三橋:ショック・ドクトリン中編(1)
2011-04-29
「経済記事にはもう騙されない」三橋貴明氏から 「ショック・ドクトリン前編」からの続きです。
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いわゆる「日本財政破綻論」は、実に歴史が長い。1982年の赤字国債十年償還の撤回以来、延々と三十年近くも継続している。
例えば、上記82年に首相を務めていた故・鈴木善幸氏は、自著において以下のように述べている。
「放漫財政を憂える 国、地方を問わず、自治体の財政が破綻するのではないかとの不安が広がっている。このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な負債、借金を背負わせることになる。未来に責任を持つ意味でこの問題を放置してはならない。(「等しからざるを憂える。元首相鈴木善幸回顧録」岩手日報社 P25)」
鈴木善幸氏の、
「このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な負債、借金を背負わせることになる。」
という言葉ほど、日本の財政問題に関する混乱を象徴しているものはない。何しろ、筆者が本連載で当初から繰り返し指摘してきた「政府の負債の種類」について、根本から理解していないのである。
現在の日本政府の負債の多くを占める日本国債は、95%以上が日本国内の金融機関、あるいは家計により保有されている。すなわち、日本政府は「日本国民」からお金を借りているというわけだ。
【図99-1 2010年末時点 日本国債保有者別内訳(総額は約727兆円)】

出典:日本銀行「資金循環統計」
図99-1の通り、国債保有に外国人(海外)が占める割合は、4.83%に過ぎない。すなわち、将来のある時点で政府が国債を償還(借金返済)したとき、「返済してもらう」のが「私たちの孫子」になるわけだ。
「このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な負債、借金を背負わせることになる。」
のではない。我々の孫子が背負わされるのは、負債、借金ではなく資産、債権である。
無論、筆者は別に日本政府の負債について、無限に膨らませても構わないなどと、極論を言いたいわけではない。とはいえ、政府の負債については「減らすべき時期」というものがあるのだ。
政府は、別にお金を懐に入れるために国債を発行するわけではない。借りたお金を「支出」するために発行する。支出とは、時には公共投資であろうし、時には社会保障費の支払いであろう。あるいは、子ども手当てなどの所得移転系の支出かもしれない。
いずれにせよ、政府が支出すると、GDP上の需要は増える。公共投資や社会保障費は、それぞれ「公的固定資本形成」「政府最終消費支出」という、GDP上の需要項目である。また、子ども手当てなどの所得移転は、直接的にはGDPを拡大しないが、お金が振り込まれた家計が消費を拡大すれば、GDP上の「民間最終消費支出」という需要項目が増える。
すなわち、額の大小はあれども、政府が国債を発行すれば、GDP上の需要は必ず増えるのだ。無論、政府が国債を発行し、銀行預金のままバランスシートの資産側で眠らせておけば、GDPは増えない。とはいえ、そんな意味のないことは、さすがの日本政府といえどもしない。
国内経済がインフレの環境下において、政府が国債を発行し、支出を拡大してしまってはどうなるだろうか。先にも書いたように、政府の支出とはGDP上の需要である。供給が足りない状況で、需要が増えるわけだから、当然の結果としてインフレはますます進行してしまう。
すなわち、政府はインフレ下では国債を発行するべきではないのである。むしろ、税収を国債の償還(借金返済)に充て、国内で余計な需要を発生させないことこそがソリューション(解決策)になる。
また、政府が国債を償還すると、国家全体のバランスシート上で、政府の資産と負債が「同額」消滅する。筆者は頻繁に「お金は使っても消えない(誰かのところに移るだけ)」と書くが、借金返済をすることで「お金を消す」ことは可能なのだ。
【図99-2 2010年末時点 日本国家のバランスシート(単位:兆円)】

出典:日本銀行「資金循環統計」
※上記は金融資産・負債のみで、土地や設備等の非金融資産は含まれていない。
図99-2は、2010年末時点における、日本国家の全ての経済主体のバランスシートを合算したものだ。この状況から、政府が10兆円の負債(国債)を返済した場合、どうなるだろうか。
まずは、政府の負債1049.7兆円が、1039.7兆円に減少する。さらに、政府の資産471.4兆円が、461.4兆円に減る。借金返済とは「手元の現預金(資産)を債権者に渡す」行為であるため、負債のみならず資産も減るのである。
同時に、銀行(金融機関)の資産側で、国債10兆円分が現預金10兆円に姿を変える。読者が知人からの借金を返済してもらった場合、「貸付金」という資産は消えるが、代わりに同額の現預金が手元に残るのと同じである。
上記の通り、政府が10兆円分の国債を償還すると、負債サイドで国債10兆円が消滅し、資産サイドで政府の資産(現預金)が同額減る。国家全体のバランスシートを見ると、借方、貸方が共に10兆円減ることで、左右が「バランスする」というわけである。
(ショック・ドクトリン中編(2)へ続く)
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いわゆる「日本財政破綻論」は、実に歴史が長い。1982年の赤字国債十年償還の撤回以来、延々と三十年近くも継続している。
例えば、上記82年に首相を務めていた故・鈴木善幸氏は、自著において以下のように述べている。
「放漫財政を憂える 国、地方を問わず、自治体の財政が破綻するのではないかとの不安が広がっている。このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な負債、借金を背負わせることになる。未来に責任を持つ意味でこの問題を放置してはならない。(「等しからざるを憂える。元首相鈴木善幸回顧録」岩手日報社 P25)」
鈴木善幸氏の、
「このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な負債、借金を背負わせることになる。」
という言葉ほど、日本の財政問題に関する混乱を象徴しているものはない。何しろ、筆者が本連載で当初から繰り返し指摘してきた「政府の負債の種類」について、根本から理解していないのである。
現在の日本政府の負債の多くを占める日本国債は、95%以上が日本国内の金融機関、あるいは家計により保有されている。すなわち、日本政府は「日本国民」からお金を借りているというわけだ。
【図99-1 2010年末時点 日本国債保有者別内訳(総額は約727兆円)】

出典:日本銀行「資金循環統計」
図99-1の通り、国債保有に外国人(海外)が占める割合は、4.83%に過ぎない。すなわち、将来のある時点で政府が国債を償還(借金返済)したとき、「返済してもらう」のが「私たちの孫子」になるわけだ。
「このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な負債、借金を背負わせることになる。」
のではない。我々の孫子が背負わされるのは、負債、借金ではなく資産、債権である。
無論、筆者は別に日本政府の負債について、無限に膨らませても構わないなどと、極論を言いたいわけではない。とはいえ、政府の負債については「減らすべき時期」というものがあるのだ。
政府は、別にお金を懐に入れるために国債を発行するわけではない。借りたお金を「支出」するために発行する。支出とは、時には公共投資であろうし、時には社会保障費の支払いであろう。あるいは、子ども手当てなどの所得移転系の支出かもしれない。
いずれにせよ、政府が支出すると、GDP上の需要は増える。公共投資や社会保障費は、それぞれ「公的固定資本形成」「政府最終消費支出」という、GDP上の需要項目である。また、子ども手当てなどの所得移転は、直接的にはGDPを拡大しないが、お金が振り込まれた家計が消費を拡大すれば、GDP上の「民間最終消費支出」という需要項目が増える。
すなわち、額の大小はあれども、政府が国債を発行すれば、GDP上の需要は必ず増えるのだ。無論、政府が国債を発行し、銀行預金のままバランスシートの資産側で眠らせておけば、GDPは増えない。とはいえ、そんな意味のないことは、さすがの日本政府といえどもしない。
国内経済がインフレの環境下において、政府が国債を発行し、支出を拡大してしまってはどうなるだろうか。先にも書いたように、政府の支出とはGDP上の需要である。供給が足りない状況で、需要が増えるわけだから、当然の結果としてインフレはますます進行してしまう。
すなわち、政府はインフレ下では国債を発行するべきではないのである。むしろ、税収を国債の償還(借金返済)に充て、国内で余計な需要を発生させないことこそがソリューション(解決策)になる。
また、政府が国債を償還すると、国家全体のバランスシート上で、政府の資産と負債が「同額」消滅する。筆者は頻繁に「お金は使っても消えない(誰かのところに移るだけ)」と書くが、借金返済をすることで「お金を消す」ことは可能なのだ。
【図99-2 2010年末時点 日本国家のバランスシート(単位:兆円)】

出典:日本銀行「資金循環統計」
※上記は金融資産・負債のみで、土地や設備等の非金融資産は含まれていない。
図99-2は、2010年末時点における、日本国家の全ての経済主体のバランスシートを合算したものだ。この状況から、政府が10兆円の負債(国債)を返済した場合、どうなるだろうか。
まずは、政府の負債1049.7兆円が、1039.7兆円に減少する。さらに、政府の資産471.4兆円が、461.4兆円に減る。借金返済とは「手元の現預金(資産)を債権者に渡す」行為であるため、負債のみならず資産も減るのである。
同時に、銀行(金融機関)の資産側で、国債10兆円分が現預金10兆円に姿を変える。読者が知人からの借金を返済してもらった場合、「貸付金」という資産は消えるが、代わりに同額の現預金が手元に残るのと同じである。
上記の通り、政府が10兆円分の国債を償還すると、負債サイドで国債10兆円が消滅し、資産サイドで政府の資産(現預金)が同額減る。国家全体のバランスシートを見ると、借方、貸方が共に10兆円減ることで、左右が「バランスする」というわけである。
(ショック・ドクトリン中編(2)へ続く)
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三橋:ショック・ドクトリン中編(2)
2011-04-29
(ショック・ドクトリン中編(1)から)
インフレ期には通常、デフレ期よりも金利が高くなっている。政府が国債を償還すると、民間銀行の「国債という資産」が「現預金という資産」に姿を変える。結果、銀行が貸し出すことが可能なキャッシュ(現金)が増え、民間への貸出金利を抑制することが可能だ。いわゆる、クラウディングアウトを防止することになるわけである。
クラウディングアウトとは、政府が国債発行で市中のお金を吸い上げ、金利が上昇し、民間の経済活動が阻害される現象である。ちなみに、デフレ期にクラウディングアウトは起きない。と言うよりも、クラウディングアウトが起きないことこそが、デフレの証といえる。
というわけで、インフレや金利を抑制したい局面であれば、政府はむしろ率先して国債を償還するべきなのだ。間違っても、インフレ期に公共投資拡大などの積極財政を採るべきではない。とはいえ、公共投資は単なるGDP上の需要拡大目的のみならず、インフレを抑制するための「供給能力拡大」を目的としている場合が多いため、政府の政策の「調整」は、なかなか大変だ。
それはともかく、政府の国債発行、あるいは国債償還は、最終的にはインフレ・デフレの調整、すなわち国民経済の需給の調整を目的とするべきなのである。デフレ期には、政府が国債を発行し、不足している需要を拡大する。インフレ期には、政府は国債を償還し、需要を増やさないと同時に、金利を低下させる(クラウディングアウトを防ぐ)。かなり単純化してしまったが、少なくとも政府の負債が100%円建ての日本の場合は、基本的にはこれだけの話だ。
ところが、先の鈴木善幸氏の言葉からも分かるように、我が国には、なぜか政府の負債を「家計の借金」と同じ視点で見る人が多い。無論、ギリシャのように政府が外国から借金をしていた場合は、鈴木善幸氏の言う通り、
「このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な負債、借金を背負わせることになる。」
という話になる。とはいえ、日本の場合は違う。
通貨発行権を持つ中央政府の「自国通貨建ての負債」は、家計のローンや政府の外貨建て負債とは、全く「別次元」の存在なのである。それを理解していないために、日本では、あたかも家計のローンのように政府の負債を扱う風潮が続いている。
今回の東日本大震災に際し、巨額な国債発行が必要となるわけだが、またもや「復興税」などという、奇妙な政策が浮上してきた。これもまた、政治家が「自国通貨建ての負債」を家計のローンと同じに扱っているためである。
『2011年4月16日 時事通信「震災国債発行へ=復興税導入で早期償還-政府」
政府は16日、東日本大震災の復興対策の財源を通常の国債とは別勘定で管理する震災復興国債の発行で調達する方向で検討に入った。発行に当たっては、震災復興税の導入によって確実な償還計画を立てる。厳しい財政状況を踏まえ、国債発行に対する市場の信認を確保するのが狙い。復興国債や復興税で調達した復興資金は「震災復興基金」を創設し、一元管理する案も出ている。
政府は月内に国会提出する4兆円規模の2011年度第1次補正予算案では、国債発行を回避する方針。しかし、本格的な復興予算となる2次補正以降の財源の確保には、国債発行が避けられない状況だ。必要な財源は10兆円規模に達するとみられる。
ただ、国・地方の長期債務残高が10年度末で869兆円に達する中、安易な国債増発は長期金利の急上昇など市場への悪影響が懸念される。このため、復興国債発行のため制定する根拠法では、償還期間を60年間としている通常の国債よりも大幅に短縮。さらに3~5年の時限的な復興税の導入によって、償還財源を確保することも明記する。
また、使い道は市街地や道路、港湾といったインフラ整備や中小企業支援など復興目的に限定。復興基金などの形で、ほかの予算とは区分経理し、償還までの資金の流れを透明化する。』
「安易な国債増発は長期金利の急上昇など市場への悪影響が懸念される」
というのであれば、日銀に引き受けてもらえば済む話だ。財政法は、日銀の国債引き受けについて基本的に禁じているが、
「但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りではない」
としている。東日本大震災のような大災害が「特別の事由」でなくて、一体何だというのだろうか。
そもそも、デフレ期に「自国通貨建ての国債償還のための増税」などという奇妙奇天烈な政策を実施した国など、筆者は聞いたことがない。無論、繰り返しになるが、インフレ抑止策として増税や国債償還をやるのは、むしろ望まれる政策だ。とはいえ、デフレ期には異なる。
結局のところ、財務省が今回の東日本大震災を「切っ掛け」に、増税路線を定着させようとしているとしか見えないのだ。「震災復興税」という呼称であれば、国民も文句を言うまいという「ショック・ドクトリン」が透けて見える。
ところで、現在の日本では増税路線のみならず、別の「ショック・ドクトリン」までもが強引に推進されようとしている。もちろん、TPP(環太平洋経済連携協定)である。
次回はTPPという名の「ショックドクトリン」について、取り上げる。
(ショック・ドクトリン後編(1)へ続く)
インフレ期には通常、デフレ期よりも金利が高くなっている。政府が国債を償還すると、民間銀行の「国債という資産」が「現預金という資産」に姿を変える。結果、銀行が貸し出すことが可能なキャッシュ(現金)が増え、民間への貸出金利を抑制することが可能だ。いわゆる、クラウディングアウトを防止することになるわけである。
クラウディングアウトとは、政府が国債発行で市中のお金を吸い上げ、金利が上昇し、民間の経済活動が阻害される現象である。ちなみに、デフレ期にクラウディングアウトは起きない。と言うよりも、クラウディングアウトが起きないことこそが、デフレの証といえる。
というわけで、インフレや金利を抑制したい局面であれば、政府はむしろ率先して国債を償還するべきなのだ。間違っても、インフレ期に公共投資拡大などの積極財政を採るべきではない。とはいえ、公共投資は単なるGDP上の需要拡大目的のみならず、インフレを抑制するための「供給能力拡大」を目的としている場合が多いため、政府の政策の「調整」は、なかなか大変だ。
それはともかく、政府の国債発行、あるいは国債償還は、最終的にはインフレ・デフレの調整、すなわち国民経済の需給の調整を目的とするべきなのである。デフレ期には、政府が国債を発行し、不足している需要を拡大する。インフレ期には、政府は国債を償還し、需要を増やさないと同時に、金利を低下させる(クラウディングアウトを防ぐ)。かなり単純化してしまったが、少なくとも政府の負債が100%円建ての日本の場合は、基本的にはこれだけの話だ。
ところが、先の鈴木善幸氏の言葉からも分かるように、我が国には、なぜか政府の負債を「家計の借金」と同じ視点で見る人が多い。無論、ギリシャのように政府が外国から借金をしていた場合は、鈴木善幸氏の言う通り、
「このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な負債、借金を背負わせることになる。」
という話になる。とはいえ、日本の場合は違う。
通貨発行権を持つ中央政府の「自国通貨建ての負債」は、家計のローンや政府の外貨建て負債とは、全く「別次元」の存在なのである。それを理解していないために、日本では、あたかも家計のローンのように政府の負債を扱う風潮が続いている。
今回の東日本大震災に際し、巨額な国債発行が必要となるわけだが、またもや「復興税」などという、奇妙な政策が浮上してきた。これもまた、政治家が「自国通貨建ての負債」を家計のローンと同じに扱っているためである。
『2011年4月16日 時事通信「震災国債発行へ=復興税導入で早期償還-政府」
政府は16日、東日本大震災の復興対策の財源を通常の国債とは別勘定で管理する震災復興国債の発行で調達する方向で検討に入った。発行に当たっては、震災復興税の導入によって確実な償還計画を立てる。厳しい財政状況を踏まえ、国債発行に対する市場の信認を確保するのが狙い。復興国債や復興税で調達した復興資金は「震災復興基金」を創設し、一元管理する案も出ている。
政府は月内に国会提出する4兆円規模の2011年度第1次補正予算案では、国債発行を回避する方針。しかし、本格的な復興予算となる2次補正以降の財源の確保には、国債発行が避けられない状況だ。必要な財源は10兆円規模に達するとみられる。
ただ、国・地方の長期債務残高が10年度末で869兆円に達する中、安易な国債増発は長期金利の急上昇など市場への悪影響が懸念される。このため、復興国債発行のため制定する根拠法では、償還期間を60年間としている通常の国債よりも大幅に短縮。さらに3~5年の時限的な復興税の導入によって、償還財源を確保することも明記する。
また、使い道は市街地や道路、港湾といったインフラ整備や中小企業支援など復興目的に限定。復興基金などの形で、ほかの予算とは区分経理し、償還までの資金の流れを透明化する。』
「安易な国債増発は長期金利の急上昇など市場への悪影響が懸念される」
というのであれば、日銀に引き受けてもらえば済む話だ。財政法は、日銀の国債引き受けについて基本的に禁じているが、
「但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りではない」
としている。東日本大震災のような大災害が「特別の事由」でなくて、一体何だというのだろうか。
そもそも、デフレ期に「自国通貨建ての国債償還のための増税」などという奇妙奇天烈な政策を実施した国など、筆者は聞いたことがない。無論、繰り返しになるが、インフレ抑止策として増税や国債償還をやるのは、むしろ望まれる政策だ。とはいえ、デフレ期には異なる。
結局のところ、財務省が今回の東日本大震災を「切っ掛け」に、増税路線を定着させようとしているとしか見えないのだ。「震災復興税」という呼称であれば、国民も文句を言うまいという「ショック・ドクトリン」が透けて見える。
ところで、現在の日本では増税路線のみならず、別の「ショック・ドクトリン」までもが強引に推進されようとしている。もちろん、TPP(環太平洋経済連携協定)である。
次回はTPPという名の「ショックドクトリン」について、取り上げる。
(ショック・ドクトリン後編(1)へ続く)
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通貨戦争(31)ペーパーマネー
2011-04-29

現代の通貨が資産との流通価値のみで、単なる紙切れ「無記名有価証券にすぎないこと。
限りある資源でも無ければ、資産でもなく、信用創造による帳簿上の通貨として経済成長を強制してきたこと。
従って通貨の流通量は通貨需要すなわち経済成長と不可分である。
だから市場経済の原則では、通貨の流通を減らすとデフレ、増やすと経済成長、増やしすぎるとインフレてな具合にある程度の調整が可能なのである。
以下は金価格と言うよりも、ペーパーマネーの基本的な性質。
fxdondon 氏から
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
帝国の「安全資産=米国債」の否定が金価格を押し上げる
ペ-パ-マネ-は、交換価値を等質の値に変換するための手段、道具、媒体であり、交換取引によって価値が決まる。
そして、ペ-パ-マネ-下の経済では、量を比較して、値を決める場が市場である。
取引とは、ペ-パ-マネ-と財との交換を意味し、ペ-パ-マネ-の価値を決めるのはペ-パ-マネ-そのものではなく、ペ-パ-マネ-の背後に存在する財、それも価値が不変である究極の拠り所が金なのです。
ペ-パ-マネ-下の経済、あるいは市場では「安全資産=国債」と想定しているため、国債がリスク資産になった場合を想定していません。
しかし、人々はちゃんと想定しているのです。
それは、ドルやユ-ロ、円など紙の印刷物に過ぎないペ-パ-マネ-ではなく、存在そのものが不変である究極の拠り所として金と交換しているのですから。
金価格推移

帝国の栄枯盛衰サイクルは、ざっと100年です。これは別に、私が勝手に決めつけていることではなく、過去の歴史がそう示していることを述べているに過ぎません。フランスも、英国も、過去の帝国は100年で交代してきましたから、現帝国である米国もその例外ではないと、天地創造の神は告げているように思えます。
現帝国の米国は、第二次世界大戦の1950年から隆盛が際立ちました。
しかし、栄枯盛衰サイクル100年の半分、つまり50年を経過した西暦2000年あたりに、その隆盛のピ-クを終えました。
現在の2011年というのは、現帝国の晩年を目にしているわけです。それを表す1つの例が、リアルマネ-金の価値の推移と言えます。現帝国の信用に支えられたペ-パ-マネ-の限界ということになります。
しかし、逆に言うと、現帝国米国が衰退し、次期帝国が再び世界諸国を安定統治できるようになると、リアルマネ-金もその役目を終えます。
再び、次期帝国の信用に基づいたペ-パ-マネ-の信用創造が始まるからです。
しかし、今のお子さんにしか、新帝国の隆盛は目にできないでしょう。
現帝国米国の晩年と言っても、まだこの先40年ぐらい続くことになると過去の経験則では教えてくれていますから、私はもうあの世の天国(地獄?)に旅立っています(苦笑)

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