在のドルの下落はFRBが流動性を過剰に供給しているためである。
ユーロの下落はドルとはまったく異なる。
共通通貨ユーロによって、各国がその国の経済状況に合わせた金融政策を実行できないために財政出動しか手立てがなく、その結果対外債務が膨れ上がり、財政破綻の追い込まれる国家が続出しそうなことによる。
ソブリン・リスクである。
共通通貨ユーロであるから、ギリシャなど各国の国債は当然基本的にユーロ建てであり、ユーロ圏内の各国金融資本の債権となるため、国内通貨による国内債務ではなく「対外債務」なので、繰延や解消の手段がないのである。
財政破綻を回避するため支援をうけるが、その条件は財政緊縮策である。
財政緊縮策を実行すれば経済不況は悪化し、国民は窮乏化する。
最悪の場合は、暴動やクーデターの危険さえある。
最悪の事態にはならなくても、経済需要が激滅するので、政府の税収が大幅に減少することは疑いない。
そうなると少なくとも、再び財政危機の深刻化が襲う。
循環する財政危機のスパイラルである。
とりあえず、ユーロが円に対して上昇することは、短期、中期にあり得ない。
つまり、ドルに対しても、ユーロに対しても、円安はあり得ないし、円高基調が少なくとも中期に続く。
日本の金融政策と財政政策が正しく実行されて、賃金総額がわずかでも上昇するなら、デフレ脱却の芽がでるが、残念なことに、増税を進めているようでは、その可能性はほぼゼロだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ユーロの凋落 9/29 三橋貴明 Klugから
今から思い起こせば信じ難い話だが、08年頃までは日本国内で、
「ユーロは第二の基軸通貨になる」
という主張が流行っていた。
何しろ、日本円の対ユーロレートは、08年には1ユーロ=169円を一時的に上回ったのである。それが現在、一時的に1ユーロ102円を割ってしまったのだ。
『2011年9月26日 ブルームバーグ紙「ユーロ売り加速、約10年ぶりに102円割れ-欧州の債務・景気不安重し」
東京外国為替市場では、ユーロ売りが加速。対円では一時1ユーロ=102円台を割り込み、2001年6月以来の安値を更新した。欧州の債務懸念が根強く残る中、域内景気の先行き不透明感を背景にユーロの下値を試す展開となった。
ユーロ・円相場は午後の取引で一時101円94銭まで水準を切り下げ約10年ぶりの水準までユーロ安・円高が進行。また、ユーロ・ドル相場も早朝に1ユーロ=1.3583ドルと、2営業日ぶりの高値を付けていたが、徐々に売り圧力が戻り、午後の取引で一時1.3363ドルと、1月18日以来の安値を付けている。(中略)
外為オンライン情報サービス室の佐藤正和顧問は、財政問題だけではなく、ユーロ圏全体の景気減速も避けられない見通しにあるなかで、ユーロ売りが加速する可能性が警戒されると指摘。その上で、ユーロ圏発のニュースにはこれまで以上に市場が反応するようになっている感があり、アジア株全面安に加え、金相場が一段安になるなど、「リスク回避の流れがかなり加速している」とし、円が買われやすいと説明している。』
2008年から11年にかけ、ユーロは対日本円で四割近くも下落してしまったのである。
「ユーロは第二の基軸通貨国になる!」
などと煽っていた人々は、盛んにユーロへの投資を薦めていた。彼らの煽りに乗せられた日本国民が、どれほどの規模の為替差損を被ったのか。投資は自己責任とはいえ、ひどい話である。
通貨の為替レートが変動する理由は複数あるが、日本の評論家が好む、
「為替レートは国力を反映している」
などといった定性的な話はあり得ない。07年までの円安期、NHKまでもが、
「日本は少子化で国力が減退しているので、円安になるのです」
といった解説をもったいぶって繰り返していたが、そもそも「国力」とは何を意味しているのか、意味不明である。
あえて定義をするのであれば、その国の国民経済の強靭さ、すなわち、
「供給能力が、国民の需要をきちんと満たせるか、否か」
が国力となるわけだが、上記の定義を用いた場合、デフレで供給過剰、需要不足に悩む日本の国力は「強い」「強まっている」という話になってしまう。そして、実のところ上記の定義は、ほとんど正解に近いのだ。
為替レートが上昇する原因の一つが、経常収支の黒字である。経常収支黒字国は、黒字額分だけ外国に対外純資産を持つことになる。
例えば、企業A社がアメリカに100億円の製品を輸出し、経常収支黒字に貢献したとしよう。この場合、A社が輸出品の対価として受け取るのは「ドル」であり、日本円ではない(当たり前だ)。
A社はアメリカに100億円相当のドル資産を持つことになるわけだが、自社の従業員に支払う給与は日本円建てだ。また、日本国内で投資をする場合であっても、日本円が必要になる。
A社が給与支払いや国内投資のために、対外資産であるドルを日本円に両替しようとすると、円への需要が増える。すなわち、円高ドル安になる。
中国などは、上記の経常収支黒字を通貨当局(中国人民銀行)がせっせと買い取り、人民元高を防いでいる。それに対し、基本的に変動相場制の日本は為替介入をしないため、経常収支黒字拡大で日本円の需要が増え、円高(外貨安)になっているわけだ。
経常収支黒字の中身は、主に貿易・サービス収支の黒字であり、過去の直接投資(工場建設など)から得る収益(所得収支の黒字)だ。その国の国民経済の供給能力が強大で、自国民の需要を満たすのみならず、外国への輸出が増え、かつ海外直接投資からの収益が大きくなればなるほど、経常収支の黒字は膨らみ、通貨高になりやすい。
日本の経常収支の黒字は、バブル崩壊後のデフレ期に、逆に拡大していった。デフレで国内需要が冷え込み、国内の供給能力を外国に振り向けざるを得なかったことが主因であるが、いずれにせよ日本について「国民経済は強靭か、否か?」を考えた場合、答えは「他国と比べると相対的に強靭」という話になる。
すなわち、現在の日本はユーロ圏と比べて相対的に強靭な経済を維持しており、円高ユーロ安になっているわけだ。
また、為替レートの変動をもたらす要因の一つに、実質金利がある。実質金利とは「=名目金利-期待インフレ率」で計算される。
現在の日欧の実質金利を試算してみよう。期待インフレ率は、仮に現在のインフレ率として置いてみる。
日本の政策金利は0%で、インフレ率(消費者物価指数の対前年比変動率)は0.2%(11年6月時点、以下同)であるため、実質金利は-0.2%になる。それに対し、ユーロ圏の政策金利は1.5%、インフレ率は2.7%。すなわち、ユーロ圏の実質金利は-1.2%だ。実は、実質金利で見ると、日本の方がユーロ圏よりも金利は高くなっているのである。
結果、ユーロに比べて実質金利が高い日本円が買われるという話だ。
上記のポイントは日本の「インフレ率が低い」という部分だ。バブル崩壊後に消費者物価指数が急低下したとはいえ、さすがにユーロ圏全体のインフレ率は、日本ほどには低くはない。また、政策金利の引き上げも、ユーロ圏の景気深刻化を受け、1.5%で「打ち止め」になっている。
それに対し、日本は相変わらずデフレ基調を続けており、インフレ率はほぼゼロだ。デフレの一つの要因は、先にも書いた通り、国民経済が供給過剰、需要不足になっているためである。日本は国内の供給能力が需要と比べて大きすぎ、デフレで実質金利がユーロと比べて相対的に高くなってしまうため、円高ユーロ安が続くというわけである。
円高、外貨安に関する解説をする評論家の中には、中央銀行のマネタリーベースのみで説明する人が少なくない。無論、マネタリーベースの変動も為替レートに影響を与える。だが、マネタリーベースの変動のみでは、現在の極端な円高・ユーロ安の説明は難しい。
【図121-1 日米欧のマネタリーベースの推移(07年=1)】

出典:日本銀行、FRB、ECB
図121-1の通り、ECBのマネタリーベースは確かに日本よりは大きくなってはいるが、さすがにアメリカほどではない。07年基準で比較すると、日本のマネタリーベースが1.26倍、FRBが3.3倍、そしてECBが1.4倍である。
PIGS諸国などの国債買取の印象が強すぎ、ユーロ危機勃発以降のECBはマネタリーベースをひたすら拡大しているように思えるが、実際にはFRBほどではないのだ。そもそも、ECBの母体が「インフレ恐怖症」のブンデスバンク(ドイツ連邦銀行)であるため、それほどラディカルなインフレ促進策(デフレ対策)は取れないのである。
マネタリーベース「のみ」で為替レートが決定するのでは、さすがに07年以降の円急騰、ユーロ暴落の説明はできない。何しろ、07年、08年以降、ユーロは対日本円で四割も価値を下げたのである。
そもそも、インフレ率を最終的に決定するのはマネーストックであり、マネタリーベースではない。マネーストックは、中央銀行がどれだけマネタリーベースを拡大しても、お金が民間に貸し出され、信用創造の機能が働かなければ増えない。
FRBはリーマンショック以降、約9000億ドルのマネタリーベースを、2011年7月には2兆6815億ドルにまで拡大した。約三倍にベースマネーを増やしたわけだ。とはいえ、マネーストックの方は08年9月が8兆3112億ドルであるのに対し、11年7月は9兆3137億ドルである。二度の量的緩和を実施したとはいえ、わずかに1.1倍にしか、アメリカのマネーストックは拡大しなかったわけだ。現在のアメリカは(日本同様に)信用創造の機能が低下し、マネタリーベースがマネーストックを生み出す力が弱っているのである。
ユーロに話を戻すが、昨今のPIGS諸国をはじめとする財政危機により、ユーロ圏内の金融リスクは高まっている。財政危機に瀕した国々は、「対外負債の返済のために、対外負債を増やす」状況に至っており、長期金利は上昇中だ。
短期的には、先の解説の通り、実質金利は日本の方が上回っており、ユーロから円への両替が増える。長期投資(一年物以上)についても、
「とてもこんなリスクが高い国々に、投資などできない」
というわけで、やはりユーロから円への両替が増えるという話である。何しろ、現在のギリシャの一年債の利回りは、135%(書き間違いではない)を上回っているのだ。ギリシャは別格としても、世界の投資家が、
「ユーロで長期投資するなら、ドイツ。できれば、ユーロ以外の国に」
という投資コンセプトになって当たり前だ。ユーロの財政危機について、解決の道筋が見えない以上、いずれにしても今後も円高ユーロ安は続く。
今や世界屈指のハイリスク地域と化したユーロ圏からは、まずは隣国スイスへと資金が流出し、ユーロからスイス・フランへの両替が急増した。あまりのスイス・フラン高に耐えかね、スイス国立銀行が、
「為替レートがその水準を上回る場合は、無制限に外貨を購入する準備がある」
と宣言したのは、前々回(第119回 四天王)で解説した通りだ。
ユーロの現在の問題は、それぞれの加盟国の状況があまりに違いすぎ、一貫した金融政策が取れない点に尽きる。例えば、インフレ率一つとっても、ドイツが2.5%、フランスが2.4%、スペインが2.7%、イタリアが2.3%、ポルトガルが2.8%、アイルランドが1.0%、そしてギリシャが1.4%である(全て2011年8月時点)。
恐ろしいことに、典型的な貿易赤字国、高インフレ国であったギリシャのCPI上昇率が、対前年比で1.4%に下がってしまっているのだ。すなわち、ギリシャのデフレ化という、尋常でない事態が目前に迫っているのである。ギリシャは長年、貿易赤字を続け、インフレ率は10%を上回ることが普通だった。それほどまでに供給能力が小さいギリシャの消費者物価指数がゼロに近づいているということは、国内の需要が極端に縮小しているとしか考えられない。
また、アイルランドのCPI上昇率も対前年比で1%と極めて低いが、同国の09年、10年はデフレになっていた。すなわち、CPI上昇率がマイナスで推移していたわけだ。
ようやくデフレから抜け出しかけたアイルランド、およびデフレ化目前のギリシャの両国は、財政危機を解決するために緊縮財政を強いられている。とはいえ、ここまで需要が縮小している環境下における緊縮財政は、単に両国の税収を減らし、更なる財政悪化を呼び込むだけの結果に終わるだろう。
そうなると、またもやユーロ圏の財政危機がクローズアップされ、長期金利は上昇し、お金がドイツおよび日米スの四天王(国債金利が超低迷している四カ国)に逃げていく。
結局のところ、今年から2012年にかけた円の対ユーロレートは、上昇することはあっても、下落することはまず考えられない。唯一、日本が財政政策と金融政策のパッケージという「正しいデフレ対策」を実施し、インフレ率が上向けば、実質金利低下により円高は抑制されるだろう。とはいえ、現実の日本の政権は「正しいデフレ対策」には見向きもせず、増税路線を邁進している。
こうなると、日本円の対ユーロレートは早々に1ユーロ=100円を切ることになるだろう。とはいえ、07年や08年に「ユーロこそ、次なる基軸通貨である」などと無責任に煽った日本の評論家たちは、別に責任を取るわけではないという話である。
現在のドルの下落はFRBが流動性を過剰に供給しているためである。
ユーロの下落はドルとはまったく異なる。
共通通貨ユーロによって、各国がその国の経済状況に合わせた金融政策を実行できないために財政出動しか手立てがなく、その結果対外債務が膨れ上がり、財政破綻の追い込まれる国家が続出しそうなことによる。
ソブリン・リスクである。
共通通貨ユーロであるから、ギリシャなど各国の国債は当然基本的にユーロ建てであり、ユーロ圏内の各国金融資本の債権となるため、国内通貨による国内債務ではなく「対外債務」なので、繰延や解消の手段がないのである。
財政破綻を回避するため支援をうけるが、その条件は財政緊縮策である。
財政緊縮策を実行すれば経済不況は悪化し、国民は窮乏化する。
最悪の場合は、暴動やクーデターの危険さえある。
最悪の事態にはならなくても、経済需要が激滅するので、政府の税収が大幅に減少することは疑いない。
そうなると少なくとも、再び財政危機の深刻化が襲う。
循環する財政危機のスパイラルである。
とりあえず、ユーロが円に対して上昇することは、短期、中期にあり得ない。
つまり、ドルに対しても、ユーロに対しても、円安はあり得ないし、円高基調が少なくとも中期に続く。
日本の金融政策と財政政策が正しく実行されて、賃金総額がわずかでも上昇するなら、デフレ脱却の芽がでるが、残念なことに、増税を進めているようでは、その可能性はほぼゼロだ。
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ユーロの凋落 9/29 三橋貴明 Klugから
今から思い起こせば信じ難い話だが、08年頃までは日本国内で、
「ユーロは第二の基軸通貨になる」
という主張が流行っていた。
何しろ、日本円の対ユーロレートは、08年には1ユーロ=169円を一時的に上回ったのである。それが現在、一時的に1ユーロ102円を割ってしまったのだ。
『2011年9月26日 ブルームバーグ紙「ユーロ売り加速、約10年ぶりに102円割れ-欧州の債務・景気不安重し」
東京外国為替市場では、ユーロ売りが加速。対円では一時1ユーロ=102円台を割り込み、2001年6月以来の安値を更新した。欧州の債務懸念が根強く残る中、域内景気の先行き不透明感を背景にユーロの下値を試す展開となった。
ユーロ・円相場は午後の取引で一時101円94銭まで水準を切り下げ約10年ぶりの水準までユーロ安・円高が進行。また、ユーロ・ドル相場も早朝に1ユーロ=1.3583ドルと、2営業日ぶりの高値を付けていたが、徐々に売り圧力が戻り、午後の取引で一時1.3363ドルと、1月18日以来の安値を付けている。(中略)
外為オンライン情報サービス室の佐藤正和顧問は、財政問題だけではなく、ユーロ圏全体の景気減速も避けられない見通しにあるなかで、ユーロ売りが加速する可能性が警戒されると指摘。その上で、ユーロ圏発のニュースにはこれまで以上に市場が反応するようになっている感があり、アジア株全面安に加え、金相場が一段安になるなど、「リスク回避の流れがかなり加速している」とし、円が買われやすいと説明している。』
2008年から11年にかけ、ユーロは対日本円で四割近くも下落してしまったのである。
「ユーロは第二の基軸通貨国になる!」
などと煽っていた人々は、盛んにユーロへの投資を薦めていた。彼らの煽りに乗せられた日本国民が、どれほどの規模の為替差損を被ったのか。投資は自己責任とはいえ、ひどい話である。
通貨の為替レートが変動する理由は複数あるが、日本の評論家が好む、
「為替レートは国力を反映している」
などといった定性的な話はあり得ない。07年までの円安期、NHKまでもが、
「日本は少子化で国力が減退しているので、円安になるのです」
といった解説をもったいぶって繰り返していたが、そもそも「国力」とは何を意味しているのか、意味不明である。
あえて定義をするのであれば、その国の国民経済の強靭さ、すなわち、
「供給能力が、国民の需要をきちんと満たせるか、否か」
が国力となるわけだが、上記の定義を用いた場合、デフレで供給過剰、需要不足に悩む日本の国力は「強い」「強まっている」という話になってしまう。そして、実のところ上記の定義は、ほとんど正解に近いのだ。
為替レートが上昇する原因の一つが、経常収支の黒字である。経常収支黒字国は、黒字額分だけ外国に対外純資産を持つことになる。
例えば、企業A社がアメリカに100億円の製品を輸出し、経常収支黒字に貢献したとしよう。この場合、A社が輸出品の対価として受け取るのは「ドル」であり、日本円ではない(当たり前だ)。
A社はアメリカに100億円相当のドル資産を持つことになるわけだが、自社の従業員に支払う給与は日本円建てだ。また、日本国内で投資をする場合であっても、日本円が必要になる。
A社が給与支払いや国内投資のために、対外資産であるドルを日本円に両替しようとすると、円への需要が増える。すなわち、円高ドル安になる。
中国などは、上記の経常収支黒字を通貨当局(中国人民銀行)がせっせと買い取り、人民元高を防いでいる。それに対し、基本的に変動相場制の日本は為替介入をしないため、経常収支黒字拡大で日本円の需要が増え、円高(外貨安)になっているわけだ。
経常収支黒字の中身は、主に貿易・サービス収支の黒字であり、過去の直接投資(工場建設など)から得る収益(所得収支の黒字)だ。その国の国民経済の供給能力が強大で、自国民の需要を満たすのみならず、外国への輸出が増え、かつ海外直接投資からの収益が大きくなればなるほど、経常収支の黒字は膨らみ、通貨高になりやすい。
日本の経常収支の黒字は、バブル崩壊後のデフレ期に、逆に拡大していった。デフレで国内需要が冷え込み、国内の供給能力を外国に振り向けざるを得なかったことが主因であるが、いずれにせよ日本について「国民経済は強靭か、否か?」を考えた場合、答えは「他国と比べると相対的に強靭」という話になる。
すなわち、現在の日本はユーロ圏と比べて相対的に強靭な経済を維持しており、円高ユーロ安になっているわけだ。
また、為替レートの変動をもたらす要因の一つに、実質金利がある。実質金利とは「=名目金利-期待インフレ率」で計算される。
現在の日欧の実質金利を試算してみよう。期待インフレ率は、仮に現在のインフレ率として置いてみる。
日本の政策金利は0%で、インフレ率(消費者物価指数の対前年比変動率)は0.2%(11年6月時点、以下同)であるため、実質金利は-0.2%になる。それに対し、ユーロ圏の政策金利は1.5%、インフレ率は2.7%。すなわち、ユーロ圏の実質金利は-1.2%だ。実は、実質金利で見ると、日本の方がユーロ圏よりも金利は高くなっているのである。
結果、ユーロに比べて実質金利が高い日本円が買われるという話だ。
上記のポイントは日本の「インフレ率が低い」という部分だ。バブル崩壊後に消費者物価指数が急低下したとはいえ、さすがにユーロ圏全体のインフレ率は、日本ほどには低くはない。また、政策金利の引き上げも、ユーロ圏の景気深刻化を受け、1.5%で「打ち止め」になっている。
それに対し、日本は相変わらずデフレ基調を続けており、インフレ率はほぼゼロだ。デフレの一つの要因は、先にも書いた通り、国民経済が供給過剰、需要不足になっているためである。日本は国内の供給能力が需要と比べて大きすぎ、デフレで実質金利がユーロと比べて相対的に高くなってしまうため、円高ユーロ安が続くというわけである。
円高、外貨安に関する解説をする評論家の中には、中央銀行のマネタリーベースのみで説明する人が少なくない。無論、マネタリーベースの変動も為替レートに影響を与える。だが、マネタリーベースの変動のみでは、現在の極端な円高・ユーロ安の説明は難しい。
【図121-1 日米欧のマネタリーベースの推移(07年=1)】

出典:日本銀行、FRB、ECB
図121-1の通り、ECBのマネタリーベースは確かに日本よりは大きくなってはいるが、さすがにアメリカほどではない。07年基準で比較すると、日本のマネタリーベースが1.26倍、FRBが3.3倍、そしてECBが1.4倍である。
PIGS諸国などの国債買取の印象が強すぎ、ユーロ危機勃発以降のECBはマネタリーベースをひたすら拡大しているように思えるが、実際にはFRBほどではないのだ。そもそも、ECBの母体が「インフレ恐怖症」のブンデスバンク(ドイツ連邦銀行)であるため、それほどラディカルなインフレ促進策(デフレ対策)は取れないのである。
マネタリーベース「のみ」で為替レートが決定するのでは、さすがに07年以降の円急騰、ユーロ暴落の説明はできない。何しろ、07年、08年以降、ユーロは対日本円で四割も価値を下げたのである。
そもそも、インフレ率を最終的に決定するのはマネーストックであり、マネタリーベースではない。マネーストックは、中央銀行がどれだけマネタリーベースを拡大しても、お金が民間に貸し出され、信用創造の機能が働かなければ増えない。
FRBはリーマンショック以降、約9000億ドルのマネタリーベースを、2011年7月には2兆6815億ドルにまで拡大した。約三倍にベースマネーを増やしたわけだ。とはいえ、マネーストックの方は08年9月が8兆3112億ドルであるのに対し、11年7月は9兆3137億ドルである。二度の量的緩和を実施したとはいえ、わずかに1.1倍にしか、アメリカのマネーストックは拡大しなかったわけだ。現在のアメリカは(日本同様に)信用創造の機能が低下し、マネタリーベースがマネーストックを生み出す力が弱っているのである。
ユーロに話を戻すが、昨今のPIGS諸国をはじめとする財政危機により、ユーロ圏内の金融リスクは高まっている。財政危機に瀕した国々は、「対外負債の返済のために、対外負債を増やす」状況に至っており、長期金利は上昇中だ。
短期的には、先の解説の通り、実質金利は日本の方が上回っており、ユーロから円への両替が増える。長期投資(一年物以上)についても、
「とてもこんなリスクが高い国々に、投資などできない」
というわけで、やはりユーロから円への両替が増えるという話である。何しろ、現在のギリシャの一年債の利回りは、135%(書き間違いではない)を上回っているのだ。ギリシャは別格としても、世界の投資家が、
「ユーロで長期投資するなら、ドイツ。できれば、ユーロ以外の国に」
という投資コンセプトになって当たり前だ。ユーロの財政危機について、解決の道筋が見えない以上、いずれにしても今後も円高ユーロ安は続く。
今や世界屈指のハイリスク地域と化したユーロ圏からは、まずは隣国スイスへと資金が流出し、ユーロからスイス・フランへの両替が急増した。あまりのスイス・フラン高に耐えかね、スイス国立銀行が、
「為替レートがその水準を上回る場合は、無制限に外貨を購入する準備がある」
と宣言したのは、前々回(第119回 四天王)で解説した通りだ。
ユーロの現在の問題は、それぞれの加盟国の状況があまりに違いすぎ、一貫した金融政策が取れない点に尽きる。例えば、インフレ率一つとっても、ドイツが2.5%、フランスが2.4%、スペインが2.7%、イタリアが2.3%、ポルトガルが2.8%、アイルランドが1.0%、そしてギリシャが1.4%である(全て2011年8月時点)。
恐ろしいことに、典型的な貿易赤字国、高インフレ国であったギリシャのCPI上昇率が、対前年比で1.4%に下がってしまっているのだ。すなわち、ギリシャのデフレ化という、尋常でない事態が目前に迫っているのである。ギリシャは長年、貿易赤字を続け、インフレ率は10%を上回ることが普通だった。それほどまでに供給能力が小さいギリシャの消費者物価指数がゼロに近づいているということは、国内の需要が極端に縮小しているとしか考えられない。
また、アイルランドのCPI上昇率も対前年比で1%と極めて低いが、同国の09年、10年はデフレになっていた。すなわち、CPI上昇率がマイナスで推移していたわけだ。
ようやくデフレから抜け出しかけたアイルランド、およびデフレ化目前のギリシャの両国は、財政危機を解決するために緊縮財政を強いられている。とはいえ、ここまで需要が縮小している環境下における緊縮財政は、単に両国の税収を減らし、更なる財政悪化を呼び込むだけの結果に終わるだろう。
そうなると、またもやユーロ圏の財政危機がクローズアップされ、長期金利は上昇し、お金がドイツおよび日米スの四天王(国債金利が超低迷している四カ国)に逃げていく。
結局のところ、今年から2012年にかけた円の対ユーロレートは、上昇することはあっても、下落することはまず考えられない。唯一、日本が財政政策と金融政策のパッケージという「正しいデフレ対策」を実施し、インフレ率が上向けば、実質金利低下により円高は抑制されるだろう。とはいえ、現実の日本の政権は「正しいデフレ対策」には見向きもせず、増税路線を邁進している。
こうなると、日本円の対ユーロレートは早々に1ユーロ=100円を切ることになるだろう。とはいえ、07年や08年に「ユーロこそ、次なる基軸通貨である」などと無責任に煽った日本の評論家たちは、別に責任を取るわけではないという話である。
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