原発人災事故の検証(産経)
2011-04-09
原発事故7場面検証 4/9産経
(1)電源喪失 安全とコストを天秤
東日本大震災から1カ月がたとうとする今も、「安全」どころか「安定」すら取り戻せない東京電力福島第1原子力発電所。津波による電源喪失、冷却機能の停止、燃料溶融、水素爆発…。次々に襲う「想定外」の事態に対処できず、判断ミスも重なり、危機が連鎖した。なぜ危機を想定できなかったのか。どこかで連鎖を食い止められなかったのか。「天災」なのか、それとも「人災」なのか。7つの場面を検証した。
「最大規模の津波を考慮してきた。想定を大きく上回るものだった」
東電の原子力担当の武藤栄副社長は、3月25日の会見で弁明に追われた。想定した津波は最大5・7メートル。実際の津波は約14メートルに達し、海面から5・5メートルの堤防をのみ込み、同約10メートルの敷地に押し寄せ、海側の発電用タービン建屋に侵入し、地下にある非常用ディーゼル発電機が冠水。1~3号機ですべての電源が失われた。
東電幹部は「津波の敷地への上陸は想定していなかった」と悔やむが、予見する機会はあった。
平成21年6月に同原発の安全性について議論された経済産業省の審議会。委員の岡村行信産業技術総合研究所活断層・地震研究センター長は「約1100年前の貞観地震では内陸3~4キロまで津波が押し寄せた」との最新の研究結果を受け、対策の必要性を強く訴えた。
だが、東電は「学術的な見解がまとまっていない」と応じなかった。岡村氏は「精度の高い推定が無理でも備えるべきだ」と食い下がったが、審議会も東電を支持した。
「過剰な安全性基準はコスト高につながり、結局、利用者の電気料金に跳ね返ってくる」
震災前に東電幹部がよく口にした言葉だ。
国の原子力安全委員会の設計指針も、「電源を喪失した場合、復旧を急げばいいという思想に基づいており、過大な防護への投資を求めてこなかった」(関係者)。
安全とコストを天秤(てんびん)にかけた結果、危機の連鎖が幕を開けた。
(2)炉心溶融 「可能性ゼロ」現実に
電源喪失により、1~3号機では、安定的に原子炉に水を注入できなくなった。燃料棒内部の放射性物質(放射能)が放出する「崩壊熱」で水が蒸発し、水面上に露出。熱に強いジルコニウム合金製の「被覆管」が溶ける1200度以上に達し、日本原発事故史上最悪の「炉心溶融」が始まった。
「小さい確率の事態が全部実現すれば、炉心溶融につながることは論理的には考え得る」。昨年5月の衆院経済産業委員会での経済産業省原子力安全・保安院の寺坂信昭院長の答弁だ。
「多重防護の考え方で設計されており、安全性は確保されている」とも語り、可能性はほぼゼロに近いと否定してみせた炉心溶融は、1年もたたずに現実となった。
原発は「5重の壁」を安全性の大前提としている。燃料のウランを陶器のように焼き固めたペレットに加工し、被覆管で覆い、圧力容器に納め、格納容器で守り、建屋が囲む。
原発安全3原則のうち「止める」は機能したが、電源喪失により「冷やす」機能が失われたことで、「閉じ込める」機能もすべて破られ、放射能汚染が広がった。
原子力安全委員会は平成4年5月に電源喪失などの「シビアアクシデント」に対応できる備えを政府や電力会社に要請した。だが、「数時間後には復旧できるという考え方に基づく設計」(保安院)が見直されることはなかった。
「電源喪失で何が起きるかを想定すれば、とるべき対策があったはずだ」。宮健三東京大名誉教授は“想定外”は言い訳にならないと断じた。
(3)ベント作業 10時間ロスで致命傷
原子炉内の水が失われ、炉心溶融が進む一方、蒸気で内部の圧力が高まり、原子炉圧力容器や格納容器が、損傷する恐れが高まった。1号機の格納容器内では一時、設計想定の5気圧の倍近い9・4気圧を計測した。
圧力を下げるには、原子炉内部の放射性物質を含む蒸気を外部に逃す「ベント(排気)」と呼ばれる措置が必要になる。しかし、その作業は、大きく遅れた。
「半径3キロ以内の避難や3~10キロの屋内退避を実施しているので住民の安全は保たれる」。海江田万里経済産業相がベントを表明したのは、12日午前3時05分。しかし、東電が作業に入れたのは、午前10時17分。放出が行われたのは午後2時半で、表明から10時間以上もたっていた。
遅れの最大の理由は、12日朝の菅直人首相の視察ではなく、電源喪失だった。東電は手作業によるベント開放に手間取ったのだ。この間に炉心溶融が進み、圧力や高熱で圧力容器や格納容器が損傷し、「閉じ込め」機能が失われた可能性がある。
実際、2号機では14日に圧力上昇を受けベントで蒸気を放出したが、海水注入の失敗も重なり、2度にわたって燃料棒が全面露出。15日早朝に爆発が起きた。直後に格納容器につながる圧力抑制室の圧力が急低下。損傷し亀裂や穴が開き、そこから特に濃度の高い汚染水が漏出しているとみられている。
「炉心溶融後にベントを行えば、放射性物質の漏出が増える。もっと早い段階で行うのが定石だ」。大阪大の宮崎慶次名誉教授は、着手も含めた対応の遅れを指摘した。
(4)海水注入 「廃炉」回避 決断鈍る?
東電がベント作業にまごつく間に、1号機の圧力容器内の水位は低下を続けた。12日午前9時半までに燃料棒の上部55センチが露出し、午前11時20分に90センチ、午後0時35分には170センチに達した。
電源がなくても原子炉の余熱でつくった蒸気を利用して原子炉に注水する非常用冷却システムを使い、6千リットルの真水を注入できていたため、より多くの量を確保できる海水注入には踏み切らなかった。
しかし、午後2時12分、施設内で放射性物質のセシウムを検出。本来は燃料棒に閉じ込められ、「核実験か原発事故の後ぐらいしか見つからない物質」(保安院)の漏出で、炉心溶融が確実となる。午後3時36分には1号機で水素爆発が発生。その30分後に海水注入を発表し、午後8時20分に実行に移した。
海水を注入すると、塩などの不純物が内部に付着して使えなくなり、「廃炉」の可能性が高まる。原発は1基3千億円規模に上る建設費に加え、地元同意などで莫大(ばくだい)なコストがかかる。だが、建設すれば、「減価償却が進むにつれ、安定的に利益を生み出してくれる」(業界関係者)。
武藤副社長は3月21日の会見で、「淡水の確保が十分でなくなったときは、比較的早い段階で海水を入れることを念頭に入れてきた」と、注入の躊躇(ちゅうちょ)を否定する。
だが、内藤正則エネルギー総合工学研究所部長は今も疑念が拭えない。
「海水を入れたら何千億円も損をするという発想があったのではないか。経営のことを考えて、元通りにしようという発想では非常事態には対応できない」
(5)燃料プール 炉を優先、放置続ける
15日午前6時、4号機で爆発音とともに火の手があがり、建屋の壁が崩れた。4号機は震災当時、定期点検のため停止中で、原子炉内に燃料棒もなかった。安全と思われていた4号機の爆発は、「核燃料貯蔵プール」の存在をクローズアップさせた。
「事故発生の初期段階から、米国から燃料プールは大丈夫なのかとの指摘があり、現場にもそう連絡していた」。原子力安全委員会の鈴木達治郎委員長代理は、こう明かす。
プールには高熱を持つ使用済み核燃料が大量にある。その数は同原発全体で1万本超(1755トン)。防護壁は放射線を遮る水とコンクリートの建屋しかない。4号機には昨年11月の検査で原子炉から出したばかりの特に温度が高い燃料があることも、東電は分かっていた。
だが、「水があるうちは大丈夫」と、1~3号機の原子炉の冷却を優先し、何ら手を打たなかった。
4号機では、燃料の熱でプールの水が蒸発して水面から露出、水素が発生し爆発したとみられている。燃料が一部溶融し、放射性物質が外部に直接漏出したとみる専門家もおり、原子炉の冷却よりもプールへの放水が、「今は最優先」(保安院)と、位置づけが逆転する。放水には自衛隊ヘリや消防車、東京消防庁ハイパーレスキュー隊の特殊車両などを総動員。放水中は、外部電源の復旧作業が中断された。
「事故発生直後から気をつけていれば、もっと早く収束できたはずだ」。鈴木氏は、東電のプール放置が復旧を大きく遅らせたと指摘した。
(6)汚染水 3人被曝し存在判明
「見たくもないような数字だ」。保安院の西山英彦審議官は3月27日の会見後に、2号機タービン建屋地下にたまった汚染水が放つ放射線量に顔をしかめた。
線量計の針はかざした瞬間に最大値の1時間当たり1千ミリシーベルトを振り切った。今回の事故に限り引き上げられた緊急時作業員の年間被曝(ひばく)線量限度の250ミリシーベルト(通常は100ミリシーベルト)の4倍。放射能濃度は、通常運転時の原子炉内の水の約10万倍に達した。
24日に足が水につかる状態で作業をしていた3人が被曝し、初めて汚染水の存在が判明した。汚染水の量は1~3号機だけで推計6万トン。事故発生当時、失われたことで危機を招いた水が今は復旧の最大の障害となっている。
汚染水の水源は、「原子炉に注入を続けている冷却水」(東電)だ。圧力容器や格納容器の損傷で漏出。「トレンチ」と呼ばれる建屋外の配管トンネルにもたまり、2号機では海に直接流出した。
貯水場所を確保するための「玉突き排水」の結果、低濃度の汚染水を海に放出する前代未聞の事態に追い込まれる“泥縄”で、回収のめどはたっていない。
タービン建屋地下には、ポンプや配電盤など冷却機能の復旧に欠かせない設備があるが、「作業員も容易には近づけない」(東電)。
「原発事故で漏水の有無をチェックするのは基本。2週間もたってから汚染水の存在が明らかになったことは理解できない。早く気づいていれば、早く手を打てた」。宇根崎博信・京都大原子炉実験所教授は、汚染水を予見できなかったことを問題視している。
(7)冷却装置 既存設備復旧に固執
東電が原子炉を100度未満の「冷温停止」状態にするため、全力で復旧を目指しているのが、「残留熱除去システム」だ。注水だけでは、水が蒸発してしまい冷却できない。水を循環させ、外部から海水との熱交換で水を冷やす同システムが欠かせない。蒸気で圧力が上昇し原子炉が危険な状態になったり、漏出によって汚染水が増え続けるといった「悪循環」を断ち切る切り札でもある。
だが、重要設備のあるタービン建屋地下の高濃度汚染水の存在で、復旧作業は事実上中断したままだ。汚染水を除去しないと、故障や損傷の有無も確かめられない。
「原子力技術者は融通がきかず、既存設備に固執しすぎる。広く知恵を借りるべきだ」。復旧作業にかかわるゼネコンの幹部は、こう苦言を呈する。
そもそも、頑丈な圧力容器や格納容器が損傷しており、通電しても同システムが動く保証はない。
九州大の工藤和彦特任教授は「既存設備の復旧を前提として排水にこだわっていると、いつまでもイタチごっこが終わらない」と指摘し、外部に新たに冷却システムを構築すべきだと提案する。
政府と東電でつくる事故対策統合本部もようやく外部構築の検討に着手したが、具体的なプランは描けていない。既存設備にこだわった結果、貴重な時間が失われた。復旧が長期化すれば、それだけ放射能漏れが続く。
「東電や政府には物事の先を見通す勘をもった人間がいないのではないか」
大阪大学の宮崎慶次名誉教授は、こう総括した。
ドキュメント
【11日】
14:46 地震発生、1~3号機が自動停止
15:42 1~4号機の非常用電源が津波で喪失
16:36 1、2号機の緊急炉心冷却装置が使用不能に
19:03 政府が原子力緊急事態宣言を発令
21:23 半径3キロ以内の住民に避難、10キロ以内に屋内退避指示
【12日】
0:49 1号機の圧力上昇
3:05 政府がベントによる蒸気放出を表明
5:44 避難指示区域を半径3キロから10キロに拡大
6:14 首相が陸自ヘリで原発視察に出発
9:30 1号機の水位低下
10:17 1号機でベント作業着手
14:12 原発周辺でセシウム検出
14:30 1号機でベントによる蒸気放出
15:36 1号機で水素爆発
18:25 避難指示区域を半径20キロに拡大
20:20 1号機に海水注入
【13日】
8:00 3号機の水位が低下
9時台 3号機にホウ酸水を注入
9:20 3号機でベントによる蒸気放出
13:12 3号機に海水注入
【14日】
6:50 3号機の圧力上昇
11:01 3号機で水素爆発
12:00 2号機で水位低下
13:52 2号機の給水停止、圧力上昇
18:22 2号機で燃料棒一時全面露出
19:20 2号機に海水注入
23:20 2号機で再び全面露出
【15日】
4:08 4号機の核燃料貯蔵プールの温度が84度に上昇
6:00 4号機プール付近で爆発
6:14 2号機から爆発音、圧力抑制室に損傷か
9:38 4号機で出火を確認
11:00 半径20~30キロ圏内の住民に屋内退避を指示
【16日】
5:45 4号機で再び火災確認
8:37 3号機から白煙確認
17:24 自衛隊ヘリ放水を断念
【17日】
9:48 自衛隊ヘリが3号機に放水開始
19:35 自衛隊消防車が3号機に放水開始
【18日】
10:30 2号機タービン建屋で毎時500ミリシーベルト計測
【19日】
0:30 東京消防庁のハイパーレスキュー隊が放水開始
13:30 2号機に外部電源接続
14:10 東京消防庁が屈折放水塔車から7時間放水を開始
【20日】
8:21 自衛隊の放水車が4号機プールへの放水開始
13:00 3号機で圧力上昇、蒸気の直接放出の検討公表
14:30 5号機が冷温停止に
15:05 2号機のプールに外部ポンプで注水開始
19:27 6号機が冷温停止
【21日】
6:37 自衛隊の放水車など13台が4号機プールに放水開始
15:55 3号機から黒煙確認
【22日】
10:35 3、4号機に外部電源接続、すべて通電可能に
22:43 3号機の中央制御室の照明点灯
【23日】
4:00 1号機原子炉の温度が400度に上昇
10:00 4号機プールに生コン圧送機で注水開始
【24日】
12:10 3号機地下で作業員3人が被曝
【25日】
1:30 保安院が放射線管理の改善指示
6:00 1、2、4号機で白煙
【26日】
10:10 2号機原子炉への注水を海水から真水に切り替え
【27日】
15:30 東電社員が1~3号機の配管トンネル内に汚染水を確認
【28日】
1:00 2号機地下の水の濃度が通常の10万倍と発表
23:30 敷地内でプルトニウムを検出と発表
【1日】
15:00 放射性物質の飛散防止のため合成樹脂を散布
【2日】
9:30 2号機ピット付近からの汚染水流出を確認
【3日】
13:47 汚染水流出防止で吸水ポリマーなど投入
【4日】
19:03 集中廃棄物処理施設の低濃度汚染水を海に放出
21:00 5、6号機の低濃度汚染水を海に放出
【5日】
14:15 2号機ピットに水ガラス注入
【6日】
5:38 高濃度汚染水の流出が止まる
【7日】
1:30 1号機に水素爆発防止の窒素注入開始
23:32 最大の余震が発生
【8日】
0:10 東電が会見で、「新たな異常なし」と発表
※ 1号機の原子炉が3/12昼から空焚き状態だったことが判明
(1)電源喪失 安全とコストを天秤
東日本大震災から1カ月がたとうとする今も、「安全」どころか「安定」すら取り戻せない東京電力福島第1原子力発電所。津波による電源喪失、冷却機能の停止、燃料溶融、水素爆発…。次々に襲う「想定外」の事態に対処できず、判断ミスも重なり、危機が連鎖した。なぜ危機を想定できなかったのか。どこかで連鎖を食い止められなかったのか。「天災」なのか、それとも「人災」なのか。7つの場面を検証した。
「最大規模の津波を考慮してきた。想定を大きく上回るものだった」
東電の原子力担当の武藤栄副社長は、3月25日の会見で弁明に追われた。想定した津波は最大5・7メートル。実際の津波は約14メートルに達し、海面から5・5メートルの堤防をのみ込み、同約10メートルの敷地に押し寄せ、海側の発電用タービン建屋に侵入し、地下にある非常用ディーゼル発電機が冠水。1~3号機ですべての電源が失われた。
東電幹部は「津波の敷地への上陸は想定していなかった」と悔やむが、予見する機会はあった。
平成21年6月に同原発の安全性について議論された経済産業省の審議会。委員の岡村行信産業技術総合研究所活断層・地震研究センター長は「約1100年前の貞観地震では内陸3~4キロまで津波が押し寄せた」との最新の研究結果を受け、対策の必要性を強く訴えた。
だが、東電は「学術的な見解がまとまっていない」と応じなかった。岡村氏は「精度の高い推定が無理でも備えるべきだ」と食い下がったが、審議会も東電を支持した。
「過剰な安全性基準はコスト高につながり、結局、利用者の電気料金に跳ね返ってくる」
震災前に東電幹部がよく口にした言葉だ。
国の原子力安全委員会の設計指針も、「電源を喪失した場合、復旧を急げばいいという思想に基づいており、過大な防護への投資を求めてこなかった」(関係者)。
安全とコストを天秤(てんびん)にかけた結果、危機の連鎖が幕を開けた。
(2)炉心溶融 「可能性ゼロ」現実に
電源喪失により、1~3号機では、安定的に原子炉に水を注入できなくなった。燃料棒内部の放射性物質(放射能)が放出する「崩壊熱」で水が蒸発し、水面上に露出。熱に強いジルコニウム合金製の「被覆管」が溶ける1200度以上に達し、日本原発事故史上最悪の「炉心溶融」が始まった。
「小さい確率の事態が全部実現すれば、炉心溶融につながることは論理的には考え得る」。昨年5月の衆院経済産業委員会での経済産業省原子力安全・保安院の寺坂信昭院長の答弁だ。
「多重防護の考え方で設計されており、安全性は確保されている」とも語り、可能性はほぼゼロに近いと否定してみせた炉心溶融は、1年もたたずに現実となった。
原発は「5重の壁」を安全性の大前提としている。燃料のウランを陶器のように焼き固めたペレットに加工し、被覆管で覆い、圧力容器に納め、格納容器で守り、建屋が囲む。
原発安全3原則のうち「止める」は機能したが、電源喪失により「冷やす」機能が失われたことで、「閉じ込める」機能もすべて破られ、放射能汚染が広がった。
原子力安全委員会は平成4年5月に電源喪失などの「シビアアクシデント」に対応できる備えを政府や電力会社に要請した。だが、「数時間後には復旧できるという考え方に基づく設計」(保安院)が見直されることはなかった。
「電源喪失で何が起きるかを想定すれば、とるべき対策があったはずだ」。宮健三東京大名誉教授は“想定外”は言い訳にならないと断じた。
(3)ベント作業 10時間ロスで致命傷
原子炉内の水が失われ、炉心溶融が進む一方、蒸気で内部の圧力が高まり、原子炉圧力容器や格納容器が、損傷する恐れが高まった。1号機の格納容器内では一時、設計想定の5気圧の倍近い9・4気圧を計測した。
圧力を下げるには、原子炉内部の放射性物質を含む蒸気を外部に逃す「ベント(排気)」と呼ばれる措置が必要になる。しかし、その作業は、大きく遅れた。
「半径3キロ以内の避難や3~10キロの屋内退避を実施しているので住民の安全は保たれる」。海江田万里経済産業相がベントを表明したのは、12日午前3時05分。しかし、東電が作業に入れたのは、午前10時17分。放出が行われたのは午後2時半で、表明から10時間以上もたっていた。
遅れの最大の理由は、12日朝の菅直人首相の視察ではなく、電源喪失だった。東電は手作業によるベント開放に手間取ったのだ。この間に炉心溶融が進み、圧力や高熱で圧力容器や格納容器が損傷し、「閉じ込め」機能が失われた可能性がある。
実際、2号機では14日に圧力上昇を受けベントで蒸気を放出したが、海水注入の失敗も重なり、2度にわたって燃料棒が全面露出。15日早朝に爆発が起きた。直後に格納容器につながる圧力抑制室の圧力が急低下。損傷し亀裂や穴が開き、そこから特に濃度の高い汚染水が漏出しているとみられている。
「炉心溶融後にベントを行えば、放射性物質の漏出が増える。もっと早い段階で行うのが定石だ」。大阪大の宮崎慶次名誉教授は、着手も含めた対応の遅れを指摘した。
(4)海水注入 「廃炉」回避 決断鈍る?
東電がベント作業にまごつく間に、1号機の圧力容器内の水位は低下を続けた。12日午前9時半までに燃料棒の上部55センチが露出し、午前11時20分に90センチ、午後0時35分には170センチに達した。
電源がなくても原子炉の余熱でつくった蒸気を利用して原子炉に注水する非常用冷却システムを使い、6千リットルの真水を注入できていたため、より多くの量を確保できる海水注入には踏み切らなかった。
しかし、午後2時12分、施設内で放射性物質のセシウムを検出。本来は燃料棒に閉じ込められ、「核実験か原発事故の後ぐらいしか見つからない物質」(保安院)の漏出で、炉心溶融が確実となる。午後3時36分には1号機で水素爆発が発生。その30分後に海水注入を発表し、午後8時20分に実行に移した。
海水を注入すると、塩などの不純物が内部に付着して使えなくなり、「廃炉」の可能性が高まる。原発は1基3千億円規模に上る建設費に加え、地元同意などで莫大(ばくだい)なコストがかかる。だが、建設すれば、「減価償却が進むにつれ、安定的に利益を生み出してくれる」(業界関係者)。
武藤副社長は3月21日の会見で、「淡水の確保が十分でなくなったときは、比較的早い段階で海水を入れることを念頭に入れてきた」と、注入の躊躇(ちゅうちょ)を否定する。
だが、内藤正則エネルギー総合工学研究所部長は今も疑念が拭えない。
「海水を入れたら何千億円も損をするという発想があったのではないか。経営のことを考えて、元通りにしようという発想では非常事態には対応できない」
(5)燃料プール 炉を優先、放置続ける
15日午前6時、4号機で爆発音とともに火の手があがり、建屋の壁が崩れた。4号機は震災当時、定期点検のため停止中で、原子炉内に燃料棒もなかった。安全と思われていた4号機の爆発は、「核燃料貯蔵プール」の存在をクローズアップさせた。
「事故発生の初期段階から、米国から燃料プールは大丈夫なのかとの指摘があり、現場にもそう連絡していた」。原子力安全委員会の鈴木達治郎委員長代理は、こう明かす。
プールには高熱を持つ使用済み核燃料が大量にある。その数は同原発全体で1万本超(1755トン)。防護壁は放射線を遮る水とコンクリートの建屋しかない。4号機には昨年11月の検査で原子炉から出したばかりの特に温度が高い燃料があることも、東電は分かっていた。
だが、「水があるうちは大丈夫」と、1~3号機の原子炉の冷却を優先し、何ら手を打たなかった。
4号機では、燃料の熱でプールの水が蒸発して水面から露出、水素が発生し爆発したとみられている。燃料が一部溶融し、放射性物質が外部に直接漏出したとみる専門家もおり、原子炉の冷却よりもプールへの放水が、「今は最優先」(保安院)と、位置づけが逆転する。放水には自衛隊ヘリや消防車、東京消防庁ハイパーレスキュー隊の特殊車両などを総動員。放水中は、外部電源の復旧作業が中断された。
「事故発生直後から気をつけていれば、もっと早く収束できたはずだ」。鈴木氏は、東電のプール放置が復旧を大きく遅らせたと指摘した。
(6)汚染水 3人被曝し存在判明
「見たくもないような数字だ」。保安院の西山英彦審議官は3月27日の会見後に、2号機タービン建屋地下にたまった汚染水が放つ放射線量に顔をしかめた。
線量計の針はかざした瞬間に最大値の1時間当たり1千ミリシーベルトを振り切った。今回の事故に限り引き上げられた緊急時作業員の年間被曝(ひばく)線量限度の250ミリシーベルト(通常は100ミリシーベルト)の4倍。放射能濃度は、通常運転時の原子炉内の水の約10万倍に達した。
24日に足が水につかる状態で作業をしていた3人が被曝し、初めて汚染水の存在が判明した。汚染水の量は1~3号機だけで推計6万トン。事故発生当時、失われたことで危機を招いた水が今は復旧の最大の障害となっている。
汚染水の水源は、「原子炉に注入を続けている冷却水」(東電)だ。圧力容器や格納容器の損傷で漏出。「トレンチ」と呼ばれる建屋外の配管トンネルにもたまり、2号機では海に直接流出した。
貯水場所を確保するための「玉突き排水」の結果、低濃度の汚染水を海に放出する前代未聞の事態に追い込まれる“泥縄”で、回収のめどはたっていない。
タービン建屋地下には、ポンプや配電盤など冷却機能の復旧に欠かせない設備があるが、「作業員も容易には近づけない」(東電)。
「原発事故で漏水の有無をチェックするのは基本。2週間もたってから汚染水の存在が明らかになったことは理解できない。早く気づいていれば、早く手を打てた」。宇根崎博信・京都大原子炉実験所教授は、汚染水を予見できなかったことを問題視している。
(7)冷却装置 既存設備復旧に固執
東電が原子炉を100度未満の「冷温停止」状態にするため、全力で復旧を目指しているのが、「残留熱除去システム」だ。注水だけでは、水が蒸発してしまい冷却できない。水を循環させ、外部から海水との熱交換で水を冷やす同システムが欠かせない。蒸気で圧力が上昇し原子炉が危険な状態になったり、漏出によって汚染水が増え続けるといった「悪循環」を断ち切る切り札でもある。
だが、重要設備のあるタービン建屋地下の高濃度汚染水の存在で、復旧作業は事実上中断したままだ。汚染水を除去しないと、故障や損傷の有無も確かめられない。
「原子力技術者は融通がきかず、既存設備に固執しすぎる。広く知恵を借りるべきだ」。復旧作業にかかわるゼネコンの幹部は、こう苦言を呈する。
そもそも、頑丈な圧力容器や格納容器が損傷しており、通電しても同システムが動く保証はない。
九州大の工藤和彦特任教授は「既存設備の復旧を前提として排水にこだわっていると、いつまでもイタチごっこが終わらない」と指摘し、外部に新たに冷却システムを構築すべきだと提案する。
政府と東電でつくる事故対策統合本部もようやく外部構築の検討に着手したが、具体的なプランは描けていない。既存設備にこだわった結果、貴重な時間が失われた。復旧が長期化すれば、それだけ放射能漏れが続く。
「東電や政府には物事の先を見通す勘をもった人間がいないのではないか」
大阪大学の宮崎慶次名誉教授は、こう総括した。
ドキュメント
【11日】
14:46 地震発生、1~3号機が自動停止
15:42 1~4号機の非常用電源が津波で喪失
16:36 1、2号機の緊急炉心冷却装置が使用不能に
19:03 政府が原子力緊急事態宣言を発令
21:23 半径3キロ以内の住民に避難、10キロ以内に屋内退避指示
【12日】
0:49 1号機の圧力上昇
3:05 政府がベントによる蒸気放出を表明
5:44 避難指示区域を半径3キロから10キロに拡大
6:14 首相が陸自ヘリで原発視察に出発
9:30 1号機の水位低下
10:17 1号機でベント作業着手
14:12 原発周辺でセシウム検出
14:30 1号機でベントによる蒸気放出
15:36 1号機で水素爆発
18:25 避難指示区域を半径20キロに拡大
20:20 1号機に海水注入
【13日】
8:00 3号機の水位が低下
9時台 3号機にホウ酸水を注入
9:20 3号機でベントによる蒸気放出
13:12 3号機に海水注入
【14日】
6:50 3号機の圧力上昇
11:01 3号機で水素爆発
12:00 2号機で水位低下
13:52 2号機の給水停止、圧力上昇
18:22 2号機で燃料棒一時全面露出
19:20 2号機に海水注入
23:20 2号機で再び全面露出
【15日】
4:08 4号機の核燃料貯蔵プールの温度が84度に上昇
6:00 4号機プール付近で爆発
6:14 2号機から爆発音、圧力抑制室に損傷か
9:38 4号機で出火を確認
11:00 半径20~30キロ圏内の住民に屋内退避を指示
【16日】
5:45 4号機で再び火災確認
8:37 3号機から白煙確認
17:24 自衛隊ヘリ放水を断念
【17日】
9:48 自衛隊ヘリが3号機に放水開始
19:35 自衛隊消防車が3号機に放水開始
【18日】
10:30 2号機タービン建屋で毎時500ミリシーベルト計測
【19日】
0:30 東京消防庁のハイパーレスキュー隊が放水開始
13:30 2号機に外部電源接続
14:10 東京消防庁が屈折放水塔車から7時間放水を開始
【20日】
8:21 自衛隊の放水車が4号機プールへの放水開始
13:00 3号機で圧力上昇、蒸気の直接放出の検討公表
14:30 5号機が冷温停止に
15:05 2号機のプールに外部ポンプで注水開始
19:27 6号機が冷温停止
【21日】
6:37 自衛隊の放水車など13台が4号機プールに放水開始
15:55 3号機から黒煙確認
【22日】
10:35 3、4号機に外部電源接続、すべて通電可能に
22:43 3号機の中央制御室の照明点灯
【23日】
4:00 1号機原子炉の温度が400度に上昇
10:00 4号機プールに生コン圧送機で注水開始
【24日】
12:10 3号機地下で作業員3人が被曝
【25日】
1:30 保安院が放射線管理の改善指示
6:00 1、2、4号機で白煙
【26日】
10:10 2号機原子炉への注水を海水から真水に切り替え
【27日】
15:30 東電社員が1~3号機の配管トンネル内に汚染水を確認
【28日】
1:00 2号機地下の水の濃度が通常の10万倍と発表
23:30 敷地内でプルトニウムを検出と発表
【1日】
15:00 放射性物質の飛散防止のため合成樹脂を散布
【2日】
9:30 2号機ピット付近からの汚染水流出を確認
【3日】
13:47 汚染水流出防止で吸水ポリマーなど投入
【4日】
19:03 集中廃棄物処理施設の低濃度汚染水を海に放出
21:00 5、6号機の低濃度汚染水を海に放出
【5日】
14:15 2号機ピットに水ガラス注入
【6日】
5:38 高濃度汚染水の流出が止まる
【7日】
1:30 1号機に水素爆発防止の窒素注入開始
23:32 最大の余震が発生
【8日】
0:10 東電が会見で、「新たな異常なし」と発表
※ 1号機の原子炉が3/12昼から空焚き状態だったことが判明
- 関連記事
-
- 武田:これからの放射能と生活への影響 (2011/04/12)
- 武田:原発は今後、爆発の可能性は低い (2011/04/11)
- 法の基準を守れ、100mSvで安全等と言う狂気 (2011/04/11)
- 気象学会「研究結果を自由に発表してはいけない」 (2011/04/11)
- 一切批判的質問をしない大マスコミ (2011/04/10)
- 原発人災事故の検証(産経) (2011/04/09)
- 小出:原発の現状 (2011/04/09)
- 昨深夜の地震:東通原発は危うく福島第一になるところ (2011/04/08)
- テレビが伝えない原発の状況 (2011/04/08)
- 武田:格納容器に窒素を入れた理由と影響 (2011/04/07)
- 現実の汚染被害に風評が追い打ちしている (2011/04/07)
小出:原発の現状
2011-04-09
東通原発は通常電力の復旧後にディーゼル電源喪失。原因は燃料漏れ。
昨日書いたが、それどころではない。
原発職員のレベル低下か。
あっと言う間にこんなことになるところだった
ーーーーーーーーーーーーーーー
京大原子炉、小出裕章さん「窒素注入、クロル38、汚染土壌」4月6日~8日の3日分(毎日放送ラジオたねまきジャーナル)書き起こし
メインキャスター:千葉猛(以下「司会」と表記)
コメンテーター:池田 毎日新聞 大阪本社論説委員
司会:ここで、福島第一原発の動きについて、
原子力が専門の京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんに話を伺います。
小出さん、こんばんは、今日もよろしくお願いします。
小出氏:こちらこそ。
司会:今日はまずメールを紹介させて下さい。
昨日一昨日の小出さんの話の中にあった、
再臨界が起きているかどうかの判断の材料となるクロル38という物質について、
こんなメールを頂いている。
(ラジオネーム省略)
「昨日話題になったクロル38について、
小出先生はアメリカの学者が東電のデータを引用していた旨、
おっしゃっていたように思います。
確認した所、東電のサイトには該当するデータはありませんでしたが、
原子力保安院のサイトに3月25日付で東電からのデータとして
公表している資料の中に、クロル38が検出されたとするデータが、
存在しておりました」
というメールを頂いた。
小出氏:そうです、その通りです。
司会:私共もスタッフがHPで確認した所、
平成23年3月26日の原子力安全保安院の発したニュースリリースという事で、
「福島第一原子力発電所1号機タービン建屋の地下の溜まり水の測定結果」
という資料があり、測定された元素の一番上にクロル38があった。
小出氏:そうです。
司会:私達も実際に確認をしました。
それを踏まえて伺いますけれども、
その後クロル38の検出は間違いであったといったような
データとか知らせとかはありませんでしょうか。
小出氏:私は聞いていないし、間違いであった方がいいなと思うが、
このクロル38という放射性核種が出すガンマー線というのは、
大変エネルギーの高いガンマー線で、
間違えると言う事はたぶんあり得ないと思っていて、
間違いであって欲しいと思うけれども、
本当だとすれば、やはり再臨界を疑うしかないと思っている。
司会:あと、小出さん、以前にクロル38以外にも
圧力容器近くの中性子線の量が解れば、
再臨界が起きているかどうか判断できると言っていたと思うけれども、
そういったデータについても相変わらず発表はされていないのでしょうか。
小出氏:発表はされていない。
東京電力自身が持っていない、
あるいはもう事故によって破壊されてデータが取れないと言う可能性も
あるのかもしれないと思っている。
どちらなのかよく解らない。
少なくともデータ自身は公表されていない。
司会:ではそこも解らないという事になるけれども、
そういった状態の中で、今日伝えられているニュースとしては、
ちょっと明るいかなと感じられるものとして、
1号機への窒素の注入がうまくいっているらしい、
というような事が伝えれているが、
これで爆発の危険と言うのはなくなるのでしょうか。
小出氏:簡単にはなくならない。
どうして注入をしなければいけないという判断になったのかという事が大切だが、
米国のNRCという組織が、
今格納容器の中に水素と酸素が出来ているから窒素を入れなければいけない、
というような事をたぶん言ったんだと思う。
そのためにやっているか、
あるいは東電自身が格納容器の中の水素と酸素の濃度をきちっと把握して
自分たちでやはりこれは危ないと、やらざるを得ないと判断したのか、
どちらだか私にはよく解らないが、
もし後者だとして、東京電力自身が危ないと判断したのだとすると、
窒素を入れたとしても水素と酸素が無くなる訳ではないので、
爆発の危険がなくなる訳ではない。
濃度が少しずつ下がるというだけなのであって、
どうせ水素も酸素も出てくるので、
結局いたちごっこになる。
問題は、限られた空間の中に、
もともと水素も酸素も入っている中に窒素を入れる訳だから、
圧力がどんどんどんどん上がって来る。
そうするといつか格納容器がもたなくなってしまうので、
格納容器の中の放射能まみれの空気を外に出さざるを得なくなる。
それは東電の方も十分に承知していて、
モニタリング体制をもっとしっかりやります、というような事を言っている。
池田氏:そうすると、圧力を抜くためにやはり外に出して行くという事も考えられる・・・
小出氏:もちろんです、出さざるを得ない。
池田氏:ですね。
司会:報道では3号機の格納容器の放射線量がとても高くて、
毎時167Svという数値が伝えられているが、
例えばこれというのはどれ位の強さなのでしょうか。
小出氏:例えば、人は8Sv浴びれば死んでしまうので、
160なんとかというのはとてつもない量で、
ちょっとそこに居たら死んでしまうという位の量。
司会:では、今、1号機はこれ程高くはないかもしれないが、
格納容器内の水素と酸素が、窒素注入で漏れるかもしれないという事は、
かなり高濃度の放射性物質が漏れる可能性があると考えていいのか。
小出氏:もちろん、そうです。
格納容器の中には大変高濃度の放射能を含んだガスが充満しているので、
窒素を入れる事によって今まで入って来たガスを、
いずれにしても抜かなければいけないので、
高濃度の放射能を含んだガスが出てくると思う。
池田氏:例えば、爆発を防げたとして、
例えば核燃料が溶けて、例え鋼鉄製の圧力容器と言え、
溶かす可能性はありますよね。
小出氏:もちろん、あります。
池田氏:だから、下から出る可能性もありますよね、そうなると。
小出氏:2号機と3号機はもう圧力容器が壊れてしまっているので、
いずれにしても、もう漏れている。
1号機に関してはまだ圧力容器が健全ではないか、という風に言われている。
確かに原子炉内の圧力と格納容器内の圧力がちょっと違っているので、
そうかもしれないと思う。
でも、小さな漏れ位はどうせあるだとうと私は思っている。
池田氏:1号機の燃料棒の損傷率というのは非常に高いですよね。
小出氏:と、言われています。
それがどういうデータに基づいて推定しているのか私にはよく解らないが。
いずれにしても何割かは壊れていると思う。
池田氏:という事ですね。
以前原子力安全委員会の委員長の斑目さんが、
1号機が最も危険だと発言した事があったけれども、
その後やはり状況は変わってないという事なのか。
小出氏:私はもう1号も2号も3号も基本的には同じだと思っている。
要するに電源がない訳ですし、
電源が復旧したと言ってもポンプも何も動かない訳だから、
進んでいる事象自身は一緒です。
小さな事で少しずつ違っているという事であって、
たまたま2号炉ではサプレッションチェンバー(圧力抑制室)で爆発があった
という事があったし、
1号と3号ではベントを開いたために水素爆発が起きたという事があるが、
基本的に進行している事は、炉心が段々段々破壊されて、
崩れ落ちて行っているという事。
司会:あの、いくつか例えば今日の、窒素注入が成功したとか、
ピットから漏れている水が止まったとかいう事で、
多少良い方向へ進んでいるのかなと感じるような話と
受け取れるようなものも流れていて、
全体の状況が皆さん解り難い状況になっているかと思うが、
今の段階は、完全に安全だと言えるようになる段階を、
例えば大雑把に10段階に分けるとしたら、
いくつ位まで進んでいる状態だと考えられるか。
小出氏:すみません、解りません。
司会:解らないですか。
小出氏:はい。
池田氏:あの、例えば海外の専門機関からは、
所謂放射性物質の拡散の予測とか、これから起こりうる最悪のシナリオ等々について、
いろいろな事が示されている。
所が日本の原子力安全委員会の方ではそういうような事をやっていないので
余計不信感というものが高まっているのではないかという気がするが、
その辺りは。
先ほどの米国の専門チームの窒素の話もそうなのですけども、
どうなのですか、その辺りは。
小出氏:安全委員会自身はもう決定的に時代遅れというのか、
役割が何も果たせないようなままの状態にあると私には思える。
政府の方も、安全委員会を見限ったようで、
内閣府参与というような、また別の集団を集めたりして、
自分たちで活動を始めている訳です。
もう本当てんでんばらばらになってしまっていて、
一体この日本と言う政府の中で、どこが指揮を取っているのかも解らないという、
そういう状態になっている訳です。
池田氏:一般の人間でも、情報と判断材料をしっかり示してもらう、
という事は非常に重要な事と思う。
小出氏:もちろんです。
池田氏:その事が、安全委員会が本来は果たすべき役割なんじゃないのかな、と思うが、
もうそれは機能していないという事なのか。
小出氏:少なくとも現実は機能していないです。
そうあるべきとは思うが、残念ながらそうはなっていない。
司会:小出さん、政府が今非難指示が出ている福島第一原発から
半径20km圏内を立ち入り禁止の警戒区域にする事を検討している
というような情報も伝わって来ているし、
半径20kmから30km圏内で出している屋内退避指示も、
積算放射線量をもとに新しい基準を作って
より厳しい非難指示に切り替える事も検討しているというような情報もあるが、
これについてどうお聞きになったか。
小出氏:当然厳しく順番にしていかなければいけないと思う。
今回の事故が起きてから、当初は3km圏内の人達に万一の事を考えて
非難しなさいという事で始まったと思う。
それが次には万一の事を考えて10kmと言った。
次には万一の事を考えて20kmと言った。
最後には万一の事を考えて30kmの人にそれまで屋内退避だったものを
自主的な避難をしなさい、というような事を言って来た訳です。
次々と日本政府の言い分は「万一、万一」と言いながら後退していくというか、
追い詰められていくというような事になった訳で、
もともとの想定自身がもう話にならない程甘すぎたと思う。
池田氏:根拠はないんですよね。
指示のもとになるデータなり何なり、合理的な根拠がないものだから、
次から次に初動の失敗が繰り返されて来ているという事だが、
実際日本には所謂そういうデータをもとに拡散を予測する
SPEEDIというシステムがあるはずなのに、
全く生かしきれていないという事なのですかな。
小出氏:要するに隠した。
池田氏:隠したんですね。
小出氏:事故が起きてすぐSPEEDIが動いたはず。
動かなければ全く意味がないし、
そのために20年の期間をかけて彼らは研究してきた訳だから、
この時にやらなければ意味のない研究だった。
所がそのデータが隠されてしまって、
ヨーロッパ各国がそれぞれ自分達の方で発表するという事になってしまって
どうしようもなくて後から出てくるという、
本当に情けない事になっている。
司会:小出さんがおっしゃったように段階的に
退避の指示を広げていて来ているという状況の中で
福間第一原発から20km地域以内の方達の一時帰宅を
今政府が検討しているという事なんですが、
それについては大丈夫なんでしょうか。
危ない所に安全な形で実現しようと考えたら、
どんな装備でどんな時間制限だとかつけて行う事が
必要な事なんでしょうか。
小出氏:私は、一時帰宅という事はやるべきだと思う。
ラジオをお聞きに皆さんもそうでしょうけれども、
皆生活をした場所と言うのはある、
それが、避難をしろと言って避難をさせられて避難所に移ったとしても、
そこは自分の住まいではない訳だし、
物凄いストレスの中で亡くなっていくという方々もいる訳ですよね。
自分達が生きて来た所に戻りたい、
あるいはそこの所へ行って何かを持ち出したいという事は必ずあると思うし、
やらなければいけないと思う。
ただし、放射能の汚染地帯である事はもちろんな訳ですから、
ちゃんとそこに送り届けて、あまり長い時間を送らないまま
きちっとまた連れ出さなければいけないと思うし、
放射能を体に付けたりしないようにそれなりの防護の服を着せたりしながら、
やって頂かなければいけないと思う。
司会:安全の装備をして、それは行うべきと事ですね。
小出氏:はい。
司会:あともうひとつ、海の汚染について今もニュースで伝えてもらったが、
原発からおよそ15km沖合の海で法律で決められた濃度限度の
11倍の放射性ヨウ素を検出したという発表があったが、
15kmというと大変な沖合という感じがするが、
汚染水が出続ける限り拡がり続ける事になるんですよね。
小出氏:もちろんです。
司会:これはもう、出続ける限り広い範囲に汚染が
本当に止まるまで拡がり続けるという事になる訳ですよね。
小出氏:はい、基本的にそうです。
ただし、ヨウ素という放射能は半分に減るまでが8日なので、
何カ月か経てば随分少なくなってくれるはずだ、
と私は期待している。
ただ、この番組でも話させて頂いたし、
さっきもちょっと話したけれども、
もし再臨界という事が起きているなら、
次々とヨウ素がまだ生成されてしまうので、
ヨウ素による汚染が長引く可能性があると思う。
司会:新たに再臨界で作られて濃度が高いものが流れる限り
海洋汚染の危険性というものはいつまで経っても下がらない訳ですよね。
小出氏:はい、ま、ひとつの推測の上での話を私はしているが、
その可能性はあると思う。
司会:はい、わかりました。
すみません、今日もどうもありがとうございました。
小出氏:ありがとうございました。
司会:明日もよろしくお願い致します。
小出氏:はい。
<おまけ>として。
昨日18:30より東京電力にて松本本部長による記者会見が行われた。
途中までしか視聴していないが、
日本インターネット新聞社の田中龍作氏と、
IWJの岩上安身氏が鋭い質問を投げかけているので、
以下にメモを掲載した。
田中龍作氏:本日外務副大臣が会見、
今回の原発事故に関し海外メディアの報道に誇張があると言い訂正を求めた。
東電と政府は情報を開示していないという報道、
松本本部長はどう思うか。
答え:海外メディアに関するコメントは差し控えたい。
現時点で解っている情報を速やかに開示したい、と。
田中氏:先週勝俣会長の会見で、地震発生当時マスコミを連れて中国旅行に行っており、
旅費の多くを東電が持って、それについて社名を明かしてくれと、
お願いした所、2~3日のうちに、と言った。
広報担当の松本さんなら解りますよね。
鈴木広報部長(松本本部長に代わり質問に答える):
勝俣も申し上げたように基本的に会費制、
相手もある事なので確認させて欲しい、と申し上げた。
まだ了解得られていない。
田中氏:会費制度ではない。2万円で中国へ行けるはずがない。
多くを東電が持ったと言った。
鈴木氏:若干はそうですが、基本的には会費を徴収されて、
事務局の方がお連れする。
田中氏:だって常識で考えて2万円で中国へ行ける訳ないじゃないですか。
それで先方さんの理解を得られていないとおっしゃいましたね。
どうしても隠しあっている、癒着していると思われますよ。
マスコミと東電さんが。
鈴木氏:決してそういう事ではないんですけれども。
田中氏:だったら明らかにして下さい。
鈴木氏:取りまとめをされている方もおりますので、
その時も申し上げたと思いますけれども。
田中氏:いいですか、マスコミは公共施設に家賃も払わずに入っている、広い。
(記者クラブの事)
年間何百億円にもなっている。
これはひとつの公の機関である訳ですよ。
で、情報を独占している。
国民に明かせないとなったら、国民は電気料金も払わないですよ。
鈴木氏:ご意見として伺っておきます。
岩上氏:2点ほど質問したいと思う。
格納容器に損傷が出てあるという話もあるが、
圧力容器の底部に穴が開いてるか亀裂があるかで水漏れとの質問あると思うが、
いろいろな言い方で、統一を見ない感がある。
28日未明の段階で、「圧力容器の底部に穴が開いている様なイメージ」という表現で
答えた事があった。
先日京大原子炉実験所の小出裕章助教にインタビューした所、
原子力の専門家だったら確実に圧力容器に穴が開いている事は間違いないと。
なので注水しても満水にならない。
水を入れ続けるしかない。
その水がダダ漏れし続け、汚染水は海に流され続けるだろう、とおっしゃっていて、
その通り、汚染排水を東電はする事となった。
汚染排水の道徳的非難を浴びせられている訳ですが、
それ以上に根本的にそうならざるを得ない原因、
圧力容器に穴が開いているという現実をお認めになるか、
開いているならどの程度のレベルで補修のきかないものなのか、
この方法しかないのか、
そこをはっきりとした言葉で世界に向かって説明する責任があると思います。
この点1点。
それから2点め、
昨日、元佐賀大学学長上原春雄さんの共同インタビューをした。
外付けの冷却装置を持ってくれば、
開放系の冷却ではなく閉鎖系の冷却システムの再構築が可能である、
全溶接型のプレート型の機械である。
政府に提案している。
皆さんのもとには届いているのか。
皆さんの方で上原さんのプランは真剣に検討されているのか。
時間が経てば経つほど放射性量が深刻な状態になると、
この点も含めて、真剣な検討を皆さんでなされているかどうか、
この2点、お聞かせ下さい。
松本氏:原子炉圧力容器の損傷の件、
現時点で圧力容器の損傷の程度ははっきりした事が申し上げられる段階ではない。
ただし原子炉の圧力容器、いわゆる燃料が損傷し、その中に含まれている
核分裂生成物がタービン建屋内で溜まり水で見つかっている事を考えると、
圧力容器→格納容器→原子炉建屋・タービン建屋へ漏れ出ているのではないかと。
穴が開いているかどうかの質問、
どれくらいの穴があいているか、
原子炉圧力容器の底には計測器とか制御棒の配管や小さい配管が何本か
入っているので、そういう所が損傷を受け、
原子炉内の水が出ている可能性はあると思う。
ただ、圧力容器本体が穴があいているかどうかは現時点では不明。
それから冷却装置、
先生のご提案も含めいろんな手段を検討している段階。
外付けの装置、内部に存在している機器を如何に復旧するかが早いか、
仮設の海水系ポンプの据え付け終わっており、様々な手段を検討中。
現時点では解決策については、できていない状況。
岩上氏:恒常的冷却システムを回復させなければ大変な事になるのは明らかで、
水をダダ漏れさせている状況であれば、絶え間なく海を汚染し続け、
国際的非難浴び、責任を負わされるので、もはや国内の問題ではないと思う。
並列されて今はいろいろ検討中です、
我々は国内向けにはこの程度の言い方で済まされるかもしれないが、
世界に対してはこの言い方で直訳されて英語で流れて行く訳です。
これで済む話ではないだろうと。
何がどう検討されているか、どのプランがあるのか
ABCDE、これまであって、どのプランにどういう長所と短所があり、
例えば3日以内に検討して答えを出すという、
当たり前の発表の仕方ができないものか。
いつまで、どのうようなプランがあるか具体性に富んだ発表の仕方をするという、
約束を世界に対してしてもらいたい。
松本氏:どのようなプランをどういった形で実現させていくか、
政府の機関とも協議を行い、全力で取り組んで行くという所です。
岩上氏:期日はいつになるか。
少なくとも並列しているプランの長所短所含め、
このプランとこのプランとこのプランがある、と
どういう事を我々はやっているのかと、世界に対して。
だからその検討が終わるまで待ってくれと、
3日4日という事を明示する責任は感じないのか。
はっきりと約束を示してもらいたい。
松本氏:プランを提示しなければいけないという責任は感じているが、
皆さんに示せる段階ではない。
以上。
フリーの方々のご活躍、応援しております。
昨日書いたが、それどころではない。
原発職員のレベル低下か。
あっと言う間にこんなことになるところだった
ーーーーーーーーーーーーーーー
京大原子炉、小出裕章さん「窒素注入、クロル38、汚染土壌」4月6日~8日の3日分(毎日放送ラジオたねまきジャーナル)書き起こし
メインキャスター:千葉猛(以下「司会」と表記)
コメンテーター:池田 毎日新聞 大阪本社論説委員
司会:ここで、福島第一原発の動きについて、
原子力が専門の京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんに話を伺います。
小出さん、こんばんは、今日もよろしくお願いします。
小出氏:こちらこそ。
司会:今日はまずメールを紹介させて下さい。
昨日一昨日の小出さんの話の中にあった、
再臨界が起きているかどうかの判断の材料となるクロル38という物質について、
こんなメールを頂いている。
(ラジオネーム省略)
「昨日話題になったクロル38について、
小出先生はアメリカの学者が東電のデータを引用していた旨、
おっしゃっていたように思います。
確認した所、東電のサイトには該当するデータはありませんでしたが、
原子力保安院のサイトに3月25日付で東電からのデータとして
公表している資料の中に、クロル38が検出されたとするデータが、
存在しておりました」
というメールを頂いた。
小出氏:そうです、その通りです。
司会:私共もスタッフがHPで確認した所、
平成23年3月26日の原子力安全保安院の発したニュースリリースという事で、
「福島第一原子力発電所1号機タービン建屋の地下の溜まり水の測定結果」
という資料があり、測定された元素の一番上にクロル38があった。
小出氏:そうです。
司会:私達も実際に確認をしました。
それを踏まえて伺いますけれども、
その後クロル38の検出は間違いであったといったような
データとか知らせとかはありませんでしょうか。
小出氏:私は聞いていないし、間違いであった方がいいなと思うが、
このクロル38という放射性核種が出すガンマー線というのは、
大変エネルギーの高いガンマー線で、
間違えると言う事はたぶんあり得ないと思っていて、
間違いであって欲しいと思うけれども、
本当だとすれば、やはり再臨界を疑うしかないと思っている。
司会:あと、小出さん、以前にクロル38以外にも
圧力容器近くの中性子線の量が解れば、
再臨界が起きているかどうか判断できると言っていたと思うけれども、
そういったデータについても相変わらず発表はされていないのでしょうか。
小出氏:発表はされていない。
東京電力自身が持っていない、
あるいはもう事故によって破壊されてデータが取れないと言う可能性も
あるのかもしれないと思っている。
どちらなのかよく解らない。
少なくともデータ自身は公表されていない。
司会:ではそこも解らないという事になるけれども、
そういった状態の中で、今日伝えられているニュースとしては、
ちょっと明るいかなと感じられるものとして、
1号機への窒素の注入がうまくいっているらしい、
というような事が伝えれているが、
これで爆発の危険と言うのはなくなるのでしょうか。
小出氏:簡単にはなくならない。
どうして注入をしなければいけないという判断になったのかという事が大切だが、
米国のNRCという組織が、
今格納容器の中に水素と酸素が出来ているから窒素を入れなければいけない、
というような事をたぶん言ったんだと思う。
そのためにやっているか、
あるいは東電自身が格納容器の中の水素と酸素の濃度をきちっと把握して
自分たちでやはりこれは危ないと、やらざるを得ないと判断したのか、
どちらだか私にはよく解らないが、
もし後者だとして、東京電力自身が危ないと判断したのだとすると、
窒素を入れたとしても水素と酸素が無くなる訳ではないので、
爆発の危険がなくなる訳ではない。
濃度が少しずつ下がるというだけなのであって、
どうせ水素も酸素も出てくるので、
結局いたちごっこになる。
問題は、限られた空間の中に、
もともと水素も酸素も入っている中に窒素を入れる訳だから、
圧力がどんどんどんどん上がって来る。
そうするといつか格納容器がもたなくなってしまうので、
格納容器の中の放射能まみれの空気を外に出さざるを得なくなる。
それは東電の方も十分に承知していて、
モニタリング体制をもっとしっかりやります、というような事を言っている。
池田氏:そうすると、圧力を抜くためにやはり外に出して行くという事も考えられる・・・
小出氏:もちろんです、出さざるを得ない。
池田氏:ですね。
司会:報道では3号機の格納容器の放射線量がとても高くて、
毎時167Svという数値が伝えられているが、
例えばこれというのはどれ位の強さなのでしょうか。
小出氏:例えば、人は8Sv浴びれば死んでしまうので、
160なんとかというのはとてつもない量で、
ちょっとそこに居たら死んでしまうという位の量。
司会:では、今、1号機はこれ程高くはないかもしれないが、
格納容器内の水素と酸素が、窒素注入で漏れるかもしれないという事は、
かなり高濃度の放射性物質が漏れる可能性があると考えていいのか。
小出氏:もちろん、そうです。
格納容器の中には大変高濃度の放射能を含んだガスが充満しているので、
窒素を入れる事によって今まで入って来たガスを、
いずれにしても抜かなければいけないので、
高濃度の放射能を含んだガスが出てくると思う。
池田氏:例えば、爆発を防げたとして、
例えば核燃料が溶けて、例え鋼鉄製の圧力容器と言え、
溶かす可能性はありますよね。
小出氏:もちろん、あります。
池田氏:だから、下から出る可能性もありますよね、そうなると。
小出氏:2号機と3号機はもう圧力容器が壊れてしまっているので、
いずれにしても、もう漏れている。
1号機に関してはまだ圧力容器が健全ではないか、という風に言われている。
確かに原子炉内の圧力と格納容器内の圧力がちょっと違っているので、
そうかもしれないと思う。
でも、小さな漏れ位はどうせあるだとうと私は思っている。
池田氏:1号機の燃料棒の損傷率というのは非常に高いですよね。
小出氏:と、言われています。
それがどういうデータに基づいて推定しているのか私にはよく解らないが。
いずれにしても何割かは壊れていると思う。
池田氏:という事ですね。
以前原子力安全委員会の委員長の斑目さんが、
1号機が最も危険だと発言した事があったけれども、
その後やはり状況は変わってないという事なのか。
小出氏:私はもう1号も2号も3号も基本的には同じだと思っている。
要するに電源がない訳ですし、
電源が復旧したと言ってもポンプも何も動かない訳だから、
進んでいる事象自身は一緒です。
小さな事で少しずつ違っているという事であって、
たまたま2号炉ではサプレッションチェンバー(圧力抑制室)で爆発があった
という事があったし、
1号と3号ではベントを開いたために水素爆発が起きたという事があるが、
基本的に進行している事は、炉心が段々段々破壊されて、
崩れ落ちて行っているという事。
司会:あの、いくつか例えば今日の、窒素注入が成功したとか、
ピットから漏れている水が止まったとかいう事で、
多少良い方向へ進んでいるのかなと感じるような話と
受け取れるようなものも流れていて、
全体の状況が皆さん解り難い状況になっているかと思うが、
今の段階は、完全に安全だと言えるようになる段階を、
例えば大雑把に10段階に分けるとしたら、
いくつ位まで進んでいる状態だと考えられるか。
小出氏:すみません、解りません。
司会:解らないですか。
小出氏:はい。
池田氏:あの、例えば海外の専門機関からは、
所謂放射性物質の拡散の予測とか、これから起こりうる最悪のシナリオ等々について、
いろいろな事が示されている。
所が日本の原子力安全委員会の方ではそういうような事をやっていないので
余計不信感というものが高まっているのではないかという気がするが、
その辺りは。
先ほどの米国の専門チームの窒素の話もそうなのですけども、
どうなのですか、その辺りは。
小出氏:安全委員会自身はもう決定的に時代遅れというのか、
役割が何も果たせないようなままの状態にあると私には思える。
政府の方も、安全委員会を見限ったようで、
内閣府参与というような、また別の集団を集めたりして、
自分たちで活動を始めている訳です。
もう本当てんでんばらばらになってしまっていて、
一体この日本と言う政府の中で、どこが指揮を取っているのかも解らないという、
そういう状態になっている訳です。
池田氏:一般の人間でも、情報と判断材料をしっかり示してもらう、
という事は非常に重要な事と思う。
小出氏:もちろんです。
池田氏:その事が、安全委員会が本来は果たすべき役割なんじゃないのかな、と思うが、
もうそれは機能していないという事なのか。
小出氏:少なくとも現実は機能していないです。
そうあるべきとは思うが、残念ながらそうはなっていない。
司会:小出さん、政府が今非難指示が出ている福島第一原発から
半径20km圏内を立ち入り禁止の警戒区域にする事を検討している
というような情報も伝わって来ているし、
半径20kmから30km圏内で出している屋内退避指示も、
積算放射線量をもとに新しい基準を作って
より厳しい非難指示に切り替える事も検討しているというような情報もあるが、
これについてどうお聞きになったか。
小出氏:当然厳しく順番にしていかなければいけないと思う。
今回の事故が起きてから、当初は3km圏内の人達に万一の事を考えて
非難しなさいという事で始まったと思う。
それが次には万一の事を考えて10kmと言った。
次には万一の事を考えて20kmと言った。
最後には万一の事を考えて30kmの人にそれまで屋内退避だったものを
自主的な避難をしなさい、というような事を言って来た訳です。
次々と日本政府の言い分は「万一、万一」と言いながら後退していくというか、
追い詰められていくというような事になった訳で、
もともとの想定自身がもう話にならない程甘すぎたと思う。
池田氏:根拠はないんですよね。
指示のもとになるデータなり何なり、合理的な根拠がないものだから、
次から次に初動の失敗が繰り返されて来ているという事だが、
実際日本には所謂そういうデータをもとに拡散を予測する
SPEEDIというシステムがあるはずなのに、
全く生かしきれていないという事なのですかな。
小出氏:要するに隠した。
池田氏:隠したんですね。
小出氏:事故が起きてすぐSPEEDIが動いたはず。
動かなければ全く意味がないし、
そのために20年の期間をかけて彼らは研究してきた訳だから、
この時にやらなければ意味のない研究だった。
所がそのデータが隠されてしまって、
ヨーロッパ各国がそれぞれ自分達の方で発表するという事になってしまって
どうしようもなくて後から出てくるという、
本当に情けない事になっている。
司会:小出さんがおっしゃったように段階的に
退避の指示を広げていて来ているという状況の中で
福間第一原発から20km地域以内の方達の一時帰宅を
今政府が検討しているという事なんですが、
それについては大丈夫なんでしょうか。
危ない所に安全な形で実現しようと考えたら、
どんな装備でどんな時間制限だとかつけて行う事が
必要な事なんでしょうか。
小出氏:私は、一時帰宅という事はやるべきだと思う。
ラジオをお聞きに皆さんもそうでしょうけれども、
皆生活をした場所と言うのはある、
それが、避難をしろと言って避難をさせられて避難所に移ったとしても、
そこは自分の住まいではない訳だし、
物凄いストレスの中で亡くなっていくという方々もいる訳ですよね。
自分達が生きて来た所に戻りたい、
あるいはそこの所へ行って何かを持ち出したいという事は必ずあると思うし、
やらなければいけないと思う。
ただし、放射能の汚染地帯である事はもちろんな訳ですから、
ちゃんとそこに送り届けて、あまり長い時間を送らないまま
きちっとまた連れ出さなければいけないと思うし、
放射能を体に付けたりしないようにそれなりの防護の服を着せたりしながら、
やって頂かなければいけないと思う。
司会:安全の装備をして、それは行うべきと事ですね。
小出氏:はい。
司会:あともうひとつ、海の汚染について今もニュースで伝えてもらったが、
原発からおよそ15km沖合の海で法律で決められた濃度限度の
11倍の放射性ヨウ素を検出したという発表があったが、
15kmというと大変な沖合という感じがするが、
汚染水が出続ける限り拡がり続ける事になるんですよね。
小出氏:もちろんです。
司会:これはもう、出続ける限り広い範囲に汚染が
本当に止まるまで拡がり続けるという事になる訳ですよね。
小出氏:はい、基本的にそうです。
ただし、ヨウ素という放射能は半分に減るまでが8日なので、
何カ月か経てば随分少なくなってくれるはずだ、
と私は期待している。
ただ、この番組でも話させて頂いたし、
さっきもちょっと話したけれども、
もし再臨界という事が起きているなら、
次々とヨウ素がまだ生成されてしまうので、
ヨウ素による汚染が長引く可能性があると思う。
司会:新たに再臨界で作られて濃度が高いものが流れる限り
海洋汚染の危険性というものはいつまで経っても下がらない訳ですよね。
小出氏:はい、ま、ひとつの推測の上での話を私はしているが、
その可能性はあると思う。
司会:はい、わかりました。
すみません、今日もどうもありがとうございました。
小出氏:ありがとうございました。
司会:明日もよろしくお願い致します。
小出氏:はい。
<おまけ>として。
昨日18:30より東京電力にて松本本部長による記者会見が行われた。
途中までしか視聴していないが、
日本インターネット新聞社の田中龍作氏と、
IWJの岩上安身氏が鋭い質問を投げかけているので、
以下にメモを掲載した。
田中龍作氏:本日外務副大臣が会見、
今回の原発事故に関し海外メディアの報道に誇張があると言い訂正を求めた。
東電と政府は情報を開示していないという報道、
松本本部長はどう思うか。
答え:海外メディアに関するコメントは差し控えたい。
現時点で解っている情報を速やかに開示したい、と。
田中氏:先週勝俣会長の会見で、地震発生当時マスコミを連れて中国旅行に行っており、
旅費の多くを東電が持って、それについて社名を明かしてくれと、
お願いした所、2~3日のうちに、と言った。
広報担当の松本さんなら解りますよね。
鈴木広報部長(松本本部長に代わり質問に答える):
勝俣も申し上げたように基本的に会費制、
相手もある事なので確認させて欲しい、と申し上げた。
まだ了解得られていない。
田中氏:会費制度ではない。2万円で中国へ行けるはずがない。
多くを東電が持ったと言った。
鈴木氏:若干はそうですが、基本的には会費を徴収されて、
事務局の方がお連れする。
田中氏:だって常識で考えて2万円で中国へ行ける訳ないじゃないですか。
それで先方さんの理解を得られていないとおっしゃいましたね。
どうしても隠しあっている、癒着していると思われますよ。
マスコミと東電さんが。
鈴木氏:決してそういう事ではないんですけれども。
田中氏:だったら明らかにして下さい。
鈴木氏:取りまとめをされている方もおりますので、
その時も申し上げたと思いますけれども。
田中氏:いいですか、マスコミは公共施設に家賃も払わずに入っている、広い。
(記者クラブの事)
年間何百億円にもなっている。
これはひとつの公の機関である訳ですよ。
で、情報を独占している。
国民に明かせないとなったら、国民は電気料金も払わないですよ。
鈴木氏:ご意見として伺っておきます。
岩上氏:2点ほど質問したいと思う。
格納容器に損傷が出てあるという話もあるが、
圧力容器の底部に穴が開いてるか亀裂があるかで水漏れとの質問あると思うが、
いろいろな言い方で、統一を見ない感がある。
28日未明の段階で、「圧力容器の底部に穴が開いている様なイメージ」という表現で
答えた事があった。
先日京大原子炉実験所の小出裕章助教にインタビューした所、
原子力の専門家だったら確実に圧力容器に穴が開いている事は間違いないと。
なので注水しても満水にならない。
水を入れ続けるしかない。
その水がダダ漏れし続け、汚染水は海に流され続けるだろう、とおっしゃっていて、
その通り、汚染排水を東電はする事となった。
汚染排水の道徳的非難を浴びせられている訳ですが、
それ以上に根本的にそうならざるを得ない原因、
圧力容器に穴が開いているという現実をお認めになるか、
開いているならどの程度のレベルで補修のきかないものなのか、
この方法しかないのか、
そこをはっきりとした言葉で世界に向かって説明する責任があると思います。
この点1点。
それから2点め、
昨日、元佐賀大学学長上原春雄さんの共同インタビューをした。
外付けの冷却装置を持ってくれば、
開放系の冷却ではなく閉鎖系の冷却システムの再構築が可能である、
全溶接型のプレート型の機械である。
政府に提案している。
皆さんのもとには届いているのか。
皆さんの方で上原さんのプランは真剣に検討されているのか。
時間が経てば経つほど放射性量が深刻な状態になると、
この点も含めて、真剣な検討を皆さんでなされているかどうか、
この2点、お聞かせ下さい。
松本氏:原子炉圧力容器の損傷の件、
現時点で圧力容器の損傷の程度ははっきりした事が申し上げられる段階ではない。
ただし原子炉の圧力容器、いわゆる燃料が損傷し、その中に含まれている
核分裂生成物がタービン建屋内で溜まり水で見つかっている事を考えると、
圧力容器→格納容器→原子炉建屋・タービン建屋へ漏れ出ているのではないかと。
穴が開いているかどうかの質問、
どれくらいの穴があいているか、
原子炉圧力容器の底には計測器とか制御棒の配管や小さい配管が何本か
入っているので、そういう所が損傷を受け、
原子炉内の水が出ている可能性はあると思う。
ただ、圧力容器本体が穴があいているかどうかは現時点では不明。
それから冷却装置、
先生のご提案も含めいろんな手段を検討している段階。
外付けの装置、内部に存在している機器を如何に復旧するかが早いか、
仮設の海水系ポンプの据え付け終わっており、様々な手段を検討中。
現時点では解決策については、できていない状況。
岩上氏:恒常的冷却システムを回復させなければ大変な事になるのは明らかで、
水をダダ漏れさせている状況であれば、絶え間なく海を汚染し続け、
国際的非難浴び、責任を負わされるので、もはや国内の問題ではないと思う。
並列されて今はいろいろ検討中です、
我々は国内向けにはこの程度の言い方で済まされるかもしれないが、
世界に対してはこの言い方で直訳されて英語で流れて行く訳です。
これで済む話ではないだろうと。
何がどう検討されているか、どのプランがあるのか
ABCDE、これまであって、どのプランにどういう長所と短所があり、
例えば3日以内に検討して答えを出すという、
当たり前の発表の仕方ができないものか。
いつまで、どのうようなプランがあるか具体性に富んだ発表の仕方をするという、
約束を世界に対してしてもらいたい。
松本氏:どのようなプランをどういった形で実現させていくか、
政府の機関とも協議を行い、全力で取り組んで行くという所です。
岩上氏:期日はいつになるか。
少なくとも並列しているプランの長所短所含め、
このプランとこのプランとこのプランがある、と
どういう事を我々はやっているのかと、世界に対して。
だからその検討が終わるまで待ってくれと、
3日4日という事を明示する責任は感じないのか。
はっきりと約束を示してもらいたい。
松本氏:プランを提示しなければいけないという責任は感じているが、
皆さんに示せる段階ではない。
以上。
フリーの方々のご活躍、応援しております。
- 関連記事
-
- 武田:原発は今後、爆発の可能性は低い (2011/04/11)
- 法の基準を守れ、100mSvで安全等と言う狂気 (2011/04/11)
- 気象学会「研究結果を自由に発表してはいけない」 (2011/04/11)
- 一切批判的質問をしない大マスコミ (2011/04/10)
- 原発人災事故の検証(産経) (2011/04/09)
- 小出:原発の現状 (2011/04/09)
- 昨深夜の地震:東通原発は危うく福島第一になるところ (2011/04/08)
- テレビが伝えない原発の状況 (2011/04/08)
- 武田:格納容器に窒素を入れた理由と影響 (2011/04/07)
- 現実の汚染被害に風評が追い打ちしている (2011/04/07)
- 1号機の核燃料は7割が損傷溶融!情報隠し一ヶ月! (2011/04/07)