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世界通貨戦争(25)日本マスコミがカットしたオバマ演説

 TPP(環太平洋経済連携協定)については、これまでも世界通貨戦争を仕掛けるアメリカの政治経済戦略であり、日本にとっては極めて重大で危険な代物であることを述べてきました。

 未曽有の大不況の中で延命しようとする、アメリカ・オバマ政権の戦略方針はドルの大規模な流動性供給によるドル安と新興国、途上国へのインフレ拡大、他国を犠牲にし、金融資本の利益と自国の雇用を作りだそうとするものである。
 国内的には従来の新自由主義から大幅な修正転換を成し遂げるために、遠慮無く他国の犠牲を前提にしている。
 
 TPPはただ単なる協定づくりではない。そうしたアメリカの進みつつある基本戦略を押し通すためのの対日戦略である。
 オバマ大統領の1/25一般教書演説はこれからの政権の基本方針である。従って、当然こうしたアメリカの戦略の基本的骨格が述べられている。

 日本のマスコミはこのオバマ演説について、
 なんと、TPPなど経済政策に関連する部分を、カットして報道した。
 重要部分をカットした報道で、アメリカの基本方針が解るわけがない。これは演説の捏造だ。
 まさしく、「テレビ・新聞は現実の経済社会を解らなくする」  

 TPPは世界通貨戦争の中での対米不平等条約であるとする中野剛志氏のインタビューを引用した「米国TPPは100年目の攻撃」、視点はやや異なるが三橋貴明氏のTPP批判を一部引用した「無能政権につけ込む米国TPP」を書いてきたので御覧ください。

 中野氏のインタビューは些か長文なので「中野剛志TPP批判の要約」にまとめました。
 また、国際関係として不平等条約であることを指摘する元外務省情報局長孫崎享氏のツイッターをTPPは日米不平等条約」に紹介しました。

 誰に言われたか知らないが、11月APECに向けて、唐突にマスコミと政権がTPP参加を盛り上げ始めた。
 批判と反対は増えてきている。
 マスコミは、アメリカの経済政策とTPPのへ基本姿勢をオバマ演説の関連部分からカットして捏造した。
 国民に隠して、押し通そうとしている。
 なんたるマスコミだろうか。

 三橋貴明氏から引用です。

 隠されたオバマ大統領の一般教書演説
 2011/02/08 (火) 10:55

 (1)

 1月25日に、アメリカのオバマ大統領が一般教書演説を行った。同演説は、アメリカの戦略の大々的な転換を示すものだった。加えて、「なぜアメリカがTPPを推進しているか」が、明らかになる内容までをも含んでいたのである。

 日本がTPP加盟を検討するというのであれば、当然ながら、アメリカの戦略について理解しておかねばならない。そういう意味で、今回のオバマ大統領の一般教書演説は、同国の戦略の骨子を露骨なまでに宣言したものであり、日本の戦略構築に際しても大いに参考になるものであった。

 ところが、何と日本の大手メディアは、「法人税率引き下げ」「超党派で成長戦略」「財政赤字削減」などと、今ひとつピンと外れな見出しを掲げて報じたのみならず、演説の「極めて重要な部分」を無視した。すなわち、一切報じなかったわけである。

 演説要旨のみを報じたメディアのみならず、ほぼ全文掲載した新聞社でさえ、該当の「極めて重要な部分」をカットしたのだ。

 率直に言って、日本の大手新聞などが、自分たちに都合が悪い部分について「フィルタリング」を行ったとしか、表現のしようがないのである。
 なぜ、筆者がここまで断定するのかと言えば、フィルタリング(カット)された部分が、まさしく日本のマスコミなどで「識者」と称する人々が、目を逸らしたくなるようなフレーズ、戦略のオンパレードであるためだ。
 すなわち、アメリカにおける「公共投資拡大」「所得税減税」「建設業支援」「規制の強化(規制緩和ではない)」そして、「雇用創出を目的とした輸出倍増」「アメリカの雇用創出のための貿易協定(TPPなど)推進」などである。

 要するに、オバマ大統領は、これまでの「グローバリズム」「トリクルダウン理論」、さらには「新自由主義」といった、80年代以降、世界を席巻した経済思想を大元から否定したわけである。新自由主義に染まった日本のマスコミや評論家たちが、揃ってオバマ演説の該当箇所を無視したのも、無理もない話しである。
 などと書いても、にわかには信じ難いであろうから、一つ一つ、ソースを明確化して解説しよう。


『2011年1月26日 朝日新聞「歳出5年据え置き、法人税率下げ 米大統領一般教書演説」
http://www.asahi.com/eco/TKY201101260121.html

 オバマ米大統領は25日夜(日本時間26日午前)、上下両院合同会議で、今後の内政・外交の基本方針を示す一般教書演説を行った。オバマ氏は米国経済の国際競争力を高めるため、25年ぶりとなる抜本的な法人税率引き下げを提案。環境技術など重点的に投資する分野を明示した。史上最悪の水準が続いている財政赤字を削減するため、国防を除く政策的経費を5年間据え置くことも表明した。

 オバマ氏は、米国経済について、株価や企業収益の分野で「経済は再び成長している」との見方を示す一方で、「成長はこうした尺度だけでなく、雇用や国民生活の質などで測られるものだ」と指摘。失業率が9%を超える高水準が続く中で、さらなる経済対策が必要との認識から、演説の8割を経済対策にあてた。(後略)』


 読者においては、是非とも上記朝日新聞の記事の後略部について読んだ上で、以下を読み進めて頂きたい。以下は、オバマ大統領の一般教書演説英語版(全文)から、筆者が特に重要に思える部分を抜き出したものである。
 ちなみに、一般教書演説の全文は、WSJのサイトで誰でも確認することが可能だ。

『2011年1月26日 ウォールストリートジャーナル日本語版「オバマ米大統領の2011年一般教書演説原稿(英文)」
http://jp.wsj.com/US/Politics/node_176161』
『We did that in December. Thanks to the tax cuts we passed, Americans' paychecks are a little bigger today. Every business can write off the full cost of the new investments they make this year. These steps, taken by Democrats and Republicans, will grow the economy and add to the more than one million private sector jobs created last year.』
 日本語訳:12月に実現した減税決定により、今日の米国人の給与は少し増えた。企業はその年にかかった新規投資の費用を帳消しにすることができる。
 民主党及び共和党によるこうした努力が経済を成長させ、昨年を上回る100万以上の民間雇用を増やすだろう。



 現在、オバマ政権はデフレ対策として「金融政策と財政政策のパッケージ」を実施している。金融政策とは、もちろんQE2、すなわち量的緩和第二弾のことだ。また、財政政策とは「減税と財政出動」の二種になる。
 財政出動については後述するが、12月に民主党、共和党の両党が合意した、アメリカの所得税減税について言及した日本メディアは見当たらなかった。

 代わりに、各紙では「法人税減税」がやたらクローズアップされている。

 (2)

 日本では現在「消費税の増税」と「法人税減税」が政府によって検討されている。現在のアメリカが「真っ当なデフレ対策」として実施した所得税減税について触れると、何か不都合が生じるのだろうか。謎である。


『The third step in winning the future is rebuilding America. To attract new businesses to our shores, we need the fastest, most reliable ways to move people, goods, and information ? from high-speed rail to high-speed internet.』
日本語訳:明るい将来をもたらすための第3歩は、アメリカを改築することだ。新たなビジネスを誘致するには、高速道路や高速インターネット網によりヒトやモノの移動と情報の伝達を実現する最速かつ信頼性の高い手段を確立する必要がある。


 高速インターネット網はともかく、「高速道路の整備」とは、日本国内で「識者」の方々が忌み嫌う、公共投資としての財政出動そのものだ。オバマ政権は、アメリカ「改築」のために、公共投資を拡大すると宣言したわけである。それは、次のオバマ大統領の演説からもはっきりと読み取れる。


『We have to do better. America is the nation that built the transcontinental railroad, brought electricity to rural communities, and constructed the interstate highway system. The jobs created by these projects didn't just come from laying down tracks or pavement. They came from businesses that opened near a town's new train station or the new off-ramp.
Over the last two years, we have begun rebuilding for the 21st century, a project that has meant thousands of good jobs for the hard-hit construction industry. Tonight, I'm proposing that we redouble these efforts.
We will put more Americans to work repairing crumbling roads and bridges. We will make sure this is fully paid for, attract private investment, and pick projects based on what's best for the economy, not politicians.』

日本語訳:我々は改善に取り組まなくてはならない。米国はかつて大陸横断鉄道網を建設し、農村に電気を引き、各州をつなぐ高速道路網を建設した国だ。こうした仕事はレールや舗装道路を敷いただけではない。
 新しい鉄道駅や高速道路の近くの町から、新たな仕事が生まれた。

 過去2年間、我々は21世紀の再建作業を始動した。これは衰退した建設業界に数千もの仕事を与える事業を意味する。
 今夜、私はこうした努力を倍増することを提案する。壊れかけた道路や橋を修復する仕事に、さらに多くの人をあてるようにする。
 そのための給与や民間投資を保証し、政治家のためでなく、経済にとって最適な事業を選択するようにしたい。


 要するに、オバマ大統領は新たな「ニューディール政策」を実施し、建設業を中心に国内で需要を生み出そうとしているわけだ。
 何しろ「衰退した建設業界に数千もの仕事を与える」とまで明言しているのである。

 また、オバマ大統領は「壊れかけた道路や橋を修復する仕事に、さらに多くの人を当てる」と言っている。
 これはまさしく、筆者が拙著「日本のグランドデザイン(講談社)」などで繰り返し主張している「インフラのメンテナンス」そのものだ。

 別にアメリカに限らず、現在の日本も高度成長期に作られた橋や道路、それにトンネルなどのメンテナンスの時期を迎えている。
 それにも関わらず、国内に蔓延した「公共投資悪玉論」のために、十分な予算を充てることができないでいる。

 このままでは、日本は80年代のアメリカ同様に「荒廃する日本」の状況を迎えかねない。デフレで需要不足、長期金利は世界最低、かつ建設業の仕事が足りないわけである。
 現在の日本は、世界のどの国よりも「政府支出により、インフラを再構築をする」チャンスに恵まれているのだ。オバマ式に言えば、「日本の改築」だ。

 政府が世界最低の金利で資金調達し、インフラのメンテナンスなどを中心に公共投資で需要を創出すれば、デフレギャップが埋まっていく。
 また、何しろ建設会社の仕事が少ないわけであるから、受注した企業は驚くほどの短納期で工事を仕上げてくれるだろう。まさに「今」やるべきなのである。

 それにも関わらず、日本では未だに、公共投資を目の敵にする人々の声が響き渡っている。公共投資を悪者化する人々は、基本的にアメリカなど「舶来」の経済政策が大好きである。
 何しろ、アメリカで新自由主義が広まったと思ったら、何も考えずにそれらを妄信し、アレンジなしで日本に持ち込み、様々な問題を引き起こした。

(3)

 ところが、現実の日本においては、「識者」の皆様方は誰一人として「公共投資で、建設業界の衰退を救え」とは口にしない。
 今回、オバマ大統領が、まさにそのままの演説をしたため、日本のメディアなどがどのように報道するか、筆者は注目していたわけだ。

 結局、「演説の該当箇所を報じない」という、極めて奇妙なフィルタリングを実施したというオチである。


『To help businesses sell more products abroad, we set a goal of doubling our exports by 2014 ? because the more we export, the more jobs we create at home. Already, our exports are up. Recently, we signed agreements with India and China that will support more than 250,000 jobs in the United States. And last month, we finalized a trade agreement with South Korea that will support at least 70,000 American jobs. This agreement has unprecedented support from business and labor; Democrats and Republicans, and I ask this Congress to pass it as soon as possible.
Before I took office, I made it clear that we would enforce our trade agreements, and that I would only sign deals that keep faith with American workers, and promote American job.』

日本語訳:我々は2014年までに輸出を倍増する目標を掲げた。輸出を増強すれば国内で雇用を創出できるからだ。
 すでに輸出は増えている。最近、インドと中国との間で、米国内において25万人の雇用創出につながる合意に署名した。先月は、7万人の米国人の雇用を支える自由貿易協定について、韓国と最終合意した。
 この協定はビジネス界と労働者、民主党と共和党からこれまで例がないような支持を受けている。上院にはこれを可能な限り承認するよう求める。

 私は大統領に就任する前から、貿易協定を強化するべきだとの考えを明確にしていた。
 私が署名する貿易協定は米国人労働者を守り、米国人の雇用創出につながるものに限る。



 もはや、露骨過ぎるほどに露骨な、

「アメリカの雇用改善を目的とした輸出倍増計画、及び自由貿易協定」
 に関する、オバマ大統領の発言である。

 筆者は前回まで、「TPPとはアメリカの雇用改善を目的とした、輸出倍増計画の一環だ」と繰り返し書いてきたが、オバマ大統領が自らここまで明言したわけである。何しろ、

「私が署名する貿易協定は米国人労働者を守り、米国人の雇用創出につながるものに限る」

 とまで断言しているわけだから、TPPに日本を引き込み、アメリカが「何をしたいのか」、明々白々であろう。

 現在のアメリカは、不動産バブル崩壊後のデフレ化を回避するために、03年にバーナンキFRB議長が日本に「デフレ脱却策」として提案した、「通貨当局と財政当局の一時的かつ明確な協力」を実行に移している。
 すなわち、FRBが米国債買取などの量的緩和を拡大すると同時に、政府が減税や公共投資などの財政出動を行うわけだ。

 さらに、オバマ大統領は同国の失業率を下げるためには、それでも足りないとばかりに、2010年1月に「輸出倍増計画」を打ち出した。
 大統領自ら「雇用改善のために輸出を拡大する」「米国人労働者を守り、米国人の雇用創出につながる貿易協定以外は署名しない」と宣言しているのである。

 このオバマ大統領の演説を聞いた上で、TPPについて暢気に「平成の開国だ~」などと主張できる人は、よほど能天気であるとしか言いようがない。

 いずれにせよ、アメリカを含むTPP加盟が検討され、同時にデフレ脱却策構築が急がれる日本において、「極めて参考になる」上記の情報を報じようとしない国内メディアの報道姿勢は異常である。
 戦略構築に際して、これほどまでに参考になる情報を報道しないメディアに、果たして本当に存在価値があるのだろうか?
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