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もうすぐ北風が強くなる

通貨戦争(39)下落してもドルは延命する

 ドルは一貫して下落を続けるが、基軸通貨の地位は変わりようがない。
 逆に基軸通貨であるが故に、下落は急落に直結しない。ドル自体が世界の金融流通を保証しているからである。
 関連としては「莫大な金融緩和によって金融資本家だけが焼け太り」、「実体経済を破壊して焼け太りを狙う国際金融資本」、「流動性の罠にかかった欧米、そして日本」を御覧ください。
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それでもドルは延命する  ユーロ、人民元は身動きとれず   8/14  田村秀男

 1971年8月15日、ニクソン米大統領(当時)はドルと金(きん)の交換を停止すると宣言した。ただの紙切れになった基軸通貨ドルは凋落(ちょうらく)どころか、米国は幾多の試練をくぐり抜け、世界の金融覇権国として増長に増長を重ねてきた。

 2008年9月15日にはリーマン・ショックに見舞われたが、米連邦準備制度理事会(FRB)がドルを危機前の3倍まで刷り、屑(くず)になりかけた金融商品を買い支えた。株価は1年前から上昇に転じたが、今回のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の米国債格下げをきっかけに株価とドル相場の急落が続く。

  国際金融市場を支配

 そこで、多くの読者は問うだろう。ドルは今度こそ基軸通貨の座から滑り落ちるのか、欧州共通通貨ユーロか中国人民元がドルにとって代わるのか、と。筆者の見方は、「ノー」である。なぜか。

 訳知り顔で言えば、米国は世界唯一の覇権国という、軍事や政治的要因があげられる。だがそれでは通貨をめぐる国際的な力学を見過ごしてしまう。

 最大の要因は、世界の通貨がことごとく紙切れにすぎない中でドル建ての金融商品は他通貨の金融商品を圧倒し国際金融市場を支配している点である。
 ドルは他通貨に対して下落しても、世界の投資家はドル建ての金融資産を見限るわけにいかない。例えば、金が高騰しているが、国際市場価格はドル建てである。ドルというマネーが株式から逃避しても、金、米国債など他のドル建ての金融資産に移動するだけで、ドル離れが起きているわけでは必ずしもない。

 ドルは日本円にも向かうのだが、円もまた金と同じくドル建ての国際商品として投資家に扱われている。日本株もウォール街の投資ファンドからはドル建てで換算されて売り買いされ、円高になれば売られる。逆に言うと、ドルなくして円も日本株も価値が決まらない。ドルは「腐っても鯛(たい)」なのだ。

 では、FRBがドル札をいくら刷っても大丈夫なのか。ドル安でもよいのだろうか。

  結局できるのはQE3

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 グラフは1960年代以降のFRBによるドル資金発行量の推移である。よくみると、FRBは金との結びつきを断ち切ったあとも、従来とほぼ同じペースを守ってきたのだが、「リーマン後」に清水の舞台から飛び降りた。
 米国史上前例のない勢いでお札を刷り増し、量的緩和第1弾(QE1)では紙屑になりかけた住宅ローン担保証券を、第2弾(QE2)では大量発行された米国債を買い上げた。
 ドル資金を手にしたニューヨーク・ウォール街の投資家たちは一部を株式インデックス投信に、残りは原油や円などの投機に向けた。FRBは株価押し上げ効果を自賛した。日本の一部は「基軸通貨危うし」と騒ぐが、オバマ政権は輸出増につながると評価してやまない。

 米国債格下げ後はどうか。財政面では、債務削減は即座には不可能で、結局できるのは、お札の増刷による金融資産買い取りしかない。量的緩和第3弾(QE3)である。だがドル安が急激に進めば、市場で出回っている米国債の約5割を保有する海外投資家が突如パニック売りに転じる恐れが出てくる。
 そのときが真の「ドル暴落」なのだが、ここでからんでくるのは欧州の財政・金融不安である。

 ユーロ加盟南欧諸国の政府債務問題がギリシャからスペイン、イタリアへと広がり、これら諸国の国債を保有する欧州の金融機関を揺さぶっている。そこでユーロを発行する欧州中央銀行はスペインとイタリアの国債を買い上げることにした。
 すると、ユーロ札発行は増えに増えるので、対ユーロ安によるドル全面安の恐れはない。FRBはドルをもっと刷れるだろう。

 米国債最大の保有国、中国はどう出るか。「米国債大量売却」となれば、ドル暴落の引き金を引くが、200兆円相当近くのドル資産の多くが失われ、胡錦濤指導部の責任問題になる。
 ドルに合わせて人民元相場を切り下げると損失は避けられるが、インフレが高進し、出稼ぎ農民や都市の中間層以下の不満を爆発させる。中国は米国債を売るわけにいかないのだ。

 以上、ドル凋落のシナリオはありそうで、そうならない。米欧に比べ、円を刷らない日本だけが、円の独歩高を止められず、デフレをさらにこじらせ、大震災からの復興をどこまでも遅らせる。

 40年前に世界通貨は紙切れの時代になってしまったのに、日本だけが発想転換できないで、おカネを刷らない。その結果、消費者も企業も財政も貧しくなるばかりだ。
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 下は、上記記事の補足。通貨と通貨、通貨と物価の関係。
 この関連は、「通貨戦争(37)財務省・日銀の窮乏化政策」、「通貨戦争(38)10年で価値が半分になった米ドル」を参照してください。 
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よみがえるフィッシャーの呪い   8/17 田村秀男

 物価とおカネの量を関連づけた貨幣数量説の祖、アーヴィング・フィッシャー教授(1867~1947)は「兌換(だかん)されない紙幣は、それを用いた国家を常に呪ってきた」と喝破した。

 1971年8月15日、ニクソン米大統領がドルと金(きん)の交換停止を宣言するや、世界の貨幣はことごとく不換紙幣と化した。
 以後、米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ主要国の中央銀行にとって、インフレの封じ込めが最大の懸案になった。フィッシャー教授の理論を継承したミルトン・フリードマン教授(1912~2006)は、金融政策が「海図なき航海」に乗り出したと論評し、インフレ抑制のために貨幣供給量を制限する政策を世界に広めた。インフレは抑え込まれた。
 92年以降、現在に至るまで米国の消費者物価の年間平均上昇率は高くても3%台におさまっている。

 だが、08年9月に「リーマン・ショック」が起きた。FRBのバーナンキ議長はインフレとは逆のデフレに陥るのを警戒し、ドル札をショック前の3倍まで増刷した。不換紙幣をいくら刷っても、インフレにはならなかった。
 が、実体景気はよくならないし、失業率も高止まりしたままだ。中央銀行は、インフレの恐怖という「フィッシャーの呪い」から解放されたのか。それとも、インフレにはならずとも景気もよくならないという新たな「呪い」をかけられたのか。

 不換紙幣とは紙切れの現金なのだが、預金、証券や証券化商品、いやありとあらゆる金融商品は現金化できるのだから、紙幣と同類のマネーである。「ニクソン声明」は紙幣を金融商品と同等のマネーに格下げしたのである。

 ならば、なんの気兼ねもしなくてよい。米金融業界は71年8月以降、証券化商品や金融派生商品(デリバティブ)など金融商品の多様化をワシントンに働きかける。
 90年代後半からは情報技術(IT)革命とグローバルな金融自由化の波に乗って、金融商品は爆発的に膨張したあげく、バブルとなって崩壊した。
 不換紙幣を金融商品と言い換えると、リーマン・ショックは呪われた結果と思える。

 どうすればよいか。不換紙幣をじゃんじゃん刷るのが、今のところ関の山であり、米国を筆頭に日本を除く主要国がそうしてきた。
 米国はドル暴落不安、中国は高インフレ懸念、欧州は財政危機に見舞われている。
 対照的に、お札を刷らない日本だけが超円高とデフレ・スパイラルに陥っている。

 各国は自らの実情に合った政策をとるしかないのだが、日本の場合、日銀が「インフレ」を気にし、財務官僚はデフレ容認・増税一点張りだ。
 だが、古典的な「呪い」はすでに姿を変え、古典的な対処法では間に合わなくなっている。マネー・パラダイム転換に目覚め、円高阻止と脱デフレに向けた政策に思い切って踏み出すときだ。
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100年かけても廃炉にできない可能性

 暗い事実です。
 しかし、現実です。
 そして、今も地面のあちこちの亀裂から高温の放射能が水蒸気の形で噴きだしています。
 地下での再臨界が疑われます。
 
Newsweek日本語版
福島原発は廃炉にできない

危険な廃棄物と化した原発は解体撤去もままならず、事故処理は今いる日本人が皆死んだ後まで続くかもしれない
2011年08月18日
千葉香代子(本誌記者)

[2011年7月27日号掲載]

 福島の一角で巨大な事故を起こした原発が不安を与え続けている。放射能の塊を早く取り除いてほしい──というのは、避難民や周辺住民のみならず、日本全体に共通した願いだ。汚染水を海に投棄したときに抗議した隣国や、地球の裏側なのに甲状腺の被曝対策として安定ヨウ素剤を買いあさった国があったことを考えれば、世界全体の願いと言ってもいい

 しかし放射性物質を外界に大量に放出した東京電力福島第一原発は、事故から4カ月を経た今になっても、撤去の前提となる原子炉の安定すらできずにいる。にもかかわらず、東電や政府関係者は確かな根拠があるとも思えない発言を続けている。

 政府と東電は先週末、当初の目標としてきた「原子炉の安定的な冷却」に到達したという見解をまとめた。菅直人首相は原発周辺の市町村長らに対し、来年1月の予定だった核燃料の熱を100度以下に安定させる冷温停止を「前倒しで実現できるよう頑張りたい」と語った。

 だが、冷却のために汚染水を浄化して循環させる「循環注水冷却」は6月末のスタートからトラブル続き。先週も循環する水の量が低下するトラブルでシステムを一時停止した。

 核燃料棒が溶けて塊になったり炉外へ溶け出していた場合、冷温停止が困難を極めることは、多くの専門家の一致した意見だ。燃料に水を行き渡らせ、効率的に冷やすことが難しいからだ。

 福島原発の最終的解決は、すべての元凶である核燃料と放射性物質を取り除き、原発を解体撤去する廃炉の実現にある。だが、それが実現するのはいつなのか。政府は内閣府原子力委員会の中に廃炉検討チームを設置する方針だ。廃炉に向けた政府と東電の中長期の工程表も近く明らかにされるだろう。

 だが政府と東電は事故以来、事態が収束に向かっているように見せることにひたすらエネルギーを注いできた。メルトダウン(炉心溶融)はおろか、それより深刻なメルトスルー(溶融貫通)が起きていたことも、3カ月たってやっと認めたほどだ。公表される廃炉スケジュールが「最悪の事態」を踏まえたものになるとは考えにくい。

 前例のない事故を起こした福島第一原発には、今から廃炉に至るまでの過程にどんな専門家も答えを知らない技術的難題が山積している。廃炉には、事故を起こさなかった普通の原子炉でも30年程度の時間がかかる。原子力委員会は福島の廃炉に要する時間を「数十年」と評しているが、この「数十年」は限りなく100年に近い、あるいは100年以上と考えたほうがいいかもしれない

   建設より厄介な廃棄作業

 福島第一は破壊の程度がひどいため、事故処理にはほぼ永遠と言っていい時間がかかるだろうと、京都大学原子炉実験所の小出裕章助教は言う。チェルノブイリ原発の石棺のように巨大な構造物で建屋を覆った上、作業員の被曝を避け、放射性物質が外に漏れ出さないよう監視しながらの作業が必要だ。「いま生きている日本人は誰一人、その終わりを見ることはないのではないか」と、小出は言う。

 福島第一は廃炉にもできず、放射能を閉じ込めた「悲劇のモニュメント」として半永久的に残る──その可能性すら、政府や東電はまだ認めていない。

 そもそも廃炉は原発から使用済み燃料を取り出し、構造物を解体撤去して更地に戻す廃棄作業だ。原発を造るより長い時間と労力と巨額の費用が掛かる。

 6月に国民投票で脱原発を決めたイタリアでは、90年に停止が決まった福島と同じ型のカオルソ原発など4基の廃炉に取り組んでいる。作業は2020年頃に完了する予定で、その費用は約7000億円に上る。福島の場合、コストはその何倍にも膨らむはずだ。

 廃炉は、これを請け負う原子力業界にとってはビジネスチャンスだ。世界的な脱原発の流れも受けて、今後大きな市場になるとみられている。「だが、福島だけは誰も手を出したがらないだろう」と、コンサルティング会社ブーズ・アンド・カンパニーでエネルギー問題を担当するパウル・デュールローは言う。「爆発した原発の廃炉が技術的に可能なのかどうかも分からない」

 廃炉で最も重要なのは、核燃料を取り出すことと、高濃度から低濃度まで放射能に汚染された廃棄物を処理することだ。

 原発が冷温停止した後、放射線レベルが下がるのを何年も待ち、低濃度のものから徐々に解体して最後に原子炉を撤去する。その際、染み付いた放射性物質を分離・分類し、不純物を取り除いた上、種類別にまとめて密閉容器に閉じ込めなければならない。放射能を周囲に広げないための、原子レベルの超ハイテク技術だ。

 だが爆発した原発の廃炉は、これまで誰も経験がない。86年に爆発したチェルノブイリは廃炉にできず、今も放射能レベルが下がるのを待ち続けている。設置から40年を経てコンクリートが浸食され、石棺はもはやボロボロの状態だ

   日本版チェルノブイリに

 普通に運転停止した原発であれば燃料棒を束ねた燃料集合体を取り出せば済むし、周囲の汚染も大したことはないと、かつて東芝で原子炉格納容器の設計をしていた後藤政志は言う。

 だが福島第一の場合は、大量の放射性物質が格納容器の外に漏れ出て、建屋内部が放射能まみれになった。「もはや普通の廃炉という概念は当てはまらない」と、後藤は言う。燃料集合体は溶けてチーズのようになり、どこに流れ出したかも分からない。周囲は壁まで放射能が染み付いている。この状態からどうやって放射性物質を取り出すのか、もはや誰にも分からない。

 物理的な障害も少なくない。炉のふたに据え付けられている開閉用のクレーンは既に吹き飛び、金属製のふたそのものも熱で変形していると考えられている。ふたを開けるためだけに、専用クレーンを一から開発しなければならない。

「福島は廃炉にできない」と、後藤は言う。英科学誌ネイチャーは先週、専門家の見解に基づく記事で、数十年から場合によっては100年かかるとの見方を示した。損傷した燃料を含めて原子炉内の放射性物質の除去に長い時間がかかることなどがその理由だ。記事は、放射能汚染の除去作業が2065年まで続くチェルノブイリと似た状況になるだろうと指摘している。

 福島第一原発の危機は、まだ現在進行形である可能性もある。メルトスルーしたウラン溶融体が、地下深くに潜っていって地下水を汚染する危険性を京大の小出は警告し続けている。逆に炉心のすべてが崩壊していない場合は、これからさらにメルトダウンが発生して水蒸気爆発が起きる可能性もまだ否定し切れないという。

 いずれの場合でも、今とは桁違いの放射能汚染が広がることになる。廃炉もますます遠のくだろう。

 事故の終わりは当面期待できず、待っているのは巨大廃棄物との果てしない戦いだけかもしれない。
 汚染された原発周辺の土壌を完全に元に戻す技術も、人類は持ち合わせていない。
 どれだけ巨大なふたで覆ったとしても、「悲劇のモニュメント」は今後数代にわたって日本人を脅かし続ける。
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食品の生涯100mcvの意味と児玉教授発言

 関連するページは次のものです。
 衆議院参考人発言全文「東大アイソトープ児玉教授の怒り
 上記の質疑応答「児玉教授質疑応答!

食品安全委員会が初公表した規制値の今後の目安
生涯100ミリシーベルトの意味をよく考えてみよう
  坪井賢一 8/17 ダイヤモンド・オンライン
――福島原発震災 チェルノブイリの教訓(14)

 7月の第4週に2つの重要な議論が政府の食品安全委員会と衆議院厚生労働委員会で行なわれ、すぐに公表された。2つとも福島原発震災によって放出された放射性物質の影響に関わる大きな問題である。

 1つは、食品安全委員会がまとめた食品健康影響評価書案である。食品安全委員会は、3月11日の福島原発事故後、セシウムの食品における暫定規制値を1キログラム当たり500ベクレルとしている(詳しくは連載第4回を参照)。これは5mSv/y(年間5ミリシーベルト)におさまるように設定された数値である。
 食品、つまり内部被曝による影響を5mSv/yとするもので、ICRP(国際放射線防護委員会)が勧告している一般公衆の年間被曝1mSv/yより高い。重大事故による緊急事態であることを考慮し、5mSvまで引き上げた暫定規制値である。

 7月26日に食品安全委員会が公表した評価書案は、長期的な規制値をどうするか答申し、今後、パブリックコメントを集めて最終的に確定することになる。

 この評価書案では、生涯累積被曝線量を100mSvとした。以下、その根拠を小泉直子・食品安全委員会委員長のメッセージから引用しつつ解説する。

「この値(生涯100mSv)はあくまで食品のみから追加的な被ばくを受けたことを前提としていますが、この根拠となった科学的知見については、収集された文献に内部被ばくのデータが極めて少なく評価を行うには十分ではなかったため、外部被ばくも含まれた現実の疫学のデータを用いることとしました。

 累積線量としておよそ100mSvという値は、生涯にわたる追加的な被ばくによる線量の合計がこの値を超えた場合に、この被ばくを原因とした健康上の影響が出る可能性が高まるということが統計的に示されているもので、大規模な疫学調査によって検出された事象を安全側に立って判断された、おおよその値です。文献において、明らかに健康上の影響が出始めると考えられる数値的データは錯綜していましたが、この値は、それらも踏まえて検討されたものです。累積線量としておおよそ100mSvをどのように年間に振り分けるかは、リスク管理機関の判断になります」

 つまり、外部被曝と内部被曝を合わせて生涯の被曝限度を100mSvとなるように食品規制値を作成しようというものである。

 累積線量で100mSv以上を確定的影響(ガンが0.5%増加)、100mSv以下の低線量被曝の影響は解明されていないが、ゼロから確率的に増加するという仮説を確率的影響と定義しているのが「ICRP勧告」(最新は2007年版)である。

 したがって、人生を85年とすれば、生まれたばかりの子どもについては年間1.18mSvとなるから、「リスク管理機関」に言われずともわかる。

 これは、ICRPが一般公衆の年間被曝限度を1mSvとしている放射線防護の考え方に近く、むしろ「ICRP勧告」を追認したともいえよう。この数値に基づいて食品ごとに振り分け、放射性物質の規制値を決めていくのが厚生労働省の仕事になる。内部被曝と外部被曝の合計だから、食品に関しては相当厳しい数値になるだろう。

 実際問題、現状の東北・関東地方の放射線濃度が続けば、福島県だけでなく、首都圏を含む東日本全域でこの厳しい数値は守れないだろう。

 現在、文部科学省は、「ICRP勧告」に基づいて、重大事故緊急時の一般公衆被曝量を20-100mSv、事故収束時を1-20mSvとしている。そして、緊急時の下限、収束時の上限である20mSv/yを強制避難の基準としている。

 したがって、収束段階にいたっていない現在、1mSvは不可能であることはわかる。しかし、東京電力が工程表を作成しているように、厚生労働省や文部科学省も、1mSvへいつまでに、どのように引き下げていくのか国民に示す必要があるだろう。

 食品安全委員会の評価書案発表と委員長メッセージは、工程表作成を促す意味でも非常に重要で、大きな指針となるものである。食品安全委員会も緊急時には上限を引き上げている。現行の暫定規制値がまさにそうだ。

 福島県だけでなく、首都圏でも同様だ。千葉県東葛地区の放射線量は他の首都圏各地より一桁高いが、同じように、累積1mSvへ引き下げるために何をいつまでにどうすべきかを公表する義務がある。義務があるのは自治体である。

 もっとも、政府がなんら指針を出さないため、困惑しているであろうことは類推できる。

 相変わらず自治体のホームページには次のような説明が掲げられている。

 「計測の結果、これまでの測定では福島県内の学校の校舎・校庭などの利用判断における暫定的な目安である毎時3.8マイクロシーベルト(4月19日文部科学省発表)や、放射線量低減のための土壌対策の対象となる毎時1マイクロシーベルト(5月27日文部科学省発表)を下回っており、平常の生活をしても差し支えないものと考えております。」

 この連載で何度も書いているが、3.8μSv/hは20mSv/yを換算したもので、避難する基準になってしまう。つまり、「安全」と「避難」しかないわけだ。自治体は政府からこの基準しか与えられていないため、他に考えようとしない。

 食品安全委員会の評価書案を見ればわかるように、可能な限り早く1mSvへ近づける方策を考えるべきであり、工程表を作成したほうがよい。

   さて、ここで議論を混乱させているのが放射線専門家集団である。

 筆者がここまで書いてきた計数は、ICRPや日本医学放射線学会が書いている計数でもある。ところが、専門家によってはまったく違うことを発言している。

 多くの放射線専門家の反論は以下のようなものだ。

① 放射線防護の制度上、一般公衆の1mSv/yはそのとおりだが、健康への放射線影響を考えると、1mSv/yは危険水準ではない
② 確定的影響が出現する累積100mSvまでは何も問題ない
③ 放射線の健康リスクを厳しくみるのはいいが、他のリスク、たとえば避難の経済的リスク、転地した場合の精神衛生上のリスクなどを総合的に考えて判断すべきだ

 ざっとこんな具合だ。①は当たり前で、そんなことは分かっている。制度上の上限を議論しているのだ。②は、正しくは「わからない」だが、ここでさまざまな自説を開陳する専門家が多い。

 問題は③で、要するに国民はリスクと便益(ベネフィット)を総合的に考えることができないから、1mSvという非常に低い水準を危険だと捉えてしまう。国民には専門的な議論は理解できない、困ったものだ、というのである。

 国民は放射線専門家が想像しているほど馬鹿ではない。資本主義市場経済はリスクとリターンに支配されており、社会人ならばだれでもそのように行動している。学者は違うかもしれないが。

 専門家がわかっていないのは、原発事故による放射能汚染とは、まったくベネフィットのないリスクであり、通常の社会生活におけるリスクに、上から覆いかぶさったとんでもなく馬鹿げたリスクだということだ。

 ICRPが1mSv/yという厳しい数値を置いているのは、一般公衆にとってリターンが何もないリスクだからだ(原発作業者の限度量をはるかに高くしているのは給料というリターンがあるからである)。

 自然災害もリターンのないリスクだが、原発事故は天災ではない。事故の想定を甘く見ていた専門家の責任である。

「クルマを運転して事故にあうリスクがあるのに、人々はクルマを運転している。それに比べればこの程度の放射線リスクはたいしたことない」と、ある専門家が発言しているのを聞いて驚いた。クルマを運転するのはリスクがあるが、それ以上のリターンがあるからに決まっている。

 さすがに最近は、電気のベネフィットがあるだろう、という専門家はいなくなってきた。これまで「原発は絶対安全」といってきたわけだから、本来リスクフリーだったのである。

 こんな発言もどこかで読んだぞ。

「だれでも飛行機に乗る。その際、リスクの高い航空会社を避ける。最後はリスクを取って搭乗する。放射線リスクと避難の経済的リスクを総合的に考えるのは同じことだ。」

 飛行機に乗ることと原発事故の放射線リスクを比較すること自体バカバカしいが、市民が放射線リスクと他のリスクを比較しないのは、放射線リスクにはリターンが何もないので、リスクのポートフォリオをつくることができないからだ。

   では、どうすれば市民は安心できるのだろうか。

 初めて明確に答えてくれた専門家が以下に紹介する児玉龍彦・東京大学先端科学技術研究センター教授である。

 7月27日の衆議院厚生労働委員会に参考人として出席した6人の専門家の一人である。児玉氏の発言はインターネット上で話題となった。すでに発言を読んだりビデオを見た読者も多いだろう。


 児玉氏の発言のポイントをまとめると次のようになる(6人全員の速記全文が国会のホームページで公開されている

児玉龍彦教授 発言のポイント

① 福島原発から放出された放射性物質の総量がわからない。未公表のままなのはおかしい

② 熱量からの推計放出量は広島原発の29.6個分、ウラン換算で20個分

③ 原発からの放射性汚染物は原爆からのものよりも長く、多く残存することになる

④ 食品、土壌、水の検査に最新鋭のイメージング測定器を投入し、抜本的に検査を改善すること。日本の科学技術力で可能なことで、まだまったく行われていないことに、私は満身の怒りを表明する

⑤ 内部被曝では、ミリシーベルトに換算しても無意味。例えばセシウムは尿管上皮や膀胱に集まるため、集積点を計測しなければ意味がない

⑥ 放射線が特定の遺伝子を損傷し、20-30年後にガンを発生させることがわかってきている。疫学調査で統計学的に解明できるまでに20年とすれば、間に合わない。

⑦ 学問論争(筆者注・専門家の意見の相違)に対して厚生労働委員会(政治家)が結論を出す必要はない。国民の健康を守るために何ができるか考えて。広島原爆の20倍という膨大なセシウム137が飛散している事態に対して、積極的な対応を願いたい

⑧ 住民が戻る気になるのは、行政が測定し、除染している地域だ。何もやらずに「安全だ」といわれても信頼できない。数値ではなくて、最新の技術で測定し、最新の技術で除染に全力をあげる自治体が安心なのだ

 児玉教授の発言で驚いた点は、まず⑤と⑥で、内部被曝の影響を分子生物学のレベルで検証していることだ。遠い将来に疫学調査を始めてから統計学的優位性を検証する、という考え方が陳腐に思えた。

 次に、⑦である。何ミリシーベルトまでは安全、というような議論も馬鹿馬鹿しくなる。分子レベルの観察こそ重要だとわかった。

 最後に⑧。住民が本当に安心できるのは、「さまざまなリスクを総合的に判断せよ」と言う経済学を知らない放射線専門家の助言ではなくて、行政が最新鋭の技術で計測・除染する地域こそ安心だという指摘である。児玉教授の発言は、多くの人々の目を見開かせてくれたのである。
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