欧米に蔓延する緊縮財政論:スティグリッツ
2011-09-18
米国に発した金融恐慌を軟着陸させるために、欧米ともに大量の流動性供給を行うととも、財政出動を行ってきた。
欧米ともに、今年始めころから財政赤字の増大を批判する、財政破綻論が猛威を振るい始めており、北大西洋を挟んで、この緊縮財政思想が伝播している。
「資本主義のイデオロギー危機:スティグリッツ」、「世界経済を壊す財政再建原理主義者ども」、「世界の死を招く超緊縮財政」。
実体経済を端的に表すのは、株価ではない。実体経済を端的に表すのはGDP、雇用と賃金総額、マネーストックの拡大率(信用乗数)である。
未だ、実体経済が回復していない中で財政出動を抑えて、金融緩和のみを行っても、資金は完全に投機市場に向かうのみとなるだろう。
つまり、実体経済が成長しない中で財政出動を抑えて、金融政策のみとなることは、民間資金需要が無いので与信機能の喪失、勤労者収入の減少、失業増大、もちろんGDPは伸びない。
「流動性の罠にかかった欧米、そして日本」。
欧米ともに、まだ日本のようなデフレスパイラルにははまり込んでいないが、失業を含めて賃金総額が減少傾向になるとデフレの縮小循環に落ち込みことになるだろう。
既に、有効需要の減少によって、米国、ドイツ、スイスは、ほぼ日本並みの超低金利になっている。失業率はまるで回復していない、どころかフードスタンプの受給者が激増している。
「なぜデフレなのか、なぜ放置しているのか」、「通貨戦争(36)米国経済の悪化は必至、沸騰する世界」、そして、緊縮財政論米国共和党支持者の勘違い「大勘違いは大間違いの元」。
財政出動を抑え込むと、日本同様のデフレに突入するのは必至だろう。
ただ、異なる点は供給した過剰流動性を吸い上げていないので、デフレ状況と通貨価値の減価が同時に進行すると言う恐ろしい事態の可能性が高い。
日本に続いて、ヨーロッパと米国がこのような状態になったら、実体経済の世界恐慌と言ってよい状態になるだろう。
途上国はもちろん、新興国も完全に巻き込まれる世界恐慌である。
緊縮財政論は、世界経済において危険思想である。
欧州とアメリカに互いに伝播する“間違った考え” スティグリッツ 9/15 ダイヤモンド・オンライン (文中太字はもうすぐ北風による)
2008年のグレートリセッションは北大西洋リセッションへと姿を変えている。低成長と高失業にはまり込んでいるのは主要新興市場ではなく、主としてヨーロッパとアメリカだ。
しかも、壮大な崩壊という終局に向かっているのはヨーロッパとアメリカだけだ。バブルの崩壊が巨額のケインズ流景気刺激策につながり、それは景気後退がはるかに深刻になるのを防ぎはしたが、かなりの財政赤字を生み出すことにもなった。
それへの対応、すなわち大幅な歳出削減により、受け入れがたいほど高水準の失業(莫大な資源のムダと苦しみの過剰供給)が――場合によっては何年も――続くことが確実になっている。
欧州連合(EU)は、財政危機にある加盟国を支援することをようやく決意した。EUに選択の余地はなかった。財政不安がギリシャやアイルランドのような小国からイタリアやスペインのような域内の大国に広がる恐れが出てきて、ユーロの存続そのものが次第に危うくなっていたからだ。
ヨーロッパの指導者たちは、財政危機に陥っている国々の債務はその国の経済が成長しない限り対処できないこと、そしてその成長は支援なしでは実現できないことを認識したのである。
だが、彼らは支援を約束すると同時に、非危機国は歳出を削減しなければならないという考えをさらに強めた。その結果取られる緊縮政策は、ヨーロッパの成長を妨げ、したがってその最も困窮しているメンバーの成長を妨げるだろう。
なんといっても、貿易相手国の力強い成長ほど、ギリシャを助ける効果のあるものはないからだ。低成長は税収を悪化させ、緊縮政策が目指す財政再建という目標を損なうだろう。
危機の前の議論は、経済のファンダメンタルズを立て直す策がほとんど取られてこなかったことを示していた。あらゆる資本主義経済に欠かせないこと――破綻した、すなわち支払い不能になった経済主体の債務の再編――に欧州中央銀行(ECB)が猛反対したことは、欧米の銀行システムが依然として脆弱であることをはっきり物語っていた。
ECBが読み違えたギリシャの債務問題
ECBは、ギリシャの不良ソブリン債務は全額納税者が肩代わりするべきだと主張した。民間部門の関与(PSI)はいかなるかたちのものであれ「クレジットイベント(信用問題)」を引き起こし、それはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の巨額の支払いを余儀なくさせて、金融不安をさらに悪化させる恐れがあるという懸念からだ。だが、それがECBにとって真の懸念事項であるなら――ECBが民間の貸し手の代理を務めているだけではないのなら――ECBは当然、銀行の資本増強を要求するべきだった。
また、銀行が高リスクのCDS市場に参加するのを禁止するべきだった。CDS市場では、銀行の運命は、何をもってクレジットイベントとするかという格付け会社の判断に左右される。実際の話、先頃のブリュッセルでのサミットで、ヨーロッパの指導者たちが達成した前向きな成果は、ECBとアメリカの格付け会社の両方を制御するプロセスを開始したことだった。
実際、ECBの立場で最も奇妙である点は、債務再編はクレジットイベントに該当すると格付け会社が判定した場合には、再編後の国債は担保として認めないと脅しをかけたことだ。再編の目的は、ひとえに債務を一部免除して残りの債務をより対処しやすくすることにあった。国債が再編前に担保として適格であったなら、再編後はより安全になっているはずであり、したがって等しく適格なはずだった。
このエピソードは、中央銀行が政治課題を持つ政治機関であること、また独立性を保っているはずの中央銀行が自身の規制対象である銀行に支配される傾向があること(少なくともそう「認識」されること)を、あらためて思い知らせるものだ。
アメリカの収縮不安
大西洋の向こう側でも事態は似たり寄ったりだ。アメリカでは極右勢力が連邦政府を閉鎖させると脅しをかけており、ゲーム理論が主張していることを裏づけている。つまり、自分たちの主張が通らなければ見境なく破壊に情熱を注ぐ人びとが分別のある人びとと対決したら、前者が勝つということだ。
そのため、バラク・オバマ大統領は、増税をまったく伴わないバランスを欠いた債務削減策に不本意ながら同意した。過去20年間大儲けしてきた億万長者に対してさえ増税せず、経済効率を損ない環境悪化を助長している石油会社への税制優遇措置を廃止することさえしない策である。
アメリカはソブリンデフォルトを防ぐために債務上限を引き上げたが、楽観論者たちは短期的なマクロ経済への影響は限定的――来年度の歳出削減額は約250億ドル――と主張している。だが、(1000億ドル以上のカネを普通のアメリカ人の懐に戻した)所得税減税は延長されなかったし、金融機関は間違いなく、将来の収縮的影響を予想して融資をさらに渋るようになるだろう。
景気刺激策の終了自体が収縮的影響をもたらす。加えて、住宅価格が引き続き下落し、GDP成長率が低下し、失業率が依然として高止まりしている(フルタイムの仕事を望んでいるアメリカ人の6人に1人が、いまなおそうした仕事に就けないでいる)なか、必要なのは――財政再建のためにも――緊縮政策ではなく、さらなる景気刺激策である。赤字を増大させる最も重要な要因は経済成長の弱さによる税収の伸び悩みであり、したがって最善の処方はアメリカを成長軌道に戻すことだ。債務問題に関する先頃の合意は、間違った方向への動きである。
欧米間の金融危機の伝播についてはずいぶん懸念されてきた。なんといっても、アメリカの金融不始末がヨーロッパの問題を引き起こすうえで重要な役割を演じたのであり、ヨーロッパの金融不安は――とりわけアメリカの銀行システムの脆弱さと不透明なCDS市場に銀行が引き続き参加していることを考えると――アメリカに好影響はもたらさないだろう。
だが、真の問題は別の伝播から生じる。間違った考えは簡単に国境を越えて広まるもので、大西洋の両側の間違った経済政策は互いに補強し合ってきた。それらの政策がもたらす停滞も同様に補強し合うことになるだろう。
(翻訳・藤井清美)
欧米ともに、今年始めころから財政赤字の増大を批判する、財政破綻論が猛威を振るい始めており、北大西洋を挟んで、この緊縮財政思想が伝播している。
「資本主義のイデオロギー危機:スティグリッツ」、「世界経済を壊す財政再建原理主義者ども」、「世界の死を招く超緊縮財政」。
実体経済を端的に表すのは、株価ではない。実体経済を端的に表すのはGDP、雇用と賃金総額、マネーストックの拡大率(信用乗数)である。
未だ、実体経済が回復していない中で財政出動を抑えて、金融緩和のみを行っても、資金は完全に投機市場に向かうのみとなるだろう。
つまり、実体経済が成長しない中で財政出動を抑えて、金融政策のみとなることは、民間資金需要が無いので与信機能の喪失、勤労者収入の減少、失業増大、もちろんGDPは伸びない。
「流動性の罠にかかった欧米、そして日本」。
欧米ともに、まだ日本のようなデフレスパイラルにははまり込んでいないが、失業を含めて賃金総額が減少傾向になるとデフレの縮小循環に落ち込みことになるだろう。
既に、有効需要の減少によって、米国、ドイツ、スイスは、ほぼ日本並みの超低金利になっている。失業率はまるで回復していない、どころかフードスタンプの受給者が激増している。
「なぜデフレなのか、なぜ放置しているのか」、「通貨戦争(36)米国経済の悪化は必至、沸騰する世界」、そして、緊縮財政論米国共和党支持者の勘違い「大勘違いは大間違いの元」。
財政出動を抑え込むと、日本同様のデフレに突入するのは必至だろう。
ただ、異なる点は供給した過剰流動性を吸い上げていないので、デフレ状況と通貨価値の減価が同時に進行すると言う恐ろしい事態の可能性が高い。
日本に続いて、ヨーロッパと米国がこのような状態になったら、実体経済の世界恐慌と言ってよい状態になるだろう。
途上国はもちろん、新興国も完全に巻き込まれる世界恐慌である。
緊縮財政論は、世界経済において危険思想である。
欧州とアメリカに互いに伝播する“間違った考え” スティグリッツ 9/15 ダイヤモンド・オンライン (文中太字はもうすぐ北風による)
2008年のグレートリセッションは北大西洋リセッションへと姿を変えている。低成長と高失業にはまり込んでいるのは主要新興市場ではなく、主としてヨーロッパとアメリカだ。
しかも、壮大な崩壊という終局に向かっているのはヨーロッパとアメリカだけだ。バブルの崩壊が巨額のケインズ流景気刺激策につながり、それは景気後退がはるかに深刻になるのを防ぎはしたが、かなりの財政赤字を生み出すことにもなった。
それへの対応、すなわち大幅な歳出削減により、受け入れがたいほど高水準の失業(莫大な資源のムダと苦しみの過剰供給)が――場合によっては何年も――続くことが確実になっている。
欧州連合(EU)は、財政危機にある加盟国を支援することをようやく決意した。EUに選択の余地はなかった。財政不安がギリシャやアイルランドのような小国からイタリアやスペインのような域内の大国に広がる恐れが出てきて、ユーロの存続そのものが次第に危うくなっていたからだ。
ヨーロッパの指導者たちは、財政危機に陥っている国々の債務はその国の経済が成長しない限り対処できないこと、そしてその成長は支援なしでは実現できないことを認識したのである。
だが、彼らは支援を約束すると同時に、非危機国は歳出を削減しなければならないという考えをさらに強めた。その結果取られる緊縮政策は、ヨーロッパの成長を妨げ、したがってその最も困窮しているメンバーの成長を妨げるだろう。
なんといっても、貿易相手国の力強い成長ほど、ギリシャを助ける効果のあるものはないからだ。低成長は税収を悪化させ、緊縮政策が目指す財政再建という目標を損なうだろう。
危機の前の議論は、経済のファンダメンタルズを立て直す策がほとんど取られてこなかったことを示していた。あらゆる資本主義経済に欠かせないこと――破綻した、すなわち支払い不能になった経済主体の債務の再編――に欧州中央銀行(ECB)が猛反対したことは、欧米の銀行システムが依然として脆弱であることをはっきり物語っていた。
ECBが読み違えたギリシャの債務問題
ECBは、ギリシャの不良ソブリン債務は全額納税者が肩代わりするべきだと主張した。民間部門の関与(PSI)はいかなるかたちのものであれ「クレジットイベント(信用問題)」を引き起こし、それはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の巨額の支払いを余儀なくさせて、金融不安をさらに悪化させる恐れがあるという懸念からだ。だが、それがECBにとって真の懸念事項であるなら――ECBが民間の貸し手の代理を務めているだけではないのなら――ECBは当然、銀行の資本増強を要求するべきだった。
また、銀行が高リスクのCDS市場に参加するのを禁止するべきだった。CDS市場では、銀行の運命は、何をもってクレジットイベントとするかという格付け会社の判断に左右される。実際の話、先頃のブリュッセルでのサミットで、ヨーロッパの指導者たちが達成した前向きな成果は、ECBとアメリカの格付け会社の両方を制御するプロセスを開始したことだった。
実際、ECBの立場で最も奇妙である点は、債務再編はクレジットイベントに該当すると格付け会社が判定した場合には、再編後の国債は担保として認めないと脅しをかけたことだ。再編の目的は、ひとえに債務を一部免除して残りの債務をより対処しやすくすることにあった。国債が再編前に担保として適格であったなら、再編後はより安全になっているはずであり、したがって等しく適格なはずだった。
このエピソードは、中央銀行が政治課題を持つ政治機関であること、また独立性を保っているはずの中央銀行が自身の規制対象である銀行に支配される傾向があること(少なくともそう「認識」されること)を、あらためて思い知らせるものだ。
アメリカの収縮不安
大西洋の向こう側でも事態は似たり寄ったりだ。アメリカでは極右勢力が連邦政府を閉鎖させると脅しをかけており、ゲーム理論が主張していることを裏づけている。つまり、自分たちの主張が通らなければ見境なく破壊に情熱を注ぐ人びとが分別のある人びとと対決したら、前者が勝つということだ。
そのため、バラク・オバマ大統領は、増税をまったく伴わないバランスを欠いた債務削減策に不本意ながら同意した。過去20年間大儲けしてきた億万長者に対してさえ増税せず、経済効率を損ない環境悪化を助長している石油会社への税制優遇措置を廃止することさえしない策である。
アメリカはソブリンデフォルトを防ぐために債務上限を引き上げたが、楽観論者たちは短期的なマクロ経済への影響は限定的――来年度の歳出削減額は約250億ドル――と主張している。だが、(1000億ドル以上のカネを普通のアメリカ人の懐に戻した)所得税減税は延長されなかったし、金融機関は間違いなく、将来の収縮的影響を予想して融資をさらに渋るようになるだろう。
景気刺激策の終了自体が収縮的影響をもたらす。加えて、住宅価格が引き続き下落し、GDP成長率が低下し、失業率が依然として高止まりしている(フルタイムの仕事を望んでいるアメリカ人の6人に1人が、いまなおそうした仕事に就けないでいる)なか、必要なのは――財政再建のためにも――緊縮政策ではなく、さらなる景気刺激策である。赤字を増大させる最も重要な要因は経済成長の弱さによる税収の伸び悩みであり、したがって最善の処方はアメリカを成長軌道に戻すことだ。債務問題に関する先頃の合意は、間違った方向への動きである。
欧米間の金融危機の伝播についてはずいぶん懸念されてきた。なんといっても、アメリカの金融不始末がヨーロッパの問題を引き起こすうえで重要な役割を演じたのであり、ヨーロッパの金融不安は――とりわけアメリカの銀行システムの脆弱さと不透明なCDS市場に銀行が引き続き参加していることを考えると――アメリカに好影響はもたらさないだろう。
だが、真の問題は別の伝播から生じる。間違った考えは簡単に国境を越えて広まるもので、大西洋の両側の間違った経済政策は互いに補強し合ってきた。それらの政策がもたらす停滞も同様に補強し合うことになるだろう。
(翻訳・藤井清美)
- 関連記事
-
- 金持増税してくれと言わない日本の億万長者ども (2011/10/04)
- 金(gold)のバブルは崩壊し始めた (2011/09/28)
- アメリカとIMFの秘密を暴露したプーチン (2011/09/28)
- 国の不幸の長期化は霞が関ビジネスか (2011/09/22)
- 勤労者の窮乏化は恐慌への道づくり (2011/09/20)
- 欧米に蔓延する緊縮財政論:スティグリッツ (2011/09/18)
- 大勘違いは大間違いの元 (2011/09/14)
- なぜデフレなのか、なぜ放置するのか (2011/09/10)
- デマ世論と犯罪的な対米献金 (2011/09/04)
- 16兆1千億ドルを金融資本に融資したFRB (2011/09/02)
- 増税ボーイ:山崎元 (2011/09/01)