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もうすぐ北風が強くなる

いくら微量でも放射能汚染物を食べてはいけない

 放射能汚染の最初は福島県の浜通りとされていた。
 それが福島中通りと北関東に広がった。
 同時に東京が騒ぎ出した。汚染は会津と関東全域に広がった。
 
 今は宮城、山形、静岡、長野の一部にも広がった。
 さらに微量とは言え、北海道から佐賀までセシウムが検出されている。
 「既に全国に拡がっている放射能汚染」の現実。

 今、まったく汚染されていないのは九州南部と沖縄のみと言う事実。
 毎日、私たちの食べる農産物、水産物。
 この日本では、近いうちに食べるものがなくなるのだろうか。

 原発から常時放射能が漏出を続けているので、各地の放射能汚染は強くなりながら、広がり続けている。
 放射能汚染食品は、元来はどんなに微量でもあっても食べてはいけない。
 わざわざ、内部被曝の元を入れる必要など無いからだ。

 30倍に緩めた国の暫定基準値などは、決して信用してはならない。
 特に子供と妊婦、これから妊娠可能性のある婦人は、いくら微量でも絶対に避けたい。
 それ以外の人も、たとえ老人でも、できる限り、放射能汚染物は避けること。
 放射能のさらなる広がりを抑制することに繋がる。 

 「安全だ」「直ちに危険はない」。政府とマスコミの言葉は完全に狂っている。
 私たちは自分で身を守るしかない。
 そして、すこしでも多くの人々に知らしめよう。
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  放射能汚染食「食べてはいけない」   6/24 現代ビジネス
 政府の言う暫定基準値など何の指標にもならない。

 あなたは今日、何を口にしただろうか?

 肉、魚、野菜・・・そのどれか、もしくはそのすべてからあなたは放射性物質を体内に取り入れてしまった可能性がある。厚生労働省のHPには、福島第一原発の事故以降、放射性物質が検出された夥(おびただ)しい数の食品が羅列されている。

 牛肉、豚肉、鶏卵、キャベツ、ホウレンソウ、グリーンピース、レタス、サクランボ、ナメコ、マイタケ、タケノコ、アサリ、ハマグリ、タコ、ウニ、カレイ、キンメダイ、アイナメ、アンコウ、ヤマメ・・・

 これらは171種類にも上る〝汚染食〟の氷山の一角だ(6月14日現在)。最終ページに掲載した「『暫定基準値』超え食品リスト」を見れば、その膨大な数に愕然とするだろう。また、環境保全団体『グリーンピース』の独自調査をもとに本誌が作成した、上の汚染マップからも海産物に深刻な被害が及んでいることが見て取れる。

 放射性物質が検出された食品のうち、政府が定める「暫定基準値」(セシウムは500ベクレル、ヨウ素は2000ベクレル─いずれも1㎏当たり)を超えた福島産のヤマメやタケノコ、ウメなどについては現在出荷停止措置が取られており、私たちの口に入る可能性は低いと考えてよいだろう。

 しかし、暫定基準値を下回る食品は「ただちに健康に影響を及ぼさない」とされ、今日も私たちの食卓に運ばれている。言うまでもなく、「ただちに健康に影響を及ぼさない」という説明には、「いつかは影響が出るのではないか」という不安が付いて回る。後ほど詳述するが、食べ物から人体に入った放射線は、長年にわたりDNA情報を傷つけて、10年後、20年後の将来にがんや白血病、不妊、先天性異常などの発症リスクを高めることが確認されている。

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 そもそもこの暫定基準値は、IAEA(国際原子力機関)がヒロシマ、ナガサキの被爆者に対する健康被害を調査して作ったリスクモデルを参考にして作成したものだ。しかし、IAEAのモデルは原爆の外部被曝で肌に直接浴びた放射線量に焦点を当てた研究の結果であり、食品などを通じて体内に放射性物質を取り込む「内部被曝」には、単純に応用できないというのが専門家の共通認識である。名古屋大学名誉教授で、原子力資料情報室の理事を務める古川路明氏が言う。

「そもそも『年間何ミリシーベルトまでの被曝なら健康に影響がない』という明確なデータや基準値は現時点では存在しません。IAEAやWHO(世界保健機関)の統計すら、疫学的な調査の結果によるものではなく、信頼に足るものではない。それなのに安易に『基準値』という言葉を用いるのは愚かなことです」

  菜の花、ヒマワリに要注意

 ベンジャミン・ディズレーリ元英国首相の、「世の中には3つのウソがある。ウソ、大ウソ、統計だ」という警句通り、私たちは暫定基準値を今一度疑う必要があるが、古川氏の警鐘も虚しく、日に日に国民の放射線への危機感は薄まっているように見える。

 東京都の浄水場の水から放射性ヨウ素が検出された3月下旬には、ミネラルウォーターが底を突くパニックになったのに、今ではそんなことを意識している人のほうが珍しい。「暫定基準値より下だから」と、頓着せずに食材を選んでいる人がほとんどだろう。その裏には、「ただちに健康に影響はない」という政府や御用学者のプロパガンダがあった。京都大学原子炉実験所の小出裕章助教が言う。

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「政府は基準値以上なら危険だから出荷停止、基準値以下なら安全と、デタラメな宣伝に躍起になっているが、根本的に間違っている。どんなに低い線量でも、汚染された食品を食べれば危険なのです。そしてヨーロッパでも福島の事故による放射性物質が検出された今、日本に安全と言い切れる食べ物は存在しません。危険があることを消費者が十分に認識したうえで、自分が口に入れる食品を選ぶべきであり、政府はそのための情報をこそ、国民に提供するべきなのです」

 暫定基準値を上回るか、下回るかの二元論ではなく、より危険度の少ない食品を選ぶ「柔軟な取捨選択」こそ、今私たちに必要なことなのだ。ではいったい、どんな食べ物に注意が必要なのだろうか。

 食卓を脅かす放射性物質は主に、ヨウ素、セシウム、ストロンチウム、プルトニウムの4つがある。特に懸念されるのが、爆発によって大量に飛散し、または汚染水によって海に大量に流出したと思われるセシウムとストロンチウムだ。

 半減期が約30年とされるセシウムは、人体に入ると肺や肝臓、筋肉や骨に沈着し、DNAを傷つけて肺がんや肝臓がんなどの発症リスクを高めるが、その吸収率に、食物によって驚くほど違いがあることはあまり知られていない。例えばリンゴのセシウム吸収率を1として考えた場合、カラシナは39倍、サツマイモは33倍、ソラマメは12倍、ジャガイモは11倍、土壌からセシウムをより吸収する(上の表参照)。

 逆にほとんどの果物は、1以下の数値だ。なぜこれほど吸収率に差があるのか。キーワードは「カリウム」という金属だ。セシウムは、農作物にとって必要なカリウムという養分と原子配列が似ているため、ある種の植物はセシウムをカリウムと勘違いして吸収してしまう性質がある。

 新潟大学農学部の野中昌法教授が語る。

「一般的にカリウムを多く吸収するのが、大豆などのマメ科の植物、ホウレンソウなどのアカザ科の植物です。菜の花やヒマワリ、お茶なども吸収率が高い。カラシナやレタスなどの葉物野菜もセシウムを多く取り込みやすいとされています」

 放射線医学総合研究所の調査結果によると、大豆はリンゴの160倍の吸収率であり、大麦も52倍に上る。覚えておいて損はない数字だろう。

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  骨ごと食べる魚が危ない

 元日本原子力研究所研究室長の笠井篤氏は、「ストロンチウムを含んだ魚が危ない」と危機感を強めている。

「セシウムがカリウムと似た原子配列で構成されているように、ストロンチウムはカルシウムと原子配列が似ています。海に流れ出したストロンチウムは植物プランクトンから小型魚、中型魚、大型魚と食物連鎖で生体濃縮される。それを人が食べて内部被曝をするのです。セシウムは体内に入ると100日ほどで代謝によって半分に減るのに対し、ストロンチウムはそれまでに10年を要します。その間、ずっと放射線を出し続け、二重らせんのDNA情報を傷つけ続けるのです」

 DNAが二重構造になっているのは、片方のある部分が損傷しても、もう片方がその部分を修復して補えるようにするためだ。しかし、長期間、傷が付き続けると修復が間に合わなくなる。カルシウムと似た原子配列をしたストロンチウムは10年もの長きにわたって骨に直接沈着、放射線を放出し続けるので、微量の被曝でも白血病や骨髄がんなどに冒されるリスクが高まるのだ。

 中部大学総合工学研究所教授で元内閣府原子力安全委員会の専門委員の武田邦彦氏は、「これからの時期は大型魚にストロンチウムが溜まってくる」と推測する。

「海水に流れ出たストロンチウムが植物プランクトンに吸収され、その後、食物連鎖で小魚に、約2ヵ月で中型の魚、約4ヵ月で大型の魚へと運ばれ、順を追うごとに濃縮されます。3月からストロンチウムが流れていたとすると、7月頃からカツオやマグロなどの大型魚に汚染が拡がる計算です」

 前述のようにストロンチウムは骨に沈着するため、頭から骨まで丸ごと食べるシラスやコウナゴ、イワシなどの食べ過ぎにも注意が必要だ。

「ストロンチウムは、最終的には海の底にいてあまり移動しないヒラメやカレイなどの魚に蓄積していきます」(北里大学獣医学部教授・伊藤伸彦氏)

 ストロンチウムがこれほど危険な放射性物質であるにもかかわらず、政府は現在に至るまで海産物を対象としたストロンチウムの検査をまったくしていない。

「この汚染がいつまで続くのかと問われたら、一つの答えは『永遠』です。細胞分裂が活発な子供のほうが、大人より放射線の影響を受けやすいので、不安な食べ物はなるべく大人が避けてあげることが大事です」(前出・小出氏)

 放射線は、今も日本中にバラ撒かれ続けている。次の食事に何を選ぶのかが、あなたの一生を左右するかも知れない。
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小出氏5/10岩上インタビュー書き起こし

 2011/5/10に行なわれた岩上安身氏による、小出裕章氏へのインタビューが書き起こしで読めるようになりました。
 5/10時点なので、東電のメルトダウン公表以前のデータに依拠していることはご注意ください。
 しかし、基本的な把握の仕方、考え方は些かも変わりません。
 長時間のインタビューであり、多くの示唆を与えてくれます。

 2011/5/10 小出裕章氏インタビュー

【概要】
2011年4月1日、2011年4月10日に引き続いて3回目のインタビュー。

東京電力が水棺方式に着手したことについて、小出氏はダメ出しをする。特に2号機については、圧力抑制室(サプレッションチェンバー)が既に損傷していることから、水棺はそもそも不可能であると。
さらに、仮に格納容器内を水で満たせたとしても、元々、格納容器は水を入れることを前提とした設計ではないため、水の重量・水圧がどのような力学的影響を及ぼすか分からず、既存の損傷部の悪化、余震に耐えられるか等々、様々な不安要素があると言う。
かねてより小出氏が提案していた、圧力容器と格納容器を一体と見なした循環式冷却は水棺と違って、圧力抑制室の水をひたすら汲み上げて熱交換器を介して圧力容器に戻すものであり、この方が簡単で、水棺よりも懸念事項が少なく、作業者の被曝も少ないであろうものである。
何れにせよ、何かしらの工事の際には、作業者の被曝は避けられない状況であり、小出氏はその点を非常に心配している。

「福島原発暴発阻止行動プロジェクト」とは、山田恭暉氏が、若者に被曝させるのではなく、放射線の感受性が低いシニア世代が作業に行くべきであるとの趣旨で立ち上げられたものだが、小出氏も既にその一員であると言う。
小出氏は「自分が行っても、何も役に立たないかもしれない」としながらも、岩上氏の「旧ソ連以下とも言われる、現在の情報閉鎖的状況を打破する副次効果がある」との見解には、相応の同意を示している。

現在の福島第一原発の状況について小出氏は、燃料がどこまで溶けているかは誰にも分からないが、東京電力の発表が本当だとするならば、燃料の上部は損傷しているが下部は未だ残っており、炉心全体は下には落ちていないだろうと言う。
しかし、その状態で、もし何らかの要因で水位が下がり、下部の燃料損傷が進み、燃料全体が溶け落ちて一気に圧力容器の底に溜まっている水と接触すると、水蒸気爆発の可能性がある、そして、その場合には圧力容器→格納容器が破壊され、どうしようもない事態、つまり、放射性物質が撒き散らされる事態となるだろう、としている。

3号機の爆発に関して、水素爆発ではなく核爆発、即発臨界との推定が海外で示されていることについて、小出氏は否定的で、これは滅多に起こらないだろうと言う。
ただし、一つの疑念として、CTBTにより高崎(群馬県)で大気中の放射能を測定しているが、3月15日から16日にかけて、半減期が6.7時間のヨウ素135が検出されたというデータが公開されていたにも関わらず、4月になるとそのデータがなくなっていると言う。
半減期からすると、原子炉が停止していれば観測される筈のないデータが公表され、そして、消えた、そのことに小出氏は疑念を抱いている。

年間20mSv問題について、小出氏は憤る。年間20mSvは、小出氏のように放射能に関わる仕事に従事する特殊な職業人の年間被曝限度。
ところが、仕事で従事しているわけではない一般人、ましてや、何の罪も責任もなく、放射能の感受性が高い子供にまで一律に、年間1mSvから20mSvまで引き上げて被曝を我慢させるという政府指針は、「間違った考え方」と断じる。
20mSvはICRPの勧告に基づくものであり、政府はICRPをあたかも絶対的な存在かの如く見なすが、他にも様々な機関が様々な見解を出しており、そうした見解を考慮することもなくICRPの勧告にのみ従う姿勢にも、小出氏は疑問を呈す。
ただ、小出氏は、避難させるのが良いか否か、自身には分からないと言う。チェルノブイリ原発事故の際、避難した人達は故郷を捨て、後の生活も悲惨であった。一方、避難すべきもしなかった・できなかった放射線管理区域の人達は、被曝のリスクを背負い続け、今もなお、そこで生活している。
よって、「いずれも悲惨だ」と。したがって、「もう、原発を廃絶するしかない、それしかない」と小出氏は言う。

【インタビュー内容】

岩上「ジャーナリストの岩上安身です。こんにちは。本日は、大阪府の南、熊取町にある京大の原子炉実験所の方にお邪魔しております。今日、三度、小出先生にお話をうかがおうと思っております。小出先生、よろしくお願いいたします」

小出「こんにちは。よろしくお願いします」

岩上「4月1日に初めてお話をうかがって、それから(4月)10日におうかがいしたと思います。ちょうど1ヶ月前でした。その時にお話をうかがったことが、どんどん現実になってきた、もしくは、東電とか政府が認めていなかったけれども、ほぼ追認するようになった。
例えば、最初の頃から仰っておりました、格納容器ではなく、その内側の原子炉そのものを収めている圧力容器の底にどうも穴が開いていると。底に穴が開いているというのは、必ずしも鉄板に穴が開いているとは限らず、いろいろな管を通している穴が元々ありますし、亀裂が入っているのか何なのか分かりませんけれども、とにかく、そういう所から水が漏れている。そして、放射能を含んだ水が外へ流れ続けている。これでは幾ら注水しても、実際、水の減り方が尋常じゃなく、タービン建屋なんかに汚水が溜まっていくわけで、これは明らかに水漏れしている、ということを仰っておりました」

小出「はい」

岩上「それも、(東電・政府が)はっきりと認めない、グズグズグズグズした言い方を続けながらも、ほぼ認めたような状態で」

小出「そうですね」

■ 水棺と循環式冷却

岩上「さらには、漏れることを前提とした形で、圧力容器の外側にある格納容器と一体型にして、ここを全部、水で埋めて水棺にする方法で冷やすことを打ち出したりしました(*)。

* 水棺の方針公表:原子炉内の燃料を冠水させるために適切な注水量の検討を行うことを目的として、本日27日午前10時2分、1号機の原子炉注水量を約6m3/hから最大約14m3/hまで段階的に変化させる操作を開始(冠水は水棺と同意)。
・ 「東北地方太平洋沖地震による影響などについて【午後3時現在】」、東京電力、2011年4月27日:http://www.tepco.co.jp/cc/press/11042706-j.html
私が(4月)1日・10日とうかがった時に、『穴が開いていて漏れているのは非常に絶望的なことだ。大変問題だ。ずっと放射能が環境に放出されてしまう』と。『ただ、一つ方法がある。一体にして冷やしていく方法がある』と。
ここまでは、おうかがいしたんですね。ということは、『あれっ、この水棺という方式が、その方式に当たるのかな』と思ってたんです。
ところが、この1ヶ月の間、小出先生が、例えばラジオ等でお話しているのを聞いたら、『水棺方式はダメなんだ』ということを言ってらっしゃる。私は、自分が聞き間違えたのかなと思いまして。
この一体型で冷やす方法があるということと、水棺方式ではダメなんだということ、これは何か矛盾しているような気がしたんですけれども、この点、ちょっとご説明いただけますでしょうか。よろしくお願いします」

小出「はい。先ず、原子炉圧力容器に穴が開いているという件を少しだけ話させていただきたいと思いますが、圧力容器というのは厚さが16cmもある鋼鉄製の圧力鍋なんですね。それに穴が開いていることは確実です。水を幾ら入れても、燃料棒が露出したままであるということで、もちろん、東京電力も認めているわけですし、原子力学会の学者達は10数名が連名で報告(*)を出しましたが、その報告によれば、今、岩上さんが仰ったように、圧力容器の底にいろんな制御棒とか計測系のパイプが突き通っている、そのパイプが破れて漏れているのではないかという推測をしています。
ただし、私自身は、多分、そうではなく、圧力容器の破れている場所は再循環系の配管だと思っています。ですから、一番底ではなくて、むしろ胴体部分に近い所なんですね。そこで破れているというのが私の推測です」
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* 原子力関連学者達連名の報告:3月31日に元原子力安全委員長ら16名が連名で「緊急建言」を公表。後の4月18日には、日本原子力学会が「現状推定」を公表している。
・ 「福島原発事故についての緊急建言」(資料:特定非営利活動法人 科学史技術史研究所)、元原子力安全委員長ら連名、2011年3月31日:http://ihst.jp/wp-content/uploads/2011/04/a878c2278ed8b8fef1afbc7f30830aea.pdf
・ 「福島第一原子力発電所1 号機~3 号機の現状推定」、日本原子力学会「原子力安全」調査専門委員会・技術分析分科会、2011年4月18日:http://www.aesj.or.jp/information/fnpp201103/chousacom/gb/gbcom01_110418.pdf
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岩上「それは、根拠があるんですね?」

小出「はい。露出してしまっているという燃料棒の高さ、原子炉の中の水位をずっと観測しているのですが、その観測データが、もし正しければ、~これを、念を押さなければいけないのが実に悲しいのですけれども(苦笑)、東京電力の発表は年がら年中間違えていることに後でなるので、慎重を期して念を押しておきますけれども、東京電力の発表が正しければ~ 炉心の水位が全然変動しないのです。
注入する水の量を減らそうが増やそうが、露出している部分の水位の高さが変わらないということで、そこの高さの所で破れているというのが私の推定なのです。そうなると、一番底ではない。今、維持されている水位の辺りで破れている筈で、再循環系の配管が折れているだろうというのが私の推測です。

ただ、いずれにしても圧力容器のどこかに穴が開いていることは確かなわけですから、いわゆる正常な意味での循環冷却系というのは、もう作ることができません。圧力容器に水を入れて、冷やして、熱くなったのを外に取り出して、またそれを圧力容器に戻す、そういうことはできないんですね。水を入れれば入れただけ漏れてしまうことになるわけですから。
そこで、もう仕方がないので、私は圧力容器と格納容器を一体に考えて、その状態で循環式の回路を作るという提案をしたわけです。つまり、圧力容器に水を入れると、必ず漏れてしまうと。でも、その漏れた水は格納容器の底に溜まる筈だと。
その溜まった水をポンプで汲み上げて、途中に熱交換器を入れて、熱だけを奪い取って圧力容器の中に戻す、そういう循環ラインを作るべきだというのが私の主張だったわけです」

岩上「すいません、もう一回聞きたいのですが、圧力容器と格納容器を一体にする→水を入れる→必ず漏れる→溜まった水をポンプで汲み上げる、というのは、圧力容器ではなく格納容器の方にどうしても水が漏れて底に溜まり、底に溜まった物を、既存の配管を使うか新たな管を付けて、どこからかポンプを持ってきて、それを(圧力容器に)もう一度戻す。この辺りのルートを含めて、ちょっとお願いします」

小出「既存の配管はかなりあります。残留熱除去系(*)、あるいは崩壊熱除去系と呼んでいるような系があって、格納容器の底から汲み上げて原子炉の中に戻すというラインもあるのですが、その途中には熱交換器が実は無いのです。ですから、その配管の途中のどこかに熱交換器を入れなければいけない、ということになると思います」
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* 残留熱除去系:原子炉が停止した後に、炉心より発生する崩壊熱及び残留熱を除去・冷却するための系統。
・ 「残留熱除去系」、Weblio 原子力防災基礎用語集:http://www.weblio.jp/content/%E6%AE%8B%E7%95%99%E7%86%B1%E9%99%A4%E5%8E%BB%E7%B3%BB
・ 「残留熱除去系格納容器スプレイ冷却モード系統概略図」、原子力百科事典 ATOMICA:http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/02/02030402/07.gif
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岩上「冷やさなきゃいけないんですよね?」

小出「そうです。冷やせなければ意味がありませんので、熱交換器を入れなければならなくなると思います。逆に、熱交換器をどこかで使いたい、今在る物を使いたいと思うのであれば、そこに流せるように新たな配管を設置しなければいけなくなると思います。
ですから、今在る装置を有効に使うことはもの凄い大切なことで、被曝を少しでも少なくするために、そうして欲しいと思いますけれども、全く予想しなかったことが起きているわけで、既存の物で完璧に役に立つ物はありません。ですから、何かの工事というのは、どうしても必要になると思います」

岩上「人間のやる工事は必要になってしまうと?」

小出「生身の人間がやるしかない工事が絶対に必要です、今の状態では。ですから、少しでも被曝が少なくていいような配管・系統を考えることが大切だと思いますし、それはもちろん、私ではなくて、福島の現場の人達が一番よく知っている筈ですから、彼等の知恵というものに頼って、何とかうまくやって欲しいと思います」

岩上「これは、水棺とはどう違うんですか?水棺は全部水没させてしまうということですね?」

小出「そうですね。水棺というのは、格納容器の中全体に水を満たしてしまうということで、もしそれが可能であればいいと思うのですが、それをやろうとすると、いろいろな問題が生じてくるだろうと思います。
例えば、一番マンガのような話は、2号炉なんですが、2号炉というのはサプレッションチェンバーと言っている格納容器の一番底に当たる部分に、もう穴が開いていることが分かっているのですね。かなり大きな穴だと私は思うのですが、ですから、水棺なんかできないんです、元々。水を入れたって、そこから漏れてしまうわけですから、もう初めから無理なことを言っています。
ただ、東京電力の方は、2号炉についても水棺をすると言っているわけで、どうするかというと、サプレッションチェンバーに今、開いている穴を直します、と言っているのですね。
ただそれは、もう途轍もなく大変なことです。先ず、破れている所が一体どこなのかを見付けなければいけませんが、その現場に行くということは、猛烈な被曝を覚悟しなければ行かれません。漸くにして破れている場所を見付けたとしても、今度はそれをグラウト(*)という流動性のセメントで埋めると言っているわけですが、その作業をするためにも、また膨大な被曝をしてしまうと思います。
そして、本当にセメントだけでうまく破損を治められるかどうかということもよく分からないということですので、2号炉で水棺ということは、私はまず無理だろうと思います。
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* グラウト:セメントペーストやモルタルなどの充てん性をよくした注入材。注入する作業をグラウチング(grouting)といい、岩盤の補強、コンクリート構造物のひび割れ補修、タイルの継目などに用いられる。
・ 「グラウト」、コトバンク:http://kotobank.jp/word/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%88
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その次に、もし水棺ができたとしても、幾つもの問題があります。
既に2号機の格納容器の破損は、今、聞いていただいたように、もの凄い大きな破損ですけれども、1号機も3号機も格納容器が損傷していることは確実です。要するに、どこかに破れがあるわけで、水を入れていけば、その部分からやはり水漏れが起きる。そうなると、今までの破損が、より拡大することもあるだろうと思います。
そして、もう一つは、格納容器というのは巨大な構造物で、その中に水を蓄えようとすると、何千トンもの水を入れなければいけないのですね。
ただし、その格納容器は元々、水を入れるなんていうことは全く考えていないで設計された物ですので、そういう所に水を入れてしまった時に、どういう荷重がどこに掛かって、これから予想される余震の揺れに耐えられるのかどうか、ということも凄い心配なこと」

岩上「水圧も掛かるわけですよね?」

小出「もちろん、水圧も掛かるわけです。何十メートルもの高さがありますので、何気圧もの圧力がそこらじゅうに掛かっていくということになって、私はとても心配です。
私が言っている循環式の回路と水棺方式がどう違うのかというと、東京電力が言っている水棺方式も結局は循環式の回路を付けると言っているんですね。水棺させながら循環式の回路を付けて冷やしますと言っているわけで、結局、循環式の回路を作るという意味では同じことを言っているのです。
ただし、私の場合は、水棺は難しいだろうから、むしろ、やらない方がいいと。圧力容器の中に水を入れれば、さっきも聞いていただいたように、格納容器の底に必ず集まるので、底からとにかく水を汲み上げられさえすれば、それでいいんだと。ですから、できるだけ楽な形で被曝を少なくしながらやる方がいいと思う、というのが私の主張です」

岩上「なるほど。これで疑問が氷解しました(笑)。ここ最近、どうしてなんだろうと思っていたことだったんですけど。でも、仰る通りですね。ここで肝心なポイントは、どうしても被曝する人が出てしまう、という問題ですね」

小出「そうです」

■ 福島原発暴発阻止行動プロジェクト(シニア決死隊)

岩上「これは、非常に頭の痛い問題で。このことに関しまして、最近、メディアは、『シニア決死隊』という言葉を使っておりますが、『福島原発暴発阻止行動プロジェクト』(*)というタイトルで、山田さんという方が名乗りを挙げて、そして、年齢が高い方に同士を募って。自分達は、放射線の感受性が高い若い人よりも、そんなに高いわけではなく、これから先、子供を作るわけでもないと。若い人達を被曝させてはいけない、自分達シニア世代が行くべきだ、というふうに名乗りを挙げてらっしゃるんですね。
それで先日、インタビューを山田さんご本人とお仲間達にしてきました。このUstreamで2時間ぐらいのロング・インタービューをしたんですが」
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* 福島原発暴発阻止行動プロジェクト ホームページ:http://bouhatsusoshi.jp/
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小出「そうなんですか」

岩上「ええ。その直後から、始めたばかりの山田さんのツイッターが、300人ぐらいだったのが、その1、2時間で、いきなり700人ぐらいに激増してたんですけれども、大変反響がありました。
そして、このことを統合本部の会見でぶつけました。東電は、にべもないような、一蹴するような態度だったんですけれども、細野さんは『この話は聞いている』と。『政府として前向きに検討する』と。政府が検討すると言っているにも関わらず、東電の松本さんが『存じ上げないし、考えることもない』というような言い方で、『おかしいじゃないか』と言ったら、『今、初めて聞いたんで、相談せざるを得ない』というふうに、渋々、そういうことを仰っていた。
年齢の高い方の志、尊いと思いますけれども、それを『じゃあ、いけいけ』というふうに背中を後押ししているわけではないのですが、山田さんは『自分は技術者だから、東大の冶金科、今は金属工学科を出たエンジニアなのでプラントのことも分かっているし、合理的に考えたら我々が行くのが理に適っている。これは世の理だ。だから、やるのである』というふうに仰ってたんです。とてもクールで、決死隊とは言っても、死ぬ気なんて全くない、特攻隊とは全く違う、全く逆の考え方で、国家に強制されていない、むしろ、国家に『行かせろ』と、こっちが突き付けているわけだし、生きるために、そして、後の世代を生かすために行くのである、こういうことだったんですね。
この話をお聞きになって、どんなふうにお考えなのか。ちょっと小出さんのお考えを是非、お聞きしたいなと」

小出「私も、その一員なのです」

岩上「そうなんですか(笑)」

小出「はい」

岩上「何となく、噂では聞いていたんですが、もう入ってらっしゃるんですか?」

小出「はい」

岩上「60人、志願している人が集まってらっしゃるという、その中に、もうお入りになっている?」

小出「そうです」

岩上「そうですかっ。しかし、こう言っては何ですが、頼もしいと言えば頼もしいし、心配と言えば心配ですし。小出さん、大丈夫ですか、という思いと、ちょっと複雑になるんですけれども。どうして志願をされたんですか?」

小出「今、岩上さんが仰った通りです。要するに、私も既に60(歳)を過ぎていて、放射線の感受性が大変低くなっている人間ですし、特に山田さん自身は、原子力に携わった人ではありませんから責任がないと思いますが、私自身は原子力に携わってきた人間として、今回の事故に関して責任は必ずあると思います。
もちろん、私は原子力の旗を振ってきたわけではないけれども、それでもやはり、原子力の場に居る人間として責任がある、と私は思いますので、この事故を収束させるために、私に、もしできることがあるのであれば担いたいと思います」

岩上「頭が下がるとしか言いようがないんですけれどもね、その志。政府は検討するというようなことなんですけれども、これは実現する可能性があると思いますか?」

小出「自分で言うのも何ですけれども、意気込みがあっても役に立たない可能性はあると思うのです。山田さんもそうかもしれないし、私もですけれども、例えば、私のこの職場、京都大学原子炉実験所で何か事故が起きるということになった時に、本当にその事故の収束に役に立つのは、やはり実験所の所員です。実験所の隅から隅まで知っている人間達が、その事故の収束に当たる以外に私はないと思います。
ですから、もし外部の人が、何か自分も手助けしたいから一緒にやらせてくれ、というふうな申し入れがあったとしても、受ける方の私から見ると、『結構です』と。危険もあるし、実際には多分、役に立つようなことはない筈ですので、『結構です』というふうにお断りするだろうと私は思うのです。
ですから、今の福島の事故を収束させる力というのは、やはり福島の原発の人以外にないと私は思うのです。

ただ、最近もまた明らかになりましたけれども、ただただ被曝をさせるために必要な作業というのはあるのですね。大阪の西成から宮城県で働くんだといって借り出された労働者が、行ってみたらば福島原発の現場だったと。それで、防護服を着て作業をさせられたということが新聞に出ていましたけれども、そういう、特別な能力がない人でもできる仕事がある筈なので、せいぜい、そんなことならばお役に立つかもしれないと思いますが、本当に今の福島の困難な状況を一歩でも良い方向に動かすために、私の力が使えるんだろうかと考えると、多分、ないかもしれないと思います」

岩上「私は、もしかしたら副次効果の方が遥かに大きいかもしれないと。皆さんが行かれて、確かにそれに習熟しているわけではない、というのは事実だと思うんですね。ただ、例えば、山田さんであったり、あるいは小出さんといった方がそこに入られた時に、いわば、目になり耳になると思うんですよ。
今現在、1400何十人という人が働いているんですけど、一人として名前も顔も分からず、声も肉声も知らない。そして、その人達がどんな現場でどのように従事しているのか、一切がブラックホール(ボックス)にあるんですね。
こんなに情報が非公開、匿名の名無しの権兵衛状態というのは、類例を見ないと思います。スリーマイルの時も、チェルノブイリの時もそうでしたが、チェルノブイリの時は、あれだけ情報閉鎖のソ連という国の中にありながらも、立ち働いた兵士や労働者の顔は見えましたし、フィルムが今でも残ってますし、皆さんインタビューに答えてますし、今の日本の福島原発の状況より遥かに開放的なんですね。
それでも(ソ連は)閉鎖的だと散々、国際社会から批判を浴びて、そして、グラスノスチ(*)という情報公開が必要だということになり、ゴルバチョフ政権がペレストロイカの柱にグラスノスチを据えるわけですね。それから見ると、それよりも遥かに、つまり、ソ連以下の状態に今、間違いなくあると思うんです」
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* グラスノスチ:旧ソ連においてペレストロイカ(改革運動)のもとで進められた言論・情報政策で、公開制(性)、情報公開と訳される。
「グラスノスチ」、コトバンク:http://kotobank.jp/word/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%8E%E3%82%B9%E3%83%81
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小出「そう思います」

岩上「この質問をした時、遮るんですよ、東電の司会者はね。『質問をもっと端的に』と邪魔をするんですね。質問が長いかどうかの問題ではなくて、このこと自体を深刻に考えない、これほどの情報の閉鎖性を深刻に考えない。この問いかけを遮るということ自体、感覚が異常に鈍化していると思うのですが、もし本当に、小出さんや山田さんのような、ものを言う人、ものを見る人、考えることができる人が行かれたら、実際には本当に僅かな簡単な作業に従事するのかもしれませんけれども、例えば、放射線の防護服は低レベルな物でいいとはとても言わないと思いますし、皆さん、もの申すと思うんです。
それは、今現在の作業員の被曝環境を劇的に改善させることにも繋がるのではないか、そこの人達の人権を守ることにも繋がるのではないかと思うんですが。そういう副次的な効果は絶大じゃないかなと思うんですが」

小出「あるかもしれませんけれども、効果があるとしたら、東京電力は益々、嫌がるでしょうね(笑)」

岩上「そうですね(笑)。東電にとっては非常に不愉快なことで。でも、東電にとって不愉快なことというのは、もしかしたら日本国民にとって、そして、人類にとって素晴らしいことの可能性が大いにあるので。私は、行ってくださいと言える身ではないんですけれども、謙虚に仰っているんだと思いますが、しかし実は、価値のない行為ではなくて、とても価値のある問いかけではないかと」

小出「それは、山田さんがそういう発想をしてくださって、きちっと周辺の人達をまとめて、ここまで引っ張ってきてくれた山田さんの力だと思いますので、それが生かせるようになることをもちろん、私も願っています」

岩上「なるほど。山田さんとは元々、お知り合いで?」

小出「ないのです。今回、初めてご連絡をいただいて、趣意書等を彼が私に送ってくださいましたので、『私も賛同します』と言って、名前を連ねさせていただいたという一人です」

■ 現在の福島第一原発の状況

岩上「そうですか。また、統合会見で質問したいと思います(笑)。

すいません、ちょっと話を変えますが、現在の原子炉の状況は一体どうなっているのか、毎回、その度ごとにお聞きしています。大変、危険な状況になっているのではないか。例えば、公式的にも1号炉は70%以上被覆管が損傷し、ペレットも溶けているのではないかということは仰ってました。ところが、これに関して、新たな爆弾発言が4月にありました。『朝まで生テレビ』(*)で、原子力の推進派になるでしょう、原子力技術協会(*)の最高顧問をされている石川さんという方、小出さんとはお立場、全く反対になる方かもしれませんが、そういう立場の方が、『1号機から3号機まで全部、恐らく溶けているだろう』と。そして、『どうしていいかは、誰にも分からない』とまで仰ったんですよ(苦笑)。ご存知かどうか?」

* 「激論!東日本大震災から50日!~今、何をすべきなのか?」、朝まで生テレビ(テレビ朝日)、2011年4月30日:http://www.tv-asahi.co.jp/asanama/video/1104/program.html
* 一般社団法人 日本原子力技術協会 ホームページ:http://www.gengikyo.jp/
小出「そういう発言を石川さんがした、というのは聞きました」

岩上「そうですか。これは大変ショッキングで、これをやはり統合本部でぶつけました。それで、彼等側からすると、東電・(原子力安全)保安院・政府も粗末に扱えない人物ということで、大変、敬意を払いながら慎重に、彼の発言を否定するという形ではないように言ってたんだけれども、保安院の西山さんが特にはっきり仰いました。『誰も全然分からない。これが事実です。溶けちゃっているかもしれないし、何も分からない。なので、そういうこともあり得るかもしれないけれども、確認が取れない』と。
『ただ、どうしていいか分からないわけではない。どうしたらいいかは分かっていて、やるべきことをやっている』と、こういうふうに仰ってたんです。
原子炉の状況というのは、今の時点で改めて、どのようになっているとお考えですか?」

小出「『どうすればいいか分かっている』と西山さんが仰ったということですけれども、そうです。それは事故の一番初めから現在まで、やるべきことは唯一つです。原子炉を冷やすということです。原子炉を冷やすためには、水を入れることしかできません。もう、それ以外の選択は一切ないのです。ですから、それを今日までやり続けてきた、ということになっています。

ただし、やり続けてきたのだけれども、正常な冷却回路は既に失われてしまっているわけですし、それを取り戻すことすら途轍もなく難しい状態で2ヶ月を経てきてしまって、その間に原子炉自身の崩壊がどんどん進んでいるのですね。
燃料棒の被覆管は既に、東電自身が認めているように、何十%が損傷してしまっている。被覆管が損傷してしまいますと、中に入っているウランの燃料ペレットがボロボロとこぼれ落ちてくることになりますし、こぼれ落ちてきてしまえば、今度は冷却が困難になりますので、冷やせなくなった所から溶けていくということは、もう当たり前のことなんですね。でも、どこまで溶けているのかということが分からない。それは誰にも分からない。石川迪夫(いしかわ みちお)さんにも分からないし、西山さんにも東電にも分からない、そういう状態のまま、今日まで来ているわけです。
でも、やるべきことは分かっている。つまり、水を入れるということだ、ということで、ひたすら被曝をしながら水を入れるという作業を続けてきているわけです」

岩上「今、どの程度損傷しているかは分からないとは言いましたが、分からないなりに様々な傍証から、それぞれのお立場の人が、恐らくはこの程度溶けてしまっているのではないかと。そして、溶けることによってメルトダウン、そして、(燃料が)より集まって、これは前回・前々回とも詳しくお話していただきました再臨界の可能性、そして、既にもう起きているんじゃないかということも仰ってた。
さらに、その向こう側に最悪の最悪の最悪のシナリオとして、格納容器の底に溜まっている水とこれ(溶融物)が接触することで、水蒸気爆発が起こるかもしれない。
そうなると、炉内に入っている、施設内に入っている大量の放射性物質が外界に拡散してしまい、壊滅的な破局を迎えてしまうかもしれない。このシナリオを語っていただいたんですけれども、どの段階に今、あるとお考えですか、小出さんご自身は?」

小出「はい。ウランの燃料そのものは、炉心という部分にあるんですね。その炉心という部分は、燃料棒、あるいは燃料棒が集まった燃料集合体という物で構成されているわけです。
その炉心部にある燃料棒が何十%も壊れているということは、多分、本当だと思います。東電も言っているし、国も多分、そう言うし、石川さんもそう言うだろうと思いますし、私もそう思います。

ただし、その何十%のどの部分が壊れているかというと、燃料棒というのは4メートルぐらいある細長い物なのですが、今は、その上部半分ぐらいが水面から顔を出しているという状態なので、つまり、下部は未だ水に浸かっているし、上部が露出している状態で、上部が壊れているのだと私は思います。
そうすると、壊れてしまった上部の燃料棒から燃料ペレットという物がボロボロ落ちてくるわけですけれども、下部は未だ残っているんですね。燃料棒も残っているし、チャンネルボックス(*)というボックスも多分、残っていると思いますし、原子炉を支える構造の板自身も残っていると私は思っているのです。
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* チャンネルボックス:燃料集合体を覆うカバー。
・ 「燃料集合体の構造」、でんきの情報広場(電気事業連合会):http://www.fepc.or.jp/learn/hatsuden/nuclear/nenryoushuugoutai/index.html
・ 「BWR用ウラン燃料」、原子力百科事典 ATOMICA:http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=04-06-03-01
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そうすると、上部の方が壊れて、ボロボロとペレットがこぼれてきたとしても、多分、炉心という部分から下には落ちられないだろうと。下部に構造が残っているので。ですから、ウランの燃料ペレット自身は未だ炉心部に残っているというのが、私の推測なのです。
その一部が溶けているということは、多分、本当だと思います。
それで、原子力学会の人達がどう考えているかというと、溶けた物が既に炉心部から原子炉圧力容器の底に流れ落ちている、というのが原子力学会の人達の推測なんですね」

岩上「メルトダウンですよね、そうなると」

小出「まあ、そうですね。一部分のメルトダウンですね。それが圧力容器の底に流れ落ちていって、圧力容器の底に貫通している制御棒駆動装置用のパイプであるとか、それを溶かしているというのが原子力学会の人達の推測なわけですけど、私は違って、溶けた燃料、あるいはウランの燃料ペレット全体は未だ炉心部にあると思っている」

岩上「意外に、と言ったら失礼ですけど、楽観的というか悲観的ではない」

小出「私の方が悲観的なのです」

岩上「そうなんですか?」

小出「はい」

岩上「これは分からないものですね」

小出「どうしてかというと、未だ炉心の半分程度は水に浸かっているから助かっていると私は思っているのですね。破局的な破壊が進んでいないと思っている。上部の方は一部溶けてしまっているけれども、未だその場に残っていると思っているわけです。
でも、今までずっと続けてきた、水を入れるという作業が、何かの原因で出来なくなる、それで、現在の水位がどんどんどんどん減っていくことになると、現在は未だ壊れていない燃料棒の下部の方もどんどん壊れて、損傷が進んで、溶けるということも進んでいくだろうと思うのです。それがどんどん進んでいって、炉心全体が溶けてしまうような時が、もし来るとすると、もう支える物がないので、一遍に落下するだろうと私は思っているのです」

岩上「そうなんですか」

小出「その時には、圧力容器の底に未だ水が残っている筈ですので、その圧力容器の底に水が残っている所に溶けた炉心全体が落下するというようなことになると、そこで水蒸気爆発が起きるのです」

岩上「水蒸気爆発が起こる水分というのは、格納容器の水分ではなくて、圧力容器の…」

小出「格納容器の可能性もあるんですけれども、私が一番恐れているのは、原子炉圧力容器の中の水と、溶けた炉心が反応する水蒸気爆発なのです」

岩上「そうですか。より内部で起こることですね?」

小出「そうです」

岩上「それは一気に起こる可能性がある?」

小出「一気に起こる可能性があります」

岩上「なるほど」

小出「そうすると、その爆発は、もの凄く巨大な爆発になる筈で、圧力容器は多分、吹き飛びます。そうすると、その外側にある原子炉格納容器というのは、比較的ペラペラな容器ですので、それも吹き飛ぶと私は思っているわけです。そうなると、炉心は溶けてしまっている、圧力容器は破壊されてしまう、放射能を閉じ込める最後の防壁である格納容器も壊れてしまう、ということになるので、もう、どうにもなりません」

岩上「ずっと溶けてメルトダウンが起こっている方が悲観的なシナリオかと思ったら、そうではなくて、未だ(炉心が)残っている時に、もし水位が下がって一挙に落ちてしまう方が、いわば、ゆっくり進むのではなく劇的に進行してしまうので、大爆発になってしまう可能性があると?」

小出「そうです。既に溶けて下に落ちているというのなら、まだ良いんだと思います」

岩上「下に落ちて、もしそれが集まって再臨界を起こしていても、この間仰っていたみたいに、ブスブスとした不完全燃焼のような状態で、しかも臨界に至ると膨張するので、また暫く止まり、ということを繰り返す」

小出「はい。私は、まず再臨界は起きないと思っているし、仮に起きたところで、大した問題ではないと実は思っているのですね」

岩上「なるほど。この問題に関連して、4日ぐらい前の夕方ぐらいですか、その時の統合会見に私は出てましたが、3号機(の温度)が『上昇しています』と、さらっと報告があり、以後、毎日上昇しています。ここへ来る時に333℃まで上がったという報告(*)がありました。これは一体、何を意味するんでしょうか?そして、今の時点で、『原因は分かりません』と言っているだけで終わっているんですよ。
先日の夜中に大変な煙が上がったということが、TBSのJNNが撮っているライブカメラ(*)で映されて、一時、騒ぎになりました。この質問に対しても、『パラメータに何の変化もないので、ただ湯気がそのように見えたんじゃないですか』で終わっているんですけれども。これは、そうなのかもしれません。」

【途切れる、34:18】
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* 温度上昇:RPV胴フランジ部の温度が5月4日から上昇し200℃を超え、5月7日には300℃超え、5月9日11時には333.9℃となる。
・ 「地震被害情報(第132報)(5月10日8時00分現在)及び現地モニタリング情報」、原子力安全・保安院、2011年5月10日:http://www.meti.go.jp/press/2011/05/20110510001/20110510001.html
・ 「1F-3 温度に関するパラメータ」、東京電力、2011年5
月9日:http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/images/032_1F3_05091200.pdf
・ 「 【参考】計測地点」(温度計測の場所を示した図)、東京電力:http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/images/measured_point.pdf
* JNN福島第一原発情報カメラ(LIVE):http://news.tbs.co.jp/newsi_sp/youtube_live/
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(34:46)
小出「今、333℃ということを仰ったわけですけれども、大変、異常な温度です。通常運転時でも200何十℃にしかならない、ウランの核分裂反応が続いている場合でもそのぐらいの温度にしかならないのに、それを既に超えてしまって333℃というのは、かなり異常なことが起きていると思うしかありません。

それで、温度というのは、発熱と除熱のバランスで決まるのですね。熱を奪って冷やすよりも発熱の方が大きければ、どんどん上がってしまうわけだし、発熱よりも冷やす方の力が強ければ、どんどん温度が下がっていくという状態になるわけで、1号機・2号機・3号機は、これまでは一応、平衡状態というか、上がりもしなければ下がりもしないという、そういう状態で何とか維持してきたということなわけですね。
ところが今、3号機で突然上がり始めているということなわけですから、何か異常なことが起きているということは確かだろうと思います。

異常なことの原因は、いろいろ考えることができます。入れているつもりの水が入っていないという可能性もありますし、どうも東電はそれを疑っているようで、新たに別の配管から水を入れるようにすることを考えているようで、もし、東電の推測通りで、それができれば、温度は下がる筈だと思います。
ただし、333℃というのは尋常な温度ではありませんので、例えばですけれども、原子力学会の人達が推測しているように、溶けたウランが圧力容器の底に流れ下ってきたようなことになれば、底の部分は、もの凄く冷却し難くなりますので、その部分の温度が上がるということは考えられると思います。もう少し様子を見させてください」

岩上「なるほど。先ほどの劇的な危険なシナリオというのは、水位が下がったら、ということだったんですね。だから、水位が下がってしまうことは、全て劇的に破局に向かうシナリオに関わっているので、大変なわけですね。3号機が今、発熱か除熱かのバランスで、ちらっと最後に仰ったのは、発熱の原因の方を指し示されたわけですね?」

小出「発熱体が圧力容器にくっ付いちゃった、という意味ですね」

岩上「より熱が上がる原因が増えてしまったということですね」

小出「そうです」

岩上「状況はさして変わってないけれども、何らかの形で水漏れが酷くなった、注水する能力を超えて、例えば、破損、亀裂、水漏れの箇所が広がったとか、もちろん、これは推測で申し上げていますが、そのために水位が下がって、除熱の力の方が弱まって、それで平衡が崩れて、温度が上がったと考えることもできなくはない?」

小出「できますけれども、でも、炉心の水位というのは変わってないんです」

岩上「なるほど」

小出「ですから、水は相変わらず一定の高さまである、というふうに東京電力のデータは示しているんですね。ですから、これも本当かどうか疑わなければいけないのですが(笑)」

岩上「それが真実だとして、ということですね」

小出「そうです」

岩上「後で変わりますからねぇ。都合よく変わるんで。
そうですね、それが真実だとすれば、今の私の仮説は成り立たないことになるわけですね」

小出「そうですね。水漏れが酷くなったと今、岩上さんは仰ったわけだけど、そうなれば必ず水位は下がりますので。東電のデータを見る限りは下がっていない。それならば、水漏れが酷くなった、ということは成り立たないと思います」

岩上「もしこれが、熱が上がり、且つ、水位が下がったということが発表されたら、その時は相当危険だということですね、この2つ揃うと?」

小出「そうですね」

■ 福島第一原発3号機の爆発は本当に水素爆発か!?

岩上「本当に注視したいと思います。

この3号機に関しては、3月14日に爆発がありました。水素爆発と言われておりました。実はこれについて、未だに議論といいますか、疑義が呈されております。Youtube等で爆発時のシーンが、繰り返しビデオ検証されています。1号機の爆発は非常になだらかな爆発だったのに対して、垂直方向に勢いよく爆発している、煙の色も違う、それから、爆発には様々な種類の爆発があるんだと。
いろいろな角度から検証していくと。世界中で、例えば、ベルリンで観測されたデータなどというものも持ち出されてきている。各国の学者が『これは水素爆発ではないんではないか』と。バズビーさんという先生と、ガンダーソンというような方がよく発言されてます。それがまた、日本で邦訳されて取り上げられている(*)。それに小出さんがコメントを付されていたりしますね。
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* 福島第一原発3号機の爆発は核爆発だとする見解をクリス・バズビー氏やアーニー・ガンダーソン氏が出しており、海外でのインタビュー動画がYoutube等にUPされている。また、様々なブログでインタビュー内容の邦訳が記されている(以下、一例)。
・ 「Gundersen Postulates Unit 3 Explosion May Have Been Prompt Criticality in Fuel Pool」(アーニー・ガンダーソン氏のインタビュー):http://www.universalsubtitles.org/ja/videos/2TnNJkefdfyZ/ja/72595/
なお、後に、本件については、爆発自体は水素爆発であるが、衝撃波が音速を超える「爆轟」と呼ばれる爆発現象だったとの報道がなされている。
・ 「3号機爆発は『爆轟』」、東京新聞、2011年6月6日:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011060690070521.html
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この核爆発の可能性や、あるいは、塩素38という物が検出されたことに関して、これは後に東電は『未検出』と発表し直す(*)んですけれども、そのデータを公開すればいいのに、ということも仰っている。
この3号機の爆発の検証、あるいは核分裂反応があったのではないか、その証拠として今、言ったような塩素38とか、他のいろいろな核種が見付かっていること等について、もう1回お話いただけないでしょうか」
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* 塩素38の検出:3月25日に東京電力が、1号機タービン建屋地下の溜まり水から「Cl-38(塩素38)が1.6×106」が検出されたと発表。
・ 「福島第一原子力発電所1号機タービン建屋地下の溜まり水の測定結果について」(東京電力2011年3月25日公表)、原子力安全・保安院、2011年3月25日:http://www.meti.go.jp/press/20110326001/20110326001.html
後の4月20日に、再評価の結果、検出されなかったと訂正。
・ 「福島第一原子力発電所から検出された放射性物質等の核種分析結果の再評価等について」、(東京電力2011年4月20日公表)、原子力安全・保安院、2011年4月20日:http://www.meti.go.jp/press/2011/04/20110420006/20110420006.html
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小出「はい。塩素38というのは、かつて東京電力が自分で見付けたと言ったのですね。それは1号機のタービン建屋の水の中から見付けたと言っているのです。
1号機のタービン建屋で、塩素38という放射性物質を検出したと東京電力が公表しました。この塩素38という放射性核種は、天然にある塩素が中性子を浴びてできる放射性物質でして、つまり、それが存在していたということは、中性子がどこかにあったということなんですね。そうすると、中性子というのは、ウランの核分裂反応が起きることで初めて大量に出来てくるわけで、私は『東京電力の発表が正しければ、1号機で再臨界が起きたという以外に説明が付かない』というふうに言ったわけですね。
ところが、一月ぐらい経ってから東京電力が『塩素38を検出したというのは間違いだった』というふうに言いましたので、多分、再臨界ということはないと私は思います。

実は再臨界、臨界でもいいですけれども、原子炉の中で予期しないでウランが燃えるというようなことは、まず起こらないと私は思っているのです。今、日本で使っている沸騰水型、あるいは加圧水型という原子炉は、炉心の構造が全く健全である時が一番、臨界が起こり易いという設計になっているのです。ですから、その健全性が失われてしまいますと、どんどん臨界が起き難くなるという原子炉ですので、壊れてしまった炉心がもう一度臨界状態になる可能性は、限りなく少ないと私は思っていたので、1号機の再臨界も本当だろうかと、もちろん初めから思っていたわけです。でも、『塩素38が検出されたということが本当であるなら、それ(再臨界)しか可能性はない』というふうに発言しました。

今度は、3号機の使用済み燃料プールのあった場所で、巨大な爆発が起きたのですね。その巨大な爆発の原因が何かということで、今、いろいろな推測が飛び交っているわけです。私は水素爆発だと思ってきました。何故かと言えば、使用済み燃料というのは、普通の燃料と同じように、ジルコニウムという金属で被覆管が出来ているわけで、それの温度が上がってしまうと、水と反応して水素を出すと。
そして、使用済み燃料プールというのは、普通の空気が存在する環境にあるわけですから、水素が出てくれば、空気中の酸素と(反応して)爆発を起こすことは当たり前のことなのであって、3号機の爆発は水素爆発だと思っていました。
ただ、今、岩上さんが仰ったように、3号機の爆発というのは、1号機の爆発に比べて遥かに巨大な爆発だったし、上方向に何か噴き上げたんですね。それから、横方向に黄色い炎が噴き出したということもありましたし、何か不思議なことが起きたことは本当だろうと思います。それを取り上げて、即発臨界(*)という、いわゆる、核爆発に似た現象が起きたのではないか、というのがバズビーさん達の主張なんですね。
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* 即発臨界:核分裂反応の際に放出される中性子によって、核分裂の連鎖反応が引き起こされる「臨界」のうち、特に、核分裂の直後に放出される「即発中性子」のみによって臨界に達すること。
・ 「即発臨界」、Weblio:http://www.weblio.jp/content/%E5%8D%B3%E7%99%BA%E8%87%A8%E7%95%8C
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でも、これも、使用済み燃料プールにあった使用済み燃料が即発臨界を起こすなどということは、私の常識からすれば論外だと思います。そんなことは、本当に滅多に起こらないと私は思っています。

ただし、一つ、私は疑念が生じたことがあります。それは、CTBT(*)という国際的な条約があるんですね、包括的核実験禁止条約という。その条約が本当に有効に機能しているかどうかということを検証するために、世界中に大気中の微量な放射性物質を監視し続けるという機関があるのですね。
それで、どこかで核実験を行えば、すぐに分かる機関があって、日本の場合には、高崎にその機関があるのです。
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* 包括的核実験禁止条約(Comprehensive Nuclear Test-Ban-Treaty、CTBT):宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる空間における核兵器の実験的爆発及び他の核爆発を禁止し、かつ条約の遵守を検証するために国際機関(CTBT機関)を設置し、核実験を探知・検証するために必要な検証手段(国際監視制度、現地査察、協議及び説明、信頼の醸成についての措置)を設けた核軍縮・核不拡散条約。
・ 「CTBTとは」、財団法人 日本国際問題研究所 軍縮・不拡散促進センター:http://www.cpdnp.jp/002-06.html
※ 「高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況」も本サイトから参照できる。
・ 「包括的核実験禁止条約 (CTBT)」、外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/ctbt/
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その高崎の機関で、ずっと大気中の放射性物質を測定しているのですが、3月15日から16日にかけて測定、分析したという空気中の放射性物質の中に、ヨウ素135という放射性物質が大量にあったという報告があるのです。ヨウ素135というのは、半減期が6.7時間しかありませんので、もし3月11日に原子炉が本当に停止したのであれば、もう、そんな物は3月15日・16日までには残っていない筈なのです。
それでも大量に検出したということは、3月14日の爆発が、いわゆる核分裂反応と関係していたのではないか、という疑いを私は捨てきれなくなっているわけです。
ただし、高崎のその研究機関は、当初はそのデータをずっとホームページ上で公開していたのですけれども、4月になってからのデータでは、それがなくなってしまっているのです。
ですから、東京電力の公表データがひっくり返されてしまうということは、これまでも何度もあったことなわけですけれども、今回のものも、ひょっとするとまた『間違いでした』ということになってしまうのかもしれませんが、でも、一度自分が公表したデータであれば、それを引っ込める時には、何かしらの意見表明が必要だろうと、私は思うのですが」

岩上「そうですね。説明が必要ですよね」

小出「はい。何もないままなので、不思議なことだと思いながら今、見ているところです」

岩上「ベルリンで観測されたキセノンという物質に関して、それを分析すると、それが核分裂反応の証拠であるというふうに仰っているんですね、確かバズビーさん。これは、どういうふうに説明されるんですか?」

小出「キセノンはもちろん、核分裂反応で出来る物ですけれども、それは3月11日までに、もちろん、たくさん出来ていて、それが3月12日の1号機の爆発でも大量に放出されたし、3月14日の爆発でも、もちろん大量に出てきたわけですけれども、3月14日の3号機の使用済み燃料プールがあった場所での爆発で出来たという証拠はないと思います」

岩上「なるほど。それは必ずしも同意しているわけではないということですね」

小出「はい」

岩上「東電に塩素38のことに関して、スペクトルと言うんですか、『生データを出すべきではないか』と聞いた時に、『自分達で分析しました。それから、自分達の知り合いの会社に出して、第三者ですけれども、やってもらいました。確認が取れました。無いということが分かりました。だから、生データは出さなくていいです』と。
『出さなくていいですではなくて、いろいろな疑いが指し示されているのだったら、世界中の学者に対して、反証可能性と言いますか、開かれた態度で出せばいいんじゃないですか』『いいえ、出す必要はないです』と、ただの押し問答で、出さなくていい論理は出ないんですけど、何故、出さないんだと思いますか?
小出さんは出すべきだというふうに仰ってたと思いますが、その点はいかがでしょうか?」

小出「出してくれたら、一瞬で解決する」

岩上「疑いが晴れる?」

小出「はい。ですから、何で出さないのか、むしろ、その方が分からないですね。測定は、ゲルマニウム半導体検出器(*)という特殊な放射線測定器を使っているのですが、そのデータは、要するに、数値の羅列ですよね。4000個とか8000個という数値の羅列なのですが、そのゲルマニウム半導体検出器を使っている人間から見れば、その数字の羅列を見れば、一遍で分かることがあるわけです。
数字の羅列に何もプライバシーが関係するわけでもないと思いますし、そういうデータこそ、別に何の問題もなく出せるものだと思うのですね。これからのこともありますので、是非とも生データを公表するようにして欲しいと私は願います」
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* ゲルマニウム半導体検出器:ゲルマニウム半導体に入射した放射線(γ線)がその中で作り出す荷電粒子の運動経路に沿って生じる自由電子を利用して放射線を検出する機器。
・ 「ゲルマニウム半導体検出器」、独立行政法人 東京都立産業技術研究センター:http://www.iri-tokyo.jp/joho/kohoshi/tiri/backnumber/documents/tn20071005.pdf
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■ 年間20mSv問題

岩上「分かりました。バズビーさんという方は、ECRR(*)という機関に関係している方だということを聞きました。ECRRというのは、ヨーロッパ中心の組織で、既存のICRP(*)に対して大変批判的で、且つ、人間における放射線の影響を非常に重く見る。いささか、それは言い過ぎなんじゃないか、というふうにECRRを批判する人も居るそうです。
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* ECRR(European Committee on Radiation Risk):欧州放射線リスク委員会。
ECRR ホームページ:http://www.euradcom.org/
* 国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection:ICRP):専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う非営利、非政府の国際学術組織。
「国際放射線防護委員会(ICRP)」、原子力百科事典 ATOMICA :http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=13-01-03-12
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20mSv問題についてお聞きしたいんです。1mSvを20mSvに上げてしまった、これが今、大変大きな問題になっています。今というか、ずっとなっています。政府・東電側は、ICRPを参照したということをずっと言い続けています。
そして、ICRPが国際的な放射線防護に関する絶対的で、且つ、唯一の権威であるかのように言い続けて、他に、そうした権威がないかのように表現し続けているわけです。
ところが、今言ったECRRもある。もしかしたら、ECRRは極端なのかもしれませんが、それ以外に米国(科学)アカデミー(*)というものもある。あるいは、先ほど、実は始まる前にちょっと雑談していた時に仰っていた、『人間と放射線 ~医療用X線から原発まで~』(*)という大変分厚い本があって、これを小出さんが、お訳しになったということですが」
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* 米国科学アカデミー:National Academy of Sciences、NAS。
NAS ホームページ:http://www.nasonline.org/
* ジョン・ゴフマン著、『人間と放射線 : 医療用X線から原発まで(原題: Radiation and human health)』、伊藤昭好、今中哲二ほか訳、社会思想社、1991年
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小出「私が、私の仲間と一緒に」

岩上「そうですか。J・W・ゴフマンさんという学者さんが大変権威のある方で、小出さんはこの方を大変信用できるというふうに仰ってらっしゃる」

小出「はい」

岩上「この方のポジションも、ICRPとも微妙に違ったりとか?」

小出「もちろんです」

岩上「それぞれポジションが皆、違うわけですね?」

小出「そうです」

岩上「そういうような方々が、こういう20mSvのような放射線の許容の基準というものを変えるに当たって、いろいろな考え方、いろいろな基準をどこまで受け入れられるか、~受け入れられるという言い方は本当は良くないのかもしれません、しきい値はないということなのかもしれませんが~ その基準になる考え方を指し示しているということだそうですけれども、そこをご解説願えないかなと思うんです。
先ほど、ちょっと見せていただいたパワポ(power point)があったんですけれども、根本的にICRPの考え方一つだけしかないわけではないと。他にも考え方があると。ちょっと教えていただけませんか」

小出「もちろんです。放射線を被曝した時の影響の出方(*)というのは、2つあるのですね。1つは急性症状、急性障害と呼んでいるものです。例えば、死んでしまうであるとか、髪の毛が抜けてしまうとか、火傷をするとか、吐き気・下痢というような症状が出る、というようなものが急性症状です。枝野さんが、『直ちには影響が出るレベルではない』ということを、口癖のように一時期言っていましたけれども、それは急性症状が出ないという意味です。
放射線被曝をした時に、もう一つ出る障害というのがありまして、それは晩発性の障害と私達は呼んでいます。『晩』、つまり、後になって出てくる、そういう障害。それは何か、端的に言うと、癌なんですね。
それは、どうして分かったかというと、広島・長崎で被曝をした人達を、米軍が先ず囲い込んだのですね。約10万人の人達ですけれども。『お前は一体どこで被曝をしたのか。家の中だったのか外だったのか』ということを丹念に聞き取りをしまして、こいつの被曝量はどれだけだった、ということを先ず決めるのですね。
それから今度は、その一人一人がどういう運命を辿るかということを、毎年毎年、米軍の研究機関、ABCC(*)と言っている機関ですけれども、そこに『来い』と言ったわけですね。来たところで、何の治療もしてくれるわけではないのですけれども、まだ生きている、あるいは癌になっているということを調べるわけですね。
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* 被曝の影響出方についての解説。
・ 「放射線の健康影響」、よくわかる原子力(原子力教育を考える会):http://www.nuketext.org/kenkoueikyou.html
* ABCC(Atomic Bomb Casualty Commission):原爆傷害調査委員会。
1945年8月に広島と長崎に原子爆弾が投下され、この原爆放射線被ばく者における放射線の医学的・生物学的晩発影響の長期的調査を米国学士院-学術会議(NAS-NRC)が行うべきであるとするハリー・トルーマン米国大統領令を受けて、米国学士院が1946年に原爆の被爆者の調査研究機関として設立。1975年4月に発足した(財)放射線影響研究所(http://www.rerf.or.jp/index_j.html)の前身。
・ 「原爆障害調査委員会(ABCC)」、原子力百科事典 ATOMICA:http://www.rist.or.jp/atomica/database.php?Frame=./dic/dic_detail.php?Dic_No=1649
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それで、被曝をしなかった人々と比べて、被曝者にどういう影響が出たのかということを、何十年も調べ続けたわけです。その結果、被曝者と呼ばれている人達は、癌の発生率が高くなっていることを見付けるのですね。
でも、初めの内は、かなりの被曝をした人でないと、癌の発生率が高いことを見付けることができなかった。でも、また調査を続けていくと、もっと低い被曝をした人でも、癌の発生率が高いことが分かってくるわけですね。
さらにまた、時間を長く調査をすると、やっぱり、もっと低い被曝の人にも癌が出ることに気付かざるを得なかったわけです。

既に被曝をしてから65年以上経っているわけですけれども、調査をすればするだけ、低い被曝量の人の中にも癌が増えていることが分かってくるという、そういう科学の歴史を辿ってきたわけです。
それは、疫学という分野の学問なのですが、大変長い時間と、たくさんのサンプルとかコホート(*)とか呼びますけれども、要するに、今の場合は生身の人間を調査の対象にしてやらなければいけないという困難な学問なんですね。そういうデータは、もちろん被曝者という人達のもあるわけですし、原発の労働者というのもあるわけですし、原爆実験で被曝をした人達のデータもあるし、医療上の被曝のデータもある。それをどうやって集めて、被曝の危険さを評価するかということは、様々な機関でいろいろな取り組みがなされてきたわけです。
その一つはICRPという組織であるわけだし、米国科学アカデミーの中には、それを専門に検討する委員会、私達はベイル(*)と呼んでいますけれども、BEIRという委員会もある」

岩上「BIR?」

小出「BEIRです。Biological Effects of Ionizing Radiationという委員会ですけど、そういう委員会でも検討してきたし、ECRRも、もちろん、その一つなわけですし、他の研究者も様々な研究を重ねてきたわけです。いろいろな手法をそれぞれが採るわけですから、得られた結果というのはバラツキがあるわけです。
例えば、どういう形で表現するのがいいのかって、なかなか難しいんですけれども、10人シーベルトという単位の被曝を基にして考えるのが比較的説明し易いので、そうさせて欲しいんですけれども」
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* コホート(cohort):出生年など、ある性質が一致する個人からなる集団。疫学においてはコホート研究において用いられる母集団を指す。
・ 「コホート」、 Weblio:http://www.weblio.jp/content/%E3%82%B3%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%88
* BEIR(ベイル、Biological Effect of Ionizing Radiation):米国科学アカデミー(NAS)/米国研究評議会(NRC)の下に置かれている放射線影響研究評議会(BRER)内の1つの委員会で、「電離放射線の生物学的影響」に関する委員会。
・ 「BEIR」、Weblio:http://ejje.weblio.jp/content/BEIR
・ 「低線量被曝勉強会」、市民科学研究室:http://www.shiminkagaku.org/04/ld_exposure/index.html
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岩上「『人シーベルト』と書いて、『にん』シーベルトと?」

小出「はい。『人シーベルト』と書くんですが、たくさんの人の合計の被曝量を取り扱う単位なのですね。例えば、一人一人の人が1Svの被曝をしたとして、そういう人が10人居れば合計は10人シーベルトになります、という意味です。一人一人が0.1Svしか被曝をしなければ、100人集まって初めて10人シーベルトになる、そういう単位ですね。
それで、10人シーベルトの被曝をした時に、どれだけ癌で死ぬ人が出るかというと、ICRPは1人だと言うんですね。米国の科学アカデミーは2人だと言いますし、私が信頼しているゴフマンさんは4人だと言うのですね。いずれにしても、それぐらいのバラツキの間に入っています。1人~4人というバラツキがあるわけですね」

岩上「ECRRだったら、恐らくもっと…」

小出「ECRRは、もっと高いです」

岩上「なるほど」

小出「それは、ECRRは考え方が、かなり従来と変わっているということがあって、ずっと高い値を言っています」

岩上「これは、いろいろな考え方があって、例えば、私がECRRにちょっと言及しただけで、twitterなんかで、『ECRRはカルトだ』などと言ってくる人も居るんです。どなたか存じ上げないんで、それに対してRESはしませんけれども。例えば、自分は学者だとか名乗って、責任ある立場でコメントして来られたら、それは反応しますが。
カルトっていう言い方は、ちょっと極端ではないかなと…」

小出「そうですね。科学というのは、いろいろな仮定を積み重ねるということは、もちろん、その科学の一つの属性として在るわけですし、ICRPだって山ほどの仮定を使っているし、ECRRももちろん仮定を使っていますが、どちらの仮定が正しいかということは、確定するまでは、どちらも認めなければいけないと思いますので」

岩上「開かれた論議、冷静な論議ってのは、そうですよね」

小出「そういうことです」

岩上「仮説がそれぞれにあって、検証して定説となるまで、決着が付くまでは、少なくとも議論というのは、冷静に開かれた状態であると」

小出「と思います」

岩上「科学的だ、というのはそうですよね。我々もそれに学ばなきゃいけないと思うんですけれども、となれば、今回のような事態に関して、ICRPの物差し一本槍で行くというのは、いかがなものなんでしょうか?」

小出「私は、ICRPというのは原子力を進めるための片棒を担ぐ機関だと思ってますので、正しいとは初めから思っていないです」

岩上「あまり(インタビューの)時間がなくなっていると思うので、20mSvの問題は端的に、小出さんの目から見て、あの値というのはどのような値、つまり、どれだけの危険を子供達に負わせる値だとお考えなんでしょうか?」

(01:02:32)

小出「元々、日本の国の法律では、1年間に1mSv以上の被曝をしてはならないと決められているんですね。どうして日本の政府がその数値を使ったかというと、ICRPがそう言ったからです。つまり、日本の政府としては、ICRPが正しいから、ICRPの勧告に従ってそうしたと。日本人はそれ以上の被曝はさせませんから安心しなさい、と言ってきたわけですね。
ところが今や、そんなことは言っていられないと。もう、1年間20mSvまでは被曝を許すと言い出したわけですね。一体、1年間で20mSvというのは、どういう被曝量なのかというと、私は、この京都大学原子炉実験所で原子炉や放射能を相手に仕事をしている人間で、給料貰っているんですね。お陰で、こうやって生きていられるわけです」

岩上「職業人ですよね」

小出「職業人です。そのために、私は、少しぐらい被曝は我慢しなさい、と言われている人間なんですね、法律的に。その私の1年間の被曝の限度というのが、20mSvなのです。ですから、私のように、非常に特殊な仕事をしていて、その仕事から利益を得ているから、仕方がないから我慢しろ、という数値が20mSvというものなのです。
今回はもう、日本の政府は、そんなこと言ってられないと。普通の人達も私と同じところまでは我慢させるというようなことを言い出したわけですね。おまけに、それを言う時には、子供も含まれてしまうことになる」

岩上「子供も大人も差を付けなくていい、というのは、高木文部科学大臣がはっきり仰ったんです(*)。我々も質問して、それに対して、そういうふうに仰っている。これは、どういうふうに考えるべきですか?」
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* 「靍木義明文部科学大臣記者会見録(平成23年4月22日)」、文部科学省、2011年4月22日:http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1305194.htm
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小出「もちろん、間違えた考え方だと私は思います」

岩上「間違えていると。つまり、差はあると?」

小出「もちろん、あります。子供というのは、放射線の感受性が、もの凄い高いです。大人に比べれば、4倍~5倍高いです。ですから、必ず、被曝量に関しても、《子供に関しては低めの基準を作らないといけないと思うのですが。(電話)
子供というのは放射線の感受性が高いので、》子供用の基準を作って、彼等を守らなければいけないと私は思います。おまけに、今回のような事故を招いたことに関して、子供には少なくとも責任がないのです」

岩上「罪はないですよね」

小出「はい。責任もない、そして、リスクを負い易い人達に、政府が勝手に危険を押し付けるなどということは、私は到底許されないことだと思います」

岩上「これは同時に、もし1mSvに戻したら、福島県内の多くの人達、子供はもちろんですが、子供を疎開させるということは親も付いていくことになります。多くの人達が移住しなければならない。多分、そこへのコストと、そういう人達にかなり生活上の負担を負わせる、それはまた大きなストレスになるだろうとか、あるいは仕事がなくなるかもしれないとか、生活が困窮するかもしれないとか、そうしたところを比較・考慮して、こっちを採るという判断になっているのではないか、というふうに推測はされるんですけど。
チェルノブイリの時にも、これは悩んだ問題かもしれません。実際、放射線のリスクと、強制的な避難・疎開・移住させることの負担というもの、ストレスというものは、どうバランスして考えるべきだとお考えでしょうか?」

小出「この問題は、実は、私はお答えできないのですが。チェルノブイリの事故が起きた時に、旧ソ連は40万人の人達を避難させたのですね。もの凄い汚染地帯から避難させた。でも結局、40万人の人を避難させた時に、もう政府自身が持たなくなって、ソ連が崩壊してしまうわけです。日本の法律を厳密に適用するなら、あと565万人の人達を避難させなければいけなかったのです」

岩上「日本の方が、より密集して住んでるわけですね?」

小出「チェルノブイリの場合ですよ」

岩上「ああ、チェルノブイリの場合。あと565万人をやらなければ(避難させなければ)いけなかったけれども、40万人しかできなかったと」

小出「できなかったんです。ですから、日本の法律では放射線の管理区域(*)にしなければいけないほどの汚染を受けた所に、565万人が今でも生活されているんですけど、私は、放射線管理区域というような所で人々が生活をすることは到底許せないので、避難させて欲しいと、その時は思ったのですが、40万人避難させられた人達の行く末を見ると、途方もない悲劇だと思ったわけですね。
要するに、故郷も何も奪われて、生活が崩壊してしまうことになるわけですから、避難ということが、もの凄い悲惨なことだということを、私はその時に学びましたので、放射線の管理区域に指定しなければいけない所でも避難をしろ、と言うことができなくなってしまったんです、私自身が」

(イタズラ電話。「バカヤロー。(受話器を)外しとこ。このままいきましょう(笑)」と小出氏)
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* 放射線の管理区域:原子力施設や放射線利用施設等であって、関係者以外の者の無用な放射線被ばくを防止するとともに、施設内で作業する人の被ばく管理を適正に行うため、放射線被ばくのおそれのある区域を他の一般区域から物理的に隔離した区域。
・ 「管理区域」、原子力百科事典 ATOMICA:http://www.rist.or.jp/atomica/dic/dic_detail.php?Dic_Key=889
・ 電離放射線障害防止規則:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S47/S47F04101000041.html
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岩上「避難しなくてはいけないとは、なかなか言い辛くなってしまった。やっぱり、大変な負担を強いるということなんですねぇ」

小出「そうです。ですから、私は、チェルノブイリの経験で学んだことは、どっちにしても悲惨だと。放射性物質で汚染された土地で生きることも悲惨だし、止むなくそこを逃れて避難するとしても生活が崩壊してしまう、そういう悲惨を追わなければいけない。これはもう、自分でどっちがいいか選択できない状態に、私は追い込まれたのです。
それで私が思ったことは、もう仕方がないと、こういう選択をしないでも済むようにするしかないと思ったので、私は、やはり、原子力を一刻も早く廃絶させるしかないと思ったのです。でも、それが出来ないまま今日になってしまって、今また、その選択を突き付けられるという状態になっているんですね。
でも、要するに、私は初めから分からなかったんです、どうしたらいいか。本当に今まで通り、1年間に1mSv以上被曝をしてはいけないという基準を適用するなら、恐らく、福島県内全域が生きられなくなると思います」

岩上「本当に非常に悩ましいですね。もしかしたら、その間ぐらいに答えがあるのかもしれませんし」

小出「どうしていいか分からないです」

岩上「徹底した除染を行うとか」

小出「除染はできないです」

岩上「できないんですか?」

小出「大地が、そのものが汚れているわけですから」

岩上「例えば、校庭の表土を削る」

小出「それはいいです。子供が遊ぶ、その場所だけは確保しなければいけませんので、子供が集中的に遊ぶような場所は、是非ともやるべきだと思いますが、全域を除染できるなんていうことは、あり得ないと思っていただいた方がいいです」

岩上「全域は無理ですね。だから、ここは安全地帯だ、というものは確保して…」

小出「子供のために」

岩上「そうですね」

小出「はい」

■ 浜岡原発停止、そして、全原発廃止へ

岩上「そして、その生活圏はそこで守られるようにして、そして何か深い森で、そこは非常に汚染されているような所で手出しできないんだったら、そこへは行くな、というふうにするとか。ほとんど『風の谷のナウシカ』(*)のような世界になってくるんですけれども。
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* 風の谷のナウシカ:徳間書店のアニメ情報誌『アニメージュ』に連載された宮崎駿の漫画作品、および1984年に劇場公開された宮崎駿監督のアニメ映画作品、及び同映画のシンボル・テーマソング(イメージソング)の曲名。
「風の谷のナウシカ」、ウィキペディア:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A2%A8%E3%81%AE%E8%B0%B7%E3%81%AE%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%B7%E3%82%AB
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小出「私は、今、日本中にある54基の原発を即刻止めろと言ってきた人間ですし、今でもそう思っています。菅さんが言ったのは、浜岡だけを、防潮堤ができるまで、とりあえず止めなさいと言っただけなわけですから、私の主張とは随分かけ離れた主張です。
ただし、首相が原発を止めるというようなことを言ったわけですから、かなり画期的なことになっているわけですし、これを何とか生かして、他の原発の停止に繋げられないかというふうに私は思いますけれども、今日までの政治の流れ、自民党時代からの流れを見ると、ほとんどの勢力は、みんな原子力にぶら下がってきたというか、それで生きてきた人達がやっているわけですから、期待はしていません」

岩上「なるほど。そうすると、政治には期待をしないということであるんですけれども、とはいえ、何らかの形で原子力廃絶に持って行きたい、持って行かなければ危険だと。それに向かわせる力は何だと思いますか?一般的な市民の力ということなんですか?」

小出「分かりません。それが分かっていれば、私は自分でもっとできただろうと思うんですけれども。私はそれが分からなかったから、仕方がないので、自分のできることだけをやって、今日まで来たわけで。これからももちろん、自分のできることはやろうと思いますが、本当に、どういう力が出てきたら原子力を止められるのかということは、申し訳ないけど、私には分からないです。
でも、最近、若い人を中心に、随分、今までとは違う運動が起きてきていますし、そういう人達の力がもっともっと育っていってくれたら、ひょっとすれば、原子力なんかに頼らないで済むような社会を作り出せることができるかもしれないと思います」

岩上「いつも出ることが、『原発を停止したらば電気が足りなくなる』という話ですね。これは、『いや、そんな必要性はない。火力を5割しか使っていない。7割に高めれば全然、大丈夫だ』というお話が、今までも出ました。これについては、例えば、LNGを使えば石油なんかよりも、よりCO2の排出量も少ないものができる、全然クリーンなエネルギーがあり得ると。原発は全然クリーンじゃないですけれどもね、放射性物質を出すわけですから。そういうことであるんですけれども、『そのデータの根拠はどういうものなのか』、こういう問いがあるんです。政府、あるいは東電とか、どこかで公開されているデータなのか、ということなんですけれども、その点、いかがでしょう?」

小出「私はこの件で何度も発言していますが、今、即刻、日本中の原子力発電所を止めたとしても、電力供給に何の支障も生じません。夏のピーク電力すらが、何の問題もなく供給できると私は主張しています。
そのデータは、一体どこにあるのかというと、私は公開データ以外は一切使っていないのです。それは皆さん、ご自分でお調べになればいいんですけれども、例えば、私はどこで調べるかというと、政府統計局(*)のデータが一つです。あるいは、経済産業省が出しているエネルギー統計のデータ(*)がありますけど、そんなものも皆さん、見ることができるわけですし、それから、電力会社自身が、自分の所にはどれだけ発電所があります、どれだけ発電しました、というデータをはっきりと公表していますので、それを集めればいい、それだけのことです」

* 総務省統計局、政策統括官(統計基準担当)、統計研修所の共同運営による統計専門サイト:http://www.stat.go.jp/
* 経済産業省 統計のページ:http://www.meti.go.jp/statistics/index.html
岩上「このデータの読み方について、どこか、まとめて書かれた物とか、まとまっているものはありますか?」

小出「私はあちこちでこの発言をしていて、私の資料を皆さんに見ていただいています。デジタルデータも私は持っていますので、もし必要だという方には、どなたにでも差し上げます」

岩上「我々にも?」

小出「もちろんです」

岩上「パワーポイントなんかでまとめられたものも?」

小出「あります」

岩上「そうですか。どうしても一次データを参照して、小出先生の発言を確認したいと、こういうふうに言う人もいらっしゃるんで、是非とも我々がお預かりして、その人達に、このインタビューにPDFを張り付けたりすることができますので、辿れるようにしたいと思います」

小出「結構です、どうぞ。ただ、一言申し上げておくけれども、私は日本全体という統計のまとめ方をしていますが、日本には50Hz地帯と60Hz地帯というふうに、東西で分かれているのですね。ですから、厳密に言うなら、50Hz地域と60Hz地域と、それぞれで立証しなければいけないと思います。
融通できる電力は、せいぜい100万kW分ぐらいしかありませんので、そんな検討も必要だと思いますけれども、私はもう、そんな細かいことを言っているつもりは全然ないのです。電気が足りようと足りなかろうと、原発だけはやってはいけないというのが私の主張の根本ですので、細かい議論をしたいという方はどうぞご自分でやってください、というぐらいにしか思わない(笑)」

岩上「なるほど、なるほど。この50Hz、60Hzというものを融通させるためには、大変なお金が掛かるとか、よく言われますが、そうなんですか?」

小出「すいません、私は電気の専門家じゃありませんので分かりませんけれども、基本的には北海道電力から九州電力まで、原子力比率っていうのは、そんなに大きく変わっているわけではないので、どこで原発を止めたところで結局は大した違いはないので、50Hz帯も60Hz帯も結局は問題ないだろうと私は思っている」

岩上「なるほど。比較的高いのは、この関西ですね」

小出「そうです。関西だけは、50%ぐらいが原子力だと言っていますけれども、それでも関西にも他の電力会社がたくさんありますので、西日本全体を取ってみれば、原発を廃絶したところで、特別問題にならないだろうと私は思っています。そうじゃないと仰る方が居るなら、むしろ、データを付けて示してくだされば、私もまた考えます」

岩上「なるほど。関西では敦賀(*)がこの間、核燃料に損傷があったか、放射性物質が漏出したということで、一時的に止まるというような騒ぎがありました。『大したことないんだ』というふうにアナウンスされて、続報もありません。これは、そんな大したことない事態なんでしょうか?」
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* 敦賀:敦賀発電所。福井県敦賀市明神町にある日本原子力発電株式会社の原子力発電所。1号機が1970年3月に運転開始。2号機は1987年2月に運転開始。3号機、4号機は準備工事中。
・ 「敦賀発電所」、日本原子力発電株式会社:http://www.japc.co.jp/tsuruga/plant_guide/index.html
・ 「敦賀発電所」、ウィキペディア:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%A6%E8%B3%80%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%89%80
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小出「分かりませんが、燃料棒に損傷があるなんていうことは、これまでも年がら年中起きてきたんですね。その度に、損傷が起きた燃料のある部分だけ燃やさないように、制御棒を下ろしたりしながら運転するという場合もありましたし、どうも損傷が酷そうだという時には停止させて、その損傷した燃料を取り出して、また運転するというようなことはもう、ずっとやってきたわけですから、今回の敦賀の放射能の漏れも、その程度のことかもしれません。
それは、これからの発表を見たいと思いますが、ただ、日本原電(日本原子力発電株式会社)にしてみれば、あまりにも(タイミングが)悪い時にこんなことを起こしたな、と彼等は思っているだろうと思います。ですから、これを契機に再稼動ができなくなる可能性も、もちろん孕んでいるわけですね。
もちろん、私はそうしたいと思います。二度と敦賀を運転させたくないと私は願うけれども、彼等から見れば、とんでもない時にこんなことを起こした、というふうに思っているかもしれません」

■ エンディング

岩上「分かりました。そろそろお時間ですよね」

小出「そうですね」

岩上「すみません、いつもいつも長くなってしまいまして。パワポをいただく時間はありますか?」

小出「はい」

岩上「大丈夫ですか?」

小出「はい。お送りすればいいんですか?」

岩上「それでも結構です」

小出「ファイルをお送りします、岩上さんの所に」

岩上「ありがとうございます。よろしくお願いします」

小出「今日、お帰りになるまでには着いているようにします」

岩上「すいません。どうもありがとうございます。小出先生には、いつも時間一杯、ギリギリまでお話をうかがってます。申し訳ありません。恐らく、まだ片付くような話ではないと思います。もしかすると、またこちらに足を運んでお話をうかがうかもしれませんが、是非、よろしくお願いします」

小出「よろしくお願いします」

岩上「小出さんにお話をうかがいました。失礼します。どうもありがとうございました」

小出「ありがとうございました」

【注釈と文字起こし : ボランティアスタッフ 林】
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既に全国に拡がっている放射能汚染

 週刊現代の独自調査ほかによる記事。
 放射能汚染は既に北海道から九州に広がっている。
 原発からの漏出が続いているために、徐々に濃度が高くなりながら、広がっている。

 「福島だけではない、このままでは。汚染はどんどん広がるだろう。だから、不安・不満がどんどん高まってきている。もうそこには住めないのだから。ちょっと行って帰ってくる分には大丈夫だが。日本の領土はあの分減ってしまった。
 あれは黙っていたら、どんどん広がる。東京もアウトになる。ウラン燃料が膨大な量あるのだ。チェルノブイリどころではない。あれの何百倍ものウランがあるのだ。
 みんなノホホンとしているが、大変な事態なのだ。それは、政府が本当のことを言わないから、皆大丈夫だと思っているのだ。私はそう思っている。」5/27小沢氏インタビュー。 

 日本全国、隠された放射能汚染  6/27 週刊現代

 ●千葉県柏市・流山市は避難したほうがいい●誰も言わない青森・北海道の危険●足立区・葛飾区・江戸川区・江東区・松戸市●意外と高い文京区と豊洲●軽井沢●大阪・名古屋の現実●猛毒ストロンチウムの健康被害ほか

   九州・佐賀でもセシウム検出

 福島第一原発から離れること1100m-。

 佐賀県唐津市は名勝・虹の松原や唐津焼などで知られる、県下第2の都市だ。九州の北西突端に位置し、玄界灘に面する。

 農漁業も盛んなこの景勝地に衝撃が走ったのは、6月13日のことだった。「市内で採取した松葉から放射性物質を検出」―そう発表されたからだ。

 検出されたのは放射性セシウム134が1kgあたり0・2ベクレル、137が同0・25ベクレル。同市に住む主婦(42歳)が語る。

「唐津は近くに玄海原発があるから、そっちから出たんじゃないの、って反射的に思いました。それはそれで嫌だけど、福島からここまで飛んで来たって考えるほうが不気味で・・・。信じたくなかった」

 信じたくなくても、これが現実だ。福島第一原発が噴き出した放射性物質は風に乗り、この3ヵ月のうちに、遠く唐津にまでたどり着いていたのだ。

「セシウム137は半減期が30年あり、核実験などの影響で、実はこれまでも検出されていました。しかし半減期約2年の134はこのところずっと検出されていなかった。しかも134は炉心で作られる放射性物質で、玄海原発で事故は起きていないから、どう考えても原因は福島第一原発ということになります」(佐賀県くらし環境本部)

 九州までセシウム134が飛んできた。この現実を受け入れるなら、自動的に次のストーリーも認めざるをえない。


 福島第一原発を出発した放射性物質は、日本列島を、具体的には関東、中部、関西、中国地方を縦断しながら、はるばる九州までやってきた、と。

 近畿大学大学院総合理工学研究科の山崎秀夫教授(環境解析学)も、中間地点となる大阪で、それを証明する測定結果を得ている。

「3月14日から、近畿大学(東大阪市)の屋上で大気中の放射性物質を測り始めました。当初は全然出なかったが、3月25日にヨウ素131が検出され、26日、27日と濃度が高くなっていった。そして31日からセシウムが出てきた。4月4日から、ヨウ素、セシウムとも数値がどんどん上がっていきました」

 山崎教授の調査については後ほどまた触れるが、風に乗った放射性物質がタイムラグを置きながら日本全国に散らばり、降り積もっているのは、もはや疑いようのない事実である。

 ではその事実を前に、この3ヵ月間、日本政府は何をしてきたか。

 懸命に汚染の実態を矮小化し、隠蔽しようと努めてきたのである。

 独自に放射能汚染の調査を進める環境NGO、グリーンピース・ジャパンの佐藤潤一事務局長が語る。

「福島県飯舘村の線量が高い、とグリーンピースが最初に指摘してから、同村が計画的避難区域に指定されるまで3週間かかった。また私たちが海洋の調査に踏み切ると、官邸で『グリーンピースの調査結果にどう反論するか』と会議がなされたと聞き、呆れました」

 その間、枝野官房長官は「ただちに健康に影響はない」と壊れたレコードのように繰り返した。民間の研究者に「測った放射線量を発表するな」と官邸が圧力をかけ、「海に流れた放射性物質は拡散するから大丈夫」と安全デマも流した。

  安全基準3・8の大ウソ

 しかし、今は戦争中と違い、大本営発表に騙され続けるほど国民はバカではない。週刊誌、インターネットで事実が次々と明らかになる。もはやゴマカしきれないと判断した政府は、暴挙に出た。

 一般人の年間被曝限度量を、1ミリシーベルトから一気に20ミリシーベルトに引き上げたのである。

 常識で考えて、安全基準が20倍も変わることなどありえない。

「年間20ミリシーベルト、それを基に算出した3・8マイクロシーベルト/時という数値は、ICRP(国際放射線防護委員会)が緊急事故後の復旧時を想定して決めた値です。それが一般生活者の基準になるわけがない。一般人の安全基準はあくまで年間1ミリシーベルト、0・19マイクロシーベルト/時です」(元放射線医学総合研究所主任研究官・崎山比早子氏)

 ようやく線量調査を始めた各自治体も、政府に右へならえで「3・8マイクロシーベルトを下回ったので安全です」と言う。しかし、その数値自体が「まやかしの安全基準」であることを忘れてはならない。

 政府も自治体もアテにならないのであれば、自分の身は自分で守るしかない。今回、本誌は首都圏で放射線量を独自に調査した。その結果は、予想以上の汚染を証明するものだった。

 どうか目を背けず、以下に掲示する数値を見てほしい。あなたが行動を決める、一つの判断材料になるはずだ。日本における通常時の線量は0・1以下であり、崎山氏が言うように、0・19が安全かどうかの重要な判断基準になる、という原則を心に留めてお読みいただきたい。

 本誌を発行する講談社(東京・文京区)を一歩出ると、サーベイメーター(線量計)は0・22マイクロシーベルト/時(以下、単位はすべて同じ)の値を示した。池袋駅から山手線に乗り、移動しながら各駅の線量を調べる。

 駅名 区名  線量
池袋 豊島区 0・14
新宿 新宿区 0・15
渋谷 渋谷区 0・16
品川 港区  0・15
東京 千代田区0・15

 ここから記者は銀座方面へ向かった。銀座一丁目交差点(中央区)が0・20。さらに、築地市場の移転が計画されている豊洲(江東区)に足を延ばす。

 豊洲駅前が0・24、市場移転予定地(更地)が0・25。ここまでの調査で、文京区と豊洲が0・19を超え、思いのほか高いことがわかった。

 東京大学、お茶の水女子大を抱える文教地区で、高級住宅街でもある文京区が高いとなると、住民に与えるショックは大きい。区の職員が匿名で明かす。

「東京は坂が多いことで知られますが、不忍通り、目白通り、本郷通りに囲まれた文京区は大部分が『谷底』です。その地形が影響しているのでしょう」

 その推測は恐らく当たっている。放射性物質は空気より重く、低いところに集まる。急な坂にぶつかるとその手前で溜まる。ちょっとした地形で線量が変わることの見本が、都内では文京区なのだ。

 豊洲については、4月に来日したジョージア大学のチャム・ダラス教授が高線量を指摘して話題になった。ダラス氏はチェルノブイリ事故の米共同調査チームの代表を務めた人物だ。

「確かに豊洲は福島県の郡山市より高い。以前あった火力発電所や重工業にも原因があるのではないか。いずれにせよ子供は注意すべきだ」(ダラス教授)

 放射線量は複合的な環境要因で決まるので、ダラス氏の指摘にも一理あるだろう。しかし、本誌の今回の調査では、江東区は豊洲だけでなく全体に線量が高いことが判明した。

 さらに言えば、江東区から江戸川区、葛飾区、足立区までを含む東京23区東部にはっきりとした「汚染ベルト」が存在することがわかったのだ。以下にその数値を挙げていく。


・江東区 砂町水再生センター正門前 0・28
・江戸川区 葛西水再生センター北門前 0・30
・葛飾区 金町浄水場正門前 0・38

 浄水場、水再処理場付近を選んだのは、そこが住民生活に直結する場所だからだ。北上するにつれて数値が如実に上がっていく。記者の持つ線量計は放射性物質を検知するたびに「ピッピッ」と音がするのだが、その頻度が明らかに増えていく。

 その音を聞くたびに下半身がすくむ思いがし、背筋に緊張が走る。手に持つロシア製の線量計が忌まわしいものに思えてくる。

 共産党都議からも「線量が高い」と指摘された葛飾区の水元公園に足を踏み入れた。平日の昼下がりとはいえ、たくさんの親子連れとカップルがいる。線量計の表示は、0・53―。

 園内の歩道脇に側溝がある。線量計をかざすと、不穏な音を立てながら数値は上昇を続ける。

 0・59、0・69、0・75・・・。今回の調査では各場所で10回前後計測してその平均値を取っているが、この側溝の平均計測値は0・63だった。

 公園の中心部にある中央広場。青々とした芝生に線量計をかざす。0・61。4~5歳くらいの子供を連れた母親が、記者に興味を持って近づいてくる。

「ここ、数値高いですよ」

 線量計を見せると、

「え? ありえない・・・」

 と小さく叫び、逃げるように去っていった。

  線量計が鳴りやまない!

 Tシャツに半ズボン、サンダル姿の少年たちが、園内を流れる小川でザリガニ釣りを楽しんでいる。小川脇の湿った地面を計測すると、0・86。安全基準の4・5倍だ。

 やり切れないのは、公園があくまで美しく、人々が安らぎを求めて集まっていることだ。愛すべきこの公園は、残念ながら汚染されている。その事実を、葛飾区は発表しようとしない。

 足立区役所の入り口前で0・44、同区ベルモント公園でも0・32を計測。なぜ東京東部に汚染ベルトが形成されたのか、その理由を中部大学の武田邦彦教授が解説する。

「福島第一原発の水素爆発で大量に放出された放射性物質は、SPEEDIで証明されたように、当初南東の風に乗って北西に向かった。それが山にぶつかり、今度は北からの風に乗って関東方面に南下したものと思われます」

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 確かに地図を見ると、福島から栃木、茨城を抜けて東京、千葉に至る、山に挟まれた「風の道」が存在している。

 お気づきだろう。東京東部がこれだけ線量が高いのだから、そこに隣接する千葉西部も、同じく汚染されている可能性が高いということだ。

 果たして調査を進めてみると、東京東部と同じどころか、より深刻な汚染の実態が浮かび上がった。

 葛飾区に隣接する松戸市の公園、21世紀の森と広場の中央口が、0・43。森のホール21玄関前のアスファルトが0・55。そしてこの公園でも、枯れ葉と汚泥が溜まっている側溝に線量計をかざすと、みるみる数値が上がっていく。0・83。水元公園の小川脇と同じ水準だ。

 続いて向かったのは松戸市の北、流山市。移動中も常に線量は0・3を超えている。流山市総合運動公園に入ると、駐車場入り口で0・58を計測した。


 しばらく歩くとトイレがあった。脇の草地を調べてみる。0・64。さらにトイレの近くにある手洗い所の下の地面に線量計をかざした時、異常は起きた。それまでピッピッと鳴っていた音が、ピーーーと鳴り続けるようになったのだ。

 線量計のモニターに映るデジタル表示が目まぐるしく変化する。

 1・41、1・74、1・86、1・98、2・02。1どころか、簡単に2を超えた。時刻はもう夕方を過ぎ、周りに人気はない。暮れ始めた公園に、危険を知らせる線量計の電子音だけが鳴り響く。画面には「DANGEROUS(危険)」の赤い文字が不気味に光っている。

 結局、最高値は2・12までいった。平均は1・88。空気中ではなく手洗い所下の地面とはいえ、とても人間がそこに居続けてよいレベルではないことを、線量計の異常な反応が教えている。

  北海道の原乳も危ない

 日はすっかり暮れ、あたりは闇に包まれた。車で流山の東隣、柏市に入る。線量計は平均して0・4程度を表示し、時には0・5を超えることもある。

 着いたのは柏の葉公園。北門から園内に入る。

 松戸、流山と高い線量を体験してきたが、明らかに柏市がいちばん高いと感じる。最高値ではなく、平均値が高いのだ。

 園内歩道が0・65。総合競技場脇の芝生が0・69。トイレ脇の地面が0・75。線量計は常に高い値を示し、せわしなくピッピッと鳴いている。

 そして、競技場脇の側溝にかざした時、またピーーーッと心臓に悪い電子音が鳴り響いた。

 0・94、1・02、1・21、1・25・・・。平均は1・15。さらにもう一ヵ所測定すると、平均1・08だった。

 最高値こそ流山のほうが上だが、全体としては柏市のほうが高値だ。市内のどこでも0・5前後を示し、常に基準値の数倍以上。さらに、前出の武田教授は「0・19でも高い」と主張し、柏・流山両市民に避難の必要性を説く。

「政府の無策により内部被曝の危険性が高まっているから、外部被曝は0・11マイクロシーベルト/時が限度だと私は考えています。0・6を超えたらかなり危険だと考えたほうがいい。1マイクロシーベルト/時なんて、職業的な被曝に匹敵する大変な数値。すぐに住民を避難させるなど、行政が対策を講じるべきです」

 その行政(千葉県)は、「東葛地域の線量が高い」との指摘を受け、遅ればせながら5月31日と6月1日の両日、調査を行った。その時も柏市で0・54、流山市で0・34と他より高い数値が計測されている。

 それなのに県は十把一絡げに「今回の測定結果は、県内全域で文部科学省の目安(3・8)を下回りました」と言うだけ。柏・流山両市民の健康を真剣に考えているとは、とても思えない。

 本誌の調査では他に、パンダ人気で賑わう上野動物園のゲート前も、0・28とかなり高い値を示した。また皇居と国会議事堂の前も0・20、0・19と高かったことを記しておく。

 首都圏以外にも、注意すべき地域はある。

 たとえば被災地より北、北海道・青森については放射能汚染が話題になることすらない。

 しかし6月7日、北海道原子力環境センターより、「採取した降下物からヨウ素131、セシウム134および137が検出され、海産物のわかめからヨウ素131が検出された」とひっそり発表されている。

 線量は微量とはいえ、見過ごしてはならない事実である。さらに、北海道大学の農場で採取されたホルスタインの原乳からも出た。

「4月18日にセシウム137が、5月9日にはセシウム134とヨウ素131が出ました。道内のお母さん方からの問い合わせも多いですし、北海道の牛乳を飲んでいる本州の方からも心配の声が届くので、これからも調査は続けていくつもりです」(北大大学院獣医学研究科放射線学教室・稲波修教授)

 意外なところでは、避暑地・軽井沢の名が挙がる。前出の近畿大・山崎教授は、福島第一原発から半径約250m離れた地点の土壌中セシウム137濃度を、同心円に沿って調べた。軽井沢は9790ベクレル/平方メートルで、茨城や埼玉より高かった。

「私が群馬や長野を調査地点に選んだのは、放射性物質がどれほどの高度を飛んでいるか、関東平野から山を越えているかどうかを調べたかったからです。軽井沢は山に囲まれているからそれほど検出されないだろうと思っていましたが、予想以上の数値が出た。放射性物質は相当高いところを飛ぶこともある、とわかりました」(山崎教授)

 群馬の高崎と長野の軽井沢の間には二度上峠(標高約1400m)や碓氷峠(標高約1000m)があるにもかかわらず、数値は前者が9660ベクレル/平方メートル、後者が同9790。原発から遠く離れ、山岳を間に挟んでいるからといって、自分の住んでいるところに放射性物質は飛んでこないと安心するのは早計だ。

 また、大阪や名古屋などの大都市も汚染と無縁ではない。山崎教授が続ける。

「近大の屋上の調査で、4月4日からヨウ素とセシウムがどんどん高くなるんですが、4月8日に雨が降ってウォッシュアウトが起きている。大気中のプルーム(放射性物質の塊)が雨で洗い流される現象です。ただし、雨で放射性物質がなくなるわけではなく、下に落ちて地面が汚染されることになります」

  魚を食べて内部被曝

 大阪も名古屋も、これまで自治体は0・04前後と線量を発表していた。ただしそれは、悪名高い「地上20m(以上)モニタリング」の測定値。6月13日に初めて公開した地上1mの測定値は、それぞれ0・078、0・066と跳ね上がった。ウォッシュアウト効果を考えると、大阪、名古屋の地表にも思わぬホットスポットが隠れている可能性を忘れてはならない。

 京都大学原子炉実験所の小出裕章助教は、これからの日本人は、生きていく上で次のような「覚悟」が必要だと話す。

「福島第一原発から放出された放射性物質は、県境を越えて日本中に広がっています。いや、国境さえも軽々と乗り越えて、世界中に広がっています。もはや地球上に、この汚染から逃れられる場所はないのです。放射能は目に見えないし感じることもできません。だからこそ行政はしっかりと線量を計測し、知らせなければならない。そして我々はどこにいようが、その数値に注意を払わなくてはならないんです。3・11を境に、私たちの世界はそんな場所に変わってしまった。そして私たちは、そこで生きていくしかないのです」

 今回、本誌が測定したのは空気中の線量だけだ。実際には水に、土壌に、放射性物質はジワジワと入り込んでいる。そして、いずれ起きる恐怖の現象が、内部被曝だ。

 6月8日、文科省は福島第一原発から62m離れた福島市など11ヵ所の土壌から、微量のストロンチウムを検出したと発表した。そして東電も6月12日、原発敷地内の地下水にストロンチウムが漏れていると打ち明けた。

「半減期約29年のストロンチウムが体内に入ると非常に危険です。カルシウムに似た性質で、歯や骨に蓄積される。海中に放出されたストロンチウムが生物濃縮され、いま陸に飛んでいる量とは違う単位で人間の体内に入ることになれば、重大な健康被害を及ぼす可能性があるでしょう。ストロンチウムの出すβ線はガンのリスクを高め、また骨髄に集まるので白血病の危険性も増大します」(前出の崎山比早子氏)

 生物濃縮といえば、政府には「前科」がある。水産庁が当初HPで「生物濃縮は起こらない」とデタラメを書き、それを本誌が徹底批判すると「生物濃縮をし続けるわけではない」とこっそり修正したのだ。

 国民の健康に対する政府の意識は、その程度だ。いまこの瞬間も、原発からは放射性物質が漏れ、海洋汚染も続いている。そんな世界で我が身と子孫を守るために、私たちはみずから情報を集め、みずから判断を下さなければならない。
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