核燃料は本当に冷却しているのか
2011-07-27
1、2、3号機の原子炉の核燃料はメルトダウンし、メルトスルーしているらしいとの発表。
3号機の使用済み核燃料プールは爆発で吹き飛び、核燃料は飛散して殆んど残っていない。
共用プールまでがふつふつと煮えたぎり蒸気を噴出している。
循環冷却していると言いながら、ほぼ毎日どこかが故障している。
ここに台風や余震が来たら、超高濃度汚染水で、人間は近づくこともできなくなるのではないのか
メルトスルーしていて、圧力容器に何ほどの核燃料が残っているのだろう。
一体何をどれだけ冷却しているのか、さっぱり不明な「循環冷却?」なのだ
格納容器、そして地下、コンクリートの亀裂から地下へと流れ落ちた核燃料の状態も温度も何もわからない。
「反戦な家づくり」から
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
核燃料は本当に冷却されているのか?
今、世界最大のミステリーは、福島第一原発の燃料棒がどこにあるのか、ということ。
なにせ、世界中の誰もが、その正確な所在をご存じない。
政府や東電は、自らの犯罪の後始末を自ら評価するというペテンを「工程表」とか「ステップ1」と呼んでいる。
実態は、子どもでも欺されないような書き割りをならべて、できたできたと騒いでいるに過ぎない。
その象徴が、ほぼデイリーで故障する汚染水浄化装置であることは言うまでもない。
7月20日の時点で、稼働率が53%だという。
トラブル率47%の機械なんて想像もできない。
そもそも、装置とか機械と呼ぶに値するのか。
■■ 循環 のウソ
「冷却水の循環」と、細野や菅は胸を張っている。
循環というのは、閉じた環の中をぐるぐる回ること。
しかし、現在の仕組みはこうなっている。

(2011.7.20 毎日より)
水を注ぎ込む格納容器や圧力容器は、何がどうなっているのか、正確にはわからない。
圧力容器は穴が空いて、水はじゃんじゃん漏れている。
格納容器も穴が空いて、じゃんじゃん漏れている。
その外側は、そもそも水を貯めるようには作られていない、建物の地下室だ。
そこから地下に流れ出す水もあるだろうし、逆に雨や地下水も流れ込む可能性が高い。
さらに、装置の途中でも、しょっちゅう漏れている。
もっと深刻なのは、ふくいちカメラを見てもわかるとおり、原子炉建屋の上にはじゃんじゃん蒸気が立ち上っている。
当たり前だが、穴が空いている容器の中で高温の物に水をかければ、蒸気になって大気中に拡散していく。
こういう状態を、とても閉じた環とは言えない。
循環と呼ぶのは、それ自体がペテンなのである。
せいぜい、冷却水の再くみ上げと汚染低減という程度である。
稼働率53%の。
■■冷却 のウソ
1~3号機の燃料棒が、今どこでどうなっているのか、誰も知らない。
とにかく水を注入しているけれども、それが溶け落ちた燃料にどれだけ届いているのかもわからない。
とりあえず、温度計がべらぼうな数字にならないから おそらく冷えているんだろう という程度の話である。
しかも、温度計の数字が跳ね上がると、温度計の故障という話になって発表されなくなるし、おそらく燃料があるだろうと思われている格納容器の温度は測っていない。

(原子力安全・保安院 7/25発表資料より)
すでに空になっているかもしれない圧力容器のほうの温度を測って、100℃前後になっているから冷却されている と自慢げに発表しているのである。
アホちゃうか ほんま。
まったく、何を信じて良いのかわからないなかで、たぶん冷却されている、というのが、「事故の収束に向けた道筋」とご立派な名前のついたものの実態である。
■■安定的 のウソ
週刊現代が、独自に放射線量の調査をしている。
3.11以降、福島県内を走っていた車のエアフィルターを調査した。
そこで、核分裂によって生じるテルル129mという物質が出てきたという。
以下、「福島市の大気 恐るべき検査結果を初公開」より引用する
欧州放射線リスク委員会の科学委員長であるクリス・バズビー博士が解説する。
「テルルが検出されたというのは、とても興味深いデータですね。なぜならこれは、核分裂によって生じる物質なのですが、半減期が33日ととても短い からです。半減期が短いものが、原発事故より3ヵ月がたった6月に採取したフィルターから検出されたということは、核分裂が今も続いている可能性---つ まりは再臨界を起こしている可能性を示唆しています。最初に放出された量がわからないので、これが確かなことかどうかは断言できませんが、再臨界が起きて いたのかどうか、政府や東電は調査し、その結果を公表すべきです」
(引用以上)
つまり、3.15に大量にテルルが放出されていれば、まだ残っていてもおかしくないが、そうでなければ、比較的最近に核分裂が起きているかもしれない、ということ。
これまで、テルルなんてニュースにもならなかったのだから、3.15で大量にばらまかれたとは考えにくい。
安定的 に核分裂が起きている のだとしたら核爆発に至る一大事だが、おそらくは、小出先生が指摘するように、一時的に臨界が起きて、すぐに止まる、ということが起きているのではないか。
少なくとも、そのような可能性が否定できないのに、安定的に冷却されているなどと、どの口で言えるのだろうか。
■■「事故の収束に向けた道筋」の破綻は必至
マインドコントロールや自己暗示にかかっていない限りは、この道筋がすでに暗礁に乗り上げており、早晩破綻を認めざるを得ないことは、誰の目にも明らかだ。
菅直人は、おそらくその時を待っている。
玄海原発で海江田を切り捨てたように、この問題で細野を切り捨てて、自分だけ格好つけようと狙っている。
小沢よりだったり、自分を脅かす可能性のあるものを、原発担当や震災担当にして、下手を打たせて追放する。
それを、自らの演出だと心得ている節が、菅にはある。
このまま、では、世にも恐ろしいことになりかねない。
震災と原発で大変だからこそ、まともなリーダーが必要だ。
おそらく菅は、オバマラインの現アメリカ政権から、原発を収束(ごまかす)ことを条件に延命を約束されている。
同時に、太陽光の利権もオバマラインには大きな問題であるようだ。
10年後20年後に日本人が大量にガンになるくらいはどうでもいいから、爆発的事象だけは避けて燃料を冷やせ。
国民には被害を最小に見せろ。
再生エネルギーをじゃんじゃん宣伝しろ。
対する前原誠司は、ブッシュ政権以来のジャパンハンドラーズたちによる利権争奪の先兵である。
菅とは、ミッションが違う。
原発については、結局やることは同じだろうけれども、優先順位が違う。
「復興と未来のための日米パートナーシップ」を表看板に、被災地での荒稼ぎが至上命令である。
けっきょく、どちらが政権をとっても、日本人、なかでも被災者にとっては地獄である。
がんばろう日本 などといって、くそも味噌も一緒にするのは間違っている。
被災者と、関西の我々とは、状況は違いすぎる。
誰がリーダーになるかによっても、さらに状況は大きく変わる。
一億総懺悔のようなスローガンではなく、原発収束、被災者救援、事故責任追及、という明確な方向性を出すべきだ。
3号機の使用済み核燃料プールは爆発で吹き飛び、核燃料は飛散して殆んど残っていない。
共用プールまでがふつふつと煮えたぎり蒸気を噴出している。
循環冷却していると言いながら、ほぼ毎日どこかが故障している。
ここに台風や余震が来たら、超高濃度汚染水で、人間は近づくこともできなくなるのではないのか
メルトスルーしていて、圧力容器に何ほどの核燃料が残っているのだろう。
一体何をどれだけ冷却しているのか、さっぱり不明な「循環冷却?」なのだ
格納容器、そして地下、コンクリートの亀裂から地下へと流れ落ちた核燃料の状態も温度も何もわからない。
「反戦な家づくり」から
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核燃料は本当に冷却されているのか?
今、世界最大のミステリーは、福島第一原発の燃料棒がどこにあるのか、ということ。
なにせ、世界中の誰もが、その正確な所在をご存じない。
政府や東電は、自らの犯罪の後始末を自ら評価するというペテンを「工程表」とか「ステップ1」と呼んでいる。
実態は、子どもでも欺されないような書き割りをならべて、できたできたと騒いでいるに過ぎない。
その象徴が、ほぼデイリーで故障する汚染水浄化装置であることは言うまでもない。
7月20日の時点で、稼働率が53%だという。
トラブル率47%の機械なんて想像もできない。
そもそも、装置とか機械と呼ぶに値するのか。
■■ 循環 のウソ
「冷却水の循環」と、細野や菅は胸を張っている。
循環というのは、閉じた環の中をぐるぐる回ること。
しかし、現在の仕組みはこうなっている。

(2011.7.20 毎日より)
水を注ぎ込む格納容器や圧力容器は、何がどうなっているのか、正確にはわからない。
圧力容器は穴が空いて、水はじゃんじゃん漏れている。
格納容器も穴が空いて、じゃんじゃん漏れている。
その外側は、そもそも水を貯めるようには作られていない、建物の地下室だ。
そこから地下に流れ出す水もあるだろうし、逆に雨や地下水も流れ込む可能性が高い。
さらに、装置の途中でも、しょっちゅう漏れている。
もっと深刻なのは、ふくいちカメラを見てもわかるとおり、原子炉建屋の上にはじゃんじゃん蒸気が立ち上っている。
当たり前だが、穴が空いている容器の中で高温の物に水をかければ、蒸気になって大気中に拡散していく。
こういう状態を、とても閉じた環とは言えない。
循環と呼ぶのは、それ自体がペテンなのである。
せいぜい、冷却水の再くみ上げと汚染低減という程度である。
稼働率53%の。
■■冷却 のウソ
1~3号機の燃料棒が、今どこでどうなっているのか、誰も知らない。
とにかく水を注入しているけれども、それが溶け落ちた燃料にどれだけ届いているのかもわからない。
とりあえず、温度計がべらぼうな数字にならないから おそらく冷えているんだろう という程度の話である。
しかも、温度計の数字が跳ね上がると、温度計の故障という話になって発表されなくなるし、おそらく燃料があるだろうと思われている格納容器の温度は測っていない。

(原子力安全・保安院 7/25発表資料より)
すでに空になっているかもしれない圧力容器のほうの温度を測って、100℃前後になっているから冷却されている と自慢げに発表しているのである。
アホちゃうか ほんま。
まったく、何を信じて良いのかわからないなかで、たぶん冷却されている、というのが、「事故の収束に向けた道筋」とご立派な名前のついたものの実態である。
■■安定的 のウソ
週刊現代が、独自に放射線量の調査をしている。
3.11以降、福島県内を走っていた車のエアフィルターを調査した。
そこで、核分裂によって生じるテルル129mという物質が出てきたという。
以下、「福島市の大気 恐るべき検査結果を初公開」より引用する
欧州放射線リスク委員会の科学委員長であるクリス・バズビー博士が解説する。
「テルルが検出されたというのは、とても興味深いデータですね。なぜならこれは、核分裂によって生じる物質なのですが、半減期が33日ととても短い からです。半減期が短いものが、原発事故より3ヵ月がたった6月に採取したフィルターから検出されたということは、核分裂が今も続いている可能性---つ まりは再臨界を起こしている可能性を示唆しています。最初に放出された量がわからないので、これが確かなことかどうかは断言できませんが、再臨界が起きて いたのかどうか、政府や東電は調査し、その結果を公表すべきです」
(引用以上)
つまり、3.15に大量にテルルが放出されていれば、まだ残っていてもおかしくないが、そうでなければ、比較的最近に核分裂が起きているかもしれない、ということ。
これまで、テルルなんてニュースにもならなかったのだから、3.15で大量にばらまかれたとは考えにくい。
安定的 に核分裂が起きている のだとしたら核爆発に至る一大事だが、おそらくは、小出先生が指摘するように、一時的に臨界が起きて、すぐに止まる、ということが起きているのではないか。
少なくとも、そのような可能性が否定できないのに、安定的に冷却されているなどと、どの口で言えるのだろうか。
■■「事故の収束に向けた道筋」の破綻は必至
マインドコントロールや自己暗示にかかっていない限りは、この道筋がすでに暗礁に乗り上げており、早晩破綻を認めざるを得ないことは、誰の目にも明らかだ。
菅直人は、おそらくその時を待っている。
玄海原発で海江田を切り捨てたように、この問題で細野を切り捨てて、自分だけ格好つけようと狙っている。
小沢よりだったり、自分を脅かす可能性のあるものを、原発担当や震災担当にして、下手を打たせて追放する。
それを、自らの演出だと心得ている節が、菅にはある。
このまま、では、世にも恐ろしいことになりかねない。
震災と原発で大変だからこそ、まともなリーダーが必要だ。
おそらく菅は、オバマラインの現アメリカ政権から、原発を収束(ごまかす)ことを条件に延命を約束されている。
同時に、太陽光の利権もオバマラインには大きな問題であるようだ。
10年後20年後に日本人が大量にガンになるくらいはどうでもいいから、爆発的事象だけは避けて燃料を冷やせ。
国民には被害を最小に見せろ。
再生エネルギーをじゃんじゃん宣伝しろ。
対する前原誠司は、ブッシュ政権以来のジャパンハンドラーズたちによる利権争奪の先兵である。
菅とは、ミッションが違う。
原発については、結局やることは同じだろうけれども、優先順位が違う。
「復興と未来のための日米パートナーシップ」を表看板に、被災地での荒稼ぎが至上命令である。
けっきょく、どちらが政権をとっても、日本人、なかでも被災者にとっては地獄である。
がんばろう日本 などといって、くそも味噌も一緒にするのは間違っている。
被災者と、関西の我々とは、状況は違いすぎる。
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米国債デフォルトで何が変わるか
2011-07-27
米国議会の債務上限問題が、茶会党に引っ張られる共和党のかたくなな反対によって、決着していない。
8/2までに決着しなければ、米国債の利払いに延滞の可能性がでるだろう。
米国債のデフォルトが現実化してきている。
しかし、米国のデフォルトと言っても、ロシアやアルゼンチンのデフォルトとはかなり様相の異なるものである。
米国の場合は国家破綻の様相ではない。議会の対立が反映しての結果的なものであって、債券や通貨の信用崩壊ではないからだ。
ドルの下落が加速するのは疑いない。米国債の金利上昇も疑いない。
だが、短期的にはそれ以上ではないだろう。
デフォルトしてもしなくても、この議会対立ではっきりしたのは、超緊縮財政を求める勢力の強力さである。
「資本主義のイデオロギー危機:スティグリッツ」
いまの状況で財政削減が進行することは、実体経済が大不況に陥り自治体破綻が続出し雇用が悪化し、住宅は更に下がる。
ここで、できることをと、金融緩和第三弾など行えば、さらに世界的インフレとドルの下落を招く。
すでに米国の中流は下層難民化しており、さらに貧富格差が拡大すると、かつての失業と都市暴動に発展しかねない。
今世紀のグローバル化した世界経済全体に波及しかねない。
というよりも、基軸通貨なので波及すると言い切ってよいだろう。
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米国債デフォルトで何が変わるか? 山崎元 7/27 ダイヤモンド・オンラインから
米国債「リスク・フリー神話」の消滅
米政府の債務上限引き上げに関する米議会(特に共和党)と米政府の交渉が順調に進まず、米国債が一時的な利払いの遅延などの「デフォルト」(債務不履行)に陥る可能性が出てきた。
デフォルトとは債務に関する契約を少しでも違えることであり、利払いの遅延は立派なデフォルト行為だ。
政府債務の上限を巡る米議会と米政府の緊張したやりとりは過去に何度もあった。その度ごとに、ぎりぎりで上限が引き上げられて、問題がしばらく先送りされる解決を見てきたので、今回も何とかなるのではないかとも思えるが、今回は、来年の大統領選挙を巡る駆け引きもあって、共和党とオバマ政権・民主党との間の政治的な利害対立が先鋭化しているので、本当に問題が起こるところまで合意が形成できないかも知れない。この場合、米政府の資金繰りがつかなくなって、国債の利払いに遅延が起こる可能性が十分でてくる。
この構造は、特例公債法案の可否を巡って与野党が駆け引きしている日本の政治状況とよく似ている。但し、日本の場合、政府のバランスシートが巨大なので、赤字国債を発行できなくても、しばらくの間資金繰りをつけることは可能と見られ、米国ほどの緊迫感はない。
通俗的な金融論の解説では、国の債務、中でも強国且つ大国である米国の政府債務はリスクのない「リスク・フリー資産」と位置づけられて説明されることがしばしばある。これまでしばらくの間、米国債には、デフォルトに至るような「信用リスク」が想定されることは無かったのだが、現実にデフォルトが起こると、この米国債のリスク・フリー神話が大きく揺らぐことになる。
主な格付け会社の米国債の格付けは「AAA」のままだが、今頃になって米国債の格付けを「ネガティブ・ウォッチ」(引き下げ方向での見直し中、という意味)の対象としたことを公表するような会社もある(あまりにも馬鹿馬鹿しいので個別の社名は挙げない)。相変わらず、「格付け会社」ではなく「後付け会社」と呼びたくなるような体たらくであり、格付けが信頼に足るものではないことをよく物語っている。
とはいえ、米国債が現実にデフォルトを起こすような事態となったときに、何が起こるのかについては、適当な前例がないこともあり、不安を覚える向きも多いようだ。
短期的に大問題は起こらない
もちろん、先の事は、分からない。しかし、もし起こった場合に米国債のデフォルト自体は、たとえば金融危機の引き金を引いたリーマン・ショックのような大問題にはならないのではないかと筆者は考える。
今回起こるかも知れないデフォルトは、米政府に必要な支払いを裏付ける資金調達能力が無くなって起こるデフォルトではない。債務を膨らませたあげくに、これ以上の資金調達が不可能になる「支払い能力」が問題なのではなく、資金を調達する上での「手続きの停滞」がその本質だ。かつてデフォルトを起こした新興国や現在のギリシアのような状況ではない。
国債利払いの停止、あるいは行政サービスの停滞のようなことが起こった場合、共和党も民主党もその責任を負う悪者にはなりたいくない筈なので、何らかの合意が遠からず形成されるだろう。
手続き上の障害を取り除いてしまえば米政府は資金調達能力が十分あるし、米国の長期金利は十分に低い水準にある。
デフォルトに対する反応として、一時的に、日本円や金のような相対的な安全資産が買われて急騰する場面があるかもしれないが、外国の中央銀行や海外機関投資家にとって米国債の資産価値が急激に変わることはないので、米国債が投げ売りされるような事態にはならないだろう。
仮に米国債の利回りが急上昇したとしても、その利回りでは資金需要が十分ないだろうし、実質金利が十分に高ければ投資家にとっては魅力的なものになる。
中期的には歳出削減による不況が心配
但し、心配が無いわけではない。
現在、共和党と民主党は、債務上限の引き上げを巡って、歳出削減のパッケージを議論している。特に、共和党は強硬で、一切の増税に反対するのと同時に、大幅な歳出削減を主張している。
仮に米国債がデフォルトを起こした場合、これを収束するために歳出削減に関して強硬な意見が債務上限引き上げの付帯条件として採用される可能性が強まるだろう。
失業率が高止まりし、不動産価格が低迷する米国では、当面、民間消費は低調だろうし、民間の資金需要も盛り上がらない。こうした中で政府部門の支出を急激に縮小させると、近い将来、米国景気の本格的な後退が起こる可能性がある。
この状況下では、米国の長期金利は一段と低下することになるだろう。米国債のデフォルトは、一時的に米国債の売り(長期金利上昇)につながるかも知れないが、やや中期的には却って米国債が買い進められるような(長期金利が低下する)状況をもたらすかも知れない。
景気後退が深刻な場合、FRB(米連邦準備制度理事会)は、長期国債を含む資産の買い取りを行ってもう一段の金融緩和(「QE3」)を実施する可能性があるが、これも米長期金利の低下要因となりそうだ。
債券投資家にとっては悪くない状況が到来するように思われるかも知れないが、これは、経済の全体像としては、長期的な経済停滞の中にある日本国債の状況を米国債が早足で追いかけてくるような状況を意味する。決して喜ばしい状況ではない。もちろん、日本の経済にとってもマイナス要因となる。
長期的には米ドル離れ
そもそも、一時的な「手続き要因」によるデフォルトが、「長期的」な米国債やドルを巡る状況に影響すると考えることは、経済的な思考として正しくないのかも知れない。しかし、絶対の安全資産と考えられていた米国債の「神話」がデフォルトによって否定されることには、長期的な影響もあるような気がするし、デフォルトが何らかの象徴的な意味を持つ可能性も考えてみたい。
既に、日本以外の中央銀行は、外貨準備を米ドルから他通貨建ての資産に徐々にシフトする動きを見せているが、「デフォルトの実績あり」ということになると、米国債の保有を減らす動機と名目がもう一つ増えることになる。
海外の年金基金のような機関投資家もデフォルトの実績があり、おそらくはAAAから滑り落ちる米国債の保有を減らすことはあっても、増やそうとはしないのではないか。
とはいえ、これまで、米ドルは世界の準備通貨でもあると同時に決済通貨でもあった。軍事力を含めた国力、金融システムの発達、法的な制度の整備も含めて、米国の金融市場及び米ドルは、世界の金融取引にとって好都合であった。
こうした前提条件が一度の手続き的なデフォルトで急に変化するとは思えないが、考えてみると、米国の金融システム自体は、決済通貨が米ドルでなくても、他の通貨あるいはSDRのようなものに変化しても問題なく利用することが出来る。米国の金融業にとって、取引が複雑になることは、参入障壁を作りやすくなったり、手数料を稼ぎやすくなったりするメリットもある。
急激な変化があるとは思えないが、長期的には、世界の金融システムの米ドル離れが進行するのではないだろうか。この流れの中にあって、「米国債デフォルト」が起こると、本来絶対ではないはずの米国債の信用が絶対だと勘違いされてきた余計な神話のヴェールを一枚剥がすことに貢献したと振り返られるようなイベントになるのかも知れない。
日本は若年層の雇用が心配
起こりうるかも知れない米国債のデフォルトの、日本にとっての影響を考えて置こう。
先ず、短期的にも、中期的にも、為替レートが円高方向に圧力が掛かりやすくなることを覚悟しておく必要がありそうだ。最初は、米ドルの信用の剥落から、次には、米国の不況に伴う金利低下(米国の「日本化」ともいえる)から、円高が進む可能性がある。
この場合、日本の特に製造業企業の海外移転は加速することになりそうだ。
加えて、現在、日本企業ではいわゆる「2013年問題」(年金支給開始年齢の引き上げに伴う問題)の影響もあり、高齢社員の定年が実質的に延長される方向にある。この場合、企業は、一時的に高齢社員向けの人件費の減少ペースが鈍るので、このしわ寄せが、若年者の雇用機会減少に回る可能性が大きい。
さらに、本稿で想定したように、米国の不況入りが現実のものとなると、日本では、ただでさえ悪い若年者の雇用状況が更に一段と悪化する可能性があるということではないだろうか。
米国債デフォルトだけによる問題ではないが、日本独自の政策でデフレを解消し、若年者の雇用状況を改善しなければ、若年者の大量失業がさらに大きな問題になるような「嫌な時代」がやって来るのではないかと心配だ。
8/2までに決着しなければ、米国債の利払いに延滞の可能性がでるだろう。
米国債のデフォルトが現実化してきている。
しかし、米国のデフォルトと言っても、ロシアやアルゼンチンのデフォルトとはかなり様相の異なるものである。
米国の場合は国家破綻の様相ではない。議会の対立が反映しての結果的なものであって、債券や通貨の信用崩壊ではないからだ。
ドルの下落が加速するのは疑いない。米国債の金利上昇も疑いない。
だが、短期的にはそれ以上ではないだろう。
デフォルトしてもしなくても、この議会対立ではっきりしたのは、超緊縮財政を求める勢力の強力さである。
「資本主義のイデオロギー危機:スティグリッツ」
いまの状況で財政削減が進行することは、実体経済が大不況に陥り自治体破綻が続出し雇用が悪化し、住宅は更に下がる。
ここで、できることをと、金融緩和第三弾など行えば、さらに世界的インフレとドルの下落を招く。
すでに米国の中流は下層難民化しており、さらに貧富格差が拡大すると、かつての失業と都市暴動に発展しかねない。
今世紀のグローバル化した世界経済全体に波及しかねない。
というよりも、基軸通貨なので波及すると言い切ってよいだろう。
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米国債デフォルトで何が変わるか? 山崎元 7/27 ダイヤモンド・オンラインから
米国債「リスク・フリー神話」の消滅
米政府の債務上限引き上げに関する米議会(特に共和党)と米政府の交渉が順調に進まず、米国債が一時的な利払いの遅延などの「デフォルト」(債務不履行)に陥る可能性が出てきた。
デフォルトとは債務に関する契約を少しでも違えることであり、利払いの遅延は立派なデフォルト行為だ。
政府債務の上限を巡る米議会と米政府の緊張したやりとりは過去に何度もあった。その度ごとに、ぎりぎりで上限が引き上げられて、問題がしばらく先送りされる解決を見てきたので、今回も何とかなるのではないかとも思えるが、今回は、来年の大統領選挙を巡る駆け引きもあって、共和党とオバマ政権・民主党との間の政治的な利害対立が先鋭化しているので、本当に問題が起こるところまで合意が形成できないかも知れない。この場合、米政府の資金繰りがつかなくなって、国債の利払いに遅延が起こる可能性が十分でてくる。
この構造は、特例公債法案の可否を巡って与野党が駆け引きしている日本の政治状況とよく似ている。但し、日本の場合、政府のバランスシートが巨大なので、赤字国債を発行できなくても、しばらくの間資金繰りをつけることは可能と見られ、米国ほどの緊迫感はない。
通俗的な金融論の解説では、国の債務、中でも強国且つ大国である米国の政府債務はリスクのない「リスク・フリー資産」と位置づけられて説明されることがしばしばある。これまでしばらくの間、米国債には、デフォルトに至るような「信用リスク」が想定されることは無かったのだが、現実にデフォルトが起こると、この米国債のリスク・フリー神話が大きく揺らぐことになる。
主な格付け会社の米国債の格付けは「AAA」のままだが、今頃になって米国債の格付けを「ネガティブ・ウォッチ」(引き下げ方向での見直し中、という意味)の対象としたことを公表するような会社もある(あまりにも馬鹿馬鹿しいので個別の社名は挙げない)。相変わらず、「格付け会社」ではなく「後付け会社」と呼びたくなるような体たらくであり、格付けが信頼に足るものではないことをよく物語っている。
とはいえ、米国債が現実にデフォルトを起こすような事態となったときに、何が起こるのかについては、適当な前例がないこともあり、不安を覚える向きも多いようだ。
短期的に大問題は起こらない
もちろん、先の事は、分からない。しかし、もし起こった場合に米国債のデフォルト自体は、たとえば金融危機の引き金を引いたリーマン・ショックのような大問題にはならないのではないかと筆者は考える。
今回起こるかも知れないデフォルトは、米政府に必要な支払いを裏付ける資金調達能力が無くなって起こるデフォルトではない。債務を膨らませたあげくに、これ以上の資金調達が不可能になる「支払い能力」が問題なのではなく、資金を調達する上での「手続きの停滞」がその本質だ。かつてデフォルトを起こした新興国や現在のギリシアのような状況ではない。
国債利払いの停止、あるいは行政サービスの停滞のようなことが起こった場合、共和党も民主党もその責任を負う悪者にはなりたいくない筈なので、何らかの合意が遠からず形成されるだろう。
手続き上の障害を取り除いてしまえば米政府は資金調達能力が十分あるし、米国の長期金利は十分に低い水準にある。
デフォルトに対する反応として、一時的に、日本円や金のような相対的な安全資産が買われて急騰する場面があるかもしれないが、外国の中央銀行や海外機関投資家にとって米国債の資産価値が急激に変わることはないので、米国債が投げ売りされるような事態にはならないだろう。
仮に米国債の利回りが急上昇したとしても、その利回りでは資金需要が十分ないだろうし、実質金利が十分に高ければ投資家にとっては魅力的なものになる。
中期的には歳出削減による不況が心配
但し、心配が無いわけではない。
現在、共和党と民主党は、債務上限の引き上げを巡って、歳出削減のパッケージを議論している。特に、共和党は強硬で、一切の増税に反対するのと同時に、大幅な歳出削減を主張している。
仮に米国債がデフォルトを起こした場合、これを収束するために歳出削減に関して強硬な意見が債務上限引き上げの付帯条件として採用される可能性が強まるだろう。
失業率が高止まりし、不動産価格が低迷する米国では、当面、民間消費は低調だろうし、民間の資金需要も盛り上がらない。こうした中で政府部門の支出を急激に縮小させると、近い将来、米国景気の本格的な後退が起こる可能性がある。
この状況下では、米国の長期金利は一段と低下することになるだろう。米国債のデフォルトは、一時的に米国債の売り(長期金利上昇)につながるかも知れないが、やや中期的には却って米国債が買い進められるような(長期金利が低下する)状況をもたらすかも知れない。
景気後退が深刻な場合、FRB(米連邦準備制度理事会)は、長期国債を含む資産の買い取りを行ってもう一段の金融緩和(「QE3」)を実施する可能性があるが、これも米長期金利の低下要因となりそうだ。
債券投資家にとっては悪くない状況が到来するように思われるかも知れないが、これは、経済の全体像としては、長期的な経済停滞の中にある日本国債の状況を米国債が早足で追いかけてくるような状況を意味する。決して喜ばしい状況ではない。もちろん、日本の経済にとってもマイナス要因となる。
長期的には米ドル離れ
そもそも、一時的な「手続き要因」によるデフォルトが、「長期的」な米国債やドルを巡る状況に影響すると考えることは、経済的な思考として正しくないのかも知れない。しかし、絶対の安全資産と考えられていた米国債の「神話」がデフォルトによって否定されることには、長期的な影響もあるような気がするし、デフォルトが何らかの象徴的な意味を持つ可能性も考えてみたい。
既に、日本以外の中央銀行は、外貨準備を米ドルから他通貨建ての資産に徐々にシフトする動きを見せているが、「デフォルトの実績あり」ということになると、米国債の保有を減らす動機と名目がもう一つ増えることになる。
海外の年金基金のような機関投資家もデフォルトの実績があり、おそらくはAAAから滑り落ちる米国債の保有を減らすことはあっても、増やそうとはしないのではないか。
とはいえ、これまで、米ドルは世界の準備通貨でもあると同時に決済通貨でもあった。軍事力を含めた国力、金融システムの発達、法的な制度の整備も含めて、米国の金融市場及び米ドルは、世界の金融取引にとって好都合であった。
こうした前提条件が一度の手続き的なデフォルトで急に変化するとは思えないが、考えてみると、米国の金融システム自体は、決済通貨が米ドルでなくても、他の通貨あるいはSDRのようなものに変化しても問題なく利用することが出来る。米国の金融業にとって、取引が複雑になることは、参入障壁を作りやすくなったり、手数料を稼ぎやすくなったりするメリットもある。
急激な変化があるとは思えないが、長期的には、世界の金融システムの米ドル離れが進行するのではないだろうか。この流れの中にあって、「米国債デフォルト」が起こると、本来絶対ではないはずの米国債の信用が絶対だと勘違いされてきた余計な神話のヴェールを一枚剥がすことに貢献したと振り返られるようなイベントになるのかも知れない。
日本は若年層の雇用が心配
起こりうるかも知れない米国債のデフォルトの、日本にとっての影響を考えて置こう。
先ず、短期的にも、中期的にも、為替レートが円高方向に圧力が掛かりやすくなることを覚悟しておく必要がありそうだ。最初は、米ドルの信用の剥落から、次には、米国の不況に伴う金利低下(米国の「日本化」ともいえる)から、円高が進む可能性がある。
この場合、日本の特に製造業企業の海外移転は加速することになりそうだ。
加えて、現在、日本企業ではいわゆる「2013年問題」(年金支給開始年齢の引き上げに伴う問題)の影響もあり、高齢社員の定年が実質的に延長される方向にある。この場合、企業は、一時的に高齢社員向けの人件費の減少ペースが鈍るので、このしわ寄せが、若年者の雇用機会減少に回る可能性が大きい。
さらに、本稿で想定したように、米国の不況入りが現実のものとなると、日本では、ただでさえ悪い若年者の雇用状況が更に一段と悪化する可能性があるということではないだろうか。
米国債デフォルトだけによる問題ではないが、日本独自の政策でデフレを解消し、若年者の雇用状況を改善しなければ、若年者の大量失業がさらに大きな問題になるような「嫌な時代」がやって来るのではないかと心配だ。
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